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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/21 13:54
1994年7月22日 0930 イベリア半島 アンダルシア防衛線 カディス基地


―――2日酔いだ。 頭が痛い。

基地のランウェイの周囲をランニングしながら、襲いかかる頭痛と吐き気に悩まされていた。
丁度午前の訓練中。 今は基礎体力の維持・強化目的のトレーニング中―――長距離走をしている。

「小隊長! 早く、早く! このままじゃ、ウチの小隊、また最後ですよ!!」

「これ以上、追加の走り込みは、勘弁して下さい・・・」

「次は直衛、アンタが責任取って走りなさいよ・・・ッ!」

焦って急かすのは、アリッサ・ミラン少尉。
些か怒っているのが、ギュゼル・サファ・クムフィール中尉。
情けない声を出しているのが、新配属になったフローレス・フェルミン・ナダル少尉。 女みたいな名と顔立ちだが、歴とした男だ。 18歳。
リーフ州のナドール県。 港町のメリリャ出身。 人種的にはスペイン―――ラテン系では無く、ベルベル人だ。


「ぜっ・・・ はっ・・・ おえっ!」

「うわぁ~~! 吐くなぁ! 吐いたら体力全部出ちゃう!!」
「飲みなさいっ! 全部飲み込みなさいっ! 吐くもの全部!!」
「しょ、小隊長・・・! 勘弁して下さい!!」

お、鬼だ、お前等・・・!

結局。 何とか吐きはしなかったが、やはり今回もウチの小隊が最下位。
判ってるよ。 足を引っ張ったのは、俺ですってば。 罰として、更に追加の走り込みを俺一人、命じられた。
―――はぁ。







1994年7月22日 1330 カディス基地 第88独立戦術機甲大隊 第882中隊事務室

「エースか。 まぁ、定義は人それぞれだろうが。 少なくとも、アンディオン中尉の意見にも、一理あるな」

アルトマイエル大尉が書類から目を上げて、考え込むように言う。

昼過ぎ。 午前中の最悪な状態での訓練が終わり、午後は機体の整備作業。 各隊長達は中隊事務室で各々書類仕事に追われていた。
機体消耗品の申請と補充―――整備との調整が必要だ。
訓練計画の立案―――中隊長と、他の小隊長との調整が必要。 最終的には、大隊長の承認も。
人事評価―――これも頭が痛い。

分担してやっているが、未だに慣れない。
ふと、気分転換に昨日の話をしてみたところ。 皆喰いついてきた。


「まぁ、さっき言った1つは、有って然るべきかもしれんがよ。 『強さ』や『プライド』って、どうよ?」

ファビオは些か、納得しきれないようだ。

「何を以って、強さと言うのかしら? 単純に、衛士としての技量? それなら、教導団に行けば、技量優秀な人材は居るわね。
倒したBETAの数? 踏んだ実戦の数? どこの戦域にも、ベテランは居るわ。
それに、プライド・・・?」

オベール中尉も、ファビオと同意見か。

「BETA相手に、プライドもクソも無い気がしますが・・・
寧ろプライドに振り回されるより、恥も外聞もなくとも、不細工でも足掻いて戦う方を、俺は選びますね」

実は、俺も同意見なんだ。
昨晩は、しこたま酔っぱらっていたので、何となく聞いていたけど。
今思い返すと、3つの内の2つは、どうにも釈然としない。


釈然としない俺達3人を見ていた大尉が、やや講義調に話し始める。

「別に、眼に見える形の『強さ』や、一般的に言われる『プライド』と、一括りに考える必要は無かろうさ。
私の意見は、寧ろ精神的な要素を言っているのだと考える」

「「「 精神的な要素? 」」」

大尉の言葉に、小首を傾げる中尉3人。

「戦況を見極める。 これは全てに於いて重要な事だ。 何もエースに限った事では無い。 寧ろ、指揮官にとってより重要な事だ。
先天的な資質として備える者も居るだろうが、寧ろ経験で培われた技量としての比重の方が大きかろう」

うん。 確かに。 いくら資質が有っても。 経験が不足していたら、戦場の虚実が何処にあるのか。 それを見極める事は難しい。

「強さにしても、プライドにしても。 これは不利な状況を打ち破る。 絶望を希望へと変える。
それをやり抜くと自身で確信する、精神的な強さ。 そしてそれを行う者としての自負。 そして覚悟。 そう言うべきだろうな。
その為には、どんな形でもいい。 不器用でも、無様な見かけでもいい。 見苦しく足掻いても良い。 諦めが悪くても良い。
―――どんな状況でも、それを成し遂げようとする意志の強さ。 そしてそれを為さんとする覚悟と自負。
それこそが、『強さ』と、『プライド』だと、私は考えるがな」


成程な。 これまで散々、前の部隊長―――広江少佐の姿を見ながら、感じていた事と一致する。
南満洲での防衛戦で、アルトマイエル大尉が見せた指揮官としての姿や、帝国海軍の母艦戦術機部隊の指揮官達が見せた姿にも、それは確かに有った。

そしてそれは―――俺が目指す、目指そうと足掻いている、遥かな高みでも有る。

そう言う事か?


「しかし。 現実の話として。 そこまでの衛士、私は終ぞ出会った事は無い。
いや、それに近い人物は居る。 我が大隊長もそうであるし、ウェスター大尉なども、それに近い。
バトル・オブ・ブリテンでも、幾人か称賛に値する衛士達は居た。 しかしな・・・」

大尉が、難しい顔で言い淀む。
俺が、頭の中に浮かんだ言葉を言う。

「言ってみれば、1つの理想。 衛士としての終達点」

「そうだ、周防。 であればこそ。 皆、その高みを目指す。 私とて、同じ事だ」

ああ。 やはりな。 大尉も同じだったか。 と言うより。 大尉をしてそう言わせる高み。 
俺は何時になったら、その頂を垣間見る事が出来るだろうか? いや、未だ麓にさえ居ないのかもしれない。


「気の長い話だぜ~・・・ でもですよ? 誰しも得手、不得手は有る訳で。 そんな、突き詰めた究極、誰しも目指せるモンじゃないでしょう?」

「そうよね。 実際問題、『自身が打破する』よりも、『打破できる者を見極る』事に傾く場合も有るでしょうし。
寧ろ、そう言った資質の者を見極めて、その者のその能力と強さを、十全に発揮できる状況を整える事。 それが指揮官では有りませんか?
ならば。 エースとは、指揮官以外の者の高みでしょうか?」

ファビオとオベール中尉の意見は、概ね方向性としては同じか。
つまり、切れの良い名刀か。 それを使いこなす名人・達人か。
双方は対で驚くべき力を発揮するが。 同時に双方は同じでは無い。

でもな・・・

「でも。 オベール中尉やファビオの言う事も。 『エース』じゃないのかな?」

「えっ?」
「んだぁ?」

「名刀は、それ自身では只の刃物だ。 使うべき者がいなければ、只の飾り物に過ぎない。
名人は、彼一人では只の人だ。 手にする名刀が無ければな。
つまり。 名刀と名手が邂逅して初めて、その凄さが発揮できる。 だから・・・」

「部下を見極めた指揮官と、凄腕の突撃前衛長。いえ、そう限定する事は無いでしょうけど。
この組み合わせこそが『エース』 そう言いたい訳ね? 周防中尉は」

そうだ。 先程から何かモヤモヤしていた思考。 今言った事は、一つの形だ。


「ならば。 精々、精進する事だな、周防。 2日酔いで、部下に迷惑をかけている場合では無いぞ?」

うえっ そう来ましたか・・・
オベール中尉には笑われ。 ファビオには呆れられる。 ああ、もう。 2度とあのおっさんの深酒には、付き合わん!







1994年7月22日 1430 カディス基地 スペイン軍戦術機ハンガー


「全くよっ! あのヒヨコ大尉殿、何考えていやがるんだよっ!!」

ハンガーに野太い罵声が響き渡る。 もっとも、周りの整備兵たちにとっては、慣れたものか気にする者はいない。

「なぁ~にが、『そのような戦闘方針は、戦術論に合致しない』だ! 
戦場が全て教科書通りに動くとでも、思っていやがるのかっ!? あのボンボンは!!」

罵声を飛ばしながら、機体のステータスチェックを行っている。 機付きの整備兵達は、イアヘッドを付けていても、顔をしかめている。

「大体よぉ! BETAにそんな、教科書通りの戦い方で勝てるんならよぉ! 今頃半島を取り戻しているぜっ!!」

最後の言葉には、賛同するのか、整備兵も無言で頷く。


「・・・レオン。 いい加減、その口を閉じて頂戴。 響き渡って、うるさいわよ?」

「ノエル、お前も腹立たないか!? あのヒヨっ子大尉。 士官学校出の、まともに最前線で戦った経験のない野郎がよっ!
こっちは、20年近い経験上から言っているんだ! その経験上で、BETAにゃ教科書の内容なんか、通用しねぇって骨身に染みているんだよ!
それを、あの馬鹿が・・・・ッ!!」

「それについては、私も同意するわ。 でも、そろそろ口を閉じなさいな。 『親爺さん』が怒鳴りこんでくるわよ?」

ハンガーの主とも言える、整備指揮官の古参中尉の呼び名を出された途端、それまでの罵声が嘘のように止まる。

「は、ははは・・・ そりゃ、拙いなぁ。 うん、拙い・・・」

「何が拙いんじゃ? この小僧がっ!」

不意に、後ろから怒声を浴びけかけられ、背筋を伸ばす。

「あ、はは・・・ いや、何。 ちょっとした気分転換っすよ、親爺さん」

エンリケ・アルバレス中尉。 このハンガーの整備主任。 55歳。
本来なら、数年前に定年になっている年齢だが。 予備役編入、即日召集で未だ軍に居る。
アンディオン中尉が新任少尉だった頃からの付き合い。 当時は整備の下士官で、戦術機のイロハを教えて貰った恩人だった。

「ふん。 その性格、何とかしたらどうなんだ? だから未だに『万年中尉』だ。 付き合わされるノエリアが不憫だわ」

「別に、付き合ってもらう事は・・・ 『何じゃと?』 ・・・いえ、何でもありませんです」

「親爺さん。 レオンのこの性格は、もう諦めていますわ。 死んだって直りませんし」

にこやかに笑いながら、エラス中尉が話しかける。
アルバレス中尉は、そんなエラス中尉をみて嘆息する。

「ああ、ノエリア。 お前は良い娘だが。 唯一、この小僧に惚れた事だけは、儂を悲しませとるよ。
お前の死んだ父さん、母さんに、なんて詫びれば良いのやら・・・」

そんなアルバレス中尉を、エラス中尉が親愛の眼で見る。
20年前。 事故で他界した両親の親友であったこの人が、以来親代わりに育ててくれた。
今や、実の父親のように思っている。

「お義父さん。 レオンはそんな人じゃないですよ。 
確かにだらしなくて、無節操で、無分別な所が有るけれど・・・ あら? 良い所が無いわね?」

「「 ノエリア・・・ 」」







「ところで、何を大騒ぎしていたんじゃ? あれか? 『図演』か?」

図演―――図上演習。 2個以上の対抗勢力を含んだ軍事作戦を、実戦を想定したデータや原則、確率などを踏まえて行う。
実施部隊では、作戦計画立案の為に行う。 昔と違い、現代ではコンピュータなどの電子機器、ソフトウェアの支援で行っている。
その起源は遥かローマ時代や古代中国にまで遡るとする説もあるが、一般的には1824年にプロセイン陸軍のフォン・ライスヴィッツが原型を構築した。

「ん? ああ。 ウチのボンボン大尉殿がな。 何でもかんでも、教科書通りだ。 
こっちがちょいとばかし、奇策を使ったら、『そんな行動は認められない』とくる。
流石に・・・ 今度ばかりは、年貢の納め時かもなぁ・・・」

「何を言っとる。 そんな状況下でも、何とかしてみせる。 何とかしようと足掻く。 
それが出来るのは、お前さんだけじゃ。 それをしようと足掻くのは、お前さんだけじゃ。
その覚悟が有ってこその、高みだろうて」

「・・・そうなんだけどよ」

―――流石のこの男も、「あれ」には参ったか?

何せ、今度の中隊長は、士官学校を優秀な成績で卒業して以来、まともに実戦を経験せずに出世してきた、典型的な秀才軍事官僚だ。

―――こいつとは、水と油だな。

そう思った時。 エラス中尉が言った。

「私も、方向性は違えど。 目指す高みは同じよ。 どうせなら、中隊長抜きでやるしかないでしょ? 
ディエゴ―――第3小隊長―――も、考えは同じはずよ。
中隊は、レオン。 貴方を顧みるわ。 どんな時でも」








1994年7月28日 カディス基地 中央指揮所


「見ての通り。 H11・ブダペストハイブから弾き出されたA群は。 その後H12・リヨンハイブ方面へ移動。
この結果、H12周辺が一時的な飽和状態となり、リヨンハイブのD群は北上。 ブルゴーニュ、シャンパーニュを越え、ピカルディーに到達が予想されます」

「・・・ドーヴァー基地群が、またぞろ騒がしくなるな」

「ドーヴァーは、向こうで何とかしてもらうしか無いな・・・ で? こちらには?」

「はい。 リヨンハイブのE群、2万程がペレネーを超した事を確認しました。 2日前です。 現在はアルカラ・デ・エナレス付近。
これに従って、以前よりマドリード周辺に集まっていたG群が押し出されております。 指定個体数、約1万7000
E群からの流入も含め、約2万2000。 師団規模以上、軍団規模以下のBETA群です」

「軍団規模か・・・ 今の手持ちでは、予備戦力まで投入せねばならんかな?」

「海軍の戦術機部隊は? 母艦任務群は、どうするつもりなのかによりましょう」

「それより。 その2万2000、1群なのか? 複数に分かれているのか?」

「3群に分かれております。 1群はリスボン、2群はバレンシア。 3群はカディスが目標と推定されます」

「2群は放っておく。 バレアレス所属の偵察戦術機甲部隊に、動向を探らせておけ。 既にバレンシアは陥て久しい。
リスボン方面には、第21戦術機甲師団を送ろう。 向こうの第35戦術機甲師団と協同すれば、抑えられるはずだ」

「となると。 こちらはセビーリャの第15戦術機甲師団、そしてカディスの第19戦術機甲師団、第188戦術機甲旅団、それに、国連軍の第88戦術機甲大隊ですか」

「何とかなろうよ。 2群は・・・ 推定で8000。 大型旅団規模だ。 この戦力が有れば、潰せる。
いざとなれば、テトゥアンの国連軍第28戦術機甲師団も、急速展開できるさ」

「会敵地点はどこに設定を? やはりコルドバでしょうか?」

「ふむ・・・ もう少し北の方がいいか。 先だってと同じ、ビリャヌエバ・デ・コルドバ。 ここで殲滅する」











1994年7月28日 1200 カディス基地 


基地全部隊に、レッド・アラートが発令された。
今回もビリャヌエバ・デ・コルドバ。 スペイン軍の戦術機甲1個師団に、1個旅団。
そして俺達、第88戦術機甲大隊。 カディス駐留の全戦術機甲部隊が総出での出撃だった。

「おう、周防。 お前さんも、出撃か?」

アンディオン中尉だ。 相変わらず、不敵な笑みだ。 それ以上に、昨夜の酒などどこ吹く風。 欧州系人種の肝臓の強さには脱帽するよ、本当・・・

「ええ。 ウチは緊急即応部隊ですから。 まず真っ先に、前線展開ですよ」

「ま、そりゃウチも同じだ。 まずは俺達の第188旅団と、そっちの第88大隊でBETAを通せんぼする。
その後で本命の師団がやって来て、叩き潰す。 ま、どれだけ時間を稼げるかだな」

「そういうことでしょ。 それじゃ、急ぎますんで」

「おう。 また戦場でな!」

それぞれのハンガーに向かう。
大隊の戦術機ハンガー脇のブリーフィングルームに到着した時、既に小隊長以上の指揮官はあらかた集合していた。

「ん。 来たか、周防。 あと、まだなのは・・・」

「1中隊のヴィーターゼン中尉は、先ほどテトゥアンから到着しました。 おっつけ参りましょう。
3中隊の趙中尉は、戦術情報管制センターへ。 最終情報の確認を。 これも直に」

大隊長のユーティライネン少佐の問いかけに、実質大隊副官役のミレーヌ・リュシコヴァ中尉が答える。
ウクライナ出身の22歳。 BETAのユーラシア西進後、西欧に逃れた人々の内、ソヴィエト支配を嫌った旧『自治共和国』と言う名の国内植民地出身者の多くが、
亡命難民の形で避難先の国軍や、国連軍に志願入隊していた。 リュシコヴァ中尉もその一人だった。


「遅れて、申し訳ありません」
「最新戦域情報、確認しました」

1中隊のヴィーターゼン中尉と、3中隊の趙中尉が到着し、大隊の指揮官級衛士が全員揃った。
趙中尉が戦域情報データを、大隊長とリュシコヴァ中尉に渡す。

「ん。 ご苦労。 では、状況を説明する。 リュシコヴァ中尉」

「はっ では、現在の状況を説明します。
2日前、ピレネーを超したリヨンハイブE群がマドリード近辺に到達。 
これにより、以前よりマドリード周辺に集まっていたG群が3群にわかれて移動を開始しました」

G群。 確か、1万7000から1万8000程だったか。 いや、E群からの流入は無いのか?

「総数は、E群からの流入を合わせ、2万2000。 1群はリスボン方面、個体数7000。 2群はバレンシア方面、個体数6500。 3群がカディス方面で個体数8500と推定されます。
このうち2群は当面、動向を探る以上の対応は致しません。
1群は、第35戦術機甲師団が現在、旧ポルトガル領のポンテ・デ・ソルからエヴォラの間で、防衛線を構築中。 第21戦術機甲師団が増援で急行しています。
3群には、第188戦術機甲旅団と、我が大隊が緊急即応で当ります。 会敵予定地点はビリャヌエバ・デ・コルドバ。
セビーリャの第15戦術機甲師団、カディスの第19戦術機甲師団も、出撃準備を急ピッチで行っております。 これが防衛主力となります。
更に、テトゥアンの国連軍第28戦術機甲師団に、対岸への緊急移動命令が出ました」

西部は2個戦術機甲師団主力。 南部が2個戦術機甲師団に、緊急即応1個旅団と1個大隊。
戦略予備の28師団は、危なくなった戦場へ投入か。

「現在、1220 出撃予定時刻、1240 ビリャヌエバ・デ・コルドバまでは約250kmだ。 布陣完了予定1400 BETAの移動速度から推定した会敵予定時刻は、1430 
まずは188旅団の5個大隊、そして我々。 合計6個大隊で戦線を維持する。 主力2個師団の到達は2時間後。 抜かるなよ?」

「イエス、サー!」

「よし。 第88独立戦術機甲大隊、出撃する! かかれ!」













1994年7月28日 1410 ビリャヌエバ・デ・コルドバ 第88独立戦術機甲大隊


―――予定では、そろそろか。

網膜スクリーンのクロック表示を見る。 1410 BETAは、あれで意外と時間に几帳面だ。 予定会敵時刻を大幅に狂わす事は無いだろう。
あと20分そこそこで、8500程のBETA群が到達する。 監視衛星からの情報では、大型種はそのうち約900。
突撃級が400、要撃級が500程。 光線級は未確認、どうせ、どこかに居るんだろうが・・・

『よう、直衛。 聞いたぞ、何か昨夜、面白い話してたって?』

圭介が通信回線で話しかけてきた。 

「ん? ああ、まあな・・・」

『何だよ? 歯切れの悪い。 まぁ、俺はそんなの、変に意識はしてないけどな』

お前なら、そうだろうよ。 それでいて、無意識のうちに同じ事をやっているんだ。 こいつは。
大隊の再編成で、圭介は第3大隊の第2(B)小隊長になった。 こいつにとっては、久々の(初陣以来の)突撃前衛小隊。 それも小隊長だ。
今まで強襲前衛向きかと思っていたが。 どうしてどうして、俺以上に突撃前衛向きかも知れない。
そう言えば、第1中隊になった久賀は第3(C)小隊長で強襲前衛をしている。 あいつも元々は突撃前衛向きだが、あそこの中隊には・・・

『何よ? なんか面白い話でも有るの?』

第1中隊の突撃前衛長・ユルヴァーナ・シェールソン中尉だ。 3期上のノルウェー人。 
何でも先祖は、10世紀から11世紀にかけて、ブリテン島を征服したノルマン人(ヴァイキング)の豪族だとか。
見た目美人だが、豪快な性格でついた綽名が『姐御』 小隊の部下からは『姐さん』と呼ばれる姐御肌。 3人いる大隊の突撃前衛長の最先任。

昨晩の事を、簡単に話す。

『はん。 アタシに言わせりゃ、そんなの常識さ。 今現在、出来る、出来てないは別としてね。
今更、蘊蓄垂れられる事じゃあ無い。 アタシのご先祖達は、故郷で食って行けなくなって海に出た。 
そのままじゃ、飢え死にするだけだったからね。 もっとも、交易目的も有ったそうだけどさ』

ヴァイキングの歴史か?

『未知の土地でさ。 何としても生きていかなきゃならない。 こっちは元々人数で負けてる。 土地の人間の方が多いのは当り前さ。
でも、それでも何とかしなきゃ、生きていけなかった。 何とかして目の前の状況を打破するしか無かった。 皆がそうだ。
アタシのご先祖達はさ、皆が皆、エースだったんさ。 意識する、しないは別としてね。
今更、蘊蓄垂れられてもねぇ・・・』

流石は姐御。 言う事が豪快。

『だからさ。 今更そんな事で感心してるようじゃ・・・ 
周防、長門。 あんたら2人とも、ストームバンガード・ワンだろ!? しっかりキンタマ付いてんのかよ? シャキッとしな! シャキッと!!』

「へいへい。 ちゃんと付いてますって」

『縮じこまって無いだろねッ!?』

『確認します?』

『良い度胸だよ、長門。 んじゃ、今晩来な?』

『・・・遠慮します』

『情けないねぇ! 周防、アンタはどうだい?』

「ふるふるふる・・・」

『擬音で否定するなっ! ったく。 翠華も甘やかしすぎだねぇ!』


突撃前衛長3人の与太話に、大隊の皆も笑いを堪えている。

≪CPよりイルマリネン。 BETA群、接敵予定5分前。 後方より制圧砲撃開始≫

後方に布陣する砲撃部隊から、203mm、155mm、MLRSが飛来する。 前方に着弾。

『イルマリネン01より各スコードロン。 手筈通りだ。 フォーメーション・ウイング・ダブル・スリー(鶴翼参型)
2時間支える。 戦域縦進は30km。 コルドバまでは下がれんぞ、いいな?』

『グラム了解。 コルドバまで下がる? そんなみっともない事は、無しですな』

『ランスロット了解。 30km有れば、機動防御には十分でしょう』

ユーティライネン少佐の指示に、アルトマイエル大尉とウェスター大尉が答える。


『では、始めようか。 黄昏の時代にも、陽は沈み、また陽は登る』

『しかりて、いつかは黄昏の時代は沈み』

『陽が登る時代が来る』

『そうだ。 我々はそれを確信している。 その為に戦う用意が有る。 その為に汚泥を啜る覚悟も有る。 ―――宜しい。 大隊、戦闘開始!』


BETA群が急接近する。

第88戦術機甲大隊、48機はその只中に突っ込んで行く。

















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