<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7678] 国連欧州編 イベリア半島1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/17 23:46
「・・・たい・・・ちょう・・ わ、わたし、は・・・ やっぱ、り、たいちょ・・みたい・・ なれ、ま、せん・・・ すお・・・ ちゅ・・・い・・・」


―――目の前で。 若い、未だ少女の面影を残す女性衛士が、息を引き取った。














1994年6月25日 1930 地中海 イベリア半島 シエラ・ネバタ山脈 グラナダ近郊


陽がようやく没しかけている。 陰影が濃い、灌木ばかりが目につく山岳地帯を、国連カラーを施した4機の『トーネードⅡ』が、ゆっくりと静粛索敵移動を続けている。
2機1組のエレメントを組み、前衛・後衛で前方と後背を確認しながらの移動だ。


『本当に不法居留民なんて、居るんでしょうか? こんな、BETA勢力圏の中に』

『不思議よね。 イベリア半島が陥落したのは、87年・・・ 7年も前なのに』

3、4番機の衛士が腑に落ちない声色で話し合っている。
このイベリア半島から、旧スペイン・ポルトガル領から、難民脱出支援の為に残留していた、欧州各国政府が『移転』したのが、87年。
以降、間引き作戦の拠点確保と、主に最南部のアンダルシアでの軍事拠点維持以外では、公式に人類はこの半島に存在しない。

『03、04。 お喋りしていないで、しっかり索敵しなさい。 気を抜くと、どこからでも湧き出てくるわよ、連中は』

『『 は、はいっ! 』』

2番機の衛士が後任の2人を叱責する。
その間、指揮官機である1番機の衛士は無言のままだ。
時折、機体を止めて光学センサーを伸ばし、あちらこちらを捜索している。


『02より、01。 どう?』

「・・・ネガティブ。 今のところ、痕跡すら無い。 元々、この辺りの山岳民だとしたら。 痕跡を消すことくらい、造作も無いだろうけどね」

指揮官機の衛士が、まだ若い顔に苦々しげな表情を浮かべ、呟くように言う。
そして、指揮下の3機に静粛索敵の続行と、索敵範囲を東へ移す事を告げ、移動を始めた。


『隊長・・・ もし、不法居留民がいたら。 どうするんですか・・・?』

3番機の衛士が、スクリーン上で困惑した顔を見せる。
4番機の衛士も、似たような表情だ。

『貴女達、今更何を・・・「ギュゼル」・・・?』

2番機の衛士が、後任を叱責しようとした時、指揮官から制止の声が割り込んだ。

「居たとしたらか? 任務を遂行するまでだ。 本隊へ連絡し、移送部隊が到着するまで、周囲を確保する。
無論、不法居留民が他所へ移動しないように監視しつつ。 それ以外の何が有る?」

指揮官が、相変わらず視線は光学センサーやレーダー、震動・音紋センサーを忙しく見比べながら、部下の問いに明確に答える。

『でも! 居たとしたら、その居留民達だって、危険だと判ってて、やっぱり故郷を離れられなくて。
それでも今まで、生き抜いてきたんですよ? それを・・・ 強制移送ですか?』

「説得に応じなければ、そうなる」

『でも・・・ キャンプに行ったって・・・ 仕事なんて無いし、配給も滞りがちだし・・・』

『そ、そうですよ・・・』

3、4番機の衛士が、指揮官の答えに、控え目に反論しようとした時。

『ベルクール、ミラン、黙りなさい! 戦場で指揮官の方針に異を唱えるの?
それが許されるのは、作戦決定前までよ。 貴女達、戦場での上官抗命罪で、軍法会議送りにされたいの?』

2番機の衛士が、咄嗟に叱責する。

「ギュゼル、その辺で良い。 リュシエンヌ、アリッサ。 俺達は軍人であり、衛士であり、士官だ。 違うか?」

『い、いえ』 『違いません』

「なら、その本務は何だ?」

『人類の守護』 『BETAから人類を護る事』

「・・・うん。 大義的には、そうだ。 それならば、今の俺達の本務は?」

『不法居留民の保護・・・ですか?』

リュシエンヌ、と呼ばれた若いフランス系の女性衛士が、恐る恐る答える。

「それは結果だ。 本務はな・・・ 『人類の数の確保』だ」

『ッ!!』 『そんな、まるでモノみたいにッ!!』

部下の2人は、上官の言い様に不快感を覚え、思わず反発する。
しかし、指揮官はそんな2人を見ながらも、表情を変えない。


『リュシエンヌ・ベルクール少尉! アリッサ・ミラン少尉! 貴女たち、もう一度、訓練校からやり直す!? 今までどんな教育を受けてきたの!』

『し、しかし、クムフィール中尉!』
『中尉も、この任務には不満だと、前に・・・』

『不満と、不服従を混同するなッ! 貴様達は指揮官では無い! 作戦内容の要否を判断するのは指揮官だ!
貴様達は、命令された内容を如何に十全にこなすか、それだけだ! その程度も判らずに、良く卒業出来た!
いいか? 私が隊長に進言する事は只一つ! 『この甘ちゃん共を、訓練校へ返品しましょう』 だ! 解ったか!』

『『 はっ・・・はいっ! 』』

クムフィール中尉、と呼ばれた女性衛士の怒気に呑まれて、2人の少尉衛士が思わず肯定の返事をする。


その時、指揮官が新任の少尉2人に話しかけた。

「2人とも。 極論だが、今は1人でも多くの人類の数が必要な事は、認識しているな?」

『は、はい!』 『判っているつもりです・・・ 判っています!』

「ん・・・ その為には、これも極論だが、今回のような事は、これからも無数に発生する。
確かに、嫌な仕事だ。 けどな、これも俺達の 『任務』 だ。 人類を護る、と言う大義的な目的の中に含まれている。
衛士なら。 そして士官であるなら―――それを厭うな。 率先して任務に当たれ。 下士官兵を動揺さすな。 士官ならば、そうすべきでは無い」

『・・・・』 『それは・・・』

「文句が有るなら、それを言える位の経験を積んでからにしろ。 最低でも、俺やクムフィール中尉程度にはな。
それまでは・・・ そのクソッたれの口を閉じて、任務に集中しろ! ヒヨコ共!!」

『『 イッ イエス、サー!! 』』








俺と新任達の遣り取りと入れ替わりに、秘匿回線が入る。


『直衛。 似合わない役、ご苦労様』

可笑しそうに笑っている。

「・・・ギュゼルこそ。 『鬼先任』なんて柄じゃないだろ? お互い様さ」

『まぁ、小隊長の貴方に、小隊先任の私が。 あそこで揃って、甘い顔出来ないものね・・・』

「そりゃ、そうだ。 何時までも、甘えていられる順番じゃ無いしな、俺達も」

『そうねぇ・・・ なんたって、貴方やファビオが小隊長ですものねぇ・・・ あら、世も末かも?』

「代わってやろうか?」

『結構よ。 貴方って、部下にするには結構、使い辛いかも』

「どう言う意味だよ。 ま、ギュゼルは頼りになる補佐役だけどな?」

『何も出ないわよ?』

そう言い合って、お互い笑いかけたその時。


「待て! ・・・そこの小路、右手の灌木の陰」

『小路? あそこ? どうかしたの? 変哲もない小路よ?』

「・・・7年も人が入らなきゃ、あんな小路は直ぐにも無くなる。 それが残っていると言う事は。
―――普段から、往来が有るって事だ」

『野生動物じゃなくて?』

「野生動物が残っているか、甚だ疑問だな。 その場合はもっと、踏み固められた道は細い。 獣道ってのは、そんなものだ。 ―――機外確認する」

『判った。 ―――リュシエンヌ! アリッサ! 隊長が機外に出るわ、周辺警戒! 複合センサーは範囲が狭くなっても良いから、最大感度で!』

『了解!』 『判りました!』


3人の声を聞きながら、機体をニーリング・ポジションにしてコクピットを解放する。
ワイヤ・リフトで降下して地面に降りた。 念の為、武装を確認する。 

と言っても、BETA相手には気休めにもならない自動拳銃だ。 FN社のM1935、ブローニングHP。
古臭いとか、良く言われる。 何せ、1935年にリリースされた銃だ。 今や骨董品。
衛士達はベレッタM92か、大型の銃ならコルト・ガヴァメントを持つ連中が多い。
古い設計の銃なら、寧ろ小型で携帯性の良いドイツの古い銃、ワルサーPPKやモーゼルHScを愛用する者もいる。

俺がM1935を使っているのは、さして理由が有る訳じゃ無い。
強いて言えば、偶々グリップが握りやすかった事と、9mmパラで13発と言う装弾数の多さか。
ま、衛士にとって自動拳銃など、「最後の自決用」とも言われているから。
9mmパラなら、.45ACP程では無いが、それでも確実に脳みそを吹き飛ばせるか、といった程度の考えだ。

ヘッドセットのリンクを確認する ―――大丈夫だ。


「ギュゼル。 最大でも10分で戻る。 それまで頼む」

『了解。 各機、隊長機を中心に、100mの距離でトライアングル』

『『 了解! 』』


ゆっくりと、周囲を警戒しながら斜面を登る。 目的の灌木脇―――有った、小路だ。 明らかに歩き踏み固められた跡だ。

更に注意しながら、小路に入って行く。 辺りは未だ陽があるが、そろそろ6月の地中海沿岸とて、薄暗くなってきている。
途中で、乾燥した獣の排泄物を見つけた。 そして、微かな轍の跡。 確信した、この先に不法居留民がいる。

「ギュゼル、機に戻る。 異常は?」

『無し。 ―――どうだった?』

「ビンゴ。 しかし、この先の何処に居るかは判らない。 それにそろそろ陽も落ちる。
チェック・ポイントは3km南だ。 いったん戻って・・・」

「―――動くなッ!!」

不意に背後から警告を受ける。
 
くそ、ドジったな。 こんな任務、本来なら軽歩兵部隊の随伴付きでやるものだ。
白兵戦闘のプロの彼等なら、こんなドジは踏まないか。 
いくら人手不足とは言え、戦術機甲部隊にさせるから、こうなる・・・

「動くなッ! 銃を置いて、両手を上げろ!」

念の為、銃を地面に置き、両手を挙げる。

『隊長! 威嚇許可を!』

ギュゼルから回線通信が入る。

「却下する。 まだ 『攻撃』 を受けていない。 引き続き、周辺警戒」

『・・・了解』

通信会話の間に、地面に置かれた銃を持っていかれる。 どうやら気配では、相手は2人か。

「試しに、言っておきたいが・・・ 我々は君達の『敵』じゃない。 対岸への『避難』を忠告に来たのだ。
誰か、代表者の所まで案内して貰えないだろうか?」

「・・・・・」

「私の銃は、君達に預けている。 部下達は、私の命令が無ければ、危害を加える事は絶対にしない。 
誓って言う。 我々は君達の『敵』では無い」

「・・・長の所ね。 いいわ、ついてらっしゃい」

「マリア!」

「お黙り、ビアンコ。 私の言う事、聞けないって言うの?」

「・・・判ったよ」

どうやら、マリア、と呼ばれる女の方が、リーダーシップを取っているようだ。

「そのまま、こっちを向いて。 変な事したら、即、ズドン、だからねッ!」

ようやく許可が出たので、振り返る。 振り返って―――驚いた。

「何よ? 吃驚したような顔して。 アンタ、そんなに女が珍しいの?」

女、と言うより。 正真正銘、少女だった。 まだ13、4歳位か。
男の方も。 これまた12歳か13歳位の男の子だった。 つまり・・・


「いや。 若いのに、しっかりしているものだ、と思ってね」











1994年6月25日 2130 シエラ・ネバタ山脈 ムラセン山山麓の谷間


ギュゼルに俺の機体を自律制御させて、この谷間の外れに駐機させた。
今は、40人くらいの小さなコロニーの中心部―――長の家で、俺を含む4人が説得に当たっている。

「まず、自己紹介をさせて頂きたい。 小官は国連軍中尉、周防直衛。 後の3人は部下達です。
右から、ギュゼル・サファ・クムフィール中尉、リュシエンヌ・ベルクール少尉、アリッサ・ミラン少尉。
4名とも、国連欧州軍の所属です」

「・・・ディエゴ・ベサレスだ。 ここの、一応は長をしている。
にしても、随分と若い隊長さんだな。 いくつだ?」

「今月で、丁度20歳ですよ」

「はっ! こりゃ、驚いた! こんな若造が、隊長さんか!?」

ベサレス氏の物言いに、ギュゼルが思わず身を乗り出そうとするが、抑えた。

「生憎と、『こんな若造』が隊長を張らなければならない程、『外の世界』は、人材が逼迫しておりまして」

「・・・言うな? 若造。 つまり、俺達がのうのうと暮らしていると?」

「失礼。 そう言う訳では有りません。 
寧ろ、よくもまぁ、こんな所でBETAに喰い殺されずに、生き残っていたものだと。
些か、呆れ果てております」

暫くお互いに笑いながら睨み合う。
最初に折れたのは、長のベサレス氏だった。

「俺達だって、好き好んで居座っているんじゃねぇ。
一応は故郷だしな。 年寄り連中は土地を離れたがらねぇ。 それに、難民キャンプの噂は以前に耳にしたぜ。
でもよ。 確かに、アンタの言う通りさ。 こんな所、いつまでも住んじゃいられねぇ・・・」

「では。 『対岸』への避難、受け入れて頂けますね?」

「途中の安全は?」

「軽歩兵部隊の護衛付きで、輸送部隊を待機させています。 我々も、間接護衛を。
戦術機1個小隊。 小型種BETAなら、200~300程度は、問題にしません」

大規模な『群』から離れて行動している小型種BETAの群なら、1群でその程度だ。

「一応、皆にも話はしてある。 何人か、不満を垂れている奴は居るが・・・
何、家族の為だ。 我慢して貰うさ」

「ちょっと! 親父! アタシは、納得してないよッ!!」

唐突に、叫び越えと共に家の中に入って来たのは。
『マリア』と呼ばれた少女―――あの、俺に銃を突き付けていた、元気な少女だった。











1994年6月25日 2250 シエラ・ネバタ山脈 ムラセン山山麓の谷間


満天の星空だった。
機体の脇に仮設で作った野戦テント(ポンチョを拡げただけだ)から這い出して、付近を『散歩』していた。

この辺りはアンダルシア防衛線に近い為か、未だBETAの浸食に晒され切っていないようだ。
谷間の川と付近の緑も、昼には清涼感と心地良い木陰を。 夜には自然の甘い香りを。 昔から変わらぬ恵みを、もたらしてくれていた。

(この自然も。 防衛線次第であっという間に、喰い尽されるか・・・)

何度も満洲で見てきた。
それまでの緑の沃野だった草原が、BETAに浸食され。 次に『戦場』として来てみれば、一面の荒野に成り果てていた、なんて事は。


ふと。 外れの川筋に人影を認めた。 2人いる。
一人は、幾分小柄だ。 話し声が聞こえる。 邪魔にならないように、傍の木立に寄りかかって、なんとなく会話を聞いていた。


「・・・ふぅ~ん。じゃ、リュシエンヌの故郷は、もうBETAの腹の中かぁ」

「そうね・・・ 随分前だから、サンテティエンヌが陥ちたのはね。
それに、リヨンハイブとは50km位しか離れていないの。 もう、あの街は何もないでしょうね・・・」

「だ、だったらさ! ここで暮らせばいいじゃん! ここはまだ、水も緑も有るしさ!」

「・・・マリア? 私は軍人よ。 それに貴女達に、ここから避難して貰う為の説得に来たのに。 住めないわよ」

「え~~~? だってさ。 アタシら、ずっとここで暮らしてきたんだよ? BETAなんて、騙すのなんか簡単だよ! 
見つかった事無いし。 ここを離れるの、アタシ、嫌だよ・・・」

「拗ねないで、マリア。 でも、本当に危ないのよ。 アンダルシア次第で、ここにもBETAの大群が何時、雪崩れ込んでくるか・・・
それに、お祖母さんや、病気がちのお母さんも。 安全な場所で暮らした方がいいわ。 ね? そう思わない?」

「そりゃあ、お祖母ちゃんも母さんも。 もっとお医者さんとかいる町の方が、良いかもしれないけどさぁ・・・」

「海の見える町まで、私達が護ってあげるわ。 そこから、海を渡って・・・ 対岸の町に行けば。 そこでまた、皆で暮らせるわ」

「へぇ! 海かぁ! アタシ、海なんて見た事無いよッ! へぇ、海かぁ・・・」

「直に見れるわ。 そうね、今度は、海の見える町にも、住めるかもしれないわね」

「・・・うん! 判った! 親父に、謝ってくるよ・・・ 我がまま言って、ゴメンって。
ありがとね、リュシエンヌ!」

「ふふ、どういたしまして・・・」


マリアが、元気よく走り出し―――不意に立ち止まって、リュシエンヌを振り返った。


「・・・護って、くれるよね?」

「ええ、必ず」

その言葉に、嬉しそうに破顔して。 マリアは家に帰って行った。










リュシエンヌがこちらに向かって歩いてくる。

「―――ッ! た、隊長!? いらしたんですか!?」

流石に、驚くわな。 夜、こんな場所で他に人がいれば。

「散歩がてらな。―――スマン、何となく、聞こえてしまった」

「あ、いえ。 別に、困る事じゃないですから・・・」

やはり、先程の遣り取りを聞かれた事が気恥ずかしいのか。 顔をそむけながらだ。
不意に、昔―――と言っても、2年くらい前の事だ―――の事が思い出された。

「ま、突っ立ってないで、座れよ。 まだ寝ないのなら」

「あ、はい」

俺の座る小岩の傍の草地に、リュシエンヌが腰を降ろした。
さて。 俺は何を話すつもりなのかな?
唐突に出た言葉だったから、なかなか次の言葉が出ずに、気が付けば煙草を咥えている。

「・・・隊長って、結構スモーカーですね?」

「そうか・・・?」

「はい。 気が付けば、吸われています」

そうかな? そんなに吸っている気はしないんだが・・・
ふと、思い返すと。
以前は2日で1箱だったが。 今は1日に1箱だ。 はは、成程な、確かに。 以前の2倍になってやがる。

それでも火をつける。 大きく吸い込んで、ゆっくりと紫煙を吐く。 美味いな。


「・・・何か、お話が?」

「ん・・・ まぁ、何だ。 良くやった。 あの子を説き伏せたのは、殊勲賞だ。
これで、父親のベサレス氏も動きやすくなった」

「別に。 そんなつもりでは」

計算づくでやったと思われるのが、心外なのだろう。 やや不満な顔と声だ。

「別に、お前が計算づくで、あの子に接したんじゃない事は、判っている。 ま、聞けよ。 俺にも2年ほど前、似たような経験が有る。 満洲でな。
まだ少尉任官後、2ヶ月くらいの頃だった。 今のお前と同じくらいさ。 ウチの1小隊の蒋中尉や、1中隊の朱中尉、3中隊の趙中尉と一緒にな。
―――92年の5月。 あの頃は、俺はまだ日本帝国軍に在籍していてな・・・」



1992年5月の末、北満洲でモンゴル族の一族を、南部後方の安全区へ避難さす為の任務。
その時の事を話した。

先祖代々の伝統を守りたかった長老衆。
長老衆へ心情的に傾きながらも、子供達の行く末を不安に思っていた親達。
未だ汚れの無い瞳の、無邪気な子供達。

文怜の悔悟の言葉。 そして、翠華の悲痛。


「あの時とは逆だが。 純粋で、世の中の暴虐を知らない分、マリアは手古摺ると思っていたんだが。
案外、正攻法で良かったのかもな。 根は素直な子のようだ」

「ええ。 良い子です。 優しい子ですよ」

「だもんで、お前の殊勲だ、リュシエンヌ。 素のまま当たった事が、良かったんだな」

「何か、私の精神年齢が低い。 そう、言外に言われている気がします・・・」

「気の回しすぎだ。 俺は正直に褒めているんだぞ?」

「じゃ、素直に受け取っておきます。
・・・隊長に褒められたの、初めてです・・・」

ん? そうだったか? そんなに、怒っていたっけ?

「アリッサと二人でよく話してました。 運が悪かったね、って」

「運が悪い?」

「はい。 大隊の中でも、隊長と、3中隊の長門中尉は、鬼小隊長で有名ですから。 1中隊の久賀中尉も、かなりですけど。
私達、着任して2ヶ月間。 隊長からの叱責と、怒鳴り声ばかりが記憶にあって・・・」

あちゃ、やっちまったか? 去年、帝国軍に居た頃。 当時の新任連中にも『鬼』って言われて怖がられたしなぁ・・・

「そ、そうか。 いや、気が付かなかった。 けど、何もお前達を憎んでの事じゃ、ないんだけどな・・・」

「ええ。 訓練で叱責されたり、罵倒されたり。 怖かったし、悔しかったですけど。
同じ事を隊長も、クムフィール中尉もやって、こなしていますから。 私達が未熟なんだなぁって、思い知らされてきました」

「そう思えるんなら、伸びるよ。 お前は。 アリッサも」

「そうでしょうか?」

「ああ。 俺もそうだったよ」

「一番、釈然としない理由を聞かされました」

「お前な・・・」

笑いながら軽口を叩くその姿に、少しホッとする。
小さな、本当に小さな1歩だが。 それでも、それは前進だ。
煙草をもう1本取り出して、火をつける。 少しピッチが速いか? でもまあ、興が乗ればこんなもんだ。


「ひとつ、聞いて良いですか?」

「ん? 何だ?」

「隊長は、いざって言う時・・・ 人を、撃てますか?」

「・・・藪から棒だな。 場合によるな」

「例えば。 目の前の100人を殺さなきゃ、後ろの1万人が助からない。 そんな時は・・・?」

「撃つ」

「躊躇なしですね・・・ その100人が、今まさに、BETAに襲われていたとしたら?」

「BETAごと、撃つ」

―――実際、俺はそうした。 人間をBETAの餌にして。 BETAごと、纏めて吹き飛ばした。


「どうして、そんな事を聞く?」

隊に配属されてから2が月ばかり。 こうして個別にゆっくり話す機会が、余り無かった。
それでも、俺の持つリュシエンヌの印象とは、今夜はやはり違う。
もっと、小気味よい位に切り込んでくる印象だったんだが。

「・・・私の父は、フランス陸軍の衛士でした。 戦死しましたけど。
ブルゴーニュの戦場で、逃げまとう民間人を護ろうとして、死にました。
BETAに襲われている人達を撃てなくて。 結局、自分も、部下も、守ろうとした民間人も、BETAにやられて死にました」

リュシエンヌの声は、どこか台本を読んでいるかの様な、無機質な声だった。

「母は、ル・アーブルまで避難する最中に、ルーアンで死にました。 母の乗った避難トラックが、BETAに襲われて。
フランス軍はBETAを殲滅する為に、BETAごと、母を撃ち殺しました。 でないと、BETAにみんなやられていたから。
―――そのお陰で、私と妹は助かりました」

もう、感情の欠片も感じない。

「・・・どっちが、正しくて。 どっちが、間違いなのですか? 教えて下さい、隊長・・・」


―――正しい。 同胞を、最後まで守ろうとした事か。 より多くの同胞を護る為、目の前の同胞を見殺した事か。

―――間違い。 理想と感情に囚われ、多くの命と自らの命を失う事か。 同胞を護ると言う大義名分の下で、同胞を見殺す事か。


「どう捉えるかによる。 どう言う結果を求めるかによる。 
自分が出来る事をやった結果、どうなるかを認める事が出来るかによる。
―――俺がその場に居たと仮定したら。 リュシエンヌ、君のお母さんを、BETAごと撃ち殺している」

「・・・・・」

「俺は、そんな状況下で。 どんな状況下でも、全てを叶える事が出来るなんて、思ってはいない。 俺には、そんな能力は無い。
だとしたら。 俺は、俺が出来る事をやるだけだ。 その結果、何かを切り捨てる事は有る」

「・・・・・ッ」

「――-つまりお前は。 感情と後ろめたさに、苛まれているのか」

「ッ!?」

「母親が『殺された』怒りと、その結果自分が助かった『後ろめたさ』 そして、そうしなかった父親への、感情的な依存。
しかし、その父親の行為の結果は、衛士として認められない。 ―――そんなところか?」

「・・・・くっ!」

「言っておく。 今、俺が『出来ない』と判断している事は。 お前には逆立ちしたって、足元にも近寄れない」

「それはッ! そうですが・・・ッ!」

ようやく、感情の色が現れた。

「言っただろ、今はどうやって命令された事を確実に実行するか、出来るか、それだけに集中しろと。
今のお前には、経験なんてものは無いに等しい。 その答えは、経験を得てから考えろ。
そして、それを考える事は指揮官の役割だ。 今は俺の役割だ。 結果も、責任も、俺のものだ。 お前のものじゃ無い」

最後にひとつ、付け加える。

「・・・多分、正解なんて有りはしない。 世の中にはな。
得られる事は精々、『最悪の中の最善』 それ位なんだろうな」

「・・・私は。 少なくとも、今の私は。 隊長の様になれません。 隊長のように考えられません。 ―――切り捨てられませんッ!」

―――つまりは。 それが今のお前の限界か、リュシエンヌ。
いや。 限界を作っているのは、俺の方か? まだ先に進めるのか? 道を閉ざしているのは、俺か? 

それとも―――リュシエンヌ、お前が今立っている道は。 
或る者にとっては、行き止まりになった道であり。 
或る者にとっては、死の奈落に繋がった道だ。
それを―――道を、拓いて行けると考えるのか?


「・・・どうなろうとするか。 どう考えようとするか。 人それぞれだ。 お前は、お前の答えを見つけろ。
―――ひとつだけ、言っておく。 俺も、お前も。 出来る事なんて、たかが知れているんだよ」


承服しがたい表情のリュシエンヌを背に、機体に戻る為、立ち上がり歩き始める。
恐らく。 彼女は例えどんな経験豊富な衛士の言葉を聞いたとしても。 今その答えを得る事は不可能だ。 俺が教えられる事は、それだけだ。


―――正解なんて。 間違いなんて。 俺こそ、教えて欲しいさ・・・















歩き去る隊長の背中を見ながら、自然に呟きが出てしまう。


「・・・隊長に褒められたの、初めてです。 凄く、嬉しいです―――抱いて欲しい、って言ったら。 困りますか?」







前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.039628982543945