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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編‐幕間その2
Name: samurai◆b1983cf3 ID:e178b4cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/02 23:49
1992年5月28日 0545  W-45-90エリア近郊のオアシス



昨夜の狂宴から一夜明けた。

(空気が綺麗だな・・・)

周防直衛が、起きぬけに実感した第一印象だった。
この北満洲に赴任して、そろそろ2ヶ月。 ついぞ感じなかった事だ。



(まぁ、今まではBETAとの初陣の事が気になって、一杯一杯だったけどな・・・)

清冽な朝。このままぼんやりするのが惜しくなった俺は、オアシスの周りを「散歩」と洒落込む事にした。

朝日が眩しい。 朝靄が幻想的な光景を作り出している。
空はすっかり、夜がその支配を陽の光に譲っている。

ふと、小さな泉の畔に、子供たちが数人戯れているのを見つけた。

(この子達は、故郷を覚えているのだろうか。 それとも、避難の道すがら、生まれた土地を故郷と思っているのか・・・
それでも、その土地にはもう帰れない・・・)

柄になく感傷的になって、子供達を見ていたら、そのうち一人の女の子が、こちらに気づいたようだ。
しばらく不思議そうにこちらを見ていたが、そのうち恥ずかしそうに微笑んでくれた。

「おはよう。何しているんだい?」

俺は別段、モンゴル語を話せるわけじゃない。
だが、強化装備の自動翻訳機能と、同じく外付けの自動翻訳・音声出力装置のお陰で、この子達にも話は通じる筈だ。
些か、違和感は有るだろうけど。

「?」

あぁ、やっぱり、不思議そうな顔をしている。
それでも、もう一度声をかけてみる。

「おはよう。何をしているんだい? お母さんのお手伝いかな?」

「うん。みずくみ。 あさごはんのおちゃ、つくるの。」
通じたようだ。

「そうか、偉いな。 
名前はなんて言うの? お兄ちゃんは、直衛。 『な・お・え』って言うんだ。」

「なまえ・・・? なまえ・・ 『ウィソ』!」
「ウィソ?」
「うん。 ウィソ!」

そういって、その小さな女の子「ウィソ」はニコッと笑った。

そうしている内に、他の子達もやって来た。
この子達は、いまオアシスにいる氏族の幼少から、10歳前後の子供達のようだった。

男の子が、ユルール、オユントゥルフール。
女の子が、ムンフバヤル、ナランツェツェグ、そして、ウィソ。

ユルールが、ウィソの兄。 ムンフバヤル、オユントゥルフール、ナランツェツェグが姉弟。

今まで旅してきた土地、大きな森のある山を越えて来た事(大興安嶺の事だろう)、草の豊かなこの辺りの事。

皆、楽しそうに、眼を輝かせて話している。
この子達には、未だ世界は氏族の囲まれた世界であり、その眼には未だ絶望は宿していない。
素直で、綺麗な、無垢の瞳だった。

「あれ? 周防少尉? もう起きていたんだ。 おはよう。」

後ろから、蒋翠華少尉が声をかけてきた。 ・・・どうやら、酒は抜けているようだ。

「ああ、おはよう。 蒋少尉。 ちょっと前に目が覚めてさ。」
「で? 今は保父さん?」 
そう言って、くすくす笑う。 そんなに変か?

「ちがうよっ なおえだもん。 すおー、しょーい、じゃないよ?」 
ウィソが「間違い」を訂正している。

「あぁ、そうね。 『なおえ』だったわね。」 
そう言って、蒋少尉はにこりと微笑んで、ウィソの頭を優しく撫でる。

へぇ、こうしてみてると、優しい「お姉さん」だな、彼女は・・・

「ん? 何?」
「いや・・・ 別に?」

一瞬、見とれてた、なんて言えやしない。

その内、この子達の母親だろう女性が、子供達を呼んだ。
あぁ、朝食の準備だったっけ。邪魔してしまったな。

「なおえ、またねっ!」 「お兄ちゃん、またあとでねっ!」 「バイバイ!」
子供達が元気にゲル(天幕)へ走っていく。

「・・・貴方って、結構、人誑しなのねぇ・・・」
「言うに事欠いて、『誑し』かよ。」
「あら、誉めてるのよ?」 くすくす笑いながらじゃ、説得力無いぞ・・・

「朝食の準備できたようよ。 ま、C-レーションだけど?」
「げぇ~・・・・・ 」
・・・もう、食い飽きた・・・



簡単な(簡単すぎる)朝食の後、当日の行動予定のブリーフィング。
その後で、若干の時間が空いた。

偶々だが、機械化歩兵部隊にモンゴル族出身の兵士がいたので、さっきの子供達の名前の由来なんかを聞いてみた。
因みにその兵士は、内蒙古出身で、国籍は中国籍の「中国人」なのだが。

「オユントゥルフール」:知恵の鍵
「ムンフバヤル」:永遠の喜び
「ナランツェツェグ」:ひまわり
「ユルール」:祝福
そして「ウィソ」は、「すずめ」

「ウィソ」確かに、小さいが、軽快に空を飛ぶ、すずめの様な娘だったな。


などと考えていると、圭介がやって来た。
何やら、表情を曇らせている。

「圭介、どうした?朝っぱらから? とうとう、機体がご臨終か?」

「違うよ。 どうやら、避難民の雲行きが怪しい。 
さっき、周上尉と機械化歩兵小隊の小隊長とで、避難民の所へ出発の指示を出しに行ったようだけど・・・」

騒がしい。
天幕の方で、何やら口論しているようだ。

「見に行くか?」
「ん・・・ あ、趙少尉。」

丁度、天幕の方から歩いてきた趙美鳳少尉に声をかけた。

「あら、周防少尉、長門少尉。進発の準備はどうです?」
「準備はOKです。 ・・・向こう、どうしたんです?」
顔を天幕へ向ける。

趙少尉は肩をすくめ、溜息をついた。
「お年寄り達がね。 あ、氏族の長老衆だけど、ここを動かない、って、頑固なの。
昨晩までは、不承不承、南へ行く事に同意していたのに。
今朝になって急によ? ホント、困ったわ・・・」

「ここを動かない!? じゃ、皆ここに止まるんですか? 趙少尉っ!!」

急に後ろから、蒋少尉が割り込んできた。 ・・・びっくりしたぞ?

「小翠・・・ ええ、そうなっちゃわね・・・」
「でもっ!移動しないとっ! ここじゃ、安心して暮らせませんよっ!」
「それは、そうなんだけれど・・・ 上尉も強硬な手段は取りたく無さそうだし。
何とか説得してみる気みたいだけど・・・ 難しいかも。」
「私っ! 行ってきますっ!」
「えっ!? あ、ちょっと? 小翠!?」

あっけにとられている内に、蒋少尉は脱兎の如く、天幕へ走って行った。

「・・・」 俺。
「・・・」 圭介。
「・・・ふぅ・・」 趙少尉。

「・・・周防少尉、長門少尉。申し訳ありませんけど、蒋少尉を連れて来て頂けません?
私は、出発準備を整えないといけませんので・・・」

周上尉が説得に手古摺っている今、副隊長格の趙少尉が準備の指揮を執らねばならない。

「解りました。では周防少尉が。 自分は各機体のステータスチェックを確認します。」

おい、圭介・・・

「助かります。長門少尉。 ・・・周防少尉、蒋少尉をお願いしますね。」
「・・・はっ。」

圭介。 帰還したら、覚えておけよ?



「ですから、長老。この土地も既に危険なのです。 
いつ、BETAの襲撃が有るか解りません。
とても、一族の方々が安心して住むのに、相応しい土地ではないのです。」

周上尉が、些か疲れの見える顔で説得に当たっていた。
機械化歩兵小隊の小隊長は、既に諦め顔だ。
傍らに、何かに耐える表情の蒋少尉が佇んでいた。

「・・・ワシらは、ずっと昔から、こうして生きてきた。
上天の蒼き狼と、白き牝鹿が番ったその昔から。
ワシらは、石の家には暮らせん。 
天と、草原の間こそが、ワシらの揺り籠であり、世界じゃよ、お若いの・・・」

「しかし、今一度。 一族の方々の安全を、ご一考下さい。
もし、BETAに襲撃されたら、あなた方は身を守る術をお持ちでは無い。
それは、良くご存じの筈です。」

「・・・その時は、その時こそは、我ら一族。 敵わぬまでも戦い、滅びよう。
それが、天命というものじゃよ・・・」

何をっ・・・

「何を言っているんですかっ!!」
蒋少尉が激発した。

「蒋少尉! 上官の会話に口を挟むなっ!!」
周上尉が厳しく叱責する。

それでも、今日の彼女を押し留める事には、いかなかったようだ。
「戦うっ!? 滅びる!? 何言っているんですかっ!!
BETAは! そんな感傷が通じる相手じゃないっ!
男も、女もっ! 大人も、子供もっ! 年よりもっ! 赤ん坊もっ!
みんな関係なく、喰い殺しちゃうんですよっ!?
悲鳴を上げてもっ! 泣き叫んでもっ! 奴らには何の関係もないっ!
ただただ、食らい尽すんですよっ!
それをっ・・・・ それをっ!!!」

「蒋少尉! もういいっ! もうやめろっ!」

これ以上は、下手をすれば軍法で裁かれかねない。
俺は蒋少尉の腕をつかみ、引き寄せて止めさせようとした。

それでも、彼女は止まらなかった。 涙声になりながら。

「・・・・明明もっ! 小漣もっ! 小蘭もっ! みんな助からなかったっ!
助けてっ! 死にたくないっ! みんな、みんな、叫んでたのにっ!
みんなっ! BETAに喰い殺されたっ! 
お婆ちゃんもっ! 叔母さんもっ! 従弟の亜嶺もっ! 
美蘭姉さんのお腹には、赤ちゃんがいたっ!
みんなっ! 喰い殺されたっ! 
死にたくなんか、無かったのにっ! 生きたかったのにっ!
なのにっ・・・・ なのにっ・・・・!」

周上尉が目配りをした。
俺は、未だ激しく嗚咽を漏らす蒋少尉を抱きよせ、そのまま天幕から離れた。





天幕を離れ、衛生兵を呼ぶ。 独断だが、鎮静剤の無針注射を頼んだ。

「状況が状況ですので、通常の半分の分量にしたいと思いますが。少尉殿。」

「ああ。それが良いなら、君の専門職掌の範囲内で処置してくれ。
指示は『俺が出した』からな。」

「・・・了解であります。 数分で、落ち着かれると思います。」

「解った。あと、戦術機部隊の朱少尉を呼んできてくれ。
それと、経緯を趙少尉に報告。 俺からだと言ってな。
俺は、天幕の方へ戻る。」

「はっ!」





「・・・・蒋少尉は?」

天幕へ戻った俺に。周上尉が問いかけた。

「鎮静剤の投与を、無断ですが指示しました。 但し、通常の半分の分量です。
直ぐに落ち着くだろうと、衛生兵は話しております。」

「・・・・解った。」

周上尉の表情は、先ほどに比べて、更に険しかった。
交渉は決裂か?

ふと見ると、ウィソやユルール達がいる。
微かに微笑んで、手を振ってやる。

すると、母親の制止を振り切って、こちらに駆け寄ってきた。


「・・・・随分と、曾孫達が懐いておる様じゃ、お若いの。」
長老が目を細めていった。 彼の曾孫だったのか。

「・・・・元気で、素直で、明るい。良い子たちです・・・」
「・・・ふむ。何やら、含む所がおありじゃの? お若いの・・・」

周防少尉。と、周上尉が制止するように呼びかける。
だが、これだけは、言っておきたかった。

「長老。まずは、先ほどの蒋翠華少尉の無礼、同僚として謝罪します。」
「ふむ・・・?」
「ですが、彼女の言も一理ある所、ご理解頂きたい。
あの言葉は、BETAの恐怖を知る者の言葉。
身内を、友人を、愛する者たちを、喰い殺される。
その恐怖と、悲しみと、悔しさと、絶望とを知る者の、心からの言葉なのです。」
「む・・・」

ウィソの頭を撫でてやる。
「・・・この子達に。 
この子達の瞳から、明るさと。素直さと。光を奪って。
恐怖と。悲しみと。悔悟と。絶望を、与えるおつもりですか・・・?」

「・・・・その様な生は、晒させぬ・・・」

っ!!

「では・・・ その生の最後に。 
今まで、世界は光ばかりだと笑っていた、この子達の、短い生の終りに。
底無しの絶望を刻みつけて、終わらせるおつもりですか?」

「・・・・・若造っ!!」

「いかにもっ! 俺は若造ですっ!

・・・・生きてきた時間も、経験も、苦悩も、背負った責任の重さも。
長老、貴方の足元にも及ばない、若造です。
ですが、そんな若造でも、解る。
この子達の瞳の光は、あなた方、一族の大人達にも向けられている。

この子達の瞳に映る世界が光なら、その光は、あなた達でもあるんだ。
あなた達が子供の頃、そうだったのではないのですか?

あなた達は、光である事を捨てて、絶望になると言うのですか?
・・・・であるのなら、この子達の生は、救われない。」

俺は、長老から目を外し、周上尉に向き直る。

「上尉。意見、具申致します。」

「・・・・言ってみろ。」

「避難民全員の移動が不可能な場合。
せめて子供。そして、その親達だけは、無理にでも護送すべきです。」

「・・・・年寄り達は、見捨てるのか?少尉。」

「避難民の安全な護送に、阻害要因が発生した場合。 我々はその要因を速やかに排除すべきであります。」

「・・・・その『排除すべき要因』が、人類でも、か?」

「その『人類』を。 『人類の未来』を守る為、阻害要因の速やかな排除を、具申致します。」

賭け、だった。
俺とて、老人達を。ウィソの曾爺さんを、見殺しになんてしたくない。
ウィソはさっき、長老の袖をしっかり握っていた。
恐らく、曾孫娘に優しい、曾爺さんなのだろう。

だから、長老が残るとなると。 一族は皆残る。 恐らくは、絶対に。

長老。 気づいてくれっ! 
あんたの可愛い曾孫娘に! 蒋少尉が味わった絶望を、味あわせない為にっ! 
あんたが動いてくれっ!




「・・・・・ワシは、愚か者か? 愚か者だったか? お若いのよ・・・?」

「長老。 貴方の決断は、一族の賢き誉となるでしょう・・・」

「・・・この齢にして、若きに諭されるとは、な。 ふふっ・・・」

「自分ではありませんよ、長老。」

「・・・ふむ。 確か、周上尉、と申されたか? 隊長殿のお名は?」

周上尉が背筋を伸ばし、敬礼する。
「はっ! 中華人民共和国陸軍・周蘇紅上尉であります。」

「ふむ・・・ 貴女に感謝を。 
そして、悲しき思いを、強き魂で打ち克つ、あの乙女に感謝を。
わが一族は、南へ行こう。 いま暫くは、石の家に住まおう。
いつか、いつの日か、草原に帰るその時まで。」

「はっ! では、出発の準備も有ります故。
1時間後に出発とさせて頂きます。
宜しいか?」

「ふむ。承知した。」







何とか、なったか・・・・
俺は膝が砕けそうな想いだった。

急に緊張感から解放された為だろう。 情けない。

「・・・蒋少尉といい、周防少尉、貴様といい。
上官を何だと思っておるんだ? ん?」

部隊へ戻る道すがら、周上尉は些か拗ねたような口ぶりで睨みつけてきた。

「はっ! 自分は、理解ある上官の指示の元、説得工作に着手致した所存でありますっ!
然しながら、数々の上官よりの指令の無視については、抗弁の余地は有りませんっ!
厳重なる処分は、覚悟しておりますっ!」

ちょっと、やりすぎたか、な・・・・?

「ふん。理解ある上官? ああ、そうだろう。
私ほど、理解ある上官はおらんぞ?
説得工作? ふん、まぁいい。
上官の指令の無視? 全くだ。全くもって許しがたい。
抗弁の余地はない? 当たり前だ。抗弁なぞさせるものか。」

げっ・・・ ヤバい。非常にヤバい。 暫定的とはいえ、上官だ。
下手すれば、原隊に引き渡された後に待っているのは、強面の野戦憲兵隊、なんて事になりかねない。

知らず知らず、背中に冷たい汗が流れる。

「・・・ふん。厳重なる処分・・・?
貴様はっ!! 私をっ!! 笑い者にする気かっ!!!!」

「っ!!」

腸から震えが来るような、怒号だった。

「隊長の私がっ! 説得しようとして出来なかったっ! あのご老人をっ!
貴様は説得したっ! 
その過程でっ! 上官である私の制止を無視したとしてもだっ!
その貴様をっ! 厳重なる処分っ!? 
あぁ、私はいい笑い者だろうよっ!! これ以上無い、無能者としてなっ!!!」

「っ! 申し訳ありませんっ!」

「謝るなっ! バカ者っ!!!」

くぅ~~~っ! どうすりゃいい!?


「・・・感謝しておるのだ、私は・・・・・」
不意に、周上尉が呟いた。


「情けない事に。 私は貴様の言葉を、その時まで気づかなかった。
部下の蒋少尉の、絶望もな・・・
全く。我ながら度し難い戦術機馬鹿なのだ・・・」

あ、馬鹿って。認めてるんだな・・・・

「何だと?」

「はっ!? い、いえ。 何も申しておりませんっ!」

「ふん? そうか? 
何やら、貴様が私を、馬鹿にしたような声が聞こえたんだが・・・?」

い、ESPかよ・・・


「まぁ、しかし。
全くの処罰無しでは、軍律が保たれん。解るな?」

「はっ・・・」

「では。処分を言い渡す。 周防直衛少尉!」

「はっ!」

「貴様の、今般の上官命令無視。独断専行の所業は軍法に照らし合わせても重罪であるっ。
しかしながら、避難民への勧告・説得工作の成功による、任務完遂に対する功績も又、看過しえぬ処、大である。
以上を鑑み、以下の処分を言い渡す。
1.周防少尉は、今作戦期間中、避難民の安全責任者としての責を与える。
1.同少尉は、今作戦期間中、避難民の安全確保。特に夜間の安全確保を確実にする為、期間中の夜間警戒責任者とする。
1.尚、同少尉と同様の功罪著しい、蒋翠華少尉を補佐として、上記責務を必ずや全うすべしっ!
1.これは、作戦完遂まで永続的に有効命令とするっ!

・・・・・以上だ。

小翠のメンタルケアも、決して疎かにするなよ?
もし、あの娘が立ち直れなかったら。
貴様、ハイブへの単独突入の方が、幸せだと思わせてやるぞ?」


はっはっは。

周上尉は普段の呵々大笑を残して、去って行った。




「・・・・独房入りの方が、マシだったかも・・・」








「お疲れさん。」

部隊へ戻った俺を、圭介が生暖かい目で迎えた。

「なんだよ? その眼は・・・?」

「日中友好、決定?」

「んなっ?」

「国際結婚?」

「・・・おい・・・」

「綾森少尉に、報告っと・・・」

「ちょっと待てやっ! ゴラァッ!!!」



「あの・・・ 周防少尉。」

圭介と、不毛なドツキ合いをしている所へ、蒋翠華少尉がやってきた。

「お、おう。もう、具合はいいのか?」

さっきまでの経緯上、ちょっと顔がまともに見られない。
彼女も、何やら目を合わそうとしない。

なんか、気まずいな・・・


「あ。俺は哨戒計画の詰め。隊長と、趙少尉と、李少尉とでしてくるわ。んじゃ。」

圭介・・・ 逃げやがった。 お前、絶対コロス・・・



「あ、あの。さっきは・・・ 有難う。」

「ん?」

「引き止めてくれて。
それに、鎮静処置・・・ 貴方が指示したって、さっき衛生兵が・・・
私、良く覚えてなくって・・・」


「あ、あぁ。 でも、誰でも、あの状況じゃ、そうするさ。 気にするなよ。」

「ん・・・」

「あ~・・・」

「夜間警戒・・・」

「あ?」

「夜間警戒任務。 作戦期間中、貴方と私の二人で、責任持ってやれって。 さっき、上尉から・・・」

「ああ。俺も言われた。 すっげぇ、怒鳴られた後に。あはは・・・」

「・・・っ! ごめんなさいっ!」

「へっ!?」

「私が原因なのに。 それなのに、貴方が叱責されて。 ごめんなさい・・・」

「あ~・・・ 気を使う事無いぞ? 早いか、遅いかの違いだったし?」

「えっ?」

「いや。 あの後、俺もキレちまった。 
ま、長老は最後折れてくれたけど。
それって、お前のあの言葉が有っての事だし。
俺が上尉に叱責されたのは、自業自得。気にするなよ?」

・・・・あれ? 急に黙りこくったぞ? 俺、何か不味い事言ったか?

「・・・・夜間警戒、頑張るから。 ちゃんと、するから。」

「お、おう。」


そう言って、蒋少尉は背を向け、歩き去ろうとした。

「・・・・」

「あのね。」

「ん?」

「君の事。 本当に好きになったみたい。 私。」









「・・・・・はい?」

歩き去った蒋少尉の言葉が、頭の中でエコーし続けていた・・・


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