<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7678] 北満洲編21話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/20 00:32

ハルビンは、北満洲最大の都市である。 同時に、統合軍の大規模な基地が存在する『要塞都市』でもある。
対BETA戦における、北満洲の最重要拠点だった。

1年前に比べて、当時の第1、第2防衛線すら失った人類にとって。 ここを守り通す事が、ユーラシア北東部における戦況を左右する。

満洲方面軍が今年1月の大損失で、兵力の50%を失った結果。 まず中国が反応した。
それまで、北京軍管区を中心として、華北に集中させていた精鋭軍団のいくつかを、満洲に投入した。
同時に戦略予備部隊で、損失の穴を埋めていた。 集中された兵力は、従前の規模を上回っていた。

最も、これには訳が有る。

『双極』作戦における最終局面での、S-11弾頭弾の集中投入。 共同各国軍への通知さえ無しに行われた、殲滅戦。
これにより、多くの自国軍の損害を出した日本、韓国両政府が激怒した。
国連とソ連もまた、その損害に見合った圧力を、国連臨時総会・国連常任理事会の場で、中国にかけたのだ。

これにより、満洲防衛戦力の過半を、中国は負担せざるを得なくなった。 それに伴う費用も。


日韓両国も、対岸の火事では無くなった。

満洲と地続きの韓国政府は、昨年末に策定した本土防衛要綱の見直しを、急遽発表。
その姿勢を『防御』防衛から、『攻勢防御』防衛へと転換すると、大統領自らが表明。 派遣戦力の増大を行った。

日本も、ようやくの事で『大陸防衛』こそが、帝国『本土防衛』の要で有る事を、帝国議会の一部勢力が主張し始めた。
最もこれには、西日本の防衛力強化を最優先したい国防省。 
常に国防省・国防軍との、予算の奪い合いをしている城内省・斯衛軍。
そして、これ以上大陸での日本の影響力が増大することを望まない、米国の意を受けた議会の一部勢力。
更には、国粋復古主義とも言える、古い体質をそのままに。 今以上の大陸での権益拡大を望む、一部財閥系と結びついた支配層。
若く純粋であるが故に、大陸の救援をと。 より一層の派兵を望む、軍若手・中堅将校団。 
彼等に付かず離れず、更には政財界との密着も見え隠れする、軍上層部。


様々な思惑が入り乱れ、遅々として進まなかったが。 ここにきてようやく、増加派兵6個師団、支援独立旅団9個の投入を、3月10日に閣議決定。
(1993年当時の日本の全師団(戦術機甲、機甲、機械化歩兵、軽歩兵の各師団)数は、56個師団だった)

3月15日、政威大将軍裁可。 3月25日、皇主(皇帝)御名勅裁。

4月1日、正式発表。 先遣隊先発。


ハルビン、大慶、チチハルを新たな主防衛線として、北東アジアの対BETA防衛線が再構築された。










1993年5月12日 1630 ハルビン基地・南東部演習区域SE-022


「反応が遅いッ! B03! いちいち狙って撃つなッ! 『撃った場所に的が来る』様に機動しろッ!」

『は、はいッ!』

3機の92式「疾風」が演習区域の荒野を疾走する。 いや、2機と1機に分かれて、猛烈な勢いで高機動戦を展開していた。

≪B02≫とマーキングされた「疾風」が、地表面噴射滑走から、一気に噴射跳躍をかける。
その機動につられた≪B04≫が、同時に噴射跳躍。 もう1機の≪B03≫が、≪B02≫の着地予想地点へ突撃砲の砲口を向ける。

しかし、≪B02≫は跳躍の途中で跳躍ユニットをカット。 その推力を肩部と腰部スラスターに一気にトレードし、中空で急速横転降下をかける。
一瞬、≪B02≫を見失った≪B04≫を無視し、すかさず噴射降下でパワーダイブをかけた≪B02≫が、動きの止まった≪B03≫に急迫する。

『~~~ッ!!』

「・・・遅い」

≪B02≫がパワーダイブで着地寸前、逆噴射と垂直軸旋回で被弾面積を最小にさせつつ、≪何もない≫空間へ向けて36mmを撃ち込む。

『きッ、きゃあぁぁ!』

だがその弾幕は、圧力をかけてくる相手から、後方へ距離を取ろうとして噴射後進した≪B03≫を絡め取っていた。


『ひッ!』

噴射跳躍の頂点が過ぎ、自由落下状態だった≪B04≫の衛士が、その情景を目撃し、息を飲む。

「お前は! 何を悠長に跳んでいるんだッ!」

その落下予測地点へ向け、120mmを纏めて放つ。 着地までに3発の120mmが、≪B04≫の機体に着弾する。

『うッ! くぅぅぅ!!』

衝撃に思わず苦悶する、≪B04≫の衛士。


≪CPよりB02、B03、B04。 状況、B03・管制部大破。 キル。 B04・動力部、管制部大破。 キル。 B02・ノーダメージ。 状況終了。 RTB≫

『・・・B03、了解です』 『び、B04、了解しました』

「B02、了解。 ・・・お前ら! 何、チンタラしてやがるッ! 帰路に追撃戦演習を加えて欲しいのかッ!? フォーメーション・デルタ! 急げッ!」

『ひッ!』 『す、すみませんッ!』


再び、3機が三角形を描く陣形を作り、NOEで基地へと向かって行った。


(演習開始から、8時間超過。 今日は吐いた回数が、2人とも2回か・・・ 被撃墜は5回と6回。 まぁ、合格かな?)

≪B02≫の機体を駆る衛士・周防直衛少尉は、左右後方でやや、ふらつきながらも追従してくる2機を見やって、内心で呟いた。

基地のランウェイが見えてきた。 今日の訓練はこれで終了だった。 他の2機の衛士は、さぞホッとしている事だろう。 だが―――

「お前ら。 確実に定点着地決めろよ? ちょっとでもズレた着地しやがったら・・・ 判っているだろうな?」

『ッ! り、了解!』 『は、はいッ!』


2人共、泣きそうな顔で応答していた。






≪ハルビン基地 1755 第2大隊・衛士ブリーフィングルーム 周防直衛少尉≫


「・・・と、言う訳だ。 2人とも、俺が昨日教えた事、もう忘れたのか? その耳は、飾り物か? その頭の中は豆腐か、おが屑か? ああ!?」

「い、いえ!」 「お、覚えています!」

「だったら何故、やらないッ!!」

俺が雷を落とすと、2人が、びくっ、と肩を震わせる。

訓練終了後の、デブリーフィングを行っていた。
教官役の俺が、新任の2人を相手に、今日の演習内容のチェックをしているのだ。
・・・しかし。 面白い位に、正直に反応するな? こいつら・・・


「まず、美園! お前、あれほど機動を止めるな、って何度も言っただろうが! 突撃前衛が止まっててどうする! 突撃級相手に、押し相撲でもする気か!?」

「い、いえ!」

「それから! いちいち、じっくり照準して射撃する暇は、前衛には無いぞ? これも言ったな!? 
なのに何だ? 今日の『あれ』は!? 俺が跳んでから、一体何秒時間が有った? お前はそのアドヴァンテージを、ボケーっと無駄にしていただけだッ!!」

「ッ・・・!!」

悔しそうに、唇を噛んでいる。 お~お~、おまけに俺を睨みつけているよ。 よっぽど悔しかったか。 
よしよし。 突撃前衛なんだ、これ位の負けん気の強さでないとな。

さて、お次は・・・


「仁科? お前はこの満洲に、遊覧飛行でも、楽しみに来たのかな? 誠に良い御身分だ」

わざと、にっこりと笑顔を作って言ってやる。

「い、いえ! 違いますッ!」

「ほお~ぉ? 俺はてっきり、物見湯山の遊覧観光旅行かと、思っていたぞ?」

「ち、違いますッ・・・!!」

こちらもこちらで、必死になって抗弁しようとしている。 ま、そんな隙は、あげないけどね。

「・・・だったら! 目標をロストした後でチンタラ、チンタラ、自由落下なんぞやってんじゃねぇ!! 
言っただろうが! 接近戦の最中に要撃級なんかの高速旋回機動で、BETAを一瞬ロストした時の対処法を! 
いちいち眼で追うんじゃねえッ! 兎に角動けッ! 死にたいのかッ! この馬鹿ッ!!!」

「くッ・・・!!」

おお? こっちもなかなか・・・ 初めて怒鳴りつけた時は、本気で大泣きされて、逆に焦ったもんなぁ。
うん、こいつも伸びて来ているよ。 よしよし。


「今日は演習時間を延長して、8時間通しでやったが。 感想は? 美園? 仁科?」

「・・・正直、死んだ方がマシ、って気分です・・・」
「もう、死にそうです・・・」

・・・ふぅ、眼が死んでるよ? こいつら。 まぁ、無理もないか。 初めての長時間実機演習だったしな。
俺も去年、これを初めてやらされた時は、本気で死ぬかと思った・・・
だもので、去年言われた経験のある「恒例の台詞」を言ってあげよう。

「そうか。 死んだ方がマシ、か。 じゃ、喜べ。 明日も、明後日も、同じ内容だ。
よし、本日の講評これで終わり! 解散!」


絶望したような表情で、2人の新任がブリーフィングルームを出て行く。
入れ替わりに、見知った顔が入って来た。

「直衛。 えらく可愛がっているな? あいつらの顔、まるで去年のお前だ」

そう言って、圭介がにやにやと笑う。

「まぁ、ウチの安芸も、似たようなものだが・・・ 流石に、内心やり難いものが有るな」

苦笑しつつ、緋色が俺の前に座る。

3中隊の突撃前衛(ストームバンガード)小隊No.2、三人衆。 大隊の新任達が、影で名付けた『鬼サディスト』達だ。
全く失礼な命名だ。 こんなに後任の事を思いやっている先任に対して、なんて命名だ。
ってな事をこの前、メシ時に言ったら。 他の同期連中に呆れられた。

『嬉々として、鬼教官の役を演じている奴等が、何を言うか』だと。

ふん、自分達だって、ここぞとばかりに、楽しんで演じているじゃねぇか。
基本的に優等生の永野や、本来穏やかな古村でさえ、夜叉か、鬼女か、って感じだぞ?
久賀は持ち上げて叩き落とすし。 愛姫なんか、始終笑顔で、鬼のような訓練内容を告げて、実施する。


「ま・・・ ね。 この『特訓』も、じきに終わりだ。 新任達が『生きていた方がマシ』って、言えるようになったらな」

「経験上、あと1週間ぐらいか・・・」

「いや、長門。 思ったより錬度の向上が早いぞ? それに意気地もある。 4、5日もあれば、達成できるのではないか? どう思う、周防?」

「う~~ん、そうだな・・・ 各A、C小隊の進捗確認しないと、正確な事言えないけど。 全体的に優秀だよな、今年の新任連中。 
最短で4日。 まあ、6日も有れば、いけるんじゃないかな?」


そうだな。 と、俺の感想に圭介も緋色も同意する。

こっちだって、好きで扱いている訳じゃないんだけどね。
実際問題。 大規模防衛線なんかじゃ、1日10時間以上の連続戦闘(補給はするぜ?)はあり得る訳で。
俺達も去年の5月や、今年の1月には、それ以上の過酷な戦闘をやらざるを得なかった。

そんな時、『死んだ方がマシ』だなんて思ってたら。 一瞬で戦死だ。
訓練校を卒業したばかりのあいつらを、そうそう、九段の桜にはしてやれない。

・・・最も。 偉そうに言っているけど。 俺だって去年、それを実感したのは『5月の狂乱』が終結してからだけどね。
扱きまくってくれた当時の先任、木伏中尉と水嶋中尉を、どれほど恨んだ事か。


「・・・・ま、あいつらが判ってくれる事を、祈ろうや」
「そうだな。 実感するしか、無いもんな」
「心苦しいが、新任達の為では有るのだからな・・・」


「俺達が『鬼』をやる代わりに。 B卒の連中が『仏』をやってくれてるさ」

役割分担は、ちゃんとしている。 俺達が扱いて。 半期後任達が、しっかりフォローしてやる。
丁度去年、2期先任に扱かれまくった俺達を、1期先任がフォローしてくれたように。
じゃないと、新任が潰れてしまう。


「さて。 そろそろ晩飯か。 流石に腹が減ったよ。 あいつ等、いくら振り回しても、結構、くっ付いて来るんだもんなぁ・・・」

「22中隊の二人が案外、一番負けん気強かったな」

「直衛の高速機動に、曲がりなりにも付いて行くのだ。 楽しみじゃないか?」


そんな感想を言い合いながら、3人でPXへ向かって部屋を出た。











≪ハルビン基地 1805 PX≫


≪綾森祥子中尉≫

「鬼よッ! 鬼ッ! 血の通ってない、冷血の悪魔よッ! 絶対にぃぃ!!」

夕食時のPX。 反対側のテーブルから、悲鳴のような声が聞こえる。
・・・はぁ。 あの娘。 実は、私の部下なのよね。

「・・・も、死んだ・・・ いっそ、殺して・・・」

こっちはこっちで、テーブルに突っ伏しているわ・・・
この娘も、私の部下・・・ って事は。 直衛、貴方、どこまでやったのよ?

今行っている『特訓期間』は、大隊長の命令だけど。 基本的に先任少尉達が、新任少尉達を教導する、とされている。
だもので、私達小隊長は、行き過ぎが無いかを確認するだけだ。 今のところ、喚き散らす元気が有るのだから、大丈夫でしょう。

でもまぁ。 何しろ昨年、『あの広江大尉』の扱きを耐えきった、ある意味で猛者達が、今の大隊の中核なのだ。
新任少尉達も、災難だったわね? よっぽどBETAとの戦いの方が、楽に思えるわよ? 状況限定で、ですけど・・・


「周防少尉って・・・ 最初は優しそうだったけど。 本当は鬼よね・・・」
「何時、怒鳴り声落とされるか、わかんない・・・」

「長門少尉だって。 にこにこ笑って、平気で鬼のような訓練開始するよ・・・」
「鬼だよ、悪魔だよ、羅刹だよ、あの人・・・」

「神楽少尉は、一瞬でも気が抜けないのよぉ~~・・・」


あらら・・・ 各中隊の、B(第2)小隊の新任の面々ね。
直衛の怒鳴り声か・・・ 聞いた事無いから、新鮮かも。
長門君は・・・ 目に浮かぶわ、嬉々として扱きまくっている様が。
神楽は・・・ 彼女は普段通りにしているのでしょうけど。 やっぱりあの雰囲気は、新任には厳しいわねぇ・・・

なんて考えていたら。 部下に見つかってしまった。


「あ! 小隊長! 綾森中尉! 聞いて下さい!!」

私の部下。 第22中隊第2(B)小隊の新任・美園 杏(みその あん)少尉が、突撃級並の突進でやってくる。

「美園、騒がしいわよ? 落ち着きなさい」

「好きで、騒いでいる訳じゃありません・・・」

げんなりした顔で言うのは、やはり部下の仁科 葉月(にしな はづき)少尉だ。
ふぅ・・・


「で? 何を聞けばいいのかしら?」

大体、予想はつくけど、ね・・・
美園が憤懣やるかたない、と言った表情で話し始める。

「・・・訓練の事です! 確かに、私達は訓練校卒業したばかりの新任でっ 腕もまだまだ未熟ですっ! 
今日の訓練でも! 昨日、周防少尉から受けたレクチャーを失念しましたッ!
その失敗に、叱責されるのは、当然だと思いますッ こちらのミスですからッ!
でも! それでも、少しでも先任達に近づこうと、この1か月、必死にやってきました!
でもッ・・・!」

「でも?」

言葉に詰まった美園の後を継いで、仁科が喋り出す。

「周防少尉も、長門少尉も・・・ 神楽少尉も、他の教導の先任達も。 兎に角、口に出す事は、否定する事ばかりです。
私達のやっている事、やって来た事、やろうとしている事・・・
何がいけないのか、何が悪いのか・・・ 何をすればいいのか・・・ もう・・・」

かなり、参って来ているわね・・・

「甘えとか、楽したいとか。 そんなんじゃ、決してありません! 私達だって、訓練校でそう言う事は、叩き込まれています!
でも! 見えないんです、出口が! 一体、何を、どうすればッ 先任達が期待する結果を出せるのかッ!
私達だって、答えたいんですッ 答え・・・たいんですッ・・・」

あらら・・・ 泣き出しちゃったわ。 
ふぅ。 私にも経験が有る事ね。 勿論、去年の直衛達も。 最も、去年の新任達は、『神経がワイヤーロープか』って、木伏中尉が言った程だったけど・・・


「・・・ひとつ、言っておくわ」

手に持ったお茶を置いて、彼女達を見据える。
ああ、もう。 折角の食事なのにな・・・

2人とも目を真っ赤にして。 鼻を啜りながら、私を見る。 うん。 良い目よ、2人とも。 目の色、死んでいないわ。

「私達の戦う相手は、何?」

「・・・BETAです」

美園が、訝しげに答える。

「そうね、BETAよ。 そしてBETAは、私達・・・ いえ、地球の生命体の『常識』は通用しない。
常に圧倒的な物量と、予測不可能な行動で向かってくる。 じゃあ、それに対処するためには? それと戦う為には? どうするの?」

「そ、それは・・・」

流石にそうそう、この答えは出ないわね。 案の定、仁科が口ごもっているわね。

「・・・すみません、小隊長。 判りません・・・」

美園が、途方に暮れている。

ここで言っていいかな? 良いわよね、直衛? 本来なら、貴方達が言っておくべき事よ?

「答えは・・・ 無いの」

「「 ・・・え? 」」

見事に、同じ表情するわねぇ 本当に、気が合っているわね、貴女達。

「だって・・・ BETAの考えなんて、解らないもの。 そうでしょ?」

「で、ですが、小隊長・・・ じゃ、じゃ、どうやって戦えば・・・」

「諦めない事。 最後まで、足掻き続ける事。 どんな事が有っても、戦い続ける事」

ちょっと、判り難いかしら? でも、私だって、『どうやって戦えばいいか』なんて答え、持ってないわよ?
だから。 これだけは、言ってあげる。 教えてあげる。

「先任達も。 具体的に、どう言う事をやれ、とは言っていないのよ。
貴女達のやっている事、やって来た事、やろうとしている事。 それは実は、先任達にとって、どうでもいい事。
その行動に、貴女達が責任さえ自覚すれば。 彼らだって、その場その場の『最良』は、判らないわ」

頭の中が、混乱している様ね。 じゃ、最後のダメ押しね?

「貴女達。 さっき、『死んだ方がマシ』とか、騒いでいたわね?」

「あ・・・ はい。 つい・・・」

「その言葉が出る限り、先任達の態度は、変わらないわ」

「「 えっ? 」」

「私からのヒントは、これでお終い。 さ、食事が終わったのなら、もう早く休みなさい。
取れる時に休むのも、衛士の仕事よ?」




唖然とする新任達を置いて、PXを出る。 途端に、苦虫を潰したような顔に捕まった。

「・・・中尉殿? あまり、種明かしは、遠慮してくれませんかね?」

「・・・何よ、この言葉足らず。 折角、フォローしてあげたのに」

直衛だった。 近くに長門少尉と、神楽少尉も居る。 食事に行く途中だったのかしら?


「はぁ・・・ まぁ、直に判ると踏んでいたんですよ」

「ヒントぐらい、教えてあげたら?」

「俺。去年ヒントは教えて貰ってませんよ?」

あらら、拗ねちゃった。
でも。 私、教えてなかったかしら?
ちょっと剝れた直衛の髪をいじる。 そして―――

「あの娘達が、『生きていた方が、よほど良い』って、そう、言わせたいんでしょ?」

「当然です」

ああ、もう。 そんなに拗ねないでよ。


判る? 美園、仁科。 私達は、貴女達に。 『生きたい』って、どんな時にも思えるように。
生き抜く為に、どんな時でも足掻き続けるように、なって欲しいのよ。
ただ、それだけよ・・・








1993年5月17日 1600 ハルビン基地・南東部演習区域SE-022


既に演習開始から、8時間近い。 流石にこうも連日じゃ、クタクタだ。
おまけに俺は常に単機。 相手は常に2機。 
あ~も~! いい加減、ぶっ倒れそう。


「くそっ! しつこい!」

美園機の牽制に上手く合わせて、仁科機が突っ込んでくる。
短距離噴射跳躍のフェイントで交わして、逆に美園機に肉薄し、36mmを短く2連射。
あ、かわしやがったなっ! 
げっ! 仁科機が垂直軸反転でこっちに急速接近している。 かなり無理な姿勢制御をやらかしたか。 バランスが崩れかけだ。

『今度こそぉぉぉ!!!』

美園機が片手で36mmの弾幕を張りながら、片手に長刀を構えて突っ込んでくる!
咄嗟に逆噴射跳躍で美園機から距離をとる。 同時に仁科機に牽制射撃。
くそっ! 美園機を振り切れないっ! こいつ! 全く機動が止まらないじゃないかっ!
前方から美園機・・・ えっ!? 

『いやあぁぁ!!』

仁科機が背後? シザース!? 何時の間に! 後進噴射跳躍をかける。
今度は仁科機が、同時に噴射跳躍で急接近してくる。 ちっ、バランスが崩れるのを覚悟で、カウンター気味に長刀を振り下ろす。
が、仁科機は直前で跳躍ユニットの推力をカット、軸回転機動に変えやがった! 長刀が空振りして、完全にバランスを崩す。

「くっそ!」

『もらったぁ!』 『そこぉ!』

同時に両機から36mmが吐き出される。 俺の機体はその弾幕にまともに突っ込み、見るも無残にペイントだらけにされた。


≪CPより、B02、B03、B04。 状況、B02『完全破壊』 B03、B04、小破。 状況終了。 RTB!≫


『やっ・・・ やったぁぁぁ!!』
『勝った! 勝ったよ!!』

2人が騒ぎまくっている。

「・・・お前ら、1回勝った位で、大騒ぎするなよ・・・」

『でも! 初めて勝ったんですよ!』
『そうですよっ! 後任の成長を、素直に喜んでくださいよっ!』

「へいへい・・・ んじゃ、帰るぞ? B02、RTB、了解」

『B03! 了解!』
『B04! 了解です! やったぁぁ!』



今日はあいつら、1回も吐かなかった。 どれだけぶん回しても、歯をくいしばって、食らいついてきた。 
被撃墜が、3回づつしか取れなかった。 5日前は、倍は取っていたのに。 それと・・・ どんな状況でも、諦めなかった。
だもんで、とうとう後任に初黒星となってしまった・・・ ま、嬉しいんだけどね。


『周防少尉? 何ニヤケているんですか?』
『・・・ちょっと、不気味です・・・』

「・・・美園、純粋に『後任の成長』を、喜んでやっているんだぞ?
それと仁科。 お前、基地についたら、腕立て伏せ200回の刑な?」

『非道ですよ! 杏だけ、贔屓ですよっ! それって!』

仁科が剝れている。 

こいつら、判ったようだな?


「おい、美園、仁科。 まだ、『死んだ方がマシ』か?」

最後の試験だ。 応えろよ? 2人とも・・・

『い~えっ! 生き残って、また周防少尉に悔し顔、させてみせますっ!』
『そうそう! 生き残って、今度はコテンパンにしちゃいますっ!』

あ、あのな、お前ら・・・ これでも俺、25回以上の実戦出撃経験者なんだぞ?
ピヨピヨのヒヨっ子のお前達に。 次は早々、やられないっての・・・

「ふん、生意気言いやがって。 そうだ。 どんな時でも諦めるな。 足掻いて、足掻いて、足掻き抜いて、生き抜け。 いいな?」

『『 はいっ! 』』


へっ 良い顔してるよ、2人とも。

それにしても。 はぁ・・・ やっと終わった。 疲れたぁ~・・・


『周防少尉! ふらついてますよ!』
『定点着地、失敗したら・・・ 判ってますよねぇ?』

「だぁ! 生意気なっ! 見てろっ!」


ここで、ドジ踏む訳にいかないな。 普段の倍、集中してランウェイを見据える。
新任達は、最初の段階を超した。 色々と気を揉ませやがったけど、皆、無事に。

次は・・・ いや、今はやめておこう。 その時は、全力で戦え。 今の言葉を胸にして、な。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.032258033752441