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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編20話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/19 23:48
1993年5月3日 1900 黒竜江省 ハルビン 中華料理店「麗月楼」


「え~、それでは! 只今より! 新生・第2大隊所属、衛士訓練校・第18期A(前期卒)、B(後期卒)、合同同期会を開宴しまぁす!
なお、司会・幹事は不肖・ワタクシ、第23中隊の伊達愛姫が、させていただきまぁす!!」

「挨拶はもういい!」 「さっさと飲ませろぉ!」 「おなか減ったぁ!」

愛姫の挨拶に、皆からブーイング?の嵐。

「ええい! この ≪胃袋級BETA≫ 共めッ! それではっ! かんぱ~~いッ!」
「乾杯!」 「乾~杯!」 「かんぱ~い!」


皆思い思いに、料理に手を伸ばし、酒を注いで飲み干す。
雑談に華が咲く。 お互いの訓練校の話。 今までの出来事。 あれや、これや。
お互い同じ少尉同士。 同期や、半年違いの先任・後任。 同じ大隊。 同じ地獄を覗いて、生還した仲間達。

「小姐! 料理追加!」 「こっち、紹興酒、頂戴!」 「そんなのジュースだろ! 老酒追加!」

皆、普段の粗食?の憂さを晴らさんかのように、ハイペースで料理を、酒を注文する。


「あらあら。 えらく豪気ねぇ、みんな。 でも、ツケは無しよ?」

料理を運んできた、女主人が呆れている。

「だぁ~いじょ~ぶ! 何しろ皆、俸給の使い道、無かったからね!」
「去年の年末賞与も、丸々残ってるもんなぁ・・・」
「まぁ、基地じゃ使い道無いし」

少尉の俸給(※1)・月俸850円 戦地加俸・月額380円 部隊加俸・月額125円 衛士加俸・月額720円 合計月額2,075円也(注:旧円)

師範学校卒の、小学校教師の初任給が、月額720円
高専卒会社員の初任給が月額680円 大卒会社員の初任給で880円 
帝大卒のエリート会社員(財閥系)初任給が1050円
庶民の一般家庭の平均月収が、1500円程の、このご時世。

俺達、20歳前の衛士訓練校卒の若造少尉としては、結構な高給取りだ。

でも、昨年秋頃からのBETAの波状大侵攻と、今年1月の『双極』作戦(『列』号、又は『チィタデレ』作戦)と、立て続いた結果。
俸給なんて使っている暇なんか無かったのだ。 多くの者は使うまでも無く、死んでいった。


「だからぁ~~! ここで俸給、ぜぇ~~~んぶ! 使っちゃうぞぉ!!」
「愛姫ぃ、それは無理なんじゃなぁい?」
「・・・いや、伊達なら・・・」

皆、かなり酔いも回って来たようだ。


皆判っているのだ。 これは、久々の同期生同士の集まりで、慰霊の宴なのだと。
多くの仲間が死んだ。 同期生も、多くが戦死した。 だけど、俺達は生きている。

だから

これからも生き抜くために。 死んでいった連中を、語り続ける為に。 

こうやって、刹那でもいい。 前を向いて騒ぐ。 死神に舌を出して、出し抜いてやるために。



「ところでさ。 皆、中隊の方は何とかなりそう?」

愛姫が顔を真っ赤にしている。 こいつは、酒が弱いくせに、飲みたがるからな・・・

「23中隊は、実戦経験者が比較的多い。他の中隊よりは錬度の向上は早かろう。
寧ろ、21と22中隊の方が問題では無いか? どうだ、周防、長門?」

酒豪で、顔色も全く変わらない緋色が、豪快に酒を飲み干して話を振ってくる。

「そうだな。 ウチの21中隊は広江少佐の直率中隊だし、実戦経験者7名だからな。
新任共も、少佐の扱きに耐え抜けば、結構早いうちに戦力になるんじゃないか? なぁ? 古村?」

21中隊に転出した圭介が、ビール瓶をラッパ飲みで同じ中隊の同期・古村 杏子(こむらきょうこ)少尉に問いかける。

「耐えれば、ね・・・ 正直、私も少佐の扱きには、悲鳴上げそうよ」

古村が、思い出してうんざりした顔をする。 

「大丈夫だろ。 年末年始の乱痴気騒ぎに比べれば・・・ 直衛、お前の所の22中隊は?」


老酒をちびちび飲りながら、考える。 ウチの中隊ねぇ・・・

「どうだろうな。 正直、ウチの22中隊が、一番戦力的に低いだろうな・・・」

判っていた事だ。 何せ、大隊の3個中隊のなかで、実戦経験者が最も少ないのが、俺が新たに配属された22中隊だ。

「やるしかないじゃない。 新任達の戦力を上げるしか、生き残る道は無いんでしょう?」

横から同じ中隊の同期・永野 蓉子(ながの ようこ)少尉が口を挟む。 こちらも酒で顔が真っ赤だ。
永野とは去年の12月、大侵攻を確認した哨戒任務で一緒に行動した。
そう言えば。 こいつは、あの時に同期の恋人を、死なせていたんだよな・・・

「そうそう。 おい、周防。 俺達の訓練方針 ≪スパルタ≫ を決定したの、貴様だぞ?」

新たに23中隊に転属してきた同期・久賀 直人(くが なおと)少尉だ。
ま、そうなんだが。

「・・・方針は変えない。 大隊長や、中隊長から変更指示が出ない限りな。
猛訓練で恨まれる方が、実戦で死なれるより、万倍もマシだしな」

同期達が、頷く。
俺、圭介、愛姫、緋色の旧23中隊組に、同期の永野、古村、久賀の3人が、新たに第2大隊に編入された。


「でも、周防さん。 限界も有りますよ。 俺らはある程度、自分で把握していますけど・・・」

23中隊の佐野 慎吾(さの しんご)少尉だ。 同じ18期でも、入校も卒業も半年遅れのB(後期)卒。

「変に我慢し続けて、壊れたりしたら、大変ですよぉ~・・・」

21中隊の18期B卒、伊崎 真澄(いざき ますみ)少尉も、グラスを目の前で振りながら、嘆息する。
う~ん。 そうなんだよな。 こいつらの言う事も、確かなんだよなぁ。
その時、緋色が淡々と口を開いた。

「いや。 寧ろ限界を見て貰う。 でないと、実際の戦場でどこまで戦えるか、判らん」

「・・・・後任達が、潰れても良い、と・・・?」

緋色の断言に、冷ややかな声が応じる。 俺の22中隊のB卒、間宮 怜(まみや れい)少尉だった。
緋色の目が据わっている。

「そうは言っておらぬ。 しかしな、間宮。 貴様も見てきた筈だ。 戦場で気力と体力が尽きて、BETAに喰い殺された戦友達を。
諦めてしまって、生を放棄してしまった戦友達を。 貴様、後任達を、あのような目に合せても良いと言うのか?」

「そんな事は言っていないッ! 私は・・・ッ!」

「ま、まあまあまあ! 二人とも!」 「落ち着いて、怜。 落ち着いて!」  「・・・神楽さんも、間宮も、酔っ払い・・・」

23中隊のB卒、守山 和彦(もりやま かずひこ)少尉に、相原 優子(あいはら ゆうこ)少尉。 21中隊のB卒、有馬 奈緒(ありま なお)少尉が仲裁?に入る。


「まぁ、緋色の言う事も、間宮の言う事も、判る。 その辺の匙加減だよな? 難しいのは」

「薬と一緒ね。 適量なら効果が有るけど、少量だと効果が出ないし。 過剰だと劇薬にもなるわ」

圭介と永野が、酒を飲みながら顔をしかめる。


その時。 先ほどから敢然と、目の前の大皿に戦いを挑み続けていた愛姫が、長箸を振り回しながら喋り始めた。

「ん・・・ ほんなの・・・ 気にひひゃ、らめらめ。 ろうせ、むひゃなら、らいちょうらちが、ほめにふぁいるよ」

おい、愛姫・・・

「伊達~~・・・ せめて口の中、飲み込んでから喋れよ・・・」

久賀が呆れている。

「愛姫さぁん、お行儀悪いよ・・・」 「うん・・・」

伊崎と相原も。

「はぁ・・・ こやつは、全く・・・」 「・・・・・・」

剣呑だった緋色と間宮も、毒気を抜かれているな・・・


「んぐっ・・・ 兎に角! うだうだ考えない! あたし達の訓練方針は、決定しているんだから!
修正が必要なら、隊長達から何か言ってくるって! その為に俸給貰っているんだもん!
そうでしょ!? 大隊最先任少尉!?」

「・・・・御尤も・・・・」

愛姫の迫力に押されて、俺も何も言えない。


「おいおいおい~~、情けない声出すなよぉ 『最先任少尉』殿?」 久賀が。
「そうそう。 しゃっきりしなさいよぉ? 『最先任少尉』?」 古村が。
「そんな事では、後任が不安がるぞ? 『最先任少尉』殿」 緋色が。
「しっかりしてよね? 『最先任少尉』なんだから・・・」 永野が。

「お・・・ お前ら、ここぞとばかりに・・・ おい! 圭介! 何とか言ってやってくれよッ!」

「差し出がましい口は、挟めないであります。 『大隊最先任少尉』殿」

「んぐっ・・・」

「わはははっ」 「くくくく・・・」 「あはは!」 「ふふ・・・」

畜生。 B卒の後任達も、遊んでやがる・・・
はぁ、しょうがねぇな・・・


「よぉしっ! 皆! 色々考える所は有るだろうけど! 兎に角! 俺達の仕事は、実戦を知らない新任達を、1分1秒でも長く生かす事だっ!
俺達の経験した地獄を、連中に伝える事だっ! 手を抜くなっ! 恨まれても良い! 
だけど、厳しさと無理を違えるなよ?」

「「「「「「 おう!! 」」」」」」

「んじゃ! 新生第2大隊の勝利に!」

「「「「「「 勝利に! 」」」」」」


カシャーン!!

グラスと杯を合わせる音が響いた。






≪2130 ハルビン基地近辺≫


店を出たのが、30分前。 ここまで普通なら、10分そこそこなのだが・・・


「うう~~~・・・・・」

間宮がベンチで延びている。 完全に、酔っ払いだ。
どうしてこんな事に。 途中までは意識もしっかりしていたんだけどなぁ・・・

「周防。 はい、お水」 「おう。 サンキュ」

永野が近くにあった露店で、ミネラルウォーターのペットボトルを買ってきてくれた。

「どう?」

「ダメ。 ダウンしてる。 おい、間宮。 目ぇ覚ませ。 兎に角、水飲めよ」

ペットボトルを間宮の口に持って行く。

「いらなぁ~い・・・ きもちわるいぃ~・・・」

「いらない、じゃねぇよ。 ほれ、口開けろ。 飲め」

「ん・・・ うぐ・・・ んぐ・・・」

「ちょ、ちょっと・・・ あんまり無理には・・・」

「血ゲロ吐くより、マシだろ? ほら、間宮! もっと飲めって・・・」

もう無理やり、水を飲ます。 こいつは、何考えて飲んでるんだよ。
後方休養地じゃないんだ。 後に残るような飲み方、するんじゃねぇよ、全く・・・

「よぉ~し、飲んだな? んじゃ、吐けっ!」

背後から間宮の口に、無理やり指を突っ込む。 同時に片手で、胃の辺りを押し上げる。

「げぇっ! うええぇぇぇ!」 「ちょ、ちょっと! 周防!」

盛大に吐き出す間宮。 それを見て慌てる永野。
しょうがないじゃないか。 このまま胃に残していたら、こいつ絶対、寝ゲロだぞ?
下手すりゃ、そのまま気管に詰まることだって有るんだ。


「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」

すっかり吐き切った間宮の口元を、永野が水で洗い流してやっている。
俺と言えば、追加でペットボトルを数本買い求めて、吐いた物を排水溝に流していた。

「兎に角、私は隊に連絡入れてくるわ。 2200までには戻れるでしょうけど、事情話して当直交代しないと」

「え? 間宮って、今日は夜間当直だったか?」

「ええ。 私が明日だから。 今日は私が代わりに入るわ。 間宮に言っておいて。 あと、時間無いから私は先に行くけど。 彼女、お願いね」

「了解」

永野が腕に嵌めた軍用時計で時間を気にしながら、走り去っていく。

さて、どうしたものかね? こいつはまだ、動けそうにないし。
他の中隊の連中は、当直以外は裏切って飲みに行きやがったし。 当然、全員が外泊届け出しているんだよな。
俺も、永野もだけど。 無駄になってしまった・・・


「・・・・済みません。 迷惑かけまして・・・」

間宮がぽつりと呟いた。

「お? 現世に帰還したか? で? 気分はどうだ?」

余った水を飲みながら、間宮の顔を覗き込む。 うん、顔色は随分マシだな。

「さっきより・・・ かなり・・・ マシです」

そう言って、起き上がろうとする。 途端に、腰が砕けてへたり込んだ。
膝も笑っているし。 駄目だ、こりゃ・・・

「しゃあねぇ。 おい、俺におぶされ」

ベンチに座らせてから、間宮の前に後ろ向きで膝を突く。

「えっ!? いっ、いえ! 大丈夫ですからっ!」

「・・・・何が大丈夫なもんか。 お前、満足に立てもしない癖に。 いいから、ほら!」

「し、しかし・・・」

「ええい! 先任命令だ! さっさとしろっ!」


不承不承? 俺におんぶされた間宮を背負って、基地への帰路を歩き始めた。
時々、ふらっとする。 くそ、俺も結構、酒が入っているからなぁ。 女の子でも、やっぱきついわ、こう言う時は。


「・・・さっきの話・・・」 「あん?」

さっきの? って、いつの話だ?
あ、ダメだ。 アルコールで頭の中、整理付かないな・・・

「神楽さんと、話してた事です・・・」

ああ、あの件ね。 姿はギャグだけど、愛姫が上手く纏めた。 それがどうかしたのか?

「自分は・・・ やはり、遣り過ぎは良くない、と考えます・・・」

それが、こいつの考えか。 そう言えば、同じ事を言おうとしていたな。

「肉体的にも、精神的にも・・・ 人間には限界があります。 それを無視するなんて・・・」

「確か、お前の同期でいたんだよな? 訓練中に自殺した奴」

「はい・・・」

未だにそう言う事が起こる。 いや、こんな情勢だからこそ、か。
訓練が、訓練生の能力を向上させる為じゃ無く。 教官(士官)や教員・助教(下士官)の個人的恣意で、無茶苦茶に扱かれるって訳だ。
大昔にも有ったそうだ。 そして、BETAとの戦争が始まって、世の中がそれ一色に染まって来た頃から、また始まりだした。

無論、有能で優秀な教官・教員はそんな事はしない。 だけど、そういった人は少数だ。
寧ろ、無能で、無能故に実施部隊で行き場がなくて、教官や教員配置になる場合もある。
そんな馬鹿に当たったら、悲惨だ。 俺も経験が有る。

「でもな、間宮。 緋色の奴は、そんな事は言っていなかったろ? それに、俺も言ったはずだ。 『厳しさと無理を違えるな』って。
道理に沿って厳しくする事と。 道理を無視する事は、別モノだぞ?」

ふぅ、重い・・・ 何て言ったら、殴られるな。 やめておこう。

「それが・・・ 周防さんの方針ですか・・・?」

「俺だけじゃない。 他の同期の連中も同じだ。 あいつら皆、お前と同じような経験しているしな。 俺もだけど。
俺達の前期でも、自殺者が出た。 教員で、大馬鹿な奴がいてな。 全く、何度殺してやろうかって、思った事か・・・」

当時を思い出して、猛烈に腹が立ってきた。 そう言えば。 風の噂ではあの教員、あの後に派遣軍の軽歩兵部隊に転属になったとか。
恐らく、生きてはいないな。 戦場では真っ先に『後ろ弾』喰らうクチだわ。

「じゃ・・・ 信じて、いいん、ですね・・・ もう、あんな、思い、しない、って・・・」

「・・・おう。 戦場で背中預ける仲間だ。 そんな事は絶対にしない・・・ って、おい。 間宮?」

何時の間にか、すー、すー、寝息立てて眠っている。 
良い度胸じゃねぇか。 先任に背負わせておいて。 自分はスヤスヤと、おやすみとは。

何か、良い香りがする。 こいつの香りか? 洗髪料とかは、皆同じなのにな。
そう言えば。 祥子も翠華も。 2人とも別の、良い香りがしていたっけな。

(ヤバい、ヤバい)

そう考えて、慌てて思考を変える。 全く。 間宮は同じ中隊の後任だぞ? 全く・・・
やがて、衛門が見えてきた。 ふぅ、ここまでくれば。 後は新任達の誰かを捕まえて、部屋に放り込むか。
あと少しの辛抱! ちょっとだけ笑い始めた脚に活を入れて、間宮を背負ったまま、衛門をくぐり抜けた。





≪2230 第22中隊 管理事務室≫


「ま、ご苦労だったな」

中隊長・美綴 綾(みつづり あや)大尉が、コーヒー(モドキだ)を淹れてくれる。
以前、119旅団の52中隊(第5大隊第2中隊)で、中隊長をしていた人だ。
第5大隊は殆ど戦力損耗で解隊。 こっちに移って来た。 広江少佐の後輩だと言う。 本土帰還予定だった大尉を、少佐が一本釣りしてきたらしい。
前に一緒に戦った事が有る。 確か、部隊コードは≪ガンスリンガー≫  今の俺達、22中隊の部隊コードでも有る。


宿舎棟で新任(犠牲者)を見つけ、間宮を押し付けた後。 中隊長に捕まり、管理事務室でコーヒーを飲んでいる訳だが。
今いるのは、中隊長と、当直将校の永野少尉、そして俺・周防少尉の3人。

「しかし、何だ? そんなに荒れたのか? 同期会」

コーヒーを飲みながら、美綴大尉が、俺と永野に問いかけてくる。
思わず、永野と顔を見合せ、苦笑する。

「いえ。 そんな訳じゃないですよ。 ・・・まあ、間宮も日頃、思う所が有った、と言う事ですよ」

そんなに、訓練内容に不満が有ったのか? だったら、同じ中隊なんだから、早く俺に意見すれば良かったのに。
それとも、そんなに無理強いするタイプに思われていたのかな? ちょっと、ショックだ。


「まぁ、大隊長の方針だからな。 新任配属の時期に、小隊長達が3週間も不在。 残っているのは、23中隊の先任小隊長2人だけだったしな。
だから訓練は、21中隊と22中隊は、残った先任少尉達が合議の上で、方針を決定する。 各中隊長はそれを確認の上で承認する、と言うやつは」


そうなのだ。 それが、大隊長・広江少佐の決定した方針だった。
今期卒業で、新配属の新任少尉達が着任したのが、4月10日。
そしてその時には、21、22中隊の新小隊長で有る、4人の中尉達――― 21中隊の源雅人中尉、三瀬麻衣子中尉。 22中隊の綾森祥子中尉、和泉紗雪中尉。
この4人は既に4月5日から、本土での初級指揮幕僚課程のカリキュラム受講の為、3週間不在だったのだ。

だもので。 21中隊の圭介と古村、22中隊の俺と永野、23中隊の愛姫と緋色、久賀の7人で協議して、方針を決定した。
無論、半期後任組の6人にも、意見を聞いて、だ。
因みに23中隊は、木伏中尉も水嶋中尉も居たから、2人にも意見を伺った。


(それで、合意したんだけどな・・・)

何か、後任が遠慮するような強引な所が有ったのだろうか? これと言って、思い浮かばないんだけどな・・・

「周防、そんなに思いこむな。 確かに貴様は、大隊の最先任少尉だ。 だからと言って、責任を全て背負いこむ必要は無い。
その為に、各小隊長がいて、私が居るんだ。 貴様は、大隊長や中隊長達が承認した方針を守って訓練をしている。 それの何処がいけないのだ?」

中隊長が、些か呆れたような口調で諭す。

「それに、間宮にしても。 口にしないと、周防もそうだが、他の先任も、判らないな? 
そう言うコミュニケーションは、遠慮は駄目なんだと、後で私から言っておく」

間宮の直属上官である美綴大尉が、フォローしてくれる。
・・・そう言えばこの人。 広江少佐の士官学校後輩って言っていたけど。 少佐とは違った意味で、サバサバした、気さくな人だ。 いい意味で。
悪い意味では? そんな無謀な発言、俺的にはちょっとコワい・・・

「・・・周防も。 頑張るのは良いけど、もっと肩の力、抜きなさいよ。 所詮、私達なんて、未だ2年目少尉なんだしね」

御尤もです、永野少尉。
はぁ~~、全く、俺は・・・


「ちょ~~~っとばかし、過剰過ぎましたかね?」

「何だ? ああ、『大隊最先任少尉』か?」

そう、それ。 何で俺が!? って、最初は絶叫しかけましたともさ。
少なくとも、訓練校卒業時の士官序列では、俺より永野と古村の方が、先任だったんだよなぁ。
だもんで、俺はてっきり永野が『大隊最先任少尉』だとばかり、思っていたんだけど。
中隊分けのブリーフィングの時に、大隊長から、『周防、因みに貴様が、大隊最先任少尉だ。責任重大だぞ?』なんて言われて。

慌てて人事に確認したら、本当だった。 何時の間にやら、2人を飛び越していたんだよな。


「まぁ、それも。 広江少佐が貴様を評価されていると言う事だ。 その期待、裏切るなよ? 裏切ったら・・・ 私は怖いから、擁護せんからな?」

「ちょ! 中隊長! よりによって、自分可愛さに部下を売りますかっ!?」

「当然だ。 私とて、あの人は怖い」

隊長が、胸張って言う事ですか・・・

「私も、怖いなぁ~~・・・」

おい、永野・・・

「命あっての、ものだね。 と言う言葉通りだぞ。 周防」

結局、大尉・・・ 部下を売るんですね・・・?

そんなこんなで、3人で馬鹿話に雪崩れ込んでしまった。
なんて言うか。 新しい中隊は。 中隊長以下、変に肩張らない空気が有るんだよな。
前の旧23中隊もそうだったけど、今回はその筆頭がここには居ないが、和泉中尉だ。



中隊長の、美綴 綾大尉
第2小隊長が、綾森 祥子中尉
第3小隊長が、和泉 紗雪中尉

第1小隊先任は、間宮 怜少尉
第2小隊先任が、俺・周防 直衛少尉
第3小隊先任が、永野 蓉子少尉

あとは、新規配属の新任少尉達が6名。


まぁ、良い雰囲気の隊だと思う。 うん。
第2大隊 第22中隊。 俺の新しい仲間達だった。









≪2330 ハルビン基地 帝国軍エリア・将校居住区≫


「そんな事が有ったの?」

髪を下した祥子が振り返って、尋ねてくる。
いつも、軍装の時は後ろで纏めているし。強化装備の時はアップにしているから、なかなかに新鮮だ。

「・・・ん。 まぁ、ね」

煙草を取り出し、火を点ける。 娑婆の煙草とは違う。 軍で最前線用に支給される、非習慣性のヤツだ。
軍に入って覚えたもの。 BETAとの戦い方。 酒の飲み方。 煙草の吸い方。 女性との付き合い方。
何だか、代わり映えのない青春してるね、俺って・・・

一服吸い、紫煙を吐き出す。 煙を眼で追い掛けながら、先程までの事を思い返していた。


――――死なない為の術を身につけさす為に。 ギリギリまで追い込んでも止む無し、とする緋色。

――――限界は人それぞれなのだから、一線を引くべきだ、とする間宮。


確かに、死なない為の術。 生を掴み取る為の術を身につける事は、重要だ。 甘っちょろい事じゃ、身に付かない。
だけど。 確かに限界なんて、人それぞれだ。 自分は大丈夫と思っても、他人には限界を超している事だって有る。

(どっちも正解で、どっちも間違い、か・・・)

難しいな。


そんな事を考え込んでいた為か―――

「こら。 禁煙だって言ったでしょ? 自分の部屋で吸って」

祥子が俺の口から煙草を取り上げ、灰皿(にした、何かの容器のなれの果て)に押し付ける。 煙草嫌いだからなぁ、彼女。
くそっ 我慢するしかないか。 最近、俺に部屋に来たがらないしな。

(直衛の部屋。 最近、煙草臭いわよ)

そう言って、眉間に皺を寄せていたな。

ハルビン基地に移って、変わった事の一つがこれ。 俺のような下っ端将校でさえ、狭いながらも個室が与えられるのだ。 以前の依安基地は、4人1部屋だった。
基地がとにかく広い。 日本帝国軍だけじゃなく、中国軍、韓国軍、国連軍が同居して、まだ若干の余剰があった。
『基地群』、と言った方が良いかもしれない。


で、俺の居る所はと言うと。 祥子の部屋。
造りは同じ、下級将校用の個室なのにな。 雰囲気が明るい。 俺の部屋なんか、殺風景極まりないって言うのに。


「なぁ? 祥子はどう思う? 先任としてでも良いし。 小隊長としてでも良いけど」

椅子に腰かけた祥子が、小首を傾げて考えている。 その拍子に、長い髪が揺れる。
癖のない、綺麗な髪で。 俺は好きだった。

「正解は無いでしょうね。 間違いでもないのでしょうけど・・・」

やっぱり、ね。

「・・・結局。 それぞれで血反吐を吐いてでも、自分で納得できるものを捕まえるしか、ないよな」

「そうよ。 そうだけど。 それよりも・・・」

「? それよりも?」

何だ?
うわっ 急に祥子が、圧し掛かって来た。 俺、ベッドに寝転がっていたんだよね・・・

「一か月振りに、2人きりなのに。 誰かさんは、全然嬉しくなさそう・・・?」

見上げる先に、ちょっと不安そうで、不満そうで。 ちょっとだけ拗ねた祥子の顔。
・・・あははっ! か、可愛いっ!


「部下も可哀そうだね。 先任が色々と心配してやっているのに。 小隊長は・・・」

「何よっ! 意地悪ねっ!?」

彼女の頬に手をやって。 そのまま抱き寄せて。

・・・後は、解るよな?







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