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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編19話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/16 03:59
≪1月20日 2230 大慶 臨時仮設基地≫


皆、泥人形のようにへたり込んでいる。

美濃が、戦死した。
中隊結成以来、最初の戦死者だった。

その直後。 脱出したと思った直後に、またも側面奇襲を受けた。
皆、内心動揺しながらも、歴戦を証明して崩壊せずに、防御戦闘を展開していたのだが。
祥子さんが一瞬、意識を飛ばした隙に要撃級に詰め寄られた。

(『阿呆かぁ! 綾森ぃ! 目ぇ覚まさんかいッ!』)

至近に居た木伏中尉が、咄嗟に120mmを乱射した。 が、相撃ちの形となった。
要撃級は吹き飛んだが、中尉の機体も上部ブロックを根こそぎ持っていかれた。

(『木伏!! くそッ! 周防! 神楽! 木伏を抱えろッ! 綾森! 腑抜けるなッ!』)
(『蒋少尉! ランチャー!』) (『了解!』)

咄嗟に俺と神楽が、中尉の機体を抱えて離脱する。 翠華が誘導弾を発射して支援した。

(『源! 三瀬! 和泉とダーシュコヴァ少尉を連れて全速で引けッ! 木伏は・・・うおッ!?』)
(『『『 大尉! 』』』)

大尉の機体も、乱戦でBETAと接触する。

(『・・・大尉! 水嶋中尉! 2機で木伏中尉を!』)
(『綾森!?』)
(『先任指揮をとります! 大尉も、水嶋中尉も! 機体ステータスはイエローかレッドです! 退避を!』)
(『くっ!?』)
(『先ほどの不覚は、取りません! 大丈夫です! 早く!!』)
(『・・・頼むぞ、綾森! 水嶋! 急げ!』)
(『了解! 祥子! ヒヨコ達! 死ぬんじゃないよッ!』)


その後だった。 俺と圭介がすっかり「キレて」しまったのは。
結局、俺達は要塞級を殲滅出来なかった。 いや、連中は全滅した。 止めを刺したのが、俺たちじゃ無かっただけの話だ。

総司令部が戦線全域にわたって、サーモバリック弾頭弾と、S-11弾頭弾の大規模集中使用を行ったのだ。
最後の禁じ手。 BETAを拡散させない為に、退避勧告が為されたのは発射の10秒前。

俺達のように、外縁部に居た部隊はかろうじて退避できた。 しかし、少なからぬ数の部隊が、爆発の巻き添えを喰って壊滅した。


(・・・・・)

臨時野戦病院の、大型テントを見る。

サーシャと、木伏中尉は重傷だった。 が、一命は取り留めた。
四肢の切断も無かったから、完治すれば衛士として復帰できるだろうとの事だ。

1名戦死。 2名重傷。 そして2名軽傷。 大尉と、信じられない事に、和泉少尉は軽傷で済んだ。


(くそ・・・・)

自分の内心で荒れ狂う「何か」を、抑えきれなくなってきた。
自分に割り振られたテントに戻る。 そこには先客がいた。

「直衛・・・」

祥子さんだった。

「・・・何です?」

我ながら、ぞっとするような声だ。 駄目だ、「何か」が、更に大きくなる。
驚きの表情をしつつ、祥子さんが尋ねてくる。

「中尉・・・ 木伏中尉は? サーシャは? それに、紗雪も・・・」

「・・・2人とも、重傷だけど。 命は取り留めたよ。 疑似生体の世話にも、ならなくて済む。 
和泉少尉は、軽症で済んだ。 ピンピンしている、表面上は」

「そう・・・」

木伏中尉とサーシャは、未だ意識は戻っていないが。 和泉少尉は、中破した当初は衝撃で失神していたが。 
今は軽傷故に、ピンピンしている。
相変わらずの、軽い口調で。 しかし、キレが無い。
 
当然だ。 戦死した美濃は、和泉少尉とは同じ小隊だった。 結構、妹のように可愛がっていたのだ。 美濃も、和泉少尉に懐いていた。
その美濃が戦死したのだ。 


「・・・紗雪も、ショックが大きいでしょうね・・・」

震えている。 そうだ、震えている。 彼女は。 畜生! どうにも、どうにも、ならないのかっ!?

「どうした・・・?」

「怖いのよ・・・ 怖いの。 今頃になって・・・」

「・・・・」

「何度も。 もう何度も、実戦を潜り抜けて来ているのに。 何度も、戦友の死ぬところを見て来ているのに・・・
紗雪の被弾した光景と・・・ 楓ちゃんの最後、忘れられなくて・・・」

くそッ! 俺の中の___が、喚き立てる。

「怖い・・・ 怖いの・・・ッ」

頭の中で____が、喚き立てるッ!  くそッ! くそッ! くそッ! うるさい! うるさい! うるさい!

何かが、弾けそうだッ!!


強引に彼女を抱き寄せた。 そのまま唇を奪う。 
彼女が一瞬、抵抗しようとしたが、力で抑え込んだ。

「・・・・! ・・・・ッ!! ~~~~ッ!!!」

構わない。 もう、構わない。 構うものか。 遠慮はしない。 
俺の。 俺の女にする。

「ぅ~・・・ はっ・・・ ~~~!」

彼女が上目使いに、俺を睨みつける。 息が荒い。 目が怒っている? いや。 目が、濡れている。


それから、彼女を抱いた。 強引に。 無理矢理に、押し倒した。
ただ、がむしゃらに、体を求めた。

―――もう無理、もう勘弁して

それでも、抱いた。 止まらなかった。

―――直衛! 直衛! 

俺の名を呼び続ける。 彼女の体を貪った。

―――駄目! 私! もう、駄目!

彼女が狂った。 俺も狂った。
狂いながら、泣いた。 俺も、彼女も。
 
―――怖い。 生きたい。 

そして。 生を貪り続けた。 一晩中、狂い続け、泣き続けた。




「・・・生きているよね? 私達。 生きているのよね・・・?」

明け方近く。 腕の中で祥子がポツリと呟いた。

――――ああ、そうだ。 
そうだよ。 俺達は、生きている・・・


「ねえ・・・ 彼女。 翠華さんの事・・・」

「・・・・ん?」

「今、どうしているかな、って・・・」

そうだ。 翠華・・・ 本当は、臆病で、怖がりで。 そして、一生懸命で、一途で。
くそっ! 何で、俺なんだ!? 俺に何が出来る!? 何をしてやれる!? あの娘に!!

「直衛・・・ 良く聞いて。 今しか、言わないから・・・」

「何だ・・・?」

真剣な表情の祥子。 怒っているような、悲しんでいるような、そして、とても優しく包み込むような眼で。


「彼女を・・・ 翠華を――――抱きなさい。 今すぐ」








≪1月21日 0430 大慶 臨時仮設基地 将校用テント群≫


祥子にテントを追い出された。
びっくりした顔の俺に、さっさと行ってらっしゃい!! なんてケツを叩いて、追い出すとは。
一体、何がなんやら。

(・・・・結局、惚れた男の方が、負けか?)

判っている。 彼女の「気遣い」だ。 基本的に、人を憎めないのだ、彼女は。
そして、俺から話を聞いた翠華の事も。


(にしても。 いきなり他の女を『抱きなさい』は無いだろ・・・)

そんな事を考えながら、テント群を探す。 確か、翠華のテントは・・・
いきなり、目前のテントが開かれた。 出てきたのは・・・

「圭介。 それに・・・」

――――愛姫

そうか。 うん。 そうか。


「・・・よお。 綾森少尉は?」

圭介が些かぶっきら棒に聞いてくる。 照れてやがる、こいつ。

「俺のテントの中だ。 まだ寝てる。 起しちゃ、可哀そうだしな」

適当に嘘をつく。 本当の事なんて、言えるか。

「そうか・・・ で? これから何処へ?」

「・・・翠華のテント」

「直衛の鬼畜・・・」

うるさいよ? 愛姫。
すっかり、吹っ切れた顔しやがって。 ・・・良かったよ。 本当に、良かった。

「鬼畜で結構だ。 圭介、ちょっと付き合え」

「ん、ああ・・・ 愛姫、お前、まだ寝てろよ。 時間は有るからな」

「うん。 おやすみ、圭介」




暫く2人無言で歩く。
ややあって、圭介が口を開いた。

「やっと。 『祥子さん』 から 『祥子』になったか?」

言うに事欠いて、いきなりそれか? 全く・・・

「ああ。 なぁ、圭介」

「ん?」

「愛姫はあれでいて、結構、繊細な所が有るぞ」

「判ってる」

「・・・愚問だったな、お前にこの手の話は。 で? これから?」

「・・・緋色のテント」

「圭介の鬼畜・・・」

「うるせぇよ」

顔を見合せ、笑い合う。 
そうか、圭介。 そうか。
うん。 お前なら。


「じゃ。 確か、翠華のテントはこっちだから」

「緋色のは、向こうだ。 じゃあな」







「翠華?」

テントの前で声をかける。 反応が無い。 構わず、テントを開け、中を見る。

――――いた。

膝を抱え込んで、座り込んでいる。 顔を膝の間に埋めて。

「・・・何よ?」

声が震えている。
そうか。 こいつ、いつもこんな風に、震えていたのか。

「入るぞ」

「入らないで」

「遅い。 入ったよ」

翠華が顔を上げる。 怒っているのでは無いな。 何か、悔しそうな、悲しそうな、淋しそうな。
隣に座る。 

「直衛、強引過ぎ。 女の子のテントだよ?」

「ああ。 翠華のテントだ」

「・・・私は、女の子じゃないの?」

「・・・俺が抱く『女』のテントだ」

「ッ!!」

翠華が睨みつける。 怒り、悲しみ、諦め、驚き、依存、そして、喜び。


(・・・さっきと、同じだな)

馬鹿な事を。 祥子は祥子。 翠華は翠華だ。 同じなものか。 



「綾森少尉は・・・ 彼女、抱いたのでしょう?」

「ああ」

「それで。 私も抱くの?」

「ああ。 お前も抱く」

「どうして?」

縋る様な。 何かを、何かだけを信じたいような、そんな目だ。 そんな目の色だ。

「お前が。 俺の女だから。 俺の女にするからだ」

「私。 ひとりが良い。 誰かにとっての、ひとりが良いの」

「悪かったな、俺で。 ひとりは、無理だ」

「・・・嫌だ。 嫌だッ 嫌だッ!!」

翠華が俺の胸に飛び込んでくる。 俺の胸を何度も叩く。 
ごめんな? 翠華。 俺は。 俺にとって祥子は。 「生きる理由」なんだ。 
彼女にとっても俺は、やっぱり「生きる理由」なんだ。 これは、どうしようもない。

でも。 それでもやっぱり。 俺は、お前に生きて欲しい。 生き抜いて欲しい。
「死ぬ理由」じゃなくって。 「生きる理由」を持って欲しい。

俺がそうなれるかどうか、正直、俺には判らない。
でも、お前が言っていた、俺の思い出。 
独り善がりかもしれないけど。 お前と居る限りは、それを作ってやる。 それを俺に作ってくれ。

「・・・抱くよ。 翠華。 お前が、なんて言おうとも」

抱き寄せる。 泣き濡れた翠華の目。 覗き込みながら、唇を奪う。
脱力して、されるがままの彼女を―――俺は、抱いた。


「直衛・・・ 直衛・・・ 直衛・・・」

翠華の声。 翠華の髪。 翠華の温もり。
俺の。 俺だけの。
せめて、その時まで・・・ 彼女が、俺を離れる、せめてその時まで・・・




「・・・直衛は、酷いね。」

翠華がぽつりと呟く。

「私。 どこまでも追いかけるよ? 祥子がいても。 直衛を追いかけるよ? 覚悟してね?」

「・・・怖いな」

「誰がそうさせたのよ。 この鬼畜・・・ それに、浮気者・・・」

「その鬼畜を、好きな女は誰だ?」

「私と祥子。 あ~~あ。 ホント、私達って、男運、悪いんじゃないかしら?」

「翠華・・・ 当人を前にして、それを言うか?」

思わず苦笑する。
大丈夫だ。 彼女の笑顔が戻っている。 大丈夫だ。


「当分は私の部隊も満洲だし。 さて、ゆっくり祥子から『略奪』する段取りでも、考えよっと」


・・・・なぁ? 本当にこれで良かったのか? もう既に胃が痛いぞ・・・


「あ、安心して? 私と祥子、結構気が合いそうだから。 修羅場は、場所を弁えるし」

・・・そんな気遣いは、いらないよ・・・

ニンマリする翠華を見て、思い出す。

(こいつって。 ホント、ポジティブだったよな・・・)


身から出た錆、ってのは、こう言う事か・・・?









1993年1月21日 0630 大慶 臨時仮設基地 将校テント群


目が覚めた。 寒さに思わず震える。
傍らで眠る男の寝顔を見つめる。

もう7年だ。 彼の顔を見続けて。
最初は本当に鬼だと思った。 巽と二人。 幾度、悔し泣きした事か。
顔に手を触れてみる。 そのまま、頬へ、そして、唇へ。

「ん・・・ 直美・・・? 起きていたのか・・・」

「おはよう。 もう朝よ」

今は別の意味で、鳴かしてくれる。 本当に、憎らしい。

「どうした?」

「なんでも。 そろそろ起きるわ」

支度を始めようとする私の手を掴んで、抱き寄せる。

「・・・どうしたの?」

そのまま、為されるがままにする。 心地良い。

「一度しか言わない。 聞いてくれ」

真剣な声。 目を瞑り、その声だけを聞く。 

「愛している、君を。 直美、君を愛している」

ええ。 私も。

「・・・結婚して欲しい。 僕に、これからずっと、君を見続けさせてくれ。 見守り続けさせてくれ」

「・・・部下が、混乱するわね。 大隊長と、中隊長が同姓では」

ちょっと、意地悪してあげる。 待たせた罰よ。

「・・・・・」

「? どうしたの?」

「その・・・ 返事をまだ、聞かせて貰っていないのだが・・・」

思わず絶句する。 ・・・そうよ、筋金入りの朴念仁だったわ。 嬉しさで、忘れていた・・・

「・・・ええ、イエス、よ。 イエス。 嬉しいわね。 やっと、貴方の妻になれる・・・」












1993年2月19日 長春 統合軍第2軍病院 将校用病室


≪源 雅人少尉≫

「はぁ~~~ ほんなら、あれか? ワシらの中隊長は、事もあろうに、大隊長の嫁サンになる、と?
かぁ~~~~ッ!! やっとれんぞ? 戦闘指揮中に、いちゃいちゃされた日にゃ!!」

木伏中尉が大げさに嘆息する。
作戦完了から、1ヶ月程が経った。
所用で隊を離れていた僕は、丁度良い機会なので木伏中尉を見舞っていた。
最初は、「何でワシの見舞客は、男ばっかりやねん・・・」と、落ち込んでいたが。
ふぅん? 女性の見舞客は、いなかったのかな? おかしいな。 水嶋中尉は先週、見舞ったはずだけど。


「流石に、それは無いでしょう。
それより、夫婦揃って同じ大隊は、あり得ないでしょうから。 どちらかが異動となるのでは?」

僕は思わず、肩をすくめる。

「ま、そんなトコやろな。 可能性としては、大隊長やな。 そろそろ中佐進級やろうし。 本土のどっか、ってとこか。
大尉もそろそろ、少佐進級の時期やろ? そしたら、大隊長や。 う~~~ん、中隊長、交代かもな・・・」

「でしょうね・・・」

「・・・それより。 中隊はどないや? ワシもえらいドジ、踏んでもうたさかいな。
水嶋や、お前に負担掛けとる。 スマンな」

こう言う所は、やはり木伏中尉だな。 この人はこれでいて、周りを実によく気にかけてくれる人だ。
普段の浅薄な態度に隠された、指揮官としての資質だと、僕は思う。


「一番心配だったのは、和泉と伊達ですが・・・ 和泉は大丈夫。 彼女はあれでいて、しっかり者です。 僕達同期も、見ていますし。
伊達は・・・ 長門が「なんとか」しました。 ついでに、神楽も、ですけど」

ちょっとばかり、バラしてやる。 いいよな? 長門君。

「何やとぉ!? あのエロガキ! 2人も「なんとか」してもうたかッ! そうか、そうかッ!! ははっ、流石やッ!」

「ついでに言いますと。 綾森と、中国軍の蒋翠華少尉の2人は、周防が」

さて、このサイコロはどう出る?

「なぁ~ん~や~とぉ~!?」

・・・あ、地雷だったな。 ゴメン、周防君・・・

「くそ・・・ なんで、あの小僧が・・・ 綾森は手遅れなんやけど・・・ あの中国娘、結構ええ感じの娘やったのに・・・」

・・・聞かなかった事にしておこう、うん。

「まぁ、あと1ヶ月程。 ゆっくりと養生して下さい。 完治して戻ってきてもらわないと」

「はぁ~~~・・・ 入院生活は、退屈やで、ホンマ・・・」

「中隊の者にも、見舞いに行くよう言っておきます。 『女性客』のお見舞いですよ」

「・・・代わり映えせんのぉ・・・」

贅沢ですよ? 中尉。

窓の外を見る。 まだ外は雪景色だけど。 それでも、1歩づつ春に近付いている。

(人類にとっての春は、いつ見れるのかな・・・)

それまで、生き抜きたい。 そう思うのは、贅沢な事だろうか。






1993年2月20日 大慶 戦没者慰霊碑前


≪伊達 愛姫少尉≫

中隊が揃って献花する。

大尉が、柏崎中尉が、水嶋中尉が、源少尉が、綾森少尉が、三瀬少尉が、和泉少尉が、周防少尉が、長門少尉が、神楽少尉が、そして私、伊達少尉が。

水嶋中尉が、号令をかける。

「美濃 楓中尉(戦死後1階級特進)の英霊に対し。 中隊、敬礼ッ!!」

ザッ

11人が一斉に敬礼をする。
皆、それぞれの想いで。

「直れッ! 解散!」


慰霊碑を見上げる。

「・・・楓は、同期で一番、皆に気を使ってくれたな」 緋色・・・
「時々、あたふたしていたけどな。 ・・・それでも、同期の潤滑剤だったな」 圭介・・・
「怖がりで、泣き虫で。 最初は大丈夫か、って思ったけど。 一番、衛士の自分を理解していた奴だったな・・・」 直衛・・・

「そうだよ。 楓は凄い子だったんだよ。 私達同期の中で、一番凄かったよ? だってさ、あの時・・・」

あ、ヤバい。 泣きそう・・・

「そうだなッ! 本当に、度胸のある奴だよッ! 衛士として、なんかおいてけぼり食った気分だな」
「直衛。 それを言うなら、私も同じだ。 楓のあの覚悟・・・ 私はまだまだ、未熟だ」
「はっ! これから下手な事したら、空の上から『美濃中尉殿』に、どやされるぜ?」

「中尉殿だしねぇ~~・・・」
「上官だもんなぁ・・・」
「・・・少尉に焦る、中尉殿・・・」
「言えてるぅ~~~!!」


・・・楓、見てる? みんな、元気だよ。 生きてるよ。
いつか。 本土に帰還したら。 楓の家に、報告に行くよ。 絶対に。
楓のお父さん、お母さんに。 貴方達のお嬢さんは、皆の支えでした、って。 皆、楓が大好きでした、って。 楓は、凄かったです、って。 貴方達を、お守りする為に。

弟さんや、妹さんに、ちゃんと伝えるね。
君達のお姉ちゃんは、凄い人だったよ、って。 立派な人だったよ、って。 皆が大好きだったよ、って。 君達を守ったよ、って。

だから。 安心して。 そして、見ていて。 私達を。


「空が青いなぁ! おぉ~~い、楓! そっちはどうだぁ!? 絶景かぁ!?」
「あまり、甘いものばっかり、喰うなよぉ? 楓!」
「楓! お前に教わった刺繍、何とか私一人で完成させるからなッ! 出来たら見せる!」

思いっきり、叫びたいッ!!

「楓! ありがとねぇ! ありがとッ! 楓!!」


本当に空が青い。 流れる雲が、掴めそうだ。

さぁ! 戻ろう。 仲間が居る場所へ。









1993年2月5日 満洲方面軍は、H18、H19より集結せる、BETAの大規模群の殲滅に成功した、と発表する。

殲滅したBETA、約19万2200余
方面軍の損失、戦死約10万8900 戦傷18万2300 S-11による友軍誤爆は、18%に上った。


1993年2月10日 1715 戦闘詳細報告を纏めたのち、方面軍総司令官・楊元威上将は、執務室内でこめかみを撃ち抜き、拳銃自決を果たした。


1993年3月10日 中国、韓国、日本の3カ国は、華北・満洲両方面の戦力立て直しを発表する。


1993年4月1日 日本帝国は、大陸派遣第3陣を決定した。








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