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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編18話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/16 03:31
1993年1月20日 0645 北方戦線


≪HQより北方戦線、各級部隊へ通達。 これよりBETA追撃戦に移行する≫


HQから全部隊へ通達が流れた。 いよいよ、最終局面だ。 大成功となるか。 壮大な敗北となるか。


『神のみぞ、知る。 とか言うんだっけ?』

圭介がおどけたように肩をすくませ、呟く。

「生憎、俺は神様にも仏様にも、知り合いは居ないしな。 知らん奴に下駄預ける気にゃ、なれんなぁ」

俺もおどけて調子を合せる。

『神様でも、仏様でも。 どっちでもいいよぉ。 お腹空いた・・・』

愛姫が情けない声を出す。 この暴食娘。

『あ、でもでも。 要撃級って、蟹みたいに見えるよね?』

美濃・・・ その比喩は、何と言うか・・・

『美味くないと思うが・・・?』

それより、どう料理する気だ? 神楽。


そろそろ突撃命令が出る。 その前の、いつもの遣り取りだ。 
以前は木伏中尉や水嶋中尉が馬鹿を言い合っていたが。 最近、その役目は俺達同期組が、いつの間にか引き継いでいた。
初陣の頃からは、想像もつかない事だな。 あの頃は只びびって、震えていたっけな。

先任達から、色事の神様や浮気の神様は、知り合いだろう、とか。 要撃級1匹で何人前だ、とか。 
蟹味噌ならぬ、BETA味噌は不味そうだ、とか。 色々突っ込みが入る。

どこの部隊でも同じだろう。 戦闘突入前の、この光景は。

無駄に固くならない様に。 少しでも余裕を持つ為に。 何より、生き残る為に。


≪CPよりゲイヴォルグ。 突撃開始1分前。 BETA最後部との距離、75km。 方位1-9-3 NOE速度は巡航(400km/h)を維持。 接敵は13分30秒後。
光線級は未確認。 高度は戦域規定高度(200m)を厳守せよ。≫

CP・柏崎中尉から戦域情報が入る。

即座に広江大尉から指示が飛ぶ。

『各機、聞いての通りだ。 与太の続きは帰還してからだ。 主機、戦闘出力。 跳躍ユニット、火を入れろ!』

『『『 了解 』』』


≪CPよりゲイヴォルグ。 突撃開始10秒前・・・ 5秒前、4、3、2、1、ゼロッ!≫

『中隊! 出撃するッ! 続けッ!』

『『『 応! 』』』

12機の92式「疾風」に、1機の殲撃9型、1機のSu-27ジュラーブリク。
変則編成の14機から成る中隊が、NOEを開始する。


『目標は座標、N-58-39 正面戦線に突っかかっているBETA群の最後尾だ! 50km圏までは高度を200m以上、上げるなよ? 重光線級の的だ。 
50km手前で高度を100m以下に落とす。 35km手前からは地表面噴射滑走だ』

重光線級は高度500m以下の飛翔体補足能力が、比較的低い。 
体高が20m程だから、知覚出来る「水平線」距離は約16km。 高度200mなら、約48km手前までは気付かれない。
光線級は体高3m程。 知覚する「水平線距離」は約6.2km 高度100mなら約35km地点までは、知覚範囲外だ。

光線級が居るからって、全ての空域が「支配」される訳じゃない。 どうしてかって? そりゃ、地球は「丸い」からさ。 誤解され易いけどな。

って訳で。 BETAに突撃する場合、少なくとも20km付近までは、逆に比較的安全なのだ。
光線属種が地平線外を知覚認識出来ないし、連中には『砲撃』能力が無い。 レーザーってやつは、曲射しないからな。


あっという間に、50km圏が近づく。
高度を100m以下に落とす。 うわ、この高度じゃ、感覚的に地表スレスレだわ。


『うひょお! このスリル! 堪らんのぉ!!』

先頭から、能天気な歓声が聞こえる。 全く、ウチの小隊長は相変わらず、脳みそがブースト状態だ。

『そんな変態、アンタだけよ。 木伏。 ったく、B小隊はアンタと言い、周防と言い・・・』

「水嶋中尉。 どうして自分が、木伏中尉と同列・・・『やかましッ!』・・・」

『・・・自覚ないの? 満洲の ≪お笑い芸人≫ と ≪変態≫ コンビ・・・』

「んなぁ!?」 『何やとッ!? 水嶋ぁ!』

『・・・コホンッ 地表面噴射滑走開始、10秒前です。 それと、水嶋中尉・・・?』

祥子さんの声が冷たい・・・

『うわッ! 恋女房が怒った。 はいはい・・・ C小隊! 高度下げるよ! 地表面噴射滑走開始!』

『水嶋! 後で覚えとれッ!? B小隊! 地べた這うでぇ!!』

『少しは真面目にできんのか・・・ A小隊、地表面噴射滑走だ』

広江大尉の嘆息を最後に、全機が地表面噴射滑走に入る。
速度300km/h  BEAT群まであと・・・

≪CPよりゲイヴォルグ。 BETA群との距離、7000  前面の敵個体数、約6000 旅団規模です。 
光線属種、確認されました! 重光線級が12体、光線級が36体! 最後尾付近です!≫

厄介だな。 遮蔽物になる地形が殆ど無い。 このままじゃ、少なくとも16km地点から照射危険範囲だ。

≪第3砲撃任務群の支援砲撃開始、1分前! 重砲3個大隊、MLRS 2個大隊です! 砲撃管制は『グングニール』!≫


1個砲兵旅団と言ったところか。 第3任務群の1/3を割いている。 203mmが54門。 MLRSは36基。 定数残っているかな?
残っていたとしても、残弾不足で制圧砲撃密度が薄ければ、効果は無い。 ちょっと心配になる。

≪制圧砲撃開始、10秒前・・・ 5秒前、4、3、2、1、開始!≫

途端に、腹に響く重低音と、甲高い飛翔音が聞こえてきた。
直ぐに前方にいた光線属種が、一斉に上空を見上げる。 ほんの数秒で迎撃照射を開始し始めた。
合計48本のレーザーが上空に延びる。 高高度で光球が発生する。 ・・・やっぱりな。

『ゲイヴォルグ・リーダーより、グングニール。 砲撃第1射、全弾迎撃された』

広江大尉から、淡々とした報告が為される。

≪グングニールより、ゲイヴォルグ・リーダー。 了解。 ・・・只今、第2射を発射。 着弾は15秒後≫

再度、重低音と甲高い飛翔音が発生する。 15秒後、砲撃管制から通信が入る。

≪グングニールより、ゲイヴォルグ。 第3射発射。 これより第4斉射に入る≫

15秒毎に54発の203mm砲弾が叩き込まれ、36発のMLRSが発射される。

第1射、全弾迎撃された。
第2射、18発が着弾した。 重光線級が6体、光線級が12体吹き飛ぶ。 重光線級は、まだお休み中だ。
第3射、32発が着弾する。 重光線級は残りすべて。 光線級が16体吹き飛んだ。 これで迎撃密度が、大幅に低下した。
第4射、70発以上が着弾する。 


『1分で済んだねぇ・・・』

美濃が、のほほんとした口調で。

『50体も、いなかったしねぇ』

愛姫が当然、と言わんばかりに。

『重光線級の数が少な過ぎたな、BETA共』

神楽が、せせら笑う。

『うちの女ども、怖いな・・・』

圭介がぼつり、と呟き。

『・・・女か?』

俺が突っ込んだ時。

『『『 後でシバく(よ/ぞ) 』』』

3人揃って、ユニゾンされた。


『・・・日本軍って、いつもこんな感じなの? なんだか、緊張感が盛り下がっていくわ・・・』

サーシャが呆れている。

『シバく・・・ シバく・・・ 直衛が・・・ 直衛を・・・』

翠華がアブナイ目をしている・・・ 俺はそんな趣味、無いからな?


『ダーシュコヴァ少尉。 珍妙な連中は、どこにだって居る。 全て同じにするな。
蒋少尉。 現実に帰ってこい。 個人の趣味はとやかく言わんが、せめて帰還してから楽しめ。 いいな? 周防?』

『『『 大尉!? 』』』

翠華と、俺と・・・ 祥子さんが絶句する。

『『『『 珍妙・・・ 』』』』

美濃と愛姫、神楽に圭介が、酷く傷ついた顔をしている。
けど、一番酷い言われようは、俺なんだぜ・・・

『・・・さっすが、満洲の変態』
『そこまで、極めよったか・・・』
『・・・やるね?』

水嶋中尉と木伏中尉、和泉少尉が、追い打ちをかけて下さりやがる。

『・・・・・周防少尉?』

三瀬少尉の視線が冷たい・・・

『ま、まぁ。 それも愛情表現だよ、周防。 な?』

そんな、変な理解は要りません。 源少尉。


≪あ、え~~と。CPよりゲイヴォルグ。 そろそろ、お仕事の時間かとぉ~・・・
それと。 ごめんね? 周防少尉?≫

CPの柏崎中尉。 嫌な予感がする・・・

「柏崎中尉! 何です!? 何で俺に『ごめんね?』なんですかっ!? ねぇ!? 中尉!」

≪あ、あはは・・・ ま、また、通信系の切り替え、忘れちゃったの・・・ あ、でも! 今度は大隊系通信だけだから! 安心して!≫

も・・・ いやだよ、この人・・・ 皆、目が点になっているぞ・・・


『あ~~・・・。 各機、仕事するぞ・・・?』

『『『『 了解・・・ 』』』』

何時になく、中隊のテンションが低かったのだけは、確かだった・・・










1993年1月20日 1130 正面戦線


「戦線正面のBETA群、約1万6000 第1砲撃任務群、制圧砲撃第12クール開始しました」
「戦線左翼、第68軍団。 第232戦術機甲師団を展開完了。 続いて第331機甲師団、展開します」
「光線属種、当戦線全域で108体確認! 重光線級38体、光線級70体です!」
「左翼戦線より入電。 戦線戦域BETA群、残存8000! うち光線属種66体を確認! 第3砲撃任務群、斉射開始しました!」
「右翼より入電。 BETA数7000 光線級は58体! 第2砲撃任務群、制圧砲撃11クール開始!」
「北方戦線より入電。 BETA後背よりの突撃、現状にて良好。 反転せるBETA、約4000! 光線級は存在せずッ!」

オペレーターが次々に報告を読み上げる。
2日半に渡った作戦だが、ようやくの事で明るい芽が見え始めた。

「残存BETAは、全戦線で約3万5000か・・・ あと、20%そこそこ、だな」

総司令官(兼正面戦線指揮官)の楊元威上将(上級大将)が呟く。
疲労の色は濃いが、どこかホッとした表情だった。
隣の参謀長も、同様の表情で答える。

「はい、閣下。 このまま面制圧砲撃と、機甲部隊による直接打撃戦を展開すれば。
間をすり抜ける個体は、戦術機部隊で対応可能です。 
光線級は厄介ですが、あと暫く全戦線で斉射を続ければ。 200体もいませんから、全力10斉射、多くとも20斉射で光線級は殲滅出来ましょう」


苦しい戦いではあった。
左右の機動突破戦力は、実に60%の損耗を出した。
正面戦線も全力防戦の結果、戦術機甲1個師団と、機甲1個師団をすり潰した。 残りの部隊も、損耗は平均35%に達している。
左右両戦線も似たようなものだった。 特に、途中でBETAの攻勢重心が左翼に振れた時期が有った為、左翼戦線での損耗が酷い。
戦術機甲1個師団半と、機甲2個旅団が消えた。

支援の要の砲撃任務群は、残弾量が30%を切った。

19日の地中侵攻が痛かった。 ある程度予想したとはいえ、その結果は凄まじかった。 光線級が1000体以上も出現したのだ。

これを何とか押し留める為に、予定を無視して無茶苦茶な制圧砲撃戦を、敢行せざるを得なくなったのだ。
結果として、超広域に重金属雲が発生。 部隊間の通信など、全く通じない状況が続いた。
各部隊は戦況不明のまま、大隊で、中隊で、小隊で判断し、戦ったのだ。
光線級の数を減らす間、他のBETA種への砲撃は不可能だった。 この為、あちらこちらで突破されかかったが、何とか凌ぎ切った。
あろうことか、撃墜されるのを端から覚悟で、全航空打撃部隊(攻撃ヘリ部隊)まで投入したのだ。
お陰で、砲撃支援の代役は務め切ったが、攻撃ヘリは戦力の80%を喪失した。

だが、それもここまでだ。 今まで散っていった無数の将兵たちの挺身が、今、報われようとしている。


「よし。 参謀長、今更ながらだが、各戦線に注意勧告。 『最後まで気を抜くな』 それと、付け加えろ。 『祝杯は、後で死ぬほど浴びさせてやる』 とな」

「はっ!」

参謀長の声にも、自信が戻ってきたようだった。

ふむ。 長かったが、ようやく・・・ ようやく、死んでいった部下達に謝る事が出来そうだ。
負けていたら、自分には己の指揮の不甲斐無さを、謝罪する資格さえも無いだろう・・・


楊上将が、通信参謀へ指示を出している参謀長の後姿を見ながら、ふとそう思っていた、その時。



「――――――ッ!! 地中侵攻震動、確認ッ!! 座標、N-30-51!! 計測個体数・・・ 計測不能ッ!!!」

オペレーターが絶望の金切り声を上げた。


「な・・・ なん、だ、と・・・」

―――― 楊上将は目前が真っ暗になる様を、自覚した。










1993年1月20日 1205 北方戦線 帝国軍第119旅団第2大隊第3中隊


『何が、どうなっているのよッ!!』

ヒステリックに喚きながら、愛姫が支援突撃砲をぶっ放す。

『知るかッ! BETAに聞きやがれッ!』

圭介が目を吊り上げて、4門の突撃砲を乱射しつつ、要塞級に迫る。

『長門! 無茶しすぎだぞッ!』

神楽が群がる戦車級を片っぱしから掃射する。


ほんの30分前までは、勝利は目前に見えた。
BETAは各戦線で潰され、数を急速に減らしていたのだ。 事実、総司令部でさえ、そう判断していたんだ。

それが。

またしても、突然の地中侵攻だ。 正面戦線寄り、中央部よりやや南下した場所に。
しかも数万。 それも、今度こそ要塞級のお出ましだった。 当然、腹の中には光線級を詰め込んで。
各戦線は、一気に押し戻された。 各所で恐慌が発生し、悲鳴が通信回線に飛び交う。
奴等に。 BETA共に。 またしても、一杯喰わされたのだ。 くそッ!!


目前に1体、要塞級が迫る。 こいつらの動きは鈍いが、質の悪い事に光線級の盾になる習性が有る。 
兎に角、この「壁」を何とかしないと、光線級に辿り着けない。

「くっそおぉぉ!」

要塞級の50m前方で噴射跳躍する。 高度は60m以上は無理か。

『直衛! 危ない!』
『直衛! 無茶しないでッ!』

祥子さんが牽制の36mmを乱射し、翠華が支援突撃砲の120mmを撃ちこむ。
その隙に要塞級の頭部に迫った俺は、そのユーモラスにも見える頭部に、120mmを連射でお見舞いする。
頭部を弾けさせて要塞級が1体、地響きを立てて倒れ込む。 勢いはそのままに着地。
すかさず、全速で地表面噴射滑走。 すぐ右横の要塞級の下に潜り込む。 途端に触手が襲いかかってきた! こいつにやられたら、瞬殺される!

『『 直衛ッ!! 』』

祥子さんと翠華の悲鳴が聞こえる。 

触手との激突直前に、右垂直軸回転と全力後進噴射を掛ける。 同時に120mmの残弾3発を照準無しで上方へ連射!
ギリギリで触手をかわして、要塞級の下腹に120mmを全弾叩き込んだ。 弾けた腹から、体液と臓物が飛び出る。
機体は要塞級の脚の間から、接触無しにすり抜けた。 デカブツ2体目、撃破。 同時に圭介も、2体撃破。

120mm弾倉を交換する。


『馬鹿ッ! 死ぬ気なのッ!?』
『正気ッ!? もう止めてッ!』

2人とも、まるで半狂乱だ。

「死ぬ気は無ぇよッ! 2人とも! 支援は頼むぜッ!」

目前の要撃級はあと、8体。 俺が5体始末した。 圭介が4体。
奴等、1匹残らず、地獄送りだッ!!


「圭介! まだ生きてるかッ!?」

『残念ながらなッ! そっちこそ、死んだと思ったぞッ!』

「うるせぇ! 正面! 要塞級残り8体! 行くぞッ!」

『おうよッ! 愛姫! 神楽! 支援頼む!』

2機が水平噴射跳躍に移る。 目指すは、正面の要塞級。


『この馬鹿共ッ!!』
『付き合いきれないッ!!』

神楽と愛姫が罵倒する。


はッ! しょうがねぇだろッ! もう、キレちまったんだからよ! 俺も! 圭介も!
久々に、コンビ復活だッ!!


『蒋少尉! 左前方、戦車級の群! 誘導弾で掃討しなさい! 神楽! 右翼の要撃級に牽制射撃! 愛姫ちゃん! 手を止めないで!』

『『『 りょ、了解!! 』』』

祥子さんの指示に、3人が応答する。

『13! FOX01!』
翠華が誘導弾を発射する。

『止まれッ!!』
神楽が突撃砲を4門で、要撃級に阻止弾幕を張る。

『・・・そこ!!』 『いやぁ!!』
祥子さんと愛姫が、俺達に突進しかけた要撃級を狙撃する。


「圭介ぇ! いくぞっ! 腹ぁ決めろッ!!」

『言われんでもなぁ!!』


要塞級の周りには、戦車級が多数、いや、無数。 それに要撃級も20体ばかりいる。
正気じゃねぇな、ホント!

1体の要塞級が迫る。 同時に左右から要撃級。

「!!」 『ッ!!』

俺と圭介は同時に、要塞級の左右から噴射跳躍をかけた。 マルチロックオン。 側面を飛び越す時に、120mmを撃ちこむ。同時に要撃級の上方から、36mmを乱射する。

着地地点に、120mmキャニスターが撃ち込まれる。 戦車級がまとめて吹き飛んだ。 誰かの支援だ。


「あと7体!! 手前ぇらまとめて、くたばりやがれぇ!!」

『仇は討つぜぇ!!』


2人とも、つい先ほどまでの光景を思い出して、突進した。
確かに俺達は、狂っていたのかもしれなかった。







≪25分前 北方戦線 1140 第23中隊≫


「それ」は、唐突に発生した。

『・・・!? この震動・・・ 地中侵攻か!?』

最初に気付いたのは、広江大尉だった。
次の瞬間、中隊の周りの大地が爆発した。

『ベッ! BETA・・・!! きゃああぁぁ!!』
『サーシャ!!』

サーシャのSu-27が、地上へ突撃したBETAと接触する。

「くっそおぉぉ!!」 『おああああ!』

俺と圭介が咄嗟に、出現地点へ120mmを6発全弾、お見舞いする。
その隙に、三瀬少尉と源少尉が、サーシャの機体を抱きかかえて離脱した。

『サーシャ!? ねぇ!サーシャ!』

翠華が懸命に問いかける。

『蒋少尉! 落ち着け! バイタルはまだ無事だ! 各機! 突破する、北だ! 陣形・楔壱型(アロー・ヘッド・ワン)!』

『『『 了解!! 』』』

陣形を再編し、突破をかけたその時―――


『こ・・・ 光線級やんけッ! 正面ッ!』

木伏中尉の絶句が聞こえた。
照射警報! 強制乱数回避!!

「うわッ!」 『つうぅぅ!』 『きゃああ!』

陣形があっという間に乱れる。
そして――― 「よっ 要塞級確認ッ!」
最悪だ!!
その瞬間。

『くっそぉ!!』

回避機動がほんの僅かに遅れた、和泉少尉が・・・ 要塞級の触手の一撃を喰らった。

『『 紗雪ぃ!! 』』 『くッ!!』

祥子さんと、三瀬少尉が絶叫する。 源少尉の絶句が聞こえた。
和泉少尉は・・・ 機体中破。 右腕部と跳躍ユニットが脱落している。

『弾幕張れ! BETAを近づけるなッ!』 『はあっ!!』

広江大尉が怒鳴る。 同時に神楽が長刀で、和泉機に止めを刺そうとする要撃級に肉薄し、叩き切った。

サーシャを抱えていた三瀬少尉機が、和泉少尉機に寄って保持する。 そのまま噴射跳躍。

『和泉とダーシュコヴァの両機は、自律制御モード・R!(自動帰還モード) RTBポイントは私が設定する! 源! 三瀬! 貴様等、2機で直援に付け! 
各機! 馬鹿者! 止まるなッ! 振り向くなッ! 全速離脱! この間合いでは光線級はもう、撃ってはこないッ!!』

広江大尉の怒号が聞こえる。
跳躍ユニットをA/Bに放り込む。 水平噴射跳躍。 BETAの群れの中を、全速で突っ切る。 要撃級に120mmを撃ち込み、36mmで戦車級を薙ぎ払う。 

群れの外れ。 光線級の盾になる丘陵まで、あと1500m

その時。 左側から新たなレーザーが上空を擦過する。

「!! 光線級! 10時方向!」

『高度落とせッ! 20!』

高度20で、A/B全開かよッ! 正気じゃねぇ!! 『音速雷撃隊』じゃ、ねぇってのッ!!




『くきゃあぁ!!!』

『『 楓ぇ!! 』』 『『 美濃!! 』』

低空飛行が徒になった。 美濃の機体が、パスしようとした要撃級の真上で、振り上げた前腕と接触した!
そのままバランスを崩して、滑り込むように墜落する。

「美濃!」 『楓!』

俺と愛姫が、思わず逆噴射をかけていた。

『!! 周防! 伊達! 何をしているッ! 止まるなッ!』

大尉が怒鳴っている。

「大尉! 美濃はまだ生きていますッ!」 『救出しますッ!』

『馬鹿者ッ! 周りを見ろッ!』

「ッ!?」

美濃の周りには、BETAが四方から集り始めていた。


『愛姫ちゃん・・・ 周防君・・・ 逃げて・・・』

「美濃!?」 『楓!』

『駄目だよ・・・ 止まっちゃ。 大尉の命令だよ・・・
私は、大丈夫・・・ ちゃんと、死ぬから。 死ねるから・・・ 心配しないで』

息苦しそうだ。 

『周防! おんどれ! 何さらしとんのやっ!』

『伊達! 洒落にならないよッ! 早く戻りなッ!』

木伏中尉・・・ 水嶋中尉・・・

『私、大丈夫だからぁ・・・ 早く。 早く、戻ってよぉ・・・』

美濃・・・ 泣き声になってる。


「くっそぉぉ!!  愛姫! 離脱だッ!!」 『りょ、了解ッ!!』

俺と愛姫が機体を再度、全力噴射跳躍に持って行く。
遠ざかる美濃の機体。 次第にBETAの輪が縮まってゆく。 距離は800を超した。


『愛姫ちゃん・・・ 日本に帰れたら・・・ お願いあるの。 私の家族に、伝えて。 ね?
お父さん、お母さんに・・・ 弟と、妹に・・・
お父さん、お母さん、楓、ちゃんと戦ったよ、って。 
弟と、妹に・・・ お姉ちゃん、あんた達、守る為に、ちゃんと戦ったよ、って』

『うん・・・ うん・・・』

愛姫が顔をくしゃくしゃにしている・・・
BETAの先頭が、もう美濃機のすぐそこまで、近づいている。

『ありがと、ね。 みんな・・・ ありがとう・・・』

「美濃・・・」 『か、楓!』 『畜生・・・』

俺も、神楽も、圭介も。 離脱する機体から、何も言えないでいた。
もう、美濃の機体が見えない。 集り始めたBETAしか見えない。

『怖いよ、お父さん・・・ 助けて、お母さん・・・ お姉ちゃん、死にたくないよ・・・ あんた達に、会いたいよ・・・』

『楓・・・ 楓・・・ 楓・・・』

愛姫が名前を繰り返す。


不意に。 美濃の絶叫が耳を打った。

『うわあぁぁぁ!!! お前らなんかぁぁ!!! お前らなんかああぁぁぁ!!!!』

S-11の光球が発生する。 次の瞬間、「それ」は周囲に拡散し、BETAを飲み込んでいった。









1993年1月20日 1250 正面戦線司令部


「地中侵攻したBETAの個体数、約3万2000! 要塞級、重光線級、多数確認!」
「第232戦術機甲師団、損耗45%!  第331機甲師団、損耗50%超しました!」
「右翼戦線より、至急! 救援要請!」
「左翼戦線より、『突破阻止、不可能』ですッ!」
「北方戦線より入電! 『残存兵力、35%』」
「第2砲撃任務群・第2砲撃任務隊、BETAの直接攻撃に晒されていますッ!」

オペレーターの悲鳴が途切れなく続く。
悪夢だった。 いや、夢で有ればどれほど良かった事か。 これは現実なのだ。

「閣下・・・!」

参謀長が蒼白な顔で呼びかけてくる。
しかし、楊上将にはどこか遠い世界の声のようだった。

(何故だ・・・ 何故、奴等は、こうも我々の意図を逆手に取る?
戦術面では寧ろ、組し易いと言うのに。 何故、戦略に於いては、こうも予測がつかんのだッ!!)

「閣下! 早急に対策をッ! 引くにせよ、押すにせよ、時間が有りませんッ!」

(何を言っているのだ? この男は・・・ 引く? 何処へ? 押す? どこに戦力が?)

何も考えられなかった。 今まで培ってきた軍歴の中での経験。 それが全く無意味に思えてならなかった。


その時、G3(作戦主任参謀)が小走りに参謀長へ近づき、耳打ちする。 途端に、参謀長の表情が強張る。

「・・・? どうした、参謀長?」

「至急の面会です ・・・軍政治委員同志と、汪延砲兵中将、それと・・・」

「それと?」

「劉延士砲兵少将が・・・」

「ッ!!」

軍政治委員の奴は、この状況だ。 何だかんだと言いがかりを付け、さっさと逃げ出す算段だろう。
ついでに、この状況の全責任を俺に押し付ける、か。 ふん、これで銃殺は確定だな。
しかし、汪延砲兵中将は・・・ そうか。確か、副司令官の劉延士砲兵少将は・・・


「同志閣下。 ご多忙の中、失礼致します」

軍政治委員がわざとらしい挨拶で切りだす。

「構わんよ。 同志政治委員。 それに、同志中将に、同志少将も。 一体、何事かね?」

「ほう? いや、流石は歴戦の楊同志上将。 この状況でも、落ち着いておられる」

「・・・本題に入ってくれまいか? 時間が惜しい」

わざとらしく、政治委員が肩をすくめる。

「いえ、何。 微力ながら、戦況の挽回に、ご助力申し上げよう、と思いまして。 こちらの劉延士同志砲兵少将に同行願った次第」

つまり、上官の汪中将は、只の付けたしか。

劉少将が徐に口を開く。

「同志閣下。 小官の所属は、陸軍砲兵軍団ではございません」

「何?」

思わず、劉少将を見直す。 砲兵軍団では無い? まさか、この男・・・
汪中将を見る。 済まなさそうに、視線を外された。 そうか。 やはり、そうなのか。

「小官の所属は、『第2砲兵部隊』であります」


くそッ! やっぱりッ! 
第2砲兵部隊。 祖国の戦略ミサイル部隊!!
まさか、ここで核を使う気なのか!? 馬鹿な!!

「・・・・核を、使うのか・・・?」

絞り出すように声を出す。 核を使えば。 確かにこの局面で、BETAを殲滅出来る。
しかし、我が軍以外にも、協同している各国軍をも、巻き込んでしまう。 それは絶対に拙い!

「いいえ。 核の使用は国際戦略上、下策です。 まずは、撹乱の為にサーモバリック弾頭ALMを叩き込みます。 重金属雲と蒸気雲爆発を発生させます。
すかさず、第2射でS-11弾頭弾ALMを斉射。 止めを刺します。」

「馬鹿なッ・・・!! 戦術核よりも質が悪いッ!!」

「核とS-11では、S-11の方が国際社会の『受け』は宜しいでしょう」

「しかし・・・ッ!」

軍政治委員が手で劉少将を下がらせ、引き継ぐ。

「同志閣下。 これは決定事項なのですよ」

「何!?」

「党軍事委員会は、既に決定したのです。 つまりは、主席閣下が承認なさった事項。 同志閣下は、実行なさるのみです」

楊上将は、全身の力が抜けていくのを自覚した。

駄目だ。 俺にはこの事態を収束させる術は無い。 その能力も無い。 そして、共に戦った、挺身の限りを尽くしてくれた、各国将兵に対して。 
裏切りを以って幕を引け、と。 そう、党が言ってきているのだ。 終わりだ。 俺は、終わったのだ。

「では。 同志閣下。 御承認頂けましたかな?」

楊上将が、力無く頷く。
その姿を見やり、軍政治委員は満足げに頷くと、劉少将へ命令した。

「同志少将。 では、全て手筈通りに」


楊上将を顧みる。
――――終わったな、この男は。 所詮、現場でしか物の見えない奴だ。
祖国の大局的な対応、と言うやつを。 全く理解していない。

後は、国連や日本、韓国、ASEANに対する人身御供にしか使えない、抜け殻の様な総司令官を見やった。
――――どうせ、こいつは早晩、銃殺されて終わりだ。







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