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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編16話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/10 03:42
1993年1月19日 2240 依安東南東20km 


――――地獄って所は、こんな場所なのかな。

麻痺した頭の片隅でそんな事を考えながら、俺は無意識に機体を操作していた。
正面と左右から要撃級が迫る。 右への短距離噴射地表面滑走(ショート・サーフェイシング)と同時に、垂直軸反転とで、右から迫る要撃級の側面に出る。
突撃砲の120mmを至近から撃ち込む。 これで120mmは弾切れ。 そのままサーフェイシングを続けながら、36mmを射軸をずらしながら連射。 3体を無力化する。
同時に36mmもアウト・オブ・アンモ。 いよいよ、後は格闘戦で切りあうしかないか。

息つく間も無く、突撃級が突進してくる。  200m・・・ 100m・・・ 50mを切ったところで、短距離水平噴射跳躍。 
左腕部に保持した74式長刀を脚部に突き刺し、そのまますり抜ける。
突撃級は片脚全てを持って行かれて倒れ込む。 斃した訳じゃないが、無力化は出来る。 動けない奴は只のゴミと同じだ。 無視すれば良い。

夕刻、1830から始まった再突撃。 それから4時間以上が経った。
何km突破したのか、解らない。 あと何km、BETA共が屯っているのか、解らない。
疲労は極限まできている。 朝から少なくとも、都合10時間近く戦闘をしているのだ。
小隊長の声も聞こえない。 中隊長の声を聞いたのは、どれだけ前だったか?


「ふっ・・・ ふっ・・・ ふっ・・・」

自分が荒い息をしている事に、今気付いた。
ふと、傍に「疾風」の残骸が目に付いた。 どこの部隊だろうな? 急にどうでも良くなった。 
とりあえず、くたばった奴に突撃砲は無用だ、と気が付き、傍に落ちている突撃砲を調べる。
120mm、残弾4発。 36mm、残弾380発。 俺のより遥かにマシだ。 手土産、ありがとさん。
ついでに腰部兵装ラックも調べる。 120mm弾倉2本、36mm弾倉3本。 これで、今少し生き延びられるか・・・

戦術センサーが音紋と振動を捉える。 近い。 距離500 この丘の向うか。 推定個体数、約300
丘を無造作に上る。 天辺付近で停止。 マニピュレータ―から、補助光学センサーを伸ばして「覗き見」する。
ふん。 丘の反対側に、要撃級が9体と、戦車級が100前後。 あとは小物か。 光線級は居ないな、よし。

無造作に要撃級に狙いを付け、120mmを連射する。 
1発目――後ろから、見事に背面に命中。
2発目――こっちに気付いて旋回中の奴の後部胴体に命中。 体液をまき散らしやがった。
3発目――旋回を終わった胴体上部に命中。 ははっ! 汚ったねぇ蔵物、まき散らしやがって。
4発目――前腕に防がれる。 まぁ、しょうがないか。 3体殺ったから、良しとするか。

当然、こっちに突っ込んで来やがった。 高低差、約80 距離で・・・ 500程か
網膜スクリーンで120mm弾倉を選択、弾倉を交換する。  ・・・完了、約5秒。
距離は200を切った。 要撃級が先頭、6体いる。 残り100で水平噴射跳躍。 大丈夫、光線級は確認されていない。 

もしいたら? そんときゃ、俺が死ぬまでだ。

傾斜を利用して、BETAの上方に飛び出る。 無防備な上方から120mmを連射して、3体に命中。 斃したかは確認できない。 
36mmの連射に切り替えて、着地地点付近の戦車級を薙ぎ倒す。 36mm、残弾87発
着地。 要撃級の裏を取る。 垂直軸旋回で急速反転し、2体の要撃級に後ろから36mmを残らず叩き込む。 
10秒経たずに撃ちつくす。 首のような後部胴体が弾け飛んだ。

同時に噴射跳躍し、残り1体を飛び越す。 飛び越しざまに、120mmを2発。 
1発は胴体中央部に、1発は前腕の付け根に着弾し、最後の要撃級が動きを止めた。

元居た丘の上に戻る。 最後に残した120mmキャニスター弾を、残った小型種に叩き込む。 纏めて20体ほどが霧散する。

36mm弾倉交換。 残りは戦車級が30体ほど、他の小物が150くらいか。
36mmを射軸をずらしながら、連射し続ける。 個体識別なんか不要な程、纏めて霧散していく小型級BETA共。
――――36mmが弾切れした。 目前に戦車級が4体。 弾倉交換の暇は無いな。 左腕部に持った長刀を横薙ぎにする。 
2体を叩き切ったところで、長刀の切っ先が折れた。 即座に逆噴射跳躍で距離を稼ぐ。 
長刀をパージして、36mm弾倉交換。 これで残りの予備弾倉は120mmと36mmが1本ずつ。

36mmを短く2連射。 残りの戦車級も吹き飛んだ。


「ぜっ・・・ ぜっ・・・ぜっ・・・ 」

息が荒い。 腹が攀じれる様に引き攣る。 体中が重い。 喉が渇いた。 それより―――部隊は、どこに居るんだよっ!?

俺は単機で部隊から、はぐれていたのだった。


「畜生・・・ 単独斥候なんか、志願しなきゃ良かった・・・」

己の浅はかさを恨む。 側面のBETA群に気付かなかった俺が馬鹿だったのだけど。 奇襲を受けて、中隊との間を分断されたのが、1時間前。
なんとか合流しようとしたけれど、次から次へとBETAが湧き出てこられて。 回避機動と防御戦闘をし続けている間に、次第と中隊との距離が開いて行ってしまった。
何とか、BETAの密度の薄い場所を探しつつ移動する間に、完全に中隊をロストしてしまったのが、40分ほど前。
戦域はあちこちでALMとAL弾が撃ち込まれ、それを光線級が迎撃し―――重金属雲が広範囲に立ち込めている。 
通信が効かない。 レーダーもさっきからノイズばかり。 たまに拾ったら、クラッターを拾いやがる。

以来、中隊を探して単機で戦場をうろついている。 完全に迷子だ。

幸いにも? あちこちにBETA共の死骸の他、友軍戦術機の残骸がある。 推進剤は無理だが、突撃砲や弾倉、長刀は程度の良い奴を拾いながら凌いでいる。
最初から残っているのは、膝部の短刀2本だけだった。


「――-!? おい、助かったぜ・・・!」

何の奇跡か。 補給コンテナが1台。 前方200 無傷のようだ。 周りを警戒しつつ、近寄って調べる。 大丈夫、無傷だ。 それに手つかずとは。

120mm弾倉1本と36mm弾倉5本を取り出し、腰部兵装ラックに収める。
ついで、87式突撃砲を2門取り出す。 1門を左腕部に持ち、1門を右背部ウェポンラックに装着する。 最後に74式長刀を1振、左背部ウェポンラックに装着。
少々変則的だ。 突撃前衛装備じゃ無く、強襲前衛と強襲掃討の中間装備みたいになってしまった。
まぁ気分の問題だ。 突撃砲が3門有れば、弾幕形成には十分だし。 長刀が有れば短刀だけより近接格闘戦でも戦いやすい。 俺はこれが気に入っている。

盾は邪魔なだけだ。

最後に主機燃料と、推進剤を補充して完了する。 機体の疲労は少々心配だったが、とにかくこれで俺の「疾風」は牙を取り戻し、腹もふくれた。 
迷った子犬から、狼に変わった。 後は狩りをしながら、群に戻るだけだ。




静粛索敵をかけつつ、慎重に移動する。

「さて・・・と。 現在位置は。 N-76-51 随分南東寄りに流されたな・・・ 付近に友軍は、無し。 丁度、戦域間の間隙地点なのか?」

相変わらず重金属雲が晴れない。 腹に響く重低音がひっきりなしに鳴り響いている。 どこかの戦域への支援砲撃だろう。
辺りを見渡す。 BETAの死骸が無数。 戦術機は・・・ F-15C(イーグル)に、92式(F-92J/疾風)、F-5E(タイガーⅡ)もある。
あっちは見慣れないな・・・ あぁ、確かソ連の新型機。 Su-27ジュラーブリクか。 
中国軍の殲撃8型もあるな。 お? 殲撃9型(F-92C 92式の中国輸出モデル)もある。

『複合戦区』か・・・

夕方から始まった再突撃は同時に、正面・左右両戦線でも、戦線の押し上げを図ったから。 各方面で突破部隊が編成されたのだろう。
じゃなければ、右翼機動突破任務のソ連のSu-27や、左翼機動突破任務の帝国軍の92式、国連軍のF-15C以外に、F-5Eや殲撃8型/9型が、こんな所に居る訳が無い。


(ここまで来て、力尽きたか・・・ あんた等の続きは、俺が引き取るよ。)


5分ほど南へ移動した時、音紋と振動が同時にキャッチした。 咄嗟に大岩の陰に隠れる。

(っ! BETAか!? ・・・いや、このパターンは違う。 これは・・・ 戦術機?)

次第に音と振動が大きくなる。 間違いない、戦術機だ。 2機。 しかし、なんだ? こいつ等。 全く静粛警戒していない。
あと数十mのところで、隠れていた大岩から機体を出して、相手の前に出る。


『きゃ、きゃああぁぁぁ!!』

げぇ! いきなり突撃砲を向けやがったっ!

『サーシャ! 撃つなっ! よく見て、日本軍機よっ!!』

後方の奴が警告勧告する。

『はぁ・・・ はぁ・・・ お、驚かさないで・・・』

見ると、Su-27と殲撃9型のエレメントだ。 ソ連軍と中国軍? はぐれ者同士か?


「・・・こんな戦域のど真ん中で。 たったの2機で静粛警戒もせずに堂々とのさばっている馬鹿に。 それも味方誤射しかけた大馬鹿に、言われたくないな。」

突撃砲を向けたSu-27の衛士に、嫌味たっぷりに言ってやる。 寸での処で味方誤射されそうになったんだ。 その位甘受して貰う。

『うっ・・・ そ、それは・・・ 悪かったわ。 こっちのミスよ・・・』

ほう? 意外に素直に引き下がったな?

「で? ソ連軍と中国軍のエレメントか? 珍しいのかどうか知らんが、こんな所で何を?」

『・・・原隊を探しているのよ。 そっちこそ、 日本軍が単機で、どうしてこんな所にいるの?』

「迷子だ。」

『・・・・はぁ!?』

「迷子だ。 原隊とはぐれた。」

『そっ・・・ そっちだって、同じじゃないっ! 何よ! 偉そうに!!』

「・・・味方誤射・・・」

『・・・・っ! ううぅぅ~~!』

ふん、何度でも言ってやる。 
その時、それまで黙っていた殲撃9型の衛士が訝しげな声で尋ねてきた。

『まさか・・・ その声って・・・ 直衛? 直衛なの!?』

は? 誰だ? 俺、中国軍に名前で呼ばれるほど親しい奴は・・・

「・・・誰だ?」

『やっぱりっ! 直衛よっ!  私! 私よっ! 翠華、蒋翠華よっ!』

「・・・・翠華? 翠華なのかっ!?」

『そうよ! ああ! やっぱり直衛だった!!』

データリンクが確立する。 同時に、嬉し泣きのような表情をした蒋翠華少尉の顔が、スクリーンに飛び込んできた。





1993年1月19日 2320 依安東南東15km


中華人民共和国陸軍・蒋翠華少尉。
去年の6月、ちょっとした任務で一緒に行動した。 ただそれだけだ。 公式には。
だが・・・

「へぇ? じゃ、彼が翠華の好きな人なの?」
「ええ、そうよ。 サーシャ。」

どうしてこんな戦場で、俺は身の置き場の無い思いをしなきゃならんのだ?

3機をトライアングルに配置し、索敵死角を無くしている。 機体姿をニーリング・ポジションにして、機外へ出た。
強化装備とのリンクは切っていないから、索敵情報はリアルタイムで確認できる。 BETAが接近すれば、即座に機内に搭乗できる。
そこで、翠華と、サーシャと呼ばれるソ連軍衛士と顔を合わせたのだが。

そうだった。 俺って、彼女に「好きだ」と言われていたんだよ。 忘れた訳じゃないけど、いきなりの再会じゃ、心の準備ってやつが出来ないぞ? ホントに・・・

「見た感じ、同年齢くらい?」

「私と同じ年よ。 サーシャ、貴女の2歳年上。 ね? 直衛。」

「あぁ・・・ そうだな。 って言うか、翠華。 なんでまた満洲に? 華南戦線じゃなかったのか?」

そうだよ。 確か半年前に華南戦線に移動していった筈だ。 彼女と、彼女の部隊は。
向うは今、結構大変になっている筈だから、戦力の抽出なんて余裕、無いだろうに。


「新型の慣熟訓練を受けていたのよ、青島で。 去年の11月から。 でも、満洲方面が怪しくなってきたから、部隊丸ごと、そのまま満洲方面軍に編入されたの。」

「ふぅん? 新型って、あれか? 殲撃9型?」

「そうよ。 直衛とは同じ機体ね。」

まぁ、そうだ。 疾風(92式)の中国輸出モデルが、殲撃9型だしな。 ちょっと、いじってあるのか。 頭部のラウンドモニターに装甲付いているし。


「F-92シリーズって、米国のF-16の盗作じゃない。」

ふふん、と、サーシャと呼ばれたソ連軍衛士が鼻で笑いやがる。

「Su-27か。 所詮、米国のF-14の技術をお情けでグラナン社から貰って、でっち上げた機体だよな? 偉そうな事言えるのかよ?」

こっちが何も知らないとでも思っているのかよ。
すげぇ顔で睨んでいるけど、無視だ、無視。

「あ、あの、サーシャ? 直衛も。 こんな所で、そんな、いがみ合わないで・・・」

翠華があたふたしている。 うん、新鮮だ。


「で? あんた、誰だ? 俺は日本帝国陸軍・衛士少尉 周防直衛。 第119独立混成機動旅団。」

「・・・アナスタシア・アレクサンドロヴナ・ダーシュコヴァ。 ソヴィエト連邦陸軍少尉。 第221軍団、第272戦術機甲師団。」

第221軍団。 右翼機動突破任務部隊か! 

「第221がここに居るって事は。 右翼もかなりの所まで、突破してきているって事か。 原隊とはぐれたって、どの辺でだ?」

「・・・言う必要が?」

「友軍戦線の状況把握だ。 それ以上の意味は無い。 それ以下もな。 それとも、ソ連軍じゃ協同する友軍にさえ、鉄のカーテンを敷くのか?」

「っ!! ・・・座標・N-62-88よ。 明水の北西38km地点。」

「俺がはぐれた地点と近いな。 距離で20km弱か。 予備戦力が投入出来てたなら、突破できそうな距離だ。」

予備戦力か。 そんなもの、一体何処にあるんだ。 左翼で最後の予備戦力が投入されたのは、2時間以上前だ。
国連軍第31師団の残存1個連隊のF-15C(60機程度だった)が投入されて。 まぁ、お陰で一気に30kmほど戦線を押し上げれたんだけど。
その後に重光線級・光線級の掃討に手間を取られて。 大隊は23機で再突撃を開始して、その時点で2機を失っていた。


「・・・ま、我々も同じ様なものね。 師団とは言え、実質1個半連隊ほど。 150機位だった。 アリゲートル(MiG-27)が100機程で、ジュラーブリク(Su-27)が50機程度よ。」

サーシャ。 ダーシュコヴァ少尉がソ連軍の状況を、ぽつりと話す。 
そうだろうな。 右翼部隊も、左翼同様に過酷な突破任務を継続してきたのだ。

「私は、正面戦線の第68軍。 その第108戦術機甲師団だったけど。 戦略予備だったから、何とか定数は維持していた。
突破任務部隊が編成されて、一気に中央戦域を突破しようとしたのだけど。 連隊は、私がはぐれた時点で、70機位に減っていたわ。 N-51-67で。」

翠華の部隊もかなりの無理をしてきたんだな。 最南端の中央戦区から、こんな北まで突破するとは。

状況は・・・ 兎に角、混戦状態である事。 左右両翼は意外と接近している事。 中央からもかなりの戦力が、楔を打ち込んできている事。
決して、暗い状況ばかりじゃない。 もしかしたら、包囲が完成すると共に、中央突破も完成する可能性だってある。 そうなれば、一気に殲滅出来る筈だ。
なら、俺達のすべき事は。

「お互い、一刻も早く原隊に復帰する事だな。」
「ええ。」
「そうね。」

よし。 まずは意思統一。 次に―――

「状況を纏めると。 ここから最も近い距離に居るのは、左翼突破任務部隊だと思う。
再突撃前のブリーフィング情報だが、右翼との邂逅予定地点は、ここから北北東に15km。 ダーシュコヴァ少尉、間違い無いな?」

「ええ。 私が受けた情報でも、その辺りで左翼と合流する予定だったわ。」

よし。 左右両翼の戦術構想は合致している。
後は・・・

「翠華。 中国軍・・・ 正面戦線の突破は、どこまで?」

「こちらも同じよ。 その辺りまで出来れば北上しつつ機動突破。 戦線自体も押し上げて来ているから、左右どちらかの砲撃任務部隊の支援砲撃は受けられるはず、って情報だったわ。」

「それはどうかな・・・」 「難しいかも・・・」

両翼の支援状況を知っている俺とダーシュコヴァ少尉が、同時に呟く。
そろそろ、砲撃部隊の備蓄砲弾量やALM量も、怪しくなってきている筈だ。


「よし。 じゃ、これからの行動予定だが。 北、乃至、北北西へ移動する。 かなりの確率で、左翼任務部隊のどれかに行き当たる可能性は高い。
南の方向は、未だBETAの密度は高いと想定されるしな。 危険だ。」

「異議無しよ、直衛。」
「それしかなさそうだ。 スオウ少尉。」

「それと出発前に補給する。 ここからRUNで5分ほど北に補給コンテナが有る。 日本軍のものだけど、弾薬と燃料は君達の機体でも使える。 まずは、腹ごしらえしてからだな。」

翠華とサーシャが、幾分ほっとした表情を見せる。 彼女達の機体も、燃料や弾薬はギリギリだったのだろう。



補給コンテナで燃料、推進剤、弾薬を補給して、方位3-4-5から、3-5-0を目指して前進を始めた。
翠華はWS-16C改(82式戦術突撃砲)2門と、ALMランチャー2基装備の制圧支援崩れ。 サーシャはWS-16C・4門の強襲掃討装備。

俺がトップにつき、サーシャが中間警戒、翠華が後方支援の簡易縦型陣形を取った。
噴射跳躍は極力行わない。 次に何時補給できるか分らないし、どこに光線級が潜んでいるかも判らない状況では、迂闊に飛んだり跳ねたりは出来ない話だ。
RUN(主脚歩行)で静粛索敵をかけながら、ゆっくりと遮蔽物を利用して移動する。


『直衛。 あれからもずっと、満洲に居たの?』

翠華が秘匿回線を使って話しかけてきた。 まぁ、極々プライベートな話になりそうだし、いいか。
複合センサーと補助光学センサーを見比べながら、答える。

「ああ。 ずっとここさ。 1週間ほど、出張で大連に行った事は有ったけど。 うちの部隊は、北満洲に張り付きだからな。 
翠華は? 華南戦線だっただろ? 他の3人は、元気かい? 確か、周蘇紅上尉に、趙美鳳少尉と、朱文怜少尉、だったよな?」

『・・・よく、半年前にちょっとだけ会った、それも他国軍の≪女性≫衛士の名前、覚えているわね?』

「翠華・・・ 言いがかりだ。 元戦友だ。 忘れたら失礼だろ?」

『むうぅぅ~~~・・・・』

何とか言いごまかす。 ま、まぁ、他の3人とも、ベクトルは違うけど、かなりの美人だったから、覚えていた訳で・・・ 翠華も美人だけど。
って言うか。 それって焼もちか? 翠華?


『周大尉も、趙中尉も。 文怜も元気よ。 3人とも私と同じ大隊に居るわ。』

ふぅん、そうか。 無事なら何より。 って? 大尉? 中尉? 

「昇進したのか?」

『ええ。 今は周大尉が中隊長で、趙中尉は私と文怜の隊の小隊長よ。 9月に半期遅れの新任が入ってきたし、私も先任少尉になっちゃった。』

「そりゃ、凄い。 俺なんか未だ、部隊では一番下っ端だよ。」

『華南は、人員の損耗が大陸の戦線では一番激しいから・・・ 満洲も似たようなものだけど。
それを考えると、直衛の後任が入ってこないって言うのも、変な話ね?』

「まぁ、俺の中隊は去年の6月に編成されて以来、1人の戦死者も出していないから。 戦闘出撃自体は嫌ってほど、こなしてきたけどな。」

考えてみれば、凄い事だ。 今回のような大規模作戦じゃなくても、出撃の度に未帰還機は、他の部隊では必ずと言っていい程出ていた。
俺にしたところで、今の中隊になってからの戦闘出撃回数が20回を超した。 確か、23回出撃だ。 合計で24回だからな。
23回。 大小合わせてそれだけの戦闘を繰り広げながら、中隊は未だ1人の戦死者も、負傷者も出していない。 
後方に位置していたからじゃない。 むしろその逆だ。 いつも俺達の第23中隊は最前面展開を指定される。 大隊の先鋒部隊だった。 
常に真っ先にBETA群に突進し、最後に離脱し続けていた。

俺達の≪ゲイヴォルグ≫中隊が、別名≪不死身≫中隊、と囁かれている所以だ。


『20回以上戦闘出撃して、1人も戦死者無しっ!? それも、先鋒部隊でっ!? ・・・信じられないわ・・・』

うん。 今気付いたけど、俺も信じられない気分になってきた。
なにせ、15回の戦闘出撃をこなせば「エース」 20回で「トップエース」と言われるのだった。

んじゃ、俺達の中隊は?

最高出撃数は、広江大尉の46回か。 正真正銘の化け物だな、あの人は。
次が木伏中尉と、水嶋中尉の33,4回だったな。 あの二人も、立派に化け物の仲間入りだ。
で、先任少尉達が続く。 祥子さんに、源少尉、三瀬少尉、和泉少尉が27,8回のはず。
一番少ないのが、俺達同期組。 俺と圭介、愛姫が24回で、神楽と美濃が23回。

うえっ!? 全員20回以上じゃねぇかよっ!?
ここ3ヶ月程で稼いだ出撃回数だけど・・・


『ぜ、全員、20回以上の実戦出撃経験者? それに、何?・・・・46回!? ば、化け物の集まりなの!? 直衛の中隊って・・・!』

翠華が絶句する。 俺も絶句したい。

『わ、私の中隊も、かなりの歴戦部隊って言われるけど・・・ それでも、中隊長の周大尉でさえ、21回よ・・・
趙中尉や、もう一人の小隊長でも、13,4回だし。 私はようやく、実戦出撃を10回こなした所よ・・・』

うん。 平均的な『歴戦部隊』って、そんな所だよな? どうして俺達の部隊って、こんなに回数多いんだろう? よっぽどBETAに好かれているのか?
その時、サーシャが通信に割込んで来た。

『二人とも。 何時まで秘匿回線使っているのよ? 愛の語らいにしても、長すぎないこと?』

違う。 激しく誤解しているぞ? ダーシュコヴァ少尉よ。

翠華が顔を赤らめる。 いや、そんな誤解を招く表情、しないでくれ・・・
苦し紛れの説明(言い訳)をする。 最後まで疑わしい表情をサーシャは崩さなかったが。


『ああ、日本軍の≪不死身中隊≫の事? 知っているわよ。 こっちじゃ有名だしね。 そう、貴方、あの中隊だったの・・・』

「別段、特別でも無いぞ? 俺達だって、BETAと殺り合う時は怖いしな。 ヤバい場面だって、10回どころじゃきかない。
悲鳴も上げるし、弱音を吐きそうにもなる。 普通の部隊だぞ?」

『それでも、全員生き抜いているのは、凄い事よ。 皆、最後まで諦めないのでしょうね。』

「当然だろ?」

何を言っているのだ? BETAとではなくとも、諦めたら勝負は負けだ。

(『負けたくなければ、見苦しくとも最後まで足掻け。 諦めてご立派に死ぬより、足掻いて生き抜く事の方が、何十倍も勇気が要るのだ。』)

広江大尉の口癖だった。 同時に、俺達の中隊の『鉄則』だ。
そう言うと、翠華もサーシャも、似たような表情をする。 サーシャがぽつりと言った。

『その、最後まで足掻く、と言う事が。 とても難しいわ。 BETAと対峙する恐怖と、死の恐怖に負けて、諦めてしまう事がどれほど多いか。』

『そうよ、直衛。 衛士と言っても、誰も彼も、直衛達のような強い心を持っている訳じゃないわ。 寧ろ、少数派よ、貴方達のような衛士は・・・』

何とはなしに、センサー情報を見つつ、2人の声を聞いている。
出会った場所から大方5kmほど北上出来た。 予定地域まであと10kmほど。 何もなければ、そろそろ『戦場音楽』が聞こえてくる筈だ・・・・ ん? これは・・・


「・・・じゃ、2人とも、その時はあっさりと死ぬのか? 俺は嫌だね。 やりたい事、伝えたい事、他にも色々、山ほどあるんだ。
それをやり尽くすまで、俺はくたばらないよ。 くたばってたまるか。 生き汚くとも、見苦しくとも、生き抜いてやるぞ?
ま、2人がそうじゃないって言うのなら、勝手に死ねよ。 俺は止めない。」

『な、直衛っ!?』
『ッ! スオウ少尉!!』

「戦場で死にたがっている奴を全て助けられるほど、俺は無敵でも万能でも無いさ。 正直、いざって時は自分の事で精一杯だろうから。
その時は、翠華もサーシャも、遠慮なく死んでくれ。 俺に遠慮はいらないぞ?」

『ち、ちがっ・・・! 直衛、そんなんじゃ・・・!』
『~~~~~ッ!!』

「違わないだろ? 翠華。 極論すれば、そう言う事だ。 サーシャ? 何も言えないか?
・・・ふん、 中国軍も、ソ連軍も。 随分と甘い連中ばかりみたいだな?」

そんなこっちゃ、ユーラシアから叩き出されるのも、時間の問題か?
そう言った瞬間。

『直衛っ! 馬鹿にしないでっ!!』
『それ以上の侮辱は、許さないわよっ! スオウ!!』

「馬鹿にするな? 侮辱は許さん? どの口でほざくよ? 今しがたまでの弱気は、どこへ行った?」

せせら笑ってやる。

『直衛・・・ 許さないわよ。 それ以上は・・・ッ!』
『いくらトップエースとは言え・・・ 共に戦場に出ている衛士達をも、侮辱する気なのっ!?』

ふん。 まだ怒る位の気概は残っていたか。 だったら・・・

「だったら、証明して見せろよっ!? 方位3-5-8から0-0-5! 距離600、約1000! BETA共だっ!!」

『『 !! 』』

一瞬、翠華とサーシャの顔が厳しくなる。 ふん、衛士の顔に戻ったな。

「光線級が20体ほど居やがる・・・ 翠華、ALMありったけぶっ放せ。 迎撃照射を確認したと同時に、俺がヘッドオンで突っ込む! サーシャ、後衛支援頼むぞ!」

『『 了解! 』』

「便宜的に、俺が01、サーシャが02、翠華が03でコールする。 よぉし・・・ 攻撃開始!」

『03! FOX01!!』

翠華の殲撃9型のALMランチャーが白煙を噴き上げる。 左右両方で20発を発射した。
発射後1秒、 光線級が気付いたようだ。 一斉に振り向く。
発射後2秒、 迎撃照射が始まった。 数発が爆発する。

「01! エンゲージオフェンシヴ!」

言うなり俺はヘッドオンで水平噴射跳躍。 跳躍ユニットを一気にA/Bまで叩き込む。

発射後3秒、 ALMは1/3程に撃ち減らされている。 BETA群まで距離500弱。
発射後4秒、 再び翠華がALMを発射する。 20発。 良い具合だ。 さっきの照射で光線級は、あと10秒程は照射が不可能だ。 距離400を切った。
距離300、 ALMが20発以上飛び越していく。 光線級の迎撃照射は無い。
距離200、 前面に突撃級が20体に、要撃級が30体ほど。 構わず突っ込む。
距離100、 ALMが着弾する。 光線級が纏めて吹き飛んだのが見えた。 10数体ほど。

よし。

突撃級が加速する。 一気に相対距離が無くなる。 衝突直前で噴射跳躍、そして120mmを後方の要撃級に撃ち込む。
突撃級を飛び越し、着地する寸前で左右の肩部と腰部バーニア、それぞれに左右で逆方向の推力をトレードし、垂直軸旋回しながら着地する。
突撃級のケツを取って、36mmを連射する。 柔らかい裏腹に砲弾が刻み込まれて、6体を無力化する。
反転し、今度は要撃級へ突進する。 サーシャのSu-27と、翠華の殲撃9型の2機が、倒れた突撃級の間から噴射地表面滑走(サーフェイシング)で追随してくる。
サーシャが左右の突撃砲の120mmを放ち、俺の周囲の小型種を掃討している。

『03! FOX01!』

翠華がALMを放つ。 10発。 残弾数10発。
10発のALMは、俺が突進する要撃級に次々に命中する。 何体かはその硬い前腕で防御したようだが、確実に6体が倒れている。 よし、大穴が開いた!

「01より02! 要撃級の穴に突っ込む! 連中が反転したら、ケツから叩き込め! 
03! 最後のALMを光線級に撃ち込め! 迎撃照射のタイミングで俺が突っ込む!」

『02、了解!』
『03了解! FOX01! 全弾発射!!』

全弾発射と同時に、翠華の殲撃9型からALMランチャーが自動パージされた。
残った10発のALMが飛翔音を残し、飛び越えていく。 残った6体程の光線級がそれを認識し、照準を合わせるのが見えた。
同時に噴射地表面滑走(サーフェイシング)で要撃級の穴に突っ込む。

「おおおぉぉぉ!」

左から急速旋回で1体の要撃級が迫ってきた。 120mmを放つ。 前腕でブロックされる が、それで良い。 その僅かな瞬間、奴が動きを止めた瞬間で稼いだ時間で、一気に穴を抜けた。


『01! 援護するわよ!』
『直衛! そのまま!!』

20数体の要撃級が一斉に急速旋回して俺を追撃に入った。 その動作を確認して、サーシャと翠華が36mmの雨をお見舞いする。

同時に光線級が迎撃照射を開始する。 射線上にダブったのか、6本のレーザーに7発が迎撃される。
だが残りの3発は迎撃照射を搔い潜り、着弾した。 光線級が3体と小型種が数10体、吹き飛ぶ。
俺が突入したのは正にこの瞬間だった。

「ふっ!!」

両手2門の突撃砲、その36mmを左右に乱射する。 同時に垂直軸旋回。 360度全周接地旋回射撃で残った光線級3体と、小型種を200体以上霧散させる。
翠華とサーシャは、わずかの時間で要撃級を20体以上無力化していた。 その頃になって、ようやく旋回能力の低い突撃級が向かって来ていた。 14,5体いる。

「02、03! 突撃級を噴射跳躍でやり過せっ! 光線級は片付いた、レーザー照射の心配は無いっ!」

『『 了解! 』』

殲撃9型とSu-27が一気に水平噴射跳躍をかけて、突撃級に迫る。 衝突直前で、噴射跳躍をかけ、飛び越しざまに120mmAPFSDS弾を叩き込み、2体を倒す。 
そのまま着地して垂直軸旋回。 36mmと120mmを背後から叩き込む。

『いやあぁぁぁ!!』
『はあぁぁぁ!』

あっという間に、残ってい突撃級を無力化していく。 

(全く・・・ あの弱気は何だったんだよ・・・)

俺は思わず苦笑してしまった。 かなり酷い言い方をしたが、別段本心じゃないぞ?
あんな心理状態で、今の状況に叩き込まれたら。 万が一の時には、大抵は命を落とす。 そうやって死んでいった連中を、今まで散々見てきた。
誤解されて憎まれても、恨まれても良いさ。 少なくとも、俺への怒りで2人は戦場に立つ気概を直ぐに取り戻した。 あれじゃ、そうそう死にはしない。

そんな事を考えていたら、戦車級に詰め寄られていた。

「ッ! おっとぉ! ヤバいヤバい。」
噴射跳躍をかけて飛び越しざまに120mmキャニスターを叩き込む。 戦車級と他、纏めて数10体が霧散した。

既に厄介な光線級は排除したし、大型種も要撃級は始末した。 突撃級も・・・

『直衛! 突撃級の掃討、完了したわ!』
『そっちはどうなのっ!?』

仕事が早いな。

「今、雑魚の相手をしているよ。 戦車級はあと100体ほどいるが、他は闘士級が500ほど残っている! まずは、戦車級だ!」

『了解! すぐ行くわ!』
『下手を打って、集られないでよっ!?』

殲撃9型とSu-27が突進してくるのが見えた。 翠華はALMランチャーはパージしたが、まだ突撃砲が2門残っている。 サーシャは突撃砲が4門。
戦車級含めて600体の小型種「だけ」を掃討するのには十分な火力だ。

俺は高機動旋回で36mmを掃射し続け。
翠華は周囲を把握し、時折120mmキャニスターで纏めて吹き飛ばす。
サーシャは36mを射撃しつつ、群がってきた戦車級をモーターブレードで轢断した



――――5分後。 俺達はBETAの掃討を終了した。
光線級と大型種を含めて、1000体のBETAを、たったの3機で、だ。


『はぁ・・・ はぁ・・・ し、信じられない・・・』

翠華が荒い息で呟く。

『うそ・・・でしょう? たったの・・・ 3機で、1000体も・・・』

サーシャも現実が信じられないようだ。

「嘘じゃないし、信じていいさ。 実際に俺達はBETA共を倒したんだ。 他に誰か、いたっけか?」

周りはBETAの死骸だらけ。 俺は戦術複合センサーの情報と、光学センサーの倍率を上げて、周辺警戒中だった。


『ず・・・ 随分、余裕なのね、スオウ少尉は・・・』
『直衛・・・ 今までも、こんな戦いを?』

「いつも、って訳じゃないさ。 でも、大規模侵攻なんかじゃ、中隊前面で連隊規模のBETAを、相手取らなきゃならない事だって有ったし。
小隊で大隊規模のBETAと殺り合った事も有るよ。 機甲部隊と協同で、だけどね。
今日は光線級がいたから、骨が折れたけど。 まぁ、ALMランチャーが有った事と、翠華の制圧支援特性が高かった事。 それと近距離で奇襲が出来た事が大きいな。
俺も突撃した時に、サーシャの後衛支援が受けられたのは、有難かったし。」

『そ、そんな事は・・・』
『い、いや、こっちはついて行くのに必死だったから・・・』

照れくさいのか、2人とも、しどろもどろだ。 でも、ホント、良いコンビネーションだったぜ?


「で、どうだ? たった3機の戦術機。 BETAは1000体。 それでも諦めずに、足掻いて戦えば、勝てただろう?」

『あっ・・・・!!』
『・・・結構、性格悪いのね・・・』

「何とでも言ってくれ。 兎に角、俺は死ぬのはゴメンだ。 足掻いて、足掻いて、足掻き抜いて、生き残ってやる。 
他の連中にも、言い続けてやるさ。 『潔い良い死に様なんて、臆病者のする事だ』ってな。」

『スオウ少尉、貴方って・・・』

「何?」

『頑固なのよね、直衛って・・・』
『うん、そうね。 それに、意地っぱり。』

――――うるせぇよ。 

それでも、2人は解ってくれたと思う。 衛士だけじゃない。 全ての将兵。 いや、軍人だけじゃない。 俺達人類は。 最後まで足掻き抜いて、生き抜かなきゃならない。
それが、このBETA大戦が始まってから死んでいった、数十億もの人々に対する、生き残っている俺達が為すべき、鎮魂であり、託された希望なんだ。

「ま、ご大層な言い方をすれば、そう言う事。 俺はそう思っている。」

『キザねぇ・・・』 サーシャが。
『ロマンチストね・・・』 翠華が。

『『 えっ? 』』

そして翠華とサーシャ、二人して顔を見合わせる。

『・・・惚れた弱み? 翠華?』
『な、何よっ! いいじゃない!』


あ、やばい・・・ 戦闘前の1シーンに巻き戻りそうだ。

「ま、まぁ、2人とも? そろそろ出発しないとな? 早く原隊探し出して復帰しないと。 何時までもこんな所、フラフラしてたらヤバいぞ?」

強引に話を持って行こうとしたその時。


『そうだな。 私としても、迷子の部下の捜索などと言う情けない事は、これ以上1秒たりとも、したくは無いぞ? 周防。』


血の気が引くのが解った。 その声は穏やかだが、俺には地獄の閻魔以上の恐ろしさだった。


『さっさと隊に復帰しろ。 これ以上手間を掛けたらどうなるか・・・ 解っているな?』

「マムッ!! イエスッ!! マムッ!!」

『さて、そちらは・・・ 中国軍の蒋翠華少尉に、ソ連軍のアナスタシア・ダーシュコヴァ少尉。 
ふむ。 では、諸君ら両名、原隊復帰までウチの中隊で預かろう。 宜しくな?』

――――鬼より怖い 『夜叉姫』

我らが中隊長、広江直美大尉が、通信回線からにんまりと笑っていた・・・




1993年1月20日 0245 依安東南3km 俺は5時間振りに、中隊へ復帰できた。





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