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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 帝国編 19話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/07 22:54
1998年1月19日 0520 洛東江北岸・南旨(ナムジ) 米第1軍団防衛戦区


『ライトニング・リーダー(第87戦術機甲大隊長)より≪エイブ(第37機甲大隊)≫! M1A1は側面を突いてくれ! C・C(コンバット・コマンド)Aが孤立した!』

『こちら≪エイブ≫、了解した。 F-15Eはなるだけ連中を引き付けてくれ、戦車砲の一斉射撃で大孔を開ける』

『頼むぞ、≪エイブ≫!―――バストーニュだぜ!』

『助ける相手は≪スクリーミング・イーグル≫だ、正にそうだな。 よし! 大隊、一斉射―――撃ぇ!!』

M1A1の44口径120mm滑腔砲M256が数十門、同時に甲高い発射音と共に劣化ウラン弾芯APFSDSを撃ち出す。
1100m/s以上の高速で撃ち出されたその砲弾群が一斉にBETA群に襲い掛かり―――群れの側面に大穴が開いた。

着弾と貫通の衝撃で、射孔から爆発するように内臓物を吐き出す要撃級。
分厚く非常に硬い装甲殻を一撃で射貫され、内部をズタズタにされて停止する突撃級。
戦車級以下の小型種は砲弾擦過の衝撃で切り裂かれ、着弾した砲弾は数体を貫通してようやく炸裂する。

瞬く間に数10体のBETAが骸に変わり、群れに一筋の亀裂が入った。

『よし、道が出来た! リーダーよりライトニング全機、突っ込め! クソッたれなBETA共の死骸で脱出路を舗装してやれ!』

『Aye Aye, Sir!』

30機以上のF-15E・ストライクイーグルが一斉に水平跳躍噴射に入った。
AMWS-21から36mm、120mm砲弾を乱射させて一気に割れたBETA群の隙間に突撃を開始する。
本来の米軍戦術機甲部隊ではありえない情景だった。 彼等は戦場での接近戦闘―――近接機動戦を重視しない。
あくまで無尽蔵とも言える物量での砲撃戦の後での、最終段階での中・遠距離砲戦こそが米軍戦術機甲部隊のドクトリンなのだが―――

『故郷での恨みつらみ―――ここで晴らしてやれっ! 生まれ育った故郷を奪われた者の怒りを! クソBETA共に叩きつけろっ!』

大隊長の英語はどこかの訛りが混じっていたし、部下達も様々な訛りが有った。
そう、彼等は皆故郷をBETAに奪われ米国に命からがら避難し、難民キャンプの中から何時の日か祖国奪回を夢見て―――
何よりも家族の為に、軍に志願した軍隊経験のある難民出身者で編成された遠征軍だった。

多角機動を駆使してF-15Eを巧みに操り左右からの攻撃を回避し、突撃砲弾を叩きこむ。
徐々にBETAの壁が崩れてきた。 徐々に、徐々に・・・

『あと少しだ! 包囲の中の友軍はまだ頑張っている! 貴様等もガッツを見せろ!』

―――『ウィルコ!!』

攻撃の勢いが増す。
突撃前衛エレメントのF-15Eが突入するその直前に、支援エレメントが120mmキャニスターを叩きこんで戦車級の群れを霧散させ突入路を作る。
その突入路に前衛エレメントが突入し、同時に水平噴射跳躍によるフラット・シザースで左右から要撃級の側面に砲弾を叩きこむ。

『ライトニング! こちら≪アラモ≫! 救援感謝する!』

『≪アラモ≫! 今度はもう少しマシな名前を付けな! 毎度、毎度、全滅しそうじゃ身が持たんぞ!』

『じゃ、次は≪テクシャン≫にでもするか!』

『ボージュの森はBETAの腹の中だ! それに我々は≪Purple Heart Battalion≫じゃない! そんなのはゴメンだ!』

部隊を隔てる『壁』が縮まる。 あと少し、あと少し・・・
突撃級の側面ややり過ごした後背から砲弾を浴びせかけ、要撃級の高速旋回を逆用して両側面から攻撃を仕掛ける。
胴体背後から体液と内臓物を垂らしながら尚も暫く突進した特撃級が、パタリと停止する。
側面や背後から砲弾の雨を浴びせかけられた要撃級の胴体が寸刻みに大穴を空けられ、やがて千切れ飛ぶ。
このまま後数分もすれば必ず突破口が開く。 輪の中の友軍も必死に内部から砲弾を浴びせかけ、BETAの輪を薄くしていっている。

―――あと少しだ。

誰もがそう思ったその時、大隊長の直協支援に当っていた指揮小隊2番機(小隊長)が自機のセンサー異常に気付いた。

『・・・ん? ッ!! ライトニング21よりリーダー! センサーに地中震動波キャッチ!―――多い! すごく多い!!』

『なんだとぉ!?』

その瞬間―――大地が割れた。

『ベッ、BETA・・・! この期に及んで地中侵攻だとッ!?―――うわあああ!!』














1月19日 0545 半島南部・昌原(チャンウォン) 国連軍司令部


『東海岸の第1海兵軍団より入電! ≪蔚山防衛は不可能。 後方20kmの温山(オンサン)にて戦線再構築す≫、です!』

『中央戦線の韓国軍第1軍団司令部からです。 蔚山西方20kmの彦陽(オニャン)から国道35号線沿いにBETA群1万以上が防衛線を突破して南下中!』

『韓国第2軍団、密陽(ミリャン)から押されています!』

東部防衛線司令部―――国連太平洋方面第11軍司令部には、次々に悲観的な報告ばかりが入って来ていた。
西部に比べて圧倒的に多いBETAの数。 味方戦力は西部の倍も無い。

『第3海兵軍団より入電! ≪光線属種至近! 第3海兵航空団は実質的行動力を喪失!≫、第1海兵軍団からもです!』

『韓国軍首都防衛軍団より、増援要請!』

『第7艦隊司令部より入電! ≪フェニックス残弾無し、艦砲射撃は続行≫』

確実に押されている。 このままでは撤退自体が満足に行えるかどうか・・・
当初の構想では戦力を半島南東部に集中配備してBETAの侵攻を支え、海上からの分厚い支援攻撃の元で確実に撤退するプランだった。

計画が狂った初端は韓国軍の反発だった。 西南部に居残る民間人の脱出の為と称して戦力を移動させなかった。
流石に国連軍(実質は米軍)と言えど、主権国家内部の防衛戦略には強硬な口を挟めない。
何とか東部の戦力と、大東亜連合軍に統一中華軍、そして日本帝国軍で戦線を構築しようとしたのだが・・・

まず真っ先に日本軍が『反旗』を翻した。 東部戦線への移動命令に対して曖昧な応答を繰り返すだけ。 結局はそのまま光州方面の防衛に居座る始末。
その態度を見た大東亜連合軍と統一中華軍もそれに倣った。 恐れていた事だ、大東亜連合は国連と国連軍(ひいては米国)に不信感を持っている。
そして統一中華軍内部では、未だ主導権争いが継続中だ。 共産党軍系の部隊では素直に従わないだろうとは予測していたが・・・


「クソッ、ジャップめ! 連中が黙って移動さえしておれば、ここまでカオスじみた戦況にはならなかったものを・・・!!」

響き渡る怒声に司令部内で参謀達やオペレーター達が顔を見合し、首をすくめる。
この数日間というもの、バークス大将の機嫌は最低ラインをとうの昔に割っている様だったからだ。

「最悪、西部の韓国軍2個軍団をそのままにしていても! ジャップの1個軍団にアジア連中の1個軍団、2個軍団を東部に集中出来ていたら・・・!
戦線全体にもっと厚みを持たせる事が出来た! カヴァーの薄い戦域へのフォローも出来た!
ジャップの艦隊をイエロー・シー(黄海)に張り付けにさす事などせずに、半島南部海域で支援行動に使う事もッ ・・・ダムッ!」


実際問題として、来襲してきたBETAの総数は東部方面の方が遥かに多い。 そして全兵力を集中しつつ持久して、タイミングを見計らって一気に撤退を行う。
それが当初の基本方針だった筈だ。 『国連軍』第11軍での指揮官会議でもその方針で決まった筈だった。

(―――それをアジアの連中、土壇場で異議を唱えたばかりか勝手な行動に走りやがった!)

特に許せないのはジャップのアヤミネだ!―――バークス大将は内心で、何を考えているのか判らない表情の変化に乏しい日本人将軍を罵っていた。

韓国の連中が反発する事はある程度予想はしていた。 だから連中の主力(第1、第2、首都防衛の3個軍団)は最初から全て東部に配置した。
西部には移動までの時間を稼げる最低限の戦力のみとしたのは、間違いとは思わない。
一気に殲滅されたのでは東部防衛線の準備が整わないうちに、西部からBETAに侵入されてしまう。
韓国の2個軍団程度の戦力は、遅滞防衛戦闘には必要と判断したからだ。

ジャップの1個軍団、それに大東亜連合とチャイナの1個軍団相当、合計2個軍団はもしもの時の保険。
本来の計画では小白山脈からの東部防衛線へのBETA群の侵入阻止と、東部防衛線への総予備として使う筈だった。
その為に西部防衛線の東部戦域に配置したのだ。

(―――だが、そのまま居座れとは命じていない!)

あまつさえ、西南部の中心である光州にまで移動するとは! お陰で小白山脈付近の兵力分布は、当初から危険なまでに薄くなってしまった。

韓国政府の再三再四の避難命令にも従わなかった『民間人』30万人の為に、経験も実績も豊富な戦闘部隊があちらこちらで殲滅される危機に直面しているのだ。
その数11個軍団! 兵力は実に50万以上!―――『避難拒否不法在留民』の30万を逃がす為に、50万もの戦闘要員が!

(―――ここで50万もの兵力が失われてみろ! 極東防衛体制に大きなひび割れが入るのは確実だ!
合衆国はそこまで甘くない、後で泣きを見るのは自分達だと言う事が判らんのか、あの大馬鹿者どもは!!)

怒れば怒る程、その怒気は益々猛ってくるのだ。

(―――アヤミネがあの時迅速に移動しておれば、南原からのBETA群流入は喰い止められていたモノを!
いや、せめて数日間でも良い、流入を遅らせておればこんな事態には! その為にチャイナの連中を指揮下に入れてやったと言うのに!)

最悪、韓国軍の2個軍団は捨て石でも良いと考えていた。 どうせ連中はこちらの思惑に完全には従わないだろう。
しかし韓国軍と違い、日本帝国軍は今回『国連軍』として派兵されている。 日本独自の指揮系統を一時的にせよ離脱し、国連軍第11軍指揮下の軍団なのだ。
そして第11軍の司令官は自分であり、指揮下部隊への命令権は自分が有しているのだ、だと言うのに!

(―――あの男! リザルトとプロセス、その区別もつかん馬鹿者め! 必ず告発してやるぞ! 国連軍事法廷に必ずや立たしてやるからな!)


「・・・官! 司令官!!」

「ん? 何だ!? 何事だ!?」

自分の憤怒の感情の殻に閉じこもっていたせいか、副官の呼びかけに全く気付いていなかった。
ようやく我に返り、多少気恥ずかしい気分で余計に怒気を込めた声で聞き返した。

「第1軍団司令部より緊急電です! ≪BETA群の地中侵攻、0530≫ これ以降、第1軍団司令部は音信途絶状態です!」

「なん・・・ だと?」

―――第1軍団が? 音信途絶? そんな馬鹿な!

「閣下、急ぎ脱出のご準備を」

参謀長が思いつめた表情で督促する。 
気に入らない、全く気に入らない。 今の戦況も、『部下』の造反も、第1軍団の音信途絶も―――連中は何をやっておるのだ!

「―――呼びかけ続けろ! ガードナー(マイケル・ガードナー中将、第1軍団長)を叩き起こせ! 出るまで呼びかけ続けるんだ、いいな!?」

「・・・閣下、状況から判断しまして、第1軍団は既に・・・」

「馬鹿を言うな! 第1軍団だぞ!? 合衆国最強の第1軍団だぞ!?―――南旨(ナムジ)を突破されてみろ! この司令部まで、まともな防衛戦力は残されておらん!!」

司令部全員に緊張が走る―――いや、恐怖だ。 
司令官が言う通り、第1軍団が破られたとあっては、第11軍司令部がある昌原(チャンウォン)までまともな戦力が存在しない!

「呼び続けろ! 第1軍団が応答するまで!」

バークス大将がそう叫んだのとほぼ同時に、通信参謀が真っ青な表情で飛び込んで来た。 恐怖に顔が引き攣っている。

「・・・韓国軍第52、第53郷土防衛師団が5分前、BETA群と交戦状態に入りました!」

「む、うっ・・・!」

韓国軍第52、第53郷土防衛師団、この総司令部の前面5kmに位置する警戒部隊。
その実態は予備役兵で構成された軽歩兵部隊、BETA群とぶつかれば10数分で壊滅は確実だろう。 
そして続け様に軍通信大隊付きの通信将校が飛び込んで叫んだ。

「BETA群は約1万! 一部は韓国軍防衛線を既に突破、約4000が殺到してきます!」

「防衛大隊指揮官より至急電! ≪阻止は不可能! 時間稼ぎは5分が限界!≫、以上です!」

一瞬沈黙が下りる。 次の瞬間、バークス大将の悲鳴の様な怒声が響いた。

「撤収せよ! 大至急! 撤収だ!」















1998年1月19日 0625 朝鮮半島南部・光陽 帝国軍独立混成戦闘団本部


「続報が入った、南原は完全に破られた。 韓国軍首都防衛軍団と米第1軍団の間隙に割り込まれたらしい、東部防衛線は四分五裂の状態だ」

光陽に展開する陸海軍の地上戦力を統括指揮する事となった第1大隊戦闘団の宇賀神少佐が、居並ぶ大隊長・中隊長級指揮官の前で苦虫を潰した表情で説明を開始した。

「東海岸のBETA群は現在3万3000。 米海兵軍団と第7艦隊が蔚山(ウルサン)付近で陸海の双方から阻止攻撃を行っているが・・・ 正直、釜山突入は防げないだろう。
中央戦区は大邱(テグ)が陥落した。 今は密陽(ミリャン)で韓国第1軍団、第2軍団がBETA群1万9000と交戦中だ」

密陽に司令部を構えていた国連軍は、既に後方の昌原(チャンウォン)に後退している。
そして米第1軍団は洛東江北岸の南旨(ナムジ)で1万3000のBETA群と、韓国首都防衛軍団は山清(サンチョン)で小白山脈を越えた1万2000のBETA群を迎撃中だった。

宇賀神少佐が続ける。

「警戒すべきは南原で統一中華軍を破ったBETA群だ。 1万2000が小白山脈を横断して東側に殺到した、これは今、韓国軍の首都防衛軍団が相手取っている。
残る内の8000が西海岸からの流入個体群と合流して、1万6000程で第8軍団本隊に向かっているが、6000程が谷城(コクソン)の東脇をすり抜け南下中だ。
谷城の統一中華軍にはそれを押し止める余力が無い。 BETA共がそのまま南下してくれば、この光陽(クァンヤン)を直撃する」

その説明に、光陽に集結した陸海軍地上戦力を脳裏で整理してみた。
戦術機甲部隊は4個大隊(陸軍3個、海軍1個相当)で160機。 
戦車は3個大隊。 自走砲、自走高射砲は陸軍・海兵隊合わせて各4個大隊。 
機械化歩兵装甲部隊は3個中隊、機動歩兵は6個中隊。

(―――思ったより戦力はある、1個戦術機甲師団には達しないが、旅団規模を上回るか。 砲兵の面制圧攻撃力と後方兵站が薄い事がネックだな・・・)

それでも2000から3000程度のBETA群なら、光線級に余程悪い場所を陣取られない限り充分阻止できる。
後退中の統一中華軍がどの程度の戦力を維持しているかにもよるが(光陽・麗水方面への撤退指示を受けたらしい)、その残余を合せると・・・

「かき集めれば、6000程のBETA群の阻止は可能ですね」

「そうだ、周防。 台湾軍は未だ70%の戦力を維持している。 中国軍は流石に酷いが、合わせれば1個師団にはなるとの事だ。 問題は光州だ・・・」

第8軍団本隊は1万6000程のBETA群を相手取っている。
殲滅される程の大群ではないが、押し戻すには戦力が少し足りない。 このままだとジリジリ押し込まれるだろう―――戦力は75%に低下しているのだ。

「光州の防衛線が下がれば下がる程、こちらへの流入個体群が増えます。 向うの様に砲兵部隊が十分にある訳ではありませんわ」

「そう、それに西部海岸線区の様な艦隊からの支援も有りません。 降りかかる火の粉は払いますが、それ以外は手を出すと大火傷を負います」

祥子と第1大隊の古村―――同期の古村杏子大尉が相次いで懸念を示す。
つまり2人の言いたい事は―――今となっては、防衛線に突っかかって来るBETA以外は無視してしまうのが得策だと。
兎に角民間人の脱出までの時間を稼ぎ、その後は部隊の撤退を最優先させる事。 既に全軍の方針は撤退と決定しているのだから。


「第1防衛ラインはどこに?」

第1大隊の間宮―――半期下の間宮怜大尉が、直属上官である宇賀神少佐に確認する。
代わって荒蒔少佐が脇に立てかけた戦術地図に歩み寄って、指揮棒代わりの棒っきれで地図上を叩く。

「順天(スンチョン)から光陽(クァンヤン)のラインを守らねばならん。 その前面10kmのラインに防衛線を敷く。
西から第3、第1、海軍341、東が第2の各戦闘団を配する。 今回は何と言っても機甲戦力や砲兵戦力が不足している、基本は12個戦術機甲中隊での機動防御戦だ。
防衛線の底を機甲戦力と砲兵戦力で守る。 最低でもあと3時間、民間人全てが脱出するまで」

「BETAは今、谷城(コクソン)の東・・・ 距離で35km程です。 どんなに遅くとも1時間後には、普通に判断すれば30分後には防衛線到達です」

―――30分。

和泉大尉の言葉に、真っ先に機甲中隊の中隊長達が走り出そうとした。 次いで自走高射砲部隊の指揮官達が。
自走砲部隊の指揮官達は再度、砲弾備蓄量を確認する為に動こうとし、歩兵―――機械化歩兵装甲と機動歩兵部隊指揮官は見事な敬礼を残して出て行こうとした。

―――その時。

「緊急電! 国連軍第11軍司令部が陥落!」

第2大隊CP将校で有り、通信当直将校である富永大尉が駆け込んできて、悲鳴のような声で報告した。
そしてその場に居合わせた皆は一瞬、その言葉の意味が呑み込めなかった。

「・・・悪い、何と言った? もう一度言ってくれ」

宇賀神少佐の声が掠れている。
富永大尉が今度は少し息を整え、出来る限り平静さを保とうとして報告する。

「韓国軍首都防衛軍団よりの緊急電です。 ≪0535、米第1軍団司令部壊滅。 0615、国連軍第11軍司令部壊滅、バークス大将戦死。 我、撤退す―――0625≫、以上です!」

半島防衛線の東半分が崩壊した。 いや、半島防衛自体、撤退戦自体が崩壊した―――総司令官戦死とは!
誰もがそう思ったその時、凶報が続け様に飛び込んで来た。

「米海兵隊が海上の第7艦隊まで撤退を開始しました! BETA群が釜山に突入! 韓国軍第1、第2軍団反転! 釜山へ後退中です!」

「米第8軍団長のカーライル中将、第11軍指揮権委譲を宣言しました!」

「第7艦隊、 陸上の光線級との交戦で被害甚大! 揚陸艦の40%を喪失! 砲撃支援中の戦艦群、巡洋艦群へも被害拡大中です!」

「西部防衛司令部、光州(クァンジュ)・霊光(ヨングァン)を放棄しました! 羅州(ナジュ)=咸平(ハンピョン)に防衛線を再構築中です!」

東は崩壊した、もう統一された防衛戦闘が出来る状況じゃない。
西は後退した、木浦(モクポ)を守る最終防衛ラインまで。

「指揮系統が無茶苦茶だ・・・」

荒蒔少佐が掠れた声で呟いた。
今しがたの混乱した受信内容で、米第8軍団長のカーライル中将が第11軍の指揮権委譲を宣言したが・・・
実は西部にはカーライル中将より上位者である、孫栄達韓国軍大将が西部防衛戦の総指揮を執っている。
それに東部では韓国軍首都防衛軍団長の金昌正中将、西部では帝国軍の彩峰萩閣中将の方がカーライル中将より序列が上の筈だ。

「第8軍団司令部は何と言ってきている?」

「相変わらずです、『当初の任務を遂行されたし』 それ以外は何も・・・」

宇賀神少佐の問いに、富永大尉も戸惑い気味に答える。
この期に及んでも尚、光陽の戦力を使わないか。 何か裏でもあるのか・・・?

「・・・光陽(クァンヤン)港の民間人最終脱出時間は、0705―――あと30分」

荒蒔少佐が時計を見ながら確認する。

「そこから光線級の見越し距離圏外までの脱出時間を・・・ 2時間見込まなければならんな」

第3大隊長―――確か大江と言う名の少佐だ―――が周りをゆっくり見まわして言う。

「問題はその次ね、私達の脱出手段は第3護衛戦隊の輸送用戦術機揚陸艦が到着してから―――あと3時間後」

海軍の白根少佐が妙に白けた口調で言う。

「つまり、その間にBETAが攻め込んで来たら―――孤軍奮闘と言う訳だな」

宇賀神少佐の声は苦渋を通り越して、既に呆れた感がある。
どれ程のBETA群が気紛れを起こして攻めかかってくるのか想像もつかないが、少なくとも半島東部で暴れまわっている数は約7万前後。
それに西部の約4万からどれだけが気紛れを起こして向かってくるか。
少なくとも我々の周囲には援軍として見込める友軍戦力は存在しない、万以上の数で攻め込まれたら―――今度こそ靖国行き確定と思われる。

「行動方針を達する」

宇賀神少佐が一同を見まわして、ゆっくりした口調で話し始めた。

「直接攻め込んでこない個体群は一切無視する、例え友軍の救援要請があったとしてもだ。
最優先事項は民間人脱出までこの場を死守する事、次に我々自身の脱出―――余計な消耗は許されていない」

皆が押し黙る。 非情だがどうしようもない、この戦力だけで大騒ぎの主戦場に駆けつけても焼け石に水だ。
精々が少しの時間を稼ぐ程度で、その後は殲滅されて終わりだろう。 なら当初の予定通り、民間人の脱出を最優先させる。 
その後は自身の脱出―――元々が半島脱出作戦なのだ、無駄死にで戦力をすり潰す愚に付き合う必要はない。


「・・・そう言えば、統一中華の連中はどこまで後退したのです?」

ふと思い出した事を口にしてみる。
1個師団程度の戦力を保有していた筈だ、連中が加われば随分と楽になる筈だが・・・
俺の声に周りが富永大尉を見つめる。 通信班なら把握しているのでは? と思ったのだろう。
富永大尉が記録紙をめくりながら確認している。

「・・・谷城(コクソン)から30分前に北東の河東(ハトン)に移動しているわ、ここから10km程ね―――合流を打診しますか?」

最後の一言は宇賀神少佐に確認したものだ。

「してくれ、戦力は少しでも多い方がいい。 指揮系統は混乱してしまうがな」

帝国軍への指揮権は、台湾軍―――中国軍残余を含む統一中華軍は持っていない。
持っていた国連軍司令部は崩壊したようだ、ちょっとやり難くなりそうだな。

「了解しました、至急確認します」

富永大尉が本部を出て通信班指揮所に走って行った後、宇賀神少佐が各指揮官へ通達した。

「状況は困難が予想される、だが何時もの事だ。 何時も通りにやろうじゃないか」





高機動車で大隊陣地へ向かう途中、最後まで気にかかっていた事をつい荒蒔少佐に問い質してしまった。

「大隊長、結局第8軍団司令部は我々を使いませんでしたが・・・」

「―――他言無用だぞ、3人とも」

後席の少佐の声に、助手席の俺も、ハンドルを握る美園も、少佐の隣の祥子も無言で頷く。

「本来、我々独立大隊戦闘団は戦闘参加を許可されていない。 あくまで国連へのポーズとして派兵された戦力だ。
再建途上、何より第3世代・準第3世代機で構成された、本来なら虎の子の部隊。 そしてその事は参謀本部から第8軍団司令部へも厳重に通達が行っている」

―――かき集めれば旅団以上、師団以下にはなる3個大隊戦闘団を、彩峰中将が最後の最後まで使わなかった理由のひとつはそれか?

「派兵の直前に師団長と連隊長から聞かされた。 それに彩峰中将は昨年の旅順半島撤退戦で下手を打った責任を、軍部内の一部から問われている」

―――確かに中将指揮下の軍団がBETAの地中侵攻を喰らって前線崩壊したのが、昨年の遼東半島撤退戦、あの負け戦の直接のきっかけである事は確かだ。

「参謀本部からは強く圧力をかけられていたらしい。 指揮下の第8軍団を遼東半島と同じ目にあわす事は許されないと。
汚名挽回の場を用意する代わりに、戦力の消耗は決して許さない―――上も酷な事を言う」

―――片手、片脚の自由を奪った上で、それでも結果を出せ、か・・・ 確かに酷な話だ。

「・・・私が思うに、中将は中将なりに本国の意向と現実をすり合わせようと、なさっていらしたのではないでしょうか?」

「どう言う事だ? 綾森大尉」

祥子の呟きに荒蒔少佐が反応する―――美園と、実は俺もだ。

「はい、大隊長の先程の言葉で考えてみました。 1つは『国連軍と一定の距離を置く事』―――今回も司令官はあのバークス大将です」

―――バークス大将。 2年来、米国から『派遣』された国連軍太平洋方面総軍第11軍司令官。 そして昨年の遼東半島撤退以来、日本嫌いで有名な将軍だ。

「そこに新たな帝国軍派遣司令官が今回も彩峰中将・・・ 朝鮮半島での第8軍団は、必ず最も危険な戦場に投入され続けたと聞きます」

本国からの指示で無くとも、指揮下の部下達をすり潰されて気分の良い指揮官はいない。 中将は中将で、部下を無駄に死なさない為に戦ったと言う事か。
バークス大将の好悪の念が強すぎたと言えるが、例えば、例えばだ。 遼東半島で最後まで戦力を維持して撤退戦を主力で戦い抜いた安達中将。
もし安達中将が第8軍団長として赴任していたならば・・・ ここまで露骨な扱いはしなかっただろう。

「もう一つは、大東亜連合と統一中華との関係改善。 遼東半島で少々ひびが入ったかと見たのではないでしょうか?
韓国政府もあの撤退戦の直後は帝国政府に対して遺憾の意を示す、などと言っておりましたから」

本来なら本国召還の中将をそのまま半島に残らせて再派兵戦力の指揮を執らせたのも、大亜細亜主義者の中将が持つコネクションを使っての関係改善が目的か?

「光州に残留する民間人の保護を要請され、断らなかったのは韓国、ひいては大東亜連合との関係を良好に保つ為―――ものの見事に、裏目に悪い目が出てしまったと言う訳か」

大隊長がしめた言葉に、思わずため息が出る。
ある程度は中将の裁量に任されたのだろうが、噂に聞く人柄では生真面目に守り通そうとしたのだろうか?―――無理と、無茶と、現実とのすり合わせを。

「・・・その結果がこの状況だなんて! 無茶ですよ、そんなの! 本国も判っているんじゃないですか!?」

急に美園が怒りだした。

「これだから中央の減点主義者は! 何も判っちゃいないんですよ、現場の事を!―――所詮、官僚ですよっ 連中も!」

言いたい事は判る。
八方美人の玉虫色の作文を作成する事だけに長じた秀才軍官僚が書いた、玉虫色の妄想。 だがそれを実現する事がどれ程困難な事か!

「成功すれば自分達が立案した策の優秀さの証明! 失敗すれば現場の無能!―――36mm砲弾をしこたま叩きつけたいですよ!」

「―――そこまで。 言い過ぎよ? 美園」

「なんで!? 悔しくないんですかっ 綾森大尉!」

「だから熱くなるな、美園」

「ッ! 周防さんまで! 悔しくないんですか!? 何時だって最後は現場が責任をおっ被せられて!!」

「纏めて叩き殺したい位、憎いよ。 でも今は我慢しろよ―――生還するまでな」

―――あ、美園が引いた。 祥子も少し引き攣っている。 ちょっと声色が冷たすぎたか? 感情が逆にこもっちまったか?

「・・・思っていても実行には移すなよ、周防?」

「―――ご心配なく。 しませんよ、そんな事」

ああ、大隊長まで・・・
ふとサイドミラーに映った自分の顔が目に入った―――何て表情だ、何て顔してやがる。
笑いながら怒っている。 怒りながら笑っている。 状況に怒りながら、殺す様を想像して笑いながら―――おい、冗談じゃないぞ。
そんなことしたら、今度は国連軍への左遷なんて甘い処遇じゃ済まないからな? 確実に軍法会議で銃殺刑だぞ? いいな? 判ったな?


「・・・とにかく、今は陣地に戻って防御態勢を整えるのが先決だ。 BETAが来るにせよ、来ないにせよな」

大隊長が難しい表情で腕組しながら、腹の底から絞り出すように言葉を吐き出した。
そうだ、俺達の後ろには未だ無力な民間人が大勢いる。 せめて彼らが無事に脱出するまでは―――正直、もう目前で無力な人間がBETAに食い殺される様は見たくない。


―――それはとても、とても甘ったるい願望でしかなかったのだが。



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