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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 帝国編 16話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/17 23:38
1997年12月20日 1600 日本帝国 福岡県 陸軍築城基地 第181戦術機甲連隊 第2大隊事務室

(―――ん?)

窓から外を一瞥し―――冬だ、随分暗くなってきている―――北の方角を無意識に見た。
見える筈も無いのに、夕暮の空の彼方の大地からBETAの禍々しい大群が押し寄せてくる、そんなイメージがふと湧いたせいだ。

「周防、どうした?」

書類から目を離し、俺の所属する大隊―――第2大隊長の荒蒔芳次少佐がこっちを見ている。

「あ、いえ。 どうやら気のせいの様です」

「―――おい、まさかとは思うが・・・」

「大丈夫ですよ、もうそんな細かい神経は戦場に置き忘れました、ご心配なく」

本国にも俺が欧州での一時期、戦場神経症にかかった事は報告されている。
今となっては時折、笑いのネタにされる程度だったが・・・ 流石に少佐も今回の派兵にはナーバスになっているか。

「ですよねぇ? 周防さんがそんな上等な神経、持ち合わせている筈ないですもんねぇ?」

「・・・なあ、美園。 俺は時々、少尉時代に戻りたい衝動を抑えきれそうにないぞ?」

横で憎たらしい事を言っているのは、第3中隊―――23中隊長の美園杏大尉。
既に十分な経験を積んで中隊長になった彼女だが・・・ 憎ったらしい!
大隊先任中隊長で第21中隊長の祥子―――綾森祥子大尉はそんな様子を笑って見ているだけだ。 大体が、祥子は美園と仁科に甘過ぎる!

再編された181連隊の布陣は第1大隊長が広江直美中佐。 その下に木伏一平大尉、神楽緋色大尉、そして18師団生え抜きの葛城誠吾大尉が配されている。
第2大隊長は荒蒔芳次少佐。 先任中隊長が綾森祥子大尉で、以下は俺―――周防直衛大尉と美園杏大尉の3人の中隊長がいる。
第3大隊長は森宮左近少佐。 先任は伊達愛姫大尉で、他に市川英輔大尉と仁科葉月大尉―――昔の後任の方割れ―――が配された。

連隊長は曽我部啓三大佐。 帝国戦術機甲部隊の黎明期、最初期の衛士だった人だ。
士官学校の出身者だが、頭の柔らかい『話せる上官』だと言う評判の人物。 藤田大佐の先輩でもある。
但し、戦術機甲科を体現したような人物だとも・・・

『戦術機甲科は、命令下達が終わらないうちに行動を開始する』

最もこの評価は機甲科(戦車乗り)も同様だが。
昨今では戦術機を降りて、戦闘指揮車両に押し込まれるのが不満らしい―――ご老体、無茶せんで下さい、って言うのが連隊総員の意見だ。


「しかし何とか配備機体を94式で固めて貰ったモノの・・・ 蓋を開ければ半島派兵組とはな」

「タダで良い目は見られないって事ですか。 最新鋭機を渡したのだから、元を取ろうって事でしょうね」

俺の言い方に荒蒔少佐も苦笑する。
そりゃそうだ、他の大隊―――第1と第3は92式だからな。 それでも贅沢だ、今現在派兵されている第8軍団は77式が殆どだし。
同じ第9軍団でも14師団と18師団は94式1個大隊と92式が2個大隊で固めたが、29師団は77式の2個大隊が主力で残る1個大隊は89式だ。

戦術機甲部隊が94式と92式でのHi-Low-Mixで構成されている師団は、陸軍では第14、第18の2個師団。 
本土防衛軍でも西部軍管区の第9師団と、中部軍管区の第1、第2、第3師団の4個師団のみで合計6個師団(宮城警護の禁衛師団は、89式装備部隊だ)
残る戦術機甲師団―――15個戦術機甲師団のうち、92式と77式の組み合わせが4個師団で後の11個師団は全て77式装備部隊だ。

94式は現在でも6個大隊しか存在しない、非常に貴重な部隊でもある。 92式にしても16個大隊しか存在しなかった―――両機とも、急ピッチで大増産がかけられてはいるが。
(『機甲師団』、『機動歩兵師団』等に1個ずつ配備される戦術機甲大隊は、全て77式装備)

最新鋭機が配備されて喜んだのも束の間、大陸派遣に選ばれたのは第18師団からは俺達の第2大隊。
第14師団からは宇賀神少佐の第3大隊―――やはり94式配備部隊で、この大隊には和泉大尉に古村と間宮が居る。 第29師団は89式装備の第1大隊が抽出された。
それぞれが機甲・自走砲・高射各1個中隊に機械化歩兵装甲1個中隊、機動歩兵2個中隊と支援部隊を付けて、諸兵科連合の『大隊戦闘団』として派兵される事になった。

「しかし、たった3個大隊戦闘団だけとは・・・ BETAの大群の前ではクソの役にも立ちませんよ」

「ですよねぇ? 上は何を考えているんでしょうか?」

俺の疑問に美園も同意する。 これが軍団単位なら話は早い、師団でも増援と言うのなら判る。
だが今回は合わせれば戦力的に1個旅団に準ずるとは言え、後方支援能力は比較にならない程貧弱だ。 
まともな継戦能力などありはしない、上級部隊あっての独立戦闘団なのだから。

「どうやら、まともな前線への展開は無い様よ?」

祥子が気になる事を言う。

「・・・どう言う事ですか? 綾森大尉」

そんな俺の物言いに、美園が噴き出しやがった。 荒蒔少佐も、大隊CPの富永大尉も笑いを堪えている―――くそう、プライベートを知られているのも考えモノだな。

「漏れ聞いた話だけれど、国連の再三再四の再々派兵要求にこれでお茶を濁すようよ。 戦力的には1個戦術機甲連隊、プラスアルファ。
師団とは言わなくても、旅団規模の戦力だし―――でも分散して後方拠点警戒に使うとか何とか・・・」

「正直な話、これ以上の再派兵は軍としても勘弁して欲しい、って言うのが本音でしょうね。
連隊も正直言って実戦投入できるレベルには未だ・・・ 大隊も怪しいですからね、せめて戦場の空気だけでも嗅いで来い、と言った所でしょう。
幸いと言うべきか、先月の初めに大東亜連合が増援を1個軍団(3個師団)派兵したので、兵力的には少し余裕が出たわ」

祥子と富永大尉が裏事情を話す。
それは確かに漏れ聞こえる話だが・・・ 下手をすれば米国がブチ切れるぞ?
あの国相手に外交的綱引きをするのも良いが、落とし所は考えての事だろうな?

(『国家間の相互安全保障―――同盟もそうだ。 どちらか一方が、一方的に義務を負う事では無い』)

昔、まだN.Yに着いたばかりの頃の会話を思い出した。

(『お互いの国益に合致する限り。 双方、若しくは複数はその義務を履行する。
しかしそれが崩れた時、一方的な負担は許容できないし一方の主張ばかりを聞き入れる必要は無い。
何故か? 国家と国民の契約、その不履行だからさ。 国際外交もまたしかり』)

―――そう言ったのはオーガスト・カーマイケル、N.Y時代の友人の一人。 あの頃は合衆国陸軍中尉。 もう3年も前だ、進級しただろうか?

予備将校―――元は一市民のオーガストでさえ、あの様に言い切るアメリカ。 帝国はそれを理解してやっているのか?


「出発は年末の12月27日。 博多港から海上護衛総隊の戦術機揚陸艦、『大隅』、『国東』、『下北』に分乗する。 半島到着予定は翌28日、14師団と29師団は3日遅れだ。
半島南西部の木浦(モクポ)に上陸後、光州へ移動する。 以降は第8軍団司令部指揮下に入る、以上だ―――質問は?」

ここまで来ては特に無い。 後は少しだけ細かい調整を各所と済ませるだけだ。
いずれにせよ再派兵だ、今回は余計に気を引き締めなければならない気がする―――何となく、勘だったが。











1997年12月25日 1610 朝鮮半島南部戦線 全州南東 長水(チャンス) 中国軍野戦陣地


「ムーラン(木蘭)・リーダーより中隊各機、全速で全州防衛線に向かう! 
韓国軍が押されている、後ろの光線級を始末しない事には随分と楽しい状況になってしまうわ!
いい? 戦域制限高度は50! それ以上は上がるな、いいか!?」

―――『是!』 一斉に部下達から応答が入った。
9機に減った中隊を指揮する中国軍の朱文怜大尉はその声の力強さに無意識に安堵し、そして幾人の声がこの夜までに聞こえなくなるだろうかと思った。
自身が所属していた第4野戦軍は既に消滅した。 今は生き残りをかき集めた第1野戦軍の第16集団軍―――実質戦闘力は1個師団を上回る程度―――に編入されている。

機体の跳躍ユニットを吹かし、低高度NOEを開始する。 どうにも機体が重い、機動も思う様な機動にならず無意識のうちに苛立ちが募る。
無理も無い、今までは機動性に優れた殲撃10型Dに搭乗していた。 だが相次ぐ撤退により器材は驚く程のスピードで消耗されていった。
今、彼女の中隊は小破程度で済んだ殲撃8型に、韓国軍から供給されたF-4Eのパーツを組み込んで何とか動かしている。

夕暮が迫る赤く焼けた空の下、半島南部を東西に隔てている小白(ソベク)山脈の尾根沿いに複雑な曲線飛行を行う。
跳躍ユニットからの排気炎が青白くたなびき、夜の闇が迫りつつある山麓を照らし出す。
極力光線級に捕捉されるリスクを低減させる為とは言え、一歩間違えればそのまま山腹に激突しそうなスレスレの飛行だった。

≪CPよりムーラン・リーダー! ジューファ(菊花)中隊が任実(イムシル)から上がった! 
邂逅地点はB7R、10分後だ。 全州の東から回れ、まだ山岳地帯は残っているからな!≫

「ムーラン・リーダー、了解―――ジューファだけなの? 他の中隊は!?」

≪3個中隊を錦江防衛線に出している! 台湾軍のご機嫌は取っておかないとな! 残る1個は最後の予備戦力だ!≫

(―――ちっ! たったの6個中隊! 集団軍の全戦術機甲部隊が、定数を割った6個中隊だけだなんて!)

西部の16集団軍だけではない、東部を守っている56集団軍とて似たような状況だった。
これに辛うじて戦力と言える戦術機を保有している韓国軍と日本軍の1個軍団、そして増援の統一中華と大東亜連合軍の合計3個師団(台湾、フィリピン、インドネシア各軍)
後は国連太平洋方面第11軍―――米第2戦術機甲師団と、米第1、第3海兵師団が最後の頼みの綱だ。

急に目前に山麓が迫る、スラスターノズルの角度を微妙に変えて揚力を増し飛び越える―――よかった、まだ光線級はいない。

「リーダーより各機、LANTIRN(夜間低高度赤外線航法・目標指示システム)セットアップ」

そろそろ目視での機動が心許ない時間帯になってきた。 ここは『鷹の目』を早いうちに使う事にし、部下へ指示を出す。
網膜スクリーンに映し出されていた薄暮の薄闇の世界が一変する。 輪郭がはっきりして明るい世界だが―――色調は単純化される。 
薄暗闇や完全な夜間の作戦行動には欠かせない装備だ。 だがそれが映し出す世界の色調は余り好きな世界では無かった。

(―――とは言え、そんな贅沢なんか言ってはいられないのよ。 それでなくとも私達は数少ない戦術機部隊。 
使えるものは何でも使って、生き抜かなきゃならないのよ・・・)


≪・・・リーダー! CPよりムーラン・リーダー! 応答せよ! ジューファ中隊との邂逅地点は間もなくだ! ムーラン・リーダー!≫

―――はっ!

どうやら無意識に思いに浸っていたようだ、CPの声に気付かなかったとは・・・ 朱大尉は己の失態に思わず舌打ちする。
ここは戦場なのだ。 戦場でいちいち感傷に浸る余裕など有るものか! そんな事では美鳳に何を言われるか。
重傷を負った周少佐にも雷を落とされる。 今はここに居ない、欧州に残った数少ない同期生の親友―――蒋翠華にも笑われるだろう。
欧州からの途切れがちな便りで知った、彼女も大尉に進級したらしい。 今ではやはり進級したアルトマイエル少佐指揮下の1個中隊を預かる中隊長だ。

(―――しっかりしなさい! 文怜!)

自分に気合を入れて、そして真っ直ぐ前を見つめる。 
起伏がかなり緩やかになってきている、戦場音楽が騒がしい―――間もなく戦場だ。

「ムーラン・リーダーよりCP、了解した!―――こちらムーラン・リーダー! ジューファ・リーダー、邂逅ポイントはB7R! 美鳳、宜しい!?」

『ジューファ・リーダーより、ムーラン・リーダー。 邂逅ポイントはB7R、了解―――文怜、余り心配かけるものではなくてよ?』

南南西方向から夕焼けをバックに10個前後の影が、排気炎を引いて高速で飛んでくる。 
やはり殲撃8型の戦術機中隊が姿を見せた、こちらは10機。

≪CPよりムーラン・リーダー! ジューファ・リーダー! まもなく戦域突入! BETA群は約1万5500、光線級は約150体を確認! 
要塞級、重光線級はまだ確認されていない! 師団規模だ、韓国軍第6軍団が相手取っている! が、流石の王虎将軍―――白慶燁中将でも持て余し気味だ!
迂回して厄介な光線級を排除しろ! 韓国軍の1個戦術機甲大隊が反対側から挟撃体制に入った!
それと更に50km後方の大田(テジョン)に新手が約2万! 行先は南か東か、動向は不明!≫

―――了解。

朱大尉と趙大尉が揃って応答する。 同時に部下へ指示。
19機の殲撃8型が一斉に高度を下げ、跳躍ユニットの噴射制御パドルを全閉塞。 同時に逆噴射制御パドルを一気に全開する。
接地する直前に再度噴射制御パドルを全開にし、緩降下から着地せずに水平噴射跳躍(ホライゾナル・ブースト)に入った。

既に夕闇が辺りを支配する地表を、土煙を上げながら数100km/hの速度で高速移動する。
やがて左前方、10時方向に重金属雲を確認。 韓国第6軍団所属の重砲部隊が盛大に面制圧砲撃をかけている。 
夕空に鈍く輝きながら伸びてゆくレーザー照射がはっきり見える。 そのすぐ直後にBETA群を視認した、前衛の突撃級BETAの集団が猛速度で突進をかけている。
だがこの前衛集団はやり過ごし、中衛集団の外縁部ギリギリを高速突撃で交わして敵後衛集団へ。

『見えた! 光線級!』

部下の声がはっきり聞こえた、ここからが本番だ。

「ムーラン・リーダーより中隊各機! 目標は光線級! A/B放りこめ!」

―――『是!』

『ジューファ・リーダーより全機! 要撃級と戦車級はジューファ中隊で相手取る! ムーラン中隊が光線級を狩り終えるまで、1匹たりとも近づけるな!』

―――『応!』

跳躍ユニットを吹かしながらBETA群の只中へと踊りこむ。 暫くして光線級の予備照射が始まった―――

「―――遅いっ!」

逆噴射制御パドルを一気に全開しながら滑りこむように光線級の群れの中に割り込み、左右に突撃砲の36mm砲弾を浴びせかける。
同時に部下の8機もそれぞれ目標に対して36mm砲弾、120mmキャニスター砲弾を叩きつけた。
光線級BETAが乱戦の最中に合って、レーザー照射が出来ない状況を作り出す事に成功した。 左右の突撃砲を猛射しつつ、片っぱしから掃討し続ける。

視界の片隅に要撃級の群れが接近してくる、戦車級も結構いる―――趙大尉の中隊が横合いから36mmと120mmの猛射を加え援護位置に入った。
要撃級が横合いからの脅威に対して得意の高速接地旋回を開始し、『ジューファ』中隊に襲いかかった。 
趙大尉の『ジューファ』中隊はそれに対して近接戦を挑まず、サーフェイシングで後方に一旦距離を置く―――射撃を加えながら。

同時に韓国軍のF/A-92Kが30機前後、反対側から殺到してきた。 1個中隊が光線級狩りに加わる。

『文怜! こいつらはこっちで引き離すわ! 光線級の始末をお願い!』

「了解、美鳳! 無理しないで!―――中隊! 要撃級と戦車級は『ジューファ』と韓国軍が引きつける! その間に光線級を平らげろ、超特急よ!」

―――『是!』

部下が一斉に唱和する。
朱文怜大尉はその声に、自らをも奮い立たせるように叫んだ。

「私達は―――私達がユーラシアの砦よ! 一人一人が! だから―――BETA共を押し返してやれ!!」














1997年12月27日 1400 玄界灘 帝国海軍海上護衛総隊 戦術機揚陸艦『大隅』


昼下がりの玄界灘を10数隻の小艦隊が航行している。
先頭は汎用駆逐艦、その後を同型の2隻が並んで航行している。 艦型から『松』型駆逐艦と判った。
その2隻の後方を戦術機揚陸艦が8隻、2列になって続航している。 いずれも『大隅』級だ。
陸軍戦術機甲1個大隊40機、それに海軍基地戦術機甲部隊を2個戦術機甲戦闘隊80機に、合計120機を運んでいる。

後方には艦隊旗艦のイージス駆逐艦『夏月』が占位して、最後尾は先頭と逆のパターンでやはり『松』型駆逐艦が配されている。
3里離れた後方海域には、やはり駆逐艦と海防艦に守られた輸送船団が続いている筈だ。

『大隅』の上甲板(発進甲板の1コ下層甲板だ)に出て、舷側のハンドレールを掴みながら大海原をぼんやりと眺めていた。
冬の海を吹き抜ける風が冷たい。 冬季用BDUの上に防寒ジャケットを着こんでいても、突き刺さるような冷たさだ。 風も強く波が白立っていた。

年末も押し迫ったこの日、師団から戦術機甲第2大隊を中核とする戦闘団が派遣された。 その一員として俺は今こうして、戦術機揚陸艦に揺られて半島へと向かっている。
思い返せば92年から93年までの最初の派兵、そして96年から97年までの2回目の派兵に続き、今回で3回目の派兵だ。
この回数は同期や前後の期の中でも多い部類に入る。 しかし上には上がいるもので、祥子など今回が4回目で最も派兵回数が多い衛士の1人になっていた。
普段の彼女からは想像出来ない。 実際、初対面の人は必ず驚く。 外見と言い、雰囲気と言い、衛士と言うより広報部担当官の方が似合うと思う。

「・・・実際はあれでも歴戦の衛士で、中隊指揮官なんだよな」

彼女が聞いたら、まず怒って膨れるだろうセリフが出る。 
別に乗艦して以来、彼女が海軍の連中に滅多やたらとモテていると聞いたのが、面白くない訳じゃないからな?

「何てセリフ、声に出ているぞ? 周防大尉」

背後からの声に振り向くと、1人の海軍将校がニカっとした笑みを浮かべて立っていた。 菅野直海海軍大尉。 戦術機乗りで海軍では少数派の基地戦術機甲部隊に所属する。
服装は俺と同じだが、彼女のやつは海軍用のネイヴィブルーのジャケット。 陸軍用のモスグリーンのジャケットに比べて、どこかアカ抜けている気がするのは気のせいか?

俺より頭一つ小さい小柄な体形、短く切ったショートヘア。 くるくるとよく変わる表情に陽気な性格―――絶対、愛姫と気が合いそうだと思う。

「聞き流してくれ、菅野大尉。 それよりこんな寒風吹きすさぶ上甲板にどうして?」

「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ。 なあに、艦内・・・ 衛士詰め所は陸軍さんに占領されているし。
士官室に居ても上官ばかりで息が詰まる。 ガンルーム(第1士官次室)に遊びに行こうにも今は航海中だ、ヒマなのは庶務主任(主計中尉)か軍中(軍医中尉)だけだしね」

で、ふらふらと艦内放浪していた訳さ―――そう言ってケタケタと笑う。
確かに、『大隅』に搭載されている戦術機は陸軍機(94式『不知火』)が1個中隊12機に対して、海軍機(96式『流星』)は1個小隊4機。
菅野大尉の中隊は分散搭載されていたと言っていたな、確か。

「で、さっきまで格納甲板で戦術機の状態なんか確認していたのだけどね。 その時にアンタを見かけてさ。
熱心に海軍機を見ていたから珍しくてね、声をかけようと思っていたら出て行ったからさ」

で、追いかけてここに来たと?

「正解―――海軍機がそんなに珍しいかい?」

―――海軍機か。 思えば今まで搭乗した経験のある機体は全て陸軍機だったしな、当然の如く。

「・・・今まで陸軍機しか搭乗経験が無いからね、当然だけど。
ただ戦場でお目にかかった事はある、米海軍のF-14とかF/A-18とか。 全くメジャーじゃないが、フランス海軍が運用している『シュペルエタンダール』とかも」

―――これは確か、アルゼンチン海軍も採用していた筈だ。

「へえ? 『シュペルエタンダール』かい? 珍しいね、私は見た事が無いよ。 確かF-5系列の機体だったよね?
あれは確か第3世代機『ラファール』が完全に陸軍仕様になったから、引き続き運用される事になったと聞くね」

―――英国も次期第3世代機が陸軍仕様機になる予定の為に、英海軍は暫くF-4の性能向上型で対応するらしい、国連軍時代に聞いた話だが。

「英国海軍には帝国の企業が売り込みをかけているよ。 他にもドイツやイタリア、スペインとか。
海軍でも戦術機―――戦術歩行戦闘機を運用している国にね。 海兵隊向けはA-6の独断場だから無理だけれども」

―――噂に聞く96式の販売攻勢か? 米国のF-18と思いっきり競合していると聞くな。 いや、確か欧州に売り込みをかけているのはF/A-18C/Dか。
今のところは第3世代準拠機のF/A-18より、純粋な第3世代機の96式の旗色が良いと聞くが・・・ どうなる事やら。

と、その時波浪がきつくなってきた。 どうやら対馬海峡を過ぎて東シナ海に入ったようだ。 左手前方の彼方に五島列島、右手前方に済州島が見える

「うう、寒い! そろそろ艦内に入らないか? 流石に凍えるよ、冬の海は」

「海軍さんでもか?」

「海軍でも! 士官室で午後のお茶でも、ふるまってあげるからさ。 中に入ろうよ」













1997年12月27日 1950 朝鮮半島南部戦線 全州南東10km


完全に夜の闇に包まれた戦場で、100機近い数の戦術機が高速NOEで移動している。 流れ去る足元には、醜い内臓物をぶち撒けたBETAの死骸が散乱していた。
今回は上手くいった、面制圧砲撃に紛れて迂回しつつ複数ルートから接近出来たからだ。 その為に後衛の重光線級どもは直前まで、自分達を補足する事が出来なかった。

統一中華・大東亜連合合同の混成打撃機動部隊、それも連隊規模での戦術機部隊と言うのはこの戦場では久々の打撃攻勢だ。
戦闘開始から55分後、集団軍司令部に光線属種殲滅の報を入れる。 同時に戦線を急速離脱―――友軍の砲撃に巻き込まれてはたまらない。
前衛と中衛の残りは正面で戦線を担っている韓国軍と、後詰の日本軍に任せればなんとかなる。

「ムーラン・リーダーより中隊各機、RTB!」

『ジューファ・リーダーより全機、帰投する!』

頭上を守る光線級のレーザー照射を喪った師団規模のBETA群は、中・近接攻撃を仕掛けた友軍によって撃退されるだろう。
だが後方の鉄原ハイヴ周辺にはまだ数万を超えるBETA群が残っている。 最近はその動きも活発だ、油断は出来ない。

その時、彼方から重低音が鳴り響いた。 後方の砲兵陣地から大口径自走砲が長距離砲撃を再開したのだ。
どうやら20km程北の益山(イクサン)付近に纏まっている旅団規模の残存BETA群へ撃ち込んでいる様だ。
時折とてつもなく大きな轟音が聞こえるのは、黄海に展開した日本海軍の艦隊からだろう。 あの大音声は戦艦の主砲以外にない。
迎撃レーザー照射が立ち上るが、砲撃量に比してその数は余りに少なかった。 重金属雲が発生高度を徐々に下げ、やがて地表に連続した土煙が起こる。

後方の戦場から視線を外して長水の陣地方向に目を向けた時、ふと朱文怜大尉の目に光州方面からも制圧砲撃―――M270・MLRSの一斉発射が見えた。 日本軍の第8軍団だ。
複雑な気分だった。 日本人の中には親しい戦友も居る、共に地獄の様な戦場を戦ったものだ。

でも―――今はその気持ちが揺らぎそうだった。

(―――ねえ、直衛、圭介、直人・・・ どうしよう?)















1997年12月27日 2000 東シナ海 帝国海軍海上護衛総隊 戦術機揚陸艦『大隅』


士官室の時計を見れば2000、夕食後に菅野大尉が士官室付きの従兵に言って2人分の熱い紅茶を用意してくれた。
上陸前日に酒は流石に拙い、それに部下への手前もある―――しかし相変わらず海軍の食事事情は良いな。 今夜の夕食もそうだった、羨ましい。

「別に、陸軍と食材は同じだけどね? 海軍は専属のコック(炊烹員)が各艦に居るし、昔から艦内生活じゃ食事が最大の楽しみだから」

そう言って菅野大尉は紅茶をすする。 成程、確かに狭い艦内生活じゃ楽しみは『飲む、食う、寝る』だと聞くな。 それで色々と手を変え、品を変え、か。
それでも、贔屓目に見ても食事の見た目の豪勢さは海軍の方が陸軍より余程上だ、今日の昼食は洋食のフルコースを模したものだったし。

「だから言ったでしょ? 食材と摂取カロリーは同じよ。 陸軍は工夫が足りないのよ、工夫が!
因みに今日は金曜日だから、夕食は『金曜カレー』だったのよ」

「ああ、そうか。 確か海軍名物だったな。 兄や叔父に昔、艦内案内につれて行った貰った時に食べた事が有る」

結構美味しかった記憶が有る。 
曜日感覚が薄れてしまいがちな艦内生活で、決まった曜日に決まった食事を出す事が始まりだったと聞いた。

「お兄さんに叔父さん? 周防大尉、アンタ身内が海軍なの? 艦隊? 陸上?」

「今は2人とも艦隊。 兄は2艦隊で重巡『最上』の主計長をやっている」

本当は兄貴と叔父貴だけじゃないのだけどね。
父方だけでも海軍に身を置く従兄弟達は6人居る、兄貴を入れて7人だ。 1番下(直秋の妹)はまだ、海軍衛士訓練校の訓練生だが。
陸軍は俺と直秋、それに2歳年長の従姉の3人だ。 母方を入れれば軍人の親族はもっと増えるけどな。

「ん? 『最上』の主計長? 誰だったかな・・・?」

「―――周防直武海軍主計少佐。 前は軽巡『阿武隈』の主計長だった」

―――確か『九-六作戦』の後で一時陸上の工廠勤務になったと聞いたが、昨年からまた艦隊勤務に戻っている。

「ああ、思い出した。 確か長嶺少佐や白根少佐のコレス(海軍3校同期生)の人だった、以前何かで聞いた事があるよ。 で、叔父さんは?」

「周防直邦海軍大佐。 以前は国防省軍務局軍事部で軍務課長をしていたけど、今年4月から戦艦『駿河』の艦長だ」

「へえ、『駿河』艦長の周防大佐。 アンタ、大佐の甥御さんだったの?」

「―――知っている?」

「知っているも何も、私は海兵(海軍兵学校)の116期だけどね。 周防大佐は当時少佐で、116期の期指導官だったのよ。
変わった人だったよ?―――ジェントルマンでは有ったけどね」

何処がどう変わっていたかは聞かない事にしよう、何となく判るから。


暫く2人で雑談をしていたが、会話が途絶えた。 
俺は煙草を吹かしながら時折紅茶を口にして。 菅野大尉は舷側の窓から見える海原の波頭を眺めていた。

「―――第3艦隊」

不意に菅野大尉がポツリと漏らす。

「戦艦『駿河』と言えば第3艦隊の第6戦隊。 青森の大湊軍港が拠点で北方海域担当―――確か先月に対ソ連支援でウラジオストーク沖に展開したね」

「ああ・・・ 向うは向うで、撤退戦の最中で大変らしい。 何とか樺太まで残存戦力を撤退させようとしていると聞く」

戦艦『遠江』、『駿河』 中型戦術機母艦『飛鷹』、『準鷹』を主力とした第3艦隊が沿海州沖に派遣されたのは先月の上旬。
H20・鉄原ハイヴのフェイズ3到達と時を同じくして、H19・ブラゴエスチェンスクハイヴからの飽和BETA群が沿海州に殺到してきたのだ。
それまでは南満州・朝鮮半島へ侵攻してくるBETA群はH19かH18・ウランバートルハイヴからが主力だった。
だがH20・鉄原ハイヴが出現した後は、H19・ブラゴエスチェンスクハイヴのBETA群が沿海州・シベリア方面へと侵攻方向を変えたのだ。

ソ連と同様に帝国にとっても沿海州、そして樺太陥落は北方防衛上看過し得ない重大事だ。 至急海軍は北方警備担当の第3艦隊を急派して支援に当った。
同時に陸軍も、戦略予備の虎の子としていた第7軍団から第5師団と支援旅団を付けて派遣していた―――が、なかなか厳しい状況らしい。

「南は朝鮮半島南部、北は沿海州から樺太。 考えれば帝国は、同じ島国とは言え英国より本土防衛が難しいね・・・」

―――確かに。 今現在は朝鮮半島南部にスポットが当たっているが、北も北で見過ごせない。
沿海州と樺太北部を隔てる間宮海峡は狭い上に冬季は凍結する。 そして樺太と北海道北端はお互いを視認できる程の距離しかない。
これ以上H19・ブラゴエスチェンスクハイヴの活動が活発化すれば、沿海州のソ連軍は樺太に全軍撤退だろう。 どれだけの戦力が撤退できるか・・・
場合によっては、本土防衛軍の北部軍管区を更に増強しないといけないかもしれない。
となると東海か東部軍管区から引き抜くのか、西部や中部軍管区からは無理だ。

「海軍が陸軍と縄張り争いしながらも、海兵隊装備だけじゃなく母艦や基地戦術機甲戦力を維持しているのはその為よ」

菅野大尉が難しい顔をして呟く。 その言葉に頷いて、俺が話を続けた。

「陸軍以上に緊急即応展開能力が高いからな、艦隊は。 つまり、火消し役か」

―――そう言ってお互い溜息をつく。 

尻に火がついた戦場に急行して力づくで火消しに回る、当然損害も大きい。
基地戦術機甲部隊にせよ、陸軍や本土防衛軍で手が回らない手薄な戦域に張り付いて孤軍奮闘する。
絶対数では陸軍の方が衛士の数も戦術機の保有数も多いが、客観的に見て海軍の衛士の方が訓練にかける時間も多く、腕利きが多い。

だがそんな腕利きでも死ぬ時は死ぬ。 特に激戦場に急遽投入されるようなケースでは。
ふと菅野大尉を見る。 彼女もそうやって多くの仲間を失ったのだろう。

「・・・今回の半島派遣、海軍はどこに?」

「木浦(モクポ)と、麗水(ヨス)ね。 何の事は無い、撤退する為の港湾拠点の維持・確保だよ。 そっちは?」

「詳しくは向うに着いてから。 だけど部隊内の話では光陽(クァンヤン)か順天(スンチョン)・・・ こっちも最終撤退拠点の確保らしい」

話していてお互い溜息が出る。
BETAを押し返す反攻作戦なら士気も上がるが、今回はお互いに撤退準備の為の派遣。 それも最後の最後まで指をくわえて戦闘参加はなさそうだ。
もし戦闘参加の場面が有ったとしても、それは最終局面での戦闘参加。 つまり悲惨な殿軍をやらされること必至だとは。

「・・・どうせなら、頃合いを見てさっさと撤退させて欲しいねぇ」

「そうだな、そうすれば苦労しなくて済む」

その時はお互い判らなかった、まさかあの様な結末になろうとは。














1997年12月27日 2200 朝鮮半島南部戦線 全州南東 長水(チャンス)南方10km 中国軍野戦陣地


南部とは言え冬だ、半島でもかなり寒い。
宛がわれた2人用の簡易テントに潜り込むと、長年の僚友である趙美鳳大尉が既に休む支度をしていた。
戦闘に次ぐ戦闘、休める時はさっさと休まないと体力が保たない。

朱文怜大尉は自分も寝袋に潜り込み、ランプの灯りを消して―――ふと、隣で眠ろうとしていた友人に声をかけた。

「―――ねえ、美鳳。 私、日本人が信じられなくなってきちゃったわ・・・」

「どう言う事? 文怜?」

やはりまだ眠っていなかった趙美鳳大尉が顔だけ向けて問いかける。

「だってそうじゃない? 今の彼等は光州(クァンジュ)付近に逼塞して、滅多に最前線へは出てこないわ。
出てきても積極攻勢は行わないし・・・ 難民がいる場合だけは別だけれども」

「―――直衛や、圭介、それに直人は違ったでしょう? それに以前一緒に戦った祥子や愛姫、それに広江少佐も」

―――思わず痛い所を突かれたと思った。 
彼女にしても、国連軍時代からの戦友である日本人衛士達を信じないと言うのではない。 
長年背中合わせで戦ってきた。 信用も、信頼も出来る戦友だ、だが・・・

「それは・・・ 彼等は戦友よ、長い時間を共に戦ったわ。 信じられる・・・ だからこそよ。 同じ日本軍、同じ日本人なのにどうして?」

「彼等も本国の命令に従わねばならない軍人よ、それ以上は私も判らない。 でも彼等のお陰で全州の市民や難民の多くが助かったわ。
11月のあの日、民間人が避難する時間を稼ぐ為に総崩れ寸前の36度線防衛ラインに軍団ごと突入していったのは日本軍よ、彩峰中将の英断だわ」

「・・・それは認めるわ。 あの時日本軍が後退どころか逆襲に転じなければ、防衛線はもっと早くに崩壊していた。
その結果として友軍だけじゃなくて、全州から避難しようとしていた50万人以上の民間人の命が救われた事も認めるわ・・・
でもね! その中将が! 難民たちや大東亜連合が言う、その『仁徳将軍』が! どうして友軍の危地には動かないの!? 周少佐はもう衛士復帰は不可能なのよ!?」

彼女の敬愛する上官、周蘇紅少佐は10日前の戦闘で瀕死の重傷を負った。
辛うじて命は取り留めたが最早、衛士復帰は不可能と判断される程の重傷だった。
それもこれも、あの時に日本軍が側面支援に入ってくれていたら・・・

「無理じゃなかったかしら? あの時の日本軍は、BETAの攻勢を正面から迎撃していたわ」

「・・・個体数3000のBETA群を3個師団でねっ! 1個師団くらい回せるでしょう!? いいえ、1個連隊・・・ 1個大隊でも良かった! それだったらっ・・・!」

この間も感じた気持ちの揺らぎ。 その揺らぎはどうしようもなく、彼女の中で大きくなっていった。


(―――どうしよう。 ねえ、直衛、圭介、直人。 本当にどうしよう? こんな気持ち、私イヤよ・・・)







1997年12月28日早朝 第181戦術機甲連隊所属、独立第2戦術機甲大隊戦闘団は木浦(モクポ)に到着、朝鮮半島の土を踏んだ。





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