<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7678] 帝国編 15話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/15 01:58
1997年12月5日 1400 アメリカ合衆国 ワシントン・コロンビア特別区(ワシントンD.C.) ホワイトハウス ウェストウィング(西棟) オーバル・オフィス(大統領執務室)


先週まで降り続いた大雪は今週に入ってようやく止み、この数日は冬晴れの晴天が続いている。
ポトマック河畔のこの街は、まもなくやってくるクリスマス休暇に浮かれた雰囲気が漂ってくる事だろう。―――だが、それはあくまで外の世界の事だ。
半世紀前より世界をリードし、今や世界の決定権すら有するに至った合衆国の中枢であるこの場所には、そんな雰囲気は欠片も無い。

この日、オーバル・オフィスに集まったメンバーは12名。
合衆国大統領、同副大統領、国務長官、国防長官、財務長官、大統領首席補佐官、国家安全保障問題担当大統領補佐官の正規メンバー7名。
そして国務副長官、国防副長官、財務副長官、国家情報長官、統合参謀本部(JCS)議長がオブザーバーで参加していた。

「ではアジア太平洋方面、その極東防衛戦略ラインはタイワンからオキナワ、オガサワラ、ホッカイドウを経てサハリン、カムチャツカに至る。
これを最終防衛ラインプラン、『ケース・パープル』とすると言うのだね、諸君?」

大統領の視線に、並居る合衆国のブレイン達が頷く。
完全極秘の国家安全保障会議、その僅か12人のメンバーで今非常に重要な決定がなされようとしていた。

「国防総省としては、朝鮮半島の維持はもはや不可能と判断しております。 後は如何に損害を小さくしての撤退を完了さすか。
当初はそのまま日本国内基地での再編成を考慮しておりましたが、現在のプランはハワイ、グアム、そしてフィリピンのスービックに分散展開せねばなりません」

「やはり、日本国内の駐留は難しいかね?」

「大統領閣下、我が軍内部には日本と日本軍に対する不信感が日増しに高まっております。
遡れば96年の派遣軍の一方的な縮小、これは国連への事前説明も無しに行われた事。 その為に軍事バランスが崩れ、中国東北部の大崩壊に直結しました。
更には今年初頭の遼東半島でも同様、日本軍の独断による早期半島撤退により、国連太平洋総軍第11方面軍(軍集団)―――我が太平洋軍―――の戦略意図が崩れました。
その為に遼東半島のみならず、中韓国境線はBETAに突破されて平壌、ソウルは陥落。 今やBETAの南部侵入を何とか遅らそうと絶望的な防衛戦を展開しております。
―――日本は明らかに国連安保理を、そして我が国との安保条約を無視しております」

国防長官の説明に、背後に控える国防副長官が補足を入れる。

「現在、日本は1個軍団を朝鮮半島に再派兵しております。 が、現地司令部からは非常に扱いづらいと。
現地難民の避難支援行動を第1とし、戦略的軍事行動に必ずしも合致しない傾向にある。―――簡潔に言えば、11軍集団のバークス大将の命令を無視する傾向にあると」

「命令無視? 戦場でのそれは例え将官であれ、重大な犯罪ではないか! バークスは何故処罰しない?」

国防副長官の説明に、大統領は不愉快な表情をあからさまに示す。

「明らかな無視ではありません。 が、逆にBETAの動向を利用して行っている節が有ると。
バークスもそれを盾に取られると何とも・・・ なにしろ相手はBETAです、予測がつきません」

「それに、日本軍の現地指揮官を早々に処罰できない別の理由も有ります」

国務副長官(帝国の外務副大臣に相当)が話を繋げる。

「日本軍の現地司令官は、シュウカク・アヤミネ中将。 長く軍教育畑を歩き、高潔な人格者として日本軍内の一部に熱烈な支持を有する将軍です。
それに新任の副帝(米国での『政威大将軍』の通例名称)の教育係を務めていた人物でもあり、日本の貴族社会(武家社会)にも知己が多い。
今下手な対応を行えば、我が太平洋軍はバークス大将共々に朝鮮半島でBETAの貪欲な腹の中に収まってしまうでしょう。
―――在日大使館から、日本国内のアンチ・アメリカの空気が醸造されつつある、その様な報告も入っております」

「・・・だが、日本は存続させねばなるまい? 先程の極東防衛ライン、『ケース・パープル』は最悪を想定したケースだ。
本来であれば『ケース・イエロー』、日本列島そのものを最終防衛線とする、そうだった筈だ」

不機嫌そうに呟いた財務長官が、大統領を含む出席者一同を見渡す。

「財務長官。 最早、軍事的にそれを許さぬ地点まで来ていると言っているのだ」

国防長官が財務長官をジロリ、と睨みつける様に言う。
が、その視線に全く怯まずに財務長官が国防長官へ言い返す。

「軍事を支えるのは経済だ。 君は合衆国経済を取り巻く状況を理解しているのかね!?」

「残念ながら、私は合衆国の国防に責任を持つ。 経済は君の責任範疇だな」

「そうか、なら教えてやろう―――現在、アメリカは国連拠出金の22%を負担しておる。 戦況の如何によってはこれが更に増える事になる。
それだけではない、我が国はIMF(国際通貨基金)、米州開発銀行(IADB)、アジア開発銀行(ADB)の最大融資国だ。
それに欧州復興開発銀行(EBRD)に対しても、昨年には最大融資国となった。―――貧乏人共は、我が国の財布の中が無尽蔵だとでも思っておるのか!? 軍も同罪だ!」

財務長官が憤慨と共に、財務副長官へ詳細を説明するよう指示する。

「想定では、日本国内が戦場となった場合の我が国の国連拠出金額比率は、32%から最大37%に増大します。
そしてIMF、ADBへの融資比率も現在より10%から15%増える予想です」

「―――それは、日本の分を肩代わりする為かね?」

大統領が確認する。
財務副長官が大きく頷き、説明を再開する。

「はい、大統領閣下。 この数字は日本全土が陥落せず、何とか持ちこたえたとした場合のケースです。 お手元の国際担当財務次官レポートを参照下さい。
完全に陥落した場合、更に5%程の上乗せ修正が必要となりましょう。 ADBに対しては、『日本亡命政府』への大規模な資金援助も必要になろうかと。
しかしそのような支援は必然的に国内経済を圧迫します。 国内金融担当財務次官レポートの冒頭に、今回想定の場合の国内経済支援に必要な総額が記されております」

「しかし、欧州と極東の戦場で企業は順調に売り上げを伸ばしている筈だが? 国内市場も活況だ、そうそう心配は無いと思うが・・・?」

国防副長官が口を挟む。 財務副長官がわざとらしく嘆息し、言い返す。

「国家財政の使い道は、国際支援だけではないのだがな? 別紙に各省庁よりの来年度概算要求額の総額と、国家歳入予定額が記載されているよ。 見ると良い」

財務副長官の言葉に居並ぶ高官達が目を通し―――沈黙する。

「国内には相変わらず難民が流入し続けております。 
アフリカや中南米が経済的に成長しているとはいえ、所詮外資の導入が無ければ崩れ落ちる砂上の楼閣だ。 それを支える費用は?
我が国が、『世界で最も安全な唯一の大地』である事を証明する為の、様々な国内政策。 それを支える費用は?」

居並ぶ高官達を見まわし、最後に大統領をチラっと見た後に話を続ける。

「おまけに軍備は年々増加している。 国防予算は前年の4900億ドルから、今年度は10%増しの5390億ドル―――来年度要求は6000億ドルだ。
知っておられるか? 世界第2位の経済大国と言われるオーストラリアでさえ、GDP(国内総生産)は2兆4000億ドルだ。 
3位のブラジルが2兆2000億ドル、4位の日本で1兆8000億ドル。―――判るだろうか? 6000億ドルと言う数字がどれ程の巨額かを!」

「しかし我が国のGDPは約14兆ドルに達する、国防予算はGDP比で3.85%だ。 これは別段、おかしな数字ではあるまい? 
むしろ日本などは15%を超し、17%に達する程だ・・・」

国防副長官の反論に、とうとう財務副長官が激昂した。

「それは、『表向き』の数字だ! たび重なる海外派兵に、極東と欧州への兵站支援! 貧乏人共が返せる当てが有るとでも思っているのかっ!?
我が国の実質的な『戦争総予算』は、GDP比で15%近くに達するのだ! それだけではない! あの『第5計画』―――最後の数字を見ろ! 
今、私が話した全てを網羅するのにどれだけの金額が必要とされるかを!!」

その、0が限りなく並んだ数字に並居る高官達も絶句する。


「・・・こんな金は、どこを探しても無いな」

国防長官があきれ果てた口調で呟く。

「―――ふむ、しかしながら世界には今少し、アメを与えてやってもよかろう」

「しかし大統領、そのアメの裏付けとなる予算はどうされる気ですかな?」

大統領の呟きに、財務長官が不審げな表情を見せる。
当然だ、つい先ほど予算の逼迫化を想定するデータを示したばかりだと言うのに。

「腹案については後ほど示そう。 君の懸念は理解している、財務長官。 心配せずとも良い」

「・・・では、先程の『ケース・パープル』 あれの再考をお願いできませんか。 日本を喪う事は我が国の経済に影響が大なる事極まりない。
国際社会への負担金もさることながら、我が国の産業界は主要な市場の一つを失う事になりましょう」

財務長官の粘りに、大統領もやや小首を傾げる。 言う事は尤もだ、合衆国にとって日本はいまや主要な『貿易相手』でもある。
無論、腹案の中には様々なケースを用意している。 だがそれを今ここで開示する訳にもいかない。 秘密の維持には、知る人間は少ない方が良い。

「基本は変わらないよ、財務長官。 だが状況は常に流動的だ、我々はその流れを読み取り、最適な手を打つ用意はある。
それよりもウォール街を引き締めておいてくれないかね? 妄動して株価の下落などと言った馬鹿な事をしでかさぬようにな」









参加者の大半がオーバル・オフィスを辞した後、大統領と国務長官、国防長官、そして大統領首席補佐官、国家安全保障問題担当大統領補佐官の5人が残った。

「・・・確かに財務長官の言う通り、このままでは金融市場に対する影響も看過できないかもしれん。 国家財政も無尽蔵ではない」

「ウォール街の連中は戦況に敏感だ。 勝ち戦には積極的に投資もするが、負け戦に乗って大損をする事は決してしないだろう」

「では、今の段階でリークするのか? バカな、時期尚早も良いところだ」

「噂だ、噂。 それで数カ月は保つだろう。―――計画の最終段階ではG弾の使用は織り込み済だ、我が国だけが有する『力』を見せ付ける」

「疲弊した連中を取り込み、その官・軍・産を支配する。―――ウォール街は納得するよ、彼等はリアリストだ」

大統領はそんな会話に背を向け、執務席の椅子に深く腰掛けて背後の窓から外を眺めている。 
国務長官と国防長官の発言を聞いていた大統領首席補佐官が、隣の国家安全保障問題担当大統領補佐官と目を合せ―――発言を求めた。

「大統領閣下、ロスアラモスより報告が有りました。 G弾起爆時での次元境界面の任意指向制御実験に成功したと」

―――おお!

居並ぶ高官たちから驚嘆の声が上がる。
それまでの臨界起爆実験ではG元素量の調整による次元境界面の半径制御には成功していたが、指向性を持たせる事は出来なかった。
だが爆心地から等距離半径ではなく、任意の指向距離制御がかなえば例えばどうなるか。
地表での影響半径を極力抑え込んだまま、ハイヴ深々部に向けて次元境界面を『撃ち降ろす』事が出来る。
G弾の臨界爆発エネルギーに任意のベクトルを与えてやればいいのだ。

「レディ・アルテミシア・アクロイド―――アクロイド博士の研究チームか。 ふむ、なかなか有用な買い物だったな」

大統領の声が弾む。 これで合衆国が取り得る国家戦略の幅が増えるだろう。

G弾の使用に対し、主に重力異常などの環境異常の可能性を論拠として反対論を展開する勢力は国内外に多い。
国外では主にユーラシア外縁国家群、そして既に国土を喪った亡命政権達。 国内にも『ピンク』―――所謂リラベル派の科学者達を中心とした反対論者もいる。
その者達は議会―――共和党、民主党を問わず、一定の勢力を保っているのが現状だ。

だがその者達は判っているのか? 日本のあの『計画』の荒唐無稽さを?
かのレディ・アクロイドは、かつてこう言ったそうだ。

『―――彼女の理論は完成しない。 その為にはそれこそ人知を超えた『因果』・・・ 『神の御技の偶然』に期待するしかないのだ』

そして現実世界の支配は、神の御技などを期待する余地は無い。
主は人々にパンを与える奇跡を起こして下さった。 だが我々は国民に現実を与えるに、奇跡など望むべきではないのだ。


「大統領閣下、『オレンジ・プラン』のご承認を。―――このままでは確かに、我が国の予算は海外に喰い尽されます。
合衆国の安全保障、そしてオルタネイティヴ5予備計画の実行予算確保の為に―――日本は金の卵を産むガチョウになって貰わねばなりません」

その声にも大統領は無言のままだ。
国家安全保障問題担当大統領補佐官が、首席補佐官の言葉を継いだ。

「閣下、プランは可能な限りのシュミレートをし尽くしております。
日本国内の諸勢力の動向把握とその予測。 極東戦線の戦況予測と対応。 国際市場と国内市場に与える影響と対策。―――漏れはありません」

「―――喉に刺さった棘が有るな?」

2人の補佐官の言葉に、不安定要素が残っている事を大統領が告げる。 居並ぶ者達の脳裏に、極東の島国の片隅に居座る魔女―――まだうら若い女性の姿が映った。

「あの魔女は必ずしも日本寄りとは言えん。 だが、確実に我々の味方ではない。―――どうする気かね?」

相変わらず後ろを向いたままの大統領の声に答えたのは、国家安全保障問題担当大統領補佐官だった。
周囲を見渡した後で、幾分小声で答える。

「CIA(中央情報局)、NSA(国家安全保障局)との協議は進んでおります。 場合によっては『オレンジ・プラン』の分岐ケースに組み込んでの『排除』の検討も。
INSCOM(米陸軍情報保安コマンド)を動かします、場合によってはONI(海軍情報部)、AFIRS(空軍情報監視偵察局)、SFISCOM(宇宙総軍情報保安コマンド)も。
―――国防総省とは調整済みです」

暫く沈黙が下りる。
やがて大統領の背から確たる力のこもった声が発せられた。

「―――やらねばならん。 極東の島国の都合で、合衆国の安全保障が脅かされる事が有ってはならん。
ましてや、あの様な荒唐無稽な計画など承服出来るものではない」

「第4計画での国連ロビーは失敗しました。 しかしその轍を踏まえて第5計画に繋げるロビーは成功したと言って良いでしょう。
国連のピースは嵌まりました。 我々のパズルを完成させる為に、最後のピースを嵌め込むべきです」

大枠において、人類と言う種の維持・保存を究極の目的としている事は共通している。
だが、そこに国家や民族・人種に宗教、諸々の要素が加わると―――人類は一枚岩にはなり得ない。


「よかろう。―――合衆国大統領として命ずる、我々に神の恩寵が有らん事を」













1997年12月8日 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.


道端に店を広げているホットドック・スタンドの前に2人の男が立ち話をしている。
1人はどこから見ても普通の清掃員、どうやら中東系の様だ。 
もう一人は明らかに東洋系、コートの上に帽子をかぶった姿は、どことなく印象が薄い。 どうかすると周りに紛れてしまうそうな影の薄さだ。

「・・・お目当ての『ブツ』は8番街の清掃工場の保管倉庫の中だ。 大丈夫だよ、シュレッダーには掛けていない」

「なかなか良い仕事だな、アブドゥル」

「アンタの『仕事』は割が良い。 お陰さまでこちらも潤う」

「なら、今後も励みな・・・ ほら、今回のギャラだ」

100ドル紙幣を数10枚束ねてゴムで留めた札束を手渡す。 報酬としては安いモノだ、だがこの金で難民キャンプでは一家が飢えずに2ヵ月は暮らせる。

「しかし何だな、アイゼンハワー行政府(副大統領府、行政管理局、国家安全保障会議事務局)も、『ザル』だな・・・」

東洋系の男が飄げた仕草で肩をすくめる。 
何しろ回収する『ブツ』の中にはこの国の国家安全保障上、重要な情報が記された書類すら有るかもしれないからだ。
その言葉に、アブドゥルと呼ばれた男が嘲るように吐き捨てる。

「この国の政治任命制の落とし穴さ、セキュリティも最後は使う人間次第ってな。
あの連中、中東からの難民崩れの清掃員など、英語を満足に読み書き出来ない文盲だと決めつけていやがるからな。
―――人を人間以下の様に見下しやがる・・・」

合衆国の政治体制では、大統領が変わる度に中央官庁の上級スタッフの半数―――政治任命された者達が大量に入れ替わる。
その際には前政権での廃棄処分されるべき機密書類が、雑多なゴミに紛れこむ事も珍しくない。
であるならば、難民労働力に対する偏見から、満足なセキュリティが実施されているとは必ずしも言えないのが実情―――と、帝国情報省は判断した。
まともな正面作戦―――ヒューミント(Human intelligence)や、シギント(Signal intelligence)では大統領府の情報収集は困難だ。

だが運の良い人間は組織の中に1人や2人はいる。
アブドゥル・ハミト・アフマド―――『イダラート・アル=アムン・アル=アンム』、元シリア・アラブ共和国総合諜報局の諜報工作監督官。
彼が難民となり、このワシントンD.C.で困窮を極めている事を1人の古参諜報官が偶然発見した。
ワシントンD.C.での帝国情報省出先機関(通信社を偽装している)は、アブドゥルに多少の金額を提示する事でこの元諜報工作監督官を手駒にし、行政府に出入りさせたのだ。

「・・・俺はな、もうアッラーも祖国も、どうでもいいんだよ。 そんな感情は消え失せたさ、難民キャンプでな。
今の俺の神は、金だ・・・ 金さえ積めば、ファーストレディの寝室にだって忍び込んで盗んできてやるぜ・・・」




アブドゥルと別れ一人冬の街を歩きつつ、男の脳裏には一つの考えが決まった。―――あいつはそろそろ切り捨てるべきだ。
金が全ての人物は、相応の代価を払う限り裏切らない―――それ以上の代価を余所から示されない限り。
逆に言えば、より実入りの良い相手を常に探している。 このワシントンD.C.は各国諜報機関の巣窟だ、そしてFBIと言う厄介な相手もいる。

余計なところから、余計な脚を捕まえられる訳にもいかない。 
故郷をBETAに喰い尽され、難民キャンプで人間性の裏を見つくした男が1人、この地の外れで消えるだけだ。

(―――世は並べて事も無し。 さようなら、アブドゥル)













1997年12月11日 ワシントンD.C. 『極東通信社』


「・・・あれだけのゴミを漁って、得た情報はこの一片の紙切れ一枚」

中堅の担当官が嘆息する。
3日近くかけて紙のゴミの山を掻き分け、確認し、仕分けた結果がこの紙きれ1枚。

「そう嘆くモノじゃないさ、こいつは場合によっちゃ、ホワイトハウスの大陰謀の手掛かりかもしれん」

「・・・その与太が、ですか?」

じっとその紙きれを見つめる古参の担当官に対して、つい愚痴が出る。

「お前さん、よく見てみな。 日付は『1997年12月3日』、改訂版は『第11版』 つまりだ、随分と前から直ぐ直近まで検討されていたって事だ。
最近、ホワイトハウスの出入りが騒々しい。 こりゃ・・・ 何かあるな。 ひょっとすると、ひょっとするぞ?」

「・・・勘ですか?」

「勘は大切だぞ、この世界じゃな。 お前さんも知っているだろう? 『オレンジ・プラン』―――この名前は」

『オレンジ・プラン』―――紙切れに記された単語。 そして1930年代に合衆国で画策された対日戦争計画。
1941年に始まり、1944年に集結した対日戦争はこの『オレンジ・プラン』を修正した計画に則って行われたと言う。
しかしながらその計画は完遂を見る前に終結した。―――1944年、日本帝国の条件付き降伏によって。

「本当なら本土占領、国体の解体まで盛り込んでいたって話だ」

「・・・はっ! 半世紀前の夢よ再び! って訳じゃないですね、連中はそんな甘くない。―――ウォール街に流れている変な噂、どうやら本当にキナ臭そうですね」

曰く―――アメリカと日本の大資本同士の合併話。
曰く―――日本の某財閥が拠点を日本からアメリカへと移す。
曰く―――日本帝国軍の次期主力装備に、米軍需産業界が大幅な参入を行う予定。

胡散臭さはあるが、現状の極東戦況を考慮すればおかしくは無い。 可能性として捨て切れるものではない。
お陰でこの数日、ウォール街では軍需産業株を中心に好調な値上がりの動きを示している。


「―――いずれにせよ、どんな些細な事でも俺達は逃さず報告する事さ。 ネタの判断は帝都の課長の仕事だ、狐の考えは狸に任すさ」

帝国情報省外事本部外事2部(国家機関情報担当)外事2課(北米担当)から出向してこのワシントンD.C.に駐在する2人は、彼等の得体のしれない上司を思い浮かべ苦笑した。













1997年12月13日 朝鮮半島 釜山 国連軍太平洋方面総軍 第11軍司令部


「現在、戦線は北緯36度線をめぐっての攻防となっております」

司令部では情報参謀が戦況を―――どこもかしこも苦戦する戦況を説明している。

「現在、東部の慶尚北道には韓国軍第1軍(7個師団)と中国軍第56集団軍(実質的に師団)が展開。 
西部の全羅北道は韓国第3軍(5個師団)と中国軍第16集団軍(1.5個師団相当)、後詰に日本の第8軍団(3個師団)が展開中です」

主力の韓国軍は既に4個軍が壊滅している。  
他の残存戦力は首都防衛軍の10個師団。 但しその内の8個師団は予備役をかき集めた軽歩兵師団に過ぎない、有効な戦力は首都軍団の2個戦術機甲師団だけだ。
中国軍―――満洲軍管区の残存戦力は実質1個軍団も無かった。 そして日本軍の第8軍団。

「国連軍第11軍―――我がUSPACOM―――は、釜山前面に展開中です。 但し第75師団の損害が大きく、現在は市街警備に充てております」

主力は米第2戦術機甲師団『ヘル・オン・ホイールズ』 その両脇を第2機械化歩兵装甲師団『インディアンヘッド』と、第25機械化歩兵装甲師団『トロピック・ライトニング』が固める。
残る第91師団は釜山市街防衛戦力として残置。 第6空中騎兵旅団は使い処さえ誤らなければ、まだ起伏のある地形では有効だろう。
他には2個海兵遠征軍。―――第1と第3海兵師団を主力とした打撃戦力は温存してある。
海兵師団はその規模の大きさから、陸軍の1個軍団に匹敵する攻撃力を誇る最後の切り札だ。 そうおいそれと前線で消耗する訳にはいかない。


「―――諸君、本国は約束した。 2ヵ月、必ずや2ヵ月以内に何らかの対応を行う事を。 我々をこの極東の片隅で見殺しにはしないと。
私は昨夜、国防長官からの封緘書類の中に、我が軍将兵に宛てた大統領のメッセージを受け取った。 信じて良いのだ」

司令部内に一瞬生気が蘇る。 大統領が―――合衆国大統領が約束したのだ。 彼は『契約』を必ずや履行するだろう。














1997年12月14日 1550 北米西海岸沿岸 米・墨西哥(メキシコ)EEZ(排他的経済水域)境界付近


漁の最中なのだろう。 ほんの10数トン程度と思われる小さな漁船が、太平洋の荒くなり始めた海で操業していた。
乗組員は2人、中年の船頭と10代後半位の若者。 顔立ちから先住インディオの血を色濃く残す面影。 似ている、親子だろうか。

「・・・親爺、あれ」

漁の途中、息子に声をかけられた船頭が傍らの『毛布の山』に声をかける。

「・・・旦那、見えやしたぜ」

船頭に声をかけられたその小山から、一人の男が顔を出してチラッと北方の海面に目をやる。
その先には―――国境を越えたすぐ先に有るアメリカのサン・ディエゴ軍港から出港する夥しい数の軍艦、そして護衛艦艇に守られた多くの輸送船団。
西を目指している。 行先は―――順当に考えれば、まずはパール・ハーバーか。

メキシコ側の国境の街・ティフアナ。 その外れの小さな漁師町に流れ着いたこの奇妙な東洋人の頼みを聞いて―――払いが良かった―――およそ数日。
どうやら満足な結果が出た様だ、ニンマリと笑っている。

「―――それにしても、こっちには警戒を寄せませんなぁ・・・」

「旦那、グリンコ(アメリカ人)は俺達の事なんか眼中にねぇよ。 メキシカンが英語を話せるなんて事さえ、思っちゃいねぇ」

「ふむふむ・・・ ですが、それでこそアメリカ。 あの尊大さは色々と突っつきたくなりますねぇ」

魚臭漂う小さな漁船に這いつくばっていたその男は、飄々とした表情の中にどこかしら凄味を漂わせた目を米国艦隊に向けて言った。

「さてさて、釣果は上々。 帰りはこのまま太平洋を横断―――する訳にはいきませんねぇ。 
残念、バミューダ島にはまた行ってみたいモノですがねぇ・・・」

「・・・旦那、馬鹿を言いなさんな、そろそろ戻りますぜ。―――ミゲール、港に帰ぇるぞ」

ゆっくり、のんびりした船足で戻る漁船から米艦隊を眺めていた男―――帝国情報省外事2部外事2課長、鎧衣左近は暫く小首を傾げていたが・・・
やがて乾いた薄笑いと共に小さく呟いた。


「・・・色々とやってくれる。 が、『大男、総身に知恵が回りかね』―――その上にその頭はヒュドラときたか。
やれやれ、早々に横浜辺りにご機嫌伺いの必要があるかな・・・」



1997年12月24日 米統合参謀本部(JCS)は朝鮮半島撤退作戦、『ダンケルク』を極秘裏に発令。
米太平洋軍全体に作戦準備を発令するとともに、開始予定を1998年2月中旬と下命した。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.03436279296875