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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 帝国編 14話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/08 16:34
『半島戦線、中韓連合軍による大規模反攻作戦を実施。 BETA約2万を殲滅、損害は軽微―――「東都日報」』

『本土防衛体制は万全の態勢。 本土防衛軍司令部広報部発表―――「帝都新聞」』

『食糧配給限度枠の見直しを内務省と農林省が検討―――「旭日日報」』

『更なる増税、軍事予算枠拡大か? 市場に反発、軍需産業株価は上昇―――「帝国経済新聞」』









1997年11月10日 1930 神奈川県 鎌倉


「景気の悪くなるような記事ばかりだなぁ・・・」

所謂、『大本営発表』に食糧事情の悪化に、景気の悪化。 読んでいて溜息が出る。―――確かN.Yでも似たような事が有ったよな・・・

「え? 何? 何か言った?」

台所から祥子が顔を出す。 彼女の部下達が今の姿を見たら何て言うだろう? 
地味な色合いのタートルネックのセーターに、ごく普通のスカート。 その上にエプロンをつけて―――夕食を作っている最中だった。

「何でもない。―――メシはまだ? 腹減ったよ」

「もうちょっと待ってね、すぐできるわ」

「はいはい・・・ って、おお? 肉じゃが?」

「ええ、直衛、好きでしょう? それと煮物と酢の物。 多分大丈夫・・・ だと思うわ・・・」

「大丈夫だって、何度も作って貰っているし。 美味しかったよ」

「そう? ふふ、じゃ、大丈夫かな?」

さっき急に祥子の声がトーンダウンしたのは、先日初挑戦したメニューで大失敗したから。
口に入れた瞬間、何とも言えないその味に吃驚したけど。 兎に角何も言わずに全部平らげた。
もっとも俺が食べる様子を見終わった彼女、自分で口に入れた途端に泣き出しそうな表情で俺を見てたけど、ちょっと恨めしそうに・・・

『美味しくないのなら、ちゃんとそう言ってよぉ・・・』

そんな他愛無い毎日を満喫している、2人して。

この鎌倉に下宿を借りたのは10月に入ってから。 
以前に借りていた立川の下宿を引き払い、どうせならと、祥子と隣同士で借りた下宿だった。

富士学校での半年間に及んだ『幹部上級課程』を修了した後、部隊に戻ったら待っていたのは転属命令だったと言う訳。
第18師団、その中の第181戦術機甲連隊への転属命令。 さすがに驚いたが、内実を知る身としては不思議ではないとも納得した。
その第18師団は神奈川の辻堂演習場に隣接した基地を本拠地にしている。 で、『通勤』にさして無理が無い鎌倉に下宿を借りたと言う訳だ。

「さ、できた! 直衛、お皿によそうの、手伝って」

「はいよ。 お? 美味そう」

食器棚からいくつかの食器を取り出して並べる。 そこに祥子がお玉と長箸で丁寧によそっていく。
転勤が無ければ、いつもいつもこんな事は出来なかったかもな。 俺の下宿と祥子の下宿は、以前はちょっと離れていたから。
行き来が無い訳じゃ無かったけれど、そう頻繁にと言う訳じゃ無かった。 内心では、18師団への転勤様さま、と言う気分が無い訳でも無い。

その第18師団は2月の遼東半島でかなり叩かれた。 生き残った者でも衛士復帰が無理な連中も多い。
そこで行われたのが、比較的人的損失の少なかった第14師団から引き抜きをかける事だったのだ。
同時に本来は甲編成師団だった第14、第18の両師団は乙編成師団に改編された。 甲編成だと戦術機甲大隊が5個(旅団)必要だが、乙編成だと3個(連隊)で済む。
無理をして甲編成師団を2個充足させるより、さほど無理なく乙編成師団2個に改編する方が戦略単位である師団数の維持に都合が良い、軍上層部はそう判断したのだろう。


「でもさ、煮物なんて作るって言ってたっけ?」

「私が作ったんじゃないの、頂いたのよ」

「貰った? 誰に?」

「この近くでおかずを頂けるような知り合いよ? 限られているでしょう?」

―――想像したくない。 想像したくないが、思い描く人物像は限りなく一人だけだ・・・

「広江中佐よ、直衛がさっきちょっと留守している時にね。 『作り過ぎたから、食べなさい』って」

―――想像出来るか? あの鬼の中佐が、台所に立って料理をしている姿を!?

「失礼な事言わないの。 中佐もお母様よ、ご自宅じゃ料理位するわよ。 お嬢ちゃんももう2歳だったかしら、可愛い盛りでしょうね」

「・・・」

「ん? どうしたの?」

「・・・何でもない」

―――正直、今の俺は限りなく世の不可思議さを思い知らされているのだから・・・
広江中佐は、大佐に進級している夫君の藤田大佐、そしてお子さんの3人でこの鎌倉に住んでいる。 一人娘のお嬢さんは今年で2歳になったとか。

第14師団から第18師団に『移籍』したのは、まずは中佐に進級した広江直美中佐。 彼女が連隊先任大隊長となる(兼・副連隊長)
そして14師団では第5大隊長を務めていた荒蒔芳次少佐。 残る1人の大隊長は18師団生え抜きの森宮右近(もりのみや うこん)少佐。
森宮少佐はこの9月末に少佐に進級したばかりの若手佐官だ。(荒蒔少佐も、若手の少佐だけれど)

因みに広江中佐の夫君である藤田大佐は、第14師団と第18師団、そして第29師団とで再編された第9軍団の主任作戦参謀である。
当の本人はせめて連隊長職に復帰したかったらしいが、乞われて軍団司令部に身を置く事になったようだ。

そして今回の改編を機に、戦術機甲部隊の編成内容にも変更が加えられた。
従来は3個中隊・36機で1個大隊だった。 今回これに大隊指揮小隊(4機)を加えて1個大隊を40機で構成するようになった。

これは従来だと大隊長が第1中隊長を兼務し、更にその中の第1小隊長をも兼ねる・・・ 
大隊長は大隊指揮と中隊指揮と小隊指揮、1人3役をこなさねばならなかった。
流石にこれは無理がある。 結果として大隊指揮が疎かになったり、逆に中隊・小隊指揮が出来なかったりと。
実は前線での大隊長(中佐・少佐級)の戦死率の高さは中隊長のそれよりも高い。 当然だ、人間は頭が一つしかないのだから。

大隊長を大隊指揮に専念さす為に大隊指揮小隊制を採用し、その指揮小隊の指揮官を中尉が務める。
大隊長機の直接護衛を3機で行おうと言うのがその任務だ。 その為に大隊の大尉級中隊長は、今までの2名から3名に増えた。
その結果、大尉で14師団から18師団への転属者の数も増えた。


「でもさ、転勤って言っても、面子は半分以上馴染みの面子なんだよな。 新鮮味が無いと言うか・・・」

テーブルに付いて食事を始めた途端、その事に思い至ってふと漏らす。
そうなのだ、転勤と言ったら初めての環境で戸惑う事も多いものだが・・・ 今回はちょっとなぁ。

「そうね、まずは木伏大尉でしょ、それに私に直衛に・・・ 愛姫ちゃんに緋色。 14師団の面子がごっそり移籍だったものね」

木伏大尉が大尉の最先任者として着任した。 因みに木伏さんの同期、水嶋大尉は14師団の最先任大尉として残留している。
大尉の次席が祥子―――綾森祥子大尉。 彼女の場合も同期の和泉大尉、三瀬大尉が14師団に残留した。 ・・・源大尉はリハビリ中だ、何とか復帰は可能らしい。

それから俺と、俺の同期生達―――周防直衛大尉、伊達愛姫大尉、神楽緋色大尉の3名が移籍した。 同期中の先任者は愛姫―――伊達愛姫大尉。
少尉の時は俺の方が先任だったが、国連軍へ出向する事になった『あの事件』や、中尉進級が国連軍時代だと言う事もあって、俺がその都度士官序列を下げられた結果だけど。
その愛姫は本来なら12月まで『幹部上級課程』の筈だったが戦況逼迫の折、期間が2カ月も短縮されたそうで、今月の頭に部隊に着任してきた。

「まあね、でも14師団残留組も同じくらいは居るよな」

「それは・・・ 流石に軒を貸して母屋を取られる、何て事は拙いでしょう?」

圭介は14師団に残った。 そして俺達同期3人の代わりに、やはり同期の永野蓉子大尉と、古村杏子大尉、それに半期下の間宮怜大尉が着任した。
永野と古村は94年の『大陸打通作戦』以降は本土防衛軍に転属していたが、久々の陸軍―――戦略即応部隊への復帰と言う訳だ。
間宮は昨年の10月に転属していたが、1年後に古巣に復帰してきた。 後は間宮の同期生が2人、14師団に着任していた。

第181戦術機甲連隊の残る大尉級の衛士は、元々18師団だった市川英輔大尉と葛城誠吾大尉、そして・・・

「まさかあの2人がなぁ・・・ 時期的にはおかしくない、おかしくないんだけどな・・・」

「何? 不満なの、直衛?」

箸を持つ手をピタッと止めて、祥子が軽く睨んでいる。―――拙い、あの2人は祥子が可愛がってきた元部下だ。

「いや、不満とかじゃないよ。 ただほら、俺にとっては新任の頃の印象が強いからさ」

「直衛にとっては新任でも、私にとっては今まで苦楽を共にしてきた大切な部下だったのよ。
大丈夫よ、あの2人は立派にやれるわ。 私よりも中隊指揮は上手いかも知れないわね」

身びいきが入っていないと思いたい。
そう、第181戦術機甲連隊の残りの2人の中隊長は―――美園杏大尉(1997年9月30日進級)と仁科葉月大尉(同)だったのだ。
俺にとってもかつて後任の新米少尉だった2人。 かつて俺自身のドジで、初陣を見てやれなかった2人。


「・・・大丈夫だろうな。 今までも祥子の右腕と左腕だったんだし。 あれでいて図太い連中だし、案外細かいところにも気が付くし」

その2人がもう大尉で中隊長か・・・ なんて感慨にちょっとだけ浸ったりもする。
横で祥子が嬉しそうに微笑んでいる。 彼女にとっては身近な存在なのだ、俺も、美園と仁科も。

「ところで直衛、さっき何言っていたの? ぶつぶつと・・・」

「ぶつぶつって・・・ これだよ、これ」

新聞を手渡す。 その紙面を覗いた祥子が、『ああ、これね・・・』と言わんばかりに頷いた。

「結局、再派兵ですもんね」

「流石に噂の有った1個軍は無理だよ、1個軍団は妥当な線だったんじゃないかな?」

「それにしてもまた増税ね・・・ お母さん、遣り繰り苦労しているんだろうなぁ・・・」

―――最後の祥子の呟きが、妙に実家のお袋を思い出させたが。

「再派兵自体はもう数か月前には決定していたそうだしな、実際の派兵は7月に実施されたし」

帝国は今年の7月、半島防衛の為に1個軍団を再派兵していたのだった。
時は数か月前に遡る・・・















1997年5月25日 京都 総理大臣官邸


「・・・それは難しいと言わざるを得ませんな、珠瀬次官」

ようよう、絞り出すような声色で榊是親首相が答える。
予め予想はしていたのだろう、別段驚きはしない代わりに微かに失望の色を見せた珠瀬玄丞斎国連事務次官は、それでも繰り返し要請する。

「首相閣下、東アジアの戦況が逼迫している事はご承知の通り。 
韓国は満洲から引き揚げた中国軍残余を臨時に指揮下に編入し、これに国連太平洋方面総軍第11軍が加わって辛うじて中部戦線を支えています。
しかしながら戦況は芳しくありません、既にH20・鉄原ハイヴがフェイズ2に達した事が確認されました。
中部防衛線の北緯37度線にも、BETAの圧力は日増しに強くなってきております」

一旦言葉を切り、榊首相を改めて見据えて珠瀬国連事務次官は腹に力を込めて言う。

「増援を―――日本帝国からの再度の援軍を半島に。 国連からの要請だけではありませんぞ、閣下。
中国、大東亜連合、そして―――韓国大統領よりの親書は帝国政府に、政威大将軍殿下に、そして皇帝陛下へ届いている筈ですな?」

その場に同席する閣僚―――杉原畝慈外相、米内充正国防相が渋い顔をする。

『The Emperor reigns, but does not govern―――皇帝は君臨すれども統治せず』 

日本帝国の3権(立法、行政、司法)の源とされるのは日本帝国皇帝である。
そして国事全権代行者である摂政・政威大将軍が3権の統轄代理執行を行うと言うのが、日本帝国憲法に記された内容だった。
しかしながら実際は慣習法(憲法的習律)に従い、議会(立法)、内閣(行政)、裁判所(司法)が各々の統治権力を分け合っている(これは英国のシステムとほぼ類似する)

2人の閣僚が渋い顔をしたのは、実質政治からは既に乖離した存在である皇帝、政威大将軍と言った『帝国の象徴』である存在に訴えかけたその手法だった。
皇帝と政威大将軍はそれぞれ政府・議会に対し裁可しない権限―――拒否権を有している。
が、これも慣習法(憲法的習律)に従い裁可を拒否することはなく、儀礼的に裁可するのが通常で有った。

しかしだからと言って、政府や議会が皇帝と政威大将軍の権威を蔑にしているのではない。
皇帝と政威大将軍は今日では本質的に慣習と民意により権力の行使を制限され、儀式的な役割を果たすに留まっている。
そして、“首相の相談を受ける権利”、“首相に助言する権利”、“首相に警告する権利”の3つの基本的権利のみ行使するとされる。

しかしながら、首相が毎週皇帝と政威大将軍に非公開に(公式ではある)面会を行い、国政についての報告を行う事(“内奏”)と、前述の3権を賜る事(“奏上”)は行われている。
皇帝や政威大将軍の在位・在職期間が長くなるほど経験や知識も積み重ねられ、面会による首相へのアドバイスの重要度は増す。
これらの制限から『皇帝(実は政威大将軍も)は、君臨すれども統治せず』という原則に忠実に従っていると言える―――ここが意外な盲点だった。

代替わりしたばかりで就任した直後の新政威大将軍―――煌武院 悠陽―――は未だ14歳。
アドバイスも何も有ったものではない、将軍自身が未だ専属の教育係に付いて学んでいる最中だ。 これは問題無い。

が、今上皇帝は御年(おんとし)既に壮年であり、経験・知識共に豊富な上にその資質は英邁の君主と内外から言われている。
国政に対し関与する事は無いが、それでもその『御言葉』の重みは帝国に生きる者にとって決して無視出来るものではない。

元老院、そして内府(宮内大臣、および宮内省)は抑えてあるが、城内省までは抑え切れていない。
もしその『御言葉』が城内省経由で外部に漏れ、そして政府の対応がその内容に反するものであったとしたら―――国民が政府を見る目は急激に悪化するだろう。

有り態に言って、『余計な事を・・・』と言うのが帝国政府の本音だった。


「・・・陛下も、殿下も今般の国際情勢には深い憂慮を示されております。 
我が国は決して同盟国との関係を、国連との関係を蔑にする意図はありませんぞ、事務次官」

「では改めて要請します、首相閣下。 追加増援を1個軍。
国連軍事参謀委員会は極東方面の戦況を考慮し、貴国に対し戦力再派兵を絶対的かつ緊急に要請します」

榊首相の言葉を通訳から聞き、文字通り解釈した国連軍事参謀委員会・軍政局第8部(渉外)から派遣されたクレマン・ランベール仏軍中将が切り出す。
その言葉に思わず目を剥いたのは米内国防相だった。 ランベール中将の言葉は要請の名を纏った、実質的な『命令』に近いものだったからだ。

「待たれよ、中将! 我が国はこの2月に遼東半島で大損害を被ったばかりだ。 1個軍団が壊滅し、残る1個軍団も半壊した―――1個軍が全滅したのだ!
その上で更に1個軍の追加派兵などと! 本土防衛戦力に支障をきたす! 国連は、安保理は加盟国に対してそこまでの強制力は無いぞ!」

「軍備以前に戦費が足らぬ、国連は帝国を破産さすつもりか!?」

米内国防相の悲鳴に、杉原外相も声を荒げる。

「小田切大使、安保理はそこまで要求しているのかね?」

それまで黙って成り行きを観察していた小田切左門・日本帝国国連特命全権大使が、榊首相の問いかけに静かに首を横に振る。

「いいえ、閣下。 確かに1個軍と言う話も出ました、主に中国と米国からですが。 
しかしながら現在の帝国の現状に照らし合わせ、余りに現実的な数字ではないと拒否しました。
安保理では英国、ソ連、豪州も賛同。 フランスは棄権―――その数字は4:2で否決された筈ですな、ランベール中将?」

「―――あくまで軍事参謀委員会の意見です、首相閣下、大使閣下。
純粋に軍事面で見た場合の数字であり、小官は軍人―――軍事の専門家であり、政治と外交には関与致しません」

しれっと言い切るランベール中将を、榊首相を含む日本側が苦笑しつつ見る。
こう言う厚顔さ―――外交的強かさは、なかなか日本人が持ち得ない部分だ。

珠瀬事務次官が最後に絞り出す様な口調で、榊首相に要請した。

「いずれにせよ、国連は日本帝国に対し再派兵を要請します。 正式な要請は後日国連安保理にて。
本日は安保理、そして事務総長の内々の打診と協力要請言う事で―――帝国の実情は私も理解しております、しかし私は国連の人間でも有ります。
ランベール中将の言われた数字は純軍事上の必要数ではあります。 が、国内事情を差し引いても、何とか再派兵を・・・」




会見が終わり国連特使の2人が退去した後の首相官邸には榊首相の他、米内国防相、杉原外相、小田切国連特命全権大使の3人。
そして急遽招集された高橋是明蔵相と城戸幸助内相(内務大臣)が居た。

「正直、珠瀬さんもやり難い立場でしょうが・・・ 流石にそうおいそれと再派兵は無理でしょうな。 どうです? 米内さん」

杉原外相の問いかけに、渋い顔のまま米内国防相が答える。

「今年2月の損害を回復出来ておりませんぞ。 比較的損害の少なかった海軍は兎も角、陸軍は正直言って国連の要求する戦力など逆さに振っても捻出できませんな」

実際に2月の時点で現地司令部より損害報告が陸軍参謀本部に入った時には参謀総長以下、参謀本部の高級参謀一同が蒼白になったと言う。
今までも大陸で損失を受けてきたが、今回の様に1個軍が全滅する様な損失は初めてだった。

「おまけに、中国東北部―――満洲全域の失陥の報を受けた本土防衛軍の連中が騒ぎだしましたからな。 陸軍に配属していた師団をいくつか、本土防衛軍に移管したところだ」

「―――出せるとして、どの位の規模になるかね?」

米内国防相と杉原外相の遣り取りを聞いていた榊首相が、今度は米内首相と高橋蔵相を交互に見て問う。

「軍としましては、再編された第6軍から第8軍団の3個師団。 これが精いっぱいの数字ですな、これ以上は本当に本土防衛に齟齬が出かねません。
本音を言えば1個師団程度でお茶を濁したいところです。 が、日中韓統合軍事機構の帝国代表部からも泣きつかれておりますからなぁ・・・」

「大蔵省としましては、臨時補正予算を組んでも1個軍の派兵戦費は捻出できませんぞ。 今でさえ増税を検討している所ですからな。
国防相の仰る兵力分の戦費ならば何とか出して御覧にいれますが、その後は確実に増税ですぞ、総理?」

軍としては国土防衛の為の戦力維持を、まず第一に考えねばならない。
そして軍は大量に消費する。 モノを、そして何よりも金を。 大蔵省は派兵に耐えうる戦費の限界を見極めねばならない。

「増税は増税で困る所だ・・・ 最近、生活苦から犯罪に走るケースが多発している。 
しかし増税せねば、難民キャンプへの支援金もが滞る始末だ。 こっちも犯罪の温情になりかねん・・・」

国内治安警察、地方行政、土木、衛生などの国内行政を一手に担当する内務省。 その長である城戸内相が苦虫を潰したように言う。

「国連拠出金の問題も有りますな。 今や我が国と米国、そして英国の3ヵ国で国連拠出金額の55.5%を占めます。 米国が22%、日本が17%、英国が16.5%
豪州とブラジルがそれぞれ8.5%でそれに続きますが・・・ 安保理常任理事国のうち、フランス、ソ連、中国の3カ国は必然的に比率が下がっております。
今後も帝国への拠出比率を高めてくる要求が増すでしょう」

「金も出さない、余剰の展開兵力も無いで、大きな顔をされては堪らん。 米英は兎も角、仏・ソ・中の3カ国は引き続き手なづけ工作を継続すべきだろう」

小田切国連大使の言葉に、杉原外相が付け加える。

「それに先立つものはやはり金だ。 技術は第3世代戦術機のバックデータを裏で欧州に流した、後は量産出来るだけの金だね。
英国は余り好い顔をせんだろうが、なに、あの国とて仏独両国を一度に背負う事は出来ん」

「余り欧州方面へ比重をかけ過ぎると、アジア・太平洋方面への工作資金が払底する。 大東亜連合を繋ぎとめるエサは必要だ。
それでなくとも、フィリピンには米国の支援が色濃く出始めた。 ワシントンめ、フィリピンを楔にするのは相変わらずだ」

米内国防相と高橋蔵相が、対外工作の方向性を述べる。
米内国防相の発言は、EU内での親帝国派国家群を維持する事で、太平洋・大西洋両方向から米国を牽制する。
高橋蔵相は、EUへの支援一極性はアジア方面への支援予算枠の払底を危惧している。

難しい所だ。 国際外交関係と国内統治、その双方を満足させる事は・・・ 今の状況では無理だ、どこかで落とし所を見極めねば。

「やはり国連へは、追加再派兵は1個軍団で我慢して貰おう。 それ以上は国防相の言う通りになる」

「所詮、米国辺りが足元を見ておるのでしょう。 自前の遠征軍が2月の遼東撤退戦の折、少なからず損害を受けましたからな」

「その原因は我が軍が行った勝手な早期半島撤退に有る、そう難癖を付けてきておりますよ。 適当にあしらっておりますが。
それに以前から構想の有った、『環太平洋条約機構』 あれにもちょっかいを出してきております」

榊首相の決定に、米内国防相と杉原外相が外交的な暗闘が有る事を暗に匂わせる。 小田切国連大使もその言葉に無言で頷く。


「増税に付いては既に既定路線の話だ。 行うよ、内相。
国防予算枠の拡大もそうだが、難民支援基金を始め他の予算枠も悲鳴を上げているのが現実だ」

もう一方の案件への榊首相の決定に、城戸内相がさりげなく確認する。

「最近、国体の在り方を論じて各所で色々と問題の有る思想が出回っております。 中には官僚や軍人の中にも。
国民生活が苦しいのは政府がアメリカの言いなりで、お上(皇帝陛下)や摂政殿下(政威大将軍)、そして国民を顧みないからだと・・・ 
苦労知らずの馬鹿共には手を焼かされます。 目立たぬように行いますが、ついては軍を始め関係各所には協力をお願いしたい」

「・・・犯罪は取り締まるべきだが、思想は取り締まれまい、内相」

「総理、その思想が犯罪に走る事もあり得るわけです。 無論、思想自体を取り締まる法は我が帝国には既にございません。
しかし、その皮を被った謀は事前に察知すべきと考えます」

「君と、君の掌握する所管組織の範疇内で行いたまえ」

「無論です。―――国防相、国家憲兵隊との協議を行いたい、近々にでも。 こちらからは特別高等公安局を出します」

「宜しかろう。 ついでに言えば、その裏でこそこそしておる財閥や一部の馬鹿共も、一緒くたに締め上げたいところだな」

「それは、完全な別件逮捕もいい所だよ、米内さん」




政府は半島への再派兵を決定。 陸軍第6軍から第8軍団(3個師団)の派遣を決定した。
派遣軍第8軍団司令官には2月以降、日中韓統合軍事機構の日本代表部副代表として半島に残留していた彩峰萩閣中将―――元第11軍団長―――が横滑りで着任する。

同時に大幅な増税と、国防予算を今までのGDP比10.5%から、17.5%へと引き上げると発表した。
帝都京都、副帝都東京では大規模なデモ集会が予定され―――直前に特別高等公安局と国家憲兵隊による大規模な摘発が行われた結果、デモは未然に潰えた。











1997年11月10日 2230 神奈川県 鎌倉


夕食が済んで一息ついて、お茶を飲みながらTVを見ているが。 どれもこれも国策番組ばかりだ、面白くない。
国営放送は兎も角、民放まで半国営化されているからなぁ・・・

「そうかしら? でも、時代劇モノなんかは良くできていると思うけど?」

「祥子は時代劇のファンだからなぁ・・・ 俺も嫌いじゃないけど、どちらかと言えばプロスポーツが観たいよ」

「大相撲とか、あるじゃない?」

「俺が観たいのはNBAとかNHLにMLBなの。 AFCとNFCがあれば申し分ない」

「NBA? MLB? AFCって・・・?」

―――しまった、つい向うの呼び方で言ってしまった・・・ 祥子が判らなくて当然か。

「あ~・・・ NBAはアメリカのプロバスケットボール・リーグだよ、NHLはアイスホッケーのプロリーグ。
MLBはプロ野球リーグで、AFCとNFCはアメリカンフットボールのプロリーグ。 どれもこれも大迫力だよ!」

N.Yに居る頃にはよく観たものだ。 特にNBAは周りに感化されて俺自身も好きになったな。
ニックス(ニューヨーク・ニックス:N.Y本拠の強豪チーム)の試合を生で観た時は、正直鳥肌が立った。
94-95年シーズンしか観れなかったけれど、ファンになったニックスとロケッツ(ヒューストン・ロケッツ)のNBAファイナル!
そしてユーイングとオラジュワン! あの熱戦は素晴らしかった! 残念ながらニックスは3勝4敗で優勝を逃したけれど。―――いつかまた、観れる時が来るだろうか。

「ああ、むこうのプロスポーツリーグね、アメリカ時代に観ていたの? 
じゃあ無理ね、日本では放映していないもの。 日本のプロスポーツリーグはもう無くなっちゃったし・・・」

そうなんだよな、番組と言えばどれもこれも勧進懲悪モノか、お涙頂戴ものばかりだ。 この前は忠犬ハチ公に似た番組をやっていたが。
あれって子供の頃にも観た記憶が有るな、何度か焼き直しして放送しているのだろうか?

「でもこの間の非番の日に、懐かしい番組をやっていたわよ」

「懐かしい? 何の番組?」

「チョップ君よ」

「えっ・・・? あの人形劇の?」

子供に人気の番組で、俺も子供の頃は良く観ていたな。 って言うか、帝国じゃ知らない人間は極少数派だろうな、長寿番組だし。

「懐かしかったわぁ・・・ 小さい頃を思い出してね、もうすっかり夢中になっちゃったわ」

「祥子・・・ もう大人でしょうが、子供じゃないんだし・・・」

「いいでしょ、別に! ・・・好きだったんだもん」

「いや、俺もよく観たけど・・・ あの、祥子? そう恨みがましい目で見ないで欲しいんだけど・・・?」

「大人じゃありませんから、子供ですから」

―――拗ねている。


そんな会話の流れから、いつの間にかお互いの子供の頃の話になって。
好きだった遊びや楽しかった事、いろんな思い出。 色々と四方山話になったが楽しかった。

―――そんな時だ、TVが唐突に臨時番組に変わったのは。

『―――番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。
国防省報道部発表、本日1900 半島中部防衛線の要衝・大田(テジョン)が陥落しました。 繰り返します、本日1900 半島中部防衛戦の要衝・大田(テジョン)が陥落しました。
この事態に対し政府は本日2200をもって、九州全域に発令していた第2種避難勧告に変え、第1種避難命令を発令。
同時に中国地方、四国地方に第1種避難勧告を、近畿全域に第2種避難勧告を発令しました。
繰り返します―――』


「直衛・・・」

祥子の声が厳しい、表情が強張っている。 判る、それは俺も同じだ。
大田(テジョン)が陥落した、半島中部防衛線は崩壊したのだ。 鉄原ハイヴのBATA群がそこから全州(チョンジュ)、光州(クァンジュ)へと一気に南下するのか。
或いは西に転じて慶尚北道の大邱(テグ)から釜山(プサン)に行くか―――半島はもう幾場かも保たないだろう。


―――電話が鳴った。 祥子と目を合せ、彼女が受話器を取る。

「はい、綾森・・・ はい、はい・・・ 了解しました。 はい、周防大尉も今ここに。 はっ! 了解ですっ!」

―――部隊からか。

受話器を置いた祥子が俺を見て、表情を引き締めて言った。

「直衛、緊急呼集がかかったわ。 本土防衛軍は全部隊がデフコン3に、陸軍はデフコン2が発令されたわ」

―――デフコン2! 第6軍全力の再派兵か!?

「よし、まずは基地へ行こう。 部隊で何か追加情報が有る筈だ・・・ ん?」

下宿を出ようとしたら、また電話が鳴った。

「はい、綾森です。 ・・・あ、愛姫ちゃん? ええ、居るわよ、ちょっと待って」

祥子が受話器を俺に差しだしている。―――愛姫? 祥子の電話番号にわざわざかけて来て、俺を呼びだす?

「はい、代わりました、周防です・・・」

『直衛? ちょっと教えて、今直ぐに!』

―――唐突になんだよ・・・?

「愛姫、時にどうしてこの電話番号に?」

『アンタの部屋にかけても、どうせ居ないでしょ! まったくぅ・・・』

―――それは失礼しましたね。 ふん。

「で、どうしたんだ? こんな時間に。 緊急呼集かかっただろう?」

『―――その緊急呼集よ! 直秋の自宅の連絡先教えて! あの坊主、外出先の緊急連絡先の電話番号、間違えてるのよ!
あの子の自宅は豆腐屋さんなの!? アタシに豆腐でも注文させようッテの!?』

―――愛姫が良い感じにキレている。 直秋、俺は知らんからな・・・

「ちょっとまて、俺の方から叔父貴の家に連絡を取る。 いきなり息子や兄の上官の罵声が電話口から響いたんじゃ、叔母も従弟妹達も吃驚する」

部隊の再編成で、以前は俺の部下だった従弟の周防直秋少尉は、今は愛姫の中隊に所属していた。
まだホンの10日だが、愛姫はそれはもう嬉しそうに可愛がってくれている―――傍目には鬼の様に扱かれまくっている。

『誰が罵声よッ! ご家族にはちゃんと猫を被るわよッ ・・・ま、いいわ。 兎に角、超特急で部隊に帰って来いってに伝えて! 遅れたら承知しないよっ てね!』


―――ツー、ツー、ツー・・・

唐突に電話が切れた。 大きく息を吐き出して受話器を置く。

「直衛? 愛姫ちゃん、何て?」

祥子が心配そうな表情で聞いてくる。

「何でもない。 バカな小僧が1人、後でたっぷり油を絞られるだけの話さ」

「直秋君ね、はあ・・・」


急ぎ直邦叔父貴の家に電話をかけ、直秋を呼び出して事情を話してから部隊へ至急戻るように伝えた。―――たっぷり脅しをかけて。

軍服に着替え、こちらも急ぎ下宿から基地へと向かう。
電車では時間がもったいないので車で―――最近購入した普通の4ドアセダンの国産車だ、実は藤田大佐から下取りで入手した中古車だが。

134号線を海岸線沿いに七里ヶ浜を西に走らせる。 鵠沼を過ぎたあたりで右折すれば基地は直ぐだ。
左手には暗闇に覆われた湘南海岸の海が見える、真っ暗な夜の闇に覆われた冬の海だ。

基地ゲートで確認作業を済ませて直ぐ脇の駐車場に車を放り込み、急ぎ足で連隊管理棟へと向かう。
大隊長室に顔を出すと、大隊CP将校の富永 凛大尉が居た。

「ああ、綾森大尉、周防大尉。 中隊長以上の幹部将校は連隊ブリーフィングルームに集合です。 今は師団会議中よ」

「富永大尉、情報は?」

「詳細はまだ不明よ、綾森大尉。 多分、動く事になるのではないかしら。 師団全部か、一部かはまだ不明だけれど・・・」

祥子の問いに富永大尉も歯切れが悪そうだ。
いち早く最新情報に接する事が出来る故に、大隊長の副官役のCP将校だが。 それでも師団会議の内容までは教えられてはいない。
大卒の管制将校、それ故に連隊の大尉の中では最年長の彼女は何時でも冷静だ(確か市川大尉の1つ上だったか。 26歳だ)
大学時代の専攻が情報工学と言うところも、CPにはうってつけではある。


連隊ブリーフィングルームに集合した時には、各中隊長達は全員が揃っていた。

「・・・またまた、戦地派兵かいな・・・?」

「しかし木伏さん、練度が足りない。 連隊は員数が揃ってまだ1カ月少々です」

「そやな・・・ 市川さん、アンタの言う通りや。 となると・・・」

後ろの席で第1大隊の木伏大尉と、第3大隊の市川大尉がひそひそ話をしている。
周りを見渡すと、緋色が難しい表情で腕組して目をつむっている。 愛姫は機嫌が悪そう、いや、何かヤキモキしている。―――直秋、早く戻った方が良いぞ?
祥子は美園と仁科に話しかけ、こっちも珍しく? 真面目で厳しい表情で話しこんでいた。

俺と言えば、第1大隊の葛城誠吾大尉―――半期下の18期B卒―――それに富永大尉の3人で話しこんでいた。

「周防さん。 22中隊、実戦行動は出来ますか?」

「・・・技量C+評価が2人、B-評価が3人だよ、葛城君。 出来て昼間の限定迎撃任務だね、攻勢は難しい」

「それでも、全9個中隊で第2大隊の3個中隊は技量上位だわ。 他の中隊は少なくとも後4カ月は練成が必要なのよ」

「富永さん、とは言ってもウチの中隊もあと3カ月は練成に時間をかけたいところです。 今前線に投入しても、部下を徒に死なすだけだ。 葛城君、君の所は?」

「富永さんが言われた通りです、なかなか厳しい・・・ 中核は生き残りや14師団からの移籍組で固められましたけど、補充はヒヨっ子の23期生ですからね」

今年4月配属の23期Aと、10月配属の23期B。 俺自身の時もそうだったが、いきなりの実戦投入では半数生き残れは上々か。 23期Bは特に。


やがて師団会議が終了したのだろう。 連隊長と各大隊長、そして連隊本部幕僚たちが入室してきた。
入ってきた勢いそのままに、連隊長の曽我部啓三大佐が壇上に立つ。

「諸君、待たせた。 状況は後ほど作戦幕僚と情報幕僚から説明さす、私からは今後の連隊行動の大枠を話す。
知っての通り半島は大騒ぎだ。 なんとしても南部への侵攻を遅らせねばならん―――阻止は不可能だ、半島は最早時間の問題となった」

連隊長が底で一旦言葉を切る。
誰もが予想をしていたが、改めて正式に言われると状況の深刻さに空気が重くなる。
連隊長がこの様に言う事は、師団本部もそう判断していると言う事。 それは帝国軍自体がそのように判断していると言う事だ。―――次は本土防衛戦だと。

「そこでまず師団は九州へ緊急移動を行う、行き先は築城だ。 向うの第9師団に間借りする事となる。 移動開始は明後日1500
連隊は師団本隊に先立って移動を開始する。 戦術機甲第2大隊が先発、直ちに行動を開始。
連隊移送開始は明日1200 第2大隊は明朝0800出発、急げよ。
それとまだ未確定だが、戦術機甲1個大隊に支援部隊を付けた大隊戦闘団を編成して半島へ投入する可能性もある、心しておけ。―――以上!」


―――再派兵。 大隊戦闘団で。 可能性が最も高いのは、俺の所の第2大隊。

(―――くそっ、BETA相手はこれだから・・・)

九州でどれだけの時間の余裕が有るかだ。 せめて、せめて後1カ月は練成に費やしたい、部下達を死なさない為にも。






1997年11月10日、大田(テジョン)陥落、半島中部防衛線崩壊。
既に南部の慶尚北道・大邱(テグ)に遷都していた韓国政府は、首都機能を釜山に移すと発表する。

1997年11月25日、H20・鉄原ハイヴ(甲20号目標)が、フェイズ3に到達した事が確認された。
同時にH20からの飽和BETA群の南進が活発化してゆく。

1997年12月1日、半島戦線は更に後退し北緯36度線―――半島南部の入口を死守する戦いとなってゆく。



―――日本の最も暗い夜の時代、その帳が落ち始めた。





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