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No.7407の一覧
[0] 【完結】Muv-Luv Metamorphose (マブラヴ×うしおととら) 【外伝追加】[黒豆おこわ](2009/12/24 21:49)
[1] 第壱話 狂った世界への来訪者[黒豆おこわ](2009/06/08 10:18)
[2] 第弐話 白銀と異世界の獣[黒豆おこわ](2009/03/16 19:35)
[3] 第参話 「Metamorphose」VS「BETA」[黒豆おこわ](2009/10/04 11:41)
[4] 第四話 明星作戦[黒豆おこわ](2009/03/19 01:50)
[5] 第伍話 その名は……[黒豆おこわ](2009/03/28 23:34)
[6] 第六話 最悪の同盟関係?[黒豆おこわ](2009/12/03 00:42)
[7] 第七話 207部隊(仮)[黒豆おこわ](2009/03/31 20:05)
[8] 第八話 日常の始まり[黒豆おこわ](2009/07/18 22:34)
[9] 第九話 変わりし者達[黒豆おこわ](2009/08/05 23:51)
[10] 第拾話 南国のバカンスと休日 前編[黒豆おこわ](2009/09/05 22:59)
[11] 第拾話 南国のバカンスと休日 中編[黒豆おこわ](2009/06/08 16:44)
[12] 第拾話 南国のバカンスと休日 後編[黒豆おこわ](2009/05/31 17:02)
[13] 第拾壱話 狐が歩けば棒を当てる[黒豆おこわ](2009/10/14 21:55)
[14] 第拾弐話 ぶらり帝都訪問の日[黒豆おこわ](2009/07/11 22:58)
[15] 第拾参話 それぞれの歩む道[黒豆おこわ](2009/11/14 06:49)
[16] 第拾四話 衛士の才能と実力[黒豆おこわ](2009/07/18 22:11)
[17] 第拾五話 日常の終わり[黒豆おこわ](2009/08/05 23:49)
[18] 第拾六話 閃光貫く佐渡島[黒豆おこわ](2009/08/20 06:05)
[19] 第拾七話 人外溢れる佐渡島[黒豆おこわ](2009/08/26 00:28)
[20] 第拾八話 散り逝く者達[黒豆おこわ](2009/09/06 00:36)
[21] 第拾九話 四分二十七秒[黒豆おこわ](2009/09/07 07:22)
[22] 第弐拾話 人類のオルタネイティヴ(二者択一)[黒豆おこわ](2009/10/03 21:45)
[23] 第弐拾壱話 戦士たちの休息[黒豆おこわ](2009/10/03 21:45)
[24] 第弐拾弐話 横浜基地攻防戦……?[黒豆おこわ](2009/10/12 23:39)
[25] 第弐拾参話 破滅の鐘[黒豆おこわ](2009/10/28 01:48)
[26] 第弐拾四話 大陸揺るがす桜花作戦 前編[黒豆おこわ](2009/11/11 23:07)
[27] 第弐拾四話 大陸揺るがす桜花作戦 後編[黒豆おこわ](2009/11/14 02:28)
[28] 最終話 2001年10月22日[黒豆おこわ](2009/12/06 12:20)
[29] あとがき[黒豆おこわ](2009/12/03 21:02)
[30] 【外伝】 クリスマス編[黒豆おこわ](2009/12/24 22:06)
[31] 【外伝②】 継承……できない[黒豆おこわ](2010/01/22 22:03)
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[7407] 第六話 最悪の同盟関係?
Name: 黒豆おこわ◆3ce19c5b ID:22dccbf7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/03 00:42
第六話 最悪の同盟関係?





 今、この仙台基地には『女狐』と呼ばれる存在が2名いる。

 1人は『極東の女狐』の異名を持つこの仙台基地福指令の香月夕呼、そしてもう1人は異名でも何でもなく女狐そのものの白面の者こと金白陽狐である。

 昨日の会議で香月夕呼は白面の前に社霞を連れてきた。

 霞が武をリーディングしていれば、武がループしている事を当然夕呼は知っているだろうし、自分が武に呼び出された事も知っているだろう。

 もっとも白面自身の記憶を霞には読みとれないので、白面がどこから来たのかは推測の域を出ていないだろうが……。

 ともかくそういった意味を込めて夕呼は白面にアプローチしてきたのだろう……。

「面白い……」

 白面は口元の端を上げ夕呼の挑戦を受けることにした。









 カツカツと良く乾いた靴音がコンクリートパネルを敷き詰められた仙台基地の廊下に鳴り響く。

 白面は今、香月夕呼の親友である神宮寺まりも軍曹と共に歩いている。

 白面が夕呼に会いたいとの旨を伝えたところ、「ではそちらに向かいを寄越しますわ」という返事をもらい、その案内役が彼女だったと言うわけだ。

 仙台基地の様子は訓練場では兵士達が訓練を行い、整備室では技術屋の人間達が戦術機を初めとする兵器のメンテナンスを行い、それぞれが打倒BETAに向けて自分達のできることを行っていた。

 ただ九尾の狐である自分を見ると、周りの人間は敬礼をして良いのかどうすれば良いのかわからない状態の様である。

 白面としてはここに滞在するつもりなので、とっとと馴れて欲しいところなのだが。

 もっとも帝国側のお偉い方は昨日自分の自由意志を伝えたにもかかわらず、まだ諦めていないようだ。

 曰く自分達と共に来ることで日本国民の心の拠り所になって欲しいとか何とか……。

 白面には白面の都合があるように、人間には人間の都合があるのはまぁ仕方ない。

 だがあまりにもしつこいので、何か代替案が必要かなと白面は思案する。




 夕呼の部屋の扉の前に立ったまりもは二回扉を軽くノックする。

 中から「どうぞ」と言う声が聞こえたのでそのまま入ると、部屋の中には夕呼だけでなく武も来ていた。

 昨日、白面が霞の姿に化けて武をおびき寄せたため、武自身も何となく霞がこの基地にいるのであろうと察していたようだ。

 表情は引き締まり、自分の事を話す覚悟を決めているようだ。

「香月副指令! 白面の御方様をお連れいたしました!」

 背筋を真っ直ぐに伸ばし、まりもは夕呼に敬礼をとる。

「ごくろうさま。 まりも、今は別に堅苦しい挨拶はしなくていいのよ?」

「いえ、そう言う訳には参りません」

 夕呼の言葉にまりもは態度を崩さない。

 夕呼はしょうがないわねぇと言いながら白面に視線を移す。

「良くおこしくださいましたわ。白面の御方様」

 ニコリと笑みを浮かべながら夕呼は白面に話かける。

 ただしその笑顔は形式的なものであり、頭の中では利益の損得勘定を考えている……そんな笑顔だ。

 まりもと武は夕呼の顔を見て、全くこの人は神様相手にも態度が変わらないなと内心呆れた。

「何、昨日そなたとはちゃんと1対1で話せなかったからな。ここの仙台基地の副指令殿にぜひ挨拶したいと思ったわけだ」

 そう言って笑いかける白面の顔も夕呼が今浮かべている物と全く同種のもの……。

 その笑顔を見た瞬間まりもと武は背筋の凍る思いをする。

 この2人は全く同種の人種であると言う事が直感的に分かってしまったのだ。

 そういえばこの人達同じ女狐っていう共通点あったじゃないか……。

 えっ? 何? ひょっとして今から修羅場? と今後の展開を思い、今この場に何故自分達が居合わしているのかという不幸を呪うのであった。

 女狐が2人お互い歩み寄る。

 武とまりもは逃げ出したい気持ちを必死に抑え2人を見つめる。

 女狐達はこれからどんな交渉をするのか?

「「……………………」」

 鏡合わせの様に対峙する2人、お互い無言で夕呼は片手を腰に手を当て、白面は腕を胸の前で組んで立っている。

 張り詰めた空気がこの部屋を支配する。

 武とまりもはゴクリと喉を鳴らす。





 次の瞬間、白面と夕呼の眼がキュピーンと光った気がした。

「改めて自己紹介をしよう。我は白面の者、今は金白陽狐と名乗っている」

「あら素敵なお名前ですわね。私は香月夕呼。ぜひ夕呼と呼んでください」

「うむ、我の事も陽狐で構わん。それと敬語も使わなくて結構だ」

「ではお言葉に甘えて……。これから仲良くしましょう陽狐」

「あぁ、こちらこそよろしく頼むぞ夕呼」

 ガチッ! とお互い右手で力強い握手を交わす!

 かくしてここに女狐同盟が結成されたのであった――。






「「って! ちょっと待てぇーーーい!!!」」

 武とまりもが思わず言葉遣いを忘れて突っ込みする。

「あら? 何よ?」

「何って……。何でいきなり仲良くなってるんですか?」

「何よ? 私が陽狐と仲良くしちゃいけない?」

「いや……。いけなくはないですけど」

 夕呼の言葉に武は口ごもる。

 もちろん白面と夕呼が仲良くなったのにも理由がある。

 白面と夕呼、この2人は今現在仙台基地において群を抜いて頭が良い。

 そしてそんな2人は自分が不利になるような事は絶対にしない。

 ここでお互いが、もし変な探り合いをしたとしよう。

 例えば夕呼にしても白面と言う未知の生命体に研究者としての興味もあるし実験体として調べてみたいという気持ちもある。

 また霞から聞いた話で武が白面を呼んだ事を知っているので、武の命を盾に白面を脅すと言う事も出来る。

 ただしそんな事をしたら下手をすると自分の命がない事も理解している。

 同様に変に白面の裏を掻こうとしても敵対関係になるだけで夕呼には何のメリットもないのだ。

 白面にしても、もし夕呼が自分に変な事をしてきたら殺す事は厭わないが、人間と協力関係をとるつもりでいるのに、そんな事をしたら自分の立場を悪くするだけで何のメリットもない事を理解している。

 一方お互いが仲良くすれば、夕呼にしても白面という神様的な存在と協力関係にいられればそれだけで大きな利益になるし、白面としてもこの仙台基地の副指令と仲良くなっておく事に越した事はない。

 もちろんお互い隠し事もあるだろうし、そこの所はお互い深く干渉しないという前提を、ESP能力もなしに目のやり取りだけで取り決め利害関係が一致したのである。


「いや~~。何となく彼女とは仲良く出来そうな気がしてたのよね」

「うむ、我も夕呼とは他人のような気がしなくてな」

 カラカラと笑う2人を見て、武とまりもは顔を蒼くする。

 恐ろしい……。 何が恐ろしいって、良く分からないがこの2人が手を組む?

 考えただけで何か恐ろしい事が起きる予感がする。

 そしてそれは間違いなく自分達に飛び火する言う確信めいた物がある。

 とは言えもうこの2人は手を組んでしまったわけで……。

 最悪の同盟関係が結成された瞬間を目撃してしまった武とまりもは呆然と立ち尽くすのであった。
















「ふーん、3度目のループね……」

 白面との同盟結束の後、夕呼は武から話を聞くためまりもに席を外すように命じた。

 部屋を出るまりもが何となく俯き加減に歩いていたのに武は同情の視線を向けた。

 まりもが退室した後に聞かれた事はやはり自分の事だった。


「はい、1回目はオルタネイティヴ4が失敗してオルタネイティヴ5が発動する世界。2回目はオルタネイティヴ4が成功して『あ号標的』の破壊に成功した世界。ただしオレの知る仲間の殆どは殉職しました」

「で……、皆も助けたいと思って消えたら白面……陽狐が召喚されたってわけね」

「あぁ。我が武の声を聞いてこの地に来たのは確かだ」

「……なるほどね」

 そういって夕呼は顎に手を当て自分の椅子に腰をかける。

「話を聞く限りおそらく白銀。『BETAのいない世界のシロガネタケル』はもう元の世界に戻っているわ」

「え……? いや…………。そうかなるほど」

 夕呼の言葉に一瞬聞き返した武だったが、すぐに納得した。

「フフ。その様子だと薄々気付いていたみたいね。自分の事は自分で気付く……。大切な事よ?」

「……そうですね。言われて見れば今までは肉体の強さも引き継いでいたのに、今回はそれがない。ループした知識だけでなくこの世界の『この世界のシロガネタケル』の記憶もあるってことは……」

「ご名答。三度目のループと言うより、『この世界のシロガネタケル』にループの知識が宿ったと言った方がいいわね」

 なるほどなと武は納得した。

 そう言えば前の世界で並行世界の移動をした時も夕呼先生が言ってたっけ『気を強く持て』と、簡単に言うと意思の強い方に肉体の支配権がいくって話だったなぁと思い出す。

 つまり『皆を助けたい』と言うのは武の中でそれだけ強かったと言う事である。

 1つの体に2つの記憶がある…… 少し変な気分だがそれはさほど問題ではなかった。

「……あれ? って事はですよ? 今回の戦いが終わってもオレは消えないって事ですか?」

 3度目のループではなく、ループの知識が憑依したということは前の世界みたいに因果導体ではなくなったから消えるって事はないのではと武は考えた。

「あら? 良く気付いたわね。ついでに言うともうループもしないから正真正銘のワンチャンスよ?」

「……マジですか?」

「何? 『マジ』って?」

「『本気』と書いて『マジ』と読む……まぁそんな意味です」

 ふざけた調子で言うものの武は複雑な気分になる。

 『元の世界』にシロガネタケルが帰ったなら、自分はこの世界で骨を埋める、それは別に良い。

 武自身この世界にすでに愛着を持っているからである。

 だがやり直しが聞かないと言うのはやはり不安になる。

「まぁ、そこはアンタが呼んだ陽狐に期待って事でいいんじゃない?」

 そう言って夕呼は視線を白面に移す。

「……そうだ! 陽狐さん! 単体でBETA殲滅って一体どうやったんです?」

「あ! それ私も聞きたいわね……。本当の所どうなの?」

 昨日の会議での話を思い出す。

 やはり夕呼も信じられないのだ。

「だから何度も言ってるであろう。 ……そうだな、一応言っておくと我にも幾つか小細工できる方法は持っている。だがそれも使う必要はなく正面から殲滅した…… それだけだ」

「……マジですか?」

 本日2回目の『マジですか?』を言う武だった。

「じゃ、じゃあ陽狐さんなら直ぐにでも他のハイヴを落とせるんじゃ……?」

「フム……。まぁ可能だろうがな…………」

 白面は腕を組み、何やら言いにくそうな顔をする。

「やっぱりまだこの世界の人間が信用おけない?」

「フム、やはり夕呼にはばれておったか」

「え? 一体どういうことです?」

 「今もし我がハイヴを落としたとしても、今度は我と人間が敵対関係になる可能性があると言う事だ。……実際我はまだ人間に信用されていないだろうしな」

「え? それは一体……」

 白面の言葉が全く意味がわからず武は聞き返す。

「……まぁ、陽狐の言うとおりね。事実昨日の会議で陽狐が抜けた後、彼女の危険性について話し合われてたしね」

 白面と武の間にシレッとした表情で夕呼が割ってはいる。

「ゆ、夕呼先生!? い、いいんですか? 陽狐さんの前でそんなこと言って?」

「どうせ陽狐にはばれてるもの。……なら隠すだけ無駄よ。……私は伝承とかそう言うのはあまり詳しくないけど、基本的には人間にとって九尾の狐と言うのは『悪しき存在』として語られてるらしいわ」

「な、何だよ……。それ……」

 武は拳の握り締め下を向く。

 確かにいきなり現れた神秘的な存在に対して疑いを持つ。それは当たり前の事だと武も分かるが、どうしてもやるせない思いが胸にこみ上げて来る。

 この感覚はあの12・5事件と同じだ。BETAを殲滅する事が今現在における人類が最も優先する事であるはずなのに、人間同士の権力やら誇りやらで争って真に迫ってる危機に回りは誰も気付かない。

 いや、実際には気付いているはずなのに目を逸らしている。

 人類の敗北の歴史を知っている自分と他の人間達との危機感のズレ、例え向こうの言い分に一理あっても、それがどうしても納得できないあの感覚……。

「すまぬな武。我も人間との共存は望んでいるし、可能な限りはそなたの願いは叶えるつもりだ。だが向こうが我を危険視している限りは…………な」

「……いえ、陽狐さんの言い分は良くわかりました」

 実際人間同士のいざこざを知っている武は肩を落としながら呟く。

12・5事件だけではない。最初の世界では横浜基地に再突入型駆逐艦(HSST)を墜落させて吹き飛ばそうとする勢力がいるくらいだ。

 白面が自分が攻撃されるかもと警戒するのは当たり前の事である。

「まぁ人間側としてもそこまで長い間我を様子見せんだろう。……もっともそれでも我の戦う姿を見たらまた危険と見なされるだろうがな」

「そうなんですか?」

「BETAを単体で殲滅させる力というのは、それだけの衝撃を人類に与えると言う事だ。だが我自身が戦う姿を人間に見せる事は我にとっても通らなければならぬ道だ。まぁ人間にも我を観察する時間を設けさせてやっているのは、少しでも危険に思われる可能性を減らそうとしての事なのだが……」

 そう言って白面は腕を組みながら夕呼の方に視線を移す。

「そういうわけで夕呼。すまぬが今度会議か何かあった時に伝えといてくれぬか? 我の出撃の時期は人間側の作戦に合わせると」

「了解。それぐらいならかまわないわよ。……まぁ定期的に行う佐渡島ハイヴの間引き作戦が次の戦いでしょうけど、今の所まだ先のはずよ? 人類側としても反応炉とかの研究をしなくちゃいけないし、そっちが優先されるはずだから……。 そういえば反応炉をくれたのもそのため?」

「そなたには叶わぬな。……まぁそういう事だ」

 白面が何の見返りも成しに反応炉を人類に提供したのは、白面からの人間への友好の証と、交友関係を築く時間がほしかったためである。

 そして人類側にとっても反応炉の提供はありがたく、そのお陰で横浜基地建設などの計画が立ち、そちらが優先されることとなったのだ。

「あーー、でも惜しいわね。脳髄のシリンダーか……」

 夕呼は背もたれ寄りかかりながらボヤく。

 そう、今回は白面がBETAが人間を脳髄にする前に救出してしまったので、脳髄のシリンダーがなかったのだ。

 武の話を聞いた研究者である夕呼としてはそれがないのは手痛いわけだ。

 もっとも彼女ならそれがなくとも、時間をかければ『00ユニットの本体』を作る事は出来るだろう。

 問題なのは人間の魂を00ユニットに入れるというのに必要なオルタネイティヴ4の理論が最後の壁となっているのだから。

「先生! 00ユニットの事なんですが……!!」

「あ~、はいはい分かってるわよ。今のままの理論じゃダメだってんでしょ?」

 意を決して武は00ユニットの事を話そうとしたが、夕呼は片手を前に出してその言葉を遮った。

 霞のリーディングでその事についても知っているのである。

「はい、正しい理論を完成させるには……」

「だから分かってるって言ってんでしょ!」

 わずかにではあるが夕呼は声を荒げる。

 その態度に武は一瞬あっけに取られる。

「あのねぇ白銀…… あんた今話してた事もう忘れちゃったの? あんたはもう『因果導体じゃない』のよ?」

「あ……、そうか」

 言われて武はさっき気付いた事を思い出す。

 自分はもう因果導体じゃなくなったらこの世界から消えることはないと、つまり次元転送装置による並行世界への転移ができないと言う事である。

 夕呼が怒るのも無理ない事だと武は唇を噛み締める。

 宣言してしまったようなものなのだ。

 この世界でオルタネイティヴ4は完成しないと……。

「……ちょっといいか?」

 部屋に漂う気まずい空気の中白面が声をかける。

「何ですか?」

「その理論と言うのはどうやって完成させたのだ?」

「あ、はい。元の世界……、いやBETAのいない世界での夕呼先生が授業中に閃くんですよ。で、その公式を突然黒板に書いていくって言う光景を見ていて……」

「……でどうやら前の世界の私が白銀を並行世界に飛ばす装置を使って理論を回収させたみたいなのよ」

 武の後半の言葉を夕呼が続ける。

 顔はそっぽを向きやはり不機嫌なままのようだ。

「なるほどな……。それなら何とかできるかもしれん」

「「本当(ですか)!?」」

 2人の声が同時にはもる。

「あぁ、我がESP能力みたいなものを持ってる事は知ってるな?」

「知りません」

「私も初耳よ」

「…………………」

 いきなり出鼻を挫かれて気まずくなった白面はそっぽを向く。

 そういえば言ってなかったかなぁと人指し指で頬を掻く。

「……まぁその様なものを我も持っているのだ。『ヒヨウ』と名づけているが、それを使えば武の記憶を覗き、その授業の光景を夕呼に見せてやる事もできる。武がその公式を理解してなくても、夕呼ならそれをきっかけに自分で公式を完成させられるだろう」

 白面の言葉に武と夕呼は目を丸くする。

「ただし少々問題があってな……」

「な、何です?」

「『見ただけ程度』の記憶を読み取るワケだから、深層心理まで潜り込む必要があってな。あまり武の精神の負担にならぬようやるが、それでも武はすごく不快な気分を味わう事になる」

「問題ないわ」

「何で夕呼先生が答えるんですか!」

 武の代わりに返事をする夕呼に突っ込みをいれる。

「……問題ないわよね?」

「ハッ! 白銀武。全身全霊をもってこの任務に当たらせていただく所存であります!」

 夕呼の目を見て素早く敬礼を取る武。見事な危機管理能力である。




「……フフフ」

 座ったままの夕呼が突然肩を震わせ不気味な笑い声を上げる。

「あ、陽狐さん逃げた方がいいですよ」

 武が何かを察したのか白面に声をかける。

「ん? 何故だ?」

「あ~~~はははっ!! ――最高よ、陽狐!」

 いきなり白面にガバッと夕呼が抱きついてくる。

「ご褒美にキスしてあげるっ! ん~~~~~~!」

「そ、その様なものはいらぬ! 離せっ!!」

 2人のやり取りを見てなんか新鮮だなぁと思いながらしみじみする武であった。

 BETAをも楽々振りほどける白面でも何故かこの時の夕呼を振りほどくことができなかったと言う……。














「……やれやれ、酷い目にあったな」

 ベタベタになった顔を拭きながら白面は疲れた声でぼやく。

「フフッ。ごめんなさいね。あんまり嬉しくってつい」

 そういって夕呼は上機嫌に椅子に腰掛け、白面をジッと見つめる。

「……ん? 何だ?」

「このチート」

「?」

白面は夕呼の言葉の意味が分からなかったが武も思った「チートだよなぁこの人」と。

 そんな事を思っていたら夕呼が武の方を見て話しかけてきた。

「白銀ちょっと良い? あんたの記憶にたしかXM3ってあったわよね?」

「あ、はい」

「それって使えるの?」

「自分で言うのもなんですけど相当使えると思いますよ」

 そこまで調べられていたのかと武は感心する。

 まぁ半年の時間があったわけだから夕呼ならそれぐらいしていてもおかしくはなかった。

 XM3……コンボ、キャンセル、など武の戦術機操縦概念を誰にでも実施できないかと言う発想から生まれた新型OS。

 武はもちろん知らないが、彼が消えた前の世界では後に全人類に標準装備され戦死者を半数に減じたと評される奇跡のOSである。

「良かったらそれ作ってあげようか?」

「本当ですか!!」

「えぇ。構わないわよ」

 突然の夕呼の申し出に思わず武は身を乗り出す。

「「……………………」」

 笑顔の夕呼、身を乗り出す武、時間が停止したように流れる静寂が部屋を包む。

「夕呼先生……」

「何?」

「何企んでるんですか?」

「あら失礼ねぇ。私が無償で手を貸すのがそんなにおかしいって言うの?」

「はいおかしいです」

 キッパリとにべも無く言う武に夕呼が「ぐっ!」と言葉を詰まらせる。

「ははは。ハッキリ言われたな夕呼。まぁ普段の行いが悪いって事で諦めろ」

「うるさいわねっ! というより陽狐だけには行いがどうとか絶対言われたくない気がするわ」

 ジト目で夕呼が睨み付けると白面は詫びいれた様子も無くそっぽを向く。

 その横顔には笑みを浮かべている。

「……まぁ確かに私の利益にも繋がるけど、あんまり借りを作りっぱなしっていうのは好きじゃないのよ。本当は陽狐に返したい所だけど白銀にも協力してもらうわけだしね。それにちょうど今ならそれを作る暇もあるのよ」

「え? 横浜ハイヴでの研究に忙しくなるんじゃないんですか?」

「あのねぇ……。いくら私が天才でも横浜基地を1日で作る事なんてできないわよ?」

「あ……、そうか」

 言われてみて武はそうだと気付く。

 あれだけの設備のある研究施設なんてそう簡単にできる物ではない。

 少なくとも1年以上まず横浜基地を建設するのに時間がかかり、そこで設備を取り付けてようやく研究施設が稼動するのである。

 もちろん設備も何もない状態でも出来る研究はあるが、本格的な研究を開始できるのはまだ先の事なのである。

 夕呼も多忙な身ではあるが今ならXM3を作る時間があるのである。

 逆の事をいうと横浜基地が出来たらそちらの研究に忙しくなり、XM3を作る時間がなくなるという事だ。

「ではXM3の件よろしくお願いします」

 そういって武は夕呼に頭を下げる。

「わかったわ。まぁ理論が未完成な分少し時間がかかると思うけど。それと白銀、明日からあんたには正規の訓練兵として士官してもらうわ」

「は、はい! わかりました」

「あんたも肉体的な強さを取り戻すのに自主錬だけじゃ足りないでしょうしね。優秀な人材を眠らせておく余裕は人類にはないわ。悪いけど早い所戦場に出てもらうわよ?」

「はッ! 了解しました!」

 それに関しては望む所だと武は敬礼をとる



「まぁ戦場で死ぬようじゃ……00ユニットの素体第一候補として相応しくないわ」

 そう言って夕呼はニヤリと武に笑いかける。

「だからマジで勘弁してくださいって!!」

 恐ろしい事をサラリという夕呼に武は大声を上げる。

「……まぁ何だ夕呼。武と純夏を00ユニットとやらにするのは勘弁してやれぬか?」

 一応武に恩のある白面は夕呼に進言する。

「う、う~~~ん。陽狐がそう言うなら……。まぁどちらにしろ00ユニットの完成はまだ1年以上先の事だし……」

 白面の言葉にとりあえず了承するものの、まだ半分ほど諦めてはいないようだ。

 武としてはとりあえずの身の危険が回避されたことにホッと胸をなでおろす。

「あーそうそう陽狐、これあなたのIDカードね」

 そういって夕呼は引き出しから1枚のIDカードを白面に手渡した。

「すまぬな」

「良いのよ。それを使えばかなりのセキュリティーの高い所にも行けるわ。……もっとも全ての所には行けないけど」

「何、それは当然だろう。かまわぬ」

「そう言ってもらえると助かるわ」

 何やらトントン拍子に話を進める2人を見て武は何とも言えない可笑しな気持ちになってくる。

「では先生、陽狐さんオレはこれで失礼します!」

「そ、訓練の方がんばりなさい」

「はい!」

 そういって武は夕呼と白面を部屋に残して部屋を出る。

 両頬を自分の両手でパンパンと叩いて気合を入れる。

 どことなく自分の顔がニヤついているのがわかる。

「よっしゃーー!! やってやるぜぇーーー!!」

 直ぐにでも体を動かしたい衝動に駆られた武はそのまま廊下を駆けて訓練場に向かうのであった――。


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