第参話 「Metamorphose」VS「BETA」
『我は白面!! その名のもとに、全て滅ぶ可し!!』
暗闇の中にうごめく地虫が群れを成しこちらにやってくる。
異世界の最強の妖怪と地球外起源種BETAが初めて合間見える。
BETAの大きさは人間の2倍から10倍くらいの様々な奴らで2万近くの群れを成しているようだ。
そう言えばタケルという少年の記憶によるとBETAには大型のモノから小型のモノまでいるのだったと白面は思い出す。
もっとも白面は詳しく全部の記憶を覗いたわけではなかったので、それぞれの種類までは理解していないのだが。
いきなり戦闘開始かと予測されたが、BETAは予想外に動きを止める。
この星で人間を始めとする動植物を蹂躙してきたBETAだが、白面のような妖怪を見るのは初めてなのである。
妖怪と生き物は異なる存在。BETAからすれば、地球上の未確認種と遭遇したといった所か。
ならば開戦の挨拶は自らしてくれると、白面は1本の尾の先端をBETAどもに向け、白と赤の群れに突き刺す!
白面の尾は数十体の小型のBETAを難なくを貫いていったが、表面が岩石みたいになっているやつは中々に硬い。
3体ほど貫いたがそこで白面の尾を押しとどめた。
『――クッ!!』
……だがそれならそれで構うものかと白い顔に笑みを浮かべ、白面は更に力を込める。
白面の尾は巨岩のような奴ごと後ろの奴らと一緒に一気に押し込む!
BETAはそのまま雪崩のように崩れ、そのまま横坑に沿って、突き当たりの壁に数百体ごと激突する。
『……これでわかったであろう? 我が貴様らの敵であると? もっと近づいて来い。遊んでやるゆえ』
白面の攻撃に反応しBETAは一気に襲い掛かってくる。
白面はそれに対して先程使った『あやかし』と『シュムナ』以外の7本の尾にて向かい打たなければならない。
ちぃ、と内心舌打ちする。
白面にとってここの通路は狭過ぎる。
直径が30mくらいしかないこの場所では白面は尾を完全に活用する事ができない。
白面の尾の長さは平常は100mほど、伸縮自在でその気になれば数十kmまで伸ばすことができる。
だがこの通路だとさすがに尾を『薙ぎ払う』という動作が封じられ必然的に『突く』という動作だけに限られてしまう。
尾を薙ぎ払うことができれば文字通りゴミを払うように一掃できるというのに、突くという攻撃ではいかんせん効率が悪い。
しかしそれはBETAにしても同じ事、小型の奴らはともかく白面と同じくらいの大きさのものは、その図体ゆえ最大速度でこちらに突撃をかけることが出来ないようである。
『……消え失せるが良い!』
20合めの突きを放つ!白面の攻撃は既に2000体近くBETAを屠たが、それでも数が多すぎるためどうしても打ちもらしが出て来る。
赤い6本の手足の奴らはこの穴の中では機動に有利なのか、白面の攻撃の隙間を縫ってくる!
赤い奴らは数十体と纏わりついて、口を開き白銀の獣の体に……その歯を……突き立てた!
◆
『……くっくっく 終わりか? 地球外の妖怪よ?』
白面に食い込む顎の力は本来かなりのもの、この世界の戦術機と呼ばれる兵器の装甲ぐらいは噛み切れる。
実際戦場で一番多くの衛士を食い殺しているのがこのBETA『戦車級』である。
……だが、それでも白面の者は通用していない!
『愚か者め! その程度の力でいくら噛まれようとも……。何の痛痒も感じぬわ!!』
白面は体に纏わり付いたBETAごと飛び上がり、壁に、天井に体当たりする。
つぶれた果物のように中身をぶちまけ、独特の金属臭のする体液がこびりつく。
『くっくっく。勝てると思ったか? 多くの仲間がいるから……、勝てるとでも思ったのかよ!! この白面の者に!!』
そう言い放ち白面は2本の尾をBETAの群れに突っ込ませる。
先程と同じくこれでは数百体しか屠れないだろう……。
だが2本の尾は次第にその形を変え嵐と雷の尾と、刃の尾に変化する!
2本の尾が螺旋のように回転し削岩機のようにBETA どもをミンチにしていく。
そして嵐と雷による放電の力が、刃の尾で掻きまわされるBETAどもに蓄積され、行き場を失った力は……大爆発を起こす!
凄まじいまでの爆音――!
狭い通路は不利にもなるが、使いようによっては有利になる。
逃げ場のないBETAは今の攻撃で殆どがその生命活動を終えていた……。
『……ほう、今の一撃を受けてもまだ我に向かってくるか』
そう、生き残った何十体かのBETAは体に傷を負いながらもまるで何事もなかったかのように向かってくる。
サソリのような形をしたヤツはその腕を振りかぶり白面を殴りつける。
避けれる攻撃だが白面はあえてその攻撃を受ける。
その無様な姿に思わず笑わずにはいられない。
『愉快だなァ! 本当に愉快だ! 塵芥に等しいお前らから受ける痛みもまた心地良い! 故にゴミどもよ、今少し我を楽しませよ!!』
そういって笑みを浮かべる口元に灼熱の炎がともり、その力を一気に解放する!
巨大な炎がうねりを上げ目の前のBETAどもを痕跡も残らぬほど焼き尽くす。
『……ム、少しやりすぎたか?』
BETAどもが消し炭になった臭いの立ち込める通路を見て白面は呟く。
◆
最初の戦闘が終わってから1時間が経過した。
白面は目指す場所もなく、この巣に住まうBETAどもを殺すためだけに歩き続けたところ、ちょうど上手い具合に半径300mほどの広間があったのでそこで待機し、勝手にこっちに向かってくるBETAどもを向かい打っていた。
最初は不利かと思っていた地の利だったが、はっきり言って完全に地の利は白面にあった。
何せBETAは飛ばないのだ。
200mほど飛び上がり空中から尾を振っているだけでBETA共を一方的に嬲り殺していく事が出来る。
それに加えてこの巣の構造……。
歩き回って分かったが例えるならば巨大な蟻の巣のような形をしていた。
そのような所で直径10km近い島をも吹き飛ばす火炎を吐き出すとどうなるか……?
炎は一瞬で通路を通って巣の大部分を覆い尽くしBETAを焼き払う事ができる。
先の初戦で吐き出した炎はどうやらこの巣の内部の3分の1近くのBETAを焼き尽くしてしまったようだ。
この広間で空中から向かい打ち、白面のいる高さまで奴らが積み上がってきたら業火で焼き尽くす……。
これだけの作業でここにいるBETAどもを一掃出来るだろう。
できるであろうが…………。
『……つまらぬ』
白面は不満の声を漏らす。
そう白面にとってBETA共の相手ははっきり言ってつまらなかった。
なぜならBETAは白面という存在に対して恐怖と言う物を感じていないのだ。
最初はこれだけの戦力差がありながらも向かってくるので、勇敢だと白面は思っていた。
が、どうやらそうでないらしい。
まるで機械のようにただ物量を生かして突っ込んでくるのだ。
『さすがは地球外の妖怪と言った所か……』
すでに数えるのもバカらしくなるほどのBETAを自身の尾で薙ぎ払いながら呟く。
『これはもう少しあのタケルという少年からBETAの記憶を探った方が良かったか?』
まったく未知の相手に情報が不足している事に内心後悔する。
まぁだからと言って自身の勝利は揺るがないだろうが。
しかし、感情を読み取れる白面だから分かることなのだが、BETAは獣の槍のような器物というわけではなく、一応思考や感情といったものがあるようなのだ。
同じ生き物でも植物や単細胞生物のような存在なら無理だが、BETAには恐怖を感じる素養は持っているようなのである。
『フム……。趣向を変えるか』
下に蠢くBETAの群れを見下ろしながら白面は1本の尾をかざす。
そこから大きさが30cm程度の蠢く肉塊が次々と飛び足してくる。
『BETA共よ…… 貴様らは物量が自慢のようだな。ならば物量には物量、貴様らには100万体の婢妖をくれてやろう』
黒い塊が一気に膨れ上がりBETA達に襲い掛かる!
『フム、なるほど』
BETAに婢妖を取り付かせるという作戦は思ったより遥かに有効だった。
何しろBETAは殆ど自我を持たないのだ。
はっきり言ってそこらへんの小動物でもまだマシな抵抗を見せるだろうと白面は思う。
乗っ取ったBETAの精神を掻き乱し、あるいはゆっくり自我を崩壊させ徹底的に精神的苦痛を味あわせてやる。
『―――オ? 少しは手ごたえがあるようだな』
婢妖を操り白面はかすかな変化をBETAから感じ取る。
急に精神を崩壊させるより、真綿で首を絞めるようにゆっくり精神を崩壊させてやるほうが効果的ではあるようだ……。
『では次はどうだ? 我が今まで味あわせてきた者たちの恐怖という感情そのものを植えつけてやる』
BETAが恐怖を感じないのであれば、外から植えつけて改造してやればいい。
そう思い白面は婢妖に更なる命令を下す。
◆
『……っ!! クククこれだ…… この感情が欲しかったのだ』
BETA共から感じる感情はまさしく恐怖のものだった。
外付けの紛いものだがこれなら充分及第点だろう。
『……さぁ来い! 存分に楽しもうではないか!』
白銀の獣は雄叫びを上げBETAどもに襲いかかる。
襲いかかるものの……。
白面は内心呆れる。
BETAは恐怖を植えつけようが植えつけまいが行動はまったく変わらなかった。
普通は恐怖を感じたら縮こまる物だが全くその気配がない。
まぁBETAは地球外の生物なのだから地球の常識が通じないのは当たり前というわけかと自分を納得させた。
―――しかし白面はこの時は知らなかったのだ。BETAは反応炉と呼ばれるところから情報をオリジナルハイヴに流し、その情報を一斉に世界中のBETAに広げるという事を―――!!
―――そしてBETAは知らなかった……。白面が他者の恐怖を喰らい恐怖した相手の最大戦力を自身の力に変えるという事を―――!!
◆
『っ!! ……くっは……ぁあ!!』
突如流れるこの膨大な感情に白面は呻き声を上げる!
それは間違いなく恐怖の物だった。それが一辺に、文字通り世界中から一気に流れ込んできたのだ!!
『これは……? BETAか? 地球上のBETAが我に恐怖しているのか?』
不測の事態に白面は下に迫りくるBETAに攻撃するのも忘れ考えにふける。
『……クっ! ククカカカカッカカカカカカカァアアーーーーー!!!!』
上げるのは歓喜の奇声!!
『最高だ! 一気に力が吹き上がってくる!』
今まで多くの人間や妖怪の恐怖を喰らってきた白面だったがここまで一気に力が増えた事はなかった!!
メキメキと音を立て白面の体がより大きく、そして強くなっていくのが目に見えてわかる。
白面は目の前にいるBETAどもに狂喜の眼を向ける。
そのまま空中から地面へとゆっくりと降りていく。
『ククク……。もう地の利など生かす必要などないな。正面から思うがままにに蹂躙してくれる』
今までの白面の力に地球上全てのBETAの戦闘力が追加されたのだ、今いる横浜のBETAなどもはや白面の相手にならない!
この世界の人類はBETAの圧倒的物量によって苦しめられていた。
だがこの白銀の獣にとってはその圧倒的物量こそが命取りとなるのだ!
白面の者の狂喜の宴が……今この場で……開催されたのだった―――!!
あとがき
パワーバランス崩壊決定!!
初めて戦闘シーン書いてみましたがいかがでしたでしょうか?
ちょっとご都合主義はいりましたが、白面とBETAの特性を考えるとこうなるかなと思いました。
白面の者を召喚しようと思った理由、白面の他者の恐怖を吸収する能力って、物量が自慢のBETAにとって天敵じゃね?というのが理由だったりします。