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No.7407の一覧
[0] 【完結】Muv-Luv Metamorphose (マブラヴ×うしおととら) 【外伝追加】[黒豆おこわ](2009/12/24 21:49)
[1] 第壱話 狂った世界への来訪者[黒豆おこわ](2009/06/08 10:18)
[2] 第弐話 白銀と異世界の獣[黒豆おこわ](2009/03/16 19:35)
[3] 第参話 「Metamorphose」VS「BETA」[黒豆おこわ](2009/10/04 11:41)
[4] 第四話 明星作戦[黒豆おこわ](2009/03/19 01:50)
[5] 第伍話 その名は……[黒豆おこわ](2009/03/28 23:34)
[6] 第六話 最悪の同盟関係?[黒豆おこわ](2009/12/03 00:42)
[7] 第七話 207部隊(仮)[黒豆おこわ](2009/03/31 20:05)
[8] 第八話 日常の始まり[黒豆おこわ](2009/07/18 22:34)
[9] 第九話 変わりし者達[黒豆おこわ](2009/08/05 23:51)
[10] 第拾話 南国のバカンスと休日 前編[黒豆おこわ](2009/09/05 22:59)
[11] 第拾話 南国のバカンスと休日 中編[黒豆おこわ](2009/06/08 16:44)
[12] 第拾話 南国のバカンスと休日 後編[黒豆おこわ](2009/05/31 17:02)
[13] 第拾壱話 狐が歩けば棒を当てる[黒豆おこわ](2009/10/14 21:55)
[14] 第拾弐話 ぶらり帝都訪問の日[黒豆おこわ](2009/07/11 22:58)
[15] 第拾参話 それぞれの歩む道[黒豆おこわ](2009/11/14 06:49)
[16] 第拾四話 衛士の才能と実力[黒豆おこわ](2009/07/18 22:11)
[17] 第拾五話 日常の終わり[黒豆おこわ](2009/08/05 23:49)
[18] 第拾六話 閃光貫く佐渡島[黒豆おこわ](2009/08/20 06:05)
[19] 第拾七話 人外溢れる佐渡島[黒豆おこわ](2009/08/26 00:28)
[20] 第拾八話 散り逝く者達[黒豆おこわ](2009/09/06 00:36)
[21] 第拾九話 四分二十七秒[黒豆おこわ](2009/09/07 07:22)
[22] 第弐拾話 人類のオルタネイティヴ(二者択一)[黒豆おこわ](2009/10/03 21:45)
[23] 第弐拾壱話 戦士たちの休息[黒豆おこわ](2009/10/03 21:45)
[24] 第弐拾弐話 横浜基地攻防戦……?[黒豆おこわ](2009/10/12 23:39)
[25] 第弐拾参話 破滅の鐘[黒豆おこわ](2009/10/28 01:48)
[26] 第弐拾四話 大陸揺るがす桜花作戦 前編[黒豆おこわ](2009/11/11 23:07)
[27] 第弐拾四話 大陸揺るがす桜花作戦 後編[黒豆おこわ](2009/11/14 02:28)
[28] 最終話 2001年10月22日[黒豆おこわ](2009/12/06 12:20)
[29] あとがき[黒豆おこわ](2009/12/03 21:02)
[30] 【外伝】 クリスマス編[黒豆おこわ](2009/12/24 22:06)
[31] 【外伝②】 継承……できない[黒豆おこわ](2010/01/22 22:03)
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[7407] 第弐拾壱話 戦士たちの休息
Name: 黒豆おこわ◆3ce19c5b ID:22dccbf7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/03 21:45
第弐拾壱話 戦士たちの休息





 人類がBETAとの決戦を覚悟に決めた所で一旦会議は終了となった。

 時計は22時をすでにまわっている。

 明日の朝一番にまた集り人類の未来を決める人類史上最大の反抗作戦。

 その運命のダイスを振ることになろうとは半年前の明星作戦の時には考えもしなかった事だ。

 何故なら半年前までそれはまるで地球のように重く、ほぼ球体の正多面体だったといっても過言でない。

 無限の面の中から1を引き当てる如くの低い成功率のダイスを振ろうとする人間などいない。

 ……だが今なら勝算は十二分にある。

 今の夕呼達からすれば振れば百発百中に1の目が出るかのようだ。

 十数時間以上も篭りっぱなしの会議室を出ると外の涼しい空気が夕呼の体を包み込む。

 ようやく開放された……。

 そんな気持ちにさせる瞬間である。

 エレベーターに乗り、自分の部屋の階のボタンを押そうとしたが夕呼はそれを止め『B1』のボタンを押す。

 PXがある階である。

 エレベーターのベルが鳴る音と共に開いた扉の向こうには、ざわついた将兵達の声が聞こえる。

 廊下の蛍光灯には電気が付き、まだ多くの兵士達が起きており仙台基地は賑わっていた。

 ここ数日、民衆だけでなく諸外国の面々やらどこかの権力者やらが押し寄せて来た。

 目的はもちろん白面である。

 参拝したいとか面会したいとか本心の所には色んな思惑があるにせよ、とにかく仙台基地及び周辺はそういった人達でパンク寸前であった。

 頂いた白面宛の貢ぎ物も前回の帝国訪問から帰ってきた時の比ではない。

 その騒ぎぶりは何やらある種の宗教的なものが出来上がってると言えよう。

 さすがに今は夜の22時を過ぎているため基地内には民間人が押し寄せていることはないが、それでも仙台基地周辺にキャンプを張った人たちが大騒ぎしていたり、今さっき会議に出席していたお偉い方をホテルに送るための送迎車のライトが眩しかったりと、秋の夜にしては妙に人工的な光で空が明るかったりする。

 仙台基地の将兵達もこういった来客の対応するため半ば強制的にかりだされており、この時間にようやく激務から開放されるといった感じだ。

 それでもさすがは軍人と言うべきか? 営業時間が延びたPXで今度は自分達が騒ぐ体力を持っているのだからたいしたものである。

 酒を飲んでほろ酔い気分なのなのだろうか? 仙台基地の廊下は自分の部屋に戻らず廊下で談笑している者達でごった返していた。

 白面に貢がれた物の中には酒や菓子などの嗜好品も含まれていたため、例によって白面が配ったのだ。

 そのためか何だか仙台基地が妙に酒臭い気がする。

 規律を重んじる軍ならもう少し大人しくしていて欲しい所だが、つい先日の興奮が冷めやまぬのだろう。

 皆の表情は明るく、またどこか落ち着きがない。

 だがこれでもだいぶマシになった方だ。

 甲21号作戦の後の夜などは酷かった。

 誰もが酒を浴びるように飲み、騒ぎまくり、叫びまくっていた。

 その騒音は防音であるはずの夕呼の部屋にまで聞こえてくるかのようだった。

 中には急性アルコール中毒で病院に運ばれた者達もいる。

 まぁ最もこれは仙台基地に言える事だけではなく、全国各地で起こった事だが。

 それに比べれば今はだいぶ落ち着いてきたと言えよう。

 白面から貰った酒はまずこの世界の人間では飲む事のできない程の高級品だ。

 東北地方でつくられた豊かな湧き水とそこで作られた天然の米が織り成す香り豊かでふっくらとして繊細な日本酒、選別された葡萄を惜しみなく使用し適度な温度、湿度の元で何十年と寝かされたワイン。

 一気に飲むにはあまりに勿体無くコップ1杯くらいの量をチビチビと飲み、激務の後の楽しみにしていると言った感じだ。

 未だ騒がしい仙台基地だがその中には希望で満ちた雰囲気を感じさせる。

 夕呼からすれば少々気が抜け過ぎている気もするが。まぁそれでも軍人として自制しているようだし大丈夫だろう。

夕呼は1人無言のまま歩き続ける。

 思い返されるのは先程の会議の事だ。

 あぁは言った物のオルタネイティヴ4を諦めるのは残念でないと言えばやはり嘘になる。

 いや、正確に言えばオルタネイティヴ4も5も中止になった訳ではないが、しばらくは白面優先で事が進むだろう。

 そんな自分の気持ちを知らず、騒いでいる周りの将兵を見て夕呼はフッと自嘲的な笑みを浮かべる。

「まったくあの女狐にはしてやられたわね……あのオルタネイティヴ4の理論回収は一体何だったのよ? やる意味無かったじゃない」

 そんな事を呟く夕呼の口調は残念そうだが、どこか嬉しそうにも聞こえる。

 正直本当に複雑な心境なのだろう。

 身体がフワフワ浮いた感じでどこか心が落ち着かない。

 別の並行世界の自分はオルタネイティヴ4の計画が中止になったクリスマスの夜、ヤケ酒を煽り、あの年下である武の前で悔し涙を見せたと言う。

 ……だが今の自分の気持ちはそう言った物とは違う。

 オルタネイティヴ4が一時中止になったのが残念な一方、その重責からも開放されたとも言える。

 その所為か不思議と体が軽く感じる。

 自分もあの甲21号作戦における白面の姿に希望を見出したのだろうか?

「この私をコケにしたんだからね。ちょっと文句の1つでも言ってやろうかしら?」

 そう言って夕呼はどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら白面のいるであろうPXに足を向けるのであった。











「白面! やめろっ! やめてくれぇええッ!!」

 PXの入り口にから聞こえてきたのは男の悲痛な叫び。

「あ、あぁ……島が…奴の一撃で」

「ちくしょう……なんて、なんて嬉しそうな顔だ」

「なんて事……。私達の……人類を苦しめていた佐渡島ハイヴが……粉々になってしまった!!」

 4人の男女の台詞から一拍置き、白面が何やら得意気な態度で一歩前に出る。

「なんと他愛のない……。BETAとは斯様なまでに脆きものだったのか……。我の勝ちだッ!!」

 ドッと沸きあがる笑い声がPXの中に広がる。

 もう夜にも関わらず満員の仙台基地のPXの受け取り口付近で騒いでいるたわけ者が5名。

 台詞の上から順に孝之、慎二、武、水月、白面である。

 訓練兵の純夏、冥夜、千鶴、慧、壬姫、美琴の6人も一緒になって笑っている。

「……何やってるの? あんた達?」

「佐渡島ハイヴでの台詞合わせだ」

 飽きれた表情の夕呼に白面が意味も無く胸を張り即答する。

 良く見ると後ろの白い垂れ幕に『佐渡島のBETAから見た御方様』などとふざけたタイトルが汚い字で書かれていた。

 ……自分達が真剣に会議をやってる時、こんなふざけた事をやっていたのかと頭が痛くなる。

「香月博士お疲れ様です」

 霞が夕呼に声をかける。

 普段の彼女なら夕呼の手伝いが無ければとっくに寝ている時間だ。

 こんな時間まで起きているとは珍しい。

 恐らく白面と一緒に居たいのだろう。

 眠そうな表情でうつらうつらしながら睡魔と闘っている彼女をはたから見ているとどこか面白い。

 そんな霞の隣りに白面は椅子に腰掛け夕呼に視線を向ける。

「……して、会議の方はどうであったのだ?」

「大方予想はついてるくせに白々しいわね」

 霞の頭を撫でてる白面の顔をの表情から肩を竦めて、それなら隠す必要もないだろうと夕呼は半ば投げやりな感じで答える。

「まぁ今後はアンタと一緒にBETAを一気に殲滅していくと言う方針になったわよ。さし当たって次の攻撃目標は……」

 ここで1度夕呼は言葉を区切る。はたして言って良いものかと。

 一応正規の決定が下ってから連絡するのが軍としての正しい手順だ。

 ……だがそれでもやっぱり言う事にした。

 会議の疲れ、オルタネイティヴ4を一旦諦めなければならないショック。そういった色々な心的影響が彼女を少し自暴自棄に追いやっていたのだろう。

「次の攻撃目標はオリジナルハイヴ。――最優先事項、最深部『あ号標的』の完全破壊よ」

 夕呼の言葉にPXが一瞬静まり返る。































「「「「「へぇ」」」」」



「くッ! 薄いリアクションね……」

 自分が思い切って明かした人類最大の反抗作戦、それを告げた瞬間だと言うのに、武達を含め話を聞いていた他の将兵達の淡白な相槌に夕呼はガクッと頭を揺らす。

 もう少しこう……それに見合ったリアクションを取って貰いたいところである。

「まぁ、予想はついておりました故」

「コクコク」

 冥夜の言葉に慧もわざわざ擬音を口に出して頷く。

「BETAの指揮系統が『箒型』という新たな事実と、あの佐渡島の結果を合わせれば自然とそうなりますから」

「まぁやっぱりかと言う感じですね~」

 冥夜達に続く千鶴と美琴の言うとおり、この結果はこの基地の誰もが予想していたことであった。

 BETAの指揮系統が箒型なら頭を先に叩く必要がある事はすぐにでも分かることだ。

「腕が鳴りますわね美冴さん」

「あぁ正直これほどハイヴ攻略戦が待ち遠しいのは初めてだ」

 軽口を叩く風間と宗像だがその瞳の奥底では早く最終決戦のGOサインを出してくれと言わんばかりだ。

 それは余裕な表情と言うのとは少し意味合いが違う。

 一刻でも早くオリジナルハイヴを叩いてこの戦争に終止符を打ちたいという方が本音なのだろう。

「う~~!! でも正直残念だよ。その作戦に私達は参加できになんて」

 唇を尖らせて純夏は文句を垂れる。

 それには他の207B分隊も同じなのだろう。

 ちょっと複雑そうな表情である。

「こればかりは致し方あるまい……。我ら人類の好機をみすみす逃す事などできぬからな」

 口では冥夜も自分の気持ちを抑えているようだが、その表情からは何で自分が訓練兵なのかと悔やんでいる様子がはっきり見て取れる。

「副司令。その作戦は一体いつになる予定なんですか?」

 壬姫も小さい両方の手のひらをグッと胸の前で握り締め、夕呼に尋ねる。

「そうね……正式な日取りはまだ決まってないけど、恐らく2,3日後くらいになる予定よ?」

 疲れた体をほぐす様に自分の肩をマッサージしながら席に着いた夕呼の目の前に湯飲みが置かれる。

 その中には鮮やかな若葉の色をした合成緑茶が湯気を立てている。

「夕呼さん。どうぞ」

「あら、斗和子さん。お久しぶりですわね」

「お久しぶりです夕呼さん。甲21号作戦が終りましたのでわたくしも御方様の元に戻ろうと思いまして」

 夕呼は合成緑茶を冷ましながら飲み、一息つく。

 半分以下になった湯飲みに再び斗和子が急須から合成緑茶を注ぐ。

 ここ数日PXが混んでいる為、それぞれのテーブルに緑茶セット一式が備え付けられているのだ。

 ちなみに夕呼が白面に対してタメ口なのに、斗和子に対しては敬語を使っているのは、何となく斗和子の姿に違和感を感じてしまうため他人行儀になってしまうからである。

 女狐の勘というやつだ。

「そうだ、思い出した夕呼よ。そなたに尋ねたい事があるのだが」

「……ん? 一体何を?」

「甲21号作戦の後、人類の間で1つ大きな議題が上がっておってな。それについてそなたの意見を聞きたいのだ」

「ッ!!」

 白面の言葉に夕呼の心臓が1回大きく跳ね上がる。

 大きな議題とは先程の会議の事を言っているのか?

 確かに白面の危険性等、少々白面からすればつまらない内容についても話し合われたがそれは会議の流れ上当然の事だろう。

 白面ならその辺は理解しているはずだし突っ込んでくるとは思えないのだが……。

「…………何?」

 夕呼は自分の動揺を悟られぬよう、平静を装いつつも緊張した表情で聞き返す。

 人類としては白面と協同戦線を張っていくことが決定しているのだ。下手な事を言って機嫌を損なわせるわけにはいかない。

「うむ。我の銅像なのだ人型と獣型、どちらが良いと思う?」

「…………は?」

 PXの部屋の空気の温度が10℃ほど下がった気がした。

「……ごめん良く聞こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」

「だから我の銅像だ。御神体として京都に祭りたいと帝国の者達が申してきたのだ。だがそれを人型にするか獣型にするか大きく意見が分かれておってな。ちなみに男は人型が良いと言い、女は獣型が良いと……ってどうした夕呼? テーブルに突っ伏して」

「いや……別に……両方作っても良いんじゃない?」

 一瞬起きた眩暈から立ち直り適当な返事で返す。

 はっきり言ってどうでも良い事この上ない。

 自分達があんなに真剣になって……いや、もはや何も言うまい。

「なるほど。そなたは天才だな」

「素晴らしいお考えですわ」

「……全然嬉しくないわね」

 白面と斗和子の賛辞の言葉に夕呼はテーブルに肘を突き、頬杖を掻いた状態でそっぽを向く。

「フッフッフ、では方向性が決まった所で下絵は霞に頼むとしようか」

 不適な笑みを浮かべて白面が隣りにいた霞の頭にポンッと手を載せる。

 半分おねむ状態だった霞だったが自分の事が話題に上がると無表情ながらも驚いたような表情を見せる。

「へぇ、霞ちゃんって絵が上手なんですか?」

 武の隣りに座っていた純夏も話題に食いつく。

「うむ! 見るが良い。以前霞が描いてくれた我の絵だ!!」

 そう言って取り出した1枚の画用紙に描かれた絵は、以前白面が南国の島に行った際に霞からプレゼントされた物である。

 真っ白い画用紙に何やらクレヨンで動物の絵が描かれているようなのだが……。

「……えっと……うん! 上手なんじゃないですか?」

「まぁ霞のやさしさ? みたいな物は篭ってますねぇ……」

 純夏と武もとりあえずは曖昧ながらも霞の絵を褒める。

 というかこの状況で下手とは言えない。暖かい絵である事には違いはないが。

「……陽狐さん。恥ずかしいです」

 霞は嬉しいような困ったような、そういった複雑な表情で頬を赤らめながら白面を見る。

 ESP能力を使って周りの思考を読まなくても自分の絵がそんなに上手くはないと自覚しているのだ。

「フッフッフッフッ!! そうであろう? そうであろう? 霞は天才だと思うのだがどうだろう?」

「全くもって仰るとおりかと」

 白面の分身である斗和子もにこやかに同意する。

 こういう時分身は楽でいい。お世辞でなく本心からその言葉を言えるのだから。

 背筋をピンと張り白面の言葉を支持する斗和子には一点の曇りもない。

「……私はあんたが凄い馬鹿なんじゃないかと思いたくなるわね」

「……オレはむしろこの世界の最強の存在は霞なんじゃないかと思えてきますよ」

 不気味な笑い声を上げながら霞から貰った絵を見続ける白面を見て夕呼と武はため息を吐く。

 ニヤニヤ笑って嬉しそうだがそれでいいのだろうか? 霞の絵を元に銅像を作ってくれと言われたら職人は困りそうな気がするが。

 夕呼は合成玉露を口に含む。

 合成とはいえ玉露の香りが鼻腔を抜けていき、それが疲れた体を癒してくれる気がした。

「……ねぇ、今度は私から1つ尋ねたいんだけど?」

 このまま白面達と話を合わしていると調子を崩される一方な気がした夕呼は、白面に真剣な目を向け話題を変える。

「ん? 何だ?」

「どうして佐渡島で……あんな戦い方したの?」

「…………フム」

 ずいぶん抽象的な質問だが、夕呼の言わんとしている事は良くわかる。

 武達、周りの人間もその答えが気になったのか黙って白面の返答を待つ。

 佐渡島で見せた白面の実力。

 それは確かに圧倒的だったが、別の見方をすればやり過ぎたとも言える。

 あれでは人類にある種の恐怖心を植え付ける可能性だって低くない。

 白面の利益を考えるならもう少し手を抜き、『苦戦したフリ』をしながらハイヴを攻略するという方がずっと良いのだ。

 言葉は悪いが人類を騙しながら協力関係を結びBETAをじっくりと駆逐していけば、人類としても安心してくつわを並べる事ができただろうに。

 目の前の白面は基本的に自分と似た思考パターンを持つ。

 自分ならそうするだろうし、今まで見てきた白面もそうするだろうと夕呼は思う。

 それなのに何故?

「……そうさな」

 白面も自分の目の前にある合成緑茶に口をつけ、あの時の光景を思い返す。

 隣りに座っている霞もピクッと狐耳を動かし、白面の顔を見つめる。

「しいて申せばそなたら人類の戦いが我に火をつけた……それだけだけの事だ」

 その表情はどこか遠くを見ているような表情だ。

 何か昔を思い出しているような懐かしんでいるようなその顔からは、白面が何を考えているのか夕呼には分からない。

「……そう」

 夕呼は一言だけ返し深くは追求しない事にした。きっと白面にも何がしかの心境の変化があったのだろう。

 先程まで大騒ぎだったPXがシンと静まり返る。

 他の者達もあの佐渡島の光景が蘇っているのだろう。

 その静寂な時間が心地よい。

「……陽狐さん。オレからも1つ良いですか?」

「ん? 今度はタケルか。……申してみよ」

「その……良ければ婢妖達が昔どんな事をしていたのか教えてもらえませんか?」

「あッ! 私もちょっと知りたいかも」

「うんうん! 私にもぜひ教えてくれませんか?」

 武の言葉に続くのは遙と水月だ。

 いや遙だけでなく伊隅ヴァルキリーズの面々、仙台基地の将兵や純夏達までも何か期待の眼差しで白面を見る。

「……一応理由を聞いてよいか?」

 いきなりの質問に白面は難しい顔をしながら問い返す。

「そりゃあ佐渡島であれだけの活躍を見せられたら、昔はどんな事をしていたのだろうって気になるじゃないですか」

 武曰く戦いで散っていった者達を語り継いでいくのが衛士流の供養と言う奴らしい。

 他の衛士達も白面とのやり取りに感動したとか何とか言い、ぜひ白面から婢妖の生き様を聞きたいと言って来る。

「う、う~~む……とは言うてもなぁ」

 だが困ったのは白面である。

 この雰囲気で何と言えば良いのだろうか? 婢妖は生命体と言うのとは少し違う自分の使い魔だ。

 婢妖自身も死など恐れぬし使い捨ては当たり前。

 人間の価値観で言うと酷い考えだが白面からすればそれが正しいあり方なのだ。

 いや正確に言うとまた生み出されるから死んだ訳では無いとか正直に暴露することは出来ない。

 ……場の空気的に。

 武達の何だか期待に満ちた目が微妙に心地悪い。

 いやそれより何より婢妖の生き様?

 誇れる物ってあったっけ? と頭を捻る。

「斗和子……何かないか?」

「え!? わ、わたくしですか?」

 困り果てた白面は斗和子にバトンタッチする。

 しかし斗和子の方も慌てふためき言葉を濁らす。

 正直に獣の槍を破壊するように命じていたと言いたい所ではあるが、自分の脅威の物が例え異世界とは言え存在したなどという事は教えたくない。

 しかもその手段もバスに取り付いて乗客ごと吹き飛ばそうとしたり、人間に取り憑いて破壊させようとしたりとえげつない事この上ない。

 そしてその任務はことごとく失敗ときてる。

 言えない。本当の事は断じて言えない。

「ほら……斗和子よ……思い出せ、思い出すのだ。何かあるであろう?」

「え、え~と……ですねぇ。婢妖の良い所……誇るべき生き様は……」

 小声でヒソヒソ話をする白面と斗和子だがその内容は丸聞こえだったりする。

「……無いのう」

「……ありませんね」

 やや合ってお互い同じ結論に達する。

「本当に全く無いんですか?」

 白面と斗和子の態度を見てそれが真実だと分かるのだが、武達からすれば信じられない。

 BETAを超える物量に加え、合体、取り憑きもできる婢妖が役立たずだったとは一体白面のいた世界はどんな所だったのだろうか?

「じゃあ……、こう言っては何ですがあの時の婢妖達は本望だったんでしょうね」

 武はあの佐渡島で別れた際に自分の網膜投影に映った婢妖戦術機の姿を思い出す。

 婢妖達に救われた分まで自分達は生きねばならない。

 武達はそう決意する。

「……かも知れぬな」

 とりあえず何とか話を治める事ができて白面は胸を撫で下ろす。

「……ムッ!!」

 だが次の瞬間白面が何かに気付いたように地平線の彼方を見るかの如く何も無いPXの壁の方を仰ぎ見る。

 突然白面は眉をしかめ、声を上げる。

「どうしたんですか? 陽狐さん?」

「あぁ……いや、別に大した事ではないのだが」

 頬を軽く人差し指で掻き、ちょっとバツの悪そうな顔をして白面はこう言った。

「……どうやら数万規模のBETAが横浜基地に向けて進行してるらしい」


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