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No.7407の一覧
[0] 【完結】Muv-Luv Metamorphose (マブラヴ×うしおととら) 【外伝追加】[黒豆おこわ](2009/12/24 21:49)
[1] 第壱話 狂った世界への来訪者[黒豆おこわ](2009/06/08 10:18)
[2] 第弐話 白銀と異世界の獣[黒豆おこわ](2009/03/16 19:35)
[3] 第参話 「Metamorphose」VS「BETA」[黒豆おこわ](2009/10/04 11:41)
[4] 第四話 明星作戦[黒豆おこわ](2009/03/19 01:50)
[5] 第伍話 その名は……[黒豆おこわ](2009/03/28 23:34)
[6] 第六話 最悪の同盟関係?[黒豆おこわ](2009/12/03 00:42)
[7] 第七話 207部隊(仮)[黒豆おこわ](2009/03/31 20:05)
[8] 第八話 日常の始まり[黒豆おこわ](2009/07/18 22:34)
[9] 第九話 変わりし者達[黒豆おこわ](2009/08/05 23:51)
[10] 第拾話 南国のバカンスと休日 前編[黒豆おこわ](2009/09/05 22:59)
[11] 第拾話 南国のバカンスと休日 中編[黒豆おこわ](2009/06/08 16:44)
[12] 第拾話 南国のバカンスと休日 後編[黒豆おこわ](2009/05/31 17:02)
[13] 第拾壱話 狐が歩けば棒を当てる[黒豆おこわ](2009/10/14 21:55)
[14] 第拾弐話 ぶらり帝都訪問の日[黒豆おこわ](2009/07/11 22:58)
[15] 第拾参話 それぞれの歩む道[黒豆おこわ](2009/11/14 06:49)
[16] 第拾四話 衛士の才能と実力[黒豆おこわ](2009/07/18 22:11)
[17] 第拾五話 日常の終わり[黒豆おこわ](2009/08/05 23:49)
[18] 第拾六話 閃光貫く佐渡島[黒豆おこわ](2009/08/20 06:05)
[19] 第拾七話 人外溢れる佐渡島[黒豆おこわ](2009/08/26 00:28)
[20] 第拾八話 散り逝く者達[黒豆おこわ](2009/09/06 00:36)
[21] 第拾九話 四分二十七秒[黒豆おこわ](2009/09/07 07:22)
[22] 第弐拾話 人類のオルタネイティヴ(二者択一)[黒豆おこわ](2009/10/03 21:45)
[23] 第弐拾壱話 戦士たちの休息[黒豆おこわ](2009/10/03 21:45)
[24] 第弐拾弐話 横浜基地攻防戦……?[黒豆おこわ](2009/10/12 23:39)
[25] 第弐拾参話 破滅の鐘[黒豆おこわ](2009/10/28 01:48)
[26] 第弐拾四話 大陸揺るがす桜花作戦 前編[黒豆おこわ](2009/11/11 23:07)
[27] 第弐拾四話 大陸揺るがす桜花作戦 後編[黒豆おこわ](2009/11/14 02:28)
[28] 最終話 2001年10月22日[黒豆おこわ](2009/12/06 12:20)
[29] あとがき[黒豆おこわ](2009/12/03 21:02)
[30] 【外伝】 クリスマス編[黒豆おこわ](2009/12/24 22:06)
[31] 【外伝②】 継承……できない[黒豆おこわ](2010/01/22 22:03)
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[7407] 第拾九話 四分二十七秒
Name: 黒豆おこわ◆3ce19c5b ID:22dccbf7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/07 07:22
第拾九話 四分二十七秒





『夕呼先生! 一体どういうことですかッ!!』

 せっかくここからだという時に突如の作戦中止命令。

 佐渡島を撤退完了まで数時間。

 されどもその時間は人類についた闘争心の炎を消す事は出来なかった。

 どういうことも何も白面が中止命令を促してきた事は武達の耳にも当然入っているが、それでもやはり収まりがつかない。

 あの戦場で散った仲間、それに婢妖の事を考えると頭で理解していても心が納得しないのだ。

 最もだからと言って夕呼に当たるのはお門違いだが。

『……うるさいわねぇ』

 武の不知火に映し出される夕呼は面倒くさそうな表情だ。

『……すいません』

 思わず感情的になってしまった事を武は反省し、夕呼に謝罪する。

『……まぁ、気持ちは解らなくはないけどね』

『夕呼先生……陽狐さんの様子はどうでしたか?』

 恐る恐る武は夕呼に尋ねる。

 突然の作戦中断の指示、白面に一体どんな心境の変化があったというのか?

 その様子が気になる。

『そうね……ひとことで言うなら』

 顎に手を当て夕呼は一拍置く。

 物事を考える時に見せる彼女のクセだ。

『ぞっとする目をしていたわ』











「気に入らぬ……」

 作戦旗艦『最上』を出て海上に佇む白面はつぶやく。

 白面の頬を海上に流れる潮風が撫でる。

 先ほどの初めて見たBETAと人間の戦い。

 その光景を見て今まで感じたことのない、自分でも持て余した感情が白面の中を渦巻いていた。

「気に入らぬ……」

 また同じ言葉を呟く。

 人類が決死の思いで戦っていた佐渡島、そしてBETAの侵略を象徴した構造物モニュメントが白面の目に映る。

 白面の脳裏に数時間前までの佐渡島で起きた出来事が思い浮かべられる。

 半ば特攻じみた戦い。

 傷つき倒れた仲間を振り返る事もできない戦場の有様。

 あの戦いぶり……彼らがどれだけBETAから祖国を取り戻そうとしていたのか、その気持ちは痛いほど読み取れる事ができた。

 だが……。

















『話にならない』




 それが白面が初めて見たBETAと人類との戦争の感想だった。

 今回の甲21号作戦は上々の結果と誰もが評していた。

 被害が出たとはいえ、間引き作戦ではもっと甚大な被害が出てしかるべきだからだ。

 帝国連合艦隊の艦長も国連軍の働きを評価していた。

 あの誰より辛口な評価をする香月夕呼ですら帝国軍に対し良くやっていると賛辞を送っていた。

 オペレータの損耗率を聞いた時、誰もが予定より順調だと心の底から思っていたのだろう。

 ……白面以外。

 そう、あれはあくまでも人類の、この地獄と呼べる世界を生き抜いている人類の評価なのだ。

 どんなに厳しく評価を下そうとも人類側に偏った採点を下すのは当然と言える。

 いや、もはや絶望的な状況が『当たり前』となっていたため感覚がずれていると言ってもいい。

 最後の報告の時オペレータのこう言っていた『ウィスキー全体の損耗率26%。エコー全体の20%。共に作戦継続に支障ありません』……と。

 この損耗率、はっきり言って本来ならとっくに撤退を考えて然るべき数値なのだ。

 当初予想されていた35~40%など最早論外である。

 仮に先の作戦で損耗率が40%に達していたとしてもオペレータはこう言うだろう『作戦継続に支障ありません』と。

 そして小沢提督も香月夕呼もそれくらいだったら作戦を中止しなかっただろう。

 ……そう、これが人類とBETAの戦いにおけるこの世界の現実なのであった。

 だが……白面は違う。

 白面はこの世界の人間ではない。

 いや、人間ですらない。

 完璧に第3者の立場から先程の戦いを見ていたと唯一の存在と言って良い。

 その視点から見た結論が『話にならない』である。

 白面からすれば先程の戦いには人類にまるで勝利の要素が見つからなかった。

 間引き作戦だったため攻略作戦に比べると兵力が少ないのは当然だが、そこから逆算しても結果は同じ事だ。

 空中にばら撒かれたALMによる重金属雲。

 レーザーを無力化させてからの戦艦によるミサイルの間接飽和砲撃。

 戦術機が繰り出す数々の近代兵器の弾幕の嵐。

 確かに一時的には地上の主導権を握ることはできるだろう。

 武の開発したXM3もより多くの衛士の命を救うのは確かだろう。

 ……だがそれだけだ。

 ハイヴの攻略と言うには決定力が足りない。

 例え日本帝国の総戦力と佐渡島のBETAの総戦力を今と同じ方法でぶつけてみても人類に勝機は100%ない。

 心の奥底では人類にもそれが分かっているのであろう。

 今のままでは勝ち目がないと。

 いや、もしかしたらその現実から目を背けているだけなのかも知れない。

 ……だがそれでも人類は戦う。

 何度BETAに敗北しようが、何度叩き潰されようが何度でも立ち上がって……。

「……何故……何故…………貴様らは戦い続けるのだ?」

 自然と白面の口からその様な言葉が漏れていた。

 フワリと日本海に立つ白面のその足先から波紋が静かに広がっている。

 それはまるで体重を感じさせない一枚の羽毛のようだ

 白面は目蓋を閉じる。

 絶望的な戦力差にも関わらず戦い続ける人類の姿を見て、白面はある光景を思い出していた。











『くだらぬ! 弱し!! 弱くてくだらぬ!』

 思い起こすのはあの槍の少年と金色の獣との一騎打ち。

 自身の7本目と8本目の尾の能力、雷と嵐、槍の尾。

 その力を持って彼らを蹴散らした時の記憶だ。

『お前達は我に勝てると思うているのか? 思うてはいぬであろう? 弱いからな!』

 己の力にまるで歯の立たない人間と獣、その脆弱さにかつての自分はあざけりの言葉をはいた。

 そう、まるでこの世界のBETAと人類のような力の差だ。

 彼らに勝利など端から存在しない。

 ……なのに何故彼らは戦おうと言うのか?

 正義のため、平和のためだと言うのか?

 地に伏す己の宿敵に白面は続けて言葉を吐く。

『ならば既にお前達の戦いは正義などと言う大儀のもとの戦いではない。 自己満足だ!! 弱い自分を認めたくないという自意識が生んだ、哀れな自己陶酔者。それがお前達の姿だ!』

 自分の頬まで裂けた嘲り笑みが何と心地良い事か。

 かつての自分ならこの世界の人類にも同じ台詞を吐いただろう。

『槍の使い手よ、おまえはわかっていたのだろう。どんなに口で人間を救いたいといっても……絶望の闇夜に向かうしかないことがあるということを!!』

 そう、それはこの世界の人類もわかっていることだ。

 この地獄の世界に生きる自分達には最早闇夜の世界しか許されていない事を。

『夜だ! お前達に!! この世界に! 我が夜をもたらしてやるのだ!』

 血塗れで倒れる2人に白面は自身の破壊衝動をぶつけ笑う。

 それが闇に生まれた自分の成すべき事。

 自分以外の陽の存在全てに対する復讐なのだ。

 だが……。

「どんなに誰かが……がんばっても……すくえねえやつがいる」

 白面の言葉に対して獣の槍の少年は立ち上がる。

 全身血だらけ、最早満身創痍の状態だ。

 獣の槍の少年、蒼月潮の言う事はそのとおりだ。

 戦いに限らず人間社会において救えない、助けられない人間と言うのは必ず存在する。

「…………だからって……あきらめ……られるか……」

 その足掻く姿。

 あの時の白面からすれば何と愚かな事かと一笑に付す哀れな姿だ。

「自己満足か……。 よくわかんねぇや……。 でも……もしもよ……もし、オレが願えば……誰かが助かるなら……」

 獣の槍を支えにして少年は震える体に力を込める。

 震える足からその体力は既に限界に来ている事が見て取れる。

「もしもオレが泣けば……誰かの涙を全部泣いちまえるなら……オレは願うさ。何度だって泣いてやる」

 ……その表情、彼の目には絶望などなく、ただひたすら生き抜く生命の光が灯っている。

「そして立つ――! 立って戦う」

 両足に力を込め立ち上がる蒼月潮は、その世界に生きる物すべての覚悟を一身に引き受けたかのような強さが見て取れる。

『負けとわかって、まだ戦うか……』

 馬鹿馬鹿しいと白面は思う。

 瞬時にして粉砕される。それがこいつらの運命だと言うのに。

 こういうのを無駄な足掻きと言うのだ。

「勝つさ!」

 だが蒼月潮は白面の言葉を打ち消す。

「おまえの夜は……もうやって来やしねえ……オレにはわかるんだ。 おまえと戦っているのは……オレ達だけじゃないから……」

 震える手を天にかざした少年の後ろには夜の闇を打ち消すがごとき朝日が浮かんで見える。



「――オレ達は今!! 太陽と共に戦っている!!」

 光を背負いし立つ獣の槍の少年『蒼月潮』とその相棒『とら』。

 そのまぶしい姿……あの時の自分にどのように映ったのか……?









「気に入らぬ……」

 目蓋を開き口から出るその言葉。

 すでに何度目か分からない。

 今回の佐渡島ハイヴ間引作戦、初め人類が自分に戦わせないで先陣を切ったのが不快だった。

 自分をまだ信用していないのか?

 それともこの作戦に『人間も協力した』という名誉でも欲しいのか?

 そんな下らない、愚かな損得勘定などやっているからこの世界の人類はBETAなどに遅れをとるのだ。

 そう思っていた。

 ……だが…………違った……。

 たしかに上層部の人間にはそう言った思惑があっただろう。

 しかし最前線で戦う人間達、戦場で倒れた人間達はそんな『ちっぽけな理由』で戦ってなどいなかった。

 彼らの姿に浮かぶはかつての宿敵の姿――。

 圧倒的な戦力差にもかかわらず、未だに戦う事を止めることのないこの世界の人間達はかつての宿敵と同じ姿をしていた。

 秋風の吹く佐渡島沖の日本海。

 先程の戦いの名残か硝煙と火薬の臭いが潮風に混じるこの大海原で白面は1人たたずむ。

 見つめるおよそ70km先にはBETAの地表構造物。そこに群がるBETAの姿。

 千里眼を持つ白面の肉眼には奴ら1匹1匹の姿がはっきり捉えられていた。

 奴らの表情からは何も読み取れない。

 だが、先程まで死闘を繰り広げていた人間に対して敵とすら認識していないその無機質な表情が逆にあざ笑っているように見える。

 ――不愉快ッ!!

 白面はギリッと奥歯を噛み締める。

 眼下に映るBETA共の姿……それはかつての自分の姿に重なった。

 別に白面は昔の自分のやった行いに対して罪の意識や、それによる良心の呵責を感じている訳ではない。

 もとよりそこまでのセンチメンタルな心は持ち合わせていない。

 ……ならばこの戦場で散っていった人間達を見て心を痛めたと言うのか?

 それもわからない。

 自分でも持て余した初めての感情……。

 それが何なのか、またその原因が何なのかも白面にはわからない。

 だが……1つだけ解った事がある。

 それは『目の前のBETAの存在が気に入らない』という事だ。

 銀色の瞳をスゥッと白面は細める。

 その目……かつての自分が人間に向けていた殺意の視線を今度はBETAに向ける。

 人型だった白面の姿が輝き、金と銀に輝く巨大な獣の姿に変貌をとげる。

『BETA共よ……。悪いがすぐに終わらせてもらうぞ。我はいま不快なのでな……』





 これからの四分二十七秒は、またたく間に起きた事件だ。

 白面のBETAへの殺意が一気に膨れ上がりそして『零』になるまでの四分二十七秒。












「で、でけぇ…………ッ!!」

 初めて見る白面の真の姿に武だけでなく甲21号作戦に参加していた人類全てが息を飲む。

 模擬戦闘の時、要塞級のサイズに合わせた白面は見た事のある武だったが本当の大きさは予想のはるか上を行っていた。

 全高600m、全幅2000m……いやこれは頭から体までの長さだ。尻尾の長さを入れると白面の全幅は更に大幅修正する必要がある。

 幅が100m、長さ4000mにもなろうかと言う白銀に輝く尾が9本、その1本1本が不気味に日本海の上空に揺らめく。

 恐らく高度10000mを超える高さにいるのだろうが、その余りの巨体のためまるで上空から圧迫されるようなプレッシャーを感じる。

『――ッ!! 敵レーザー照射多数!! 照射源31ッ!!』

 オペレータからの通信よりも早くBETAの光線が白面に照射される。

 当然だ。あれほどの巨体、光線級でなくとも見逃すはずもない。

 圧倒的なまでの大きさが逆にいい的になる。

 何十本もの光の槍が1点に集中する。

 白面の巨体からすればそれはか細い光の線に過ぎない。

 ……だが細さなど関係ないのだ。

 どれだけ巨大な生き物だろうと体を貫通させられればそれは致命傷に違いない。

『――最高出力まであと4秒ッ!!』

 オペレータからの緊張で心臓が張り裂けそうな悲痛な叫びが武のコックピット内に響く。

『―――陽狐さんッ!!』

 思わず武は声を上げる。

 身を乗り出そうと不知火の操縦桿を握りしめた。

『―――――――――!!!!?』

 レーザー照射によるプラズマ爆風。

 その爆炎から姿を現す白面の体には……傷ひとつ付いていないッ!

『…………つ……強えェ…………!!』

『――レーザー再照射ッ!! ――照射源26ッ!!』

 力が抜けた状態で武は操縦席に座り込む。

 結果はまた同じ、無傷の白面の姿だ。

『――す……凄ぇッ……!!』

 この光景を見た時、武はかつての前の世界、00ユニットの純夏が操っていたXG70-b 凄乃皇・弐型の姿を思い出す。

 あのレーザーの曲がった瞬間の光景は今でも武の脳裏に焼きついている。

 だが……違う……!!

 レーザーを無力化しているという意味では同じだが全く違うッ!!

 凄乃皇・弐型は備えられたムアコック・レヒテ機関を用いてその周辺に『ラザフォード場』を形成。

 その重力場と呼ばれるシールドのような物でBETAのレーザーを無力化していた。

 ……だが白面のアレは……はっきり言って何もやっていないッ!!

 小難しい理屈など一切ない。

 単に効いてないだけなのだ。

 人類の……いやBETAから見ても異常と言えるまでの防御力の高さ。

 ただそれだけで人類が今まで煮え湯を飲まされたレーザーを無力化している事実ッ!!

『……うッ!!』

 腹の奥底から来るこの震えは何だろうか?

 武だけでない。

 この光景を見た人類は、ある者は口を開き、ある者は呆然と笑みを浮かべる。

 上げたくなる歓声をゴクリと飲み込み武達は白面とBETAの一騎打ちを食い入るように見つめる。

 なおもレーザー照射をその身に受けながら白面はゆっくりと口を開く。

『くだらぬ……。かやうな薄日のごとき光で照らし何を討つつもりだったのだ? 我を討とうとでも思うたのか?』

 その静かな口調、されどそこからははっきりと不快の色を感じ取る事ができる。

『出でよ……くらぎ……』

 その一言から白面の尾が突如変形する。

『我は白面の御方の分身“くらぎ”……』

 ビキッ! パキッ! と堅い何かが擦れ合うような音。

『地の底を這いずり回る腐れた存在が……白面の御方に抵抗する愚かさを知れい!!』

 白面の毛で覆われていた尾がどんどん硬質化して行き生き物の形を成していく。

 それはまるで昆虫のような甲殻を持つ化物の姿だった。

 白面は召喚した『くらぎ』に自分に当たっていたBETAのレーザーを代わりに受けさせる。

『くらぎ』……かつて白面がいた世界にも姿を現した事のある白面の分身だ。

 その世界における光覇明宗と呼ばれる化物退治において最高レベルの総本山を襲撃し、壊滅状態までに追い込んだ存在でもある。

 だが、真に恐ろしいのはその巨体から繰り出される攻撃なのではない。

 その力……『体外から受けた力をそのまま反射する能力』にあるッ!!

『……跳ね返せ』

『御意ッ!!』

 白面のひとことにより、くらぎは受けていたBETAのレーザーの向きを180度変える。

『ははははッ! 斯様な薄汚い粗品は御方様には必要ない。己らでたんと味わうが良い!』

 佐渡島に降り注ぐ光の雨。

 その光景は人類にどのように映ったのか?

「……な、何よアレ…………」

 天才物理学者と呼ばれた香月夕呼ですら目の前で起きた現実に、ただ唖然とするしかなった。

『……下がれ。くらぎ』

『――はッ!!』

 白面は自分の分身のくらぎを後ろに下がらせる。

 そう、この程度ではBETAをどうする事もできない。

 それは先程の戦いで婢妖が証明している。

 数十本のレーザー光線ではBETAを駆逐することは出来ないのだ。

『……少し貴様らに面白きものを見せてやる』

 白面は笑みを浮かべてもう1本別の尾を振りかざす。

 今受けたBETAのレーザー照射、これは人類の航空兵器に対してBETAが作り出した新たに生み出した力だ。

 人類が有利に進めていた戦況を一瞬で覆してしまった力。

 相手の脅威に対して新たな能力を生み出していくBETAの特性。

 これもBETAの恐ろしい所と言える。

 ……なるほど確かにその通りだろう。

 だがここで前の御伽の世界による『白面の者』の行動を振り返ってみる。

 白面が滅んだ時より2300年も前では白面は『酸の尾』と『鉄の尾』を使用していた。

 だが最終決戦の時にはそのような物は使わずより強力な尾を生み出している。
 
 蒼月潮の振るう獣の槍とその相棒とら、2人の実力を内心認めていた白面はそれ似せた『槍の尾』と『嵐と雷の尾』を生み出している。

 さらには婢妖の場合でも蒼月潮を孤立させるため、相手の特定の記憶を消し去る能力を持つ新型を生み出している。

 霧妖怪シュムナにおいても本来『火』が弱点だったが最終決戦においては、焼けた岩石を難なく溶解させているようにその弱点を克服させていた。

 そう…… BETAと同様、相手の脅威に対して自身の能力を改良する能力は白面も持っているのである!

 白面は狡猾で、ありとあらゆる手段で敵を追いつめる頭脳を持っている……。

 半年間横浜ハイヴに身を潜めていた白面が、BETAに対して何の対策も立てずにただ情報集めだけをしていたということがありうるだろうか?

『『『『『―――――ッ!!!!??』』』』

 1本2本と佐渡島に新たな光線が降り注いでいく。

 そのレーザー照射を行っている存在は婢妖とはまた違った無数の獣の姿。

 全長3m近い黒い獣……『黒炎』と呼ばれる白面の眷属だ。

 その威力! 精度! BETAの繰り出す小型の光線級のそれと何ら変わらない!

 当然だ。白面がBETAを研究している際にその能力を黒炎に与えたのだから。

 自分自身の能力を変えられる白面にとって、元々独自のレーザー照射に似た能力『穿』を持っていた黒炎に、BETAの能力を応用して分け与える事など白面からすれば造作もない。

『……こ、光線級』

『……やっぱり居たんだ』

 自分の視界に映るその存在に呆然と呟くのは水月と孝之だ。

 何となく予想していたのだ。

 あの『死の8分』を超えるための特別演習。

 他のBETAに合わせた存在を出してきたのに対して、唯一『光線級』の存在を白面は出してこなかった。

 だから何となくだが伊隅ヴァルキリーズの面々は思っていたのだ。『もしかしたら居るんじゃないかな~?』……と。

『……っておい!! ちょっと待て! 一体どれくらいまで増え続ける気だ!?』

 隣りにいた慎二も大声を上げる。

『『『けけけぇッ!! 殺せぇッ!! 殺せぇ!!』』』

 地上からBETA、空中から黒炎がそれぞれレーザーを打ち合う。

 互いに遮蔽物も何もなく避けようともしない。

 だがその均衡はすぐに破れた。

 黒炎側の勝利によって……。

 光線級はエネルギー消費が激しい。

 そのため物量が自慢のBETAの中でも量産に向かないのだ。

 だが黒炎は違う。

 白面の存在がある限り無限に近いほど次々と生み出されてくるのだ!

『御方様の光線級の総数……推定……100万……!?』

 CPである涼宮遙の声が震えているのが解る。

 当然だ。はっきり言って反則である。

 佐渡島沖上空に浮かぶ黒炎の軍団が雷雲のように覆いつくしそこから繰り出されるレーザー照射が次々とBETAを駆逐していく。

 先の婢妖が見せたように確かにBETAに対してBETAの光線は余り有効ではなかった。

 だがそれは数が少なかったからである。

 これほどの数になると最早その理屈は通らない。

 数は力なのである。

『『『カカカァッ!! 地中に居るからって安心するなよッ!!』』』

 既に佐渡島の地表に居るBETAの姿は見られない。

 だが今度はレーザーを照射していた黒炎とは別の形をした黒炎が前に出る。

 その額から稲光がほど走り、何十万と言う稲妻が佐渡島のいたるところに空けられた『門』と呼ばれるBETAの出口に叩き込まれる。

『……ひ、ひでぇ…………』

 無数にのたうつの雷の蛇が覆いつくす佐渡島の光景に何となく武は呟く。

 いや別にBETAに同情する気はさらさらないが、その圧倒的な力の前に武も最早笑うしかないと言った感じなのである。

『……貴様らには何もさせぬ、何をもなぁ。 ただそこで駆逐されるだけの役目を果たしているがいい』

 そう言い放つ白面の口もとに全てを焼き尽くす焔が灯る……。

『……消え失せよ!!』

『『『『――――うッ!!!』』』』

 一瞬白面の周辺から生み出された光に武達は目を覆う。

 そして人類は見る。

 佐渡島ハイヴに突き進むその正体を……。

 それは……火……? そう、確かに人間の言葉で言う『火』であった。

 だがアレを火と言っていいのだろうか?

 巨大な螺旋を描きながら突き進むその火は余りに巨大、余りに暴力的……。

 放たれた業火はそのまま一直線に佐渡島ハイヴの地表構造物を吹き飛ばしていた……。

 一瞬の静寂

『『『『『――オォオオオオォォッッ!!!』』』』』

 湧き上るのは人類の歓声ッ!!

 今までBETAに虐げられてきた数十年にも及ぶ鬱憤が一気に吐き出されたのだろう。

 泣きじゃくる者。

 ひたすら叫び続ける者。

 それぞれが、それぞれの思いを胸に秘め唯ひたすら天へと叫ぶ。

「………………ハ……ハイヴ……が……砕けた……」

 信濃艦長の安倍が火山噴火のようなどす黒い巨大な煙を吐き出し続ける佐渡島を見て涙する。

 脳裏に浮かぶかつてこの地でBETAに侵略された際の戦い。

 そこで散っていった仲間達。

 ようやく彼らも報われた。

 そんな気がしたのだ。

「…………す、すごい」

 作戦旗艦の最上に居た夕呼も唯その一言しか出てこない。

「ッ!! 香月副司令!!」

「――――ッ!!」

 突然叫んだピアティフ中尉の言葉に夕呼が我にかえる。

「何ッ? どうしたの?」

「あ、あれ……見てください」

 ピアティフ中尉の指差す映像。

 モニュメントがあった場所から吐き出される煙を払う姿、白面の者が主坑の真上に待機していた。

「な、なんで……?」

 確かに自分は一瞬モニュメントの方に気を取られて白面の姿を見ていなかった。

 いや多分自分だけでなく他の者達もそうだろう。

 その一瞬の間にどうして? ハイヴから70km近く離れていた位置にいた白面が存在するのか?

 ここでまた白面の存在を振り返ってみる。

 この世界においてBETAが北九州を初めとする日本海沿岸に上陸し、わずか1週間で九州・中国・四国地方に侵攻するという出来事が起きた事がある。

 これは偶然だが白面も似たような行動を起こしたことがあるのである。

 沖縄トラフから復活を遂げた白面が、そのまま九州から各主要都市を破壊しながら侵攻。

 自衛隊は当初の予想を上回る白面の進行速度と機動力に抗しきれず次々と敗れ、日本に住む化物も終始白面の者に敵し得なかった。

 ちなみに宮城県北部あたりまでの侵攻した際の所要時間はおよそ4時間

 そしてその飛行距離はおよそ3300km

 破壊した都市の数は21箇所

 1つの都市の破壊時間が平均『死の8分』だとしても移動時間は72分……。

 実際に行った破壊時間がどれくらいかは解らないので一概には言えないのだが、あの最終決戦の時の白面は速度はマッハ2を超える。

 そして地球上のBETAの戦闘力を吸収したこの世界の白面は……。

 あの時より更に数段……速い!!

「……ッ!!」

 夕呼は気付く。

 白面が通ったであろう海上が割れている事から、ただ凄まじい速度で移動したのだという事に!

 衝撃波を撒き散らしながら70kmという距離を一瞬で詰め、丸見えになった佐渡島ハイヴの主抗の上空で白面はただジッとその巨大な穴を見続ける。

 その口元に灯るは第二発目の業火!!

 これが機械ならあれだけ破壊エネルギーを打ち出した後にはかなりのインターバルが必要だろう。

 だが白面にとっては人が深呼吸するのと同じ程度の時間があれば十分である!!

 白面は自身の主砲を真下の主坑、及び反応炉に狙いを定める。

『――ッ!!』

 白面に集る天を貫く無数の光の槍。

 それは主坑に張り付いた無数の光線級が上空に放ったレーザー照射だ。

 本来とてつもない威力の筈なのだが、白面はその照射を浴び続け口元に笑みを浮かべる。

『しょうことも……なし』

 BETAの無駄な足掻きを意に介さないままゆっくりと空気を胸いっぱいに吸い込む。

 先程モニュメントを吹き飛ばした白面の……。

 BETAにとって情け容赦ない破壊の一撃が……。

 ハイヴの主抗に直接……。

 叩き込まれたッ!!
 





 
 これは――、四分二十七秒の間に起きた事件。

 四分二十七秒で決着した戦い。

 この星に存在する全てのBETAは……。

 四分二十七秒で滅亡を宣告された――。












あとがき

 やっとここまで書けた~!!

 タイトルからピンと来た人も居るかも知れませんが、今回の話はうしとら31巻のあるシーンにあやかりました。

 ……最もその内容はまるで逆ですがw


 白面の速度については、うしとら32巻の12ページを参考にしました。

 暇を持て余した作者がネットで検索した距離から割り出した計算ですので結構適当かもです。
 
 あとついでにもう一個。

 うしとら32巻の84ページ。

 ハマー機関に映し出された白面の位置が北海道。

 そこから約30分で淡路島上空まで移動してます。

 最短の直線距離で約1200kmあるからやっぱりマッハ2~3くらいが妥当かな?


 あっ! 今回白面が移動した際の衝撃波とかで戦術機母艦が10隻くらい沈んだと思いますが、スルーしてください。


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