第拾話 南国のバカンスと休日 中編
――総合演習2日目
遙、水月、武のグループ。宗像、風間のグループがそれぞれ目標対象を破壊するため、熱帯雨林特有の背の高い木々や蔓が生い茂るジャングル突き進む。
ジャングルの中は日光を少しでも多く吸収しようと上へ上へと成長した樹木が、高さが30m超える支柱のように連なり、その上層部では充分過ぎるほどの光合成を行った多くの葉っぱが緑の屋根を形成している。
そこでは花や実も多く咲き誇り、それをエサとする動物や昆虫の生命力溢れる生への営みの声が合唱となって下層部の林間ホールに響き渡る。
「ハァ……ハァ……」
自分の呼吸の音がうるさい。
纏わり付く湿気に加え、ぬかるんだ地面、低木や蔓植物が多い歩きにくい植生が自然の要塞さながらに武の歩みを遮る。
さらにこのジャングルに張り巡らされた人為的なトラップが行く手を阻んでいた。
この演習に派遣されたであろう優秀な工作兵達は、ご丁寧にも自然の植生は一切いじらずトラップを設置してくれたのだろう。
大自然の要塞に人為的トラップ……。
この二重の脅威は総合技術評価演習において避けようのない定番のものと言えよう。
(…………クソ!)
武は内心愚痴る。
自分の体力のなさが情けない。
……いや、それを言うと誤解がある。
今の武は最初のループの時と違い、この演習を潜り抜けるだけの体力は充分にある。
しかし2回目のループの時の自分と比べると体力面で劣ってしまっているのだ。
だがコレは仕方のない事と言えよう。
いくら仙台基地で訓練をしたとしても今の武は15歳。同じ訓練をした17歳の自分とは体力が違ってくるのは当たり前である。
特に男性はこの年齢あたりで一気に体つきも大人のそれに近づきガッチリしてくる。
体力を蓄える貯蔵量が根本的に違うのだ。
こればっかりは訓練ではどうしようもない。
それに加え白面の言葉により、ありもしない罠に武達は必要以上に神経を尖らせ進行速度が予定より遅れていた。
……ただの偶然だがこれが白面の仕掛けた罠と言えばそうであろう。
本来なら第1破壊目標であるA地点には初日の夕日が沈む前、遅くとも2日目の朝にはなんとか到着できるはずだった。
所が結局初日は野営を取り総合演習2日目、明朝に出発して午前10時現在においてもまだ目標地点に到達できないでいたのであった。
初日からのこの時間のロスははっきり言って痛い。
過度な罠への緊張と時間への焦り……。
この精神的ストレスが武だけでなく武グループの疲労を更に加速していたのであった。
「遙、大丈夫?」
「う、うん……。大丈夫だよ」
水月が振り返り遙に声を掛ける。
武達のチームは水月、武の2人が先頭を行くツートップの陣形で罠を切り開いていく。
遙は訓練兵としては体力の少ない方である。
故に自然とこの陣形が形成されていたのであった。
武は熱帯植物の葉を慎重にずらしトラップが無いか確認する。
日光の少ない林床部では植物は少しでも多くの日光をかき集めようと、これでもかと言うほど大きく葉っぱを広げている。
こういった植物の陰は罠を隠すにはもってこいなのである。
……案の定、細いワイヤーが隠れていた。
「先輩。ここ罠があるから気を付けてください」
「ありがとう。白銀君」
「遙、A地点には後どれくらいで着きそう?」
「……そうね今まで歩いて来た所と同じような地形が続くなら後3時間くらいかな」
遙は歩い来た速度と地図とを照らし合わせすぐさま答える。
体力で劣っている分、頭を使うのは彼女の役目なのである。
「すこしペースが遅いわね。遙、もうちょっとペースを上げるけど付いてこれる?」
「大丈夫。まだそこまで限界って訳じゃ無いから」
「……うん。じゃあ早い所さっさと合格しちゃいましょ!」
遙のがんばっている表情を見て水月も笑顔で答え先陣を切るのであった……。
◆
「ん~……、ジュ~シ~♪」
上機嫌に蒼天の炎天下の下、真っ白な皿に乗せたフィレステーキに夕呼は舌鼓を打つ。
合成のパチモノと違い、柔らかいミディアムレアの食感と牛肉の芳潤な肉汁が口の中に広がる。
「……しかしそなたは海に来て泳がぬのか?」
「やーーーよ。何が悲しくて休日に来てまで体を動かさなきゃ行けないの?」
完全にインドアな人間の発言をする夕呼はこの海に来て全然泳いでいない。
青い空の元、ビーチチェアに横たわりシャンパンを片手に悠々自適な休日を満喫している。
それもまた1つの休日の楽しみ方であるのでそれ以上はどうこう言わずに白面も肉を口に運ぶ。
西洋食器などあまり慣れていないはずなのにフォークとナイフを扱うその姿は、中世ヨーロッパの貴族のように鮮麗され妙に様になっている。
伊達に人間社会……それもトップの人間のいる世界に溶け込んできたわけではないと言う事か。
隣では霞が馴れない手つきで必死に肉と格闘している。
そんな霞の様子を見て白面もこの南国に来て良かったと思う。
そう……、あれは総合技術評価演習の数日前のことである。
この総合演習で南国に一緒に行かないかと夕呼に誘われた時、実は白面は行く気は無かったのである。
何故かというと白面は800年間ほど、沖縄の海底で潜水記録を更新し続けた存在である。
ぶっちゃけ南国の海には飽きていた。
その旨を伝えたところ「800年ってアンタ……、一体何やってたの?」と夕呼に呆れられた。
何をしていたかと言われたら封印されていたのである。日本が沈没する箇所を自分が破壊したから…… とは口が避けても言えないのでそこら辺は笑って誤魔化し、その代わりに霞を一緒に連れてってやってくれぬかと頼んだのだ。
しかし白面の心遣いは嬉しくても霞は「私は陽狐さんと一緒に海に行きたいです」と何やら訴えかける眼差しを白面に向けたのであった。
こう言われては白面も「いや…… まぁしょうがないな」と言葉を詰まらせながらも了解したのであった。
癒し系小動物のある意味無敵の技であった……。
「けどこうして見るとあなた達、絵になると言うか親子みたいねぇ」
冷やかした口調で夕呼は両手の親指と人差し指で四角を作り、写真を撮るようなマネをする。
「……親子ですか」
表情こそ殆ど変わらない物の、霞のウサ耳がピョコッと動く。
そのままステーキを切る手が止まり、何かを考えるように一点を見続ける。
「……ねぇ陽狐? 食事の後はアンタはどうするの?」
「そうだな……。取り分けする事もないゆえ、久方ぶりに泳いでみるか」
ついでに懐かしき沖縄トラフまで遠泳してみるのも悪くない。ここから千キロ以上距離が離れているが軽く泳げる距離だ。まぁ問題ないだろう。
何せ沖縄トラフ自分が封印されていた場所なのだ。
どうなっているのか少し気になると言うのも無理からぬ事である。
もっとも別にどうもなってない窪みが続いている可能性が一番高いだろうが。
「陽狐さん……。あの……」
「ん? どうした? 霞よ」
先程から黙っていた霞がオズオズと白面に声をかける。
口を閉じ視線が右に左にと動き、何やら物凄く戸惑っているように見える。
やがて意を決したのかまっすぐ白面を見る。
「その…………、良ければこの後一緒に貝殻拾いしませんか?」
それは本当にささやかな……他人から見たら小さなお願いであった。
だがそれでも霞からすれば精一杯の勇気を振り絞った行動であった。
「…………ヌッ! あ、あぁそうだなぁ」
この島に誘われた時も思わず頷いてしまったのと同様、どうも霞のこういった表情に白面は弱い。
まるで春先に残った溶け掛けた雪溜まりのような儚さ。何と言うかこの危うさが彼女の魅力の1つなのであろうか?
何だか妙に抱きしめたくなる衝動に白面は駆られる。
「あらあらあら珍しいわねぇ。霞からお願いするなんて。…………で? どうるすの? 陽狐?」
ニヤニヤと面白い物を見つけた表情で夕呼はあえて白面に問いかける。
からかっているのである。
霞は白面の様子に不安そうに見つめ続ける。
「……左様におぼつかなき顔をせずとも良い。貝殻拾いくらい幾らでもつきおうてやるわ」
その言葉に安心したのか霞は一言「ありがとうございます」と礼を言うと、また食事に取り掛かるのであった。
心なしか先程より食べる速度が速いような気がした……。
◆
「結局ここには回収ポイントのヒントになるものはなかったね……」
A地点は海岸沿いの崖にあった洞窟を利用した形をしていた。
そこにたどりついた武達は念入りな探索を行ったものの、結局見つかったのは簡易テント布だけだった。
美琴と行動した今までの演習のように軽油もここでは見つからなかったので、今回は景気よく爆破というわけにはいかなかった。
「さて、じゃあどうしようかしらね?」
探索を終えた武グループは一旦昼食休憩プラス作戦会議を取る事にした。
水月はヤシの実の内側に付いた胚乳をナイフでそぎ落としながら問う。
道中に自然のヤシの木を発見したのでそれを昼食としたのである。
真っ白い胚乳は食感といいイカの刺身に味が似ている。
日本人の武としてはわさび醤油が欲しい所であったが、普段食べてる合成食に比べると天然のヤシの実は数段美味く感じられた。
「そうね。じゃあ私が目標ポイントを破壊してくるから、水月と白銀君はヤシの実を加工しててくれるかな。終ったら私もそっちを手伝うから」
「遙先輩。A地点は爆破できないですけど1人で大丈夫ですか?」
「白銀……。らしくないわね別に爆破だけが破壊方法じゃないでしょ?」
水月が呆れた口調で言う。
「え? ……あ、あぁそうか。すいませんちょっと勘違いしてました」
武は自分が変な思い違いをしていた事に気付いた。
まりもも言っていたではないか「「破壊の方法は手段は問わない」と。
今まで武はこの総合演習の目標破壊は『爆破』という行動しかとっていなかったので、目標破壊=爆破という変な固定観念が生まれていたのである。
別に破壊するだけなら火をつけるだけでもいいし、そこら辺の石を使って主電源を破壊しておくだけでもいい。
ようは敵拠点のシステムを使えなくする事が破壊になるわけだから。
美琴も陽動の為に爆破と言う派手な方法を選んだだけで、あの時だって武達以外の班は爆破なんてしなかったはずである。
むしろ陽動すると言う目的がないなら中途半端に火をつけたりするより、主電源だけ破壊した方が効果的だ。
隠密行動をするなら「気付かれない様に素早く」である。
「すいません。余計な事言いました」
「ううん。良いのよ。……じゃあそっちの方はお願いね」
遙は気にした様子も見せずに洞窟の方に歩いていく。
武と水月は腕まくりをしてヤシの実にサバイバルナイフを当てがい、繊維質の殻を力技で剥いでいく。
堅牢性、切れ味に優れた軍のサバイバルナイフならヤシの実を切断する事も可能であった。
中から堅い殻で覆われた種子を取り出し、先程A地点で手に入れた簡易テント布に入れていく。
ヤシの実をそのまま持っていくと大きくかさばる。
種子だけ取り出して少しでも軽くし、簡易テント布は風呂敷代わりというわけだ。
今回ヤシの木を発見できたのは幸運だった。
ヤシの実は貴重な食料になるだけでなく、中にはヤシの実のジュースが入っている。
今自分達の持っている水筒は1リットルも入らない。
前線で戦う兵士が1日に必要な水分は2リットル。
最初から水不足が確定している状態でこの水分はありがたい。
またヤシの堅い種子も2つに割らないで、親指サイズの穴を開けるような形で中を飲むようしておけば、水源が見つかった際にその中に容器として再び水を入れる事ができる。
種子に開けた穴にはヤシの実の繊維とベルトキットに入っていた医療用の綿を固くグルグルに縛りってコルクの栓のよう蓋をしておけば、この総合演習の残り5日間だけなら何とか持つであろう。
水筒がなければその代用となるものを作ればいいのである。
今回手に入れたヤシの実は先程食べたものを含め9個。
ヤシの実を切るのは重労働であったが、それでも十分やる価値のある作業であった。
◆
――総合演習3日目
ブチブチブチッ――!!
総合演習3日目の朝、砂浜と青い海の奏でる波の音に不釣合いな雑音が邪魔をする。
「ほら、霞……。これで良いか?」
「……ありがとうございます」
霞は白面から受け取った穴の開いたヤシの実にストローを刺しジュースを飲む。
夕呼達が乗ってきた船の冷蔵庫で冷やされたヤシの実ジュースはすっきりした甘さで喉を潤す。
先程の音は白面がヤシの実を剥いだ音である。
どのようにやったかと言うとサバイバルナイフも鉈も何も使っていない。
まるでミカンの皮を剥ぐように指で簡単に皮を剥き種子を取り出し、穴を開けたのであった。
昨日の額に汗した武達が見たら何とも言えない表情をするかもしれないが、白面の腕力ならこれくらいの事は造作もない事である。
「ん~……、新鮮♪ 新鮮♪ 取れたての魚を刺身で食べられるなんて普段の私でもちょっとないわね♪」
「すいません陽狐さん。私までご馳走になってしまって」
夕呼とまりも、霞が食べているのは白面が今朝海に行って取って来た魚である。
これまた道具は一切使用せずに素潜りで鷲づかみしてきた。
白面に限らず白面の世界にいた化物の泳ぎ方は人間のそれとは全く異なる。
彼らは手足で水を掻くなどということはしない。
かといって船の様にエンジンを積んでるわけでもない。
はっきりいって「何だか良く分からない力」で空を翔るのと同じように水中も縦横無尽に動き回るのである。
800年間海にもぐり続けた白面もまた泳ぎは得意な方なのであったのだ。
今食べている刺身は夕呼のリクエストだった。捌いたのはまりもだが彼女もむしろ率先して調理していた。
取れたての魚を刺身……、この世界に住む日本人ならこの上ない甘美な言葉なのである。
「いや何、そう言ってもらえて何よりだ」
それに対して白面は昨日と同じステーキを食べている。
何せ800年間毎日サカナサカナ……。飲み水は海水……。
飽きて当然!! ……とまぁそれは冗談であるが肉は食べていなかったのは確かで、西洋料理もあまり馴染みが無かったためステーキの方を取る事にしたのである。
「まりも。あいつらの進行状況はどう?」
総合演習の状況が気になるのか、それともただの朝食の話題の種なのかは分からないが夕呼が問う。
「は……! 若干予定より遅れは出ているものの上手く行けば今日の夜には合流地点へと到着できるかと」
口の中のものを飲み込み、軍曹としての言葉遣いに直してまりもは答える。
この総合技術評価演習では下手をすると命を落とす可能性がある。
前回の遙たちのチームがそうだった様に。
ただしそういった事故も可能な限り起きないように監視カメラ等の設備を使って安全策も設けられているのである。
「そう……。まぁまぁのペースって所ね。 まりも、引き続き監視を続けなさい」
「は! 了解しました!」
夕呼達と違い水着姿でなく熱帯標準軍装を着崩したまりもが起立し敬礼する。
その姿は数秒前の穏やかな物ではなく、教官、神宮寺まりも軍曹の顔のそれであった。
「私は引き続き遊んでるわ!」
「ゆ、夕呼~~~~~~」
夕呼の言葉に思いっきりずっこけるまりもであった……。
◆
「うん! 2人ともちょっと来て。脱出ポイントがわかったよ!」
総合演習3日目の午後3時、目標のB地点に遙の声が響く。
薄暗い自然の穴倉を利用した防空壕。そこに人が手を加えた証である照明器具が2人の人影を映す。
遙に呼ばれた武と水月である。
「え?」
「本当!?」
「えぇ備え付けの無線があってね。それを使ったら味方周波で回収ポイントの情報が手に入ったの」
「へぇどれどれ? 私にも見せて」
そう言って遙から情報が書かれた暗号文章を水月は受け取る。
「フンフン……。国連軍の青9暗号ね……」
「ね? その暗号から回収ポイントはココ……、地図の南西の所だと思うの」
「うん! 私も遙と同意見ね!」
遙と水月、そして武が地図を囲むような形で遙の指すポイントを見る。
回収ポイントの情報が手に入ったのだ。
遙と水月の表情は明るい。
しかしそれに対して武は嫌な胸騒ぎがした。
遙が指したポイント……。そこはかつて自分が経験した総合演習の偽回収ポイントの場所そのものだったのである。
(……まさか今回も同じって事はないですよね? 夕呼先生)
正直今回の演習はあまりペースが良いとは言えない。もしまた偽回収ポイントが起きたとしたらかなり厄介だ。
だが、今回は今までとは時期が違うので必ずしも同じ試験内容とは言えないはずだ。
武はそう自分に言い聞かせながら回収ポイント先をジッと見つめるのであった。
「そっちはどうだった? 何か役に立つものはあった?」
一旦武達は防空壕の外に出てそれぞれの戦果を確認し合う。
「えぇ。こっちはラペリングロープがあったわよ」
「オレの方では高機動車…… こっちはエンジンが丸々抜けてたんで使い物になりませんでしたが、燃料である軽油を見つけましたよ」
「「高機動車……」」
遙と水月の声が2つ同時に重なる。
「え?」
「あ……、うんゴメンね。ちょっと前の試験を思い出しちゃって」
「前の試験……?」
そこで武はハッと思い出した。
前回の総合演習である事故が起きた。
時間配分に焦ったとある組が整備されていない獣道を高機動車で駆け抜けようとした。
結果は最悪……。
他のメンバーを巻き込み高機動車は横転。
死亡者2名、重傷者1名の惨事が起きてしまった。
その重傷者というのが涼宮遙である。
ジャングルの獣道を走り、たっぷりと細菌を染みこませたそのタイヤに引かれた遙は脛から下を切断、義足を余儀なくされたのであった。
義足と言っても貴金属のそれではなくバイオテクノロジーを駆使した再生技術による見た目は自分の足と変わらないものであったが、それでも神経結合が上手くいかなかったためどうしても運動の面で遅れが出てしまうというハンデを背負ってしまったのだ。
武と水月が組んだのは207A分隊で最も体力のあるこの2人が組んだのは、そんな遙をサポートするためでもあったのだ。
「まぁ……、ちょっとその事を思い出しちゃってね」
その時の事故の様子を説明し終えた遙は少し寂しそうに笑う。
「す、すいません! オレ余計な事を!!」
「え? ううん! 良いのよ。別にもう昔の事だもの」
そうやって強く笑う遙の顔を見て武は何とも切ない気持ちになる。
何故なら武だけは知っているのだ。
遙は例えこの試験に合格できても衛士になる事はできないのだと。
もっとも彼女はCPとして活躍し立派にその役目を果たしていくのであるが……。
「涼宮先輩……! 必ずこの演習合格しましょう!」
「うん! そうだね! 絶対合格しようね!」
武の言葉に遙も強く返すのであった……。
「じゃあ遙、白銀。盛り上がったところでパァっとこの施設爆破しちゃいましょうか?」
「おぉ! そりゃいいっすね! 派手に行きましょう!」
「あ! ちょっと待って白銀君、水月。せっかくだからその軽油いくらか持っていきましょ?」
「え、いいの? 遙? ……縁起悪くない?」
「それはそれ、これはこれだよ。せっかく前のA地点でヤシの実を手に入れたんだし、水筒に余裕がある分、軽油は持っていくべきだと思う」
遙のその言葉に武は素直に感心する。
下手したらトラウマになりかねない高機動車の事故を彼女はとっくに克服し、冷静な判断を下したのだ。
「フフ、了解! そうと決まったら早速準備に取り掛かっちゃいましょ! 何だか天気も悪くなって来ちゃったし」
そう言って水月は空を見て準備に取り掛かろうとする。
言われてみると風が強くなって雲が激しく動いているようである。
このままだといつスコールが降るかわからない。
前回のループのまりもの言葉を借りるなら基地襲撃は夜明け前に行うのがセオリーである。
だがセオリーに従って第一目標である全員脱出の任務に失敗しては意味がない。
なぜなら今回のペースは遅いからだ。
ここを爆破した後、例え雨が降ろうとも合流地点まで進軍する。
幸いA地点で手に入れた簡易テント布を使えば雨よけをする事も可能。
たとえ雨で体力がいくらか奪われようとも合流地点で休めば良い。
セオリーだけではこの総合戦闘技術評価演習には合格できないのである。
今は何より時間を気にして少しでも距離を稼ぐのが先決だと武達は判断した。
ふと隣にいた遙を武は見る。
彼女は何やら空を見て顔を蒼くしている。
先程の強い笑顔を浮かべていた彼女とは思えない。額には汗、目には驚愕の色が見て取れる。
「し、白銀君……。水月…………。 あれ……」
遙がここまで慌てるのはただならぬ自体なのだろう。
武だけでなく水月も遙の指差す方向を見てみる
「「たたた、竜巻ィイイーーーーーーー!!!!!」
そう、先程まで雨が降るであろう雨雲があったで場所、この島より十数キロ北部にある海上に巨大な竜巻がうねりを上げていた。
幸いにしてこちらの島には大きな影響はないが、それでも強い風が吹き荒れている。
「ななな何ですかーーーー! あれはーーー!? 竜巻って米国で発生する物なんじゃないんですか!?」
「う、ううん……。 そ、そんな事はないよ? 確かに米国で多く発生するけど一応他の地域でも発生するはず……」
「た、例えそうであったとしても何? あの大きさ!! 洒落になんないわよ!」
まるで映画か何か嘘のようなサイズの竜巻は、天へと昇る荒れ狂う龍のように稲光の咆哮を上げている。
あんな竜巻がこの島に上陸しようものなら、か弱い人間などそれこそひとたまりもないだろう。
武達にできる事はとにかく「こっちに来んな!」と祈るだけであった……。
時間で言うと十数分……、されど何時間にも長く感じたがとにかく幸運にも竜巻はこの島に上陸することなく消え去った。
先程の竜巻が雨雲も一緒に吹き飛ばしてくれたのであろう。
空には晴れ渡る青空が広がっている。
「た、助かった~~~」
武……だけでなく水月、遙もその場にへたり込む。
「ど、どうする? 遙? 進軍する?」
「う、ううん……。今日は止めておこう。あんな竜巻が出るなんて異常だよ。このB地点は明日の夜明け前に爆破して出発しよう」
「オ、オレも同感です。明日の夜明けでもまだ時間は間に合いますし、もし竜巻がまた発生してもこのB地点は防空壕となってるから他の所より安全なはずです。一晩様子を見てから出発した方がいいですよ」
雨程度ならまだ問題は無かった。
だがあんな竜巻が発生している中進軍する事など文字通り自殺行為である。
武達は頷き合い野営の準備を開始するのであった……。
◆
一方浜辺では……。
「どうだ。夕呼、霞、それにまりもよ。休暇を邪魔する無粋な雨雲など我が蹴散らしてくれたぞ」
「あ、あ、アンタねぇ~~……。いきなり何て事すんのよ」
数メートル上空に浮き上がり得意満面な表情を浮かべる白面に夕呼は力なく突っ込みを入れる。
先程の竜巻の正体は白面の尾の能力の1つである。
その力で雨雲を吹き飛ばしたのだ。
「ククッ。また雨が降りそうになったら我が吹き飛ばしてやろう」
「い、いいわよ! ほ、ほら! こういった南国で雨は必要なんだから、それを止めちゃうのは環境破壊ってモンよ?」
「ぬ? 環境問題など考えた事のない我にはわからぬが……、そうなのか?」
「え、えぇ夕呼の言うとおりだと思いますよ」
まりもも今回は夕呼の言葉に素早く同意する。
「陽狐さん。自然は大切にしなくてはダメです」
「う……! そ、そうかわかった。次からは先のようなマネはせぬ」
別に数日ぐらいなら雨が降らなくても問題無い気がした白面だったが、何となく自分が間違った事をしたと言う雰囲気を感じ取った。
最近あまりにも人間じみていたのであの夕呼ですら忘れていた。
陽狐……白面は人間じゃないのだ。
それもたった1体で横浜ハイヴにいたBETAを壊滅させる事が出来るほど強力な存在なのである。
ちょっと羽目を外すだけでとんでもない影響を周りに与えるのだ。
先程の竜巻に白面の力の片鱗を見た夕呼達であった……。
総合戦闘技術評価演習3日目……。
残り時間もあと3日、中間点である合流ポイントに207A分隊はまだ…………辿り着いていない。
あとがき
今回の話は素人ながらに調べながら書いたんですがいかがでしたでしょうか?
ヤシの実の水筒とか突込みどころありかも……。
一応戦時中でヤシの実の水筒を使ってたという情報をとあるサイトを見つけたのですが、それってちゃんと加工されたヤツなのか、それとも今回の話のように生のヤシを代用しただけなのかわかりませんでした。
何かそのまま飲んだら腹壊しそうですが、煮沸消毒か何かすればきっと大丈夫なはず!
そもそも戦時中とかの極限状態なら水筒がなくても何かで代用すると思うんですよね。
最初はA地点では爆破できないって事でB地点に行って軽油を回収。
またA地点に戻って爆破……って予定だったんですが。
原作でも武達以外は爆破以外の方法で破壊してる可能性高いんですよね。
まりもちゃんも手段は問わないって言っているのにAB間を往復するのは、時間の無駄ですし、無理があるかなと思いA地点は隠密に破壊って事にしました。
霞と白面は悟飯とピッコロの様な関係にしたいな……。
理由は作者の趣味です。他に複雑な理由はありません(キッパリ)