6月10日(雨)
大変なことしちゃったよ。
アンモナイトの化石をこわしちゃった。
すごく高そうで、どうしたらいいのかわからなかった。
そしたらタケルちゃんが来て、助けてくれると思ったのに、先生に言いふらした。
ひどいよ…………。
コウちゃんは、じじょうを説明すればゆるしてくれるって言ってたけど、高いからベンショーだよ。
私のおこづかいじゃたりないよ~。
タケルちゃんがカタツムリ(生)でごまかそうとしたけど、ムリだよ。
ちがう先生がきて、すっごくこわかった。
タケルちゃん、生まれ変わったとか、だっぴしたとか言って、もっと先生を怒らせてた。
けど、さいごに自分がやったって、言ってくれたよ。
ありがとう、タケルちゃん。
すっごくうれしかったよ~。
それと、
ごめん…………。
どっかべつのところにつれていかれちゃったけど、平気だったのかな?
帰り道で聞いても、教えてくれないし、コウちゃんはコウちゃんで、
よていちょうわだ、ってまた、わけわかんないこと言ってたし…………。
ほんと~に、うれしかったんだよ…………。
ありがと。
MUV_LUV おれのりんね 1
各宗教の多くに輪廻転生というものがある。
代表的なのはヒンドゥー教か仏教だろうか。
必要に駆られいろいろと調べては見たものの、六道だとか、カルマだとか、ネットからの素人知識による考察だから実のところ今ひとつ解ってない。
解っているのは、オレが生まれ変わったという事実だけだ。
前世、と呼んでいいのだろうか、オレが大学四回生の頃。
その時オレは、爆心地の企業向けに開放している実験棟、その隣記念館の資料室で、山のように積みあがった過去の卒業研究の細かい資料を、友人と手分けして読んでいたんだが、実験棟の爆発の震動がここまで伝わり、金属のラックがドミノ倒しのように圧し掛かってきて、潰れて死んだ。
即死だった。
そんでもって気がついたら赤ん坊になっていたというわけだ。
前世の記憶がありながらも二度目の人生を歩めるなんて悪性電波に犯された脳内だけの話かと思っていたが、実際に体験してしまったのだから仕方ない。
理論なんてなくても現象というものは起こってしまうものだと、オレが一方的に懐いていた教授も言っていたし、むしろこれをチャンスだと思って、二度目の人生を神童スタートしようと意気込んでいたんだ。
先月までは。
持ち前のチートを使って普通の赤ん坊よりも早くに字が書けるようになった頃。
前世と変わらぬ今世の両親が引越しの準備を始めたんで、今世の親父も前世と変わらぬ転勤族かと思い、どこかいくの、と子供らしく可愛げに聞いてみたら、隣りの隣りのさらに隣の県の柊町という所に引っ越すと言われた。
オレにとっては別にどこだって良かったんだが、いざ引っ越してみると、―――途方もない違和感がオレを襲った。
それで今日。
親に連れられての散歩の途中。
どこか見覚えのある駅前だったり、聞き覚えのあるレストランの名前だったり、お向かいさんの表札が『白銀』だったり……
そんなはずはないと居間に置いてあった新聞を広げて見ると、大空寺だとか、御剣の名前が経済欄のいたるところで確認できた。
メビラチェーンの経営コラムとか、ホントどうでもいい。
「そういえばコウちゃん。お向かいさんに、たけるくんって同い年の男の子がいるそうよ。楽しみね。」
「…………………………………ウン、タノシミダヨ」
やる気というものを根こそぎ奪われた気がした。決して気のせいではない。
しろがねたけるて、神様はオレに何をさせたいの?
アンリミでもオルタでもなく、エクストラて。
オリ主として確立させる気があるの?
いわんや恋愛争奪戦だとして、向こうは恋愛原子核ですよ?
いみねーし。かてるきしねーし。
一つ一つフラグを潰していったとしても絶対物語の中心はあちらになりますよね?
反物質でもぶつけて粒子崩壊でもさせればいいいとでもいうのかい?
だってあいつは原子核です。
くおーく、はどろん、ちゅうかんし。
アップとダウンでグルーオンですね。わかります。
今、おれは混乱の最中にいた。
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「……からすま、こうすけです」
「しろがねたけるってんだ。あっちであそぼうぜ」
そこは冥夜の思い出の砂場じゃないのかい。
数日後、母親に連れられて公園デビューを果たしたオレを待ち構えていたのは主人公でした。
なんかオーラがでてるんですが、主人公。
この世界の真実に気が付いたときは途方もなく混乱していたが、冷静になって考えてみるとそう困った世界でもない。
BETAが攻めてくる世界じゃないし、ポジション的にはゆーこ先生と同じく白銀をいじっていれば、なにかと面白い出来事が起こるだろう。
もう楽観視しか出来ないオレを誰か叱ってくれ。
「こうすけ、おせーぞ」
「あははは、、、、はやいよ…………たけるくん」
「くん? おれのなまえはたけるだ。た・け・る」
「……わかったよ、たける」
やべー、オーラやべー。
なんていうんだろう、こう、チャームを常にかけてくるというか、これがゲージ粒子というものか、と切実に訴えかけてくるものがある。
エーテルの馬鹿野郎。おれはおとこだ。
「よぉし。じゃあ、しろつくろうぜ、しろ」
「……すなのしろ、どろのふね」
「ん? なにいってんだ?」
「なんでもねー」
二十以上も精神的には年上だというのに、男としての、この敗北感。
鬱になりかけた自分をムリくり鼓舞して、砂遊びに本気になろうじゃないか。
べ、別に男として負けたのが悔しいからってわけじゃ……わけ、ゃ……。…………モテたいなぁ。
「どんなしろつくる?」
「……紫禁城」
「しきんじょー?」
「おれは、ここに、せかいいさんをつくる」
三日後、テレビ局が来ました。
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「…………」
「どうしたんだ、たける」
「……おれ、ちょっといってくる」
三ヶ月ほどたった。
アレ以来どうも武に気に入られた観がある。
こいつに男色のけはなかったはずだがオレは大丈夫だろうか。
男色といえば武よりも尊人の方がありそうな気がするが…………
ッそういえば、コイツはエクストラでの親友が、アンリミで女になったからって、食っちまうような男だった。
「どこにいくんだよ、たける」
薄ら寒い将来ビジョンを拭い去ろうと、ぱたぱたと走っていく武に声をかける。返事はない。
あれ? 見失った……?
そんなに広くない公園内で人一人探すのは簡単なはずだと思っていたんだがまったく見つからない。
しばらくグルグルと公園内を歩いてみるが、一向に結果は変わらない。てかさっきから大人増えすぎ。全然視界が悪い。
仕方ないと、公園の中央にある趣のある滑り台の上から探してみると、なんか一箇所だけぽっかりと人がない所があることに気が付いた。
砂場、ってアレ武じゃね?
ちょ、てことは、あの幼女は
明らかに身の丈にあっていない刀を立てて、その周りで砂遊びをしている、武と幼女。
やべ、イベント見逃す、と急いで砂場に近づく。
この増えた大人ども、もしかして護衛かなんかか?
意識してみれば、誰の視界にも砂場が目に入らないように体を動かしてやがる。
子供っぽさを前面に押し出しながら、それを無視して砂場に近づくも、一定線より先に進めないんですが。
しょうがないんで、少し離れたところから耳を澄ませることにした。
砂場のスキルが原作より大きく向上している武は、水墨画で描かれるような繊細でいて、大胆な富士山を作っているがそれ以外は原作と同じ流れだろうか。
てか武が今日誕生日だって知らなかった。
「たんじょうびがおなじだから、いっしょにおいわいしてもらおうよ」
「じゃあ、おまえがオレのおよめさんになれば、いっしょにたんじょうび
できるのか?」
「じゃあ、けっこんしよう」
「――おまえ、おれのおよめさんになれ」
なんて口説き文句。最強すぐる。
さすが恋愛原子核だ。
今作っている砂のケーキも、有名パティシエが作ったウエディングケーキみたいになってるし。
護衛の目が一斉に点になった今がチャンスだろうか。
「じゃあ、おれがしさいをやってやんよー」
「だれ?」
「おお、こうすけ。おれこいつとけっこんすんだ」
さすが、たける、分かってますね。
「おれのなまえは、からすまこうすけだ。ふたりともけっこんすんだよな?」
「うん」
「そういってんだろー、こうすけ」
「じゃあいくぞ。そのすこやかなるときもー、やめるときもー、よろこびのときもー、かなしみのときもー、とめるときもー、まずしいときもー、これをあいし―――」
なんか護衛たちがもの凄く焦りだしてます。
「―――これをうやまいー、これをなぐさめ―――」
うは、なんか向こうから、おそらく今の冥夜の保護者であろう二人が走ってきたんですが。
「―――これをたすけー、そのいのちあるかぎりー、まごころをつくすことを」
「ちょぉぉぉっと待ったぁぁーーー!!!」
ずさー、と滑り込んできたおじさんを見上げると、もの凄い息を切らしてた。
護衛じゃないから体力はそんなにないのか。
オレも大学の三回のとき、久しぶりにバスケをやったら1クオーターも持たなかったことを思い出した。
「なんだよ、おじさん。じゃますんなよ」
……この、幼児な武をどうにかしてくれ。オレの暴走に歯止めが効かん。
「ちかいま」
「だからっ!! ちょっと、ちょ、待てよ。ハア、ハッ。ほら、アレだから。ハア、ね。アレだよ。えーと、そう。もう帰る時間なんだ」
「やだ」
いいぞー、冥夜ー。もっと言えー。
「もうかえるの?」
「遊んでくれたんだね? どうもありがとう」
「けっこんはあそびではない!」
「君は黙っていてくれ!!」
調子に乗りました。自重します。
「はあ、お名前を聞いてもいいかな?」
「しろがねたけるだよ」
「たけるくんか……君は?」
「ぐれーとてっかまんぶれーど、だ。おれ、さんじょう」
「ヤケクソにも程があると、おじさん思うな」
「名無しクンとよんでくれ」
「……分かったよ、名無しクン」
別に名前を隠す意味はないんですがね。このおじさん、ちょっと面白いから。
「おい、こうすけ。なまえちがうだろ」
「たける。せんしゅうゴルバンがしらないおとなに、なまえをおしえちゃいけないっていってたぞ?」
「ああっ。おじさん! いまのナシ。おれのなまえは、えっと、うるとらついんでぃめんしょんさんごう、だ」
「……略して、ウッディで、いいかな?」
「それはもうふりーよ」
古いとフリーを掛けてみ(以下規制
「……面白いお友達だね」
「うん、タケルとコウスケはおもしろい」
「……そうか、コウスケクンと言うのか、記憶したよ?」
どんな人にも沸点というものがあるようです。勉強させていただきました。
「もういくのか?」
「そうよ」
「やだ!!」
「いやがってるよ?」
いつの間にかやって来た、オレの中の人からしてみればおばさんとは呼べない女の人が、冥夜の手を引いていた。
オレのことを完全に無視しているのが辛いです。
おじさんはおじさんで、簡単に挑発に乗ってしまったことを反省しているのか、冥夜を担いだ時、「いつの間にこんなに重くなったんだか……俺も歳を取るわけだ」と、渋いことを言ってますし、武の「おとなは、ずるい!」発言に、遠い目をしてた。時には、ずるくやらないと潰れちゃうもんね?
「おとなになったら、ぜったいあおうな。ぜったいぜったいあおうな!」
「うん…ぜったいあおう!」
「またな!」
「――またね」
「またなっ!! またあおうな!!」
「うん! またね!」
そうして冥夜と武の初めての邂逅が終わったわけだが、ここに来てちょっと冥夜を応援しすぎたかもしんねえ、と思わなくもなくなってしまった。
どうしたもんかと、隣りでボロボロ泣いている武を横目に考える。
ちなみにここで武を慰めてはいけない。男の子が約束したんだからね。
こうなったら純夏が引っ越してきてから、冥夜がやってくるまでは、純夏を応援することにしようか。
……ほっといても良さそうだが、まあいい。
冥夜にはさっき約束したし、ここに純夏はいないが約束しよう。
そうだな、『オレから冥夜のことは話さない』てのでどうだ?
ちなみにさっき連れて行かれる冥夜には耳元で、『次に会ったら、さっきの続きをしよう』と約束したし、ねえ。
あとがき
処女作で需要のないエクストラのオリ主もの。
正直、俺は何をやってるんだろうか。バイトをしろ。