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No.6630の一覧
[0] 日本武尊 (マブラヴオルタ) オリ主モノ [カーノン](2009/11/23 19:45)
[1] 第一話[カーノン](2009/02/21 22:05)
[2] 第二話[カーノン](2009/07/26 20:52)
[3] 第三話[カーノン](2009/07/26 21:06)
[4] 第四話[カーノン](2009/07/26 21:08)
[5] 第五話[カーノン](2009/07/26 21:09)
[6] 外伝その1[カーノン](2009/06/22 00:39)
[7] 第六話[カーノン](2009/07/26 20:36)
[8] 第七話[カーノン](2009/07/26 20:36)
[9] 第八話[カーノン](2009/06/22 00:40)
[10] 第九話[カーノン](2009/07/26 20:37)
[11] 第十話[カーノン](2009/02/24 22:35)
[12] 第十一話[カーノン](2009/05/24 23:25)
[13] 第十二話[カーノン](2009/02/26 22:18)
[14] 外伝その2[カーノン](2009/02/28 20:00)
[15] 第十三話[カーノン](2009/02/28 19:57)
[16] 第十四話[カーノン](2009/07/26 20:37)
[17] 第十五話[カーノン](2009/07/26 20:38)
[18] 第十六話[カーノン](2009/07/26 20:40)
[19] 第十七話[カーノン](2009/05/24 23:28)
[20] 第十八話[カーノン](2009/05/24 23:29)
[21] 外伝その3~ほんのりR-15?~[カーノン](2009/03/06 22:01)
[22] 第十九話[カーノン](2009/07/26 20:40)
[23] 第二十話[カーノン](2009/07/26 20:41)
[24] 第二十一話[カーノン](2009/03/09 21:59)
[25] 第二十二話[カーノン](2009/07/26 20:42)
[26] 第二十三話[カーノン](2009/03/12 21:49)
[27] 外伝その4~ほんのり香るR15~[カーノン](2009/03/12 21:53)
[28] 第二十四話[カーノン](2009/07/26 20:43)
[29] 第二十五話[カーノン](2009/06/22 00:47)
[30] 第二十六話[カーノン](2009/07/26 20:43)
[31] 第二十七話[カーノン](2009/03/30 22:38)
[32] ネタに走ってみた[カーノン](2009/03/30 22:41)
[33] 外伝その5~R15じゃない話になりました!~[カーノン](2009/04/01 22:27)
[34] 第二十八話[カーノン](2009/06/22 00:48)
[35] 外伝その6[カーノン](2009/05/24 23:31)
[36] ネタに走ってみた2[カーノン](2009/04/01 22:30)
[37] 第二十九話[カーノン](2009/06/28 23:05)
[38] 第三十話[カーノン](2009/05/24 23:33)
[39] 第三十一話[カーノン](2009/06/28 23:06)
[40] 第三十二話[カーノン](2009/05/24 23:34)
[41] 第三十三話[カーノン](2009/04/26 00:27)
[42] ネタが走り出した![カーノン](2009/04/13 01:21)
[43] 第三十四話(R-15じゃないと思いますが一応)[カーノン](2009/06/22 00:42)
[44] 第三十五話[カーノン](2009/04/26 00:17)
[45] 第三十六話[カーノン](2009/05/24 23:36)
[46] 第三十七話[カーノン](2009/06/28 23:07)
[47] 第三十八話[カーノン](2009/06/08 00:17)
[48] 外伝その7~R15の香りがするよ!~[カーノン](2009/06/08 00:20)
[49] 小ネタとかしょうもないネタとか詰め合わせで[カーノン](2009/05/24 23:44)
[50] 第三十九話[カーノン](2009/06/28 23:07)
[51] 第四十話[カーノン](2009/06/22 00:44)
[52] 第四十一話[カーノン](2009/06/22 00:46)
[53] 第四十二話[カーノン](2009/07/26 20:33)
[54] 第四十三話[カーノン](2009/06/22 00:51)
[55] 第四十四話[カーノン](2009/06/28 23:09)
[56] 第四十五話[カーノン](2009/06/28 23:12)
[57] 第四十六話[カーノン](2009/08/24 00:13)
[58] 第四十七話[カーノン](2009/07/26 20:45)
[59] 第四十八話[カーノン](2009/08/24 00:14)
[60] 第四十九話[カーノン](2009/08/24 00:15)
[61] 第五十話 ※R15?[カーノン](2009/08/24 00:17)
[62] 第五十一話[カーノン](2009/08/24 00:18)
[63] 第五十二話[カーノン](2009/08/24 00:19)
[64] 第五十三話[カーノン](2009/10/11 23:10)
[65] 第五十四話 ※R-15かと…[カーノン](2009/08/24 00:22)
[66] 第五十五話[カーノン](2009/08/24 00:24)
[67] 第五十六話[カーノン](2009/10/11 23:18)
[68] 外伝その8~丸々斉藤伝説~[カーノン](2009/10/11 23:20)
[69] 第五十七話 ※以下最新話です[カーノン](2009/11/23 19:48)
[70] 第五十八話[カーノン](2009/11/23 19:24)
[71] 第五十九話[カーノン](2009/11/23 19:24)
[72] 人物紹介とか書いてみたよ!(11月23日一部人物に所属とポジション追加)[カーノン](2009/11/24 18:01)
[73] 過去編・前[カーノン](2009/11/23 19:28)
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[6630] 第五十八話
Name: カーノン◆15995976 ID:27c694ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/23 19:24










2001年11月1日――――



『失礼します黒金少佐、衛星通信での連絡が入っております』

「誰からだ?」

午前中の執務室、溜まった書類を片付けている大和のデスクで、インターホンが鳴り、司令部の通信兵から所謂国際電話が入っていると連絡が有った。

『米国企業、ノースロック・グラナン社のゼファーソン氏です』

「了解した、繋いでくれ」

通信兵の言葉に返答し、受話器を取る大和。

同じように室内で仕事をしていた唯依は米国企業の名前に顔を顰めたが、直ぐに表情を元に戻した。

「黒金です、お久しぶりですねMr.ゼファーソン」

『もう三ヶ月ですかな? 元気そうで何よりです少佐』

受話器の向こうから聞こえる声の持ち主は、ノースロック・グラナンの上層部の一人であり、主に社外との交渉や契約を担当している恰幅の良い男性。

一度日本まで脚を運んでくれた事もあり、その際に大和が「なんというカーネル軍曹…」と呟いたとか。

それは兎も角、YF-23などの融通でかなり親しい二人は、軽い挨拶を交わすと真面目な声になる。

「今回は何用ですかな?」

『先ずは、ロックウィードとの折衝で少佐の技術を一部売買した事を謝罪したい。我が社の利益の為と譲ってくれたとは言え、前連絡を出来なかった事です』

沈痛な声で告げるゼファーソン氏に、苦笑するしかない大和。

YF-23の所持権利やら米軍との折衝やらでノースロックには色々と恩があるので、大和は別に気にしていない。

「お気になさらず、私としてはどれだけ技術が広がろうと構わない性分なので。企業人には顔を顰められますがね」

軍隊でも同じだぞ…とは言わない唯依。

流石に真面目な空気なので口は挟まない。

でも聴覚がどうしても大和と受話器から聞こえる声を拾ってしまう。

『変わりませんなぁ少佐は。業突張りな連中に見習わせたいものです』

ゼファーソン氏が誰を指して言っているのか不明だが、大和の脳裏には米軍上層部やライバル企業、そして何故か夕呼の高笑いする姿が浮かび上がった。

『それと小耳に挟んだ事なのですが、ロックウィードと何やら取引しているとか…?』

「おや、良くご存知で」

ゼファーソン氏の言葉にどこか力が入った事を感じ取り、本題はそれか…と内心苦笑する大和。

「ご心配なく、単純にF-16が数機欲しかっただけですので。大きな取引は無いですよ」

『いえいえ、別に責めている訳では無いのです。ただ、少佐は我が社にとって有益な取引相手。貴方と縁が切れるのは重大な損失なのです』

要は、ウチを捨ててロックウィードのあんちくしょうと手を結んだりしないよね? と聞きたかっただけらしい。

心配性な事だ…と大和は苦笑するが、企業と言うのはそういう物か…と納得もする。

帝国の主要メーカーからも、度々懇親の為の連絡やら付け届けが贈られてくるし。

ただお見合い写真だけは勘弁してくれないかと本気で思う大和。

それを部隊の女性に見られたときの反応が怖いのだ。

唯依は笑顔で送り返す、彼女はまだマシだ。

イーニァは露骨に脹れて拗ねる、クリスカは無言でゴミ箱へボッシュート。

ステラは一枚一枚お見合い写真を眺めて写っている女性を評価。

タリサはこんな物より美味いもん寄越せよなぁと愚痴りつつ捨てる。

そして全員が全員、責めるような目で見てくるので胃が辛い。

エリスはまだ見ていないが、彼女の性格を考えると、満面の笑顔で燃やしそうで怖い。

『聞けば、ボーニングから再三打診が来ているとか…?』

「そちらもご存知ですか…。まぁ、F-15に関する相談を受けていましてね…」

ボーニングはF-15を開発したマクダエル・ドグラムや主だった企業を吸収合併や売却により成長した軍事企業だ。

その為、F-15関係の話し合いや何やらで割りと関係が深い。

『そうですか…それが何かは聞いても答えて貰えませんでしょうなぁ』

「申し訳ないがその通りです。とは言え、別に何処を切って何処を結ぶ…なんて話はありませんよ」

受話器の向こうで苦笑するゼファーソン氏に、その通りだと苦笑しつつ答える大和。

その後数点の話し合いを終え、受話器を置いた大和は疲れたように椅子に背を預けた。

「やれやれ、そんなに俺に逃げられるのが怖いのかね…」

「何を当たり前の事を」

大和の疲れたような言葉に、しれっと返す唯依。

彼女が言う通り、大和を逃がす事は企業・軍隊にとって重大な損失だ。

彼が持つ設計図や情報は、今の時代の企業からは喉から手が出る程に欲しい物だし、それを持つ大和自身も有益な存在だ。

だからこそ、夕呼も国連やら他の国からの大和の引き抜きやら何やらを突っ撥ねているし、帝国も太いパイプを繋ごうと巌谷中佐に命じている。

実は欧州やアフリカ連合などからも、是非我が軍に…とお誘いの話が来ていたりする。

中でも熱心なのは、スレッジハンマーやCWS規格武装を導入した国々だ。

「ボーニングの話が出ていましたが、例のF-15の再設計案のお話ですか?」

「あぁ、どうも国連宇宙軍から提出された機体に興味を抱いたらしい。短期間であれだけの改造が出来るなら、念入りな計画はどうか…だそうだ」

唯依の言葉に天井を仰ぎながら答える大和。

主だった企業とはそこそこな付き合いをしているが、まさかボーニングからそんな話が出てくるとは思わなかっただけに、内心驚いている。

話を持ちかけたのはフランク・ハイネマンでは無かったが、それでも歴史を知る大和にとっては驚きだ。

とは言え、既に重要な事以外の“お話”の記憶は薄れ、殆ど忘れているに等しい。

時折、特定の言葉や事態で思い出す程度だ。

「全く疲れる。誰か代わってくれ」

「無理言わないで下さい」

本当に無理な話だ。

「少し気分転換をしてくる、サインが終わった書類の整理を頼む」

「はい、行ってらっしゃいませ」

仕事も一段落付いたので、鈍った身体を鍛える為にもシミュレーターへと脚を運ぶ大和。

そんな大和を見送りつつ、彼が処理した書類を整理する唯依だった。













地下シミュレーターデッキ――――



『前方距離1200、師団規模ノ増援ヲ確認』

「―――――ッ」

ハイヴ周辺の地形を再現したシミュレーターの映像の中、孤軍奮闘する大和の月衡。

管制を担当しているテスタメントの合成音声が、大和へと殺到する突撃級の群の存在を告げる。

殴りかかる要撃級の腕をMVBでバターのように切り落とし、機体を増援の方向へ向ける大和。

機体の周囲には、BETAの死骸が積み重なり、山のようになっている。

「………………」

無言で武装を突撃砲へ切り替え、噴射跳躍で突撃級の群へと向う大和の月衡。

「支援要請、敵前衛地点に支援砲撃」

『了解』

大和の通信にテスタメントがすぐさま支援砲撃プログラムを読み込み、シミュレーターの空から艦隊から発射された設定の砲弾が降り注ぐ。

が、遥か後方からのレーザー照射によって大部分の支援砲撃が迎撃されてしまう。

「距離にして3000から4000に光線級か…」

支援砲撃の撃墜率と観測された照射地点から光線級の位置を割り出し、行動を切り替える大和。

距離を詰め、殺到してくる突撃級の先頭に120mmを撃ち込んで脚を止める。

進路を仲間の死骸で塞がれた突撃級が群の隙間を増やしながらそれでも機体へと群がり、その隙間を右手にMVBを、左手に突撃砲を持ちながらすり抜けて行く月衡。

邪魔な突撃級は切り裂き、進路の邪魔になる個体だけ突撃砲で屠る。

「………俺は何をしている…」

BETAとの戦いの中、ポツリと呟くその言葉。

「俺は何を求めている…」

突撃砲で足止めをしつつ、突撃級を切り裂き、壁を撃ち破り、低空跳躍を繰り返して先を目指す。

「俺は誰だ…俺は何だ…?」

時折感じる、自分と言う存在への疑問。

何故自分がこの世界に居るのか、何故自分がループしているのか。

そして今一番強く感じている事、それは。

「俺は……進めているのか…?」

残弾の無くなった突撃砲を追い付いて来た要撃級の頭に見える部分へバヨネットで突き刺し、両手にMVBを持つ。

突撃級の硬い殻も、要撃級の腕も、構わず切り捨て進む先。

それは、かつて見た、弱い頃の自分が進もうとした道に見えた――――。











2000年7月、日本帝国軍新潟仮設駐屯地――――


佐渡島からのBETA侵攻を真っ先に迎え撃つ仮設の駐屯地。

規模や兵力こそ小さいが、それでも重要な拠点の一つ。

そこを根城にするのは、古参の戦術機甲部隊、ハンマー中隊を含む3中隊。

「山瀬、損失は」

「ハンマー07から10、全員が戦死。ハンマー11は戦争神経症…散々な結果です」

整備兵達が慌しく走り回る中、強化装備姿で駐屯地を歩くのは、中年に差し掛かった男性大尉と、眼鏡をした歳若い男性中尉。

「かー、また新人が軒並み死んだか…ったく、いつまで経ってもこれだけは慣れねぇなぁ…」

「言いたくありませんが、仕方がないかと。元々、技量も士気も低かった者達ですから…」

頭を押さえて嘆く大尉と、眼鏡を直しながらそっと目を瞑る中尉。

彼らハンマー中隊は古参の部隊であると同時に、ある厄介な役割を担っていた。

「たく、根性無しの“負け犬”を一人前にしろたぁ、上も無茶を言うぜ…」

ガシガシと頭を掻く大尉、その表情は悔しさや怒りを滲ませている。

「相馬原駐屯地からの負け犬部隊を優先で配属…嫌がらせにも程がありますね」

「バカヤロウ、一番迷惑してんのはその負け犬達だ、捨石にされてんだぞ」

煙草を咥えて吐き捨てる大尉と、そうですねと溜息を吐く中尉。

負け犬、負け犬部隊。

それは、一部の帝国軍で隠語として使われる言葉。

負け犬とはこの場合、徴兵を拒んだりした者たちを指し示し、負け犬部隊、正確には負け犬訓練部隊(腰抜け訓練部隊とも言われてる)の事を示している。

要は、徴兵を拒んだり問題行動を起した訓練兵が入れられる訓練部隊の事だ。

徴兵を拒む人間は割りと多く、彼らの心情を尊重するなら見逃してやりたい所だが、今の帝国にその余裕は無い。

故に、徴兵を拒んだ者は特別な訓練部隊に入れられ、その根性を叩きなおされる。

と言っても、それで直るなら最初から拒否はしないだろう。

大抵の者が士気も気力も無いまま訓練課程を終えて、そのまま配属されてしまう。

人間結局、技術や才能よりやる気なのか、彼ら負け犬と比喩される者達は、大抵が初陣で死ぬか、戦争神経症(シェルショック)で戦えなくなるか。

そのどちらか故に、負け犬訓練部隊からの新人は大抵の部隊が嫌がる。

それを使い物に育てるのが先任の役目と、自ら彼らを引き受ける部隊も幾つか存在するが、大抵がハンマー中隊のように辛い思いをする。

新人達が全滅するのはまだマシだ、彼らが足を引っ張って先任まで死んでいく。

正に、嫌な仕事。

本日在ったBETAの佐渡島からの侵攻に際してハンマー中隊は迎撃に出撃、新人6名を含んだ部隊は、犠牲者4名、戦闘不能一名という結果を残した。

「部隊損耗率は…」

「後で聞く、先に司令官殿の小言を聞かないとだからな…」

負け犬とは言え折角育った衛士をもっと上手く使えないのかと毎度の如く愚痴愚痴文句を言う基地司令の相手の前に、気が滅入る報告は避けたい大尉。

「そういや、12はどうした? 覇気の無さじゃアイツが一番だっただろう?」

「それが、面白い結果が…見てください」

戦術機から抜き出したデータを大尉に見せる中尉、その表情は困惑にも似ていた。

「ほう、初陣だってのに漏らさなかったたぁ負け犬にしちゃ上出来だな…あん? なんだこの数値…?」

グラフ化されたそれは、ハンマー12の心拍数や精神状態を示す物。

普通、初陣となる新任のグラフは、右肩上がり、戦闘開始前から高まり、BETAを視認してピークに達する。

そこからどう動くかは今までの訓練や各々の性格や精神に寄る。

だが、ハンマー12のグラフ数値はフラット。

出撃時からBETAとの接触まで、平常心を示す数値を画いている。

普通、古参の衛士、長年現場で戦い続けた堀沢大尉ですら、緊張や高揚でグラフが乱れるのに。

ハンマー12の数値は、平坦なまま。

出撃前と接敵前に若干グラフに乱れが生じるが、他の新任に比べると微々たる動き。

「どんだけ肝が据わってんだよ、それとも心臓に毛でも生えてんのか?」

「所が、見てください。この辺りから数値が…」

「跳ね上がってやがる…この時間帯何が在った?」

「丁度、ハンマー08と09がそれぞれ要撃級と戦車級にやられた時です」

同じく配属された新任2人の生命反応が途絶えた時間帯と、ハンマー12のグラフの乱れが一致している。

「するってぇと何か、ハンマー12…黒金少尉は仲間が死んで初めて心を乱したって事か?」

ありえねぇなぁ…と呟いて煙草を捨てて踏み躙る。

どんな経験をすればそんな精神状態に成れるのか、検討もつかない堀沢大尉。

BETAとの戦いは、常にグラフが変動するほどに過酷で辛い戦いだ。

なのに、仲間が死んでから、やっとハンマー12は人間らしい心理状態を示した。

「その後は酷い物です、泣き叫びながら半狂乱、友軍の援護が無ければBETAの群の中で孤立、戦死だったでしょう…」

「良く生き延びたもんだ…今少尉はどうしてる?」

「ハンマー11に付き添って先に戻った筈です」

基地に戻った時には、出撃前と同じに見えました…と苦笑する中尉。

そんな2人が格納庫の脇を通り過ぎようとした時、微かに嗚咽が聞こえてきた。

その声に歩みを止めて倉庫の影を見れば、強化装備姿で蹲り、膝を抱えて震える一人の少年の姿。

「……山瀬、先行ってろ」

「はい」

大尉の言葉に頷いて先へ進む中尉。

その背中を見送りながら、大尉はまた新しく煙草を取り出すと、静かに火をつけて吸い込んだ。

「………よう坊主、何泣いてんだ?」

「……ッ」

ドカリと隣に座り、煙を吐き出す大尉。

それに対して、少年…大和は震えるだけで答えない。

「あのタコ面どもがそんなに怖かったか?」

「―――ッ」

大尉の問い掛けに、膝に顔を埋めたまま首を振る大和。

「じゃぁ生きて帰れたのが嬉しいのか?」

「………ッ」

今度は力なく首を振った。

遠からずか…と呟いて、もう一度煙草を吸い込む大尉。

「じゃぁお前、なんで泣いてんだ」

「……守れ、なかった……ッ」

「あん?」

「あいつ等を…仲間を、守れなかった…助けてって、死にたくないって手伸ばしてたのに…俺は…俺は…ッ」

顔を僅かに上げて、己の両手を見る大和。

その瞳からは涙が流れ続け、瞳は赤く、声は枯れている。

その目に焼付いているのは、半壊した戦術機の中から、泣き叫び助けを求める仲間の姿。

大和とエレメントを組んでいた新任、だが大和は助けられなかった。

「それが、悔しくて…情けなくて…畜生…ッ、畜生…ッ!」

ギリギリと拳を握り、また顔を膝に埋める大和。

あの運命の日を生き残り、身元不明などの理由から負け犬訓練部隊へ入れられ、BETAとの戦いに怯える仲間達と共に日々を過ごした。

だが、大和はまだこれを、今を現実と受け入れきれていなかった。

あまりにも激動な日々に、気持ちがどこか夢だと思っていたのだろう。

そして、僅かに自分が特別な存在、救世主や英雄に成れるのではという淡い期待が在った。

それを大和は否定しない。

だから泣いているのだ。

自分は救世主でも英雄でもない、ただの人間だと認識させられたから。

自分は、自分の仲間すら救えない弱い人間だと思い知らされた。

「泣くのは結構だがな坊主、お前はそこで止まる気か?」

「……ッ、止まる…?」

「お前が抱えてるのは、誰しも持ってるもんさ。俺だって新任の時に経験したぜ、そん時の同期の死に顔はまだ目に焼付いてやがる」

煙草を地面に押し付けて火を消し、また次の煙草を取り出す。

「でもよ、そこで立ち止まったらお前もお終いだぜ? 坊主、お前はまだ生きてんだ、なら前を見て確り進めや。止まったら死んだのと同じだ、死んでった連中に少しでも感謝してるなら、精一杯進んで見せてやれ。その方が喜ぶだろうさ」

少なくとも俺はメソメソ泣いてる姿より、我武者羅に進む姿が見てぇ。

そう言って煙草に火を付けて笑う大尉。

「坊主、お前は神じゃない、両手が届く場所の人しか助けられない、人間だからな。だからその両手の範囲だけは絶対に守れば、それで良いじゃないかよ、英雄に成れなくても、胸張って生きて、そんで死ねるぜ、俺は守る為に精一杯戦ったってな」

そう言いながら、強化装備の首にかかっていたロケットを指で持ち上げて開く。

そこには、和服の美人と、愛らしい赤子。

「どうだ、美人の嫁さんと俺の宝だ」

「…………」

「俺はな、正直国だの人類だの知ったこっちゃねぇんだよ。ただ、守りたい者が、守りたい人が、守りたい場所が在る。だからこうやって命張って戦ってんだ」

日本帝国の軍人らしからぬ大尉の、野蛮な笑み。

無精髭や煙草が似合う壮観な衛士が、大和に初めて悲しそうな顔を見せた。

「だから、死んだ連中に引っ張られるな。誰もお前を恨んじゃいねぇよ、同時にお前にそこまで期待もしてねぇ」

だから押し潰されんなよ、と男臭く笑い、大和の頭をガシガシと撫でる。

「ちょ、隊長ッ」

「お前は今日で死の8分を超えたんだ、少しは一人前の顔しやがれバカヤロウ」

最後にゲシッと殴ってから立ち上がる大尉。

「良いか、覚えとけよ。何が在っても前に進め、進めなくなったら死んだも同じだ」

そう言って煙草を咥えて歩き去る大尉。

「何が在っても…前に…」

大尉の言葉を呟く大和。

そう、思えば、思い返せば、これが、これこそが、今の自分の始まり。

歩み始めた、“黒金 大和”の始まり――――










「そうだ、俺は、俺は……!」

過去を振り返り、己を探す大和。

その時、切り殺した要撃級の影から迫る、別の要撃級。

脳裏に過ぎるのは、自らの死のイメージ。

だが、そのイメージが現実に成る事は無く。

『らしくないじゃないかよ、大和』

「………武…」

シミュレーター内に現れた陽燕の持つ突撃砲の弾丸が、要撃級の腕を喰いちぎっていた。

『こういうのは、お前の仕事なのにな』

嘆息しつつ自分に群がるBETAを蹴散らしながら、普段の自分と大和との戦い方を思い浮かべる武。

普段なら、前衛として戦う自分を、サポートしてくれるのが大和。

『何を悩んでるか知らないけどさ、お前はお前だろ?』

「聞いていたのか…」

『何の事だ? でもま、俺が言えるのはさ…感謝してる。お前が居たから俺はこうして居られるんだと思う。だからさ、お前は誇って良いと思うんだ。黒金 大和って存在はすげぇんだって』

そう言って照れ臭そうに笑う武に、一瞬呆ける大和。

「くく…誇れ…か。そう言えば…誇った事は無かったかな…」

軽く笑いながら、MVBで群がる要撃級を斬り飛ばす。

いつも何処かで罪悪感を覚えていた。

己の存在の為に、誰かが犠牲になり、何かが失われて。

原作介入? より良い結末?

そんな心算は無かった。

ただ、自分が生きる為に、開放される為に。

ただ、それだけだった。

それだけに、必死だった。

よれを良しとするか、否とするかは人それぞれだろう。

だが、大和はずっと感じていた。

罪悪感、己の存在への不審。

自分が何なのか、何を求められた存在なのか。

その疑問への答えは出ない。

だが――――

「俺は……俺か…」

結局、自分が何であるか、それは認識でしかない。

ならば、自分が“自分”であると認識したなら、黒金 大和は、“黒金 大和”として走り続けられる。

答えはまだ見えない、答えは無いのかもしれない。

だが。

堀沢大尉が言うように、進み続ければ、もしかしたら…。

「今はそれで十分か…全てが終わってからでも、遅くは無い筈だ…」

今はそれを忘れ、モニュメントを見つめる。

「俺も所詮…一人の人間という事か…」

『大和、11時方向から敵増援だ!』

「了解した、支援砲撃の後敵陣に切り込み、最小戦闘で目的地へ到達するぞ」

武からの通信に、表情を引き締めて操縦桿を握る大和。

今はただ、目の前の目標を達する事だけを考えながら。

進み続ける。
















2001年11月2日――――


香月副司令執務室――――――



「帝国軍と帝国政府からの許可は得たわ。11日は予定通りに“ピクニック”に行って来なさい」

早朝の夕呼の執務室で、大和を出迎えた夕呼は悠然と告げた。

「殿下は何と?」

「第四計画の推移を確認する為にも、重要な事だと承諾してくれたわ。帝国上層部じゃ疑わしげに見てる連中も多いけど、逆に言えば今回の出来事でその連中へ信じ込ませる事が可能になるわけ」

楽しそうな夕呼に、第四計画に懐疑的な連中か…と納得する大和。

来る11月11日、その日は佐渡島ハイヴからBETAが旅団規模で侵攻する日。

イレギュラーだらけの世界だが、無いとは言い切れない出来事。

大和が見てきた世界では、どの世界でも起こったイベントだけに。

「既に関係各国にはBETAとの戦闘の可能性もある実機演習として通達してあるわ。実弾も準備しての、新潟戦場後での実機演習…」

「そこに、偶々侵攻してきたBETAと鉢合わせ。帝国軍と分担して防衛ですか…」

「開発計画の連中もデータや戦術機同士の戦闘じゃ経験を積めないでしょう? 丁度良い実戦よ」

第四計画が順調であるというアピール、そして開発計画部隊への経験値稼ぎ。

彼らは予想される横浜襲撃の時に必要となる重要な戦力なのだ。

「随行する部隊はどうします?」

「仮想敵として第一装甲大隊と編成中の第二から5中隊連れて行きなさい。内2中隊は支援砲撃装備でね」

帝国海軍からの支援は難しいと考えて、スレッジハンマーにそれを担当させる予定を考えている夕呼。

「A-01も出撃ですか?」

「勿論よ、アンタ達とは別ルートでBETAと対峙して貰うわ。だから白銀は使えないわよ?」

武はまりもと二機連携を取って、A-01へ随伴。

今回は捕獲任務は無く、新任達の死の8分越えと、改造機の性能評価、そして経験値稼ぎが目的だ。

「10日明朝から出発して新潟駐屯地跡で野営ですか…少々忙しいですね」

「間に合わない部隊は置いて行きなさい。一応帝国軍にも捻じ込んでおくから戦力は足りる筈よ」

あの連中も居るしね…と肩を竦める夕呼に、噂に聞いた帝国部隊を思い出す大和。

対BETAとの戦闘になれば、彼らは必ず先鋒に立って戦う、そう宿命付けられ、自分達もそれを望んでいる帝国最強の部隊。

「了解しました、後日の全体ブリーフィングで詳細を説明しましょう」

「よろしくね~。この機会だから造り貯めた武装と、X01披露しちゃいなさい」

「武装は兎も角、X01をですか…」

試験第四世代戦術機、X01、通称『陽燕』と『月衡』を各国の前に曝す。

「もうそろそろ頃合だと思ったのよ。天計画も順調だし、先にお披露目しとかないとでしょう?」

夕呼の言葉にそれもそうですねと苦笑し、自分の機体の搬出作業も予定に入れる大和。

「今回のピクニックには菅野中佐に指揮を執ってもらうから、アンタはもしもの際に出撃出来るようにしておきなさい」

「了解です、中佐なら安心ですね」

夕呼が話した菅野中佐は、先のクーデター事件の折に更迭された連中の穴埋めとして配属された、現場叩き上げの中佐であり、柔軟な思考と冷静な判断力を評価されている軍人だ。

元々は帝国軍人であり、実は巌谷中佐とは同期だったりする。

「今伝える事はそんな所ね。そうそう、アンタが提出した“仮定”…興味深かったわよ」

報告を終えた夕呼は、次に机の上に置いてあった書類を手に取った。

それは、大和が纏めた自論。

己の存在、武の三度目、純夏の復活、異なる歴史、そしてこの世界。

「特にこの、私達が生きている世界について…馬鹿らしくも面白い話だったわ、理論を知らない人間からはただの夢物語ね」

そう言って書類を軽く叩きながら、しかし中身については否定をしない夕呼。

「絶対に在り得ないこそ“絶対に在り得ない”…思わず納得しちゃったわ」

「そうですか…それで、博士はどう思いました?」

「そうね…他の事は兎も角、アンタ…“黒金 大和”という存在に関しては概ね同意できる内容だったわ。アンタが巻き込まれ、ループしている原因は兎も角、元の黒金 大和から今の黒金 大和への変異…いえ、進化かしら? 兎も角、変質した事は十分在り得ると思うわよ」

書類を机の上にパサリと置くと、夕呼は椅子に凭れて余裕のある笑みを浮かべる。

「因果律の流出によるまりもの死…それが在るなら、逆も在り得る。その過程でアンタはバラバラになった因果をループの中で吸収して成長した…なんて仮設はどうかしら?」

「………確かに、訓練や経験以上の技量を気付かぬ内に手に入れていた。それを考えれば否定は出来ませんね…」

「アンタだからそうなったのか、アンタの状態がそうしたのか…研究した訳じゃないから答えは出ないけれど、少なくともアンタも白銀と同じね。変わり続けているって事だけは言えるわ」

夕呼の最後の台詞に、思い当たる節がある大和。

最初の頃の自分、狂った時の自分、その後の自分、最後の頃の自分、そして今の自分。

思い返せば、どれも別人とすら思える自分。

「片手間で良いなら、もう少し考えてあげるわ。気が付いた事が在ったら纏めて報告しなさい」

何かの役に立つかもしれないし…と笑って告げる夕呼に、礼を言って退室する大和。

彼女の執務室から出た大和は、人気の無い廊下の真ん中で立ち止まり、蛍光灯の灯りを見る。

「自分に不安を抱く………俺はまだ、人間か…?」

今自分が抱えている小さな、しかし指先に刺さった棘のような痛みを訴える不安。

それが晴れる日は、まだ見えなかった。

















2001年11月5日――――


開発地区演習場――――



「なぁステラ、今日って何か在ったっけ?」

「特にこれと言った予定は無かった筈だけど…少佐の事だから、また何か思いついたんじゃないかしら?」

開発地区の中でも最も外縁部に位置する縦長の演習場で、首を傾げながら隣に座るステラに問い掛けるタリサだったが、ステラも首を傾げている。

と言うのも、本日突然、唯依にこの場所へ来るように呼び出されたのだが、内容が知らされなかったのだ。

演習場の入り口には、各種計測器を設置している整備班や、何やら準備を進めているスレッジハンマーの部隊。

今タリサ達が座っているのは、スレッジハンマーを改造した移動司令所型車両、通称スレッジヘッド。

戦車形態で上半身を前後逆にした状態の機体に、HQとしての能力を搭載したカーゴを設置したモデル。

既に前線にCP将校が同乗する指揮車両としての能力を付加したコマンドハンマーよりも能力が上の機体。

救護用車両と同じで戦闘能力は低いが、頑丈さと走破性はかなり高い。

とは言え、HQ扱いなのでベースで鎮座して緊急時に動く程度なのだが。

そのHQが入っているカーゴの中は、小さな指令所で、何と10人まで入って仕事が出来る。

CP将校を始めとした情報官に作戦参謀や指揮官が搭乗可能で、警護の為の兵士も配備可能。

カーゴの装甲は厚く、また小型種用にミニガン(ガトリング)も搭載され、警護の兵士が運用する。

そのカーゴの天井に座って待ち惚けの二人。

呼び出した唯依も、内容は知らないらしく戸惑っている雰囲気だった。

「あん? なんだアレ?」

「ガントリー型ね。二台も…戦術機?」

地響きの音に視線を向けると、そちらからガントリーフレームを装備したスレッジハンマー(整備班ではガントリーハンマー、略してガンハンと呼ばれているらしい)が、布で覆われた戦術機らしき機体を搭載してやってきた。

その様子から、二人はまた少佐の派手派手パフォーマンスか…と揃って苦笑。

「二人とも、待たせたな」

と、そこへ軍用車両から降り立った強化装備姿の唯依がやって来た。

二人は歩いてくる唯依の合わせて、カーゴの上から降りて敬礼。

「中尉、本日はどのようなイベントですか?」

「強化装備姿って事は、今日は中尉が何かやらされるって事だよな?」

二人の全て分かってる、また少佐の悪巧みでしょう? と言う気遣うような視線に、内心苦笑しつつ真面目な顔で対応する唯依。

でも頬は微妙にヒクついて、苦笑を隠しきれていないが。

「私も詳しい事はまだ聞いていないのだ。ただ、強化装備で来いと伝えられてな」

大方新型か改良機のテストデモだろうと、背後を振り返る唯依。

彼女の視線の先には、立ち入り制限された場所から、何とか中で何をやっているのか知ろうとする開発国の面子が。

「おはようございます、タカムラ中尉」

「な…っ、何故貴官がここに…!?」

そこへ、優雅に声を掛けてきたのは、唯依と同じく強化装備姿のエリス。

彼女は唯依の驚きと警戒の言葉に、クスリと笑みを溢す。

「何故も何も、本日のテストに光栄にも招集されたからですが?」

「……っ、そういう事か…」

彼女の言葉から、彼女と自分とで何かのテストをやらされるのだと思い至る唯依。

準備されている戦術機らしき機体は二機、その二機に思い当たる節がある唯依は、大和に何を考えていると思いつつ、エリスが差し出した手を見る。

「本日は宜しくお願いしますね、タカムラ中尉。鶏冠付きのハンティングは興味ありませんので…」

「――っ、心配せずとも、あの頃とは違いますので…」

エリスの挑戦的な言葉、その言葉が何を指し示しているのか察した唯依は、硬い表情の中に敵意を燃やしながら、その手を握り締めた。

彼女が叔父と慕う巌谷中佐が、当時、瑞鶴とF-15Eとの模擬戦闘で相手衛士に“狩り”と比喩された事と関連付けたからだ。

エリスは巌谷と唯依の関係を知らないので、単純に瑞鶴とF-15Eとの対決を引き合いに出しただけだろう。

とは言え、プライド、そして敬愛する叔父を皮肉られた唯依は、より一層の熱意を燃やした。

そしてそれを誘ったエリスもまた、握手を求めた手で唯依の手を握り返した。

どちらも、譲れないモノがあるが故に。

「え、えっと、揃っているかな…?」

そこへ、不穏な気配を感じてビクビクと小動物的に顔を出した大和。

その瞬間、唯依とエリスの眼光が光った、その光景にマジびびりの大和くん。

「少佐、本日の招集はどのような内容なのでしょうか」

「我々を強化装備で招集した事を考えると、戦術機起動関連と推測しますが」

先ほどまでのギスギスした空気はどこへやら、軍人らしいビシッとした態度で敬礼して口を開く二人に、挙動不審な大和。

「あ~、いや、その、なんだ…ふ、二人にはこれから改造機の実機テストを行って貰う」

何故か口篭る大和に、首を傾げるステラ達。

「(流石に「今から二人には殺し合いをして貰います」なんてBRな発言したら俺が殺されるよね…)」

ただ単純に発言を自重しただけの様子。

自重は捨てても空気は読むよ! 偶にね! なスタンスが在る模様。

「改造機のテストですか…しかし、それなら何故クロフォード中尉を…?」

横浜の改造機なのだから、自分達に任せてくれないのかと不満そうな唯依に対して、微笑を浮かべたままのエリス。

「まぁ色々と黒い事情が在ってな…香月博士も無茶を言う…」

唯依の指摘に苦笑で答えつつ、苦々しく呟く大和。

その呟きを聞いたステラは、今回の催しの裏で副司令が暗躍している事を察した。

「クロフォード中尉を招集した理由で一番なのは、彼女が現役のF-22A乗りだからだ。………という事にしてくれ…」

言い切った後で濁した。

それだけ大和にとっても予想外と言うか想定外の事なのだろう。

タリサとステラは空気を読んで口を噤んだ。

意外と弱いんですね、なんて言ったら可哀相だ、大和が。

「少佐ーーっ、シート外します!!」

「了解だ」

作業をしている整備兵の声に、手を振ってOKを出す。

すると、ガントリー型に搭載された機体からシートが外され、その機体を観衆の目に晒す。

片方はF-22A、もう片方は唯依の武御雷だ。

しかしどちらも機体各部に見慣れない装備や元の機体と異なる部分が見受けられる。

F-22A'sともF-22Awとも微妙に異なるF-22Aと、武御雷・羽張とはまた異なる武御雷。

「この二機は、それぞれの機体の秀でた部分、特徴と言ってもいい分野を強化しつつ全体的なパワーアップを目的とした、アップグレードキットによる改造機だ。F-22Aの方は砲撃能力を強化しつつ余分なステルス性能やその他能力を削りつつ、総合的な対BETA戦闘能力を強化。武御雷の方は機体バランスを損ねないように調節しながら、稼働時間の延長と砲撃能力を強化しつつ、近接能力を大幅に強化した。それぞれ開発コンセプトはガンシンガー、ソードダンサーと名付けられている」

「ソードダンサー…剣の舞人ですか…」

「ならこちらは銃の歌姫…と言った所でしょうか」

開発コンセプトを日本語訳して何やら言葉を噛み締める唯依と、日本語に割と詳しいエリスが対抗するように訳した。

歌姫なのは自分が乗るからだろうか?

訳し方なんて人それぞれなので特に突っ込まない大和、元々彼が考えた名前ではないのも理由か。

「既に基本的な起動実験や武装試験も終了し、後は総合的な戦闘機動と各種調整を残すのみ。このアップグレードキットが今後どうなるかは、二人の今後の働きに左右されるだろう」

「と言うことは、この機体は今後も試験導入という形に…?」

唯依の疑問に頷いて答える大和。

元々唯依の持ち込んだ機体を、殿下経由という恐れ多い方法で改造・運用する事を帝国に許可してもらったのだから、唯依が使うのは当然。

だが唯依が気になるのは、今後のエリスへの対応。

今回はF-22Aの乗り手として招集されたが、次からはどうなるのか。

彼女が継続して試験を続けるとなると、アップグレードキットで改造されたF-22Aは米国部隊に預けられる事になる。

その辺りを気にしてエリスにチラリと視線を向けると、同時に視線を向けたエリスと目が合った。

「お互い、頑張りましょう、中尉」

「……あぁ、宜しく頼む」

相変わらずの微笑に、唯依は内心嫌な予感を感じながら、握手に応じた。

「因みに名前はF-22Aの方がF-22Axで暫定名称『アクスラプター』、武御雷は同時期に開発されたアップグレードキット『羽張』の上位モデルという事で『武御雷・火羽張(ほはばり)』なんて名前が提案され……あの、聞いてます?」

思わず下でに出てしまうのは、握手した手をギリギリと握り合う二人のオーラが怖かったから。

「すげぇ、あの中尉と互角に睨み合ってやがる…!」

「西部最強のトップガンという渾名、伊達じゃないみたいね…」

ゴクリと喉を鳴らして汗を拭うタリサと、神妙に頷くステラ。

因みにエリスの西部最強だの何だのは、トマホーク試験小隊のとあるミーハー衛士が言い回っているので、割と広がっていたり。

「少佐、準備できましたが…」

「あぁ、うん、そうだね、機体を下ろして準備しておいて。二人の気が済んだら始めるから…」

おずおずと報告に来た整備兵に、煤けた表情で指示を出す大和。

流石に睨み合う二人を仲裁する勇気は無い辺り、ヘタレなのかフラグ回避なのか不明な大和であった。







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