突発的に気晴らしな作品を書きたくなる症候群、通称『現実逃避』
それは違うと思った貴方、正解です。
外伝その8~ガンバレ斉藤、彼がパイロットになった訳~
2001年某月某日――――
開発区画内に設けられた、支援戦術車両継続開発室。
そこでは、実験車両であるスレッジハンマーが数台鎮座し、関係者達が忙しそうに仕事をしている。
この場に居るのは、横浜基地所属の装甲大隊から選抜された、スレッジハンマー乗りと、その整備兵達。
彼らは、スレッジハンマーの有効性と性能強化、武装開発などの為に日夜ここで仕事をしている。
「斉藤~、ちょっと電動ドライバーの電池持ってきてー」
「へいへい、ちょっと待ちなさいねー」
「斉藤ー、交換用プラグ一通り持ってきてくれよ」
「あいよー」
「斉藤く~ん、ちょっとお姉さんを手伝って~」
「良いのかい、俺は美人のお願いならホイホイ付いて行っちまう男なんだぜ?」
あちらこちらから声をかけられて忙しそうに行ったり来りしているのは、アイアンハイド隊所属の操縦士、斉藤。
様々な渾名を持つ彼であるが、これでも横浜で1・2を争う支援戦術車両の操縦者なのである。
彼を見ていると疑わしいが本当だ、本当ったら本当なのだ。
BETA侵攻における群馬防衛戦では、当時まだ無名だったスレッジハンマーを操縦し、単機で280体以上という撃破数をマーク。
大和・武の両名が雪風でそれぞれ400体近くを撃破しているが、1000体以上居たBETAの内、2割近くを撃破したのが彼なのだ。
しかもその内の八割が大型種。
要塞級19体を主砲である200mm支援砲で仕留めた猛者でもある。
「ちょっと斉藤! アンタこれ大きさ違うじゃない!」
「はぎゅんっ!?」
違う工具を持っていって、相方の少女を怒らせている姿を見ると信じられないが、腕前だけは確かなのだ。
「…………ヒリングス隊長、彼は確か、上等兵の筈だが…」
「? はぁ…そうですが…」
開発計画のプラン立ての為に顔を出していた唯依が、大事な場所を攻撃されて泣いて蹲る斉藤を見て引き攣った顔で隣で話し合うハンナに話しかける。
問われたハンナは、質問の意味が分からないのか少し首を傾げている。
「相方の釘原や、他の者は斉藤上等兵より階級が下なのだろう…?」
「あぁ…。確かに殆どの者は斉藤より下ですが、その、斉藤本人の性格と言いますか、気質と言いますか…アレが普通なのです」
階級が上なのに全然敬われないし命令も受けない。
逆に斉藤が命令を受けているこの現状。
軍隊にあるまじき姿だが、何故か、唯依ですら斉藤だから…という言葉に納得を覚えてしまう。
「あれです、普段の行いという奴です」
「あぁ……」
凄く納得できてしまう唯依だった。
「斉藤自身、スレッジハンマーの操縦に関しては恐らく最高レベルでしょう。初戦闘で要撃級の攻撃を避けるやら、無茶苦茶な事を行っていますから」
「その事は少佐からも聞き及んでいる、あの鈍重なスレッジハンマーで近接戦闘紛いの事をやる操縦士が居るとな…」
大和が楽しそうに話していただけに、唯依もよく覚えている。
スレッジハンマーはその装甲と火力を維持する為に、関節から車体まで全て強固で頑丈に作られている。
だがそれが仇となり、機動性という言葉は全くの無縁。
走破性こそ最高に高いが、格闘戦なんてまず無理な機体なのだ。
そんな機体で敢て近接戦闘をやる斉藤は、軽く狂人扱いだった。
だが、初戦闘となる群馬防衛戦での戦いや、トライアル戦での戦い、そしてクーデターの時の横浜港防衛戦で、数度の近接戦闘をやってのけた。
これには大和を始めとした開発者や技術者を驚かせ、結果、数は少ないもののスレッジハンマー用の近接武装まで開発されたのだ。
「本人はドリルに拘っていたがな…」
「恥ずかしい話です…」
いたたたた…と頭を抱える二人。
斉藤は何を見たのか、何を受信したのか、大のドリル好き。
その情熱はスレッジハンマーの全身をドリルにして欲しいと大和に嘆願するほどに熱い。
そしてその熱意は大和まで動かそうとした程だ。
無論、部隊一丸となって止めたが。
だが、一部案が通り、車体の戦車部分、つまり両足に該当する場所に対小型種用の近接回転刃が取り付けられた。
複数の刃が高速回転して機体に取り付こうとする小型種を切り刻むという装備。
実装してから対BETA戦闘が無いので効果は出ていないが、有効な装備ではあると殆どの人間が見ている。
問題は、その装備の掃除と点検が物凄く大変だろうという点。
ソ連のモーターブレードと同じで、高速回転してBETAを切り刻む為、肉片やら体液やらが飛び散って汚れるし、戦闘の度に整備が必要。
なので、装備機体を限定し、主に迎撃前衛の機体のみ装備している。
「支援戦術車両独自のポジションには慣れたのか?」
「はい、基本は戦術機の物と同じですからね」
唯依の問い掛けに、訓練資料を手渡しながら答えるハンナ。
支援戦術車両は、その名の通り支援を目的とした機体。
戦車の延長上に当たる機体なので、当然陣形も戦車の物をモデルにしている。
だが、折角戦術機のような姿をしているのだからと、装備や戦法に合わせたポジションが誕生していた。
主に部隊前面で浸透してきたBETAと相対する迎撃前衛。
部隊中堅にて誘導弾やバズーカと言った広範囲兵器で援護する殲滅掃討。
ハルコンネンⅡや200mm支援砲での超長距離砲撃や支援砲撃を担当する砲撃後衛。
これらが、主にスレッジハンマー部隊で割り振られるポジション。
主に操縦者の力量や装備で振り分けられ、アイアンハイド隊で言うと、斉藤が迎撃前衛、渚が殲滅掃討、ハンナが砲撃後衛だ。
「スレッジハンマーは既にフェイズ3か…操縦に問題は無いか?」
「特には。在るとすれば、手腕のガトリングかマニュピレータかで好みが分かれる程度でしょうか」
初期型、通称フェイズ1から数えて三代目であるフェイズ3バージョンのスレッジハンマー。
実戦投入されているとは言え、未だノウハウの蓄積の少ない支援戦術車両。
その為、ほぼ毎月どこかしらの改修や改造を受けており、現在はフェイズ3にまで達している。
フェイズ1では元となったF-4の意匠を残していたスレッジハンマーだが、装甲強化、近接武装の追加、各種センサー・システム類の強化を行ったフェイズ2、決定したポジション毎に装備や手腕などを変更したフェイズ3。
これらの経緯を経た現在の最新型スレッジハンマーは、更に重厚感と威圧感を増した正に陸上戦艦の名前に相応しい見た目と装備になっている。
「手腕交換でガトリングか戦術機の手腕に換装が可能になったのだったな。やはりガトリングの方が多いのか?」
「そうですね、威力・弾数・面での制圧力、どれもガトリングの魅力ですから。最新型にはミサイルポットも搭載されていますし」
そう言ってハンナが見上げるのは己の操縦するスレッジハンマー。
その両手のガトリングの外側には、細長いコンテナが搭載され、その中身は短距離低空ミサイル。
飛距離こそ無いが、弾速と命中率が高いミサイルを搭載している。
機動性を完全に捨てている為、重量が増えても問題が無いスレッジハンマーだからこその重装備。
真正面からやり合えば、中隊規模で戦術機大隊規模と戦えるとすら言われている。
それ故、スレッジハンマーとの模擬戦闘は、誰も正面からは戦わない。
分厚い装甲と二倍どころではない火力相手に、正面からなど死にに行く様なものだ。
フェイズ3となったスレッジハンマーは、対空武装まで搭載している為、以前のような上空からの強襲も無効化された。
それ故、怖い相手は現在ではステルス性能の高いF-22Aや、火力が強化された雪風、不知火・嵐型などだ。
「マニュピレータ型を好んで使っているのは、それこそ斉藤位のものです」
苦笑して告げるハンナ、専用のマガジンが開発された手腕ガトリングの威力と効果から殆どの機体がそれを装備しているのだが、斉藤や一部の操縦士は手腕を選択している。
殆どの者は手腕を選択する理由として、多目的格闘装甲や支援突撃砲などの使用、ポジションによってはスナイプカノンユニットの為に手腕を装備しているが、斉藤は違う。
「あのバカ者、拳じゃないと殴れない!…なんて言って手腕を選択したのですよ」
「そ、それはまた…」
唯依も苦笑するしかない理由。
と言うか、戦術機の手腕で殴るなと言いたい。
スレッジハンマーの手腕はF-4の腕を流用しているので強度はそのままなのだし。
「後は、手持の武装を使いたいという理由もあるそうですが。恐らく一番の理由はアレかと…」
そう言ってハンナが指差す先には、斉藤が運用しているスレッジハンマー。
その右手手腕には、大型の釘打ち機のような武装が搭載されている。
左手には多目的格闘装甲を搭載している為、他の機体より頑丈かつ屈強なイメージを抱かせる。
「近接用のパイルバンカーか…威力は申し分無いが、支援戦術車両に搭載する武装ではない気がするな…」
「同意見です…」
巨大な杭を火薬の爆発で打ち出すという物騒な武装。
元々は大和が70番格納庫内の倉庫に封印していた武装だったが、自重止めてやる事件で封印が解けた為に、日の目を見てしまった。
しかしながら、威力と丈夫さを優先したこの武装、重過ぎた。
戦術機では重心が偏り、第一世代のF-4でも機体バランスが崩れる上に、手腕への負担も半端無かった。
第二世代は元より、第3世代なんて武装で機体が壊れる可能性すら在る為、結局また封印になるかと思われたが、偶々斉藤がこれを見つけ、自分の機体に搭載して欲しいと大和に土下座でお願い。
それはそれは見事なジャンピング土下座だった為、大和も笑顔で搭載してしまった。
重量級のスレッジハンマーでなら機体バランスを崩さずに運用可能である事は分かったが、やはり手腕へのダメージが大きい為に、結局手腕自体を専用のアームに変更。
クラッシュハンマーで使われたパワーアームを改良して、右手だけこれに換装。
そしてパイルバンカーが搭載されたのだった。
左手に多目的格闘装甲を装備しているのはバランスを取る為と近接防御の為。
「威力は問題ないのです、突撃級の外殻を一撃で粉砕するのは魅力です。が、支援部隊である我々が近接戦闘すると言うのは…」
本末転倒だと苦笑するハンナに、日本語に詳しいなと内心感心する唯依。
実はハンナが日本文化大好きなのはアイアンハイド隊でも一部しか知らない事実。
以前、斉藤に日本の伝統ハラキリを見せろと笑顔で頼み、斉藤が死を覚悟したのは余談である。
「そうそう使う場面は無いと思うが、操縦士が斉藤上等兵だからな…」
ノリノリで突撃しそうだと苦笑いの唯依に、笑えないハンナ。
「フゥーハハハハ、回るドリルは良いドリルだ、回らないドリルはただの円錐だーーっ!!」
「遊んでんなーーっ!!」
整備兵のお手伝いで装甲に穴を開けている斉藤が叫び、その姿に怒った釘原のスパナが命中。
「おぉ斉藤よ、死んでしまうとは情けないです」
「し、死んでましぇん…!」
某ゲームの如く嘆く河田の言葉に、ピクピクしながら反論する斉藤。
良い音したのだが、誰も安否を気にしないのは、既にそういうキャラクターと認識されている為か。
「な、中々過激だな…」
「ご心配なく、あのバカはスレッジハンマーの上から落ちても死にませんでした」
フェイズ3になったスレッジハンマーの上で「フィーバータイム!」と叫び、妙なポーズで集光ライトの光を浴びていた為、やっぱり釘原のスパナで撃墜されたらしい。
その際に一部の整備兵が「キャーサイトウサーン」と叫んだとかなんとか。
やっぱり斉藤、100回落ちても大丈夫! とは誰の言葉だったか、恐らく大和。
「釘原一等兵、コックピット周りを改良したので調整お願いします」
「あ、了解。ほら斉藤、寝てないで仕事しなさいよ!」
「お、お前がやったんだろ…ガクリ」
整備兵に言われて自分の機体へ赴く釘原。
アイアンハイド隊の機体は今後の技術ノウハウ蓄積や、新型機開発の為に様々な改良が施されている。
その中には機体内部や、彼女達が身に纏う強化装備も含まれている。
「う~ん、どうもこの99式改って強化装備、慣れないのよね~」
「まぁ、元々衛士しか使わない物ですからねぇ」
釘原の言葉に、苦笑する整備兵。
スレッジハンマーの操縦者も強化装備に順ずる装備が必要という案が出た為、一部機能と性能を変更した強化装備を身に纏っている。
耐Gなどより振動キャンセル機能や衝撃吸収性を重視した通称99式改は、元の99式の色と形状を一部変更し、黒と深緑のカラーリングになっている。
残念ながら透けていない上に、大事な部分などは追加機能の為に装甲で覆われている。
その事に残念で涙流した斉藤は、皆からボコボコにされた。
でも微妙に幸せそうだったのは内緒だ。
因みに操縦士と火器管制官とで装備が一部異なり、火器管制用の強化装備は、多数の火器を同時に扱う為の機能が追加されている。
「この耳みたいなヘッドギア、どうにかならないの…?」
「少佐曰く、様式美だそうです。可愛いですよ、とっても」
自分の頭部に装着された、虎耳っぽいそれは、イーニァが装備していた火器管制補助システムのアレ。
形状が異なるのは恐らく開発者の趣味だろう。
女性の整備兵の褒め言葉に、少し照れる釘原。
「ね、ねぇ斉藤、これどう思う…?」
と、少しドキドキしながら相方である斉藤に問い掛ける釘原。
「んあ? 何が?」
だが、斉藤は差し入れの合成饅頭を食っていて聞いちゃいない。
「死ね」
「もごぉっ!?」
合成饅頭を全部(28個)口に突っ込まれた斉藤、顎が外れそうになりジタバタ。
一気に不機嫌になった釘原を刺激しないように整備兵が苦笑して続く。
「それで、何処が変更になったの?」
「トリガーの形状と火器選択システムのスイッチを変更しました、今からシミュレーション画面を流しますのでテストをお願いします」
「了解。ふ~ん…ちょっと軽くなったかな…」
ノートパソコン片手に準備をする整備兵に返事しながら、変更されたトリガーやスイッチの調子を確かめる釘原。
スレッジハンマーの操縦席は、戦術機の複座をモデルにし、さらに小型化しつつコックピット回りを頑丈にした物になっている。
大和が120mm、直撃しなければ大丈夫と豪語するその防御力は折り紙付きだ。
「射撃シミュレーションデータロード、準備完了です」
「了解、射撃シミュレーション開始」
整備兵の言葉に答え、トリガーを握る釘原。
スレッジハンマーは独特のシステムと操縦方法の為、まだシミュレーションデッキが存在しない。
その代り、実機のシステムにシミュレーション映像を流す事でその代りにしている。
この辺りは戦術機のシステムと同じだ。
釘原の視界に、シミュレーションの映像が投影され、ターゲットが表示される。
「装備は今装着されてる奴?」
「そうです。弾数設定は解除してありますから、慣れるまで好きなだけどうぞ」
整備兵の言葉に、楽しげに唇を歪めて、ぺロリと唇を舐める。
「やったろうじゃないの」
釘原の素早いトリガー操作と眼球追跡によるオートロックオンシステムが、映像に表示されたターゲットを次々にロックし、撃ち抜いていく。
「トリガーの動作が軽すぎるわ、これじゃ早く撃っちゃう」
「トリガー動作ですね、了解です」
映像で次々にターゲットを撃破しながら、不満点や問題点を告げる釘原と、その言葉を記録していく整備兵。
システム的な問題はその都度修正していく。
「三番ウェポンのスイッチクリックが固いわね、これじゃロックタイミングがずれる」
「それは今直せますね、クリック動作を0,5修正…どうですか?」
「ん、良い感じ」
修正されたシステムに頬を緩ませて次々にターゲットを撃破していく釘原。
その様子を外から眺めていた唯依が、少し残念そうな表情を浮かべる。
「どうしました中尉?」
「いや、少しな。釘原一等兵達のような、素晴らしい技量を持つ者が戦術機に乗れれば、良かったなどと考えてしまった」
戦術機には、適正という大きな壁が存在する。
空中で高速機動を行う戦術機の動きに耐えられない、またはその他の要素で試験に落ちて、歩兵や戦車兵、CP将校などの道を選ばざるを得ない者が多いのが現状だ。
それ故、スレッジハンマーという支援戦術車両の登場は革命的だった。
衛士適正の無い人間であっても、戦車などの車両操縦技術が在れば動かせる機体であり、訓練すればどんな人間でも扱える機体。
歩兵や戦車兵達が夢見た機体が、スレッジハンマーだった。
「確かに、私も釘原も、そして斉藤も適正が無かった為に戦車兵になりました。ですが今は中尉達衛士と肩を並べて戦える。こんなに嬉しい事はありませんよ」
ユーラシアで戦車兵としてBETAとの戦いに従事したハンナは、昔を思い出して微笑んだ。
あの頃は戦車や自走砲などの操縦者は、重要なポジションでありながら足手纏いでもあった。
BETAに対して大打撃を与えるポジションでありながら、その歩みの遅さとBETAに近づかれたら最後という脆弱さ。
それ故、部隊が壊滅する事など珍しくもなく、戦術機に守れているのが常だった。
だが今は、戦術機に勝るとも劣らない機体で戦える。
BETAに接近され、逃げ回っていた時代は終わったのだと。
ハンナは、胸を張って唯依にその思いを告げた。
「そうか…活躍を期待しているぞ、ヒリングス隊長」
「はっ、期待に副える様、尽力します!」
お互い微笑を浮かべながら敬礼し、笑い合う。
「むぐむぐむぐむぐ……んぐっ、ぶへぇ、死ぬかと思ったZE!」
口に突っ込まれた合成饅頭を全て咀嚼して飲み込んだ斉藤が二人の間で復活。
ぶち壊しだった。
スレッジハンマーでは優秀な成績を残す斉藤、彼は戦術機適正が異様に低く、跳躍機動、特に急降下や急上昇などの上下の動きがダメで、10階以上動くエレベーターですら酔ってしまう程。
その為戦車兵の道を歩み、幸運にも大和の集めた戦車兵の中に居た為、今の居場所を得た。
そんな彼のムードクラッシャーぶりは、訓練兵時代から有名だったり。
「斉藤……ちょっと外走ってこい」
「うぇっ!? 何故に突然!?」
「斉藤上等兵、ついでにこのテスタメントも引っ張って走ってこい」
「ふげっ!? 何故にテスタメント!?」
近くを通った下位テスタメントからケーブルを延ばして斉藤の腰へ引っ掛ける唯依。
下位テスタメントの重量は約140キロ、ローラーが付いていても重い。
「「さっさと行かんか!!」」
「ひぃーーっ、し~ましぇ~んっ!!」
二人に怒られてテスタメントを引っ張って走り出す斉藤。
そんな様子に、見ていた者達は何時もの事と苦笑や笑って仕事を続けるのであった。
「彼は少佐とはまた別の意味で厄介な男だな…」
「まぁ、それが良いという者も居りますが…ね」
大和の奇行を思い出して頭を抱える唯依と、意味深な言葉でチラリと周囲を見渡すハンナ。
相方の姿に呆れつつ見送る釘原、爆笑しつつも楽しそうな満枝、あらあらと見守る柏葉。
「? ヒリングス隊長…どうかしたのか?」
「いえ、別の戦いも大変だと思っただけです」
唯依の疑問に苦笑して、仕事に戻りましょうと提案するハンナ。
唯依は意味はよく分からないが、とりあえず話し合いを終わらせる為にテーブルに向うのだった。
「さっさと10周走るです斉藤」
「痛い痛いっ、って言うかなんでテスタメントに乗ってますか河田さん!?」
基地の外を走る斉藤、そんな彼の尻を竹刀で叩くのは何時の間にかテスタメントの上に正座して乗っている河田だった。
「良いから走れです」
「あひんっ!?」
今日も斉藤君は元気です。