2001年10月11日―――――――
横浜基地地下・歩兵用特別室内演習場―――
「そうですか、少佐は4日後にお帰りになるのですね」
「はい、現在は富嶽重工にて遠田技研などの主だったメーカーと技術会談中との事です」
横浜基地地下に存在する、歩兵や機械化歩兵の訓練の為に改装された空間、そこを見渡せるキャットウォークの上で話し合うのは唯依とピアティフ。
「殿下との急な謁見が叶ったために日程がずれたのは?」
「元々時間が掛かると予想されていた為、問題はないそうです」
懸念していた事を問い掛ける唯依に、ピアティフは苦笑しつつ答える。
本来なら殿下との謁見は予定に入っていなかったが、ダメ元で月詠大尉を通して謁見と機体受領をお願いしたのだ。
それが意外とすんなり通った為に、大和は一度帝都へ赴き、殿下と謁見、さらに技術廠にて保存されていた機体確認などで、日程がずれ込んだのだ。
が、元々会談が長引くと予想していたので、組んだ予定は余裕が在った。
とは言え、仕事は突然湧くモノで、今も大和が判断しないとダメなモノが幾つか出ている。
緊急な案件はテスタメント通信で判断を仰いでいるので大きな問題は無いが。
「それにしても15日か…確か暴風試験小隊とトマホーク試験小隊のエントリー試合が在るな…」
責任者代行である唯依は、緊急時以外では基本演習に立ち会う事になっている。
無論、絶対に、という訳では無いが。
唯依が少し悩んでいるのは、大和をお出迎え出来ないかも…という理由だったりする。
それを察してピアティフは内心苦笑するしかない。
『篁中尉、模擬戦闘を開始します』
「あぁ、了解した」
そこへ、室内の管制をしている担当官からスピーカーでの放送が入り、眼下の空間では機械化歩兵部隊が戦闘態勢に入っている。
格納庫を改装して、障害物や狭い通路などを再現した、室内演習場。
これは、基地や建物内での歩兵の戦闘訓練を想定しての造りだ。
『これより、対小型BETA戦闘訓練を開始します。カウントスタート…』
スピーカーによる放送に応じて演習場の片側で展開し、配置に付く機械化歩兵。
彼らの反対側では、中位テスタメントが打撃用アームを装備して待機している。
射撃兵装を取り外し、小型BETAの手(と呼ぶのか不明だが)を模したアームを搭載したこのテスタメントは、対BETA戦闘訓練において有能な仮想敵だ。
『3…2…1…状況開始!』
『一班から三班は第一通路で迎え撃て、4班は第二通路を封鎖しろ!』
指揮官の指示に従い、機械化歩兵が素早く造られた通路へ展開。
反対側からは小型BETAの再現行動を入力された中位テスタメントが、ワラワラと侵入してきている。
「展開が速いですね…」
「新開発された軽量型強化外骨格ですからね。今までの強化外骨格が不得意としていた閉所空間での長時間行動や、匍匐前進も可能とした“着る”強化外骨格です」
重い装備を纏っているとは思えない展開速度で迎撃態勢を整える機械化歩兵に、感嘆の声を漏らすピアティフ。
今までの強化外骨格は、小型BETAとの近接や大型BETAからの回避などの問題からどうしても大型だった。
比較的小型、準等身大の軽装備でも着ると言うより纏うというレベルであり、構造上どうしても閉所や狭い空間と苦手としていた。
屋外での戦闘なら問題ないかもしれないが、狭い空間の多い基地防衛には向いていない。
そこで、基地内防衛用として新しく設計・開発されたのが着る強化外骨格、01式基地防衛用・機械化歩兵軽装甲。
装甲や積載重量よりも広い可動と身軽さを優先し、鎧レベルにまで小型化。
どうしても場所を取ってしまうジェネレーターや火器を、バックパックに纏める事により全体の小型化に成功。
着る人間の動きを制限せずに、かつ小型モーターの補助により高い機動性を確保。
重い重火器も各部モーターの補助で楽々扱える。
現に、本来なら地面に設置して使用する対物狙撃銃を持って使っている歩兵も居る。
「装甲の下は衛士の強化装備の技術を流用したアンダースーツになっていてます」
それでも戦車級に噛まれれば無意味ですが…と苦笑する唯依だが、戦術機の装甲すら喰う連中に、機械化歩兵で対処しろと言う方が酷だろう。
しかし小型で脚が早いこの連中は、瞬く間に基地に侵入してくるBETAだ。
通路などに侵入された場合、戦うのは機械化歩兵しか出来ない。
「なので、出来るだけ外部武装を増やしました」
「確かに多いですね…」
眼下の模擬戦闘を見ると、機械化歩兵は基本装備は同じだが、ポジションに応じてそれぞれ異なる武装を装備している。
先頭にはガトリングガンを装備した歩兵や、リボルバー型グレネードランチャーを装備ししている歩兵。
後衛には先の対物狙撃銃や、バズーカと思われる武装。
これら重装備を、軽量で小型なのに楽々使用できるのが01式基地防衛用・機械化歩兵軽装甲の強みだ。
今までの強化外骨格の中で1番小型で軽量なので、中位テスタメントと連携を取る事で迅速な展開、中位テスタメントに外部武装を搭載する事で移動砲台として運用も可能。
そして、01式機械化歩兵用・増設重装甲と呼ばれる強化外骨格をさらに装備できるという機能まで有している。
01式機械化歩兵用・増設重装甲は、軽装甲の上に被せる形で装備されるモノで、火力とパワー、装甲に欠ける軽装甲の弱点を補う目的がある。
下半身のユニットと上半身のユニットに分かれており、上下で挟む形で装備される。
下半身のユニットには脚部ローラーやミサイルポットなどを装備。
上半身ユニットには大型アームに複合兵装型バックパック。
そして長時間稼働用バッテリーが装備されている。
これを装備する事で、四本腕となり火力と防御力、移動力を補いつつ、長時間稼働を実現。
さらに足先・踵・膝・肘の四箇所にローラーを配置して、高速移動に対応した。
ローラーは屋内用だが、野外戦用のタイプも存在する。
立った状態でも伏せの体勢でも移動が可能になるので、匍匐前進が必要な空間でも移動が出来るようになった。
無論、ローラーは歩行時に邪魔にならないように可動する。
複合兵装バックパックにはアンカーワイヤーやら無反動砲、グレネードランチャーと多数の装備が配置され、展開する事で攻撃形態に移行する。
長方形のバックパックから無反動砲が両肩に担ぐ形で展開、グレネードランチャーは腰を挟む形で展開され、残った部分は弾薬マガジンと昇降用アンカーワイヤー。
これらはユニット化されていて、他の武装に交換も可能。
無反動砲を対物狙撃銃にとか、色々設計されている。
「これら二つの装備を使い分ける事で野外・基地内での防衛を目的とするのが、基地防衛用機械化歩兵部隊です」
「なるほど…少佐の考えたCWSやユニット化が流用されているのですね」
眼下の戦闘が終了するのを見ながら説明する唯依に、感心して頷くピアティフ。
ついつい戦術機開発などに重点が行きがちな開発計画だが、こういった細かい部分もカバーする辺り、手が広い。
「例の戦術車両のロールアウトはまだ掛かりそうですね」
「何せ、あのサイズにあの機構ですから。テスタメントでのノウハウが在るので脚や装備は問題ないのですが、システムが少し…」
中位テスタメントとの模擬戦闘訓練を終えた機械化歩兵達が指揮官から評価を受ける中、広い空間の反対側では一機の機体が稼働実験を繰り返していた。
「アレが完成すれば、基地防衛は格段に向上するでしょう」
「そうですね…しかし、どうして少佐はこうまで基地防衛に力を入れるのでしょうか?」
素朴な疑問を口にするピアティフに、唯依は何とも言えない顔になる。
大和が基地防衛を過剰に重視するのは、唯依の直感だがBETA襲撃を恐れてだ。
だが、何故そこまでBETA襲撃を警戒するのかまでは分からない。
最終防衛線である横浜基地までは、いくつもの防衛線が敷かれているのに。
時々大和が何を考えているのか、何を見ているのか、それが分からない。
その事が歯痒くて仕方がない唯依。
その様子から、複雑な事情があるのだろうと理解して質問を撤回するピアティフ。
伊達に夕呼の部下をやっていない。
「01式の軽装備と増設重装備は名前は在るのですか?」
「えぇ、軽装備の方はレッドキャップ、増設重装甲はデュラハンと為っています」
「どちらも確か妖精の名前…ですよね?」
「みたいですね、私は詳しくないのですが、少佐が妖精の名前で統一しようと言い出して…」
ピアティフの疑問に苦笑気味に答える唯依。
唯依はデュラハンは悪霊の一種だと思っていたが、大和曰く妖精の一種らしい。
レッドキャップは邪悪な妖精だし、デュラハンも死を告げる妖精の名前だそうな。
日本由来の名前を付けないのは、趣味か大々的な配備の見通しが無いからか、開発部でも少し議論された。
「少佐の引き出しは多いですね」
「多すぎます…」
ピアティフの苦笑に、唯依は額を押さえるしかなかった。
因みに01式基地防衛用・機械化歩兵軽装甲、通称レッドキャップはその名前の通りに頭部パーツが赤く塗られていて、他は黒。
デュラハンは、シルエットだと首が無いような姿なのでこの名前が名付けられた。
『篁中尉、開発部から至急来て欲しいとの事です』
「了解した、以後の行動は予定通りに」
管制室からの連絡に答え、歩き出す唯依とピアティフ。
ピアティフはこの後自分の仕事に戻るので途中まで一緒だ。
下を見れば、装備を脱いでアンダースーツ姿になった歩兵達が、模擬戦闘の相手を務めた中位テスタメントのペイント塗料を掃除している。
残念な結果の兵士のお仕置きかと思ったが、全員総出で掃除しているので違うらしい。
彼らなりの、一緒に戦う相棒達への気持ちの表れなのだろう。
その様子に微笑ましくて微笑を浮かべながらその場を後にする二人だった。
同日・横浜基地地下シミュレーターデッキ――――
『もらったぁぁぁぁっ!!』
『なんのぉぉぉぉっ!!』
シミュレーターの映像内で、タリサの舞風が長刀とは形の異なる片刃型の刃で背後から切り掛かるが、それを両手に持った同じ片刃型の刃2本で受け止めるのは陽燕。
『げぇっ、そんな体勢で受けるか普通っ!?』
『ぬはははっ、甘いぜ少尉!』
タリサの驚きも尤もで、陽燕は片足を前に出し、アキレス腱を伸ばすような姿勢で上半身を後ろへ逸らして、両手にそれぞれ持った刃でタリサの一撃を受け止めたのだ。
普通なら押し切られるような威力を受け止められるのは、陽燕の中身がそれだけ優れている証拠か。
『くぅっ、マニュアルの機体操作で衝撃を和らげるとか有りかよ!?』
刃を弾かれ、返す刃を後退する事で避けるタリサ。
『へへへ、XM3をやり込めばこれ位楽勝だぜ』
『いや、ないない』
自信満々に言うのは武ちゃん、だがその言葉に帰って来たのはタリサの真顔。
機体各部の衝撃軽減の上に、衛士が任意で衝撃を受け流す体勢を取るとか有り得ないからと、顔の前で“それはない”と手を振る。
機体でも手を振ってやろうかと考えたタリサだったが、それをやると隙ありとばかりにスパっと切られるのでやらない。
『むぅ、出来るのになぁ…』
『いや、脹れられても…』
なんだか不満げな武ちゃんに、苦笑するしかないタリサ。
現在二人は、新型武装のシミュレーションデータの確認を行っている。
この前タリサとステラがやっていた物に加え、今回は二機が持つ武装。
01式高周波近接戦闘長刀、通称M・V・B(メーザー・バイブレーション・ブレード)と呼ばれている新型特殊武装である。
因みに開発部では何故かMVS派(ソード呼び)とMVB派(ブレード呼び)が存在したりする。
形は直刃の刀に近く、長さこそ長刀と同じだが、刃の厚さと幅は一回り小さい。
これは高周波の振動を刃全体に伝える際に、対磨耗と強度を保ちつつ効率的に振動を伝える為に計算された大きさとの事。
長刀に慣れた人間には心許無い印象を受けるが、叩き斬るのではなく、分け斬るという形なので切れ味とその持続性については、高周波を発生させていれば長刀の倍以上を現在実現している。
対磨耗については、現在継続的にデータ収集を続けているが、長刀三本分がダメになる数を既に超えているとの事。
とは言え、物量のBETA相手にするのに、使い捨て出来ないこの武装では不安が多いという声が上がっていた。
その為、刃の部分を交換式にして、刃だけ瞬時に交換可能に設計し直したのがこの01式高周波近接戦闘長刀だ。
『このっ!』
MVB同士のぶつかり合いは、長刀同士の斬り合いと同じ結果を出してしまう。
つまり、刃毀れや破損だ。
これが長刀との斬り合いなら、受けた瞬間長刀の方が切れてしまう。
だが同じように高周波を発生させているMVB同士では、拮抗してそうならない。
先程ブレードを交換した武と違い、数度の鍔迫り合いの結果、破損するMVBの刃。
舌打ちしつつも瞬時にブレード部のパージを選択するタリサ。
舞風の持つMVBのブレード部がロックから開放されて抜け落ちる。
そして機体を後退させながら、システム制御で残った本体部分を肩の担架へと戻す動作をする舞風。
担架には、先程抜け落ちたブレード部と同じブレードが二本、担架に並んで挟まれていた。
MVBの本体、これは刀で言う柄の部分、根元の鍔部分、そしてブレードの峰の方を3分の1程度覆う長いレールから成り立っている。
鍔からブレードが接続される場所までが本体であり、ここに小型化した高周波発生装置を搭載。
峰を覆うレールは、ブレードの固定と高周波の伝導率の向上、そして充電用通電部の役割を持っている。
因みに柄にも少し機材が埋っているが、握る部分なので衝撃や破損に強い部品が納められている。
担架に固定されているブレードの峰の方を、本体のレールが滑るように進み、ブレードの根元が本体の根元へと入る。
よく見るとブレードの根元は山の字に凸凹が存在し、それが本体に入ると本体側の凹凸と噛み合い、自動でロックされる。
それと同時にブレードが担架から開放され、腕を戻すと交換完了。
『でぇいっ!』
『うおっとっ』
距離を詰めてきた陽燕に戻す勢いのまま高周波を発生させ、切りかかる。
その刃を右手のMVBで受け、反対の刃を向けるがタリサはスラスター全開で避ける。
それを追いかけて更に距離を詰めようとする武。
『畜生っ、有効打が与えられねぇ!?』
『まだまだぁっ!』
陽燕がスラスターと噴射跳躍全開で、MVBを×の字にして迫る。
『こいつっ!』
その×の字の中心に刃を当てて防ぐが、圧倒的な出力を誇る陽燕に押されて廃墟に激突。
両手でMVBを構えて押し返そうとする舞風だが、如何に改造機とはいえ陽燕とはスペックが違い過ぎる。
やがて、舞風の前腕各部から火花が散り、歪み始める。
『ちょ、待てよ、ウソだろっ!?』
慌てるタリサだが、廃墟に半分以上埋り、押し返す事も出来ない。
軋みを上げる機体を、JIVESがリアルに再現する。
やがて手が限界になり、MVBを固定できずに押し切られる。
如何にMVBとは言え、ブレード部の横。腹は弱い。
押し切られた衝撃で刃が横を向いて、MVBは切り裂かれ、そのまま機体と廃墟を×の字に切り裂く陽燕のMVB。
後に残ったのは、×の字に切り裂かれた舞風と廃墟。
『F-15BE大破、テスト終了。お疲れ様です大尉』
そこへ、ステラの声が響いてシミュレーションは終了を告げた。
「だーーーー……負けた…」
ガックリと肩を落として筐体から出てくるタリサ。
「いやいや、良い勝負だったぜマナンダル少尉」
同じように出てくる武ちゃんがそう言うが、タリサの表情は晴れない。
「お疲れ様です大尉、タリサもお疲れ」
管制室へと入ると、管制を行っていたステラと、各種設定を行っていた霞が出迎える。
「すみません大尉、お忙しい中」
「いやいや、俺も早くこの装備をシミュレーションで使いたかったんで気にしないで下さいよ」
気遣ってくれるステラに、笑顔で答える武。
その言葉には嘘偽りは無く、早い所シミュレーションでMVBを使えるようにして欲しかったのだ。
その理由は簡単、近々、A-01でもMVBの実験配備が開始される。
ブレード部の品質チェックもOKが出て、本体も数が揃ってきた。
後は配備するだけのこのMVB、同じMVBを装備していないと対処が出来ない凶悪な装備。
模擬戦闘の時は模擬戦闘用のMVBを使い、システム設定でダメージ判定を行う事になる。
その為、そろそろA-01でも練習をしないとならない。
「最終テストでもバグは出ませんでしたので、これで完成ですね」
と言っても、絶対とは言えませんが…と苦笑して01式高周波近接戦闘長刀のデータを、霞にお願いして彼女のテスタメントにコピーさせる。
オリジナルはステラが責任持って唯依へ提出、コピーは陽燕のデータと同じようにテスタメントと霞が管理する。
「ありがとうございます、霞、早速部隊で使っても良いか!?」
「はい、黒金さんからも許可が出ています…」
ステラに礼を言いながら撤収準備をしている霞に問い掛けると、頷いて答えてくれる。
因みに、武ちゃんの言う部隊は、A-01の事だ。
その辺りのTPOは叩き込まれたので確りしている様子の武ちゃん。
「よし、それじゃ早速行こうぜ。それじゃ二人とも、また!」
善は急げとばかりに、タリサ達に手を振って管制室を飛び出す武ちゃん。
その後を、コピーが終了して陽燕のデータも回収したテスタメントに乗って、霞が追い掛ける。
「うへぇ、まだ続けてやるつもりかよ…」
「若さが弾けてるわねぇ…」
先程まで、タリサと一緒にバグ取りから微調整までぶっ続けで3時間以上やっていたのに、まだやるつもりの武ちゃんに、ゲンナリ顔のタリサ。
ステラは頬に手を当てて苦笑、年寄りみたいな発言だなと思ったタリサだが絶対に言わない、死にたくないから。
「さ、一度戻って次の仕事の準備しましょう」
「その前にアタシ腹減ったよ…」
午前中からやって、もうお昼過ぎだ。
それもそうねと微笑んで、二人はPXを目指した。
その前にタリサはお着替えだが。
同日午後・横浜基地内ブリーフィングルーム――――
基地内に複数存在するブリーフィングルーム、その中の一つは現在A-01が使用していた。
現在行われているのは、各隊員達の実力評価と適正ポジションの話し合い。
伊隅とまりもが中心となり、各々意見や評価を出して話し合い中。
「まりもちゃんっ、伊隅大尉っ、シミュレーション行きましょうシミュレーション!!」
そこへ、扉を蹴り破る勢いで強化装備姿のまま突撃してくるのは武ちゃん。
口元にお弁当が付いている様子から、どうやらステラ達と別れてから速攻で食事を取り、そのままやってきたらしい。
オラわくわく止まらないぞとばかりに詰め寄ってくる武ちゃんに、伊隅大尉は軽く引き、まりもは隊員達の前でまりもちゃんと呼ばれたので頭が痛そう。
「ふむ…社、大尉は何をあんなに興奮しているんだ?」
「はむはむ……ん、新型特殊装備のシミュレーションデータが完成しました…はむ」
武ちゃんが何事だと問い掛けてきた伊隅と問答しているのを尻目に、後からテスタメントに乗って入ってきた霞に問い掛ける宗像。
霞はおばちゃん特製おむすびをはむはむしながら答えるが、新型特殊装備と言われても彼女達には分からない。
何せ、雪風のCWSやら何やらも、彼女達からすれば特殊装備だ。
因みに霞のはむはむは、そうやって食べれば武ちゃんが喜ぶと某自重を止めた少佐に言われたから。
「社さん、それはどんな装備なの?」
「はむ……ん、高周波発生装置を搭載した近接戦闘長刀です、スパスパです」
問い掛けた風間に、飲み込んでから答える霞嬢の言葉。
スパスパなの…と聞き返す風間と、スパスパです…と答える霞。
妙な癒し空間発生、宗像は幸せになった。
「そいつは黙っちゃ居られないわね!」
その空間を打ち壊す人がインしました。
「神宮司大尉、伊隅大尉! 自分も白銀大尉の言う武装を使ってのシミュレーションを希望します!」
はいはい私も使いたーいと挙手するのは、水月中尉。
水月~と遙が止めようとするが止まらないのが突撃前衛長。
そんな彼女の続けとばかりに、突撃前衛志望が挙手し始める。
言うまでも無く、元207のサムライガールとかヤキソバ命とか器用なアホ毛とか。
「御剣に彩峰、涼宮少尉もか…全くお前たちは…」
数えて呆れるまりもちゃんだが、挙手したのにカウントされなかった高原がショックに打ち震えていた。
「どうせ、どうせ私なんて…」
「諦めちゃダメよ、高原少尉!」
「東堂中尉っ!」
何やら妙な友情が生まれていた。
「泉美ちゃんと由香里ちゃんのセットもイイかも…」
そして自重しない女が狙っていた。
「やれやれ、話し合いは持ち越しだな…」
「社さん、美味しい?」
「はい、美味しいです…はむ」
一歩引いた位置から眺めて苦笑する宗像に、楽しそうに霞の食事を見守る風間。
霞ははむはむと特製おむすびを食べる。
因みに何故おむすびかと言うと、強化装備のまま食堂へ突撃してドカ喰いする気満々の武ちゃんを見て、おばちゃんが気を利かせてくれたのだ。
どうせ武ちゃんが早食いして霞が大変だろうからと、最初から持っていけるおむすびを握ってくれた。
流石おばちゃんと言わざるを得ない。
因みに、緊急時でもないのに強化装備姿で食事をする武ちゃんが目立ったのは言うまでもない。
「神宮司大尉、どうします…?」
「はぁ…仕方ない、少佐の指示もあると言う事だから午後はシミュレーター訓練だ。涼宮中尉、すまないが空いているシミュレーターデッキに予約を…」
「あ、それならもうやってます」
伊隅がついついまりもに判断を委ね、まりもはまりもで頭を軽く押さえながら許可する。
午後はシミュレーターの予定ではなかったので、今から空いている場所あるだろうかと思いつつ遙に頼もうとすると、武が入り口を指差した。
そこには、霞専用テスタメントが、壁の通信端末にプラグを差し込んで何やらやっている。
『B7デッキ・優先予約イレマシタ』
「だそうです」
通信回線からシステムに入って予約を入れたらしい。
これハッキングじゃ…と思うが誰も言えない。
上位テスタメント、その能力は不必要に高かったりする。
「それでは、全員着替えてB7デッキに集合だ」
まりもがもう何も言うまいと、全員を移動させる。
「あ、タケル、ご飯粒付いてるよ」
「え?どこだ?」
「違う違う、ここ。ほら、そそっかしいなぁタケルは。あむ」
「っ!?」×7
楽しそうに移動を始める武ちゃん、その口元のお弁当。
それに気付いている面々がいつ指摘したものか、出来れば取ってあげて…なんてまりもを筆頭にした数名が考えていると、美琴がサラリと指摘。
そして場所が分からずに見当違いな場所を指で拭うと、美琴は笑いながら指先でご飯粒を取ると、そのまま口へ。
その光景に、それを狙っていた面々が驚愕する。
場の空気をスルーして、自然にこんな事が出来るのは、美琴と居ないけど純夏位だろう。
出遅れた面々は悔しそうに、そして羨ましそうに。
一人勝者の美琴はルンルンと足取り軽く。
そして、お弁当をパクリなんて何度もやっている霞は、特に気にせずに。
「ねぇ泉美ちゃん、夕食にご飯物食べない? 口元に付いちゃう位大盛りで。私が舌で直接取ってあげるから~」
「嫌よっ!?」
そして自重しない女はやっぱり自重しなかった。
2001年10月12日――――
「なるほど、つまり長時間の連続使用が出来ないのだな…」
「そうですね、俺の機体とかだと掌から接触式で通電して充電されますけど、現行機だと手腕を改造しないとなんで、担架充電方式になってます」
次の日の早朝、武は執務室に顔を出した伊隅と一緒に基地地上部を歩いていた。
武とまりもの部隊配属に伴い、伊隅のデスクも武達の執務室に移された。
朝食の前に、昨日のシミュレーションのログを回収に来た伊隅と一緒に食堂を目指して居る武ちゃん。
昨日のシミュレーションでの、01式高周波近接戦闘長刀での疑問点などを話し合っていた。
昨日は結局、MVBの切れ味に殆どの隊員が興奮して、細部まで説明出来なかったのだ。
1番興奮していたのが武ちゃんと水月なのは言うまでもない。
冥夜? 彼女は感動していたので別です。
これこそ刀だとばかりに。
「01式高周波…長いんでMVBって略しますけど、MVB本体から伸びるレールがありますよね?」
「あぁ、峰の半分位を固定しているレールだな、ブレードの交換時の誘導レールかブレード固定用のパーツかと思っていたが…」
「あのレールの外側、担架に固定する部分が通電部になってるんですよ。そしてMVB用担架の真ん中に戻すと自動で充電されます」
同じ大尉だが武の方が後任という事もあり、武は敬語(かどうかは怪しいが)、伊隅は他の隊員に対する口調と同じだ。
武が説明しているのはMVBの充電方式。
昨日の陽燕や舞風の担架に装備されていた、MVB用担架。
これは今までの担架と交換か、アタッチメントで担架にMVB用担架を固定し、機能させている。
長刀用の担架などと違い、火薬式ノッカーなどを搭載していない。
その代りに、MVB本体への充電機能と、交換用ブレードを左右に二枚固定しておける。
中央に本体込みのブレード、その左右には交換用ブレードという配置。
左右の部分はブレードを固定してあるだけなので、充電機能は無い、と言うか交換用ブレードを挟んであるだけなので、そこに戻すことは無い。
MVB本体はバッテリー駆動、常時連続使用でも約2時間の使用が可能。
充電を含めれば、本体のエネルギーが尽きない限り使用可能。
この担架充電タイプは、現行機に配備する為の方式。
最初はコード接続での使用を考えられていたが、それだとコードが切れた際に使えなくなってしまう。
ならば陽燕などの次世代機での、掌からの接触充電方式ではどうだと案が出たが、新しく造る機体ならまだしも、現行機を改造するのは時間とお金が掛かる。
と言う事で、バッテリー充電式となった。
因みに、MVB本体にジェネレーターを搭載しての使用も考えられたが、大型化して斬艦刀のようになったので却下された。
こんなの一般衛士が使えないだろうというツッコミで。
使うにも機体を改造しないとなので(特に手腕)、現在お蔵入りだ。
因みに造った人は10分だけいじけていた、イーニァの髪をお団子ヘアーにしながら。
無論、唯依姫にハリセンで叩かれた、誰とは言わないが。
因みに陽燕が使用しているMVBは、次世代兼用で柄からも充電出来るタイプだ。
「癖は強そうだが、突撃級や要撃級、要塞級の外殻を切り裂けるのはありがたいな」
今までのスーパーカーボン製の長刀では、突撃級の外殻は切れても、刃がダメになるのが早くて結局柔らかい部分を狙うしかなかった。
だがMVBならほぼ気にせず切りまくれる。
とは言え、流石に要塞級の衝角は不味いが。
分泌される強酸性溶解液が不味い、流石に溶ける。
「A-01で実験配備と実戦試験、それと並行して帝国軍でも1部隊に配備して実験するそうですよ」
「そうか、早くこれが広がれば、それだけ心強くなるな」
とは言え、近接戦闘を好む国に限定されるだろう。
「あと、手腕CWS用のが―――――あれ?」
ふと、庭に面した廊下を歩いていたら、外に見知った人影を見つけた武。
伊隅がなんだ? とそちらを見れば、そこには霞とイーニァ、それにテスタメントの姿。
二人と一体は、それぞれ霞・テスタメント・イーニァの順に並んでいる。
何をしているのだろうと、二人が近くにある非常出入り口から外へ出ると、突然イーニァが背筋を伸ばした。
「きゅっきゅっきゅっDEにゃーたいそー!」
「……体操ー」
『ハジマルヨ』
「「は?」」
突然イーニァが宣言し、霞がワンテンポ遅れて続き。
テスタメントが電子音声で話したかと思えば、突然そのテスタメントのスピーカーからのどかな感じの音楽が流れ始める。
――――きゅっきゅっきゅっ、ニャー――――
というSEに合わせて、両手を広げて腰を左右に振りきゅっきゅっきゅっ。
そしてニャーに合わせて両手を挙げて。
そんな、意味不明な体操(?)を始める二人と一体。
「きゅっきゅっきゅっ」
「…にゃー」
しかもイーニァがきゅっきゅっきゅっと口ずさみ、霞がにゃーと言っている。
どこからか霞はウサギだろうとツッコミが来そうだが、これはこれでOKな気がする。
音楽とSEに合わせて楽しそうに体操(?)する二人。
でも1番凄いのは二人に合わせて動くテスタメントだと思われる。
「な、何をしているんだ二人は…って、白銀、どうした白銀っ?」
唖然としつつも、目の前の光景に言い表せない感情を抱く伊隅。
ふと気付くと、武ちゃんが口元を押さえて震えている。
どうしたのかと思って覗き込めば、ポタポタと流れる赤い液体。
「のぉぉぉぉ……な、中々強烈な光景だぜ…!」
鼻血流していた。
萌えというベクトルでの攻撃に弱いらしい武ちゃん。
ほのぼの愛らしい光景に、鼻の粘膜が負けた、もしくは鼻の血管が天元突破。
そんな武ちゃんに何をやっているんだと呆れ顔の伊隅大尉と、悶える武ちゃん。
そんな二人を気にせずに、体操(?)を続ける二人と一体。
武ちゃん達は知らない、最近の二人の朝の日課がこの体操(?)であり、その光景に女性は和み、男性は悶えている事を。
「ふ、ふふふ……最高よ、イーニァたん、霞たん……」
建物の影で、鼻血の池を作り倒れている上沼が居たりするが、別にどこもおかしくは無かった。