2001年9月30日――――――――――
残暑が弱まり、秋の風が廃墟を駆け回るこの日。
開発区画演習場には、5機の戦術機が距離を置いて鎮座していた。
片方は、ジャール試験部隊のSu-37M2、それが4機。
もう片方は、イーニァ・クリスカのペアが搭乗する雪風・壱号機。
通常機体のジャール試験部隊とは対照的に、雪風には見覚えのない妙な武装が肩部CWSに装着されていた。
「イーニァ、システムの方は大丈夫?」
「うん、センサーもはんのうしてる、だいじょうぶ」
本日予定されていた模擬戦闘、その内容は横浜基地代表開発部隊、ワルキューレ隊VSジャール試験部隊。
数日から数週間の間で、横浜基地が予定した部隊と試験部隊が模擬戦闘を行い、XM3の慣熟や装備・武装の評価などを行うこのプログラム。
基本的に試験部隊はエントリーさせる機体の数を1機から最大4機まで選べる。
機体を改造していたり、修理中だったりした場合の処置だが、相手部隊の数はお互いに相談して決めている。
2対4や、3対3などの変則的な模擬戦闘もお互いの話し合いで行われる。
当然、模擬戦闘が無理な場合は棄権として処理される。
だが、流石に今回の模擬戦闘はおかしかった。
ジャール試験部隊はフルの4機、対するワルキューレ隊はイーニァとクリスカの雪風のみ。
普通に考えればジャール試験部隊を馬鹿にしているように思えるが、これは確りと代表同士の話合いの結果だ。
「テンタクルアームユニット…使いこなせそう?」
「だいじょうぶ、テストでもチョビにかったよ」
不安げなクリスカの言葉に、振り向いて笑顔を見せるイーニァ。
彼女のヘッドセットに、クリスカとは異なる部分があった。
カチューシャのように頭に取り付けられたそれは、まるで猫耳のような形をしている。
見た目はアレだが、これは確りと意味がある装備なのだ。
デザインが大和なので、唯依は疑いの視線を向けていたが。
「クリスカはだいじょうぶ? まだ……こわいんだよね?」
「―――……っ、イーニァには勝てないわね…」
自身の不安と恐怖を知られていたことに少し驚き、苦笑するクリスカ。
イーニァの言うとおり、クリスカは怯えていた。
言い様の無い不安、あの時感じた絶望と恐怖、そしてここ最近胸の中で渦巻く今まで感じた事のない感情。
それらが混ざり混ざって、クリスカは調子を落としていた。
「ムリなら、まだまにあうよ…? ヤマトにいう…?」
「いいえ、大丈夫よイーニァ。少佐にこれ以上心配を掛けたくないの。大丈夫、私はイーニァと居れば誰にも負けないから」
そう言ってイーニァに微笑むクリスカだが、イーニァの表情は晴れない。
今回の模擬戦闘、やはり反対する人間も多かった。
唯依は無茶だと大和に抗議し、タリサは自分も参加したいとお願い。
ステラだけは理由を知っているからか、何も言わなかった。
確かに雪風壱号機の強さと、二人の腕前は関係者全員が知っているが、相手はSu-37M2を有するジャール試験部隊。
全員が凄腕の衛士であり、練度の高さは参加部隊随一。
XM3での操作も、ほぼ全員がトップクラスの成長度という強敵だ。
対するイーニァとクリスカは、ここ最近調子を落としている。
しかも、1対4の状況で新型のCWSユニットの模擬戦闘テストまで。
既に評価試験を終えた装備とはいえ、衛士が慣れていない装備での模擬戦闘は危険要素にしか成らないと唯依は主張した。
だがそれでも大和は決定を変えなかった。
ただ、クリスカが無理だと判断したなら、全員参加の4対4に変更と言った。
その際は、あれこれと変更した詫びとしてジャール試験部隊に装備を幾つか無償で提供する事になるとステラ。
それを聞いて、クリスカが無理と言える訳もなく。
唯依やタリサの説得(タリサは半分喧嘩売っていたが)も虚しく、模擬戦闘が始まろうとしていた。
「獅子は子を谷に突き落とす…だったか。あの男、喰えぬだけではなかったようだな」
Su-37M2の中で、静かに模擬戦闘の開始を待つラトロワ。
一昨日、通信をしてきたのは大和本人。
彼から今日の事を伝えられた時はふざけているのかと思ったものだが、理解した。
強引で無謀で馬鹿な考えだが、それと同時に面白いと。
ターシャ達は馬鹿にしていると憤慨していたが、無茶なお願いという事で新型武装を幾つか貸して貰えた。
そして、勝てばその装備のデータをそのまま譲るとも。
「全員、相手が態々貸してくれた装備の確認は終わったな?」
『『『はい!』』』
ラトロワの言葉に、3人が返事をする。
彼女達の機体には、先行量産が決定した武装や、候補に入っていた装備があった。
「相手はその豊富な火器が自慢のお嬢様だが、恐れる事は無い。我々の戦い方を見せてやれ!」
『『『了解!』』』
部下を鼓舞し、悠然と演習場の中で機体を立ち上がらせるラトロワ。
彼女の機体が手にするのは、197mm口径大型ショットガン。
信頼性を重視してポンプアクションによって装填するタイプで、装弾数は5発と少ない。
だが、専用のスピードローダーと一発の威力においては、近距離射撃武装では最強を誇る。
弾丸の種類にもよるが、面での破壊力では圧倒的だ。
さらに、ターシャの機体が持つのは、グレネードを発射するランチャー、しかもリボルバータイプをモデルにした自動擲弾発射器。
装弾数が29発、これもスピードローダーで一気に装弾できるようになっている。
とは言え大型なので、補給時に装弾するしか無いのだが。
CWSのランチャーと異なり小型だが、直撃すれば戦術機は簡単に吹き飛ぶような武装だ。
他の二機も、凶悪そうな装備を持っている。
「あえて敵を強大にするか…甘い男かと思えば……本当に喰えない男だ」
鋭い眼差しと共にセンサーに映る演習場、その先に居るであろう機体を睨むラトロワ。
悪役として仕立てられたからには、精々凶悪な敵を演じさせて貰おうじゃないかと、彼女はやる気満々だった。
「少佐…やはり今回の模擬戦闘は無茶です!」
「無茶は承知だ。だがこれは必要な事だ」
管制塔から模擬戦闘を見守る大和達だが、唯依が未だに模擬戦の内容を変えるように懇願していた。
唯依とてクリスカ達の実力は知っている、だがここ最近思い悩み、集中力に欠けるクリスカでは不安が大きい。
何より、相手は開発参加国で間違いなく最強のジャール試験部隊。
その上相手には、自分達がテストして性能と威力をよく理解している武装が多数提供されている。
彼女達なら説明と少しの練習で使いこなし始めるだろう。
これでは公開処刑と変わらないと唯依は大和に詰め寄ろうとするが、ステラに止められてしまう。
「ブレーメル少尉、何故止める!?」
「中尉、よく見て下さい」
ステラに言われ、彼女がそっと指差す先を見る唯依。
それは、大和が腕組みをしている、その腕。
通常なら脇の下に入れる筈の右手で、左手の二の腕を掴んでいる。
着ている制服に皺がでるような握力で、ギリギリと腕を握っているのだ。
何かを堪えるように。
「少佐もまた、皆と同じ思いです。でも、これはこの先を考えるとどうしても必要なこと…中尉なら分かりますよね?」
「……そう…だな…すまない、少し冷静を欠いていた…」
嗜めてくれたステラに礼を言いながら、チラリと大和を見る唯依。
大和はずっと、演習場が映るモニターを見つめていた。
無表情に見えるその表情は、不安や心配を隠しているのだろう。
唯依も、二人がこのままなら危ないと思っている。
今回の模擬戦闘で二人が立ち直れるのなら、唯依とて文句は無い。
ステラが呟いた、大きな賭けという言葉が、唯依を不安にさせていた。
「間も無く模擬戦闘開始時間です」
情報官の言葉に、双方の代表、ジャール試験部隊側は代表者がラトロワなので、通信で告げて承諾を得ているので大和が頷くのを確認してカウントダウンに入る。
その言葉を通信で聞きながら、クリスカは集中力を保とうと必死になっていた。
『3…2…1…状況開始!』
通信から聞こえたその言葉と同時に、クリスカは雪風を発進させる。
ジャール試験部隊側も、連携を取りながら廃墟を進み始める。
お互い距離がある為、最初は相手の位置を確認するまで慎重な行動になる。
仲間が居るジャール試験部隊と違い、単独戦闘となるイーニァとクリスカへ掛かるプレッシャーは重い。
「クリスカ、だいじょうぶ…?」
「大丈夫、大丈夫よイーニァ…」
同乗するイーニァからもクリスカの操縦が鈍いと理解出来る。
イーニァからの言葉に答えるよりも、自分に言い聞かせるように呟くクリスカ。
やがて、センサーに敵影が掛かった。
「っ、クリスカ!」
「ええっ!」
イーニァの言葉に廃墟の間を高速で移動させてるクリスカ。
両手に持った突撃砲が咆哮するが、相手は直に廃墟を楯に隠れてしまう。
すると、白い尾を引いて山形に砲弾が飛んでくるではないか。
「グレネード!」
「くっ!」
イーニァの言葉に、咄嗟に機体を下げて安全な場所まで下がるクリスカ。
独特の軌道で襲ってくるのは、グレネードランチャーによる攻撃だ。
「このっ!」
突撃砲で迎撃し、空中で爆発させながら場所を移動する雪風。
その時、レーダーに機影が入りこみ、クリスカは咄嗟に機体を急停止させて反転させる。
雪風が通過しようとした場所に、散弾が通過して廃墟を面で染め上げた。
『ほう、判断力は悪くないな…』
外部スピーカーから聞こえるのは、ラトロワの声だ。
彼女はガシャコンとショットガンをポンプアクションさせて次弾を装填する。
もし実弾だったら、命中したビルには無数の穴が空くか、広い範囲の穴が空いていたかのどちらか。
弾丸にもよるが、どちらにせよ威力は恐ろしい。
元々は小型種を一掃する為の武装だが、使い方次第で大型種も仕留められる武装。
その銃口が、雪風を狙う。
「く…っ!」
「クリスカ、うしろも!」
イーニァが慌てて両肩のCWSを操作し、背面側の突撃砲で牽制する。
現在雪風に装備されている肩部CWSは、片側4個の突撃砲で構成され、それらは可動兵装担架システムのようなアームパーツで肩部基部と接続されている。
普段は担架のように突撃砲を装着している状態だが、CWS操作によって前後左右に突撃砲を向けて攻撃できる。
形状の問題で肩部可動兵装担架システムを一つ潰す事になるが、片側4、両側で8箇所突撃砲を装備できるので問題は無かった。
肩部前に一つ、肩部真横に二つ並んで、そして肩部背後に最後の一つが、肩部をコの時に覆うように装備されている。
アームをそれぞれ可動させて背後や横に撃つ事もできるし、基部で回転させて全ての突撃砲を前や後ろに向ける事も可能。
強襲掃討向けに開発された武装で、両手と担架合わせて最大で12個もの突撃砲を装備可能という馬鹿げた装備。
蛸脚という愛称からテンタクルアームと名付けられたそれによって、敵を近づけないイーニァ。
本来なら衛士が補助システムの助けを借りて運用する武装だが、複座故の芸当としてイーニァがコントロールしている。
因みにシステム構築は夕呼と霞が製作、演算は純夏。
『ふん、中々やるが…衛士同士の連携がなっていないな』
廃墟から半身を出したラトロワの機体が持つショットガンが咆哮し、慌てて避ける雪風。
その際に、肩部の突撃砲の狙いが外れて見当違いな場所をペイント弾で染めてしまう。
「っ、ごめんなさいイーニァ…」
「だいじょうぶ、おちついてクリスカ!」
焦るクリスカと、絶え間無く襲い掛かってくるジャール試験部隊。
お互い有効打は無いが、徐々に追い込まれているのは間違いなくクリスカ達だ。
このままでは、何れ押し負ける。
「私は、私はまた負けるのか…また惨めな姿を晒すのか…!」
「クリスカ…!」
かつての敗戦を思い出し、震えるクリスカ。
イーニァは何とか彼女を立ち直らせようと思うが、敵の攻撃がそれを許さない。
『どうした、あの時の言葉は嘘か。やはり貴様は人形のままか!』
その機動性で距離を詰めてくるラトロワのSu-37M2。
咆哮し、リロードされる散弾が徐々に雪風を追い詰めていく。
「っ、しま――っ!?」
判断が送れ、廃墟に囲まれて逃げ場がない雪風。
『―――っ、ち、弾切れか…』
だが、雪風を狙っていた銃口が咆哮する事は無かった。
ショットガンの弾数は5発、それを撃ちつくしたのだ。
「クリスカうごいて!」
ラトロワが一瞬だけ動きを止めた瞬間、イーニァが両足のCWSから小型ミサイルを放って牽制する。
『ちっ、仕掛けの多い!』
可動兵装担架システムを展開し、突撃砲でミサイルを迎撃しながら後退するSu-37M2。
その隙を付いて、一端距離を取る雪風。
『逃がしたか…まぁいい、全機被害を確認し、追撃に入るぞ』
カートリッジ式スピードローダーで弾丸を補充し、空になったカートリッジを捨てるSu-37M2。
装弾数の問題で弾数がゼロにならないと警告されないシステムを見て、ラトロワは後で文句を言っておこうと思うのだった。
「せめて残り一発で警告して貰わねばな…」
呟いて、雪風が逃げた方向へ部隊を動かすラトロワ。
未だジャール試験部隊は狩る側だった。
「クリスカ、だいじょうぶ…?」
「ごめんなさい、イーニァ…ごめんなさい…」
心配そうに振り返るイーニァに、ただ謝るしか出来ないクリスカ。
彼女は今、情けない自分に嘆いていた。
何が紅の姉妹だ、何が高速近接戦闘の凄腕衛士だ、今の姿は初めての実戦で怯える新米ではないか。
そう自分を叱咤するが、彼女の心は晴れない。
『どうした“紅の姉妹”、それが貴様達の全力か!』
そこへ、外部スピーカーで呼びかけるように話すラトロワの声。
普通の模擬戦闘なら位置を特定される為、滅多にやらないような事をしている。
それは普通に考えれば、馬鹿にされているに他ならない。
『やはり貴様等は変っていない、あの頃と同じ、連中のお人形だった頃と同じだ!』
「く………っ!」
「クリスカ…」
侮蔑の言葉に悔しさを滲ませるクリスカと、不安げなイーニァ。
『これでは貴様等に期待しているクロガネ少佐が不憫でならないな。いや、本当に不憫なのはそんな少佐に期待されている貴様等か?』
そう言って鼻で笑うラトロワに、怒りを堪えきれなくなるクリスカ。
「ばかにするな……少佐を馬鹿にするなぁぁぁっ!!」
「クリスカっ、ダメっ!?」
思わず機体を飛び上がらせ、両手の突撃砲を乱射するクリスカ。
そのペイント弾を避けながら接近してくるSu-37M2、ラトロワの機体。
『図星を突かれてお怒りかなお嬢さん!』
「黙れっ、少佐を馬鹿にする事は絶対に許さん!」
廃墟を楯に、突撃砲とショットガンの応酬。
弾数で言えば突撃砲の方が上だが、面での攻撃力は圧倒的にショットガンが上だ。
一度咆哮すれば、広範囲にペイント弾をばら撒いて染め上げる。
雪風が現在両足のCWSに装備しているのは、通称ファストパックと呼ばれる追加武装。
スラスターと小型ミサイルか中型ミサイルが搭載された武装で、機動力と火力を両立させた武装。
そのスラスターを吹かせ、水平に横移動しながら突撃砲を撃つ雪風と、それと同じ事を噴射跳躍ユニットと機体スラスターで再現して撃ち合うSu-37M2。
『ならば、無様な姿を晒すな!』
弾切れになったショットガンを投げ捨てて近接戦闘を仕掛けるラトロワ。
Su-37M2が、その特徴とも言えるモーターブレードを展開したのを見て、咄嗟に太股のCWSである前後回転式スラスター、その先端に装備された短刀を取り出して逆手に構える。
モーターブレードと激突したカーボンブレードが火花を上げる。
『貴様達が人形でないと言うのなら、貴様だけの意思と信念を見せてみろ。出来ないのなら、貴様は何も守れない、仲間も家族も、そして大切な人間もな!』
モーターブレードの掘削にカーボンブレードが負けて圧し折られる。
模擬戦闘用とはいえ、高速回転するブレードに触れれば抉られてしまう。
「ぐぅ…っ、私は…私は…!」
「クリスカ……だいじょうぶ、わたしががんばるから…!」
何も言い返せないクリスカを見て、イーニァが何かを操作すると、クリスカ側から機体制御の優先権が奪われた。
「イーニァ!?」
「クリスカはすこしやすんでていいよ、わたしががんばるから…こんどは、わたしがまもるから…!」
そう言って機体を必死に動かして追いついてきた他の機体からの攻撃を避けるイーニァ。
「あのときからずっと、ずっとまもってもらってた…でも、わたしもたたかえる、わたしだってクリスカやカスミを…ヤマトをまもれる!」
複座での運用が前提となっている雪風、土壇場でシステムを切り替えただけでは上手く動かす事が出来ない。
CWS補助システムが複座用のままで切り替わっていないので、反撃も儘ならない。
「イーニァ……」
ずっと守らないと、自分が頑張らないと、そう思ってきたクリスカ。
だが今はどうだ、イーニァは情けない自分を守ろうと一人必死に戦っている。
それなのに自分は、訳の分からない感情と、戦う理由を見失って情けない姿を晒している。
ラトロワ少佐の言う通りだった、かつての自分は人形。
植え付けられた愛国心と祖国を救うという与えられた理由。
それが否定された結果、自分には何も無いのだと理解してしまった。
同じ人形だったイーニァは、霞という存在を得て、一人で歩き始めた。
今は、大和や唯依という理解者を得て、走り始めている。
ならば自分は、彼女を守ると誓った自分はいつまで立ち止まっているのか。
「私は……何の為に………」
言われてからずっと考えていた、自分の戦う意味。
自分が、心から信じられる理由。
自分が胸を張って、誇りを持って言える、理由を。
『クリスカ』
「……っ、少佐…!?」
突然秘匿回線でクリスカにだけ聞こえる大和の声。
相手の指揮官が参加している為、通信は許可されているが、このタイミングで通信を繋いでくるとは思わなかった。
『クリスカ、迷っているのか?』
「……はい…」
大和の言葉に、情けなく思って項垂れてしまうクリスカ。
イーニァはクリスカの様子を気にしているが、今はジャール試験部隊から逃げるのが先だと逃げに専念する。
元々700km/hという速度で長距離噴射が可能な不知火を元にした雪風。
全身のスラスターを噴射すれば、Su-37M2と言えど追いつけない。
が、場所が狭い演習場故に、逃げ切るのは無理だ。
『 なら、無責任かもしれないが、これだけ言わせてくれ。
自分を信じろ。
君が信じる俺ではない。
俺が信じる君でもない。
君が信じる、自分を信じろ。 』
「しょう…さ…(私が信じる…私? 少佐が信じてる私でもなく、私が信じている少佐でもなく…?)」
突然の言葉に戸惑うクリスカだが、大和は続けて言葉を紡いだ。
『戦う理由なんて人それぞれだ、そうと信じる理由がやがて信念という芽を息吹かせ、やがて決して折れない巨木となる。
人の戦う理由なんて最初は植物の種と一緒だ。その種を、自分と言う土で育てる事が強くなるという事。
その人の土に収まらない理想や理由を植えても、根付く前に倒れるか枯れるだけだ。
だからこそ、人は自分で理由という種を植え、信念という巨木に育てる。
理由なき強さは、ただの暴力でしかなく、誰かが植えた大き過ぎる理想は脆く崩れ易い 』
その言葉を聞いて、ふと自分もそうだったと思うクリスカ。
自分は、自分と言う土が無かった、いや、在ったのにそれ以上の理由や愛国心を植え付けられた。
土台の確りしていない上に、大き過ぎるそれは、ソ連の兵士に言われた言葉という風に呆気なく崩れ落ちた。
「少佐……わた、私にも在るのですか…育てる為の土は…!」
そのクリスカの言葉は。
『在るに決まっているだろう。クリスカ。君には確りと在るんだ…理由も、想いも、力も、そして…共に育てる仲間も……そうだろう?』
「――――――ッ、は…い、はい…っ!」
『それでもまだ不安なら…頼って良いんだ。人は一人では進み続けられない生き物なんだ。君は君が思うままに生きれば良い、その手助けは俺達がする。そしていつか君が迷う誰かを見たなら、同じように手を差し出せば良い。少なくとも、俺はそう思っている』
「はい…はい、少佐…!」
そっと微笑む大和の、その優しい言葉に思わず涙が溢れるクリスカ。
――――あぁ、やっと分かった…これが、この感情が……私の大切なモノ…――――
胸の中で渦巻き、自分と言う存在を不安にさせていた感情。
ソレが何であるか理解したクリスカは、今までの不安や恐怖、渦巻いた気持ちの悪さが嘘のように消えていくのを感じた。
「(そうか…私はただ怯えていただけなんだ……自分の中の感情に、少佐に対する想いに…)」
そっと胸に手を当てて、ゆっくりと深呼吸をする。
――――今やっと分かった…私は、彼の笑顔が見たい…彼らが笑う景色が好きだ…私が戦う理由は、小さくて簡単なモノだ…だが、私の想いだ!――――
「あぁ、中尉の言う通りだった…こんな簡単で、単純な事だったんだな…」
「でも、タイセツな、とってもタイセツなモノだよね、クリスカ…」
能力で読み取ったのか、それとも感じたのか。
振り返って笑顔を見せるイーニァに、クリスカも笑顔を見せた。
それは、今までイーニァでも見た事が無い、綺麗で純粋な笑み。
「イーニァ、コントロールを戻して」
「クリスカ…」
「もう大丈夫。私は、私を手に入れたから」
「―――っ、うん!」
クリスカの言葉に頷いてコントロールを戻すイーニァ。
その頃、クリスカの様子に大丈夫だと判断した大和は通信を切って、頭を抱えて蹲っていた。
「しょ、少佐…?」
「ぬぉぉぉぉぉぉッ、真面目にやるネタがこれほど恥ずかしいとは……兄貴、俺を殴ってくれ!」
「いや、誰ですか兄貴って…」
悶えていた。
どうやら真面目な顔して臭い台詞言い続けた為に、羞恥心が限界突破。
厚顔なように思える大和も、羞恥心は持っているようだ。
ただ人と恥ずかしいと感じる感性が異なるようだが。
「素敵な言葉でしたよ少佐」
「流石少佐、タメになる言葉だったぜ!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉッ、止めてくれぇぇぇ……ッ!」
ステラとタリサに弄られて悶える大和、とっても珍しい光景だった。
「少佐、まだ模擬戦闘は続いているのですから確りして下さい」
「うぅ、またシゲさん達に噂される……」
少佐がとっても臭い台詞で美人を励ましたとか何とか。
かなり交友関係が広いシゲさん、先ほどの言葉もその内に知られているだろう。
「あの言葉、少佐の考えた言葉ですか?」
「前半は偉大な兄貴、後半は………祖父だ」
そう言った大和の表情は、どこか拗ねた少年に見えて、唯依は思わず頬を赤くしてしまった。
そんな妙な雰囲気の管制塔と違い、緊迫感漂う演習場。
『少佐、前方に敵影の反応が』
ジャール3からの通信に、警戒するラトロワ。
「ジャール3、ジャール4は迂回して背後に回れ。今度こそ仕留めるぞ」
了解を告げて動き始める二機。
ラトロワとターシャがそのまま進もうとすると、ジャール3と4が接敵した。
「攻めに転じた…? ふん、クロガネ少佐が何かしたかな…」
微笑を浮かべてジャール3と4の元へ向うラトロワ達。
その頃ジャール3と4は戸惑っていた。
『こいつ…!』
『動きが変った…!?』
最初とはうって変わって機敏な動きで動き回り、こちらを翻弄してくる雪風。
『この!』
ジャール4が、機体の脚に括りつけてあった棍棒のような武器を手にした。
そしてそれの丸い物体の方を向けて投げつける。
すると丸い物体と棒の付根からロケット噴射して目標へ飛んでいくではないか。
『シュツルムファウストか…!』
クリスカが舌打ちしつつも大きく回避行動を取る。
その理由は、着弾したシュツルムファイストの爆発を再現したペイント液の炸裂の仕方。
先日のバズーカほどでは無いが、グレネードより大規模な爆発範囲を描いていた。
『それのテストをしたのは私だぞ!』
故に弱点は知っている。
それは安価で使いやすく大威力で使い捨てだが、命中率が悪い事。
故に、BETA戦闘では先頭集団に向けて投げて飛ばして爆発させるのが主戦法だ。
乱戦になると味方を巻き込みかねないし、割と邪魔なので最初に使う事が推奨される、使い捨てだし。
もう一発のシュツルムファイストを回避しながら接近し、両手の突撃砲で逃げる間もなくペイント弾で染め上げる。
『速い…!?』
『ならこれはどうよ!?』
そう叫びながら残ったジャール3の機体が振り上げたのは、円盤状のパーツがワイヤーで繋がった妙な武装。
『チェーンマインっ、クリスカ!』
『えぇっ!』
その武装が何か悟ったイーニァとクリスカは、弾切れとなった突撃砲を捨てて肩部担架に装備してあった長刀を手にすると、振り回されたチェーンマインに先端を引っ掛ける。
対象に巻きつけて爆破する武器だが、扱いが難しい。
『ちょ、うそっ!?』
ジャール3が慌てるのは、チェーンマインの軌道を強引に曲げられた結果、自分の機体に巻き付いた為。
そして残った突撃砲でチェーンマインの地雷部分を撃つと、衝撃判定で爆発。
連鎖爆発を起こして一瞬でSu-37M2がペイント弾でまっ黄色。
元々要塞級などに投げつけて突撃砲で撃つ事で爆発させる事を念頭に置いた装備だったので、撃たれて爆発したのだ。
持つ部分にセーフティーと爆破ボタンがあるのだが、セーフティーを解除していたのだろう。
『少佐、二人が!』
「なるほど……それが本来の貴様達か…!」
焦るターシャの言葉に頷きながら、センサーに映る雪風を睨むラトロワ。
『もう私は迷わない、私は私の理由を見つけた…もう、誰の言葉にも惑わされない!』
『吼えるではないか。なら、その言葉、証明してみせろ!』
クリスカの宣言に、ラトロワが返す。
『そのつもりだ、行くわよイーニァ!』
『うんっ!』
次の瞬間、イーニァが装着していた猫耳のようなカチューシャ、その耳のような部分の先端が弧を画くように伸縮式のアームで伸びてイーニァの額の少し前にやってくる。
その伸びた先端にあるのは、眼球の動きを感知する高性能センサー。
それに連動して、肩のテンタクルアームユニットのロックが全て外される。
そして正に蛸の脚か蜘蛛の脚のように多関節で動くアームとその先に装備された突撃砲。
これこそが、テンタクルアームの本当の姿。
現在自動照準での補助システムを霞が構築中だが、イーニァとクリスカの場合は最低限で構わない。
クリスカが機体を動かし、火器管制をイーニァが受け持つ複座だからこそ可能な全アーム個別操作。
『くっ!』
『こんな…!』
8本のアームと突撃砲が個別に動いて的確に狙い撃ちしてくる現実に、舌打ちするラトロワと驚愕するターシャ。
さらに二人を驚かせるのは、その射撃の邪魔を一切していない機体の動き。
まるでお互いが何をするのか完全に理解しているようなその動きと攻撃に、攻守が逆転し始めていた。
一箇所に纏まっていたら集中砲火で倒されると判断して二手に分かれるジャール試験部隊。
後ろに回ったターシャだったが、機体はラトロワの方を見たままでアームだけが自分を狙ってきた。
『にがさないよ…』
イーニァの眼球が忙しなく動いて、八本のアームと突撃砲を常に動かす。
イーニァの視界にだけ投影された特殊な視界映像、それを注視する事でシステムが自動的にロックオン。
後は個別にアームを選択して発砲すればロックが外れない限りアームが追い続ける。
その上、他のCWSの火器もイーニァの支配下にある。
『これで…おわり!』
両足のファストパックに残った小型ミサイルを全弾発射して追い詰めたターシャのSu-37M2を撃破判定にする。
「ターシャ! ………これは、眠れる獅子を目覚めさせたか…」
苦笑を浮かべつつ、内心で大和に対して批難するラトロワ。
「我々を踏み台にさせるか…喰えん男め、いつか思い知らせてやろう…」
一対一の状態になり、撃ち合い続けるが弾数は雪風の方が圧倒的に上だ。
『ふん、良いだろう…その覚悟、見せて貰おう!』
モーターブレードを展開し、全力噴射で飛び出すラトロワ。
対する雪風もまた、腕のブレードを展開する。
高周波Sソード、模擬戦故に切れないが、共有されたダメージ判定のデータが確りと判定を行ってくれる。
まともに切りあえば、モーターブレードの方が負ける。
だがそこはジャール大隊の指揮官だったラトロワ、近接戦闘に持ち込んでも相手の反撃は受けないで避ける。
『どうした、この程度が貴様の覚悟か!』
自分を狙うテンタクルアームをモーターブレードで弾きながら雪風の高周波Sブレードを避ける。
時々当たるが、装甲が切られた程度のダメージしか与えられない。
『私は…私はもう人形ではない…っ、イーニァやカスミ、そして少佐達が居るこの場所が、ここが私の守る場所!』
気合一閃、ラトロワ自身避けたと思った一撃が、Su-37M2の左腕を切り裂いていた。
『ぐっ!』
左腕が大破判定で動かなくなるが、それでも反撃の一撃を雪風に叩き込む。
だがその一撃は、左肩のテンタクルアームへと突っ込んだ。
いや、クリスカが機体を操作して突っ込ませたのだ、そして瞬時にCWSをパージする事で絡んだテンタクルアームを重りにして肉薄する。
『そして、イーニァ、カスミ、仲間、なにより少佐の笑顔を守る、それが私が戦う理由だっ!!』
アッパーの要領で突き上げられる右手、その腕に装着された高周波SソードがSu-37M2の胸部へと激突する。
そしてラトロワの視界に、胸部大破および衛士死亡により戦闘不能と表示された。
本物なら胸部装甲を切り裂いてラトロワも真っ二つだっただろう。
「………ふ、ふふふ、ふははははっ、それが貴様の得た理由か、クリスカ・ビャーチェノワ」
『そうだ、文句があるか、フィカーツィア・ラトロワ少佐』
堂々と返すクリスカに、もう笑うしかないラトロワ。
軍人としては個人を優先した理由だが、こうまで堂々と宣言されては彼女でも文句が言えない。
「はぁぁぁ……少尉がどこかの誰かさんのように…」
「な、何故俺を見るんだ中尉?」
クリスカの宣言に、思わず頭を抱えて隣を見てしまう唯依。
誰かさんの影響を受けまくりなクリスカに頭を痛める唯依姫だった。
「ならば、精々貫くといい。何が在ってもな…」
『そのつもりだ。私はもう迷わない、そして怯まない。この想いと共に進む、それだけだ』
例え誰かを失ったとしても、それでもこの想いを貫いて最後まで生きる。
それが、クリスカの決意。
『そうだねクリスカ、いっしょにすすもう』
『えぇ、イーニァ、一緒に、彼と共に…』
通信で何やら分かり合った会話をする紅の姉妹に苦笑を浮べて見守るラトロワ。
やがて管制塔から指示が来て、それぞれ機体を所定の場所へと移動させる。
「少佐、申し訳在りませんでした」
揃って頭を下げるターシャ達だが、ラトロワは特に何も言わずに彼女達の頭を撫でた。
「しょ、少佐?」
「謝る暇があるなら強くなりなさい。私もお前たちも、まだまだ進めるのだから」
そう言って微笑むラトロワに戸惑いつつ頷くターシャ達。
歩き出したラトロワは、澄み渡った青空を見上げて、一人苦笑する。
「私も感化されたかな…」
その呟きは、青空へ吸い込まれるように消えていった。
総合格納庫――――
模擬戦闘を終えて戻ってきた雪風を出迎えたのは、横浜基地の整備兵達だった。
「二人とも良くやったぞ!」
「4対1で勝つなんて、流石少佐自慢の姉妹だな!」
「シェスチナ少尉こっち向いてー!」
「踏んで下さい」
4対1という不利な戦闘を勝利で飾った二人は、大和色に染まった整備兵達から大歓声で迎えられた。
ソレに対して照れ臭そうなクリスカと、モジモジするイーニァ。
「最後の奴、後で倉庫の裏に来い。二人とも、ご苦労だったな」
そこへ、余計な事を言った奴に注意しつつ大和が現れた。
「少佐…」
「ヤマト!」
言葉に詰まるクリスカとは対照的に何時もの様に抱きつくイーニァ。
だが珍しい事に、数度頬を摺り寄せたら離れてしまった。
そして笑顔でクリスカを促す。
「少佐、今まで無様な姿をお見せして、申し訳ありません」
「いや、乗り越えられたなら何も文句は無い。もう大丈夫そうだな」
「はい」
大和の言葉に確りと頷いて見つめてくるクリスカ。
「少佐、図々しいかもしれませんが、一つお願いがあります」
「なんだ?」
クリスカのお願いという珍しい事態に、彼女も成長したのだろうと内心嬉しく思う大和。
「あ、少し目を瞑って欲しいのですが…」
「こうか?」
普段から控えめと言うかそういった我侭やお願いを言わないクリスカ、なので大和も素直に従ってから気付く。
あれ、このシチュエーションって有名なアレじゃね? と。
その事に気付いて目を開けようとした瞬間、唇が塞がれた。
「ん…っ」
「むぐ!?」
「いいなぁ…」
『おお~~~~~~~~~~!!!!』×その場の全員、約70人
唇を塞がれたと同時に瞼が開いてそこにはドアップのクリスカ。
瞳は閉じられ、頬は赤くなっている。
「ん…あむ…」
「~~~~~~~!?」
「解説のシゲさん、あれはまさか!?」
「舌を入れられちゃったみたいだねこりゃ。あのお嬢ちゃんも大胆だなぁ、レースに変動在りと…」
何と舌を絡めてきたクリスカに、硬直して成すが儘の大和。
突然マイクを持ち出した若い整備兵と、解説者気取りのシゲさん。
一瞬とも永遠とも感じる時間が流れて、やがてクリスカから唇を離すと、透明な糸が伸びて切れた。
「少佐、私は笑顔の為に戦います、私に、私たちに心から笑うという事を教えて下さった貴方の為に。小さいけれど、私が決めた私だけの理由です」
そう言って微笑むクリスカ、その笑みは今まで見た事がない優しい笑み。
軍人としての理由には弱いかもしれない。
だが、大切な人の笑顔、仲間の笑顔を守る事が、やがて大きく範囲を広げ、国を、人類を守る事に繋がると考えれば、それもまた立派な理由だ。
「……………………(パクパク」
なのだが、今の大和に答える余裕は無かった。
突然の事態とキス→ディープキスのコンボに脳内真っ白。
ここ数回ほど、どのループでもキスすらご無沙汰だった大和には刺激が強かったようで。
「お前達、仕事に戻らないか!!」
「やべぇ風紀委員だ!」
「誰が風紀委員か!?」
そこへ現れた唯依姫が、ニヤニヤして見物している整備兵達を怒鳴って仕事に戻らせる。
シゲさんの一言に律儀にツッコムのはボケに対する条件反射だろう。
「シェスチナ少尉、何をしているんだ?」
「じゅんばんまち」
ちょこんとクリスカの後ろで待つイーニァ、クリスカはどこぞの人形のように口をパクパクし続ける大和を幸せそうに見つめている。
「まだ仕事が残っているのだから自重しなさい。ほらビャーチェノワ少尉も!」
「でもジチョウしたらまけだとおもうよ」
「しょ・う・い?」
「……はーい…」
拗ねた表情で危ない事を言うイーニァに、笑顔で一言ずつ言い聞かせる唯依。
笑顔なのに笑顔じゃない、そんなお顔です。
渋々仕事に戻るイーニァだが、クリスカは未だ大和を見つめている。
「ビャーチェノワ少尉、いつまで……少尉?」
見つめていると思ったクリスカを見て、首を傾げる唯依。
妙だと思ったのは、彼女の全身がプルプルと小刻みに振動している様子から。
「し、失礼しまひゅ!!」
「ちょ、少尉っ、速っ!?」
突然真っ赤になったかと思えば、何時ぞやの時のスピードで走り出すクリスカ。
「ちぃーす、WAWAWA忘れ物~、俺の帽子を――ぶべらっ!?」
斉藤君吹っ飛ばされたーーー!!
出入り口から入ってきた斉藤君、運悪くクリスカに轢かれました。
錐揉み回転して頭から落下しました。
「な、何故に…?」
生きているので大丈夫でしょう。
「…………少尉、我慢していたんだな…」
大勢のギャラリーの前でキス、恋心自覚したばかりのクリスカにとって大冒険だったのだろう。
唯依はそっと努力したクリスカに涙しつつ、まだフリーズ状態の大和に向き合う。
「少佐、突然の事で驚いたのは分かりますが、まだ仕事が在るんですよ? 少佐!?」
ガクガクと揺さ振ってみると、少しして大和が目を大きくパチパチさせる。
そしてプルプルと震え始めたかと思うと、突然走り出した。
「べ、別に気持ち良かったとか、甘かったとか、興奮したなんて事無いんだからなーーーーーーッ!!」
「少佐、誰に言ってるのですか、ちょっと少佐!?」
畜生、俺はこんなキャラじゃなーーーい! と叫びながら出て行く大和。
「危ないってばよ!?」
今度は回避した斉藤君。
「少佐……案外初心なんですね…」
「そうねぇ……ふふ、可愛い…」
「ブレーメル少尉!?」
呆れたように呟いた唯依の言葉に、答えたのは何やら熱っぽい視線を向けていたステラさん。
「あら、私ったら…ウフフフフ…」
突然の登場に驚く唯依だが、ステラは頬に手を当てて笑顔でフレームアウト。
「………最近、同僚が良く分からないな…」
一人残された唯依、日に日に濃くなる仲間のキャラクターに、最近押され気味です。