2001年9月5日―――
地上新設格納庫郡――――
唯依は、各部署から寄せられる報告書を片手に、急ピッチで準備が進められている新設された地上格納庫を歩く。
「参加国の機体に対応は可能か?」
「一応俺たちも国連軍ですからね、経験がある奴を引っ張ってきて担当に据えてあります。特に少佐の育てた連中は大抵の機体を弄れるから問題ないでしょう」
整備兵達が数日後には搬入される参加国の機体受け入れ準備の為、忙しく駆け回っている。
夕呼の発案で決定した国連戦術機先進技術開発計画がこの横浜基地で行われる事になり、その参加国の為の宿舎やPX、搬入される機体や開発用ハンガーなどの準備が進められている。
現在の参加国は、XM3発表と共に打診された段階で4国、現在は増えてアフリカ連合軍と中東連合、それに欧州連合が参加を表明した。
アメリカは現在場所が場所だけに保留、元々アラスカでも同じ事をしている手前、プライドが邪魔していると夕呼は笑った。
「住居地は基地の奥、関連する施設も近辺に配置か…」
「こうしないと、BETAに攻められたら危ないっすからねぇ。この場所なら、基地が落とされない限りは安全でしょう」
眼鏡の整備兵、皆からはシゲさんと呼ばれているベテラン整備兵の言葉に、苦笑を浮かべる唯依。
極東の最終防衛線であるこの基地が襲撃されるという事は、帝国軍と国連軍の各戦線が突破された事を示すのだから。
「研究棟の建設は順調なのか?」
「そっちは9割完成してるそうです、機材は殆ど参加国が持ってくるそうなんで、取り付けはその後っすね」
今回の大和に任された計画は、簡単に言ってしまえば遠まわしに技術提携やら教えてくれと言ってくる連中の為に、教えてやるから部隊と人員寄越せという物。
その為の研究棟や開発用ハンガーも準備してあるし、参加国の試験部隊にはXM3が提供される。
これだけ見ると、横浜基地、夕呼や大和は損しているように見えるが、そうでもない。
計画に参加する国からは最新鋭では無いが、そこそこ高い技術や機体が持ち込まれるし、彼らがXM3で結果を残せば導入に足踏みしている国も我先にと導入するだろう。
さらに、参加試験部隊には、有事の際の命令権を夕呼へ譲渡する事が決定している。
つまり、BETAの襲撃や、先のクーデター事件の時のような事態が発生した時、試験部隊も横浜基地所属部隊として運用されるのだ。
これはBETAに備えての意味と、もう一つ。
今後、米軍などの介入を防ぐ目的がある。
もしもまたクーデターや米軍介入が在ったとしても、今度は横浜基地には参加国の試験部隊が駐留しているのだ。
こうなると、横浜基地を襲撃する連中は、同時に計画参加国すら敵に回すという事になる。
横浜基地の戦力増強と共に、米国や他の国の介入を防ぐ。
その為に、XM3と技術を与えてやると言うのが、夕呼の考えだ。
当然、その技術は既に横浜基地で使用されている技術だが。
「企業スパイや、諜報機関の工作員対策はどうなっている?」
「参加国に衛士と整備兵は厳選しろと通達したらしいっすからね。もし紛れてたら国の信用問題に発展、今頃厳しいチェックしてるでしょうし、ウチにはアレが導入されましたからね」
そう言ってシゲさんが指差すのは、真新しい格納庫を走り回る、四本足の円盤。
1m程度の円盤に、四本の足が付いて、ローラーで走り回るのは、自重を止めた大和が生産させた無人作業ロボット。
「テスタメントか…大和の技術や設計は時々常識を無視するな…」
「全くでさぁ。あいつら、設計図の段階でほぼ完成してたんですぜ? 技術屋からして見れば夢みたいな話ですって」
走り回る青色のロボットを眺めて苦笑する唯依と、肩を竦めるシゲさん。
普通、設計図が在るから完成するなんて在り得ない。
設計図に描かれたそれが、完成品になる事は少なく、大抵が不具合や無理無駄が出て書き直しや設計のし直しが発生する。
戦術機にしてもそうであり、開発期間が長いのは設計・組み立て・不具合・再設計・組み立て…その繰り返しでやっと完成に漕ぎ着けるのだ。
だが、大和が提示した設計図は既に再設計を終えた物で、付属されたデータを元に部品を製造して組み上げてみれば、恐ろしい事にそのまま使える機体が出来上がったのだ。
テスタメントと名付けられたこれは、セキュリティシステムと一体化した警備・防衛用端末ガードロボットという位置付けで量産された。
現在20台が稼働しており、順次量産されて警備・軽作業・その他に使用されることになる。
現在は建設区画で作業用が稼働し、警備用は数台が試験運用中だ。
「使えるから造れって言われて造りましたけど、あの少佐にしちゃ珍しいことですよ」
「そうだな…普段の少佐なら試作機を組み上げ、何度も実験や検証してから量産に回すのに…」
「まぁ、今の所問題もないし、俺たちにしてみれば助かってますけどね」
シゲさんの言うとおり、量産されたテスタメントは数台を除いてこの格納庫と別の格納庫で作業に従事している。
総重量が2トン未満なら牽引して運ぶ事も出来るし、200キロまでなら機体に搭載して移動可能。
高性能スキャンユニットで、施設内のチェックから警備までこなしている。
充電は台座型の充電器に座って充電、バッテリー式で残量が少なくなったら自分で充電するお利巧さん。
バリエーションが豊富で、下位機種・中位機種・上位機種が存在している。
現在稼働しているのは殆どが下位機種で、主に警備・軽作業用。
中位機種は、下位機種より大型になり、武装を搭載。
対小型BETA用に、現在システムと火器管制の構築中でまだ稼働してない。
上位機種は、現在4台がロールアウトしている。
「テスちゃんが作業員のチェックから照合までやってくれますからね、怪しい動きしている奴が居たら、見つかって黒コゲですわ」
テスタメントは、その全ての機体にスキャン機能と対人電撃端子での鎮圧攻撃能力を持つ。
作業員や整備兵、衛士が持っている認識票やパスをスキャンする事で、データリンクを応用した常時リンクシステムが瞬時に照会して判断する。
今後は横浜基地の地下フロアから順次配備され、今回の計画に隠れて入り込もうとする連中を防ぐ事になる。
因みに対人電撃端子は、細い電線で繋がった端子を発射して電撃を通すというスタンガンの応用武器だったりする。
「タカムラ・中尉・クロガネ・少佐・ガ・オヨビデス」
「あ、あぁ、了解した…」
そのテスタメントが一台、唯依の足元に来たかと思うと、電子合成音声で要件を伝えてきた。
それに返事をすると、そのテスタメントは仕事に戻っていく。
整備された場所なら、垂直な壁でも自在に昇降できるテスタメントは、建設現場でも活躍出来るだろうと考えられている。
昇降システムは、足の内部に搭載された電磁石での吸着を応用しているので、施設内限定の走行方法だったりするが。
「見事なものだ…」
「その内、俺たちの仕事が無くなるんじゃないかって、噂してる奴も居ますがね」
「それは無いだろう、テスタメントは人間が作業できない場所や、人間では辛い仕事を任せる為の機体だ。上位機種はマニュピレーターを搭載しているが、整備班のような繊細で確実な仕事は無理だと少佐本人が明言している」
シゲさんの苦笑に、唯依はテスタメントを紹介された際の大和の言葉を伝える。
上位機種やオプションで作業用アームを搭載した機体は、確かに人間の作業を行えるが、それは精々が物を掴んだり運んだり、ケーブルを繋ぐ程度だ。
現在稼働しているテスタメントの下位機種も、台車の荷物を牽引したり、運んだり程度しか出来ない。
「少佐が言っていた、時代がどれだけ進もうとも、人がさらに進化しない限り人は人の全てを超える代わりは創れないだろうとな…」
「はははは、少佐らしいですね」
笑うシゲさんに苦笑して別れ、大和の執務室へと急ぐ唯依。
ここは基地外延部に新たに増設された格納庫なので、少々遠い。
その内、地下通路が開通する予定だが、現在はまだ工事中だ。
「タカムラ・中尉・乗リマスカ?」
「い、いや、遠慮しておく…」
と、基地から物資運搬をしていたテスタメントが電子合成音声で提案してきた。
先にも言ったが、テスタメントは円盤状の本体に200キロまでなら搭載して移動が出来る。
緊急時に人員を運ぶ能力も考慮しているらしい。
見れば、資材置き場から台車を牽引するテスタメントに正座して乗っている整備兵がチラホラ見える。
何故正座なのかは謎だ。
命令コードに、忙しそうな人員を運べとインプットされているのだろう。
平時なら働かないコードなのだが、現在は建築が急ピッチでコードが働いているらしい。
確かに乗れば速いが、スカートで乗るのはかなり躊躇われた唯依姫は苦笑して断った。
「ごーごー!」
女の子座りで楽しそうに乗っかっているイーニァは無視して。
大和の執務室―――――――
「ただ今戻りました、お呼びですか少佐」
「ん…あぁ、少し待ってくれ中尉…」
急ぎ足で執務室へと戻り、一度扉の前で呼吸と身嗜みを整えて入室する唯依。
部屋の中に居た大和は、黒い色のテスタメントの外部装甲を外して何やら弄っていた。
見れば、部屋の隅に紫のテスタメントが3台鎮座している。
そのどれもが、4脚に2腕の上位機種だ。
上位機種は、ボディボードのような楕円形の本体に足が4本、作業用の精密マニュピレータが付いたタイプで、中位と下位に無い機能を有している。
因みに中位タイプは下位タイプより一回り大きくて内蔵火器を搭載している防衛用だ。
「ここの配線だな……どうだ?」
「ピピ……接続確認・通信開始シマス」
大和が工具を片手に問い掛けると、黒いテスタメントが応えてデータリンクを開始した。
「やはり接続端子か、量産する際は形を変えるかな」
「不具合報告ヲデータベースヘ転送シマス」
チェックリストに不具合だった場所の記載と解決方法を記入している間に、テスタメントが自分で横浜基地データサーバーへアクセスし、新しく作られたテスタメント用データベースへ不具合を纏めて転送している。
テスタメントは横浜基地の心臓部にある(反応炉とは別の場所)データサーバーに存在する本体から、端末であるテスタメントへと命令や指示が送られる。
そして、各端末テスタメントから機体不具合や報告、連絡などが送られて本体が処理している。
この本体には、オルタネイティブ4の研究が流用されている上、プログラムは霞が構築した特別製だ。
本体にアクセス出来るのは基地でも限られた人間で、夕呼や基地司令、それに製作者の霞と大和だ。
現在、霞が純夏と共に中位機種の行動ルーチンを構築しており、それが完成すれば生産された中位機種も基地内で警備・防衛任務に就く事になる。
「すまんな中尉、不具合が出てしまってな」
「いえ、大丈夫です。やはり、上位機種はデリケートみたいですね…」
外していた装甲を付け直している大和に近づいて、テスタメントの高性能スキャンユニットを覗き込む。
複合レンズが、小さな作動音を鳴らして唯依の顔を認識する。
「下位や中位と違って、俺が色々と手を加えているからな。不具合も出るさ…」
「え…テスタメントは全て少佐の設計では無いのですか?」
大和がポツリと呟いた言葉に、驚きを見せる唯依。
こんな技術を、他に持っている人間が居るのかという驚きだ。
「まぁ、な…俺とて万能じゃないさ」
内心少し焦りながら、話をはぐらかせる大和。
流石に、10年後の豪州で作って貰った物ですとは言えない。
オルタ5発動後、豪州で出会った開発者に、アイディアと見た目のイラストを見せて、自動防衛システムの一部として作って貰ったのがテスタメントの元だ。
その時は中位機種、内蔵火気や外部火器を装備した防衛機種しか量産されなかったが、下位機種と上位機種の試作機は存在した。
その開発者から完成版の設計図やデータ、それに基本OSのコピーを譲って貰っていたのだ。
今回、試作機すら作らずに量産に踏み切ったのは、実証データが在ったからと、時間が無かったから。
流石に、火器を装備する中位機種は試作機を作らないと危ないので量産は下位機種のみ。
上位機種は、紫が3台に、今不具合を修理した黒が一台だ。
「少佐、あの三台はどこへ配備されるのです?」
「一台は香月博士向け、もう一台は社少尉に。残りは完全なスタンドアローンで殿下に寄贈される」
大和の答えになるほどと頷いて並ぶ三台を見る。
夕呼用の上位機種は、稼働時間の増加とPC機能と通信機能の強化がされている。
これは夕呼がどこでも仕事が出来る様にと、注文したから。
霞用は、警護機能の強化と中位・下位機種への上位命令権を。
上位機種は、中位と下位に本体を通さなくてもデータリンクで命令が出来るのだが、霞用は最優先機能がついている。
これは、小型種などが基地に侵入した場合、霞を最優先で守る為だ。
そして殿下へ寄贈される機体は、他のテスタメントや本体に依存しない完全な独立タイプ。
強化された通信機能と警護機能を持つハイエンドモデルだ。
将軍としての権威が復権し、色々と仕事で忙しい殿下の為の贈り物であり、映像再生機能やらスケジュール機能やらも搭載されている。
上位機種は全てに中位と下位への指示機能と簡易CPになれる通信機能が搭載されている。
また、内蔵火気として9mmを発射できるマシンガンが2門搭載されている。
対人電撃端子はデフォルト装備だ。
「クーデターや米軍の事があって不安なのは分かりますが、少々警戒し過ぎでは…?」
唯依も、基地内への下位機種導入は賛成だ。
ここ最近急激に大きくなった横浜基地は、地下構造が信じられない位広い。
元々ハイヴだった場所に立っているだけに、その広さは慣れない人間が迷子になる位だ。
そんな地下や広くなった地上を警備させるのに下位テスタメントは非常に役立つ。
歩哨の兵士と組ませれば、より安全かつ確実に警備できるだろう。
だが、機械化歩兵の小隊に匹敵する火力を装備できる中位機種は人間相手にはやり過ぎだと唯依は思ったのだ。
「別に、人間相手を考えて導入した訳じゃないさ…」
「そんな、まさか少佐、BETAがこの横浜基地を襲撃すると考えて…?」
唯依とて十分に才女だ、佐渡島からのBETA侵攻が何処を目指しているのか察しているし、理由にも見当がついている。
だがこの横浜基地までは帝国軍と国連軍の防衛線がある。
だからこの基地の面々はつい最近まで油断していた。
唯依は油断はしていないが、まさかここまでBETAに攻め込まれるとは思って居なかった。
「唯依姫、この世界に絶対は存在しない…予想不可能な事だらけだ。それに昔の諺にもあるだろう? 備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖…とね」
そう言ってニヤリと笑う大和と、彼の足元で鎮座する黒いテスタメント。
普通に見れば、万全の備えをしているように見えるだろう。
だが唯依には、別の姿に見えた。
それは、まるで――――
「(怯えている…? 大和ほどの男が、怯えているのか…?)」
何が在るか分からない、どうなるか分からない、そんな恐怖に怯えているように感じられた。
何度か一緒にBETAと戦った経験がある唯依も、大和が怯えている様子は見た事がない。
見た目、怯えなど見えない大和だが、唯依には確り感じられていた。
大和は、BETAの襲撃に怯えているのだ。
いや、襲撃で発生する被害に、彼は怯えている。
そう、感じていた。
そしてそれは正解であり、大和は恐れているのだ、BETAの横浜基地襲撃を。
前の世界、武は佐渡島の残党BETAによる襲撃を経験したが、大和はそれよりもっと恐ろしい襲撃を経験している。
オルタネイティヴ5発動後、甲20号から侵攻してきたBETA。
一時は防衛線にて押し止めていたが、ある個体の出現で全てが覆された。
母艦級。
大和が最も憎み、最も危険と考える最大クラスのBETA。
体内から数百匹のBETAを吐き出し、その巨体で防衛線を蹂躙する悪夢。
そして、その母艦級は直接横浜基地へ突っ込み、体内から無数のBETAを吐き出した。
これによって横浜基地は壊滅、生き残ったのは脱出した僅か数十名という地獄を作り出した。
大和もまた、一度その襲撃で死んでいる。
それが、その経験が、大和の中で怯え、恐れとして残っているのだ。
「………そうですね、奴等相手に、油断や慢心は出来ませんからね」
だから唯依は、笑顔を見せて同意した。
どこか遠くて、人を寄せ付けない部分を持つ大和の、生の感情に触れられた気がして、唯依は不謹慎だと思いながら嬉しくなった。
「ところで中尉」
「はい?」
「社嬢用のテスタメント、座席に敷くのはどっちが良いと思う?」
そう言って取り出したのは、フワフワのファーで出来た座布団と、兎模様のスベスベクッション。
霞用のテスタメントには、霞が乗って移動出来る様に本体の背中に収納式の小さな座席がついている。
楕円形の本体の真ん中辺りの装甲が開いて、そこが座席と背凭れになるのだ。
座る際は、ソリに座る感じか、女の子座りで座って、座席の前に飛び出す取っ手を掴んで座る。
その座席に敷く為の座布団で悩んでいるらしい。
「座り心地を重視したフワフワの座布団か、それとも社嬢のイメージを表した兎模様のクッションか、俺では判断が付かんのだ!」
むぅぅぅぅぅ…と真剣に悩む大和の姿に、白くなる唯依姫。
さっきの喜びとか感動かと返せと言いたい恋する乙女。
「因みに、兎模様にはさり気無く『しらぬいくん(うさみみVer)』が一匹紛れているのだ」
「何の意味があるんですか…っ」
どうでもいい事にも情熱を燃やす大和に、拳がプルプル震える唯依姫。
執務室から心地いいハリセンの音が響くまで、時間はかからなかった。
18:30―――――
PX食堂にて――――
「全く、タケルも神宮寺教官…いや、神宮寺大尉もお人が悪いっ!」
「そうだよ、ボク達の感動返してって感じだよ~」
「子供の夢を壊すのは、いつだって大人…」
「たけるさん、酷いです…」
「貴方達、文句はそれ位にしなさいよね、もう過ぎた事じゃない。大尉達だって、私たちを騙そうとしたんじゃないのだから」
テーブルに固まってブーブーと文句を言うのは、元207訓練部隊の面々。
元だ、今はもう訓練兵ではない、彼女達は任官し、正規兵と同じ扱いになったのだ。
とは言え、暫くは新任少尉としての訓練や教導が待っているが、それでも彼女達の喜びは大きい。
「そう言う千鶴だって、あの後は白銀大尉のバカ~なんて言ってたじゃない」
「あ、あれはつい、皆に釣られて…っ」
茜にその時の事を穿り返され、赤くなる委員長。
彼女達は全員、数日前に基地司令から言葉を頂き、正式に任官した。
冥夜と委員長の背後からの圧力が消え、全員が問題なく任官できたのだ。
その際には、大和と武、それに唯依も立ち会った。
そして彼女達は任官の会場から出る際に、全員が育ての親と言うべき相手、まりもに感謝の言葉を向け、涙を流したのだ。
武も全員に言葉を掛けて、まるで卒業式のような雰囲気に包まれていた。
因みに大和も築地達に泣き付かれていた。
唯依姫が怒るッ!? と戦慄した大和だったが、唯依は微笑ましく見守っているではないか。
あの告白から、何やら妙な余裕が生まれた様子。
あと、やっぱり築地は最大の母性の持ち主であると大和は確認してしまった。
「でも、気持ちは皆同じだって」
「散々泣いて感動したら、次の日には原隊復帰で上官にだよ? 驚きじゃすまないって…」
晴子の苦笑と、高原の呆れ顔に、皆同意。
次の日、今日から自分達は正規兵だと緊張と不安でガチガチになっていた面々を腰砕けにさせたのは、昨日軍曹として送り出してくれた筈のまりもちゃんだ。
「『本日から原隊復帰し、大尉となった。全員が部隊配属されるまでの教導官として鍛えるのでよろしく頼む』…だからね」
「皆、白銀大尉みたいにずっこけてたね~」
麻倉のまりもちゃんの声真似と、築地の感想にその日の事を思い出す面々。
部隊配属されるまでの間は、まりもちゃんの指導が続く予定だったが、現れた彼女の階級章が大尉になっており、今後も上官として継続して教えるとの事。
しかも同席した武ちゃんの「あ、多分全員同じ部隊配属だから。神宮寺大尉もたぶんそのまま着任するぞ~」という言葉に、二倍腰砕け。
つまり、部隊配属されても、まりもちゃんが上官として付いてくるのだ。
嬉しいかどうかと聞かれたら当然嬉しいし心強いが、あの感動は何だったのかと全員が問い詰めたい思いだった。
「その上、タケルの言葉が真なら、我々全員が同じ部隊に配属される…」
「別れを惜しんだアタシ達って…」
冥夜と茜の言葉に、どよ~んとした空気が満ちる。
あれだけ涙して感謝して決意したのにこの展開。
嬉しい、彼女達は嬉しいのだ。
でもなんか遣る瀬無い思いが在ったりした。
「まぁまぁ、全部前向きに考えようよ、こんな事普通は在り得ないんだから」
「そうね、白銀大尉を見習って前向きに行きましょう」
「白銀のは、単純に能天気…」
晴子が気分を切り替えようと言葉をかけ、委員長が同意するが、彩峰の余計な一言で全員が固まる。
「スマンスマン…」
「彩峰、アンタねぇ…」
「慧さん、すっかり白銀語の虜だねぇ」
無表情で武ちゃんのように謝る彼女に、やり場のない怒りで拳を握る委員長。
美琴の他人事のような言葉がとても虚しい。
「よう、全員揃って夕食か?」
「……………………はぁ…」×全員
「え? なんで溜息? え? え?」
そこへ現れたのは、合成サバ味噌定食を持っていつもの表情を浮かべた武ちゃん。
それを見て、何故か全員が溜息をつくのだった。
一人混乱する武ちゃんが、妙に可愛かったと彩峰は語る。
2001年9月6日―――――
シミュレーターデッキ――――
明けて翌日、地下に存在するシミュレーターデッキの一つに、A-01の面子が揃って入ってきた。
全員が強化装備に身を包み、軽い会話をしながら本日の訓練に対して気合を入れている。
「少佐、お待たせしました」
「いや、時間にはまだ早い、楽にしていてくれ」
先にシミュレーターデッキで待っていた強化装備姿の大和は、何やら設定を弄っているらしい。
その隣には、黒いテスタメントが本体からコードを伸ばして機械に接続されていた。
「少佐、そのテスタメント、他のと形が少し違いますね…」
風間がセンサー横の視認ランプをチカチカさせている黒いテスタメントを眺めながら問い掛けると、そう言えば説明していなかったなと呟いた。
「これは、この前発表したテスタメントの上位機種だ。色は基本紫なんだが、俺のは趣味で黒だ」
「なるほど…確かに少し豪華に見えますね」
宗像がテスタメントの彼方此方を眺めながら頷いている。
先日、テスタメントを導入するに当たり、横浜基地全体に発表された。
警備・軽作業・その他に使用される無人作業ロボットとして発表されたのは下位テスタメントだけであり、中位はその段階ではシステムが完成しておらず、上位は少数生産の為発表されなかった。
因みに色は上位が紫(黒もあり)、中位が赤と山吹、下位が青と白になっている。
これは後々に役割分担がされる予定であり、白は格納庫などでの運搬・軽作業用、青は基地外延部や地上構造の警備用。
赤と山吹は防衛戦闘用で、浅い階層に配備されるのが山吹、最下層などに配備されるのが赤。
これは、斯衛軍を真似た物だが、そのままの色の順番だと面白くないと大和が並び替えたのだ。
下位の色を国連軍の基本カラーにしたから、その都合合わせでこうなったと言う説もあったりする。
「少佐、シェスチナ少尉達は元気ですか?」
「あぁ、怪我も無く開発に協力して貰っているぞ」
遙からの問い掛けに答えて頷く大和、イーニァとクリスカは現在、出向という形で大和のワルキューレ隊に所属している。
これはクーデター時に人手が足りないからと借り出したのだが、二人ともワルキューレ隊に残る事を希望してしまい、当面はワルキューレ隊で複座型での武装開発や機体開発を行う事になった。
最終的にワルキューレ隊もA-01へ併合されるので、問題ないのだろう。
「ビャーチェノワの奴、ちゃっかりハイカスタムモデルに乗せて貰った上に開発部隊に出向とか、羨ましいわね…っ」
「少佐、速瀬中尉が新型寄越せと暗に言っていますが」
「ちょ、宗像っ!?」
「そうか…イーニァの全力もふもふを1時間耐え抜いたら考えてみてもいいが…」
「勘弁して下さい、死んじゃいます」
大和の言葉に、速攻で頭を下げる水月。
突撃前衛長を諦めさせるイーニァの全力もふもふ、その威力は味わった人間にしか分からない。
とりあえず、悶え死になんて恥ずかしい死に方だけは勘弁なようだ。
「それで少佐、本日の訓練メニューは? 事前予定が伝えられなかったのですが…」
「それならもう準備は今終わった、全員筐体に入れ、04からだ」
伊隅大尉の質問に答えながら、黒いテスタメントの本体の後部から変形して出てきたキーボードで何かを入力して、彼女達を筐体へと入らせる。
言われたとおり、伊隅が04に入り、05・06と水月達が入っていく。
「さて、では後は頼むぞ。涼宮中尉、このメニュー通りに頼む」
「あ、はい…え?」
黒いテスタメントをポンポンと叩くと、遙に予定が書かれたファイルが渡された。
それを見た遙は目を点にさせて大和を見るが、大和は既に筐体へと向っている。
「さぁ、始めるぞ」
筐体に乗り込む時に、ヘッドセットにそう呟いて、大和も01の筐体へと入る。
先に筐体に入って準備していたA-01は、訓練メニューの開始を待っていた。
BETA掃討戦か、それとも対戦術機戦闘か、ハイヴ攻略だってドンと来いと身構えていた彼女達の網膜投影に、戸惑いを浮かべた遙が映る。
『た、ただ今より、ヴァルキリーズ対シグルド隊との模擬戦闘を開始します。基本条件は通常模擬戦闘と同じですが、市街地戦なのでレーダー範囲が150mに設定されています…』
その遙が伝えた言葉に、驚きを浮かべるA-01。
通常通りの訓練かと思えば、何と別部隊との模擬戦闘。
しかもシグルド隊は、夕呼直属の独立遊撃部隊の名前だ。
『ちょっとどういう事よ遙っ?』
『し、知らないよぉ、私も少佐に手渡されたメニューを読み上げただけだし、設定は隣のテスタメントが勝手に…』
水月の問い掛けに、困った顔を浮かべる遙。
彼女の隣では、あの黒いテスタメントが入力された指令を元に、シミュレーターのデータを操作してCPの仕事をしているのだ。
テスタメント上位機種はオルタネイティヴ4の技術と、霞の組み上げたOSや補助AIが組み込まれている。
指令を与えれば、自分で考えて動く恐ろしい個体。
とは言え、完全なAIではないので人間の指示が必要なのだが。
『模擬戦闘ヲ開始シマス』
『ちょっ、誰!?』
突然通信に割り込んだ合成電子音声に、東堂が驚くが、シミュレーションは構わず映像を投影する。
そこは高層ビルなどが点在する廃墟。
空は薄暗くなり、太陽が沈み始めている夕方の設定だ。
『問答無用か…総員、気持ちを切り替えろ! シグルド隊は現在少佐だけの筈だが、油断するなよ!』
伊隅がいち早く気持ちを切り替え、全員に指示を飛ばす。
遙もCPとして、メニューに沿いつつ自分の仕事に専念する。
『少佐対A-01、最近やってなかったから腕が鳴るわ!』
『それは良いが、油断して撃墜なんて許さんからな』
気合を入れる水月に苦笑しつつ、伊隅が全員に気合を入れさせる。
楔形弐陣で陣形を組んで進む彼女達を、突然銃弾が強襲する。
『東堂っ!?』
『二時方向っ、120mmでの攻撃です!』
伊隅が声を上げると、攻撃された東堂が確りと答える。
あの一瞬で、ロックオンから回避行動に入って銃弾を避けていた。
『伊達に少佐に鍛えれちゃいませんからね!』
大和に扱かれ、XM3を我が物とした彼女達は、雪風の能力をフルに使って瞬時に反応し、銃弾が来た方向へ弾幕を張る。
『風間、見えるか?』
『センサーに微かに機体反応がありますが…ダメです、逃げられました』
スナイプカノンユニットによって高い精度のセンサーを持つ風間の機体が索敵するが、相手は既に高精度センサーの範囲から逃げたらしい。
『一撃離脱戦法か、少佐のお得意の戦法の一つだな…全機警戒、風間は狙撃体勢、上沼は援護体勢だ』
これまで何度も経験した大和との戦いから相手の出方を予想し、瞬時に部下に指示を飛ばす伊隅。
風間機がビルの陰に陣取りながらスナイプカノンユニットを展開。
上沼機の多連装ミサイルランチャーが、獲物を求める。
『大尉、炙り出しますか?』
『そうだな…宗像、機体が隠れられそうな廃墟にグレネードを放て、邪魔な障害物も排除しろ』
高層ビル群、今まで使ってきた廃墟の地形よりも明らかに高いビルや建物が多い。
その為、戦闘の邪魔になる建物を排除すると同時に大和の機体を炙り出そうとするA-01。
伊隅と宗像機のシールドランチャーからグレネードが数発だけ放たれ、倒壊していたビルを更に破壊して崩す。
『8時方向っ、機影確認!』
『反対側だとっ!?』
『こいつぅっ!!』
ビルの上部分がが落下したと同時に、風間の機体のレーダーに微かに反応が出る。
その位置に伊隅が驚きつつも障害物を楯にして身構え、いち早く反応した水月が両肩のガトリングユニットを展開して弾幕を張る。
襲い来る銃弾の雨に追われて、ビルとビルの間から姿を見せたのは、白いボディに銀と緑のライン。
『アイツはっ!?』
水月が驚きながらもガトリングユニットのランチャーからグレネードを放って相手の逃走方向を塞ぐが、相手は急旋回で黒い影を伴って高層ビルの森へと消える。
『あの位置で避けるか、流石少佐だな…』
『大尉、あの機体、レーダーで捕捉し切れません』
内心驚愕しつつ、陣形を変更する伊隅、そんな彼女に風間が焦った様子で報告する。
『アイツだ…』
『速瀬、どうした?』
その時、水月の小さな呟きが耳に入り、問い掛けると、水月は笑みを浮かべているではないか。
『大尉、アイツですよっ、クーデターの時に滑走路で乱入した白い機体!』
『あの機体か…味方機とは聞いていたが、まさか少佐の機体とは…』
水月が嬉しそうに言うのは、A-01の目の前でクーデター軍の反乱分子を瞬殺した白い機体。
所属が不明だったので暫く彼女達の間でも疑問に思っていたのだ。
だが、横浜基地の戦術機開発を手掛ける大和ならと納得する面々。
だが水月だけは違うと思っていた。
あの時操縦していたのは、大和ではなかったから。
『大尉、守ったら負けます、攻めましょう!』
『……そうだな、我々もA-01としての意地がある、全機連携を組め、連係攻撃で攻めるぞ!』
水月に発破されて、全員が攻めの陣形を取る。
『風間、命中に拘るな、機体をロックしたら構わず撃て』
『了解』
『東堂、ついて来なさいよ~』
『了解です!』
各自連係をとりながらビル群を進むと、宗像の視界を白い影が横切る。
『風間、上沼後ろだっ!!』
一瞬で判断してシールドランチャーから小型ミサイルを一発発射しつつ突撃砲と両足の小型ミサイルで影が目指す先を潰しに掛かる。
その爆風を切り裂いて、白い影がビルの間を舞う。
『この距離でも捉えられない…なんて機動性…!』
ラプター以上と思える機動性と高いステルス性能で、近距離まで察知されないで接近してくる相手。
その事に驚愕しつつも、風間はスナイプカノンを構えて相手が出てくるのを待つ。
『炙り出します~! 06フォックス1!』
上沼の言葉と共に、多連装ミサイルが左右十発づつ発射され、相手の機体が隠れたと思われるビル群を上空から襲う。
『射線が見えたっ、行くわよ東堂!』
『了解ですっ!』
ビル群の中から、ミサイルを迎撃したのか上空での爆発を起こした位置から相手の位置を瞬時に割り出した水月が、東堂を連れてビルを蹴りながら跳び上がる。
『見つけたっ、逃がさないわよ!』
粉塵が舞う中、ビルの隙間を低空飛行する白い機体。
それを追いかける水月と東堂の雪風。
『宗像、反対から挟み込むぞ、風間達は速瀬達の援護だ!』
伊隅大尉と宗像の機体が、跳躍ユニットとスラスターを全開で噴かして相手を挟み込むべく移動する。
その間も、風間機がスナイプカノンで足止めの狙撃を行っている。
『当たらないわね…あら?』
内心焦りながら狙撃位置を変更しようとした時、一瞬高精度センサーが妙な反応を捉えた。
相手機体のマーカーがブレた…いや、“増えた”のだ。
『まさか…速瀬中尉、ダメですっ!!』
風間が追い込みをかけている水月へ叫ぶが、遅かった。
『追いついたぁぁぁっ!!』
建物の影に追い込まれた相手を、上空から強襲する水月。
ガトリングユニットで相手をビルの陰に追い込み、その状態で長刀に持ち替えて近接戦闘を挑む。
相手の機体も形の異なる、あの時使っていたブレードを左手に、長刀の一撃を防ぐ。
『やるわねっ、でも雪風との鍔迫り合いは自殺行為よ!』
火花を上げながら鍔迫り合いをする二機、だが雪風にはCWSの武装がある。
左肩のガトリングや両足の小型ミサイルを照準させた時、相手の後ろの影が動いた。
その一瞬で、水月は違和感を感じた。
機体の影が出るのは、高性能なJIVESなら当たり前の事だ。
だが、太陽は自分の正面にある、つまり白い機体の背後に、影が出来るのはおかしい。
僅か一秒足らずでそう考えた水月は、レーダーを注視した。
レーダー精度が悪い状態の上に、相手のステルス性能が高い為に気付かなかった、相手のマーカーが微妙に大きかった事に。
至近距離に入ったことで、レーダーは正確な位置を割り出している。
白い機体の後ろに、もう一機確かに存在している―――。
『しまっ――!?』
その一瞬の判断の遅れは、彼女の雪風の腹部をブレードが貫く事態を招いた。
白い機体の背後から、黒い機体がブレードを隙間から差し込んで雪風のコックピットを貫いたのだ。
『ヴァルキリー2、胸部損傷、衛士死亡…!』
遙が驚きながら告げる言葉に、全員が一瞬固まる。
今回の戦闘、CPはダメージ判定や報告しか出来ないので、遙はその詳細を伝えられない。
『嘘でしょ、いつの間にもう一機…―――きゃぁっ!?』
水月がやられて一瞬動揺した東堂が、慌てて体勢を立て直そうとするが、その一瞬の隙をつかれて白い機体に間合いを詰められ、胸部ごと切断される。
『ヴァルキリー5、胸部大破により戦闘不能…!』
『大尉、相手は二体です、少佐だけではありませんっ!』
遙の通信に続く風間の言葉に舌打ちする伊隅、確かに相手は二機存在した。
途中から合流したのなら分かるが、もし最初から二機で居たのなら、信じれない事だ。
レーダーの範囲が狭く、ステルス性能が高いとは言え、機体マーカーの反応が被ってしまう位置での動き。
それは、常に激突寸前の位置で移動しなければならない。
いつ合流したのか不明だが、相手の練度の高さが窺えた。
『く…っ、全機固まれ、少佐相手では各個撃破される、その上もう一機の能力は未知数だ!』
伊隅の指示に、残った全員が固まって陣形を組む。
それを眺めながら、大和は随伴する機体へ通信を繋ぐ。
『どうだ武、A-01の腕前は?』
『前の世界より上がってるな、でもまだ上を目指せる筈だ…』
帰って来た言葉に、苦笑を浮かべる大和。
随伴機、陽燕に乗る武は、彼女達にまだまだ強くなって欲しいらしい。
『なら、適度な刺激を与えるとしようか。対面はしないのだろう?』
『あぁ、なんか先生が207と一緒に対面しろってさ』
大和の問い掛けに、何の意味があるんだろうなと肩を竦める武。
そんな二人の機体を、風間の狙撃が狙ってきた。
『おぉっと、風間少尉か、やっぱ狙撃上手い人がアレ使うと怖いなぁ…』
『同感だ』
苦笑しながらも、機体を飛び上がらせて姿を現す武と、その機体に影のようにピッタリと張り付いている大和の機体。
それだけで、二機の腕前の高さとコンビネーションを嫌でも理解させられる戦乙女達。
『さぁ、行こうぜ大和!』
『応ッ!』
白と黒の二機が、戦乙女が駆る雪風に襲い掛かった。
「少佐ぁぁぁぁぁぁっ、あの機体、あの機体なんなんですかっ!?」
筐体から出てきて直に、水月は大和に縋りついた。
遙や東堂が落ち着いてと言って水月を引き剥がすのを待ってから、大和は口を開く。
「あれは、試作第四世代戦術機、TYPE-X01だ。因みに白い機体の通称が『陽燕』、黒が『月衡』だ」
大和のその言葉に、全員が衝撃を受ける。
試作第四世代、第四世代なのだ、自分達が目にした機体は。
自分達の雪風が3.5世代と呼ばれているのは知っているが、その上を行く機体。
それならあの性能も納得だと頷きつつ、居るはずのもう一人を探すが見当たらない。
「少佐、もう一機を操縦していた衛士は何処に?」
「あぁ、仕事が在って既に退室した。焦らなくてもその内逢えるから唸らないで欲しいのだが、速瀬中尉?」
「うぅぅぅ、クーデターの時といい、今回といい逃げ足の速い…遙っ、アンタ顔見てないのっ!?」
「わ、私もデータ整理してて、気付いたらもう居なかったんだよぉ~」
親友に詰め寄られて涙目の遙さん。
模擬戦闘終了後、武ちゃんは早々に退室。
結果報告があった分、A-01の方が筐体を出るのが遅かったのだ。
因みに結果はシグルド隊の勝利だが、流石はA-01と言うべきか、武と大和のコンビを相手に粘り続け、最終的に大和の月衡の武装を破壊した上に右手を大破させた状態
、武の陽燕からは機動力を奪う活躍を見せる。
「あ~~~悔しいっ、次の時は絶対にリベンジしてやるんだからーーー!」
宣言するように吼える水月、そんな姿を見て、大和は彼女が武ちゃんに夢中になっている事に内心ほくそえむ。
懲りない事に、A-01のメンバーまで武ちゃんに堕とさせる心算らしい。
「対面の時が楽しみだ…」
修羅場的な意味で。
怪しく笑いながら、黒いテスタメントにX01のデータを戻す大和。
まだ試作機で秘密扱いのX01のデータをシミュレーターとは言え残しておけないので、テスタメント内に保存しているのだ。
今回の模擬戦闘の結果やデータも同時に抜き取ると、ログなどは消去。
「さて、少し休憩したらハイヴ攻略をやりましょうか」
「え~~っ、それより少佐のX01と戦いたいですよー!」
ブーブーと不満そうな水月を伊隅が嗜めるのを苦笑して眺めながら、大和は遙に設定を頼む。
A-01は確実に前より強くなっており、武と組んだ大和を相手に、善戦したのだ。
あの紅蓮大将や月詠大尉も、二機連携を組んだ二人は相手したくないと話すほど。
それを相手に善戦するのだから、その成長度の高さが窺える。
「そろそろ、役割に応じた機体に変更かな…」
悔しさを紛れさせる為か、単機になっても反応炉に到着しちゃると意気込む水月や、苦笑するA-01を眺めて、大和は瞳を細めるのだった。