2001年8月21日――――――――
シミュレーターデッキ――――――――
米軍の空母と船がやっと解放されて国へ帰り、肩の荷が下りた横浜基地は現在、多数の帝国軍からの出向者を抱えていた。
「02、そこは行動キャンセルで切り抜けろっ、04はもっと先行入力を使用するんだ、間違ったならキャンセルして入れ直せば良い! ほら12、コンボは繋げてこそコンボって言うんだ、それじゃただの波状攻撃だろうがっ!!」
ヘッドセットに向って、大声を張り上げるのはXM3指導教官となった武だ。
現在、帝国軍から派遣されてきたXM3教導官(に任官予定者)への、XM3慣熟訓練を行っている。
先日、XM3は帝国を始め全世界へと発表され、大反響を呼んでいる。
XM3を最初から使用していた訓練部隊が、正規兵を下す映像や、XM3搭載の撃震の活躍。
これらが、映像資料と共に国連加盟国に配信され、さらに帝国軍は所有する機体全てにXM3を搭載する事を宣言した。
さらに、これまでと全く異なる機動概念を教導資料として纏めた物も配布される。
この機動概念は武作、大和監修の豪華な物。
だがその資料や映像を見せても、やはり細かい事や操作の癖などは教えられないし直せない。
なので、帝国軍は各基地や各部隊から選りすぐった衛士を、横浜基地へ派遣して研修を受けさせる事にしたのだ。
XM3考案者であり、新しい機動概念の構築者である武に直接教導してもらい、XM3を熟知とまで行かないが、せめて人に教えられるレベルにしてもらう。
その後、研修を終えた衛士達をXM3教導官として、各基地や部隊で教えさせる。
研修期間が短いので、彼らは何度か横浜基地へと足を運んで、武の教導を受ける事になる。
「01はもっと色々と動く、XM3は動けば動くほどパターンを蓄積して動き易くなるからっ。07はその調子、動作シーケンスは自分の好きなように選択出来るんだから、待つ必要はないぞ!」
現在教導を受けているのは番号が割り振られた12名、残りのメンバーは筐体の外で、外部モニターに表示されたシミュレーションの映像や操作ログを見ながら待っている。
「いやはや、最初はあんな若い少年が教官と聞いて戸惑いましたが、見事な物ですな」
「全くだ、あの歳で大尉、しかもこのXM3の考案者。その腕前はあの沙霧大尉を倒すほどと聞いた」
「元斯衛軍で、娘から聞きましたがあの黒の双璧の片割れだとか…」
「なんと、それならば納得ですなぁ。いや、是非婿に欲しいものだ!」
次の順番を待つ衛士に混じって、何か関係ない会話している中年衛士も居るが。
周りの衛士、特に女性は、何を言ってんだこのオッサン共は…と半分呆れ顔。
「よし、全機一度操作を止め。これから実際に俺が操作をして見せるから、各自転送される操作ログを参考にすること」
12名全員が操作に戸惑いが無くなったところで、武が筐体に乗り込んだ。
因みに12名なのは、これ以上増えると武が操作を見切れなくなるからだ。
「XM3の柔軟な姿勢制御、確り見て覚えて欲しい」
真面目な顔で告げる武に、最初は若造が…と侮っていた衛士も、色眼鏡で見ていた衛士も真剣な顔で返事をする。
武の、XM3に対する情熱とそれを教えようとする姿勢に、皆惹き込まれているのだ。
そして、武の機体、教導なので不知火の機動がスタートした。
その動きに、見ていた全員が驚嘆し、感動の溜息を漏らす。
これまでのOSでは難しいと思われていた動きや、姿勢制御、それに考え付かなかった三次元機動。
特に狭い場所での機動力は、開いた口が塞がらない衛士が多い。
壁や障害物、時には武器すら足場にしてしまうその動き。
投げて刺さった長刀を足場にして、強引だが確実な回避運動。
皆がその動きに見惚れている中、操作している武は苦い顔をしていた。
「(動作が遅い…違う、雪風や陽燕で慣れちまって、不知火じゃ物足りないんだ…!)」
今まで使っていた機体と、不知火では機体スペックが違い過ぎる。
特に陽燕に乗った後では、どんな第3世代戦術機でも物足りないだろう。
試験機とは言え、陽燕は強化型XM3搭載機にして、第4世代戦術機の先駆けとなるハイスペックモデル。
武の機動概念とマッチするように、限定空間における最速三次元機動を実現する為の機体。
そんな機体と、不知火とでは比べるまでもない。
これが不知火・嵐型ならもっと武の要求に答えられただろう。
「(不知火でこれじゃ、俺もう陽炎や撃震乗れないなぁ…っ!)」
内心で苦笑しながら、フィニッシュに大和からTSHMと名付けられた機動コンボを見せる。
着地して一度短く息を吐くと、今までの動きを解説する為に通信をONにする。
「と、こんな感じて慣れれば操縦者の要求に柔軟かつスムーズに答えてくれるのがXM3だ。それじゃ、今度は俺の後に続いて動いてみてくれ」
その言葉に、呆然としていた12名が慌てて返事をして機体を動かす。
彼らが207訓練部隊…とまでは言わないが、XM3を覚えてくれれば、帝国軍の底上げになるのは間違いない。
その事を思って、武は気合を入れて教導を再開するのだった。
70番格納庫――――――――――
「主機及び跳躍ユニットに問題は無し…足首の間接と手腕に少し大きな負担が掛かってるな…」
「1号機は2回、あのシステムを起動させましたから、やはり2号機に比べて負荷が大きいですね」
整備班や開発班が忙しく働く中、纏められた報告書を見ながら機体を見上げるのは大和。
整備班の代表の言葉に、苦笑を浮かべるしかない。
あのクーデター軍襲撃事件で武がオーバーシステムを2回使用したが、機体より衛士の方がピンピンしているのだ。
2回使ってどうだったと聞いたら、「ちょっとクラッとしたけど、問題なかったぞ?」と平然と答えられた。
これには大和も呆れるしかない。
「見た目こそYF-23だが、中身は世間の5年は先を行ってる技術の固まりだぞ…それより丈夫なあいつはなんなんだ…」
「やっぱり恐竜の子孫じゃないですか?」
大和の呟きに、整備兵が冗談混じりで笑う。
その意見には同意だが、ほぼ同じレベルの大和も恐竜と言う事になるのに、整備兵は気付いていない。
まぁ、大和は気にしないのでお咎めは無いが。
「『ファイヤーボール』の調子は?」
「懸念されていた出力リミッターですが、完璧に動作しています。もうその名前も変えないとですね」
整備兵の言葉に、そうだな、縁起悪いし…と呟く大和。
整備兵は知らないが、大和は『ファイヤーボール』という名前が縁起悪いと知っている。
試作段階での名前を図面に書いてあったのだが、気がつけばそれが名称になっていたのだ。
で、今回安全が確認されたので、無事名前を変更になった。
「そうだな…『スピリットファイヤ』はどうだ?」
「良いですねぇ、燃える魂って感じで」
黒金が即興で考えた名前に、黒金菌に汚染されたのか、それとも元々そういう感性なのか、同意する整備兵。
ここの連中はノリが良くて助かると苦笑する大和を他所に、整備兵は早速名称をスピリットファイヤに変更している。
「そう言えば、『キャノンボール』はどうなった?」
「開発主任の話じゃ、既に形になっているそうです。後は該当機種へ装着しての機動実験を残していると…」
「そうか、ならそちらは機体が手に入り次第搭載して実験すると伝えてくれ」
そう言いながら整備兵に確認した資料を渡すと、受け取った整備兵は敬礼を残して仕事へ戻る。
「やれやれ……武はどこまで進化するつもりだ…」
二機並んだX01を眺めて苦笑する。
現状最高スペックを誇る陽燕ですら、武の操作要求に100%応えられていないと、先程の資料で分かった。
斯衛軍時代に、武が武御雷の反応が遅いと言い出した事がある。
勿論整備は完璧だし、Type-00C…黒の機体とは言え、その性能は不知火より上だ。
それなのに武は操作の反応速度や機体の動きが遅いと言う。
最初はXM3が載っていないからだと思っていたが、違った。
XM3搭載の、雪風ですら武は遅いと感じていたのだ。
そして、現在の衛士のレベルならエースでも機体を持て余すであろう陽燕で「思った通りに動いてくれる」とやっと満足したのだ。
「誰かが言っていたな…想いがあれば人は強くなれると……。ならば、アイツの想いは…」
どれ程なのか、想像も出来ない大和はただ、苦笑を浮かべる。
そしてニヤリといつもの笑みを浮かべるのだ。
「良いだろう、お前が求める最高の機体を造り上げてみせるさ。第四世代戦術機の正式モデルをな…!」
既に足場は固まった。
後は世界に公表し、誇れる機体を造るだけだ。
厄介な雑事は片付いた、後は開発に専念するだけだと意気込む大和に、通信機で連絡を受けた整備兵が声をかけた。
この時、彼の予定が大幅に狂う事になるなど、大和は知る由も無かった。
大和の執務室――――――――――――
「タカムラずるい…」
「し、しつこいぞ少尉…」
本日の訓練を終了したイーニァが、執務机で仕事をする唯依を、恨めしげに見上げていた。
机に爪を立てて、カリカリ削っている姿は、まんま猫である。
「イーニァ、あまり中尉を困らせちゃダメよ…」
「クリスカだって、ヤマトとキスするユメみてた」
イーニァの暴露に、一瞬で真っ赤になるクリスカ。
イーニァによって投影されたイメージが余りにも衝撃的で、夢にまで出てきたのだ。
当然その夢は、キスなんて言う軽い物ではなかったが。
「イ、イーニァっ、……中尉、これはその………ん?」
「? どうかしたのか少尉」
慌てながら唯依へ言い訳をしようとしたクリスカだったが、嫉妬して怒るかと思った唯依は平然としている。
むしろ、優しい笑みを浮かべているではないか。
「いや、その……なんでもない…」
「ふふ、変な少尉だな…」
そう言って笑う唯依に、いつもの中尉じゃないと内心戦慄するクリスカ。
彼女は知らない事だが、唯依は悟ってしまったのだ。
だから、もう小さな事に嫉妬して怒る事はしない。
まぁ、流石に自分を差し置いて誰かが親しい関係になったら嫉妬するだろうけど。
イーニァも唯依の変化を感じて、首を傾げている。
「……………………………」
「あ、少佐、お帰りなさいませ」
そこへ、何やら肩を落として俯いた姿勢の大和が帰って来た。
手には何やら辞令らしき書類が挟まれたファイル。
「ヤマト、どうしたの? おなかイタイの…?」
「少佐…?」
返事もなく、フラフラと歩く大和の姿に、駆け寄るイーニァと心配そうなクリスカ。
「しょ、少佐? 何か在りましたか…?」
「フ…フフフ…腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腑腐腐腐腐…ッ」
唯依が問い掛けた途端、突然肩を震わせて怪しい…と言うか危ない笑い声を上げ始める大和。
俯いている為に表情は見えないが、口の辺りから瘴気のような黒い霧が吐き出されているように見える。
「しょ、少佐っ!?」
「イーニァ、離れてっ」
「や、ヤマト…?」
想い人の突然の奇行に、身構える唯依、イーニァを抱き寄せるクリスカ、そして不安そうに彼を見上げるイーニァ。
「ククク…クカカカカカカカカカカカカッ!!!」
「や、大和っ!?」
「いかん、少佐がおかしくなったぞ!?」
「ヤマト、いつもよりスゴクヘンだよ…っ」
突然勢い良く頭を上げて、今度は真上を向いた状態で両手を広げて笑い出す大和に、ドン引きな唯依と、慌てるクリスカ。
あと、イーニァさん、それはつまり何時も変と認識しているのでしょうか?
それは兎も角。
「クククク…ッ、武、俺は自重を止めるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
「や、大和ーーーーっ!?」
洒落にならない宣言に、思わず叫ぶ唯依姫、大和から発せられる謎の波動に身じろぐクリスカと何故か拍手しているイーニァ。
「オ・ノーーレ世界めッ、俺の行動をそうまで阻むなら、俺にも考えがあるぞ、ハハハハハハハハッ!!」
唯依達を尻目に、部屋の隅、と言うか虚空を指差して宣言すると、自分の机に向かい、パソコンを立ち上げる。
そして、パソコンの重要データファイルから次々にデータや設計図を開くとそれをプリンターで印刷していく。
「や、大和…?」
「何をしている中尉ッ、さっさと紙を補充せんかぁぁぁぁぁッッ!!?」
「ひ、はいぃっ!!」
おずおずと話かけたら、クワッと怖い顔で命令されて声が裏返る唯依姫。
慌ててプリンターに印刷用の紙を補充する。
その間も、設計図やデータが印刷されていく。
「70番格納庫か、俺だッ、今すぐ70番格納庫内の兵器保管倉庫を開けろッ、そうだ全部だ、全部出せッ!」
片手でパソコンを操作しながら、通信機で70番格納庫の人員に命令を出す大和。
その言葉に、通信機の向こうで通信機を取った整備兵の慌てる声が聞こえるが、大和は気にしない。
「保管倉庫…まさか、大和はアレを全部出すつもりなのか…!?」
「中尉、アレとはなんだ? 少佐はどうしたのだっ?」
戦慄と言うか、困った顔をしているのは、大和が何を出すように命じたのか理解できる唯依だ。
クリスカの問い掛けに、引き攣った頬で答えるが、流石に大和の異変には考えが及ばない。
「70番格納庫の兵器保管庫には、大和が前に造ってお蔵入りとなった武装や装備が眠っているんだ。理由は様々で、汎用性が無いとか、使い難いとか、趣味に走り過ぎとか、ネタにしか思えないとか…兎に角、色々在るんだ…」
唯依のその言葉に、同じように引き攣るクリスカの頬。
ただでさえ高い技術力で作られたそれらの武装は、壊したり破棄したりするのは勿体無いし、どこかで使えるだろうと保管されていたのだ。
それを出せという事は、使う心算だ、もしくは改良して量産とか。
「ねぇねぇ、これがゲンインじゃないかな…」
と言って、先程大和が大笑いを始めた際に放り投げたファイルを差し出すイーニァ。
中身はまだ見ていないが、イーニァはこれが原因じゃないかと思っている。
唯依が受け取ったファイルには、黒金 大和少佐と書かれているので、大和への辞令で間違いない。
本来なら勝手に見るのは問題なのだが、流石のあの状態の大和から事情を聞きだすのは無理と考えて、ファイルを開く唯依。
それを左右からイーニァとクリスカが覗き込む。
「何々…来る9月10日より、国連軍第11軍横浜基地にて、国連戦術機先進技術開発計画の開発責任者に着任し、開発計画の陣頭指揮を執ると共に、各国代表試験部隊への技術協力とXM3慣熟訓練の教導を兼任して行う事を命じる――――っ!?」
「参加する国は国連加盟国、現在4国、以後増える予定…なんだこれは…っ!?」
「えーっと、きかんはかくさんかこくぶたいがイッテイのケッカをのこすまで…?」
読み上げられるその辞令に、唖然とする面々。イーニァは微妙に首を傾げているが。
つまり、この横浜基地で、アラスカで現在やっている「プロミネンス計画」の真似事をすると言う事。
その責任者、この場合は開発責任者に大和が抜擢され、同時に参加国部隊の機体改良やXM3の教導もやってやれという命令。
現在の参加表明国は、統一中華戦線軍、ソ連(陸軍)、大東亜連合、豪州の四つ。
XM3の発表と共に、夕呼が国連加盟国各国へ打診していたのだ。
因みに、「プロミネンス計画」は一応成果を出しているが、横浜と比べるのは可哀相だ。
日本は最初から参加していないし、ソ連も“片方が”参加しているに過ぎない。
その日本は、唯依が参加しているのである意味参加国だ。
「そう言えば、基地の演習場が以前の倍以上の大きさになったが……」
「基地の内部に、宿舎や格納庫が増設されていたな……」
「シヅエがね、あたらしいショクドウができるって言ってたよ?」
思い出してみれば、思い当たる部分があった。
今年になって、特にスレッジハンマーが導入されてから急激に広くなった演習場。
それと時を同じくして地上に増設された、宿舎や格納庫。
それにイーニァが言う通り、食堂を含めたPXが増設され、現在食堂の臨時隊員が研修中。
「謀ったなドクタァァァァアァァァァッ!!」
「「「っ!?(ビクッ」」」
何故か博士をドクターと呼んで叫ぶ大和、この辞令で間違いなく仕事が増える。
いや、増えるなんて物じゃない、仕事漬けになる、漬けられて滲み込んでしまう。
今は参加国が四つだが、間違いなく増える。
ユーコン基地の計画で成果を出していない国や、今回の連続した事件や発表で横浜に注目している国とか特に。
「大和…なんて不憫な…っ」
「少佐、そこまで追い詰められて…!」
「ヤマト、かわいそう…」
口元を押さえて思わず涙する唯依、額を抑えて悲しむクリスカ、ウルウルしているイーニァ。
そんな三人に見つめられていた大和は、惜し気もなく印刷した設計図やデータを一通り纏めると、先程までのハイテンションが嘘のように沈んでいく。
「あ~~、人生ってこんな筈じゃない事ばかりってのは名言だね…へへ、へへへへ…」
今度はローテンションに切り替わったのか、纏めた物を執務机の上に置くと、今度はその机の下に入って蹲ってしまった。
「しょ、少佐、出てきてください、そんな情けない姿では部下に示しがつきませんよっ!?」
「なぁ唯依姫、なんだかとっても眠いんだ…君も疲れたろう、一緒に眠ろう…」
どこぞの犬の飼い主の少年のような事を呟きながら、慌てて引きずり出そうとした唯依姫の手を握ってワラう大和。
すっごく疲れた笑顔だった、目が死んでいる。
やっと雑事が片付いて、自分の仕事に専念できると思ったのにこの仕打ちだ、そりゃ大和だって壊れもするさ。
当然、大和が専念しようとしていた方も遅らせる事はできない、つまり大和に(仕事からの)逃げ場なし!
「え…あ…あぁ…そうだな…」
「ま、待て中尉っ、中尉まで飲み込まれるなっ!?」
想い人(告白済み)からの誘いの言葉に、ついフラフラと誘われてしまう唯依を、クリスカが慌てて引き摺り出す。
「ヤマトーー、わたしがいっしょにいてあげるよ?」
「あぁ、イーニァは良い子だなぁ…イーニァは良い、リリンが生み出した文化の体現だよ…」
意味が分からない事を呟きながら、唯依が退けられた隙間から滑り込むイーニァ。
やっぱり猫系なのか、狭い隙間にスルリと入って大和に甘えている。
「ちょ、少尉っ、羨ま…違った、私も――じゃないっ、兎に角出てきて下さい少佐!」
「うぅ、なんだよ唯依姫、君まで俺に働けと言うのかーー」
ブーブーと文句を言う大和の姿に、頭を抱えてしまう唯依姫。
対してクリスカは、そんな大和に胸キュンしていた。どんなツボしているんだこの子は。
「ヤマトかわいそう、わたしはヤマトのミカタだからね、なんでもいって!」
ここぞとばかりに攻めるイーニァ、ステラが居たら「イーニァ、恐ろしい子…ッ!」と言って下さっただろう。
「―――――――ッ、そうか、その手が在ったか…ッ!!」
唯依達がどうしようと悩んでいると、突然大和が出てきた。
そして何故かイーニァをお姫様抱っこして怪しい笑みを浮かべる。
「そうさ、何も俺一人でやる事は無い、権力も立場もあるのだ、こうなったら巻き込める奴は全員巻き込んでやる…フフフ、フハハハハハハハッ!!」
「ヤマトげんきになったね」
今度は高笑いを始めた大和と、お姫様抱っこにご満悦なイーニァ。
どうやら大和は、計画に責任者権限とかで大勢巻き込むつもりらしい。
主に、整備班や唯依達を。
「私も、99型の完成で仕事があるんだがなぁ…」
間違いなく巻き込まれる、と言うか巻き込まれなかったらそれはそれで乙女として悲しい唯依姫は、お姫様抱っこされるイーニァを羨ましそうに見るクリスカを視界に入れない様にしながら溜息をつくのだった。
因みに、武ちゃんも問答無用で巻き込まれた。
帝国軍の教導官への訓練がーーと言っても、俺はその倍の仕事が来たんじゃーーッと吼えられて、そのまま連行されたそうな。
まぁ、武ちゃんは疲れて帰っても癒してくれる新妻が二人居るからマシだ。
大和は、そろそろ70番格納庫に自分の仮眠室作ろうか本気で検討を始めている。
それを阻止できるかどうかは、唯依姫の頑張りに掛かっているだろう。