唐突な閑話、でなければただの小話、こっそり投稿(何
つまりは電波が人を操る証拠、もしくは妄想具現化。
がんばる横浜基地の人々~あぁ素晴らしき横浜魂~その1?
2001年某月某日――――――――――
国連軍第十一軍横浜基地、ここは極東の最終防衛戦にして、日本の最後の守りとまで言われる場所。
極東の魔女、東洋の女狐などの異名を持つ天才科学者、香月 夕呼が実質的に治めている場所でもある。
同じ国連軍からも謎多き場所として知られ、その技術力は世界トップクラスとまで噂されている。
「うだーーーー……」
「ちょっと斉藤、そのやる気の無い顔止めてよね、ついでに息も止めて」
「死ねと申しますか!?」
そんな基地の一角、兵士達の休憩所で項垂れている青年の周囲に集まるのは、スレッジハンマー乗りの兵士達だ。
彼らは元々は歩兵や戦車兵から引き抜かれ、横浜基地が誇る支援戦術車両「スレッジハンマー」のパイロットに選ばれた精鋭。
相方の少女にキツイこと言われているのは、操縦者の斉藤くん、愛されるバカ、愛すべきアホ、無敵の童貞、少年ハートの青年、熱血螺旋バカetc…。
色々な渾名を持つ、ある意味での有名人であり、これでもスレッジハンマー乗りの中では最高レベルの操縦者である。
「相変わらず釘原は斉藤にキツイなぁ…なんだ、ドSか?」
「ち、ちちち違うわよっ、アタシは別にドSなんかじゃっ」
「いや、俺の右足をグリグリと踏みつけている時点でドSですいだだだだだだだだっ!?」
ギュリンギュリンと踏みつけられる足、煙が出てます。
「もう、涙(るい)ちゃんたら…あんまり愛しちゃダメよ…?」
「ちがっ、だだだ誰がこんな熱血突撃能天気ドリル格闘童貞を愛するってのよっ!?」
「もう止めてっ、とっくに俺の心の体力はゼロよっ!?」
相方、釘原 涙(るい)の容赦のない言葉に、斉藤くん超涙。
だがそんな彼に同情してくれる仲間はいない、だってこれが彼のポジションであり日常だから。
「で、斉藤は何故そんな醜い顔をしているのですか?」
「み、醜いとなっ!? それはアレか、醜い顔で見難いと言いたいのか河田!?」
「死ねです」
妙な駄洒落に結びつける斉藤くんに、何故か持っていたスパナを投擲する少女、名前は河田 智音、見た目はロリ、中身は二十歳越えの立派な大人。
あべしっ!? という妙な悲鳴を上げながら直撃した額を押さえて悶える斉藤くん、痛そうだ。
「ひ、額が、俺の額が横手盆地っ!?」
「なんで秋田…まぁ良いや、で、何かあったのか?」
粗暴な言葉遣いの女性は、見た目年上なのに実はこの中で最年少、相方の河田と真逆の少女 満枝 渚だ。
斉藤より二つ年下なのに、平気でタメ口を利く女の子でもある。
「良くないよ!?」
「そうですよ~、斉藤くんが入院したらどうするの~」
斉藤の非難に、おっとり言葉の眼鏡美人さんが同意してくれた。
「あぁ、やはり俺の癒しの女神は梢さんだけだっ!!」
「斉藤くんが居ない間、誰を弄り倒せば良いのよ~」
「神は死んだっ!!」
涙目でロングヘアーの眼鏡美人である柏葉 梢を見上げるが、その後の言葉に絶望する斉藤くん。
「騒がしいぞ斉藤、少しは音量を下げろ、出来なければ喉を潰せ」
「酷いっ、小隊長酷いっすっ!?」
後からやってきた、カッコイイ系の白人女性の言葉に咽び泣く斉藤くん、その姿にウットリとした笑顔を浮かべるのは柏葉。
「ぜってぇ梢さんが一番のドSだって…」
「あの笑顔、恍惚としていますです」
「あぁいう人が一番危ないのよねぇ…」
満枝・河田・釘原で固まってヒソヒソと会話中、この面子のヒエラルキーのトップは柏葉で間違いないようだ。
「で、何を話していたんだお前達」
斉藤達が座るテーブルの空いている場所に座った小隊長ことハンナ・ヒリングスがモデルのような足を組んで問い掛けてきた。
彼女は斉藤達スレッジハンマー部隊の、小隊単位を預かる役職で、彼女達の隊長である。
元々は大陸で戦車兵として従事し、生き残って横浜基地へ配属された戦士だ。
「斉藤がいつチェリーから卒業出来るかを」
「話してないよっ!?」
「そうだぜ、斉藤のナニが仮性だって話を…」
「してないからっ、仮性じゃないですからっ!?」
「叫ぶな馬鹿犬っ!!」
「はぎゅんっ!?」
河田の言葉に半泣きで否定、満枝の失礼な言い掛かりにマジ顔で否定。
でも釘原に足を踏み抜かれて悲鳴を上げて沈黙。
「もう皆、あんまり愛しちゃダメよ?」
「柏葉、貴様の中で虐める=愛するなのか…?」
「そんな愛はイヤだぁぁ…っ」
ハンナの苦笑混じりの言葉に、斉藤くん本気で泣きが入る。
「で、何の話なんだ?」
「チェリー斉藤が、何か悩んでたみたいです」
釘原の報告に、それはまた珍しいなと斉藤を見るハンナ。
「チェリーって言わないで…チェリーって…」
「泣くな鬱陶しい、聞いてやるからさっさと話さんか」
軍人然としたハンナの蹴りと言葉に、席に戻って口を開く斉藤くん。
「それが、ここの所毎晩夢に変なオッサンが出てくるんですよ…」
「変なオッサン?」×5
「こう、太った感じで何となく身分が高そうな…」
5人の脳内で、太めの貴族風のオッサンが描かれる。
「裸で背中に妖精の羽っぽいのがついた、汗だらけの」
「ぶふっ!?」×5
続く斉藤の説明に、脳内のオッサンが凄い姿になった。
「妙な変態想像させるんじゃないわよチェリードッグ!!」
「俺の責任じゃげふっ!?」
釘原のストレートが綺麗に入った。
「で、そのオッサンがどうした?」
「うぅ…それが、毎晩夢に出てきて、「私の服とローブ知りません?」とか聞かれて、知らないって答えると「では何か着る物を貸してください」って汗ぎった顔で、しかも両手の先をこうパタパタさせながらと迫られて…」
「アッーですか?」
「ならないよっ!?」
河田の要らないツッコミに、全員がうげぇ…と顔を青くさせる。
「で、仕方ないから俺が着てた服を一枚貸してあげると、お礼を言いながら消えていくんですよ」
「なんだそれは…」
「そしたら次の日にその貸した服を着て登場するんです、オッサンが。そしてまた「服貸して下さい」と…」
「悪夢じゃねぇかそれっ!?」
「呪われてんじゃないのアンタ!?」
ゲンナリ顔のハンナ、戦慄する満枝と斉藤から距離を取る釘原。
しかも斉藤くんはスマートな体型なので、貸した服はピチピチぱっつんぱっつん、正直見るに耐えない姿だ。
「お陰で最近目覚めが悪いっす…」
「それはそうだろうな…」
「私だったらそのまま夢の中で気絶しちゃいますね~」
若干同情するハンナと、嫌そうな顔で呟く柏葉。
「あぁ、ヒリングス小隊長、ここに居たか」
「っと、篁中尉、敬礼!」
そこへ、資料らしきファイルを持った唯依が現れた。
ハンナの号令に全員が敬礼し、唯依も答礼する。
「この前話していた装備の説明書が完成したんだが、一応使用者の意見も欲しくてな。すまないが一度読んで問題ないか見てくれ」
「分かりました、期日は?」
「そうだな、明後日までには修正した物を提出してくれ」
「了解です」
唯依に手渡されたファイルを抱え、敬礼するハンナ。
その際に、唯依の目に隈が出来ているのに気付いた。
「中尉、寝不足のようですが大丈夫ですか?」
「え…あぁ、昨日少し夢見が悪くてな…」
苦笑する唯依、だがその表情は妙に青い。
斉藤は俺と同じっすねー! と嬉しそうだが、直後に釘原達から足踏み・肘鉄・スパナを頂く。
「妙な夢でな…あれはもう悪夢だ、夢の中で絵本のような世界で、突然ぱっつんぱっつんの国連軍の軍服を来た中年男性が現れて「私のマスター知りませんか?」と、こう両手の先をパタパタさせて近づいてくるんだ…」
「そ、それはまた……」
絶句するハンナ、視線が集中する斉藤。
「思わず、地面に置いてあった拳銃で撃ってしまったが、血を噴水のように撒き散らしながら逃げていった。なんだったんだろうな、あの悪夢は…」
「は、はははは、賢明な判断かと、中尉」
唯依の言葉に、笑うしかないハンナ。
因みに、唯依が撃った拳銃は「じゃっかる」と刻まれたパチ物臭い拳銃だったそうな。
「おや、揃ってどうかしたのか?」
「あ、黒金少佐…」
「敬礼っ!」
そこへ現れたのは、制服姿の大和だ。
手にしている書類を見るに、整備班と話し合いをしてきた所なのだろう。
「妙に空気が淀んでいるが、何かあったのか?」
「い、いえ別に何も…っ」
「中尉と俺の夢に、変なオッサンが出てきたって話です」
問い掛けてくる大和に、唯依は慌てて誤魔化そうとするが、サラリと斉藤くんが話してしまった。
別に聞かれてどうなる話でもないが、妙な悪夢で寝不足と知られるのは唯依姫的に恥ずかしいらしい。
あと斉藤くんは、ハンナに肘鉄喰らいました。
「ほう、妙なオッサンとな? それはアレか、頭髪が薄くサングラスをかけてタンクトップにパンツで裸足、そして語尾に「ウィリス」とか付けて喋るオッサンかね?」
「いや、何ですかその妙に具体的な人物は…」
大和の言葉に、それはそれで何か嫌だと思う女性陣。
「違うっす、こうMっパゲが進行し過ぎた感じの頭部にデブで汗がダクダクな感じの中年です」
「…………マジで?」
「マジでって何すか?」
「少佐、白銀語が出てます」
斉藤くんの説明に思わず武ちゃんの言葉を使ってしまう大和。
「あ、あと名前を名乗ってました、中尉は?」
「そう言えば、私も名乗られたな…確か―――」
「「ハルコンネンの精霊とか…」」
―――――――ぶわっ――――――――
二人の言葉を聞いた瞬間、大和の全身から汗が噴出した。
分かり易い位に、汗が流れている。
「しょ、少佐っ、どうしたんすか!?」
「もしや、何かご存知なのですか…?」
「あぁ…いや、その…」
驚く斉藤くんと、疑惑の視線を向けてくる唯依。
そんな二人や、見守っている面々の視線を前に歯切れの悪い大和。
「なんで精霊が?」「あれか、名前が問題だったか?」など、ブツブツ呟いている。
「あ、そう言えばハルコンネンって、この前ハンナ小隊長の機体に搭載した300mmセミオートカノンがそんな名前じゃなかったですか?」
釘原が唐突に思い出したのは、この前の演習で突然使用してくれと言われた、巨大な武装。
ハンナと柏葉が乗る機体と、別の小隊の機体が装備したその武装の名前が「ハルコンネンⅡ」。
「少佐…?」
「おっといけない、斯波班長に頼みがあるんだった、それじゃ俺はこれで!」
シュタッと手を上げてその場を逃げるように去る大和。
その姿に、あの人が原因か…と悟る面々。
「いやぁ、少佐って本当に忙しい人っすねぇ、尊敬するっすよ!」
分かってないのは、この男だけであった。
その晩―――――――――
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?!」×多数
「うおっ、皆どうしたんだよその隈っ!?」
「ちょっと寝不足なのよ…」
「うぅ、思い出したら気分が…」
「……………………………(ガクガクブルブル」
「お姉さん、あぁ言う人はタイプじゃないの~~」
「アレは、私でもキツイ…」
翌日のブリーフィングルーム、集合した小隊のメンバーは、斉藤を除いて全員が寝不足の隈を装備していた。
「そう言えば昨日、夜中に凄い悲鳴が響いたけど、皆知っているか?」
「知らない…」×5
斉藤のその問い掛けに、青い顔をして首を振る5人。
思い出したくないのだ、ピチピチぱっつんぱっつんなオッサンに「私のマスター知りませんか~?」と追いかけられる悪夢なんて。
とりあえず全員が、別の小隊のハルコンネンⅡを搭載した機体の兵士を教えておいた。
明日辺り、その面々が同じような姿をしている事だろう。
「で、何をしたんだ大和?」
「知らん、俺は知らんのだ唯依姫ッ!?」
執務室で、大和を壁際に追い詰めて問い詰める唯依姫。
彼女の手には、黒い大型拳銃「じゃっかる」があった。
これを大和の執務机の引き出しから発見した唯依は、あの夢に大和が関与していると断定して問い詰め中。
「唯依姫ッ、その拳銃は本当に技術班とノリで作っただけの品物なんだ…ッ」
「なら何故動揺したのですか少佐…?」
壁際に追い詰められる大和と、追い詰める唯依姫。
「少佐、失礼しま――――――――――した…っ」
そこへ入室したクリスカが、二人の姿を見て一瞬固まり、そのまま踵を返した。
少し泣いているように見えたのは、唯依の気のせいだろうか。
「まっ、待ってくれ少尉っ、誤解なんだ…ってこのやり取り前もあったぞっ、少尉ーーーっ!!」
誤解されたと思い、慌てて追いかける唯依。
大和と唯依の体勢は、クリスカからは唯依が大和を壁に押し付けて襲っているように見えたのだろう。
「うぅむ…ネタ武装は考え物だな……」
一連の騒動に、少し悩む大和。
彼も、まさかあの精霊が出てくるとは思っても居なかったのだ。
精霊が少し違うのは、戦術機の武装だからだろうか?
大和は唯依が慌てて置いて行った、つい調子に乗って作った「じゃっかる」を手にすると、鍵付きの引き出しに封印するのだった。