突発性馬鹿話症候群~つまりただの閑話~
もしくは暴走した妄想によるネタ
がんばれクロガネ~彼が逃亡者になった訳~
2001年某月某日――――
大和はこの日から数日の間、かつて無い危機に直面する事となった…。
「ヤマト、いっしょにねよう?」
「……………………………………ゑ?」
お気に入りのヌイグルミ、しらぬいくんを抱えて執務室へ現れたイーニァ。
彼女の口から発せられた言葉に、大和は一瞬思考が停止した。
俺の思考を止めるなんて大したもんですよと脳内で頷きつつ、咄嗟に一言口にするが、それは単語ですら無かった。
「だから、いっしょにねるの」
聞き間違いではないらしい。
手元のキーボードの上で痙攣する指。
どうも意識が混乱しているらしい。
「…………あぁ、なるほど、お昼寝をしようというお誘いかな?」
今はもう夜だぞーと笑顔で告げれば。
「ちがうよ、ベッドでいっしょにねるの」
と、無垢な瞳で返された。
あー、やっぱりそっちかこん畜生と笑顔で嘆きつつ、視線だけでチラリと横を見る。
「<● ><● >」←唯依
「<○ ><○ >」←クリスカ
左手側の唯依も、右手側のクリスカも、視線だけでこちらを見ている。
表情が無表情なのが余計に怖い。
あとクリスカの白い視線が微妙に辛い。
唯依は情報整理などをしているが、眼球だけがこっちを見ている。
クリスカはソファで頼まれた書類の整理をしているのだが、手はスムーズに動いているのに眼球がこっちを見ている。
こっち見んななんて言える訳もなく、ただただ怖い視線に内心汗ダクダクな大和。
「ねぇ、いっしょにねよう?」
「あ~、そうしたいのは山々なんだが…」
山々の辺りで唯依姫の方からの視線が強くなった。
「俺はまだ仕事があるし、イーニァはそろそろ眠くなる時間だろう? なにより、クリスカは良いのか?」
と何とか回避しようとするが。
「まってるからダイジョウブ、それにクリスカもいっしょだよ?」
「なぬッ!」
「―――っ?!(///」
イーニァの爆弾発言に、思わず喰いついてしまう大和と、ボンッという音と共に真っ赤になるクリスカ。
「―――――少佐?」
「いやいやいやッ、今日は徹夜になりそうでな、済まないがまた今度にしてくれないか?」
と言って、頭を撫でつつこの場を凌ごうとする大和。
唯依姫の平坦な声がとっても怖かった。
武ちゃんがこの場にいれば、一目散に逃げ出しているだろう。
「む~っ、やくそくだよっ?」
「あ、あぁ…」
仕方なく頷く大和、それに一応満足したのかイーニァは自室へと戻っていった。
真っ赤なクリスカも慌てて書類を片付けると後を追った。
恐らくイーニァが突然言い出した理由を聞きにいったのだろう。
「俺のせいじゃないよね?」
「いいえ、少佐の責任です」
何故に!? と頭を抱える大和に、拗ねた表情を隠しつつ彼と眠るというシチュエーションを想像してみる唯依。
畳の部屋、一つだけ敷かれた布団と、二つ並んだ枕。
枕元には小箱とティッシュ、そしてぼんやりとした灯りの電灯。
その部屋へ入った唯依は、大和に導かれるまま布団へと近づく。
そして布団の上に座った大和が、着ていた浴衣を肌蹴、鍛えられた胸板と腹筋を露出させて「 や ら な い か ?」――
「って違うっ!、それは違うだろう私っ!?」
「ぬぁッ、どうした中尉…ッ?」
突然顔を真っ赤にして両手で頬を押さえて悶える唯依に、かなりビビる大和。
「い、いえ、なんでもありません…っ」
想像と今のことで恥ずかしさが倍になった唯依は、真っ赤になって小さくなると、仕事を再開した。
大和はそんな唯依に首を傾げつつ、イーニァとの約束をどうすればと悩む。
普段のハグやらスリスリは、小動物とか妹、或いは娘的な存在に対する思いを持てばなんら問題ない。
しかし寝る、お昼寝等ではなく寝る。
これはハードルが高い、色々と。
あれでイーニァは出るところが出ている娘さんだ、歳も同じくらいだし。
基地内では女性に囲まれているのに手を出さない事から枯れていると思われている大和、確かに最近自分でも枯れているのでは…と思うことが多いらしい。
一応、毎朝元気なのだが。
何がとは聞いちゃいけない、男なら誰しも知っている事だし。
それは兎も角、何とかこの突発的なイベントを回避せねば、お仕置きでは済まなくなる。
「Nice boat.は嫌だ…ッ」
大和氏ねと言われるのも怖い彼は、何とかイーニァを説得しようと考えを巡らせるのだった。
数日後―――
「ヤマト…」
「あ~…その、なんだ…」
ウルウルと見上げてくるイーニァ。
ここ数日、仕事が忙しいと彼女との接触を絶っていた大和。
唯依姫も協力してくれたので、捕まらずに済んだのだが…。
自室の部屋の前で待ち伏せされたらどうしようもない。
執務室隣の仮眠室は駄目だ、イーニァは執務室に大和の姿がないと、執務室から繋がる仮眠室は必ず確認する。
「ヤマトぉ…」
しらぬいくんを抱き締めて上目使いで懇願してくるイーニァに、困り果てる大和。
普通の人間なら萌死ぬであろうイーニァの視線に耐える辺り、枯れているという可能性に信憑性が増すが。
「わ、分かった、今日は一緒に寝よう…」
終に折れた大和、イーニァの表情にぱぁっと花が咲く。
「ありがとうヤマト、いこうっ!」
大和の手を引いて部屋へと連れて行くイーニァ。
見た目とは裏腹に力の強いイーニァさん、掴んだその手をギリギリと離してくれません。
大和は煤けた表情で連れられながら、どうか知り合いに逢いませんようにとただ祈るのみ。
運が良いのか悪いのか、誰にも遭遇せずにイーニァのお部屋に到着。
「じゃぁ、すこしまっててね」
そう言って、イーニァは中へ入って扉を閉めてしまった。
何の準備をしているのか謎だが、このまま逃げちゃ駄目かなぁ、駄目だろうなぁと一人哀愁漂う姿で立ち尽くす大和。
「おかしい、これは武にこそ発生するべきイベントでは…ッ!?」
なんて、イベントの神様への恨みを吐いていたり。
ふと、気がつけば何やら部屋の中から争うような声が聞こえる。
と言うか、クリスカの悲鳴が聞こえる。
何をしているのかと不安になってきた時、中からイーニァの声が聞こえた。
入ってきてというその声に導かれるまま、扉を開ける大和。
「――――――――――ッ!!(絶句」
「ヤマト、やさしくしてね?」
「しっ、しししょ少佐ぁ…っ!?」
そこに広がっていた光景に絶句するしかない大和。
ベッドの上では、神秘的な白い肌を晒してこちらを見る二人の妖精。
仰向けのクリスカ、彼女に覆い被さっているイーニァ。
2人の身体を包む物は無く、イーニァの銀色の髪だけが彼女達の身体を隠している。
母性を守る為の下着もなく、床にはイーニァの物と思しき白い三角の布が丸まって落ちている。
「クリスカ、これもぬいで」
「だ、だめ、ダメよイーニァっ、少佐に、少佐に見られてしまうっ!」
クリスカの足の間に残る布をイーニァが脱がそうとし、それに弱々しく抵抗するクリスカ。
その余りの光景にフリーズしていた大和は、再起動すると共に扉を閉めた。
そして走った、素晴らしいスタートダッシュで、100mを10秒台で走り抜けると基地の屋上まで駆け上がる。
「総集編Vol1のピンナップやないかーーーーーーーーいッッッ!!!」
両手でメガホン作って叫んだ、門兵が驚いてBETAの襲撃かと慌てる位の大声だった。
「あれ、ヤマトにげちゃった…?」
「だ、だから言ったのよイーニァ、流石に裸は早いって…!」
首を傾げるイーニァと、赤くなりながら服を着るクリスカ。
と言うかクリスカは、服を着ていれば同衾を許すのだろうか。
「でも、カミヌマがはだかのほうがぜったいヤマトよろこぶって…」
「そう…イーニァ、これからは彼女の言う事は聞いちゃダメよ?」
優しく諭すクリスカ。
内心で明日上沼を張り倒すと誓いながら。
「うおっ!? 少佐、何をしてるんですかっ?」
「いや、うん、ちょっとね?」
70番格納庫。
夜勤当番の整備兵が、煩悩退散煩悩退散、助けて貰おう唯依姫に(お仕置き的な意味で)と歌いながら仕事をする大和を目撃。
何があったのか不明ながら、アハハハハと笑いながら仕事をする大和は、ただただ怖かったと彼は語る。
次の日、凄い隈を作りつつも爽やかに仕事をする大和。
クリスカと出会っても彼は何も見ていなかったかのように、普通だった。
それに対して流石は少佐…と尊敬するクリスカだったが、イーニァは逆にご立腹。
上沼に、大和に構ってもらうにはどうすれば良い?と聞いて、裸で寝ればOKよ!と言ったのを実行しようとしたのに、大和は自分に構ってくれない。
それどころか、申し訳無さそうなクリスカを慰めているではないか。
やはりあれか、寝なかったからかとイーニァは考えるが、大和のガードが固くなった。
仕事の後に中々捕まらないし、お願いも聞いて貰えない。
そこで、イーニァはまた上沼に意見を求めに行った。
何故上沼かと言うと、この手の質問に答えてくれるのが彼女だけという理由だ。
他のA-01メンバーは、揃いも揃って奥手で乙女なので、はぐらかしたり大人になれば分かるとか言って誤魔化す。
なので、答えてくれる上沼を頼るのだ。
そして上沼も良かれと思って間違った事を教えるので手におえない。
クリスカから何度も自重しろと言われて攻撃されても、彼女は「だが断るわ!」と自重しない。
酒と女とセクハラが信条の女、上沼 怜子。
ある意味での無敵キャラだ。
「そうね…こうなったら夜這いしかないわ!」
「よばい?」
更衣室で相談を受けた上沼は、自慢の胸を晒しながら胸を張った。
他に男が居ないとはいえ、少しは隠すことをして欲しいA-01の母性が小さい方々、特に東堂。
今は誰も居ないので、胸を隠せとツッコム人も居ない。
イーニァ? むしろ生もふもふです。
「そう、日本の伝統である夜這い、これならあの少佐もイチコロ間違いなし!」
ちょっと日本の伝統に謝って来い。
夜這いは西日本地方の習俗だ。
「イチコロ…っ!」
しかしイーニァは夜這いの効果に胸躍らせた。
彼女の脳内では、イチコロになった大和が、自分を膝の上に抱いてナデナデハグハグしている想像が駆け巡る。
一方の上沼の脳内では、イーニァに首輪とネコミミ、ネコ尻尾を付けてワイン片手に椅子に座って彼女を愛でる大和の姿。
両者の間で物凄い想像の誤差が生まれているが、まぁ兎も角。
「どうするの?」
「まずは、少佐の部屋を調べるの。そして少佐が寝静まった頃に部屋に侵入して、布団に潜りこむ」
上沼の説明を、ふんふんと真面目に聞くイーニァ。
クリスカや水月が居たなら問答無用で殴って中断させるのだが、誰も居ない。
「それでそれで?」
「少佐の服装にもよるけど、まずズボンを脱がして―――」
ハァハァと変質者な呼吸でイーニァに要らん事を教える上沼。
後日、彼女がクリスカを筆頭とした数名からシミュレーターでボコボコにされるのだが、また別のお話である。
上沼から話を聞いた日、イーニァは早速大和の部屋へと夜這いをかけた。
「あれ…?」
だが肝心の大和が居なかった。
執務室に居なくて、70番格納庫にも居なくて、PXにも居ない。
その後あちこち探し回るも見つからず、逆に探しに来たクリスカに捕まり、その日は失敗となった。
実は大和、80番格納庫の方に居たため発見されなかった。
80番は70番より機密レベルが高いので、イーニァでも立ち入り不可。
唯依ですら入れないのだ、と言うか彼女は80番格納庫を知らないし。
80番・90番に入れるのは、夕呼やピアティフなどの計画を知る人間だけなのだ。
次の日。
「あれ…」
「おや、どうしたイーニァ」
大和は居たが、まだ起きていた。
しかもデスクで書類仕事をしている。
「まだねないの?」
「? あぁ、明日提出する書類があってな、徹夜になりそうだ」
これは嘘でもなく本当。
国連に提出する書類なので、確り書かないと夕呼から書き直しを命じられたりする。
「……おやすみ」
「? あぁ、おやすみ…」
残念そうに扉を閉めるイーニァ。
今回の目的は夜這いなので、寝て居ないと駄目だと考えた彼女。
大和は寝るのを強請りに来たと思い、内心どうしようと考えていたので、アッサリ帰ったイーニァの行動に首を傾げていた。
また次の日。
「またいない…」
大和の部屋には誰も居らず、イーニァはガッカリ。
実は大和はこの日、執務室で仮眠をとっていたりする。
「むぅ…よばいはむずかしいの…」
上手く行かない夜這いに、ぷくぅっと頬を膨らませながらトテトテとベッドに近づく。
そして、ボスッとベッドにダイブ。
「あ……ヤマトのにおいがする…」
ベッドシーツや布団からする彼の匂いに、ウットリとするイーニァ。
「やさしいツキ…こどくなツキ……わたしのツキ…」
呟きながら瞳を閉じて、枕を抱き締めながら丸くなる。
はにゃ~んと蕩けながら、イーニァは夢の中へと落ちていった。
「ん、誰か居るのか…?」
仮眠室で寝ていたが唯依に叩き起こされ、寝るならちゃんと自室で寝てくださいと言われて渋々部屋に戻ってきた大和。
暗い部屋の中に感じる気配に、懐の拳銃に手をかけながら電灯のスイッチを押す。
「……イーニァ?」
そこに居たのは、自分のベッドに丸くなって眠るイーニァの姿。
すやすやと眠るイーニァは、完全に熟睡している。
「………悪い事をしているな、俺は…」
苦笑しながら灯りを消すと、ベッド脇の電灯を点けて彼女の傍らに腰を降ろす。
眠るお姫様の綺麗な銀髪を撫でながら、ただ微笑む大和。
イーニァの気持ちを知りながら、理解しながらも一線を絶対に越えない大和。
それは、他の女性にも言える事。
「ごめんなイーニァ…俺は、弱虫なんだ……」
人を愛する事、人に愛される事。
普通の人間なら当たり前に出来るそれが、大和には出来ない。
愛せない、愛してはいけない。
何故なら自分は因果導体。
その果てにあるのは、消滅と消去。
死と共にある消滅の後は、世界からの消去が待っている。
武の事を人々が忘れたように、彼もまた、人々から忘れられる運命にある。
だから怖い、人を愛する事が。
愛した人に、忘れられる恐怖が。
だから怖い、誰かを愛する事が。
愛した人とまた出逢った時の、初めましての始まりが。
親しかった人、お世話になった人、仲間だった人に忘れられ、そしてまた新しく出会っても耐えられる、耐えられた。
でも、愛した人は駄目だった。
耐えられなかった、受け入れられなかった。
命を懸けて愛した人が、知らない人を見る目で自分を見つめるのが耐えられなかった。
だから、大和は人を愛するのを止めた。
誰かに愛されても、求められても、感謝の言葉で拒絶した。
そうしなければ、自分が耐えられない。
心が、耐えられない。
この地獄の輪廻で、生きて行けなくなる。
進む事が、出来なくなる。
だから彼は、一線を越えない。
越えた先にあるのは、自分も相手も悲しむだけの結末だから。
「だから…ごめんなイーニァ…」
ゆっくりと、彼女の頬に口付けて、大和は背中を壁に預けると瞳を閉じた。
せめて、彼女に安らぎがあるよう願い、髪を撫でながら……。
次の日、唯依は朝から大和の部屋を目指していた。
昨日の夜に、仮眠室から大和を叩き出したものの、その事を気にして起こしにきたのだ。
「あれは、その、仕方なかったんだ。ああでもしないと大和は仮眠室で寝泊りするようになるし…」
斯衛軍時代、仮眠室で寝泊りを始めた大和は、いつの間にやら私物を持ち込んで仮眠室を占領しやがった。
逆に宿舎の自室はシーツにまで埃が溜まる始末。
唯依が雨宮中尉達と一緒に強制退去させた過去がある。
その際に、大和は月詠大尉から3時間お説教されたものだ。
その後、大尉から大和の監視を頼むと言われ、以後仮眠室に居付こうとしたら叩き出すのが唯依の定期的な仕事になったり。
「仕事の疲れで部屋まで戻るのが億劫なのは分かるが、軍人として最低限の…」
ブツブツと呟きながら部屋を目指す唯依。
彼のスケジュールを管理するのも自分の仕事なら、彼の体調を気遣うのも自分の仕事だと思っている彼女。
何故なら自分は彼の副官、パートナーなのだ。
女房役でも良い。
「にょ、女房…っ」
自分で思い浮かべた単語に、赤くなっていやんいやんする唯依。
彼女も何だかんだで染まったものである。
「少佐、お時間です、起きていらっしゃいますか?」
扉をコンコンとノックし、声をかける。
が、中から返答が無い。
大和は寝起きは良いのだが、時々寝過ごしたりする事がある。
仕事に遅刻はしないものの、身嗜みや食事が出来なくて朝から腹の虫と戦う事になったり。
そうなったら大変だ、これは副官としての仕事なのだと何故か自分を誤魔化して、扉を開ける唯依姫。
「しょ、少佐、おはようございます。起床時間ですので起きてくだ―――」
扉を開けながら声をかけていた言葉が止まり、絶句する唯依姫。
その理由は、ベッドに腰掛けて壁を背に眠る大和と、彼の膝枕で眠るイーニァ。
これだけなら、イーニァを膝枕していて眠っただけと、唯依も理解できる。
だが―――
「ん……おや、もう朝か…って、唯依姫? どうしたんだ、そんな衝撃的なシーンを見てしまったような…顔を…して…?」
扉の場所で固まる彼女の視線を追いつつ自分の膝の上を見れば、そこにはイーニァの頭。
そのまま視線をずらして行けば、ぷにぷにしてそうな綺麗な白い肌。
その他には何も見当たらない、ぶっちゃけ生まれたままの姿のイーニァ。
現状を理解し、確か自分が来た時は服着てたよな~と思いつつ視線を上げれば、目が真っ黒く染まり赤い光点が中心で光る、暗黒修羅姫の唯依さんが。
「大和…? どういうことか、説明して貰えるかしら…?」
「いや、その、唯依姫? 俺にも何がなんだか分からないんだが…」
ゆらり、ゆらりと近づいてくる彼女に、命の危機を本気で感じる大和。
こんな危機感、かなり久しぶりだ。
「うにゅぅ……うるさいよぉ…」
その時、2人の声に目を覚ましたイーニァが、目をコシコシしながら起き上がる。
「い、イーニァ?」
「あ、おはようヤマト。あのね、すっごくきもちよかったよ!」
イーニァさん、 爆 弾 発 言 。
この瞬間、唯依姫の髪がぶわっと広がり、彼女から禍々しいオーラが放たれ始める。
「唯依姫ッ、違うッ、これは違う筈だッ!」
「何が違うのかしら…や・ま・と…?」
平坦な声が逆に恐ろしい彼女。
冷や汗ダラダラ、イーニァは状況が分からずに首を傾げつつ大和の膝でゴロゴロしている。
それが余計に唯依を煽る。
「……? どうしてタカムラおこってるの…?」
「―――っ、そ、それは…っ!」
だが、イーニァの無垢な疑問が彼女を怯ませる!
「それは、その、男女が一緒に寝たりしたら、色々問題があるだろうっ!?」
「? でも、ヤマトがよろこぶってカミヌマがいってたよ?」
唯依は上沼の事を知らないが、もし逢ったら殴ろうと考えた。
イーニァに足りないのはその辺りの常識だったかと痛感しつつ、どうしようと途方に暮れる大和。
「少佐、失礼します。イーニァを知りませ―――っ!?」
とそこへ、昨日イーニァが帰ってこなかったので心配で顔を出したクリスカが。
裸で大和にスリスリするイーニァの姿に絶句。
「い、いいいイーニァっ、何をしているのっ!?」
「あ、クリスカ、おはよう。あ、ごめんねわたしだけ…きょうはクリスカもいっしょにねようね?」
「あ、ありがとうイーニァ…って違う、そうじゃないぞ私っ!?」
ついイーニァの無垢な言葉に受け入れてしまうが赤い顔で首を振るクリスカ。
「大和、どういうことか説明を!」
「少佐、説明してくれ、何でイーニァははだ、はだ、はだ…イーニァ服を着て!」
問い詰めてくる2人に、もう諦めの境地に達しそうな大和。
彼だって何がなんだか分からないのだから。
「イーニァ、どうして裸なの…?」
クリスカが下着を着ているイーニァに問い掛ければ。
「えっとね、(大和が)ねているときに、ぬいだほうがいいって(上沼が)いって(たのを思い出して)、それで(自分の服だけ)ぬがしたの」
素敵に誤解を招く言葉だった。
イーニァ、大和が眠りに入った頃に一度目覚め、傍で大和が寝ている事に気付いて、チャンスだと思って自分の服を脱いだものの、眠かったので膝枕で我慢して眠ったらしい。
だが誤解してギラリと大和を睨む唯依と、どこか悔しそうなクリスカ。
「大和、ちょっと裏まで来て貰おうかしら…」
そう言って親指でクイクイと何処かを指差す唯依姫。
大和には、親指の先が地獄を指しているように思え…
「唯依姫…すまん!」
「え――ひゃんっ!?」
眼前に迫っていた彼女の身体に手を回し、背中をつつつーーーっと指先で撫でる。
その感触に可愛い悲鳴を上げて跳び下がった瞬間、スルリと唯依とクリスカを避けて逃げ出す大和。
「あっ、待て大和っ!?」
「少佐、説明をっ!!」
「俺は本当に何も知らんのだーーーーッ!!」
追いかけてくる唯依と、部屋から説明を求めて声を上げるクリスカ。
イーニァはそんな彼らを見送りながら、もそもそと着替えるのだった。
数時間後、クリスカがイーニァから事の詳細をちゃんと聞きだし、唯依を止めるまで、大和は逃げ続ける事になったとか。
それでも整備班への指示をして仕事をしている辺り、大和も唯依も流石である。
なお、朝の一件で大和の枯れているという噂が消え、彼は受け専門だという謎の噂が広がるが、どうでも良い事である。