2001年5月27日―――
13:30――――
座学の教室へと移動した207の面々は、武の事を気にしつつも大和の到着を待った。
「全員、揃っているな」
「篁中尉に敬礼!」
だが、教室の扉を開けて入ってきたのは、唯依とまりもだった。
まりもの言葉に全員が慌てて立ち上がり敬礼し、それに唯依も答礼する。
「本来なら少佐が試験改造機、『響』の特性と装備の説明を行う予定だったが、急な用件で私が代行する事になった」
「それと、黒金少佐からの伝言で、白銀大尉に関しては心配するなとの事だ。全員、今は篁中尉の説明に集中しろ」
唯依とまりものそれぞれの言葉に、とりあえず納得して返事をする面々。
大和は忙しい人間だし、その大和が心配無用と言うなら武の方も安心だ。
となると、彼女達がやる事は、これから始まる説明で自分達の練習機である『響』を理解する事にある。
「それでは説明を始める。まずこの『響』は、見た目の装備以外にも各部関節、及び機体全体の剛性が高められている。これは――――」
スラスラと続く唯依の説明を、メモを取りつつ真剣に聞き入る面々。
まりもも、今後の教導の為に『響』の説明を訓練兵達と同じように聞いている。
唯依は唯依で急な代役だったが、大和が作った資料と事前に見せてもらった特徴やスペック表から理解した事を説明していく。
『響』の大きな特性は、まず装備された追加スラスターによる空中機動だ。
背中の可動式追加スラスターで跳躍補助から空中や地表での急加速や反転が可能であり、細かい姿勢制御は腰部や太股のスラスターで行う。
吹雪に比べて倍以上の時間での滞空と飛翔が可能であり、可動式追加スラスターを上手く使えば空中での高速回避も可能だ。
当然操作も複雑かつ精密な物を求められるが、これは搭載されたOSとシステムがデータを蓄積する事で姿勢制御や回避行動のデータから細かい動作を自動で判断してくれる様になると言う。
つまり、練習すればするほど、機体が自由にかつ簡単に動かせるようになるのだ。
これらの機動によって機体に生じる負荷を計算し、機体全体、特に関節部や接続部は剛性を高め、強化してある。
「次に、黒金少佐の設計する機体の最大の特徴であるCWSについて説明する。CWS、チェンジ・ウェポン・システムはその名の通り規格化された武装を交換する事で作戦や任務、ポジションや状況に応じて必要な武装を簡単に装備・交換が出来るシステムだ」
説明しつつ、まりもに手伝ってもらいながらスクリーンに響の機体映像を写す。
「響には肩部ブロック先端にこのCWSが搭載されている。今後開発される機体も、基本は全てこの場所に搭載される事になる」
指示棒で響の肩部ブロック先を指し示しながら説明する唯依姫。
もしこの場に大和が居たなら、ツンデレ秘書さんGJとか言ってただろう。
「今現在開発されているCWSのバリエーションは、他に手腕の前腕部外側、太股、脹脛の合計4ヶ所だが、これらを使いこなすには時間がかかる。その為、響や今後量産される機体には肩部ブロックのCWSしか搭載していない」
これは、全部の箇所にCWSを搭載しても、衛士が直には使いこなせないからだ。
雪風が4ヶ所全て、合計八個のCWSを搭載した機体なのだが、試験操縦をしたまりもと唯依、エース級の腕を持つ彼女達でも使いこなせなかったのだ。
一番使いこなしていたのはまりもで、これは武との教導があったから出た結果だ。
今現在、武と対戦しつつ乗っている月詠中尉は単純に練習する期間が無かったので、有効に使えているのは2ヶ所だけ。
唯依姫は現在シミュレーターで猛烈練習中である。
「今後CWSが広まり、多くの衛士が使いこなせるようになれば搭載箇所は増えていく事だろう。その第一陣である貴官等は、責任重大である事を理解しろ」
「はいっ!」×10
「よし。しかし一箇所だけとは言え、このCWSの存在は非常にありがたい物だ。既存の機体を操縦した事がない貴官等は分からないだろうが、戦闘中に手数が足りないと困る事が非常に多いのだ」
例えばBETAを殲滅している時、目の前の突撃級や要撃級を突撃砲で攻撃していると、小型種、特に戦車級に群がられる事が多い。
この戦車級を排除しようにも、目の前からは突撃級と要撃級、跳んで振り落とそうにも後ろには光線級。
こんな状態から戦車級に齧られたり、戦車級を排除している時に突撃級や要撃級にやられたりするのが多いのだ。
こうならない為に二機連携を最低でも組むのだが、その二機が同じ状況なら意味が無い。
そこでこのCWSに搭載された武装の出番となる。
武装によっても異なるが、207の彼女達が選択装備できる武装は改良したガトリングユニットと、小型シールドの内部にグレネードランチャーと小型ミサイルが搭載されたシールドランチャーユニット。
多連装ミサイルコンテナとレーダーが一体化したミサイルユニット、150mm砲弾を発射する支援狙撃砲がアームで接続されたスナイプカノンユニットの全4種類。
ガトリングユニットは、以前大和が使用していた物を改良し、さらに小型化。
ガトリングを片側2門から1問へ変更し、その代りにマルチランチャーを搭載。
ハードポイントとの接続部が前後回転する上に、左右50度の射角を保持しており、主に接近する小型種掃討や弾幕など前衛に合わせた装備である。
「ガトリングユニットは設定によっては接近する敵に自動で牽制を行わせる事が可能であり、前衛で戦う者にお勧めだそうだ」
また、長刀を使用中の場合、攻撃モーションの邪魔にならないように自動で判断して動きを阻害しない位置に砲門を移動させる。
自動攻撃も、味方機を誤射しないように確りとシステム設定がされているし、ユニットその物にセンサーが搭載されているので精度は高い。
「マルチランチャーには、グレネードや吸着爆弾、その他開発中の榴弾が発射可能だ」
敵前衛の突破や、小型種の一掃、対要塞級に装備されたのがこれだ。
大和が戦いで使用した『爆導弾』も、新たに開発された物である。
「次のシールドランチャーユニットだが、これは中盤や後衛を受け持つ機体にお勧めの支援装備だ」
手腕を覆う程度のシールド内部に、マルチランチャーと小型誘導ミサイルが搭載されたのがこの装備。
ランチャーとミサイルはそれぞれ片側に装備され、右側シールド内部にランチャー、左側がミサイル、或いは右左反対でも装備可能。
シールドは多目的追加装甲を流用しているのである程度硬いが、流石にレーザーは防げない。
それでも、中盤や後衛などの援護が主体で楯を持てない機体にはありがたい事が多い装備だ。
唯依はこの時伝えなかったが、これは対戦術機を想定した装備だ。
伝えなかったのは、訓練兵である彼女達の目標は対BETAであり、その事に集中させる為だ。
模擬戦で使うだけならどれだけ良い事か…そう呟いた大和を思い出しながら。
「こちらのランチャーとミサイルも、各種種類が存在する。実戦の際は、任務や状況に合わせて交換する事になる」
スクリーンに映る榴弾や砲弾の種類も含めて説明する唯依。
多種多様な戦況とポジション、衛士の特性に合わせて大和が夕呼と開発をしている武装群は、本当に多い。
中には武からネタだろこれ…とツッコまれるものまであるらしい。
「多連装ミサイルユニットは、92式多目的自律誘導弾システムをCWS用に設計し直した装備だ。縦長のコンテナ内部に、横2列、縦10列の合計20発が搭載されている。左右で40発、一発ずつ発射する事も可能だ。弾切れ後もシールドとして機能するように外側に追加装甲を使用している」
さらに、ミサイルコンテナ上部にはレーダーが搭載され、索敵範囲を広げている。
「このユニットはまだ改良中で、この後外側に36mmを使用した機銃が搭載されるそうだ」
唯依が表示させたのは設計図だが、確かに外側に円形のパーツから2門の砲塔が出ていて、可動して攻撃可能のようだ。
「それと、当然ながらこれらのユニットは簡単に切り離しが可能になっている。弾切れや破損で邪魔になったら躊躇せずに切り離す事を覚えておけ」
その際に、機体の運動性能は重りが無くなった事で若干上昇すると付け加える唯依。
「最後のスナイプカノンユニット、これは砲撃支援用の装備と言っても過言ではない。右肩に搭載されたアームと支援狙撃砲からなる装備で、この支援狙撃砲はその名の通り、長距離からの150mmによる狙撃を目的としている」
スクリーンに表示されたユニットは、対物狙撃銃のような見た目の支援狙撃砲と多関節アーム。
右手腕でグリップとトリガーを、左手でフォアグリップを掴み、構える形になる。
左肩にはデータリンク間接照準機が搭載されており、瞬時に狙いを付けられるようになっている。
さらにデータリンクを利用し、仲間の機体が捕捉、マーカーした機体を、自分の機体がロックオンしていなくても間接照準で狙撃可能。
その為に左肩のユニットには複合センサーとアンテナが装備されている。
「この装備は完全に使う人間を選ぶもので、他の武装に比べて評価が低い。だが、この支援狙撃砲の威力と射程、そして機能は実際に戦って理解すると良い」
そう語る唯依の表情は、妙に煤けていた。
まりもも、うんうんと深く頷いている。
実はこの装備の実証テストでまりも&唯依VS武&大和で対戦したのだが、二人は見事に狙撃された。
機体は試験稼働テストを兼ねているので響でやったのだが、武機に唯依機が発見された途端、長距離からの狙撃で頭を撃ち抜かれた。
ペイント弾でなければ、150mmの直撃だ、胴体上部も喰われた事だろう。
まりもは武を相手にしつつ障害物から隠れながら大和を探したが、武機と長刀で鍔迫り合いをしている最中に真横から狙撃され、大破判定をされた。
大和の狙撃の腕は普通より上程度なのだが、大和の機体はなんと演習場の端っこから狙撃していた。
射程距離もそうだが、間接照準リンクが恐ろしい。
誰か一機にでも発見されれば、途端にロックされるのだ。
障害物に隠れても、もし実戦ならば150mmで多少の障害物すら破壊して襲ってくる。
対戦した二人は使い手が一流なら恐ろしいと言うが、その一流、いや、超一流となる狙撃の姫を知る武と大和は、恐ろしさはこんな物じゃないと震えていたり。
彼女が自信と経験を身につけた時、その時が真の恐怖の始まりなのだ。
「因みに220mmの支援狙撃砲も開発中なのだが…こちらは腰を据えないと撃てないらしいから、戦術機向けではないな」
運用するとすれば、同じようにCWSを装備している重量級のスレッジハンマーだろう。
スレッジハンマーの手腕はガトリングが標準だが、元は戦術機なので普通の腕も装備可能だ。
「さて、一通り説明した中で質問はあるか?」
唯依のこの言葉に、待っていましたとばかりに手を上げる訓練兵達。
彼女達の身を乗り出さんばかりの勢いに、唯依は苦笑しつつ順番に彼女達の質問に答えるのだった。
唯依が代役で207への説明を行っている頃。
大和は夕呼に呼び出されて彼女の執務室へと出頭していた。
「鉄屑が来週には…?」
「送ってくれるそうよ。今週で展示予定が消化するから終わり次第直にですって」
夕呼の言葉に意外という表情を浮かべる大和。
「確か予定では207の任官後では…?」
「それがさぁ、渡した設計図とかから造った製品が予想以上だったらしくて。会社の方が急かしまくって、軍も渋々って所ね」
「それはそれは…」
苦笑するしかない大和、どうやら渡した物が予想以上に喜ばれたらしい。
物が届いた後、後金として数種類の設計図を譲渡するので、急かしたのは早く他の設計図やデータが欲しいのだろう。
「是非とも今後の協力をですって。F-22Aに負けたのがよっぽど悔しかったのねあの連中」
「それはそうでしょう、YF-22側も、向こうが採用されると思っていたらしいですからね」
それが、G弾という危険な品物の完成で狂った。
採用される筈だった機体は、世界一高価な鉄屑という不名誉な名前で呼ばれ、雨曝しの後は博物館の展示品である。
「会社の方が、機体は好きにして良いからデータと、できれば姿はそのままでって言ってきたけど?」
「ご心配なくと伝えてください。あれのステルス性能はF-22Aより高い。無理に姿を変えてそれを潰すのは勿体無いですから」
「………連中対策かしら?」
「それもあります。あって困る機能じゃありませんし、機体を活かす形で改造しますよ」
元々が最高レベルのスペックを誇る機体なのだ、少し弄るだけで余裕で性能が上がる。
「軍の方は大丈夫だったのですか?」
「最初は自国の技術の流出云々で煩かったけど、必要ない設計図とかデータ渡したら黙ったわ。向こうにしてみれば、使えない鉄屑より使えるデータって事でしょう」
因みにその設計図もデータも、現在横浜で普通に使われている。
と言うか、スレッジハンマーの動力や駆動部の設計図だったりする。
後々スレッジハンマーを導入した軍が、もっと早く導入するんだったと嘆くのは未来のお話。
「XG-70の方も予定通り搬入できそうだし、アタシも仕事に専念できるわ~」
「ご苦労様です」
未だ公表していないXM3や雪風など、色々と煩い連中の相手で疲れていたらしい。
ストレス発散にその連中をあしらっているのだが、多いと逆に疲れるようだ。
「それと、80番格納庫のアレ、機体は組みあがってきたけど、肝心の制御回路はどうするつもり?」
「そちらは、博士の研究が一段落したら協力をお願いしようかと…」
「――っ、呆れた…アンタ、アレにアタシの研究を使うつもりだったのね…」
「でなければ、想定したスペックを満たす事が出来ませんので」
しれっと答える大和に、夕呼は呆れたように嘆息するとパソコンに向う。
「片手間にだけど準備だけは始めてあげる。その代り、ちゃんと形にしなさいよね?」
「当然です、アレは、眠り姫を守る楯なんですからね」
そう言って、夕呼から渡された書類を持って執務室を後にする大和。
それを見送った彼女は、再び嘆息すると仕事を再開するのだった。
19:40――――
207への響の説明と、明日からの教導予定を説明しPXで食事を終えた唯依は執務室へと戻ってきた。
予想以上に訓練兵達の質問や疑問が多く、説明より長い時間質疑応答を行う事になっていたが。
「おや、お帰り中尉」
「少佐、戻っていたのですか…」
用件は分からないが夕呼に呼び出されたので戻る時間が分からなかった大和は、既に執務室で仕事をしていた。
「ついさっきな、今まで整備班長と問題点を相談していた所さ」
地上格納庫の陽炎改造機前で、夕呼の所から戻るなり延々話し合いと改造を行っていたらしい。
これには唯依も苦笑するしかない。
「訓練兵達、少佐が来るのを楽しみにしていたようですが?」
特に築地・高原・麻倉が…とは言わない唯依。
「それは悪い事をした。明日からの教導で挽回するとしよう。あと中尉、急ぎの仕事は?」
「え…いえ、特にありませんが?」
説明に使用した書類と使ったデータなどを机の上に降ろしながら顔を向ける。
すると大和が一つのファイルを差し出していた。
「これは?」
「辞令。あぁ、中尉にじゃなくて、そこに書かれている二人にね」
「はぁ…」
ファイルを見れば、ホーク隊所属衛士タリサ・マナンダル少尉、同隊所属衛士ステラ・ブレーメル少尉と書いてある。
「今から隊の隊長と二人の所へ行って、渡してきて貰えるかな? あとその二人を連れて来て欲しい」
「それは構いませんが…また、何か企んでいるのですか?」
腰に手をあて、ジト目で見てくる唯依に、大和はニヤリと笑うだけで答えない。
「はぁ…もう、少佐の悪い癖ですよ、その悪巧み癖は…」
「失敬な、人生の潤いを得る為のサプライズなイベントじゃないか」
なら私にも人生の潤いを下さいと内心で愚痴りつつ、ファイルを持って執務室を出る。
ファイルには部隊長への書類と両少尉への辞令、さらに今回の辞令の理由とそれぞれの部屋が書かれた地図が同封されている。
「全く、今度は何を企んでいるのやら……」
散々大和と武の悪巧みや計画に振り回されてきた唯依は、半ば諦めムードで足を進める。
内心で、その悪巧みに巻き込まれた二人の少尉へ黙祷を捧げながら。
タリサとステラの二人は、寄宿舎の中にある休憩室で談笑していた。
そこへ、部隊の隊長が一人の女性を連れて現れた事で談笑タイムは終了となった。
「この二人が、マナンダル少尉とブレーメル少尉だ」
「ありがとうございます大尉」
案内した部隊長は、女性に二人を紹介すると、何故か哀れみの視線を残して去っていった。
その意味を理解する前に、二人は現れた女性を見て驚く。
「た、タカムラ中尉っ?」
「どうかしましたか?」
数日前に逢った唯依が突然現れた事で動揺するタリサと、内心動揺しつつも敬礼して問い掛けるステラ。
「なるほど、二人がそうだったのか…。今日来たのは他でもない、二人に辞令を持って来た」
唯依は二人を見て何かを納得しつつ、ファイルからそれぞれ辞令の書かれた紙を渡す。
それを戸惑いつつも受け取り、読み始めた二人の表情に驚きが走る。
「なんだこれっ、明日付けで現部隊より副司令直轄の戦術機開発部隊への転属を命ずるって……」
「しかも副司令とクロガネ少佐からの命令…っ?」
口をあんぐりと開いて驚くタリサと、困惑を浮かべるステラ。
辞令には明日から副司令直轄の戦術機開発部隊への転属命令がシンプルに書かれてある。
しかもその辞令は大和から出ており、副司令である夕呼の承認も確りとある。
実は大和が夕呼から受け取った書類の中にこの辞令があったのだ。
あの部隊長が二人に向けた哀れみの視線の意味は、色々と黒い噂の絶えない副司令の直轄へ飛ばされる事を哀れんでだ。
まだ着任して日が浅い二人は知らないが、夕呼には色々と危ない噂が多い。
あの歳で副司令で、しかも天才科学者。
幼い少女を助手にしていて、直属の部隊は最精鋭と噂される。
他にも、学校の怪談的な噂も多いが、とりあえず置いておく。
「早速だが、黒金少佐がお呼びだ。直ちに出頭を命ずる」
「「は、はい!」」
唯依の命令にまだ混乱から抜け切らない二人は、反射的に敬礼して歩き出した唯依の後を追うのだった。
「失礼します少佐、マナンダル少尉およびブレーメル少尉をお連れしました」
「あぁ、ご苦労様中尉。二人とも入ってくれ」
唯依を先頭に大和の執務室へと入室する三人。
唯依は大和に報告をすると、早々に自分の執務机に向ってしまう。
残された二人がその場で立っていると、大和がソファの前まで二人を招いた。
「辞令を受け取ったから理解していると思うが、明日から二人には副司令直轄の部門…戦術機開発の仕事に従事してもらう」
ソファに座るように促された二人が座ったのを見て、話を始める大和。
「あの、それってアタシ達は何をすれば…?」
「何、俺が改造や設計をした機体の操縦…つまり、テストパイロットだ。二人の戦術機操作の腕前を買って推薦したのだが、問題があるかな?」
「い、いえ、とんでもないっ、凄く光栄ですっ!」
大和の言葉に、両手をわたわたさせて答えるタリサ。
「しかし、何故我々を…?」
「先ほど言った腕前…だけでは納得しないかな、ブレーメル少尉」
「…はい、腕前だけなら我々より上の人間は居る筈ですし、あの時少佐と二機連携をとっていた衛士も居る筈です」
あの時の衛士、つまり武という存在が居るのに、何故自分達なのかと言うステラの疑問に、大和は楽しそうに笑みを浮かべる。
原作どおり、冷静な判断力を持つステラは、今回の辞令の異質さを十分に理解している。
タリサの今回の辞令が変なのは理解しているが、テストパイロットの話に完全に惹かれている。
「まぁ、二人のお国の事情も考慮して…と言っておこうか。後は単純に“知っているから”だよ、少尉」
「………そうですか」
大和の雰囲気からこれ以上の詮索ははぐらかされると感じたステラは、追求を止めた。
大和の知っているという言葉に多少引っ掛かったが、この前の戦いの時の事を指していると思い忘れる事にする。
どんな事情があるにせよ、既に辞令が降りているのだから。
それに、横浜基地の中心とも言える人物の一人に認められ、しかも戦術機開発のテストパイロットに選ばれたのだ。
これはチャンスだとステラは思った。
「話を進めるが、二人には明日から陽炎…F-15を改造した機体のテストを行ってもらう。テスト項目などは篁中尉が把握しているから明日から彼女の指示で動いて欲しい」
「「了解しました!」」
「詳しい事はまた明日彼女から説明があるが、二人の仕事が重要な事である事は十分理解しておいて欲しい」
大和の言葉に敬礼と共に応え、本日は解散となる。
二人が退室するのを見送ると、大和は早速次の予定を立て始める。
「少佐、あの二人をテストパイロットにするのは良いですが、何をやらせようと思っているのですか?」
「何、陽炎改造機の性能証明が欲しくてね。データや文章より、映像の方が良いだろう?」
論より証拠、百聞は一見にしかず。
お偉いさんを納得させるのには、インパクトのある映像が一番だと考える大和。
「ちょうどあいつ等も陽炎に乗っているようだし、二人には頑張って貰わないとなぁ…」
そう言って邪笑する大和の視線の先には、昼の一件の時の少尉二人のデータ。
唯依はその光景を見て、生贄となる者へ黙祷を捧げるのであった。