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No.5082の一覧
[0] 機動戦史マヴラヴHardLuck(マブラヴオルタ×機動戦士ガンダムTHE ORIGIN(マ・クベ)×黒騎士物語×機動戦士ガンダム08MS小隊×オリジナル)[赤狼一号](2013/05/01 22:29)
[1] 第一章 強襲[赤狼一号](2012/09/27 11:10)
[3] 第二章 辺獄[赤狼一号](2012/08/24 20:21)
[4] 第三章 悪夢[赤狼一号](2015/10/04 08:32)
[5] 第四章 遭遇[赤狼一号](2012/08/24 20:27)
[6] 第五章 葬送[赤狼一号](2010/08/23 02:11)
[7] 第六章 邂逅[赤狼一号](2010/08/23 02:11)
[11] 第七章 対峙(改定版)[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[12] 幕間 ギニアス少将の憂鬱~或いは神宮寺軍曹の溜息~[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[13] 第八章 約束[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[14] 第九章 出会[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[15] 第十章 会合[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[17] 第十一章 苦悩と決断[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[18] 第十二章 逃走と闘争[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[19] 第十三章 予兆[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[20] 第十四章 決意[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[21] 幕間 それぞれの憂鬱[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[22] 第十五章 奮起[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[23] 第十六章 胎動[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[24] 第十七章 烈火 前編[赤狼一号](2010/08/23 02:18)
[25] 第十八章 烈火 中編[赤狼一号](2010/08/23 02:34)
[26] 第十九章 烈火 後編[赤狼一号](2010/08/23 02:41)
[27] 第二十章 忠誠[赤狼一号](2010/08/23 02:41)
[28] 第二十一章 雌伏[赤狼一号](2010/08/23 02:42)
[29] 第二十二章 奇跡[赤狼一号](2010/08/23 02:43)
[35] 第二十三章 萌芽[赤狼一号](2011/03/08 02:28)
[37] 第二十四章 咆哮[赤狼一号](2011/03/21 23:08)
[39] 第二十五章 結末[赤狼一号](2011/08/19 14:37)
[40] 第二十六章 再動[赤狼一号](2012/08/03 09:29)
[41] 第二十七章 鳴動[赤狼一号](2012/08/15 17:14)
[42] 第二十八章 始動[赤狼一号](2016/01/23 11:25)
[43] オデッサの追憶 第一話 斬込隊[赤狼一号](2016/01/23 08:25)
[44] オデッサの追憶 第二話 意地ゆえに[赤狼一号](2016/01/23 08:26)
[45] オデッサの追憶 第三話 戦友[赤狼一号](2016/01/23 08:46)
[46] 幕間 中将マ・クベの謹慎報告[赤狼一号](2016/01/23 10:52)
[47] 外伝 凱歌は誰が為に 前奏曲 星降る夜に[赤狼一号](2016/01/25 13:16)
[48] 外伝 凱歌は誰が為に 間奏曲 星に想いを[赤狼一号](2016/01/25 13:14)
[49] 外伝 凱歌は誰が為に 第一舞曲 かくて戦の炎は燃えさかり[赤狼一号](2016/01/25 13:09)
[50] 外伝 凱歌は誰が為に 第二舞曲 戦太鼓を高らかに[赤狼一号](2016/01/25 13:12)
[51] 外伝 凱歌は誰が為に 終曲 凱歌は誰が為に[赤狼一号](2016/01/25 13:11)
[52] キャラクター&メカニック設定[赤狼一号](2010/08/23 02:14)
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[5082] 第二十一章 雌伏
Name: 赤狼一号◆292e0c76 ID:00a6b5cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/23 02:42
 
 1999年度に帝国製鉄が発表した「超鋼スチール合金」は構造体などに使用した場合、従来のものに比べて約100倍以上もの強度を誇る新素材であり、他にも火太刀(ほだち)金属の「超々耐熱合金」や旭日(きょくじつ)化成との合同で発表したネオ圧電式アクチュエーター「鳴神」など、の同時多発的な革新的技術は従来の兵器開発に多少の混乱をもたらすほどであった。  
帝國火事場のど根性、「テクニカル・ビッグバン」などと称される大規模な技術革新の裏に一つの外国籍企業が暗躍していたとされるが、それは定かではない。

2001年発行、帝國工業史より



 前回の交渉から、すぐに香月博士は「オルタティブ4を支援するコングロマリットの一社」」として、ジオンインダストリーの存在を認知した。
 それはほんの一部ではあるが、彼らジオン公国軍が地上へと乗り出した小さな一歩であった。

―――― 2000年 2月12日 福島県 渡邉工業 (旧鎮西飛行機) 本社

応接室のソファに腰掛けていると、初老の男が一人では行ってきた。

「すみませんね。お茶も出さずに」

 そういって直ぐに部屋の脇においてある、急須やら、湯飲みやらを準備し始めた

「…恐縮です」
 
そう言いながらも、若干の居心地の悪さを感じる。今茶を入れに言っている人物こそ、渡邉工業社長 渡邉 永(わたなべ ひさし)氏である。

 窓からは福島の風景、目の前の机には、今回の交渉で使う資料がある。
 その相手は、急須(きゅうす)を使って、茶を入れている真っ最中だ。いかにも好々爺然としているが、こうして自ら茶を入れると言う事で、すでにこちらの出鼻をくじいている。

(なかなかに…手ごわいかもしれんな)

 マ・クベはそう、胸中でつぶやきながら、目の前の男の背中を見つめた。決して長身とは言えぬが、がっしりとした肩をしている。あの肩に社員やその家族の生活を背負い続けてきたのだろう。

「…どうぞ」

 振り返った男が机の上に盆を差し出しだした。
古風な湯飲みに入った茶が湯気を立て、穏やかな香気が漂ってくる。
 
「茶柱ですな」

 マ・クベの湯飲みを見て、老人が朗らかに笑った。
 
「これは、縁起がよろしい」

「……そちらにも」

 とマ・クベが言うと、自分の湯飲みの中に茶柱が立っているのを見つけて、また穏やかな笑みを浮かべる。

国連軍の黒い軍装に身を包んだマ・クベは、黙って出された茶をすすった。
口の中に朗らかにひろがる高貴と、ふわりとした温もりが体を温めてくれる。特にこの福島の地にあっては、オデッサまでとはいわぬものの、骨に染み入る寒さがある。
 それが溶かされてしまいそうなほど、柔らかな温もりがその一杯にはあった。

「結構ですな……」

 茶碗をおいたマ・クベが言った。

「…そうですか」

 老人が、にっこりと笑う。マ・クベはおもむろに湯飲みを見て、感嘆した声で言った。

「……今時分に、天然物の茶を備前の器でいただけるとは、贅沢ですな」

 相手は一瞬だけおどろいたような顔をすると、直ぐに穏やかに答えた。

「ご存知でしたか。宇治で取れた最後のものです。いささか古い葉ですが、それでも合成物とは比べ物に並んでしょう」

「……良いものですな」

「ええ、良いものです」

 ふと、マ・クベは「私事で恐縮ですが」と静かに切り出した。

「この湯飲みを焼いた窯元を…今度、紹介して頂いても?」
 
 老人はしばらくあっけにとられたような顔をして、静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。これは疎開した私の友人の陶芸家が焼いたものです。……一昨年の暮れに亡くなりました」

「それは……失礼を」

 老人は黙って首を振ると穏やかな声で言った。

「いえ、良いのです。もう一度、故郷の景色が見たい、そう申しておりました」

 老人は恥ずかしそうに、向き直るとまた柔和な笑みに戻った。
 ただ、少し目が赤い理由を、マ・クベはあえて問いただすことはしなかった。

「こちらに一つ話を持ってまいりました。」

 出し抜けにいったにも関わらず、渡邉のほうは、ちっともあわてている様には見えなかった。
ただ一言、例の柔和な笑みを浮かべながら「よい話ですか?」と尋ねた。
マ・クベは黙って書類の束をスッと彼のほうへ押しやった。

「…良いものです。このすばらしい歓待に見合うかは分かりませんが」

 完結に答えると、彼を知っているものなら驚くような、朗らかな笑みを浮かべた。
 今まで、彼の顔をじっと見ていた渡邉社長は、急に表情を緩めると、書類の一枚を手に取った。それは、おそらくは今回の「話」の主題に関するものであろう。
 渡邉氏は、手に取ったその一枚のデザイン画をしばらく見つめていた。

「引き受けましょう」

 唐突に渡邉氏が言った。

「…詳細を、読まれてからのほうが、よろしいのでは?」

 そうマ・クベが言うと、社長はもう一度今度は驚くほど冷静な目でマ・クベを見た。

「この間、お武家の方がいらっしゃいました。その方は茶葉の味すら忘れているようでした。無論、時勢を考えれば、いたし方のないことなのかもしれませんが……いささか辟易いたしていた所です」

 そこで、一度言葉を切ると老人はにっこりと微笑んだ。

「そこであなただ。あなたは不思議な方だ。はるか異国の方だというのに、私の歓待を理解してくれた。だから、何より、私はあなたと仕事がしたい」

「…………」

 マ・クベは少しの間、呆然と相手を見ていると、やがてポツリと一言漏らした。

「……光栄です」

 差し出された手をしっかりと握り締めて、マ・クベはその力強さに驚いた。





――― 2日後の2月14日 国連軍横浜基地 地下 機動巡洋艦ザンジバル

窓から見えるのは何時もと変わらぬ風景、青い燐光を放つ天蓋とアプサラス開発基地の風景である。
 心電図の電子音が病室に鳴り響く。もはや見慣れてしまった天井を見ながら、ギニアス・サハリンはふっとため息をついた。

「調子はどうかね」

 そう言って入ってきたのは、紫色の髪をした妙齢の女性である。後ろに栗色の髪をした衛生官を従えている。

「ええ、なかなか良いですよ」

 そう答えると白衣を着たその女性はまじまじとギニアスの顔を観察した。

「無理はしてないようだね。うまくいってよかった」

「ありがとうございます」

 『うまくいった』というのは骨髄移植のことである。ギニアスは幼い頃の爆破テロによって、宇宙線被爆による血液障害にかかっていた。そのために免疫能力が弱く、しばしば合併症を引き起こしていたのだが、宇宙世紀の上を行く『地上』の遺伝子治療技術によって、正常な骨髄を培養、移植することに成功したのである。
 現在は合併症の治療と定期的な血液洗浄(正常な造血肝細胞への入れ替え作業)によって、経過を観察している。
 とはいえ、一時は危ぶまれた病状も安定し、目下の悩みといえば、実務にさっさと復帰したいということだけだった。

「言っておくがね。まだ、無理は禁物なのだよ」

 こちらの心情を見透かしたように、香月医師が釘を刺す。
 その時、映像通信端末にマ・クベの顔が映る。

『お加減いかがですか? 閣下』

 ギニアスはにっこりと笑ってうなずきながら、香月医師と栗色の髪をした衛生官へ、軽く目配せをした。
 彼女らが黙って退出するのを見送ると、ギニアスは画面のほうへ向き直った。

「悪くないよ中佐。実のところ、私だけ休暇をとっているようで、心苦しいばかりだ」

『閣下のお力をお借りしなければならないことはこれから山とあります。あせらずに療養してください』

 幾分か穏やかな声音で、マ・クベが答える。

「そうだな……。現状の報告を聞かせてもらおう」

『はっ、先ごろ帝国製鉄その他の企業に供与した技術は順調に製品化されているようです。
特に超硬スチール合金に至っては、海外輸出までされているようです。
ライセンス料もこちらが指定したとおりの低額で普及に努めるとか』

「……こちらにはどれくらい入ってくる」

『あまり目立つ量は仕入れられませんが、それでも装甲材として困らぬ程度には…』

 画面の中の顔がニヤリと笑う。つられたようにギニアスも同種の笑みを浮かべた。

「中佐、ご苦労だった」

『いいえ、閣下の下準備があってこそ、と言わせていただきましょう』

 さらりと答えて見せるマ・クベに、ギニアスは困ったような笑みを浮かべた。

「互いにほめあっていては埒が明かんな。続けてくれ」

『ライトニング計画ですが、本日フェイズ1を遂行しました』

「…よくやってくれた。これで、表の世界にも多少ルートが出来たな」

『ありがとうございます。本日の報告は以上です』

「ご苦労だった」

 ギニアスが手だけで敬礼をすると、マ・クベはわざわざ直立不動になって、それを返した。
 どことなく温かみのある目で、外交担当官はギニアスを見つめた。

『閣下……お大事に』

「ありがとう」

 ギニアスが微笑みながら手を下ろすと、画面が暗くなった。
映像通信を切ると、ギニアスはナースコールに手をかけた。

『ど、どうしました?』

 緊迫した声がナースコールのスピーカーから聞こえてくる。
 ギニアスは、ちょっとだけ苦笑して、穏やかな声で答えた。

「マ・クベ中佐との通信が終わった。その事を報告しようと思ってね」

 スピーカー越しにかすかな吐息が聞こえる。おそらくは栗色の髪をした看護兵のものだろう。

『そうですか…よかった』

 わずかな安堵を含んだ言葉に、ギニアスはふっと疑念を持った。
良かったとはどう言う事だろうか? 会話が終わることで何かが彼女に利益をもたらすことがあるのだろうか、単に自分を心配しているだけのように思えるが……。
 ギニアスは、ふと件の看護兵の事を思い出してみた。

 神宮寺まりも軍曹、香月中佐の護衛としてこちらにやってきた女性だ。栗色の長い髪と凛とした雰囲気の中にどこか他人を気安くさせる所がある。巷で言えば、もてそうな女性なのだろう。顔もなかなか整っている。
 だが、そんなことはどうでも良い。彼女は前にあった段階でギニアスの病のことを知っていた筈だ。だが、今回の交渉でマ・クベがあちらに打ち明けるまで、香月大佐は知らないようだった。
 一体どういうことなのだろう。知らないふりをしていたのだろうか? 

(何のために? むしろこちらが「知られてはまずい」事だったはずだ)

 マ・クベ中佐の話から察するにそれほど、甘い相手では無いはずだ。
と言うことは、神宮寺軍曹は一体どういう意図を持って、このことを伏せていたのだろうか。

(何か、思惑があるのか……)

 渦を巻き始める思考に飲まれそうになりながら、ギニアスはハッと疑おうとしている自分に気づいた。
彼が女というものに疑念を持つときに、いつとてある女性の後姿が頭に浮かぶのは、ごく最近になって気づいたことだった。

(この歳になっても、母を忘れられんか……我ながら、女々しいかぎりだな)

自分を捨てた母の姿、関係ないと分かっていても、どうしてそれが浮かんでしまうのは、なぜだろう。……答えは、よく分かっていた。
 妹が自分に身を捧げるのも、自分に対して負い目があるからだ。
 女の愛にはいつとて、対価があるのだと言う事を彼はよく理解していた。

男の果てない思考を打ち破ったのは金属扉をノックする乾いた音だった。
 ギニアスは一息、吸うとなるたけそっけなく聞こえないように答えた。

「入りたまえ」

「し、失礼します」

 ぎこちない返事をしながら、入ってきたのは神宮寺軍曹当人であった。

「!? ……何か?」

 心を読まれたような気がして、自然と声が硬くなる。
神宮寺軍曹はびくりと肩を震わせると、気まずそうな声で答えた。

「あ、検温の、時間ですので……」

(なぜ、この人は私の前では、こんな調子なのだろう)

 そう思ってふとベッドの脇においてあった、鏡を見てみた。驚くほど険しい顔をした金髪の男がそこには写っている。
 それを見て、ギニアスは目の前の女性が置かれている状況に気づいた。
 彼女にとって、ここは敵地のど真ん中であり、香月医師と彼女はそこに送られた人質なのだ。

(やれやれ、それは怯えもする)

「神宮寺軍曹」

「は、はいっ!」

 直立不動になって敬礼までしかねない反応に、少しだけ笑いそうになりながら、ギニアスは穏やかな声で言った。

「検温、お願いする」

「…あ、はい」

 一瞬、ほうけたような顔をして、神宮寺軍曹があわてて体温計を取り出した。

「し、失礼しま…きゃっ!」

 あまりにあわて過ぎていたのか、神宮寺軍曹は何かに躓いて(何か躓くものがあったようには見えないのだが)前に倒れこんだ。
 不意に飛び込んできた石鹸のにおいと長い髪が広がる。
前にはギニアスの寝台があり、当然のことながらそこへ倒れこんだ神宮寺軍曹をギニアスは何とか受け止めた。
 女性独特の甘い匂いが、彼の鼻をつき、体の柔らかさと温もりがなんとなく、どぎまぎした気分にさせる。

「……大丈夫かね軍曹」

「……………」

「軍曹?」

 一瞬、頭でもぶつけたかと思ったが、抱きとめたのだからそれはないだろうと、ギニアスは思い直した。
 直後に、ボンッという音が聞こえかと思うほど、神宮寺軍曹は一瞬で真っ赤になった。

「し、し、し、し、し、失礼いたしましたぁぁぁぁぁっ!!!!」

 あわてて、飛び起きたところを見ると、どうやら頭は打っていないらしい。

「ええと、そのあうぅぅぅ。た、体温計を」

 見てて可愛そうになるほど狼狽している神宮時軍曹に苦笑しながら、ギニアスは体温計を受け取った。

「ありがとう軍曹」

「あ、はい」

 顔を赤らめたままうつむく、軍曹を見ながらギニアスは、自分が自然と笑っていることに気づいた。
 ふっとギニアスは最初に、この世界に来た日に自分を救ってくれた若い女性兵士のことを思い出した。彼女はどうして最後に笑ったのだろう。
 そんなことを考えながら、彼は自分がいつしか、目の前の女性への疑念を忘れていることに、気づいていなかった。





――― 第600軌道降下猟兵大隊 旗艦 モンテ・クリスト 士官専用BAR

 落ち着いた照明の店内には古びたジャズがかかっている。曲名は、確か「FLY ME TO THE MOON」、旧世紀のクラシックジャズ。
ハスキーな女性歌手の声が心地よく響いている中で、マ・クベはゆっくりとグラスを傾けた。

「スコッチ・ショコラか…チョコレートリキュールなんて珍しいもの飲んでるじゃねぇか」

 横合いから声をかけてきたのは、ジオンの黒色軍装に身を包んだ隻眼の偉丈夫である。

「ああ、どうやらバレンタインだということで、リトヴァク少佐が余計な入れ知恵をしたらしい」

 マ・クベが目配せすると、バーテンダーが黙ってうなずいた。

「何だ?」

「貴様の分もある」

 そう言うと、バウアーは苦笑しながら、隣に座った。
 バーテンだが静かにグラスを置く。
隻眼の男はグラスを取ると、柄にもなく香りを楽しんでいるようだった。

「たいした贅沢だな」

「純夏とリトヴァク少佐からだ。ありがたく飲め」

「ああ」
 
グラス同士が澄んだ音を立てる。男たちはしばらく、チョコレートの甘い香りを楽しんだ。

「純夏の奴は元気にやっているのか?」

 バウアーが唐突に切り出した。
 
「気になるのなら、見に行けばよかろう……苦労はしているようだが、がんばっているようだ」

「そうか…」

 そう言って言葉を切ると、隻眼の男はグラスをあおった。

「ところで…マ・クベよ、思い切ったことをやったな」

「藪から棒になんだ?」

 常と変わらぬ冷静な声でマ・クべが答える。

「地上との交渉、なかなかうまくいってるようじゃねぇか」

「ああ、ギニアス閣下の用意してくれた商品のおかげでな」

「なるほど…わざわざ俺たちの存在を表に出すのは、例の話を確かめるためか?」

 一つしかない目がじろりとマ・クベをにらむ。

「ああ」

 あっさりと首肯するマ・クベを見て、バウアーはやれやれとばかりに肩をすくめた。

「G弾によってこの世界に俺たちが呼び出されたのなら…実用化の際に行われたであろう起爆実験の際も同種のことが起こっている筈だ……か?」

「仮説に過ぎんがな…五次元空間が私の想定しているとおりのものであれば、時間も距離も意味をなさない。これまでか、それともこれからか……いずれにしろ、可能性はある」

「だがよ、遠い未来の可能性だってあるわけだし、あまり俺たちの存在を表に出してもまずいんじゃねぇか。それに、この化け物の巣に落とすって事もファクターかも知れん」

 怪訝そうな顔をするバウアーの顔を見ながら、マ・クベはしっかりとうなづいた。
 いつしか、グラスは空になっており、バーテンダーは隅のほうでグラスを磨いている。

「無論だ。だが、この戦争はまだまだ続くだろう。この後にそういう事態になることも十分ありうる」

 バウアーがわずかに顔をしかめると、うっそりと言った。

「例の第5計画か? 確かに現状有効な兵器である以上、可能性はあるか…」

 マ・クベがバーテンダーに向かって目配せをすると、バーテンダーが慣れた様子で棚の中から一本のワインを取り出した。

「シュタインベルガー! しかも60年物のビンテージじゃねぇか」

ラベルを見たバウアーが感嘆の声を上げる。

「えらく気前が良いな」

「まあ、ちょっとした記念だ」

 にやりと笑いながらマ・クベはグラスを手に取った。

「しかし、ギニアス閣下達に俺たち、そして第3の可能性か……」

 芳醇な香りを楽しみながら、バウアーがそら事のようにつぶやく。
 そんな友人の姿に、喉の奥で笑いをかみ殺しながら、マ・クベが諭すように言った。

「古来より言うじゃないか。二度あることは『三度ある』とな……」
 
曲目が変わり、リリー・マルレーンが切なく流れる中で、強化グラスの澄んだ音が響いた。








――― 中東スエズ絶対防衛線 最前線要塞都市エルサレム

かつて地下墳墓群のあった空間に運び込まれたのは、遠く東洋からの補給物資である。
表向き建築用資材として仕入れたそれは、あちらでも新しく発表されたばかりのものだ。「超硬スチール合金」と呼ばれるそれは彼らにとってはなじみ深い金属であった。

「閣下……この紋章は」

合金自体に検定印として刻まれた紋章を見ながら、銀色の髪を後ろに束ねた男が感嘆したように叫んだ。
 カーキの軍服に身を包んだ壮年の男は、重々しくうなずいた。

「……我々は3年間この時を待った」

「再びこの紋章を見ることになろうとは…」

 銀髪の男の目からはあふれる感慨が、涙となって流れ落ちていた。

「ガトー少佐、何とかして彼らと連絡を取るのだ」

 ガトーと呼ばれた銀髪の男が、踵を打ち鳴らして敬礼をする。
 壮年の男は鋭い所作で答礼を行うと、兵たちに向かって語りかけた。

「諸君! 長き雌伏の時を、良く耐えてくれた! 鷲は再び舞い降りたのだ! 我らがジオンの旗の下にっ!!! ジーク・ジオン!!!!」

 地下空洞に絶叫のごとき復唱が響き渡るなか、彼らの背中にはためくのは、
合金に刻まれていたのと同じジオンの旗であった。




あとがき

純夏「3!」
リディア「2!」
純夏「1!」
パイパー「状況開始!!」
リディア「今週も始まりましたUNLuckラジオ!…てなにかしら純夏ちゃん」
純夏「さも毎週更新できるようなこと言ちゃだめですよリディアさん。ていうか、お帰りなさい」
リディア「ただいま。…また、出番なかったけどただいま(グスッ)」
純夏「ちょっと、泣かないでください。ていうかあたしもありませんでしたよ」
パイパー「バレンタインネタをやったと思ったら、これだからな」
リディア「しかも、遅いですよね」
純夏「作者さん、いわく、ホワイトデーが終わってなきゃ大丈夫だろjkだそうです」
リディア「女に縁ないくせによく言うわよ」
純夏「えーと、読者の皆様から要望があった場合、幕間でやるお、だそうです」
リディア「……いい加減、2chネタ引っ張るのもどうなのかしら」
パイパー「(どうでもいいが、裏を返せば読者のオファーがなければ書かんということだぞ……)」
リディア「しかも大学が無事卒業できると分かって、さらに大喜び」
純夏「普段からがんばっておけば、そんなにやきもきしないで済むのに……」
パイパー「言ってもせんのないことだ」
リディア「き、気を取り直して、先週のお便りからよ。ペンネーム「第二のあああ様」からよ」
パイパー「緑の看護婦は出てこないんですね。まあいたらいろんな意味で怖いですが…」
リディア・純夏「「(あんたが読むんかい!)」」
パイパー「なにか文句でもあるのか(じろっ)?」
リディア・純夏「「め、めっそうもありません。サー」」
純夏「お、お便りに対する答えですが、作者はマナマナさんを良く知らないし、知らない女増やすくらいなら、ウホッ良い漢を増やすZE保志、らしいです」
リディア「保志…ってなによ。テンションあがりすぎるのも良いけど、なんだかキモ……」
パイパー「それ以上言うなよ少佐。また出番が減って泣かれても困る」
純夏「つ、次のお便りはペンネーム「けー様」から」
リディア「先の演習で地下に向かった私たちが、ザンジバル級を使わなかったことに対する質問なようね」
パイパー「それには私が答えよう。もともとマ・クベが我々を予備兵力にしたのは彼らが我々と同じ事をたくらむことを恐れたからだ」
純夏「演習中に、リアルで敵が奇襲をかけてくるってことですか?」
パイパー「うむ。そのため防衛戦闘能力に優れたリトヴァク少佐の部隊を残して、予備兵力として、歩兵が横浜基地の地下19階を制圧したのを見計らって、我々も演習に参加したのだ」
リディア「今回の演習は相手にあたしたちが寡兵でも圧倒しうる力を持っていると相手に認識させるためのものだから、過度にこちらの情報を見せすぎても良くなかったの」
パイパー「それに誰が見ているか分からないから、そこまでなりふり構わないまねできなかったわけだ」
リディア「でも斬込中隊……自爆しましたよね」
パイパー「あれはイレギュラーな事態だったのだ……むっ? 鑑上等兵どうした?」
純夏「(……プスプスプス)」
リディア「ちょっ! 純夏ちゃん? 何で煙吹いて…ってそんな虚ろな目をしないでぇぇぇ!!」
パイパー「……まあ、次回も見てやってくれ。それでは、忠勇なる読者諸兄に幸あらんことを! ジーク・ジオン!!」



 長かった……。えらい昔にコメント欄で「北アフリカでがんばっているオジ様のことも忘れないでやってください」的なことを言われて、
この展開にしようと思い至ってから、長かった。
絶対にばれないように? 複線を張って……ついに、ついにこの日が来た。
超展開ですが、まあなんとか出来る自信はあるので、生暖かく見守ってやってください。
正直、これはない、と思われる方もいらっしゃるでしょうが…申し訳ない。
経過観察ということで一つ。
基本的にはアフリカと日本で連絡を取り合っても合流させる気はありませんw
ちなみに鎮西飛行機はこちらで言うところの九州飛行機、火太刀金属(ほだちきんぞく)は日立、旭日化成はアサヒ化成です。
乞うご期待!!!


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