俺たちは兵隊だ、殺しのプロだ。
「味方」は護れっ!「敵」は殺せっ!
……相手が人間かどうかなんて、悩む価値も無い。
ダイスケ・サトウ「学院黙示録」より
―――― 地下機密区画 大格納庫
≪主機損傷、クソッ、隊長、すみませ……≫
また一機落ちた。敵味方を問わず狂乱するこの壮絶な白兵戦の中で、一分一秒を生き延びるのは至難の業だった。
強い、伊隅は思った。
そもそも、初めから、彼らは違うのだ。
自分を含め、前線の衛士と言う奴は、どうしてもBETAとの戦いこそ本分であり、対人戦闘はその練習に過ぎないと考えている節がある。
だが、彼らは違う。徹頭徹尾本気でこちらを殺すつもりであり、それに慣れているのだ。そう、彼らは「人殺しに慣れて」いるのだ。
≪ぎゃぁぁぁぁぁ、だれか、いや、いやぁぁぁぁ≫
また一人、無残な悲鳴を残して部下が消える。
(くそっ、一体何なんだやつ等はっ!)
心の中で悪態を付きながら、彼女は本気で恐怖を感じていた。憎き異種起源の化け物共の前に立つのとは、まったく異質なむき出しの殺意と執念。それは、戦術機と言う特殊合金と複合繊維体の中にいてすら、はっきりと感じ取れる。
「落ち着け、私、まだ諦めるな!」
全ての意地と勇気を振り絞って、伊隅は力の限り戦った。味方との連絡は取れない。
戦闘の混乱の中に飲み込まれてしまったのだ。だが、こちらとて絶望的な状況には、馴れているのだ。
伊隅は止まることなく縦横に撃ち、そして長刀を振り回した。ようやく手ごわい一機を血祭りに上げると、飛び立とうとした瞬間に、妙な震動が機体を襲った。
「なっ!?」
振り返れば、敵機が単眼を光らせながら、跳躍ユニットを掴んでいる。
「はなせっ!」
鋭く叫びながら、突撃砲を連射する。36mm弾が何も無い空間をきる。
刹那、とてつもないGとともに機体が大きく揺さぶられた。
「うわぁあぁぁあああ」
投げられた、そう思った時にはすでに、全身が浮遊感に包まれていた。
次の瞬間にやってきた鋭い衝撃が、シート越しに彼女の尻から胸を抜けていく。
「ぐっ、く、くそっ」
なおも立とうとする彼女の不知火の横に、単眼の戦術機がしゃがみこんだ。
抱きすくめる様に手を回すと、もっていた長刀の切っ先をコクピットに突きつける。
≪降伏シロ≫
特殊な訛りのある英語で、降伏を勧告される。多分、接触回線を使っているのだろう。
伊隅はニヤリと笑うと好戦的に答えた。
「A-01を舐めるな」
最後に見たのは、コクピットに突き入れられる灼熱の切っ先だった。
その時、彼女ははっきりと思い知らされた。兵士と言うものは敵と戦う事が本分であり、人間であろうと無かろうと、敵として前に立ったものは「敵」なのだ。
死屍累々の残骸によってあふれ返る地下空間は、僅か数分前まで、戦場であったとは思えないほどに、静かな時間が流れていた。
強化コンクリートの床には、敵機の残骸にまぎれて、味方の機体も転がっている。といっても、コクピットまで破壊されている機体は少なく、中のパイロットは生きているであろう事が伺えた。
まばらな駆動音が地下空間に木霊する。巨大な地下空洞を狭いといわんばかりに歩くのは、残骸から武器を集める巨大な影であった。
闇の中に光った単眼は、ギョロリと戦場を見渡した。
敵影無し、殲滅であった。こちらよりはるかに多勢であったが、勝利したのだ。
それは、この基地に存在する全仮想敵戦力を一人余さず倒しきったという事である。
「諸君、ご苦労だった。どうやら、もう敵は居ないらしい」
ノリス大佐が疲れた声で告げた。彼の機体はどこもかしこもぼろぼろであり、強靭なヒートソードも所々の刃がこぼれ、刀身に細かい傷がいくつもついている。
≪大佐殿≫
最初に声を出したのはメルダース中尉であった。
≪もう敵は居ないのでありますか?≫
続いて出てきた言葉に、ノリスはつい失笑を浮かべてしまった。
映像回線の向こう側で、中尉が怪訝な顔をする。
「気にするな中尉。当初の予定どうりであれば、地上に出ることが目的だ。だが、僅かではあるが伏兵の可能性もある。警戒は怠るなよ。
ノリスは回線を切り替えると、揮下の中隊長たちへ呼びかけた。
「各隊、被害を報告しろ」
1機1機の性能はこちらに劣るとは言え、あれだけの多勢を相手にしたのだ。こちらも少なからぬ損害が出ている。
ノリスの率いる斬り込み中隊からは5機だ。とはいえ、圧倒的な数の敵をこの損害で防ぎきれたなら行幸ともいえる。
にも拘らず、ノリスの顔には疲労以外の翳りがあった。
(何故、マ・クベ中佐ならもっとうまくやれる。そんな確信が持ててしまうのか。一種の責任逃れだな。それとも部隊に対する嫉妬か)
決して自分の部下に不満があるわけではない。だが、一武人として精鋭中の精鋭を指揮するというのは、やはり格別の味わいがあることは、事実だった。
≪黒騎士中隊、喪失4機 内、ザク3、ケンプファー1です≫
特徴的なドラ声が、響く。バウアー少佐の黒騎士中隊も、やはり、それなりの損害を出していようだ。
≪ヴィットマン中隊、ザク5機大破 キャノン部隊は損耗あるも、戦闘に支障なし≫
ノリスの思考を遮るように、続々と報告がよせられる。
女々しい考えに捕らわれそうになる自分を唾棄して、大佐は部隊を集合させた。
「諸君、ご苦労だった。隊を再編して地上を目指す。各中隊長とも、警戒を怠るな!」
≪≪了解≫≫
バウアー少佐とヴィットマン大尉の声がそろう。
「地上までは、敵が使っていたエレベーターシャフトを使う。ここを突破して、一気に地上に出るぞ」
そう言った瞬間に、鋼鉄の巨人たちが動きだした。
「忙しい一日も、どうやら終わりそうだなトップ少尉」
ルーデルが唐突にトップへ軽口を叩いた。少し疲れたような顔が、映像回線に映る。
≪私はそうは思わん。なんだか嫌な予感がする≫
珍しく陰気な顔をするので、ルーデルは励ますように言った。
「そう嫌な顔するもんじゃない。叩く獲物が増えるんだ」
≪簡単に言ってくれる……でも、心強いなルーデル少尉≫
そう言うと、トップは疲れた顔に微笑を浮かべた。
「そ、そうだろ。悪い方に考えるとツキが落ちる思う」
意外な反応に、ルーデルが僅かに慌てる。
≪随分と仲良くしてるじゃないか、二人とも≫
「≪大尉!?≫」
唐突に、割って入ってきたヴィットマン大尉に、二人は同時にたじろいだ。
≪直ぐに戦闘だ! 地上に出るぞ≫
大尉が簡潔に用件を告げる。ルーデルは直ぐに顔を引き締めなおした。
「中隊長の言葉は聞いてたな。全機、銃をちゃんと選んでおけ。もしかしたら使うかも知れんからな」
部下たちから、ビシッとした返事が帰ってくる。基地じゃここまで硬くないこの連中も、一度MSに騎乗すれば、精鋭部隊としての風格を見せてくれるのである。
映像回線に副官であるガーデルマン少尉が映った。
≪少尉、もし敵にこれ以上の戦力があったら……≫
心配そうな顔をする副官を見て、ルーデルは不思議そうに言い返した。
「倒すだけだが? ほかに何があるんだガーデルマン」
ガーデルマンは一瞬あっけにとられたような顔をして、そして諦観とも安堵ともつかぬ笑いを浮かべた。
――― 地上 国連軍横浜基地
基地のメインゲート、凄まじい轟音と共にシャッターが吹き飛ばされる。巻き上がる粉塵にまぎれて、出てきたのは鋼の巨人であった。
青い巨人は単眼をギョロつかせて、片手を振る。
後から続々とその仲間たちが続いた。幾多の敵を屠ってきた巨人たちが、ついに地上へと進出したのだ。
「これで、終わりですな」
その様子をモニターで見ながら、マ・クベ中佐がうっそりと言った。
「…………」
言われた相手の方は、黙ってモニターを見ている。
「そうかしら?」
唐突に、香月夕呼大佐は美しい顔をゆがめた。
「なんですと?」
マ・クベが聞き返そうとした瞬間、モニターから緊迫した声が聞こえてきた。
≪ぬぉぉぉぉぉっ!≫
≪なんだっ!?≫
≪て、敵の攻撃です!!≫
≪全方位に敵反応!! 囲まれていますっ!!≫
驚いて、マ・クベがモニターを見る。
「これは……一体どういうことですかな」
目に飛び込んできたのは、凄まじい砲火を受ける味方と、それを取り囲むおびただしい数の敵軍であった。
「あら」
余裕たっぷりに片手を顎に当てながら、香月大佐が妖艶な笑みを浮かべた。
「誰も、この基地の戦力『だけ』で、お相手するとは言って無くてよ」
「…………」
無言で居るマ・クベに向かって大佐はぞくりとするような口調で続ける。
「この基地の周辺には帝國軍の基地も、そして帝都には斯衛軍もおりますの」
まるで旧世紀のバトル・オブ・オキナワを思わせるような凄まじい砲撃が止み。周りを取り囲んでいた機甲部隊は前進を開始した。ゆうに2個師団は居るであろうその戦力を前にして、もはや壊滅は必至だった。
――― 地上 国連軍横浜基地 メインゲート内部
敵の奇襲を受けてからのノリス大佐の判断は早かった。思考が硬直しかけた全員に対し、直ぐに後退の命を下したのだ。
そのおかげで、奇跡的に一機も撃墜される事なくこのメインゲート内に逃げ込めたのだが、戦況は思わしくなく、準備放火の不気味な震動が、強化べトン製の天蓋を揺らし続けていた。
「これからどうしますか?」
バウアーは簡潔に言った。大佐の機体はかろうじて大破は免れたものの、左腕を喪失し、バーニアも損傷、ヒートロッド以外全ての武装を失った状態での戦闘継続は、困難だった。
損傷を受けたのは大佐の機体だけではない。敵は自走砲だけでなく、艦隊も投入したらしく、直撃を受けた機体はないものの、選抜中隊の大半が中破以上の損害を負い。黒騎士中隊も二機が戦闘不能と言う有様だった。
≪諸君、こうまで追い詰められたのは私の無能ゆえだ。こうなっては、地下へと撤退し、徹底抗戦を挑む。少佐、撤退の指揮は君が取れ≫
「了解しました」
大佐の言葉を皆は静かに受け取っていた。この上は最後の意地を見せる。それしかなかった。
≪……この震動、まるでオデッサだな≫
メルダース中尉がポツリと呟く。
「感傷にふけっている暇は無いぞ中尉。まだ、戦いは終わったわけじゃない」
≪失礼しました少佐≫
なにか、ここにいない友人を思わせる固い口調で、中尉が答えた。
指揮官であるマ・クベが不在ながら斬込隊は良くやった。
5機の損害で敵の主力を受け止めたのだから、今更ながら精鋭ぞろいである。
不意に天蓋を揺らしていた不快な震動が止まった。準備砲火の終わりが意味するものは唯一つ。どうやら敵は、穴にもぐりこんだネズミを直接叩き潰す事にしたらしい。
「ヴィットマン大尉。大佐を頼む。全機、地下へと撤退せよ」
まずは選抜中隊が地面まで直通の主縦坑から撤退して下を確保する。ノリス大佐のグフの両脇をヴィットマンと、副官のヴォル少尉のドムが抱えて、降下していく。
生き残ったザクⅠとザクキャノンがそれに続く。どうやら撤退は間に合いそうだ。
「よし、斬込中隊、黒騎士、撤退するぞ」
≪了解≫
黒騎士中隊が降下を始める。だが、斬込中隊のイフリートはその場を動かなかった。
「なんのつもりだ中尉!」
バウアーが怒鳴った。敵軍は直ぐそこまで迫っているのだ。
中尉は顔色一つ変えずに答えた。
≪自分達はここで敵を食い止めます≫
「勝手なことは許さんぞ」
そう言った瞬間、2機のイフリートに両腕を掴まれた。
≪申し訳ありません少佐。中佐殿は、我々に勝てと言いました…………言ってくれました≫
彼らがなにを考えているか、バウアーには痛いほど分かっていた。それは彼自身考えていた事でもあったからだ。
そして、その方法は恐らく考えうる中で、唯一勝利をもたらすであろう方法でもあった。
「……マ・クベは良い部下をもったな」
バウアーのアクトザクは、暗く巨大な穴の前に立つと、彼らを振り返った。
「中尉、斬込中隊に殿を命ずる」
≪受領しました≫
イフリートが敬礼をする。アクトザクは主縦坑に飛び込んだ。
主縦坑の壁を見ると、ヒートロッドを打ち込んで、斬込中隊のグフが壁に張り付いているのが見えた。
ホバリングしているバウアーのアクトザクに対して、一斉に敬礼する。バウアーは直ぐに答礼を返すと、地下へと降りた。
「……指揮官ソックリの大馬鹿野郎共め」
そう呟いたバウアーの顔は、苦笑を浮かべていた。
――― 国連軍横浜基地演習管制室
「……凄い」
オペレーターのイリーナ・ピアティフ少尉は思わず息を呑んだ。モニターに移っているのは、僅か7機の戦術機である。
一個中隊にも満たないその部隊は、2個機甲師団の戦術機を相手に凄まじい白兵戦を繰り広げていた。
開放されたメインゲートの限定された空間を利用して、縦横に立ち回り、手にした長刀で圧倒的な数の相手を斬り伏せているのである。
信じられない事に、戦術機でありながら。徒手での殴打、蹴り、体当たりなどをふんだんに使って、VRであるとはいえ、はるかに多勢の敵に対して一歩も引かずに戦っているのである。
こうまで、させるマ・クベ中佐とは一体どんな人物なのだろうか。
少なくとも、背後で巨大な威圧を放ち続けている上官と互角にわたりあう人間が、とてもこのような実戦部隊を率いる指揮官には見えなかった。
「あら、以外にがんばりますわね」
からかう様に言ったのは、上官である香月博士だ。手勢であるA01をやられた仕返しをしているのだろうか。
(意外に子供っぽいところのある人だから・・・・・・))
そんな事を思いながら、隣を見ると、同僚のCPオペレーターである涼宮遥少尉もモニターの戦闘に見入っている。
そろりと、横目でマ・クベ中佐を見た。
中佐は無言で俯き、何かを考えているように見える。イリーナはなぜか、その姿に、悲痛な翳りを感じた。
「……君もか、メルダース」
中佐がかすかに呟いたのが聞こえた。
一体どういう意味なのだろうか、そう思った瞬間、隣の涼宮少尉が突然「ああ!」と声を上げた。
慌てて、モニターに視線を戻すと、Bゲートを破壊した部隊が、横合いから彼らに襲い掛かっていた。同時にAゲートからも帝國軍の戦術機がなだれ込んでくる。
必死に抵抗を続けるものの、他方から攻め込んできた敵部隊に飲み込まれ、僅か7機の抵抗部隊は、あっけなく押さえ込まれてしまった。
「これで、終わりですわね」
「…………」
香月博士が勝ち誇ったように言う。ピアティフはそっとマ・クベ中佐の方を見た。
「ひっ」
我知らず、喉の奥で悲鳴が上がる。中佐がユックリと顔を上げた瞬間に、部屋の温度が5度ばかり下がったように感じた。
「私の部下を……舐めるな」
口調こそ氷のように冷たいものであったが、その目ははっきりと、灼熱の激情を宿していた。
怒っていた。それまで機械のように冷静だった男は、確かに怒っていた。それは誰に向けられているかは、どうにも釈然としない不思議な類のものだったが、これ以上なく恐ろしいものだった。
イリーナが逃げるようにモニターへと視線を戻した瞬間、彼女は信じられないものを見た。
それは、戦術機が宙を舞うという光景だった。
一機の戦術機が、その意思と関係なく宙を舞い、慣性の法則にしたがって地面にたたきつけられ、細かい破片と部品を撒き散らしながら、地面を転がったそれは、戦車を一両巻き込んで爆発
した。
凄まじい轟音と共に、不知火の管制ユニットが背後の撃震に叩きつけられる。両腕を押さえつけられたグフの放った蹴りが、胸部を貫いていた。
コントロールを失った不知火が慣性の法則にしたがって後ろに倒れこむ。あまりに唐突な事態に凍りついた戦場の中、それは動き出した。
ジェネレーターがうなりを上げ、押さえ込んでいた戦術機の手を引きちぎる。両手を無くした1機の胸部へ、文字通りの鉄拳を叩き込み、もう一機の背後に滑り込む。
とっさに反撃に出た敵機の銃火が、盾にした敵の機体を蜂の巣にする。
コクピットの中はすでにうるさいほどの警報が鳴り響き、メインモニターの横には刻一刻と減り続けるカウンターが、残りの寿命を現していた。
「機密保持システム」、第600軌道降下猟兵大隊全ての機体に取り付けられたそれは、オデッサで彼の僚友が使ったものと同一のものだった。
「全機、状況開始」
メルダースは勤めて冷静に、心の内で猛り狂う激情を抑えながら言った。
押さえつけられていたグフが、イフリートが、斬込隊の兵士たちの機体は、軒並み起き上がった。
羽交い絞めにする腕を引きちぎり、押さえつけるものを蹴り飛ばし、殴り倒して、その凶眼を紅蓮に燃やしながら、男達は最後の反撃を開始した。
メルダースのイフリートが、盾として使った機体をそのまま敵の隊列に向かって投げつける。
大量の機体が密集している為に、敵は思うように動けない。投げ飛ばされた機体は数機の味方を巻き込んで爆発した。
敵との間に出来た僅かな間で、助走を付け、イフリートはそのまま敵の隊列の中に突っ込んだ。
全質量を弾丸とした一撃は、ドミノ倒しのように他の機体を巻き込んで押し倒す。
メルダースのイフリートが両腰のヒートソードを引き抜く。過剰運転するジェネレーターから送り込まれたすさまじい量のエネルギーパルスによって、ヒートソードの刀身は白熱に輝いた。
「さあ、……これからが本番だ」
誰に言うでもなく呟くと、イフリートは敵部隊へ猛然と走り出した。
ミサイルや砲弾もここまで接近してしまえば、味方を巻き込むので使えない。
そして、この距離こそ、彼ら斬込隊の「射程距離」なのだ。
敵の前衛が長刀抜く、構える前に長刀ごと袈裟に斬った。そのまま回転するように、敵の攻撃をかわし、もう片方の長刀で突きを入れると、胸部を串刺しにした機体に蹴り飛ばし、敵の隊列の中で爆発させた。
≪……♪≫
「音楽? そっか、皆同じか」
気づけば、誰かが通信能力を最強にして音楽をかけていた。選曲はモーツァルトの「怒りの日」、イワモト曹長がオデッサで共に戦った曲である。
右に左に縦横に白熱した刃を振り回せば、敵はバターのように切り裂かれて、無様なガラクタとなる。斬っても斬っても、敵が尽きる事はない。
(曹長……お前はオデッサで、こんな思いをしていたんだな。たった一人で)
不意に、メルダースは自分が泣いていることに気づいた。先ほどの音楽が急に途切れる。多分流していた。機体がやられたのだろう。
だが、曲は直ぐにまた復活した。別の機体が流しているのだ。まるでその存在を誇示するかのように、荘厳な調べは続いていた。
(そう、お前は一人じゃない。俺達が居るんだ。俺たちにお前が居るように!)
双刀をはさみのように交差させ目の前の敵を真っ二つにした。上半身だけ崩れ落ちた機体の下半身が、まるで斬られたことに気づいていないかのように立ち尽くしている。
何機斬ったのかも、誰が生きているかも分からない。まるで1秒が1時間のように感じる。可能な全ての手段を駆使して、メルダースは敵機を破壊した。
何十機めかの敵を唐竹割りにしたところでヒートソードが折れる。何時しか、音楽は消えていた。
だが、それがなんだというのか、まだ生きている。生きている限りは、戦えるのだ。
イフリートが、折れた両刀を目の前の敵に投げ付けた。
それに敵機が、たじろいだ瞬間、強烈な前蹴りで敵機を蹴倒す。その瞬間に、メルダースは見慣れたものを発見した。
「大佐のグフの腕か……」
負荷に耐え切れずに折れた盾のそばに、何かが真っ直ぐに突き立っている。それは盾に収めていたヒートソードだった。
一瞬、メルダースは何か運命のような、一種の執念のようなものに自分が導かれたような、そんな感情に捕らわれた。
引き抜いたヒートソードを構える。敵の懐に飛び込んで、白熱した刃で後ろの機体ごと敵機を串刺しにした。
間髪いれずに横になぎ払う。まるで、熱したナイフでバターを切るように、イフリートが白刃を振るうたびに斬られた手足が宙をまった。
「俺たちは、なんだっ!」
猛烈な前蹴りで敵機を蹴倒してメルダースは叫んだ。直ぐに別の敵と切り結ぶ。残された時間は少ない。だからこそ一機でも多くの敵を倒さなければならないのだ。
「何の為にここに居るっ!! 誰の、ためにっ!」
イフリートはまるでその名の由来する炎神の如く戦った。胴を薙いでは、頭を飛ばし、腹を断ち割り、長刀ごと敵機を唐竹割りにする。
レシーバーに響く声は誰に当てたものかも、定かではなかった。ただ、心の奥底に秘めた思いを口にしながらメルダースは遮二無二戦い続けていた。
≪分かりきった事を聞くんじゃねぇ!≫
どこかで声が上がった。
≪俺たちは……≫
別の声が言う。
≪オデッサの斬込隊っ!≫
繋ぐように別の声が入る。
≪マ・クベ中佐のっ≫
なにを言おうとしているかなど、考えるまでも無かった。
目の前を通ったヒートロッドの先端にあるクローアンカーが、敵機の頭部を噛み砕き、振り向きざまに、別の機体の頭頂部を打ち砕いた。
メルダースは横目でカウンターを見る。カウントは5秒を切っていた。
「≪≪≪≪≪≪斬込中隊だっ!!!≫≫≫≫≫≫」
最後の言葉を言った瞬間に凄まじい光を感じて、メルダースは目の前が真っ暗になった。
自爆装置を発動した斬込隊は、増援の戦術機甲師団2個連隊以上を平らげ、残存戦力は核融合炉の暴走による熱核融合反応の烈火によって、余すことなく焼き滅ぼされた。
あとがき
純夏「3!」
リディア「2!」
純夏「1!」
パイパー「状況開始!」
リディア・純夏「「た、大佐!?」」
ウラガン「大佐、解説役が出落ちかましたら、まずいです」
リディア「そうですよ。ただでさえ、出番の少ないあたし達の唯一の出番なんですよ」
パイパー「だったら、姑息なパクリなどせぬほうが、良いと思うがな」
リディア・純夏「「うぐっ」」
純夏「と、と言うわけで今回から始まる、UNLuck・ラジオ」
ウラガン「なんだか、縁起悪いなあ(ていうか、立ち直り早いなぁ)」
リディア「司会のリディアと」
純夏「純夏でお送りします!」
リディア「スミカ~~~、あたしモブキャラじゃないよね!!」
純夏「作品についての解せ、うわっ! リディアさん、苦しい。胸が当って苦しいよ」
パイパー「向こうが、忙しいようなので、私が変わって説明するが、要は妄想狂で電波脳な作者が適当にぶちこんだ設定の尻拭いをやる場所だと思ってくれ」
ウラガン「た、大佐。それを言っては、実も蓋もないのでは?(というか、向こう良いな~」
パイパー「知るか、とってつけたような設定集など誰も読まんのに、それだけで済ませようとしている奴が悪い」
ウラガン「良いんですか、そんな事言って……」
リディア「だから、あたし達の出番とらないでください~~~」
ウラガン「(いつもと、ぜんぜん違うな…・・・)」
パイパー「まったく、なら任務を果たせ」
純夏「あの、大佐」
パイパー「む? なんだ」
純夏「ぶっちゃけあたし達って、具体的になにをすれば良いんですか?」
パイパー「作中に出た疑問や……さっきから視線がうるさくてかなわん。リトヴァク少佐説明してやれ」
リディア「さっき大佐が言った通りよ。本文中では語りきれなかった事や、その他いろいろと…」
純夏「ようは、ここで皆話してれば良いわけですね。
リディア「そうよ、畜生、作者めいつか殺してやる」
純夏「それ、永遠に出番来ませんよ」
リディア「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パイパー「リディア少佐も、程よく壊れたところで、今回のところはこれにて締めさせていただく」
リディア「え? あたし、まだ、ちょっとしか喋って……」
パイパー「また会う日まで、読者諸君の壮健なることを祈る。敬礼!」
リディア「家出してやるぅぅぅぅぅぅ!」
読者の皆様ご愛読ありがとうございました、長らくご愛顧いただいた「マブラヴオルタネイティブTHE ORIGIN」は、作者の一身上の都合で
「機動戦史マヴラヴ~HardLuck~」に名前を変更いたします。これまでありがとうございました。これからも、宜しくお願いいたします。ちょとやってみたかったので、楽屋ネタらしきことをやります。断じてページ稼ぎのためではありませんのであしからず。今回はそうとうむちゃくちゃに書いたので、ご意見・ご指摘・ご感想等、待望しております。