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No.5082の一覧
[0] 機動戦史マヴラヴHardLuck(マブラヴオルタ×機動戦士ガンダムTHE ORIGIN(マ・クベ)×黒騎士物語×機動戦士ガンダム08MS小隊×オリジナル)[赤狼一号](2013/05/01 22:29)
[1] 第一章 強襲[赤狼一号](2012/09/27 11:10)
[3] 第二章 辺獄[赤狼一号](2012/08/24 20:21)
[4] 第三章 悪夢[赤狼一号](2015/10/04 08:32)
[5] 第四章 遭遇[赤狼一号](2012/08/24 20:27)
[6] 第五章 葬送[赤狼一号](2010/08/23 02:11)
[7] 第六章 邂逅[赤狼一号](2010/08/23 02:11)
[11] 第七章 対峙(改定版)[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[12] 幕間 ギニアス少将の憂鬱~或いは神宮寺軍曹の溜息~[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[13] 第八章 約束[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[14] 第九章 出会[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[15] 第十章 会合[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[17] 第十一章 苦悩と決断[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[18] 第十二章 逃走と闘争[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[19] 第十三章 予兆[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[20] 第十四章 決意[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[21] 幕間 それぞれの憂鬱[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[22] 第十五章 奮起[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[23] 第十六章 胎動[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[24] 第十七章 烈火 前編[赤狼一号](2010/08/23 02:18)
[25] 第十八章 烈火 中編[赤狼一号](2010/08/23 02:34)
[26] 第十九章 烈火 後編[赤狼一号](2010/08/23 02:41)
[27] 第二十章 忠誠[赤狼一号](2010/08/23 02:41)
[28] 第二十一章 雌伏[赤狼一号](2010/08/23 02:42)
[29] 第二十二章 奇跡[赤狼一号](2010/08/23 02:43)
[35] 第二十三章 萌芽[赤狼一号](2011/03/08 02:28)
[37] 第二十四章 咆哮[赤狼一号](2011/03/21 23:08)
[39] 第二十五章 結末[赤狼一号](2011/08/19 14:37)
[40] 第二十六章 再動[赤狼一号](2012/08/03 09:29)
[41] 第二十七章 鳴動[赤狼一号](2012/08/15 17:14)
[42] 第二十八章 始動[赤狼一号](2016/01/23 11:25)
[43] オデッサの追憶 第一話 斬込隊[赤狼一号](2016/01/23 08:25)
[44] オデッサの追憶 第二話 意地ゆえに[赤狼一号](2016/01/23 08:26)
[45] オデッサの追憶 第三話 戦友[赤狼一号](2016/01/23 08:46)
[46] 幕間 中将マ・クベの謹慎報告[赤狼一号](2016/01/23 10:52)
[47] 外伝 凱歌は誰が為に 前奏曲 星降る夜に[赤狼一号](2016/01/25 13:16)
[48] 外伝 凱歌は誰が為に 間奏曲 星に想いを[赤狼一号](2016/01/25 13:14)
[49] 外伝 凱歌は誰が為に 第一舞曲 かくて戦の炎は燃えさかり[赤狼一号](2016/01/25 13:09)
[50] 外伝 凱歌は誰が為に 第二舞曲 戦太鼓を高らかに[赤狼一号](2016/01/25 13:12)
[51] 外伝 凱歌は誰が為に 終曲 凱歌は誰が為に[赤狼一号](2016/01/25 13:11)
[52] キャラクター&メカニック設定[赤狼一号](2010/08/23 02:14)
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[5082] 第十六章 胎動
Name: 赤狼一号◆292e0c76 ID:00a6b5cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/23 02:17


――― 1999年 12月25日 国連軍横浜基地 地下19階

「VRでの演習ですか……」

「ええ、そのほうが多彩な状況を選べるじゃない」

 たしかにそのとおりですな、という言葉が思わず口からこぼれかけて、マ・クベはひそかに飲み込んだ。先日、行なったBETAとの初演習でやらかしてしまった失敗の記憶はまだ苦いものだった。
やはり、地上からの高精度な迎撃が百パーセント来ると言う状況は早々に慣れるものではない。だが、慣れねば次は命を失うというのもまた事実である。

「それに、あんた達のやたら頑丈な機体とかち合ったら、こっちの機体が持たないわよ」

「なるほど、それは確かにそうですな」

 それも、目的の一つだったとはおくびにも出さない。機体の損耗を避けたいというのはいまだ、超硬スチール合金すら浸透しきっていないこの世界においては、マ・クベたちも同意見である。
 これからが、本題といわんばかりに香月大佐は足を組みながら、妖艶な笑みを浮かべた。

「今回の演習は地下の機密区画に侵入したテロリストの鎮圧。そのアグレッサーをあなた達には担当してもらうわよ。こちらの戦力は、自動設定で基地駐屯の戦術機甲大隊7個大隊とあたしの直轄の戦術機甲部隊1個大隊が入るわ」

 なんともあからさまな設定もあったものである。どう聞いても挑発としか取れない条件をマ・クベは黙って頷いた。
機動性は向こうに分があるといっても、特殊部隊の機体には勝るとも劣らない機動性を持つものがあるし、機体強度にいたっては桁違いだ。そのくらいでないと勝負にならないというのが、素直な感想でもある。

「問題ありません」

 香月大佐は、こちらの反応を確かめているようだった。 どうやら返答はお気に召さなかったらしい。

「……ご不満ですか?」

 そう、マ・クベが尋ねると、香月大佐は驚いたような顔をした。

「そりゃ不満よ。嘘でもいいから、ヤバイみたいな顔してくれないと、言うカイがないわ」

「これは失礼を……」

「ところで、一つ聞いてもいいかしら?」

「何ですか?」

「半導体150億個の並列処理回路を手のひらサイズにする方法に心当たりないかしら」

 何の為に、とは聞かなかった。しばらく考えて、マ・クベは答えた。

「ありませんな」

「早いわね。もう少し悩みなさい」

「出来てせいぜい半分程度でしょうが、そこまでの技術となると我々が世界征服でもしない限り不可能でしょうな」

「あら、出来ないの?」

 香月大佐が、多少、挑発的な物言いになる。

「せいぜいこの国程度でしょう」

 にべもなく答えると、香月大佐は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「冗談に聞こえないわよ。それ」

 マ・クベが無言で肩をすくめて見せるち、香月大佐は軽く笑いながら、ひらひらと手を振った。

「今、国連で推進している計画でオルタネイティブ計画てものがあるわ……」

 そして、香月博士はこの世界のにっちもさっちも行かぬ状況を改善する為の手立てについて、話し始めた。今日ここにきて初めての笑みを浮かべる。やっと本題にはいるか、とマ・クベは心が高ぶっていくのを感じていた。




およそ4時間にわたる長い交渉が終わり、入り口の前でマ・クベは格式ばった会釈をした。

「それでは、失礼いたします」

「ええ、社、送ってあげなさい」

 香月大佐が顎をしゃくると、黒い兎の耳のようなものをつけた少女が黙って先導に立つ。マ・クベも黙ってそれに従った。

「…………」

「…………」

 廊下を歩く二人の足音以外に音はなかった。仮にこれがウラガンあたりなら、この沈黙を気にもしたろうが、マ・クベにとっては別段気にする事でもない。
 マ・クベとしてはこの演習悩みどころであった。向こうの機体はある程度分析してある以上、こちらの機体性能がほぼ未知数なあちらが不利(それらを確かめる目的もあるようだが)であろう事は分かっているはずだ。
仮に敗北すればあちらは全戦力を持ってすればこちらの事を圧倒できると思わせることが出来る。逆に勝利すれば、当面の発言力は優位になるものの、圧倒的な脅威として、色々と対抗策を打たれる可能性もある。
こちらに階級を与え、あまつさえ最重要機密まで話して、取り込みを掛けてきたことを考えれば、杞憂といえなくも無いが、純夏の事もある以上、油断は出来なかった。
それに、階級を与えると言っても、彼女はあくまで技術将校である。兵科将校ではない以上、一般部隊に対する指揮権は期待できない。せいぜいが直轄部隊とやらに対する指揮権と、中佐以下の士官からの命令拒否権くらいであろう(それも、対した条件ではあるが)。
そんな事を考えていると、ふと横合いから袖を掴まれた。見ると、先導していたはずの少女がいつの間にか隣に立って、じっとこちらを見ている。

「……何だね?」

「会って欲しい人が、居るんです」

 少女が消え入りそうな声で言った。小さな手はギュッとマ・クベの袖を掴んでいる。マ・クベ小さくため息をついて、黙って頷いた。



「ここです」

「これは……」

 少女が連れてきたのは薄暗く、機械だらけの部屋だった。その明かり一つ無い部屋の中で、唯一光を放っているものがある。配置された円筒状のシリンダーから淡い燐光が漏れている。それはマ・クベが毎日見ている基地の天蓋と同種の光だった。

「この人がだれか、知ってるはずです」

「これが、香月博士が鑑純夏を欲しがった理由かね」

 社霞が黙って頷いた。下からマ・クベの事を見上げると、マ・クベの手を小さな手で掴んだ。

 その瞬間、様々な感情が流れ込んでくる。哀惜、怒り、慟哭、そして、星屑のようにかすかに煌く、幸せだった頃の記憶。全ては、マ・クベが一番最初に遭遇したこの世界の人間「白銀武」のものだった。

「純夏さんと、会わせてあげてください」

 悲しそうな顔でマ・クベの事を見上げながら、社霞が小さな声で言った。

「私の答えは、もう分かっているはずだ」

 平板な声でマ・クベは答えると、手を離した霞が悲しそうに首を振った。

「読んでません」

 嘘であろう。先ほど物理的接触を介してイメージを送ってきた時にこちらの感情も多少、流れ込んだはずだ。それでも、認めたくないのか、社霞は懇願するような目でマ・クベの事を見ている。

「純夏はこうなっていた時の事を憶えていない。その間の事も」

 そう言った瞬間、社霞は驚いたように目を丸くした。同時に少しだけ、ホッとしたような顔をした。どれだけ、過酷な体験をしたのか、知らないわけでは無いらしい。
同時に、そんなものを見なければならなかった霞に対して、僅かな憐憫の情を覚えた自分に、マ・クベは驚いた。

「理由は私にもわからん。だが、あえて思い出させるつもりはない」

 はっきりとそう言うと、マ・クベはシリンダーの中の脳髄を見つめた。なんとも数奇な再会であった。
自分が肉体を失い陵辱の限りを尽くされてなお、助けを呼び求め続けた少年。無粋な異星人の作った悲しい芸術品。そして、この世界に来て初めて、約束を交わした相手でもある。

「……彼女を護るというのが、彼との約束だ」

 それだけ言うと、マ・クベは部屋を後にした。
 
 階下へのエレベーターに乗りながら、少女の願いを聞き届けられなかった事が、滓のように心の奥底に溜まっていくのを、感じていた。

「甘くなったな。私も」

 自分に対して、多少苛立ちを覚えながらも、マ・クベは決断に後悔していなかった。少なくとも、彼との約束は守り通しているからだ。



―――― 1999年12月28日 ジオンインダストリー 本社会議室

名前が変わっただけの、いつもの会議室に集ったのは、いつもの面子と言うべき男達であった。基地司令であるギニアス少将を議長に、補佐を基地警備部隊司令のノリス大佐が勤める。
とはいえ、他は外交担当のマ・クベと特殊部隊の長であるパイパー大佐の4人の会議なので、そうかしこる必要が無いのが、ありがたいところだ。

「それでは始めようか」

 基地司令であるギニアス少将が、相変わらず穏やかな調子で言う。

「まずは、開発班かからだ」

 開発班とは呼んで字のごとく、技術的な研究や開発を専門に行う技術部隊の便宜上の呼称である。ギニアス貴下の研究者たちと基地の整備班、そして第600軌道降下猟兵大隊の整備隊員達が合同で日夜研究に励んでいる。

「第一次供与作戦の各種合金や金属技術、それに合わせてMS…いや、「戦術機」用の携行火器、およびその仕様が可能な「新型」戦術機の開発データ、それら全ての用意はできた。後は渉外に任せるのみだ。中佐、役立ててくれ」

 そう言って微笑むとギニアス少将が片目を瞑った。珍しい茶目っ気に苦笑しつつ、マ・クベは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。ギニアス少将閣下」

「そんな、こそばゆい呼び方をされると、戸惑うよ中佐。ありものの技術をデータ化しただけだし、新型といっても、先日、言ったとおり、旧ザクにも及ばぬ機体だ」

 ギニアス少将が謙遜をするのを、ノリス大佐が誇らしげな眼で見ている。パイパー大佐もニヤリと笑いながらどこか満足そうだ。
どうやら思った以上に、少将殿は我々の心を手中にしているらしい。だが、悪い気分ではない。上司が有能で困る事など、仕事が少なくなる事だけだ(有能すぎると、多くなる場合もあるが)。

「少将閣下のおかげで、上での交渉もやりやすくなりそうです」

「上」とは、無論この世界の連中の事だ。まだまだ油断は出来ないが、当面の資金を確保できるだろう。とはいえ、それを横から掻っ攫われたりしないようにするのも、マ・クベの手腕に掛かっている。

「上といえば、香月中佐からこの世界の主な状況を聞きました。ソ連はアラスカを租借して撤退。
ヨーロッパ各国はアフリカに撤退し、スエズ防衛線を除いて、ユーラシアはほぼBETAに制圧されています。
状況はまったく持って芳しくありません。
日本帝国には、攻略したこの横浜ハイヴの他に、日本海側に佐渡島ハイヴ、朝鮮半島北部の鉄源ハイヴと複数のハイブに囲まれ
……現在は国連のオルタネイティブ4計画を主導しております」

「オルタネイティブ計画、例のG弾と言う兵器を使った反抗作戦のことですか?」

 ノリス大佐が怪訝そうな顔で尋ねる。

「それは第5計画のほうだ大佐。敵の弾を目当てに戦争など、俺には正気の沙汰とは思えん」

 パイパー大佐が呆れたように請け負った。確かにおざなりに人類脱出計画などもついているが、これは明らかな方便であろう。

「追い詰められた状況では、狂気に頼るのも致し方ないことなのやも知れませんが、これはあからさますぎですな」

 同感だという風にノリス大佐も頷く。

「マ・クベ中佐、一つ聞きたいのだが」

 ギニアス少将が穏やかに言う。マ・クベはギニアスの方を見た。

「なんでしょう?」

「先日の『香月大佐の頼みごと』とはこれのことかね」

 半導体150億個を手のひらサイズに出来る技術をよこせ、と言う突拍子も無いものだったが、一応、ギニアス少将に話を聞いてみたのだ。結果はあまり芳しくないものであったが、代わりにあちらの根幹とも言える「オルタネイティブ計画」についての情報が得られた。

「……その通りです」

「その事についてなのだが、一つ私から提案がある」

「……なんでしょうか」

「第5計画の欲しがっている技術、航宇宙用の大型推進機関の技術と宇宙船舶の船体構造などの技術を流出させる。それを餌に彼らと渡りをつけたいと思う」

「それは……!?」

「しかし、香月大佐と決定的な対立を作るのはまずいのではないですか」

 とはパイパー大佐だ。

「ならば、彼女に対して強力なカードになる」

 微塵の迷いも無くギニアス少将が言い切った。

「ギニアス様、それでなくても新型戦術機として流出予定のザクの技術は堅牢度や汎用性において、宇宙での作業機械転用がたやすく、間違えればこれだけ裏切りととられかねません」

 ノリス大佐が厳しい表情で言う。ギニアス少将はマ・クベの方を見ると真面目な顔で言った。
 
「私に考えがあるのだ……」

少将の話した提案は、さしものマ・クベをも驚愕させるものであった。ノリス大佐やパイパー大佐も信じられないようなものを見る目で、少将を見ている。

「何光年も先の星系へ旅立つより、よっぽど現実的であると思う」

「確かに……ですが、本当に可能なのでしょうか」

 とは、ノリス大佐だ。呆気にとられた顔で、息子のような司令官の顔を見ている。

「仮に果たせなくとも、第5計画派を分裂させる事は出来よう」

「素晴らしい提案です閣下」

 心の底からの賛辞をこめて、マ・クベが言った。パイパー大佐も感心した様子で、少将を見ている。ノリス大佐も、最初は呆気にとられていたが、直ぐに顔がほころんだ。

「そう言って、もらえると、安心だよ。中佐……」

 穏やかに笑みを浮かべたギニアス少将の顔が、苦悶に歪む。そのまま、机に倒れこんだ。

「「ギニアス少将!」」

 とマ・クベとパイパー大佐が寸分違わぬタイミングで叫ぶ。マ・クベは少々の方へ回り込んだ。

「ギニアス様!! 直ぐ人を」

 ノリス大佐が会議室の端末を取ろうとすると、パイパー大佐がそれを抑えた。

「大佐! なんのつもりだ!!」

「マ・クベ中佐。うちの軍医を呼べ。大佐こそ、基地内に総司令官が倒れた事を基地内に喧伝するおつもりですか」

 ノリス大佐が、はっとして端末から手を引く。机にすがりつくようにしていたギニアス少将に駆け寄って、その体を抱きとめた。

「ギニアス様、大丈夫ですか。お薬を飲まれなかったんですか?」

「毎日飲んでいたさ。くっ、ふふ、情けないことに、気が…抜けて、しまった、らしい」

 立ち上がろうとするギニアスを、ノリス大佐が必死で押さえつける。相当、無理をしていたらしい。

「ノリス、基地を、部下たちを、頼む」

 弱弱しくそれだけ言うと、駆けつけた軍医がギニアス少将を運んでいった。


一瞬の喧騒を越えて、会議室は静寂に包まれた。しばらくして、口火を切ったのはパイパー大佐だった。
「マ・クベ。考えはあるか?」

 無ければ考えろ、と目が言っていた。マ・クベは小さくため息をつきながら、しばらく考えこむと、ノリス大佐を見た。

「ノリス大佐、基地のMS部隊から一個中隊を選抜してください……」

 大佐は真っ直ぐにマ・クベの目を見ると、真剣な顔で頷いた。




――――ジオンインダストリー本社 ノリス大佐のオフィス

「MS第9中隊 第3小隊長トップ少尉、出頭いたしました!」

 オフィスに入って大声で、自分の名を告げ、敬礼をする。正面のデスクにかけていたノリス大佐が、厳しい顔で答礼を返した。

「……ご苦労」

 警備隊の司令官である大佐に呼び出されたこともあって、いささか緊張していたトップは、部屋に第9中隊の中隊長であるヴィットマン大尉と副官のヴォル少尉が居ることに気づいた。
 ノリス大佐が、ふと大尉の方を見る。

「彼女で最後か?」

「ええ、自分が選抜する小隊長は彼女とヴォル少尉です」

 何をいっているのだろうか、状況がつかめずに混乱するトップに、ノリス大佐が表情をゆるめる。

「唐突で驚くだろうが、貴官は次の演習の選抜中隊で小隊長をやってもらう」

「じ、自分がですか?」

「ヴィットマン大尉の推薦だ」

 大尉の方を見ると、それに気づいた大尉が軽く片目を瞑った。

「演習の予定が少し変わってな。少尉、辞退するかね?」

 とノリス大佐が尋ねる。大佐や大尉の事だから、ここで仮に辞退しても遺恨は持つまい。だが、トップとてこの基地での訓練を乗り越え、欧州での激戦も越えてきた身である。やる前から臆するような、しとやかさなど持ち合わせていなかった。
 ぐっと大佐を見返すと、トップはきっぱりと答えた。

「いいえ、大佐。喜んでやらせていただきます」

「よく言った少尉。期待している」

 ノリス大佐が満足そうに笑う。横目でヴィットマン大尉を見ると、大尉はさも当然と言わんばかりにすました顔をしている。

「光栄であります!!」

 直立不動でノリス大佐に敬礼を送る。大佐も座したままではあるが、答礼で答えた。

「少尉、また一緒に戦えるな」

 ビットマン大尉がトップの背中を軽くどやしつけた。大尉の手が触れた瞬間に、トップは少しだけ鼓動が早まるのを感じた。

「よ、よろしくお願いします」

「そんなに緊張しないでくださいトップ少尉。自分らは同じ中隊なわけですから」

 先任らしからぬ丁寧さで、ヴォル少尉が言う。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「それじゃあ少尉。ちょいと上の奴らを教育してやろう」

 ヴィットマン大尉が歯を剥き出す様な、獰猛な笑みを浮かべた。





―――― 機動巡洋艦「ザンジバル」 MS格納庫

 格納庫に揃った斬り込み中隊の隊員達を前にして、中隊長であるマ・クベ中佐が整列した隊員たちの前に立つ。
突然の呼集に、メルダースを初めとした隊員たちは、僅かに戸惑いながら、指揮官の言葉を待っていた。

「次の演習、予定を変更してメルダース中尉は私の代理として、中隊の指揮をとれ。基地警備隊のノリス大佐が選抜した一個中隊を率いて、全体の指揮を執る」

 メルダースが驚いて、マ・クベの方を見る。異論の声こそ上がらなかったものの、僅かなどよめきがひろがる。普段の訓練などでは、中隊副長であるメルダースが隊長代理として指揮を執る場合がある。だが、今回の演習がただの演習でない事は、メルダースもなんとなく察していた。

「不満か?」

 平板な調子で、マ・クベがメルダースに尋ねる。言葉はメルダースに向けられたものであったが、同時にその場の全員に対しての問いでもあった。
皆、不満と言うよりは戸惑いを持っているようだ。ノリス大佐は優れた指揮官であるのと同時に、優れたパイロットでもある。
グフライダーの集団である斬込中隊において、先の演習でも目の当たりにしたノリス大佐の実力に不満などあろうはずもない。

「……いいえ、ですが不安ではあります」

 メルダースが正直に答えると、マ・クベ中佐は僅かに苦笑を浮かべた。

「そうだな」

「しかし、ご命令とあらば」

 メルダースは直立不動の姿勢をとって、はっきりと答えた。それが、軍隊と言うものだ。まして、この部隊は「マ・クベ中佐の」斬込隊である。中佐が「やれ」と言うだけで、理由は十分だった。

「貴官らの奮闘を信ずる。ジーク・ジオン」

「「「「「「「「「「「「「「「ジーク・ジオン」」」」」」」」」」」」」」」

 マ・クベの敬礼に、声を揃えた答礼で答える。マ・クベ中佐が手を下ろし、踵を返した。
 中隊の隊員たちはやはり、少しだけ不安そうにマ・クベの背を見守っている。まるで親に捨てられた子犬のような目だ。少々、オーバーな表現かもしれないが、メルダースの目にはそう見えた。そして、自分もそんな目をしているのだろうと、彼は思った。

「メルダース」
 
 唐突にマ・クベ中佐が、彼の名を呼んだ。

「はっ」

 驚いて、顔を上げると、マ・クベ中佐のアイス・ブルーの瞳が真っ直ぐにこちらを見ていた。

「……勝て」

僅か一言であったが、本気である事は十分に伝わって来た。あの滅多に感情を露わにしないマ・クベ中佐が、本気で彼らに勝利を求めていた。
目は口ほどにものを言う。言葉が伴えばなおさらだ。    
予想外の反応に斬込中隊の隊員たちは戸惑いを隠せなくなっていた。かく言う、メルダースにとっても、それは唐突に感じられた。

「……はっ」

 メルダースがあわてて答えると、マ・クベ中佐はなんともいえない淡い笑みを浮かべた。そんなマ・クベを見ながら、唐突に気づいた。これは「命令」ではない言う事にである。
兵士として「義務を果たす事」は要求しても、中佐は決して「勝て」とは命令しなかった。それを決するのは指揮官の責務だと、知っているからだ。その中佐が「勝つ」ことを求めていた。彼らの事を初めて頼ってくれたのである。
そこまで気づいて、メルダースの口からは自然に声が出ていた。

「中隊長殿に! 敬礼っ!!」

 一糸乱れぬ腕と踵が格納庫内に一つの音を奏でる。
捨てられた子犬はいつの間にか、獰猛な軍用犬へと変貌してた。この場に集った皆がマ・クベの意図を理解したのである。
彼らを勝利へと導いて来た中隊長が、彼らに初めて己の能力を超えても、「勝て」と求めた。これに答えられなくて、なんの斬込中隊であろうか。
 マ・クベ中佐が見事な答礼を返した瞬間に、男達の熱狂は最高潮へと達した。




あとがき
 皆さん、ゴメンなさい。さあ、決戦だと期待していただいていたかと思いますが、ジオンの方でも色々あったというのが今回の話です。とりあえずジオノグラフィーのケンプファーを買って、黒騎士仕様に改造しようとか考えている今日この頃です。てか、HGのザク改がどこ行っても品切れとか・・・・いろいろと泣きたいです。何処かでHGのイフリート改のミサイルランチャーだけ手に入らないかな~とか色々しょうも無い事を考えている有様です。し、資料だもん。趣味じゃないもん。ごめんなさい、嘘つきました。と言うことで、次回はノリス大佐のターンです。ご期待ください。


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