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No.5082の一覧
[0] 機動戦史マヴラヴHardLuck(マブラヴオルタ×機動戦士ガンダムTHE ORIGIN(マ・クベ)×黒騎士物語×機動戦士ガンダム08MS小隊×オリジナル)[赤狼一号](2013/05/01 22:29)
[1] 第一章 強襲[赤狼一号](2012/09/27 11:10)
[3] 第二章 辺獄[赤狼一号](2012/08/24 20:21)
[4] 第三章 悪夢[赤狼一号](2015/10/04 08:32)
[5] 第四章 遭遇[赤狼一号](2012/08/24 20:27)
[6] 第五章 葬送[赤狼一号](2010/08/23 02:11)
[7] 第六章 邂逅[赤狼一号](2010/08/23 02:11)
[11] 第七章 対峙(改定版)[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[12] 幕間 ギニアス少将の憂鬱~或いは神宮寺軍曹の溜息~[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[13] 第八章 約束[赤狼一号](2010/08/23 02:15)
[14] 第九章 出会[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[15] 第十章 会合[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[17] 第十一章 苦悩と決断[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[18] 第十二章 逃走と闘争[赤狼一号](2010/08/23 02:16)
[19] 第十三章 予兆[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[20] 第十四章 決意[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[21] 幕間 それぞれの憂鬱[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[22] 第十五章 奮起[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[23] 第十六章 胎動[赤狼一号](2010/08/23 02:17)
[24] 第十七章 烈火 前編[赤狼一号](2010/08/23 02:18)
[25] 第十八章 烈火 中編[赤狼一号](2010/08/23 02:34)
[26] 第十九章 烈火 後編[赤狼一号](2010/08/23 02:41)
[27] 第二十章 忠誠[赤狼一号](2010/08/23 02:41)
[28] 第二十一章 雌伏[赤狼一号](2010/08/23 02:42)
[29] 第二十二章 奇跡[赤狼一号](2010/08/23 02:43)
[35] 第二十三章 萌芽[赤狼一号](2011/03/08 02:28)
[37] 第二十四章 咆哮[赤狼一号](2011/03/21 23:08)
[39] 第二十五章 結末[赤狼一号](2011/08/19 14:37)
[40] 第二十六章 再動[赤狼一号](2012/08/03 09:29)
[41] 第二十七章 鳴動[赤狼一号](2012/08/15 17:14)
[42] 第二十八章 始動[赤狼一号](2016/01/23 11:25)
[43] オデッサの追憶 第一話 斬込隊[赤狼一号](2016/01/23 08:25)
[44] オデッサの追憶 第二話 意地ゆえに[赤狼一号](2016/01/23 08:26)
[45] オデッサの追憶 第三話 戦友[赤狼一号](2016/01/23 08:46)
[46] 幕間 中将マ・クベの謹慎報告[赤狼一号](2016/01/23 10:52)
[47] 外伝 凱歌は誰が為に 前奏曲 星降る夜に[赤狼一号](2016/01/25 13:16)
[48] 外伝 凱歌は誰が為に 間奏曲 星に想いを[赤狼一号](2016/01/25 13:14)
[49] 外伝 凱歌は誰が為に 第一舞曲 かくて戦の炎は燃えさかり[赤狼一号](2016/01/25 13:09)
[50] 外伝 凱歌は誰が為に 第二舞曲 戦太鼓を高らかに[赤狼一号](2016/01/25 13:12)
[51] 外伝 凱歌は誰が為に 終曲 凱歌は誰が為に[赤狼一号](2016/01/25 13:11)
[52] キャラクター&メカニック設定[赤狼一号](2010/08/23 02:14)
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[5082] 第十二章 逃走と闘争
Name: 赤狼一号◆292e0c76 ID:00a6b5cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/23 02:16

 先日、捕獲したのとは違う形のMSがそこらを闊歩している。いや、あれは確か戦術機と言ったか……。着慣れぬ軍服に身を包んだウラガンは珍しげにあたりを見回していた。それもさりげなくだ。同じ軍服に身を包んだ秘書官の方は、きょろきょろと遠慮なく見回している。
 ウラガンが彼女のほうを身ながら、わざとらしく咳をすると、気まずそうな照れ笑いを浮かべた。

「カガミ准尉、気持ちは分るが控えてくれ」

 携帯式の翻訳機を通してウラガンがたしなめる。後ろのヘイヘ少尉は帽子を目深にかぶり、黙々と歩いている。身を包む、着慣れない軍服は「国連」のものだった。目の前を歩く少女が「その服では…目立ちますので」と用意してくれたものだ。それにしても、目の前を歩く彼女といい、殿のヘイヘ少尉といい、どうしてこう物静か過ぎる人間に挟まれなければならないのか。

(……気まずい)

 早く交渉が終わってくれる事を願いながら、ウラガンは見せられるものの位置を懸命に、覚えていた。

「ん?」

 歩いているウラガンの袖を誰かが引っ張る。見れば、秘書官の格好をしているスミカ・カガミが何かを訴えるような目で此方を見ていた。

「どうかしたかね?」

「……ウラガンさ、大尉。我侭を言ってるのは分ってるんですが……」

 小声で耳打ちされて、ウラガンは頭を抱えたくなった。そもそも、彼が地上に出されたのも地の底で、壮絶な化かし合いを行っているであろう上官の命令によるものだった。スミカの外を見たいという願いを叶える為の策だったのである。彼女の境遇は察して余りあるものであるウラガンとしては、彼女が耳打ちした「自分の街がどうなっているのかを見たい」という願いは至極当然のものと受け止められた。だが、現在の自分達は、敵対勢力と言っても差し支えない関係であり、基地周辺を見物したいなどと言う要望が容易に通るとは思えなかった。
 それでも、一応、行動してみる辺りウラガンがマ・クベの腹心たりうる所以だった。

「ああ、Msヤシロ」

 ひょこっとウサギ耳が動いて、前を歩いていた少女がこちらを振り返った。真っ直ぐに此方を見つめてくる視線がなんとも気まずい。

「…………」

「あー、その……基地の外がどうなっているか、見せて欲しいんだが」

 しどろもどろになりながら、なんとか片言に言葉を吐き出す。

「…………」

「わ、我々としてもG弾が周辺に与えた影響を確かめたいので……」

 畳み掛けるように言葉を繋ぐ。いきなり、此方が謝りたくなるほど、申し訳なさそうな顔で少女が頭を下げた。

「…ごめんなさい。基地の外へは…私も出ては行けないと、言われているので……」

「ああ、いや、申し訳ない。此方のわがままだどうぞ頭を上げて欲しい」

 慌てて、頭を上げさせるウラガン。振り向いて、純夏に詫びようとすると、後ろから袖を引っ張られた。

「あの……でも、見晴らしのいい場所なら……あります」

 たどたどしく言いながら、少女が彼の袖を引いて歩き出した。

「え? ああ、どこへ」

 少女が引っ張られていくウラガンを、純夏が慌てて追いかける。ヘイヘはしばらくの間、少女の背中を見つめていると、黙って歩き出した。




 つれて行かれた場所は、基地の裏手の方にある小高い丘だった。見晴らしが良く、麓の街が一望できる。もっとも、見えるものを廃墟と言うか、瓦礫の山と言うかは微妙なところだった。

「…………」

 純夏は黙って、その景色を見ていた。ウラガンはカスミになんのかんのと質問をして、少しづつそこから距離をとった。驚いた事に無口なヘイヘ少尉も、この時ばかりは積極的に話しかけて霞の注意をひきつける事に協力してくれた。
しばらくして、純夏がこちらに走ってきた。霞の後ろで止まると、そっと頭を下げる。目が少し赤いが、それでもウラガンは、涙を止めてきたことを褒めてやりたい気分だった。

「…………」

 カスミが後ろに振り返ると、じっと純夏の顔を見る。何か悟られたか、ウラガンの背中に冷たいものが下りる。純夏はなにやら気まずそうな顔で、目をそらしている。しばらく見つめているとカスミが唐突に言った。

「それでは…帰りましょう」

「はい」

 胸の内で安堵しながら、ウラガンは少女の後に従った。エレベーターで地下へと下りると、マ・クベと合流する。行きよりも、僅かながら表情が硬い……どうやら、大分苦戦を強いられたようだ。
 先ほどから、落ち込でいるようだった純夏が、マ・クベの顔を見て、ふっと表情が和らいだ。

「それでは、マ・クベ中佐。よろしくお願いしますわ」

 勝ち誇ったような声で「香月中佐」が言う。マ・クベが僅かに眉を顰めるのを見て、ウラガンは今日の「運動」は大分ハードなものになることだろう事を覚悟した。

「こちらこそ」

 とそっけなく返して、マ・クベがエレベーターに乗り込む。

「……純夏さん」

 唐突に、ウサギ耳の少女が口を開いた。

「え?」

 驚いて純夏が彼女の方を見る。何かを言いたそうな顔で、純夏のことをじっと見つめている。カスミが口を開く前に、エレベーターの扉が閉まり、一行を地下へと運んで行った。

「なんだったんだろう」

 首をかしげながら、純夏の片手はマ・クベの上着のすそをしっかりと掴んでいた。ウラガンとしては、むしろ彼女の趣味に首を傾げたかったが、それを態度に表すほど、彼は愚かでも命知らずでもなかった。

「……ヘイヘ少尉、わざわざすまなかったな。ご苦労だった」

 唐突に、マ・クベが口を開いた。ヘイヘは、一言「はっ」と答えると踵を打ち鳴らして、教本道理の敬礼をして見せた。言葉は少ないが、彼がマ・クベに一定以上の敬意を持っていることは、十分すぎるほど、分った。ウラガンにとっては、どこか誇らしいような、反面、妬ましいような複雑な心境だった。

「ウラガン、ご苦労だったな」

 気のせいか、マ・クベ態度はどこか砕けた感じだった。ウラガンは、それが妙に嬉しくてたまらなかった。

「ありがとうございます」

 姿勢を正して敬礼をすると、答礼は無く、僅かな微笑みと共に頷くだけだった。つまるところ、それが上官とその副官の距離感だった。そんな自分に対してもヘイヘ少尉が敬意を持っているのに気づいて、ウラガンは彼が好きになれそうだと思った。





――― 第600軌道降下猟兵大隊旗艦「モンテクリスト」会議室

「傭兵とはまた思い切った決断をしたものだな」

広い会議室の中にパイパー大佐の声が響いた。面白そうに笑いながら、大佐がマ・クベを見る。

「それで、のこのこ中佐の階級章を貰ってきた貴様はどうするつもりだ?」

 大佐の視線が、鋭いものに変わる。マ・クベは毅然としてその目を真っ向から見返すと、落ち着いた声で答えた。

「申し訳ありません。こうも火急に出てくるとは思いもよりませんでした。ですが、私もいずれこの形を具申するつもりでした。技術だけでは、いずれ連中に先を取られます」

 いくら、基礎に差があるとは言え、追い詰められばそんな差など死に物狂いで埋めてくる。時にはありえないような技術の発展を見せる。それも戦争の持つ一つの顔だ。

「中佐が我々全体のために交渉に当たってくれた事は、承知している」

 穏やかな声音が二人の間を遮った。声の主は基地司令ことギニアス少将であった。今日は何処と無く顔色が悪いようにも見える。

「本当にご苦労だった。パイパー大佐、技術方面は我々が何とかする。申し訳ないが兵の方はしばらくそちらで負担していただけまいか」

 申し訳なさそうにギニアスは言うが、彼が並々ならぬ挺身を行っている事は、この場の誰もが理解していた。この世界の技術の解析とその応用、ならびに先日決定した技術供与に至るまで、陣頭にたって指揮を執っていた。誰が見ても負担は明らかだった。だのに休もうとしないのは本人の並々ならぬ執念ゆえである。この異郷で彼ら全ての命運が技術陣にかかっている事を、十分すぎるほど理解していればこそだ。縁の下の力持ちどころか、縁の下の人柱にでもなろうかと言う勢いだった。

「基地防衛隊はその主任務が基地の防衛だ。外部への遠征にはあまり力を裂けない。それに、錬度に関しても我々は再編したばかりで不安が残る」

 基地防衛隊司令のノリス大佐が、ため息混じりに言う。本当なら誰よりもギニアスを助けたいと思っているはずだった。とはいえ、先だっての騒乱で少なからぬ被害を出した基地防衛隊の再建をわずかな期間で成し遂げた手腕だけでも、評価されるべきものだ。

「まあ、あまり気にされん事です。もともと我々の方が向いた任務ですし、錬度が心配と言うなら
上げればよろしい」

「面目しだいもない」

 軽く請合うパイパー大佐に、ノリスは丁寧に頭を下げた。

「止めてください大佐。この基地では貴方が先任です。それに、こうなりゃもう一蓮托生だと思いませんか?」

 そう言ってパイパー大佐がニヤっと笑う。異郷の地にあって、団結が急務であることは明白である。だが、それ以上に根深い問題がある、キシリア派の特殊部隊とギレンの肝いりのアプサラス基地である。状況はどうあれ水と油であるはずの両派閥の高官(ノリス大佐もパイパー大佐もあまり気にする性質ではないが)たちがこうした連帯感を持つということは、非常に稀有な事でもあった。

「……と言うわけだ。貴様にはきっちりと泥を被ってもらうぞマ・クベ中佐」

「無論です」

「この後の演習は、どうだ。勝算はあるか?」

 ほんの少し、からかうような調子でパイパー大佐が言った。特殊部隊と基地防衛隊との合同演習特殊部隊の錬度維持とともに、基地防衛隊の錬度向上を図る定期演習の記念すべき第一回であり、基地防衛隊と特殊部隊の連携や交流を図ることも目的の一つである。
 ちらりとノリス大佐の方を見ると、マ・クベははっきりとした声で言った。

「ノリス大佐の基地防衛隊にバウアー少佐の黒騎士中隊、相手にとって不足はありません」

「不足はない……か。なかなか、強気だな」

 大佐は満足そうに笑うと、ノリス大佐のほうを見た。まるで腕白坊主が自分の宝物を自慢するような顔だ「良い男だろ、俺の部下は?」まるでそんな言葉が聞こえてくるような気がした。ノリス大佐は気分を害するでもなく、苦笑を浮かべている。大佐とて少なからぬ部下を持つ身だ、そういう気持ちも理解できるのだろう。元中将と言うこともあって、そういうことに縁遠かったマ・クベとしては、かなり複雑な気分だった。

「相手は鬼謀でなるマ・クベ中佐率いる斬り込み中隊にルウムの白薔薇ことリトヴァク少佐の死薔薇中隊でありましょう。胸を借りるつもりでおりましょう」

 謙虚な言葉だが、その言葉の裏にあるのは、武人としての期待であろう。その証拠にノリス大佐はとても楽しそうに笑っていた。抑えようとしてもなお湧き上がるのが、武人としての闘争心なのだろう。もう一度、ノリス大佐が歯をむき出すような獰猛な笑みを浮かべた。

「恐縮であります」

 踵を打ち鳴らして敬礼をすると、3人の上官が答礼を返す。上官の手が下りたのを確認すると、マ・クベは踵を返してドアへと向かった。二人の覇気に当てられたのだろうか、マ・クベも胸に沸き立つものを感じていた。

「中佐!!」

扉に手をかけたところで、パイパー大佐に呼び止められた。振り向いて直立不動を作ると、マ・クベは不敵に笑う大佐の顔を見て、尋ねた。

「何でありましょうか?」

「貴様、昔より、良い面構えになってきたぞ」

 付け加えるようにいうと、また、ニッと笑った。

「よし、行け」

「失礼します」

 再び踵を返すと、マ・クベは会議室を後にした。

基地の敷地周辺を取り囲むように不気味な燐光が広がり、基地の照明はそれを押し返すように光の帯を放つ風景は、毎日、昼夜の隔てなく続いているものだった。その光景にいささか辟易しつつ、マ・クベはザンジバルへと向かった。



――― 機動巡洋艦「ザンジバル」MS格納庫

 格納庫内に起立しているのは、黒色迷彩で塗られた鋼の巨人だった。ジオン公国が生み出した初の白兵戦特化型MS「グフ」とその発展型である「イフリート」、そして2列に並ぶ巨人達の最奥に鎮座するのは、中世欧州の騎士甲冑を思わせる1機のMSだった。マ・クベの愛機である「ギャン」だ。黒塗りの騎士達の前に並ぶのは、その駆り手たちである。

「諸君、今回の演習での任務は仮想敵(アグレッサー)である。白薔薇中隊と共同して、基地全軍を相手にせねばならない。しかも、敵方には黒騎士がいる」

 男達は静かに話を聞いていた。居並ぶ顔には、まるで何事でもないという風に、無機質な冷静さを漂わせている。そんな男達の様子を満足げに見やると、マ・クベは深く響く声で話を続けた。

「我々は結成してまだ日もあさく、共にした戦場も、そう多くはない…」

 そこまで言って、マ・クベが深く息を吸った。次の瞬間、無機質な声に、荘厳な抑揚が宿った。

「だが! 今ここで、あえて戦友諸君と呼ぼう!! そう言えるだけの戦場を、我々は共にしたはずである!!」

 男達の目に激情の炎が宿る。無機質な冷静さは部隊の長の流儀だった。男達はあくまで、それに従っていたに過ぎない。そのマ・クベの言葉が激情を解き放つなら、男達の答える言葉はたった一つであった。

「オデッサ!!」

 最初に叫んだのは副長であるメルダース少尉だった。そこから、次々と同じ声が上がる。かの地で散った一人の戦友を忘れたものなど居なかった。後ろから、横から、次々と同意を示すように「オデッサ!!」の叫びが上がる。
「オデッサ!」「オデッサ!」の大合唱が格納庫内に響く。その合唱が最高潮に達し、やがて収まると、男達は自らの長であるマ・クベを見た。
同じ床に立っているはずなのに、なぜか大きく見えた。

「諸君、情熱は全て胸に放り込み、頭の芯は凍らせておけ! 目的を果たし、帰る。それが任務だ!!」

 マ・クベが、非の打ち所のない敬礼を放つ。間髪居れず、揃ったように踵を打ち合わせ、男達は一斉に敬礼を返した。もはや、先ほどの激情はなく、無機質な冷静さが、剃刀のような凄みを与えていた。
 マ・クベが手を下ろすと同時に、メルダース中尉が良く通る声で叫んだ。

「全機搭乗!!」

中隊長の命令一下、男達が一斉に自分の機体へと走り出す。機体を起動させ、管制システムをチェックする。ジェネレーターが咆哮を上げ、虚ろだった単眼に力強い灯がともる。

《進路クリアー! 発進どうぞ!!》

 コクピットの内部に管制官からの発進許可が響く。パルス状のエネルギーが関節のロータリーシリンダーへ極超音速で伝達され、鋼鉄の戦士が力強い一歩を踏み出した。

《斬り込み中隊…出撃する!!》

 開放された出撃口から、黒鋼の戦士たちが躍り出た。





――― 演習場某所

人口の遮蔽物の中にまぎれるように配置されているのは、二機の黒いMSだった。機体の肩に画かれた白い薔薇のエンブレムは迷彩シートの下に隠れている。狙撃用のビームマシンガンを構えたままホールドさせたゲルググJのなかで、そのシモ・ヘイヘ少尉は静かに腕時計を眺めていた。

「時間だな……」

 そう言って彼は、ゲルググJのシステムを起した。ジェレーターがパルス化したエネルギーを機機体中に送り出す。メインモニーターが目標を移す。はるか遠く、擬装岩の中に仕込まれたミノフスキー粒子の高密度タンクである。深く息を吸って、ヘイヘは操縦桿を握った。浅く吐きながら、止めた、僅かな間にトリガーを引く。狙い通り縮退されたミノフスキー粒子の矢は目標を貫いた。接触通信で僚機に回線を開くと、ヘイヘは静かな声で報告した。

「こちら白薔薇3、目標達成、次の目標に移る」

《白薔薇1了解、ヘイヘ少尉、相変わらず良い腕しているな》

 通信機から、若い女性の声が聞こえる。口調はキビキビとしているが、やわらかい感じのする声。部隊長であるリディア・リトヴァク少佐だ。

「光栄です少佐」

《次もその調子で、だが、油断はするな》

「私はすべき仕事をするだけです」

そう言うと、通信機の向こうのキビキビした口調自体が和らいだ。

《分ってるわ少尉、だから頼りにしてるわよ》

 毅然さの中にどこか可愛らしさを持つ、上官に半ば苦笑しながら、機体を走らせる。同時に胸の中に湧き上がる興奮を感じて、シモ・ヘイヘは驚いた。彼は本来が物静かで淡々とした男だった。その彼をして、どうしようもなく高揚させるのは、この演習がオデッサの激戦を思わせるからであろう。劣勢の戦力と、何よりも部隊を指揮するマ・クベ中佐、そして彼に付き従う斬込中隊。全ては彼の時をなぞるが如き布陣であり、オデッサ防衛軍として彼の下で戦った時に感じた不思議な感覚までもが、そこに拍車をかけていた。
研ぎ澄まされていく感覚が、彼に全てを伝えていた。接触回線を再び隊長機につなぐ。

「リトヴァク少佐、そろそろ敵が来ます」

《センサーに反応があった? 予定より少し早いわね……》

 リトヴァク少佐のいぶかしげな声が聞こえてくる。震動センサーが僅かな反応を捕らえると、少佐から全機に発光信号で戦闘態勢をとるように命令が下った。ヘイヘが望遠照準で敵に追われる斬込隊の姿を捕らえたのは僅か数秒後の事だった。

「仕事の時間だな…」

 いつもと同じように、狙いをつけて、寸分たがわぬ冷静さで引き金を引いた。





《隊長が…られた!》

《通信が・・・ミノフキー・・・粒子濃度が・》

《敵機反転! 速い…ぐあぁ…ぁ!》

《畜生! …つら、鬼だ……刃が嵐みた…に》

緩衝材を巻いたヒートソードで叩きのめされた味方のマーカーが消える。その横で盾で殴り倒された所をコクピットに75mmの赤い弾痕つけられた機体が、撃破判定を食らう。

「こいつは……聞きしに勝る地獄だぜ」

 ドムのコクピットの中で、ミハイル・ビットマン大尉が呟いた。演習開始から僅か2時間、徹底した遊撃配置による銃撃によると、斬込隊の白兵突撃による凄まじい攻勢があったかと思えば、潮が引くかのように撤退する。そこにつられて隊形を崩せば待っているのは狙撃と斬込隊の逆襲だ。
短い間とはいえ、預けられた部下は徹底的に鍛え上げたはずだった。副官のヴォルを始め旧式の機体でありながらトップ小隊などは善戦している。その時、通信機のマイクにとてつもない声量のドラ声が入ってきた。

《あー、こちら黒騎士中隊! ヴィットマン大尉! 聞こえるか!!》

「こちらヴィットマン。私の部隊も私の耳も生きとります、少佐」

 怒鳴り返した相手は特殊部隊のエルンスト・フォン・バウアー少佐である。さすがに黒騎士中隊は特殊部隊だけあって致命的な損害はこうむっていなかった。と言うより、相手方のマ・クベ中佐がバウアー少佐の居るポイントをたくみに避けている様だった。恐らくは少佐を引き回して消耗させるのが狙いだろう。
 ふと、ヴィットマンは地球に下りる前にパイパー大佐に600軌道降下猟兵大隊へ来ないかと誘われた事を思い出した。妙な縁がだな、とヴィットマンは胸のうちで笑った。マ・クベ中佐は的確に弱い部分をに戦力を集中させてきた。しかし、逆に言えばそれは足手まといになるものを間引いたに過ぎない。つまり、ノリス大佐を初めとした一筋縄で行かない連中は生きているのだ。

「とはいえ、部隊の半数以上を落とされた時点で勝ちとは言えんな……」

 機甲部隊と戦闘ヘリ部隊に加えMS部隊まで動員して、この有様だ。壁は予想よりも高く厚いらしい。

《少佐、大尉、俺が思うに、連中、もう勝った気でいるんじゃないですか?》

 副官のヴォル少尉がとても楽しそうに言う。……不謹慎などとは言うまい、絶望的な状況ほど面白いものはないのだ。そして、この趣を理解できるのはどうやらヴィットマンだけではなかったらしい。バウアー少佐の愉快げな笑い声を聞けば、答えを聞いたようなものだった。

「《よし! 教育してやる!!》」

 猛者二人の咆哮とともに、残存部隊全てを突っ込んだ大攻勢が開始された。






 頭上には厚い岩盤がそびえ妖しげに光る床が広がっている。ハイヴの広間のど真ん中で対峙するのは2機のMSだった。
 まるで旧世紀の騎士を思わせるマ・クベのギャンの前に立ちふさがる黒いアクトザク。頭部装甲をフリッツヘルムに換装したそれは、バウアー専用アクトザクだ。2機の周りにはMSの撃破判定を食らった敵味方のMSが転がっている。犠牲をいとわぬ突撃戦術によって、状況を巻き返したのは流石と言うところだろう。がっぷり四つに組まれてしまえば数に劣るマ・クベたちに勝ち目はない。そんなことは最初から分っていたことだ、戦術も糞もない乱戦の中で不思議と二人は出会ってしまった。どうしようもない腐れ縁と言うべきなのか、それとも幸運と言うべきか、少なくともマ・クベにとっては後者だった。恐らくは相手も同じ事をおもっているのであろう。
 アクトザクが持っていたグレネードランチャー付のMMP-80マシンガンを投げ捨てた。腰につけたヒートホークを構える。コクピットの中で、マ・クベはニヤリと笑った。

「私を相手に白兵戦とはな……」

試作型ながらフィールドモーター駆動であり、マグネットコーティングも施されている。機体性能はほぼ同等、操縦の技量は相手が上、だが白兵戦に関してはギャンに分がある。決して優位ではないが、それゆえに油断も無い。
盾を構えて、ギャンが突進する。突きの動きに見せかて、逆袈裟に斬り上げるが、手ごたえが無い。

「上か!」

すぐさま構えを整える。ヒートホークよりもビームサーベルの方がリーチは長い。頭上からならなおさらだ。心臓の鼓動が高まり、時間が恐ろしくゆっくりと流れる。

「串刺しにしてやる!」

 落下してくるであろうアクトザクに備え盾を掲げる。ところが黒い巨体はバーニアをふかして空中に留まると、推力を偏向させて鋭角に突っ込んできた。

《甘いぞマ・クベ! 赤いイナズマキィィィィィィック!!》

咆哮と共にカメラに飛び込んできたのは、アクトザクの足の裏だった。刹那、凄まじい衝撃でシートにたたきつけられた。コクピットに鳴り響いた、うるさいくらいのアラートで、マ・クベは自分が敗北した事を嫌と言うほど思い知らされた。

「とりあえず、そのネーミングは止めてやれ。ジョニー・ライデンが泣くぞ」

ため息に交じりに言いながら、マ・クベはなにかにつけて『赤い彗星』と混同される哀れな元部下を思い出していた。

 結局、正面決戦へと引きずり込まれた斬込・白薔薇の両中隊は、徹底交戦により敵勢力の3分の2以上を撃破して殲滅された。




後日、香月大佐の下で仮想敵として、この演習の記録映像を見せられた直属部隊指揮官は「BETAと戦う前に死ぬかもしれない」と引きつった笑いを浮かべたという。




あとがき
お待たせいたしました。試験が終わったのでぼちぼち連載のペースを上げいたいな、なんて思いながらやっぱり上がらない赤狼です。今回は斬込隊と基地防衛隊の合同演習をやってみました。久々の戦闘シーンなので上手くかけているかどうかは、不安です。ちなみに、イナズマキックはネタです。すいません、頭の中の神様(電波)=ゴーストがささやくままに書いてしまいました。皆様の感想の数々に支えられながら日々書いております。最近は友達から借りた「ファントム」というゲームをやってました。相変わらずニトロプラスの作家さんはノワール好きだなと思いつつ、楽しませていただきました。ああ、あとクッキングパパ集めてます。あれは料理漫画の中では珍しく調理本として使える漫画なので。


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