※この作品ではガンダムTHE ORIGINの設定を基本的には優先しています。よってTV版などと設定が食い違うことがありますが、ご理解ください。
それは、誰かが望んだ他なる結末
数奇な運命により集った男達の織り成す
鋼鉄のおとぎ話
機動戦士マブラヴ~Hard Luck~
――― 西暦1999年、横浜ハイブF層中央区画。
怪しげな燐光を発する天蓋と床。地下深く暗黒に閉ざされた空間でおぼろげに光を放つ
なにかがある。
それは暗闇の中に糸のように下り立つ柱は、怪しげな燐光を放っていた。その中はなぞの液体で満たされており、青白い光を放つその液体は中にあるものを保護管理し、生かした状態を保っているのだ。
それは中にあるものが生存するのに必要な栄養素を供給し、同時に それの存在をモニタリングし続けている。
『タスケテ…』
柱の中の何かは呟いた。心からの願いを押し出すように。
それは無力ゆえの慟哭…
『オネガ…マス…ケテ…ダサイ』
それは愛ゆえの叫び…
『…ヲタスケテ、クダサイ』
その叫びを聞き届けるものはいない。もとよりこの空間に彼らを除いて生きているものなどいなかった。
いや、彼らを生きていると形容することがはたして正しいのであろうか。
唐突に空間が震えた。おそらくは地上で、何かすさまじい衝撃が巻き起こったのであろう。広大な地下空間すべてを振るわせるその激震の中にあってなお、それが漬かっている液体は明滅を繰り返していた。
まるで、その声がどれほど激しいかをあらわすように……。
それは、本来ならば、かなえられぬはずの願い。
誰しも答えることなど無いはずの慟哭。
汲み取ることなき、懇願のはずだった。
しかし、すべてを超えて声は届いた。
――― 宇宙世紀0079 11月20日 地球
「一体、なんだというのかね…」
誰かの「声」を聞いたような気がして、男は正面モニターから視線を外した。無線封鎖中なので、回線はオフになっているはずだ。
「気のせいか…」
なにやら心に浮かんだ疑念は無視して、再度、彼はモニター上の編成表に視線を戻した。アイスブルーの瞳が液晶に移る情報を冷静に読み取って行く。
現在、待機中の愛機の薄暗いコクピットの中で、モニターの光が彼の目を突く。やや蒸し暑いはずなのに、男の広い額には汗が数滴浮かぶばかりであり、骨ばった顔つきと彫りの深い目鼻立ちはどちらかといえば冷たい印象を与える類の男である。
にもかかわらず、彼の部下たちがもつある種の狂熱は共にしたひとつの戦場に由縁するものであった。
「マ・クベ斬込隊」とあだ名された志願者による白兵強襲部隊、それこそが中佐まで降格されたこの男が持つ唯一の財産であった。
男の名は「マ・クベ」かつて地球侵攻軍の総司令官を勤めた男である。
第600機動降下猟兵大隊……MS1個大隊とその母艦にであるザンジバル級機動巡洋艦4隻で編成された、MSによる特殊強襲部隊である。
大隊長のヨアヒム・パイパー大佐を筆頭に、曲者ぞろいのこの大隊の任務は、大気圏外から艦隊ごと敵中に降下し、橋頭堡を築くというごくごくシンプルなものである。
それゆえに犠牲者も多く一時は一個中隊規模まで、縮小した部隊であった。
第600機動降下猟兵大隊編成
大隊長:ヨアヒム・パイパー大佐
所属艦艇:ザンジバル級機動巡洋艦「モンテ・クリスト」「ヴァルト・シュタット」
「ボルドー」「ザンジバル」
旗艦:「モンテクリスト」
大隊長機:ケンプファー
所属MS:38機(予備を除く)
第一中隊(通称:黒騎士中隊)
中隊長:エルンスト・フォン・バウアー少佐
中隊長機:アクトザク改(頭部装甲をフリッツヘルムに換装)
小隊編成 通常
第一小隊:アクトザク改・ザクⅡ改B型(フリッツヘルムタイプ)×3
第二小隊:ケンプファー×2・ザク改B型×2
第三小隊:ザク改B型×4
第四小隊:ケンプファー×2・ザク改B型×2
乗艦「モンテ・クリスト(旗艦)」第一・第三小隊
「ヴァルト・シュタット」 第二・第四小隊
第二中隊(通称:白薔薇中隊)
中隊長:リディア・リトヴァク少佐
中隊長機:ゲルググJ
小隊編成 特殊(3機小隊)
第一~第三小隊:ゲルググJ
乗艦「ボルドー」
第三中隊(通称:斬込中隊)
中隊長:マ・クベ中佐
中隊長機:ギャン
第一小隊:ギャン(特殊) イフリート×4
第二・第三小隊:グフ×4
乗艦「ザンジバル」
マ・クベがこの部隊に送られた経緯はオデッサでの敗戦の責をとり、4階級降格となったことが発端であった。
この時臨時編成でオデッサ撤退戦において直率した殿部隊とともに、この部隊に配属されたのである。
指揮官であるヨアヒム・パイパー大佐は豪放零落にして巧緻にたけ、癖の多い精兵どもを使いまわす手腕には定評がある。この大隊は、キシリアの直属部隊の一つであり、そういう意味ではキシリアの最後の温情のようなものであった。
中隊の通称を見て、マ・クベは苦笑いした。
「陣頭指揮」という言葉がいかにも似合わない自分が「斬込隊」の指揮をとっているのだから、運命とは分らないものだ。それを言ってしまえばオデッサで生き残れた事自体がそうだった。
刹那、凄まじい光条が頭上を走る。艦隊の援護砲撃だ。メガ粒子砲の残留磁場が、モニターの映像を歪ませる。
一瞬、遅れて、轟音と共に立ち昇った炎が、明々と夜空を照らした。
おっとり刀の衝撃波が機体を震わせるのに合わせて、マ・クベは速やかに回線を開いた。
「諸君、時間だ」
薄暗い闇の中で、マ・クベの愛機の単眼に火が灯る。YMS-15ギャンの流線的な装甲から偽装シートが滑り落ちる。
それに合わせるように、周りから偽装シートを外套のように羽織った機体が次々と立ち上がった。次々と同種の影が暗い森の中に立ち上がる。
いくつものカメラアイの眼光が、鬼火のように揺らめく。空間強襲用の黒色迷彩に塗装された機体は、ギャンを筆頭にまるで中世の騎士団の如き様相である。
だが、彼らは物語などに美化されるような存在ではない。もっと荒々しく、純粋な暴力装置足らんとするもの達である。
≪隊長、全機戦闘準備完了しました≫
副官の男が淡々と告げる。通信機ごしに聞こえる声は程よい緊張が含まれている。
マ・クベはコクピットの中で満足げな笑みを浮かべると、胸の底で高ぶり始める何かを感じながら、通信回線を開いた。もちろん声音には、そんなものなどかけらも出さない。
「結構。それでは諸君、戦争を始めよう」
無線通信によって流れた冷静な声が、配下の戦士たちの狂熱に火をつけた。
――― 元ジオン公国軍極東制方面制圧軍、アプサラス開発基地跡周辺。
地面に開いた巨大な空洞の傍ら、薄明かりのともる駐屯地を凄まじい閃光が襲った。
続いてそこかしこで爆発が起こり、襲撃を知らせる警報がけたたましく鳴り響く。
「敵襲!! ジオンの夜襲だぁぁぁぁ!!」
連邦兵の悲鳴をかき消すように、対地制圧弾頭からばら撒かれた子弾が空中で炸裂し、辺り一面が鉄の豪雨にさらされる。無慈悲な黒い雨は装甲板を貫き、護るもののない人体を引き裂いて、爆炎と血煙が燃え上がる景色に、さらにむごたらしい色を添えた。
その日、ジオン公国軍極東方面制圧軍の基地跡に駐留していた連邦軍の機械化歩兵部隊は、突然の襲撃を受けた。
「早くMSを出せ!」
「61式が…燃えている…」
「うわぁぁぁ、足が、俺の足がァァァ」
「航空支援を呼べ!」
「衛生兵! 衛生兵ぇぇい!!」
戦場は阿鼻叫喚の地獄絵図である。
やっとの事で起動した陸戦型ジムが一瞬で穴だらけにされる。戦車の砲塔が空高く吹き飛び、基地の施設は次々と銃撃を受けて廃墟へと化していく。
爆発と悲鳴と怒号、喧騒の中で重苦しい足音が基地を震わせる。
燃え盛る炎を背にしたいくつもの巨大な影。その顔の部分に鬼火のように光を放つ。
闇に溶け込むように黒く塗装された装甲が、炎に照らされて鈍く光る。
「…夜間強襲用の黒色迷彩!? こいつら、特殊部隊だ!!」
混乱の中、駆け抜けるMSを捉えた兵士は絶望の叫びを上げた。
それはMSの一隊であった。ジオン公国軍の主力MSザク、その集大成とも言える期待である。後期生産型の特徴であるフリッツヘルメット型の頭部装甲は、大昔に潰えた帝国の兵士を思わせた。
硝煙と業火の中にたたずむそれは、まさに地獄からの使者であった。
「黒いザクの部隊……まさか黒騎士中隊か!?」
それは一年戦争初期に連邦軍の間で伝説となったMSの特殊部隊。強襲降下を得意とし、重要拠点の制圧には必ず参加していた言われる精鋭部隊。
もっとも、それらは戦場でありがちなプロパガンダの類と言われていた……はずだった。
だがその与太話が現実に、彼らを攻撃しているのだ。黒いザクの一団は、まるで得物に襲い掛かる狼の集団のように、駐屯地の主要施設を目茶目茶に破壊した。
MMP-80マシンガンの90mm機関砲弾が兵舎を粉々にし、銃身下にすえつけられたグレネードランチャーが、駐屯地司令部のあった場所を吹き飛ばす。
「コジマ大隊は、コジマ大隊は一体何をしているんだ!?」
名も無き兵士の絶叫が、暗い夜空の果てに消えた。
――― 連邦軍極東方面軍コジマ大隊の駐屯地。
無線機が機械化歩兵部隊からの救援要請を必死でがなりたてている。
だが、それに答えるものは居ない。
なぜなら、それが置いてある野戦司令部は炎に包まれており、職員たちは待避したあとだからだ。
真っ赤な炎に包まれながら、なおも無線機は相手を求めてがなり続けていた。
やがて屋根を突き破って落ちてきたMSの上半身が、無線機を押しつぶした。
斬り捨てられた連邦のMSを、薄闇からモノアイが静かに見つめていた。ビームサーベルの光が黒色迷彩塗装された機体のシルエットを闇に映す。
中世の騎士甲冑を思わせる機体形状、手にした円形盾と高出力ビームサーベルはその機体の特色ともいえる。
マ・クベのギャンはその他にも大小の改修を重ねていた。指揮官専用機としては珍しいほど実戦経験を積んだ機体である。
ザンジバル級による準備砲火の間に、敵基地へと接近したマ・クベの斬込隊は、砲撃の混乱が覚めやらぬ内に突撃をかけた。
起動前の敵MSを片端から斬り伏せ、グフとイフリートで構成された斬込中隊は僅か15分でコジマ大隊を壊滅させていた。
オープン回線で、メルダース中尉から音声通信が入る。
《マ・クベ隊長、基地の制圧が完了しました。斬込中隊、損害ありません》
「ご苦労。パイパー大佐に報告しろ」
《了解しました》
「諸君、ご苦労だった。作戦の第一段階は成功だ。捕虜はとるな、逃げる者は放っておけ。だが、気は緩めるな」
《《《《《《《《《《《《了解!》》》》》》》》》》》》
通信を切ると、マ・クベはヘルメットのバイザーを上げ、シートに深く腰掛けた。大きく息を吐き出して、自然に入ってくるのを感じる。
呼吸が戻ったところで、通信機のチャンネルをザンジバルに合わせた。
《何でありましょうか?》
「ウラガン、さっきの戦闘は見ていたな」
《マ・クベ様の鬼神のような活躍ぶり、拝見させていただきました》
感嘆の入り混じった声音でウラガンが言う。だが、マ・クベはあっさりとその賞賛を切り捨てた。
「ギャンは使える機体だ。一概に私の腕とは言えぬ。だがオデッサでの撤退戦から調子が良いことも確かだ。敵の動きも味方の動きも良く見える」
《世に言うNTと言う奴なのでありましょうか》
「…ウラガン。敗北が見えてきて、神がかり的なものに頼りたくなったか?」
《い、いいえ、そんなことはありません!》
マ・クベが冷静にたしなめると、ウラガンはあわてて否定する。そのまま、ウランガンを攻めるでもなく、だが、とマ・クベは続けた。
黒騎士中隊と合流したマ・クベは旗艦「モンテ・クリスト」の艦橋に呼び出されていた。黒騎士中隊隊長のバウアーや白中隊の隊長リディア・リトヴァク少佐と共にブリーフィングを行うためだ。大隊長のパイパー大佐が今後の予定を説明する。
「とりあえず、基地周辺の確保には成功した。これよりザンジバル級で基地跡に降下、調査を開始する。だが油断はするな、MS隊はいつでも出撃できるようにしておけ!」
「「「は! 了解しました」」」
マ・クベ、バウアー、リディアの中隊長3人が一斉に踵を打ち鳴らして敬礼をする。パイパー大佐の答礼を確認すると、3人は腕を下ろしてその場を後にした。
3人で格納庫へ向かう廊下を歩いていると、バウアーが大仰に伸びをしながら振り返った。
「しかし、歩兵相手と言うのはやはりつまらん。MSの敵はMSだな」
にやりとするバウアーを見て、マ・クベはあきれた顔になる。
「歩兵の怖さを知らんキミでもあるまいに…」
「しかし中佐の斬込隊は、噂どおりですわね」
リディアが感嘆したように言った。この一見幼さの残る色白の女性は白薔薇中隊隊長にして、「ルウムの白薔薇」の名で連邦に恐れられたエースパイロットである。
もっとも、マ・クベのほうは彼女の容姿は気にも留めていないらしく、平坦な口調で返した。
「我々が接近できるのも、支援があってこそだ」
「はははは、貴様にしちゃ珍しいな! こりゃ今回は何が起こるかわからんぞ」
バウアーが豪放に笑いながら、マ・クベの背中をどやしつける。
「貴様は少し考えろバウアー。…特に力の入れ方をな」
背中をさすりながら、軽くバウアーをにらむ。その様子を見て、リディアが少し驚いたような顔をした。
「そういえば、マ・クベ中佐とバウアー少佐はお知り合いなんですか?」
「お知り合い、ってほどのもんじゃない。単なる士官学校の同期だ」
ひらひらと手を振り、バウアーが鷹揚に答える。マ・クベが横から静かに付け加えた。
「オデッサ撤退戦に関わる責を私が問われた時、パイパー大佐に助命嘆願をねじこんだのはバウアーだ。私はパイパー大佐とバウアーには借りがあるのだよ」
「大したことじゃねぇさ。士官学校時代の優等生が珍しく肝っ玉を見せたんで、もったいないと思っただけだ」
軽口を叩きながら、バウアーが制帽を深く被りなおす。どうやら、ガラにも無く照れているらしい。
その様子を見て、リディアがくすりと笑った。
「二人とも、仲がよろしいんですね」
「「…悪くはないな」」
いかにも不承不承といった感じだ。それを見たリディアが、また、くすくすと笑う。
三人は格納庫まで軽く歓談すると、各々の乗艦に帰った。ザンジバルへの帰路、マ・クベが一人呟く。
「悪くない…か」
オデッサの激戦を越えて、男は変わっていた。
4隻のザンジバル級機動巡洋艦はユックリとアプサラス開発基地跡へと降下していた。
MS部隊は万が一に備えて、搭乗待機している。
《暗いな。まるで地獄の入り口だ》
通信機から、ノイズ交じりでバウアーの呟きが聞こえる。
マ・クベがニコリともせずに「作戦前に縁起でもないことを言うのは止めてくれないか?」とギャンのコクピットから冷静なつっこみを入れる。
マ・クベが第600機動降下猟兵大隊に配属されてからと言うもの、二人はいつもこんなやり取りをしている。それが、周りに「二人は親友だ」と言われる原因なのだが、当人たちは気づいていない。
《大丈夫なのでありますか? 地上に監視を遺しておかなくて》
二人の会話を聞いていたシモ・ヘイヘ少尉が不安そうに言う。北欧系で生真面目な性格の男だ。
「地下に何があるのか分らない以上、戦力の分散は得策ではない」
《なるほど…》
《どうしたヘイヘ少尉。いつになく弱気じゃないか、リディア少佐の尻にしかれたか?》
《聞こえてますよバウアー少佐》
軽口を叩くバウアーをリディアがとがめる。ヘイへはリディアの白薔薇中隊の一人で、オデッサ防衛戦にも参加した凄腕の狙撃手である。プレッシャーに押しつぶされるような性格ではない。
《上手くは言えないんですが、なんとなく嫌な予感がするというか…》
「……」
《どうしたんですか中佐?》
実を言えば、マ・クベもある種の予感のようなものを感じていた。暗い地の底に何かが、何かとほうもない運命が待っているのではないか…。そんな気がしていたのだ。
突如、格納庫を激しい揺れが襲う。緊急警報が鳴り響く中、なんとも言えぬ感覚がマ・クベを捕らえる。心臓を鷲掴みにしてくるような重圧。
マ・クベは即座に艦橋へ回線を繋つないだ。
「ウラガン! 何があった!!」
《……震、です! た、大気が、振動す…ほど…烈な…地震…、磁場で…が乱…て》
「ウラガン! ……地震だと? くそ! 磁場で通信機が乱れているのか?」
マ・クベはギャンのコックピットの中で悪態をつくと、砂嵐状態になった通信機に何度も呼びかける。
《…こちら、…基地防衛隊……ノリス…佐》
通信機から途切れ途切れに誰かの声が聞こえてくる。
「!? なんだというのだ! 一体」
じれたマ・クベが通信機の感度を上げる。
《マ・クベ様!!!!!!! 大変です!!!!! 外が! 外が!》
耳をそばだてたところへウラガンの声が大音響で流れる。一瞬、マ・クベはシートからずり落ちそうになった。
「落ち着けウラガン。どうかしたのかね」
憮然としながらマ・クベが答える。
《とにかく、外の様子をつなぎます》
艦のメインモニターの映像が映る。あまりの光景に、マ・クベは言葉を失った。
映像回線用の液晶は、地下の大空洞を写していた。青く光る外壁が四方を覆い、彼らが降下してきたはずの天上すら覆い隠している。
突然、オープン回線で野太い声が割り込んでくる。
《こちら! 基地防衛隊司令のノリス・パッカード大佐であります!! 現在我が基地は謎の敵勢力から攻撃を受けております! 直ちに救援を……》
通信は途中で切れた。後ろからは悲鳴や怒号、絶え間ない銃砲の音が聞こえた。
「……」
《マ・クベ様、どう致しましょう…》
「………」
《マ・クベ中佐?》
無言のマ・クベにウラガンが、見殺しにする気なのか、と不安そうにマ・クベを見る。通信機からオープン回線でパイパー大佐の声が響いた。
《全部隊に告ぐ! すでに確認した者もいるかもしれんが、味方が戦闘中である! 此処がどこかはこの際後回しだ!! 今は味方を救出する!!》
黙っていたマ・クベが口を開いた。
「諸君、命令は聞いたな? 出撃する」
待機していたMSの単眼に灯がともった。やることは決まったのだ。後は自分の仕事に専念すれば良い。熱核融合炉に火が入り、フィールドモーターが滑らかに間接を動かす。格納庫の扉が開いていく。眼前に広がるのは遥かな戦場。
覚めた心の中に、冷たい炎が燃え上がった。