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No.4242の一覧
[0] とーたる・オルタネイティヴ[よんごーごー](2008/09/20 18:32)
[1] とーたる・オルタネイティヴ 第2話[よんごーごー](2008/10/20 17:56)
[2] とーたる・オルタネイティヴ 第3話[よんごーごー](2008/10/20 18:00)
[3] とーたる・オルタネイティヴ 第4話[よんごーごー](2008/10/20 18:02)
[4] とーたる・オルタネイティヴ 第5話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/10/20 18:05)
[5] とーたる・オルタネイティヴ 第6話[よんごーごー](2008/10/20 18:05)
[6] とーたる・オルタネイティヴ 第7話[よんごーごー](2008/10/20 18:08)
[7] とーたる・オルタネイティヴ 第8話[よんごーごー](2008/10/20 18:10)
[8] とーたる・オルタネイティヴ 第9話[よんごーごー](2008/09/26 00:09)
[9] とーたる・オルタネイティヴ 第10話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/09/28 18:10)
[10] とーたる・オルタネイティヴ 第11話[よんごーごー](2008/10/20 18:14)
[11] とーたる・オルタネイティヴ 第12話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/10/20 18:17)
[12] とーたる・オルタネイティヴ 第13話[よんごーごー](2008/10/20 18:21)
[13] とーたる・オルタネイティヴ 第14話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/10/20 18:22)
[14] とーたる・オルタネイティヴ 第15話[よんごーごー](2008/10/20 18:23)
[15] とーたる・オルタネイティヴ 第16話[よんごーごー](2008/10/20 18:25)
[16] とーたる・オルタネイティヴ 第17話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/10/20 18:27)
[17] とーたる・オルタネイティヴ 第18話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/10/20 18:29)
[18] とーたる・オルタネイティヴ 第19話[よんごーごー](2008/10/20 17:53)
[19] とーたる・オルタネイティヴ 第20話[よんごーごー](2008/10/15 21:14)
[20] とーたる・オルタネイティヴ 第21話[よんごーごー](2008/10/17 23:39)
[21] とーたる・オルタネイティヴ 第22話[よんごーごー](2008/10/20 17:50)
[22] とーたる・オルタネイティヴ 第23話[よんごーごー](2008/10/22 21:10)
[23] とーたる・オルタネイティヴ 第24話[よんごーごー](2008/10/24 21:35)
[24] とーたる・オルタネイティヴ 第25話[よんごーごー](2008/10/26 20:46)
[25] とーたる・オルタネイティヴ 第26話[よんごーごー](2008/10/28 21:53)
[26] とーたる・オルタネイティヴ 第27話[よんごーごー](2008/10/30 22:28)
[27] とーたる・オルタネイティヴ 第28話[よんごーごー](2008/11/01 18:28)
[28] とーたる・オルタネイティヴ 第29話[よんごーごー](2008/11/03 21:00)
[29] とーたる・オルタネイティヴ 第30話(微エロ注意)[よんごーごー](2008/11/05 20:29)
[30] とーたる・オルタネイティヴ 第31話[よんごーごー](2008/11/07 22:26)
[31] とーたる・オルタネイティヴ 第32話[よんごーごー](2008/11/09 21:41)
[32] とーたる・オルタネイティヴ 第33話[よんごーごー](2008/11/11 23:42)
[33] とーたる・オルタネイティヴ 第34話[よんごーごー](2008/11/13 23:35)
[34] とーたる・オルタネイティヴ 第35話[よんごーごー](2008/11/16 01:44)
[35] とーたる・オルタネイティヴ 第36話[よんごーごー](2008/11/19 22:14)
[36] とーたる・オルタネイティヴ 第37話[よんごーごー](2008/11/19 22:13)
[37] とーたる・オルタネイティヴ 第38話[よんごーごー](2008/11/22 20:48)
[38] とーたる・オルタネイティヴ 第39話[よんごーごー](2008/11/26 20:07)
[39] とーたる・オルタネイティヴ 第40話[よんごーごー](2008/11/29 17:00)
[40] とーたる・オルタネイティヴ あなざー[よんごーごー](2008/12/03 22:36)
[41] とーたる・オルタネイティヴ 第41話[よんごーごー](2009/03/14 23:17)
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[4242] とーたる・オルタネイティヴ 第38話
Name: よんごーごー◆62e7070d ID:cfc394f6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/22 20:48
とーたる・オルタネイティヴ



第38話 ~けだものとわのこころとばいお・はざーど~




―2001年11月24日 06:00―

俺が地下にある自室から、わざわざこんな早朝に屋上まで出向いてみる気になったのは、別に何か目的があったからというわけではない。
強いて理由を挙げるなら、偶には初冬の身を切るような寒気を胸一杯に吸い込んでみようか、とそんな気まぐれが沸いてきたから―――という事になるのだろうか。
そこでグラウンドに行くのではなく屋上を選ぶ辺りが俺がバカな証拠、と我等が鬼教師こと夕呼先生なら言ってくるかもしれない。

屋上への扉を開けると、外の寒気が流れ込んできた。俺は大きな身震いを一つして外へと踏み出す。
そして、いつもの指定席へと歩を進めた。その場所はかつて俺が住んでいた家の見える方角で、俺はわざわざベンチまで自作したのだ。
肉眼でかつての住居がそれとはっきり分かるわけではないにしろ、また見える景色が廃墟ばかりでしかないにせよ、此処に来ると何となく落ち着くのだ。

俺の指定席に座る一人の女の子に気付くのが遅れたのは、その女の子があまりにも風景に溶け込んでいたからだろうか。
彼女は、起きぬけにそのまま此処まで上ってきたのだろう、薄い寝巻きにロングコートを一枚羽織ったきりという出で立ちでフェンス越しの景色を眺めていた。

―――雪が見たい。

唐突に、俺はそんなことを思った。
肌と髪、共に色素の薄い彼女には、きっと辺り一面真っ白の雪景色が似合う。
そしてその時は、今彼女が浮かべているような苛烈なまでの意志を感じさせる表情ではなく、全てを包み込むような柔らかな笑顔が相応しい。

「何を見てるんだ?」

俺は彼女の背後に歩み寄り、ベンチに腰掛ける女の子―――クリスカ・ビャーチェノワに語りかけた。
何でも良い、とにかく彼女の意識を他へ向けさせたかったのだ。
このまま放っておいたら、彼女が風景と同化して消え去ってしまいそうで。

「タケルか。……お前の育った家を、探していた。此処が故郷だと聞いて……」

クリスカは、突然の俺の呼び掛けにさして驚いた様子も無く応えた。
俺は彼女の横に移動し、そのまま隣に腰掛けながら再び語り掛ける。

「見つかったか?」
「いや。そもそも、何処にあるのかすら聞いていないのだから……。
 ただの、戯れのようなものだ……」

そう言って、クリスカは照れたような微笑を浮かべた。
そんな些細な仕草が、どうしようもなく嬉しいと感じられてしまう。
出会った当初のクリスカは、それこそ怒り以外の感情を胎内に置き忘れてきたかのような印象だったのだから。

―――身を凍りつかせるような冷風が通り過ぎてゆく。

俺は身体を抱きすくめ、それを耐えた。

「……お前の故郷は、こんな寒さの比じゃないんだろうな」
「ああ。……と言っても、私は物心ついたときには既にアラスカにいたから知識でしか知らないのだが……」

『元の世界』でやったアルバイトで、人の出入りできる大きさの冷凍庫に入った事がある。
そこの温度が通常マイナス20℃。かの地はそれよりも遥かに低い温度になるというのだ。その寒さの厳しさは、想像すら出来無い。

「ほら。缶コーヒーだけど、温まるぞ」

俺は、ポケットに入れておいたまだ熱さの残る缶コーヒーを取り出し、クリスカに差し出した。
先客がいるとは思わなかったので一本しか用意していなかったのだが、この場合彼女にやるのが正しい選択だろう。

「……温かい……だけど、良かったのか?これはタケルが飲むつもりで買ってきたのでは……?」
「いいさ。どうしても気が咎めるってんなら、回し飲みすればいい。
 ―――今更、間接キスを恥ずかしがる間柄でも無いだろ?」

そう言って、俺はクリスカにニヤリと笑い掛けた。
熱い缶を両手で包み込んで手を温めていたクリスカは、俺の言葉に僅かに赤面した。
そして、やや躊躇った末プルタブを起こして缶を開け、口を付けた。
コーヒーを飲むためにクリスカは顔を少し上へ傾け、その際に彼女のむき出しの白い喉が目に入る。
僅かに上下する喉が、何とも艶かしかった。結局クリスカは三分の一ほど飲み、缶を俺に差し出してきた。
俺はそれを三口で飲み干し、空き缶をゴミ箱に放り投げた。

クリスカが、コーヒーを飲み干した俺の口元をじっと見詰めていた。その表情には、僅かな戸惑いが見て取れる。
俺が余計な事を言ってしまったものだから余計に意識させてしまったのか。
俺とクリスカの視線が合うと、彼女は慌てて目を逸らした。
あえて問い詰めるような真似を避け、俺は視線を前方の眼下に広がる景色に向けた。クリスカもそれに倣い、俺と同じように目を向けた。

暫く、無言の時間が過ぎた。
だが不快な、居心地の悪いものではない。何も言わずとも心が触れ合っている、あるいは、互いが傍にいるだけで良い、そんな優しいひととき。

―――先程のものに遥かに勝る、強烈な寒風が吹き付けてきた。

「うおっ!……さ、さみい……!」

流石に耐え切れず、俺は声を上げてその風を呪った。ふと、クリスカはどうだろうかと気に掛かり、様子を窺おうとした。

「―――へくちっ」

可愛らしい、くしゃみ。当然と言うべきか、クリスカの上げたものだ。
俺と視線が合うと、彼女はばつが悪そうに身を縮めていた。
いくら北国育ちとは言え、同じ人間同士のスペックにそうそう違いがあるものでもなく、俺が寒いのならばやはり彼女も寒いのだ。

「そろそろ、降りようか。早朝から屋上で風に当たって寝込みました、じゃ良い物笑いの種だ」

正直、そのくしゃみはキャラに相応しくないな、などと愚にも付かない事を考えながら俺はクリスカに向かってそう提案した。
まあ、『ぶえっくしょ~いっ』なんて逆方向に相応しくない声を上げられるよりは遥かにましなのだけど。

「そ、そうだな……」

並んで扉へと向かう俺たち。
クリスカが、さりげなさを装ってポケットに手を突っ込んで歩く俺の腕に自分のそれを絡めてきた。
世間一般の恋人同士のようなその仕草に、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
だが、やはり口に出しては何も言わない。何とはなしに、今はクリスカをからかって遊ぼうと言う気分になれなかったのだ。
偶には、こんな日があっても良い。

―――取り立てて重要な話があった訳ではなく、何がしかお互いにとって利益のある相談をしたわけでもなかった。
たまたま屋上に出向いたらクリスカがいて、何を話すわけでもなくただぼうっと一緒に景色を眺めていた、そんなどうでも良いといえばどうでも良い時間。
だけど、こんな些細なひとときの何と貴重なことか。口が裂けても平和とは言い難いこの世界において、明日あさってはともかく一年後、二年後にこうやって同じ時間を過ごせる保障など何も無いのだから―――





―2001年11月24日 19:00―

偶然ってヤツは、続けて起こる物であったらしい。
俺が夕食を求めてPXへ行くと、食堂の隅の方で俺に背を向けて夕食をとっているクリスカを見つけたのだ。
今回も、やはり一人。イーニァと霞のいない彼女の後姿は、本人は必死になって否定するだろうが何処か寂しげで、落ち込んでいるように見えた。
俺は急いでカウンターに行って食事の乗ったトレイを受け取り、クリスカの方へ向かった。

「よう。前、いいか?」

俺がそう声を掛けると、クリスカが顔を上げた。
彼女の皿はまだ殆ど手付かずで、どうやら俺が見つけたときは、席に着いたばかりのようだった。

「……つーか、塩さば納豆定食って……。いつの間に納豆好き、なんてアレな設定加えたんだよ……?」

クリスカが無言で頷いてくれたため、彼女の前に腰掛けながら俺は呟いた。
と言うか、彼女のメニューは塩さばin大根おろし、納豆、とろろ、冷奴、味噌汁、金平ごぼう、そして大盛りのご飯という実に和の心に溢れた内容。
塩さばは素材の味を大切にそのまま、但し大根おろしには薄口醤油を少々、納豆には生卵と小ねぎ、冷奴には同じく小ねぎと鰹節、味噌汁の具は素朴な大根、人参のみ、金平ごぼうには白ゴマがたっぷり、という念の入りようだ。
日本人として、尊敬の念を抱かずにはいられない。

「ニッポンの伝統調味料であるミソ、ショウユ……これらは素晴らしい。実に奥深い味わいだ。それだけではない。
 ナットウ、初めて見た時は面食らったものだがショウユを少々加えることにより、絶妙のハーモニーを奏でている。
 ナットウ、ショウユ、ミソ、そしてトウフ……これらが全て大豆を原料に作られているなど、にわかには信じがたい……!」

延々とクリスカの和食講演会が続くので以下、略。
とりあえず、クリスカが日本はともかく日本食については大いなる感銘を受けた事は分かった。
きっと、今すぐ本国へ帰還するようなことがあったら軍務の傍ら広大な演習場で大豆栽培に精を出すに違いない。
頭には麦藁帽子を被り、腰には手ぬぐいが掛けられているのだ。
実にシュールな絵面ではあるけど、立派な心がけであるのは間違いない……筈。

俺は、ふと自分の皿に目をやる。
ハンバーグ、エビフライ、コーンポタージュ、ポテトサラダ、そしてライス。
あまりのお子様メニューに、なんだか恥ずかしくなってきた。

「……む、タケル……そのメニューはどうかと思うぞ。
 ……今朝の礼だ。私のナットウを半分やろう」

答える間もなく俺の皿盛りのライスに納豆を掛けてきた。
この際認めよう。俺も納豆は大好きだ。ねぎと生卵がトッピングなんて最高だ。

……さいこうなんだんけど、なんなんだろうなぁ……このしゃくぜんとしないきもちは……。

「……俺とクリスカは納豆臭い仲―――ってか。
 部屋に戻ったら二人で『いとひきプレイ』でもやるか?コンチクショウ!」
「な、なんだと……!?……い、いとひきプレイ!?」

―――おいこらそこの露人っ!『いとひきプレイ』って単語に何を連想してそんな恍惚とした表情してやがるっ!
嫌過ぎるぞっ!ローションの代わりに納豆エキスをふんだんに使用―――なんて基地中が汚染されそうなプレイはっ!!

万が一そんなプレイに走ったりしたら、速攻で衛生班が飛んでくるに違いない。
そんで俺たちは三日三晩に渡って苛烈な尋問を受け、基地を追い出され、『わかさゆえのあやまちにより納豆を行為に使用したカップル』として永久に後ろ指を刺される生活を送ることになるのだ。

「た、たのむそれだけはかんべんしておねがいだからほかのことならたいていしたがうから!」
「……そ、そうか……」
「聞こえたぞ!いまボソッと『こっそり用意して……』とか言ったろ!
 そんなに俺に十字架背負わせてえのかよ!!」
「……大体だな、なぜそんなにナットウを毛嫌いする?
 日本人として恥ずかしいとは思わないのか……?」
「露人のおまえにニッポンジンの心とか言われる筋合いねぇよ!それに話がすり替わってるぞ!
 あと言っとくがただ食う分には俺も納豆は大好きだ!!」
「やれやれ……わがままだな、タケルは……」

―――かみさま、たけるは……ないてもいいですか……?

―――…………え?……なにかもうしましたか?

「……おまえもかよぉ……クリスカもかみさまも、納豆菌に汚染されて発酵しちまえ……」

俺は、半ばやけくそ気味で納豆ライスをスプーンでかきこむのだった。

―――泣きながら食う納豆ライスはとても美味かった、とだけ言っておこう―――





―――おまけ―――

もうすぐ日付が変わろうかという時刻、俺はPXに来た。寝る前に一杯、とワンカップ焼酎を買い求めてのことだった。
そこで、様子がいつもと違う事に気付いたのだ。
人気の無い暗い食堂で、厨房から明かりが漏れていたのだ。そして聞こえてくる微かな鼻歌。
俺はワンカップ焼酎の封を開け、チビリとやりながら吸い寄せられるように厨房へと立ち入った。

―――そこには、信じられない光景が拡がっていた。

大豆、大豆、大豆大豆大豆大豆……。厨房から溢れんばかりの大豆たち。

「―――来てくれたのか、タケル……」

クリスカだ。青いエプロンを着用している。

「……なにしてるんだ……?」
「見て分からないのか?……ナットウを作っている」
「ば、バカな……」
「ふふふふふふふふ」

俺が呻くと、クリスカは口の端を吊り上げて『ニタリ』と笑った。
人気が無いこともあって怖い事この上ない。
思わず後ずさって距離を取ろうとした。

「―――うわっ!」

足元にある何かに躓き、よろめいてしまった。思わず手近なモノに掴って身体を支える。

手に走る『ヌルリ』という感触。だが今は、それよりも大事なことがある。
俺が躓いたものの正体だ。
俺は恐る恐る足元に目を向けた。

―――床に横たわるイーニァの姿。
全身を白い『なにか』が覆っていてピクリとも動かない。

「なっ! イーニァ、おいイーニァ!しっかりしろ!!」
「ふふ……イーニァ達はナットウ菌の増殖に利用させてもらった……。さしずめ、『イーニァのナットウ漬け』と言った所かな……?」

なんだそれは。ちょっと食ってみたいとか思ったじゃねえか。プレイに使用なんてもってのほかだが『女体盛り』なら話は別だ。

―――それはともかくやはりこの光景、怖い事この上ない。

「な、なんてことを!……って、ちょっとまて、今……『イーニァ達』って言ったな……?」
「ああ、今お前が掴んだもの。正体を確かめてみた方がいいのではないか……?」
「……ま、まさか……」

―――調理台の上に寝ている霞は、やはり白い『菌』に包まれていた。

「―――うわあああああああああああっ!!」

やばい。こいつはなんか知らんがヤバイ。このクリスカはぶっ飛んでいる。
脇目も振らず厨房を飛び出した。
だが。
廊下へ飛び出した俺が見たものは―――

―――廊下全体……いや、視界一面に広がる白い菌、菌、菌、菌菌菌……!!

何処まで走っても、景色は白いまま。俺はとうとう力尽き、その場に膝をついた。

「さあ、タケル……あとは私達だけだ。……共に楽園へ行こう」

―――クリスカの声。

もう追いついてきたというのか。俺は全力で走り息も絶え絶えだというのに、クリスカの声には苦しげな様子が全くなかった。
俺は恐怖を堪えて振り向いた―――!!

「―――ぎゃあああああああああああっ!!」

―――俺が最後に見たものは、俺の頭頂部に向かって振り下ろされる『何か』と、白のみの世界で異様に映えているクリスカの赤い、赤い口だった―――








「ぎゃあああああああああああっ!!」

俺は飛び起きた―――つもりだったが、身体に掴る何かのせいで動けなかった。

―――俺にしがみ付いて眠っているクリスカとイーニァ。

そう、つまりは。

「……ゆ、夢……か……」

全身が汗でびっしょりだった。無論、そんな俺にしがみ付いている二人も。

「なんて、ばかばかしくもおそろしい夢だったんだ……」

数え切れないほどのループを繰り返して初めての大発見である。
恐ろしさと馬鹿馬鹿しさとは相反するように見えて実は両立するものだったのだ。

「くそ……おまえのせいだ……」

―――幸せそうな表情で寝息を立てているクリスカの額にデコピンをお見舞いした。
苦しげな呻き声を上げるクリスカを見てようやく俺は安堵し、再び目を閉じるのだった―――


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