とーたる・オルタネイティヴ
第30話 ~ふたたびのけだもの~
―2001年11月16日 05:00―
一体、何故にこのような事になっているのか。
俺には、全く持って理解できない。
昨晩ベッドに潜り込む際、俺は確かにイーニァを中心にしてクリスカの反対側に寝た筈だった。
ところが、あまりの寝苦しさに違和感を覚えて目を開けて見れば、俺は右をイーニァ、左をクリスカに挟まれて真ん中に寝ていたのだ。
それだけならばまだ良い。いや、正直良くは無いが何とか自分をごまかす事は出来る。
そして、いつの間にか二人の枕代わりとなっている右腕と左腕。
これもまあ良い。身動き出来なくて目覚まし代わりの悪戯を仕掛けられないのが痛いが、まあ許せる。
……けどさ……なんで、上半身裸なんだ……俺よ……。
しかも、俺だけじゃなくクリスカとイーニァも。かろうじて下は無事なのがせめてもの慰めか。
多分、俺は無実だ。寝ながらにして自分のシャツを脱ぎ、二人のシャツを脱がせるなんて夢遊病患者じみた特技は持っていなかった……筈。
ここで『やってない!』と断言出来無い自分が憎い。
もっとも、本当に俺の仕業なんだったら上だけ脱がせて下はそのまま、なんて片手落ちな事をするわけが無い。
全部脱がせてその勢いで五回か六回か……その程度は平気でする筈。
正直それってどうなんだ、と思わなくも無いが。
まあ、分からない事を何時までも考えていたって仕方ない。それよりも、問題はこの状況だ。
―――二人とも、身体をこちらに向けてぴったりと密着していた。
そのため、先程から二人の『びーちく』がこれでもかと俺の胸板を刺激してくるのだ。
二人は身じろぎする度にポッチが擦れて快感を得るのか、徐々に密着の度合いが増しているような気がする。
胸に回された二人の腕がいい加減苦しい。
『んっ……ふあっ……』
二人が同時に身動きした。
……なんと、今度は足を絡めてきたのだ。
これで、もう俺は完全に動きを封じられた。かろうじて動かせるのは首くらいのもの。
いや、もう一つ自由な部分があるにはあるのだが。
とはいえ、『ソイツ』は勃ったり縮んだりを繰り返す事しか出来無いので、当面役には立ちそうに無い。
二人の手の爪が胸に食い込んで痛い。両足ががっちりとホールドされていてキツイ。身体に押し付けられる二人のびーちくが心地良い。
……『むすこ』が自己主張していて見苦しい……。
『くぅんっ……んあぁあっ……』
二人の行為は更にエスカレート。ぱいおつを押し付けてくるだけでは飽き足らず、より一層足を強く絡めてきた。
ぶっちゃけ、股間を俺の足に押し付けてくるような感じ。
それにしても、二人の動作は完全に同調している。もしかしてこの二人、同じ夢を見ているのではないか?
……どんな夢、とはあえて聞くまい。
『……あぁっ……』
ヤバイ。これ以上は確実にヤバイ。……主に俺の理性が。
二人は、なんと腰を微妙に動かし始めたのだ。
こいつは、本気でどんな夢を見ていたのか問いただした方が良さそうだ。
二人は、俺がどれ程の精神力でこの状況を堪えているのかなんて露知らず、随分と気持ち良さそうだ。
というか、先程から俺の太腿はどえらい事になっている。
『くちゅ……くちゅ……』と聞こえる卑猥な音が何なのか、なんて気にしたらいけない。そんなことしたら、俺の理性は数時間は吹っ飛んだままになる。
『……んっ……ふぁっ……あぁあああっ!』
……このやるせなさ、どう表現したら良いのだろうか。
二人は、一際高い嬌声を上げて、ぐったりとしながらも満足げな表情で荒い息をついている。
つまるところ、人の身体をおもちゃ代わりにして二人はさっさと達してしまわれたのだ。
……俺を置き去りにして。
おまけに二人して俺の胸板に爪を立てており、達する瞬間思い切り引っ掻いてくれた為、胸が盛大に抉れている。
何処の熊と戦ってきたんですか、といわんばかりの有様だ。
ぶっちゃけ、泣きそうになるくらい痛い。
―――この恨み、忘れんぞ……!
俺は、視線に恨みつらみを込めてクリスカの顔を睨みつけていた。
思いが通じたのか、クリスカの瞼が震えた。
どうやらお目覚めのようだ。
「……ふぁ……え?」
きょとんとしたクリスカの顔。状況が上手く掴めていないらしい。
ぱちくりと目を見開いて俺の顔を見つめている。
「……おはよう。……早速で悪いが、どんな卑猥な夢を見ていたのか教えてくれないか……?」
「お、おはよう……。……どんな……って……え?……ゆ、夢?」
そこでようやく、自分の体勢に気付いたらしい。
……俺の体に全力でしがみ付き、ぱいおつを押し付け、股間を俺の太腿に擦り付けている、というどう見ても『アレ』な今の体勢に……。
ちなみに、どう考えてもこれから三人とも風呂場へ一直線。
クリスカの顔が、みるみる赤く染まってゆく。目尻には涙が溜まっており、嗜虐心を煽―――じゃなく、哀れみを誘う。
「―――い、いやぁあ~~~~~っ!!」
なんとクリスカ、足元に投げ出されていた掛け布団を引っ掴み、お篭もりになられてしまった。
こんもりと盛り上がった布団がぷるぷると震えており、クリスカには悪いがなんだか和む。
「……あれ、たける……?」
「イーニァ、おはよう。……良い夢は見られたか?」
クリスカの悲鳴のせいか、イーニァが目覚めてしまったようだ。俺は、なるべく人の悪い笑顔を浮かべてイーニァに問い掛けてみた。
「うん、たけるときもちいいことするゆめ、みてた」
「……そ、そうか……よ、良かったな……」
流石にイーニァは突き抜けている。姉にならって恥ずかしがるどころか、夢かと思って目覚めたら目の前に俺がいた、というので妙に嬉しそう。
にっこりと邪気の無い顔で微笑まれてしまい、流石の俺も毒気を抜かれてしまった。
「……とりあえず、ねーちゃん連れて風呂行こうか……?」
「うん」
「けど、その前にな……二人が手加減なしで爪を立てるから、俺の胸は酷い事になってるんだけど……」
「……たける、いたそう……」
イーニァが、眉をしかめて俺の傷跡を指でなぞる。
……やったのはお前らだっての。
「このままじゃ、染みて風呂に入れないんだよ」
「ごめんね、たける……。わたし、どうしたらいいの?」
その台詞を待っていた。この状況ですることなど一つしかない。
「舐めてくれ」
もちろん、傷跡の話だ。……念のため。
「うん、わかった。……ねぇ、クリスカもいっしょにしよう?」
イーニァの声に布団の塊がピクリと反応する。そろそろと、塊から頭が出て来た。
……よし、折角だからこいつを『クリスかめ』と名付けよう。……我ながら上手い。
「―――おい、クリスかめ。……さっさと傷の手当をしてくれないと、何時まで経ってもシャワーが浴びれんぞ。
……そろそろ、股間がアレなんじゃないか……?」
「誰がかめだっ!」
クリスカは頬を染め、涙目になり、文句を言いながらも俺の言葉に従ってもそもそと『かめ』のまま擦り寄ってきた。
嗚呼、やはりデレなクリスカはとても良い。そのおもしろおかしい格好に免じて、傷の件はチャラにしよう―――。
―――その後、傷跡の治療も無事に終わり、俺たちは風呂に入る事に成功した。とは言え、俺のリミッターはもう破裂寸前だった。
そんな俺が三人で入る風呂場で、何をしたのかなんて今更語る必要も無いと思う―――
―2001年11月16日 13:00―
午前中一杯をデスクワークに当てていた俺は、ようやくの事で冥夜達の受け入れに関してある程度のケリをつけた。後は、部隊結成後に副隊長候補筆頭である月詠中尉に任せてしまえばよい。
多分、彼女は人の世話をするのが大好きなタイプなのだ。
―――であるからして、ここで『手のかかる困った部隊長』をアピールして好感度を稼いでおこうという腹なのだ。
そして、今俺はブリーフィングルームを使って唯依タンに今後の方針を説明していた。
「……わ、私が……武御雷のみで編成された部隊の、一員に……?」
「そういうこと。……ちなみに、隊長は俺ね」
予想通り、唯依タンの表情は憂いに満ちていた。それもまあ当然だろう。
なにしろ、彼女は戦術機操縦訓練を未だ10日程しか受けていないのだ。もし自信満々な表情でもされていたらこちらの方が不安になる。
「で、でも! 私はまだ訓練生の身で、技術の方も……」
「大丈夫。……唯依タンは、ずっと俺の機動を間近で見続けてきて、初めから新OSに触れてきたんだ。
今のままでも、並の衛士には劣らないさ」
それに、次の出撃はおそらく12月05日のクーデター事件となる筈だ。それまでの期間マンツーマンでみっちりと俺が技術を教え込めば、例え教導隊が相手でも為す術もなくやられるという事は無い。
なにしろ、俺の見立てでは唯依タンの素質は、冥夜達旧207の面々にも勝るとも劣らないのだから。
「新部隊の結成は12月01日に決定したからさ。……それまでの間、唯依タンは午前中はまりもちゃんとこで座学、午後は俺と操縦訓練ってことになったから」
「そ、そう……武と、二人で……。……でも、その部隊には冥夜様や月詠中尉がいるんでしょう……?」
嬉しそうな顔をしたり、また不安そうな顔になったり、となんだか見ていて飽きない。
出来れば、ずっとこうやって眺めていたいがそうも言っていられないため、俺は『切り札』を打つ事にした。
「そんな顔するなって。……いいか、何度も言わないからな……。
―――お前は、俺が守る」
「―――え?」
「例え相手が教導隊だろうが、ラプターだろうが、BETAだろうが、お前には傷一つ付けさせやしない。
……だから、そんなに気負わなくても良い」
こんなの、部隊長が言って良い台詞じゃないこと位俺だって弁えている。
だが、大事な女を守るのではなく『死ね』と命令するのが正しい軍人の姿だ、と言うのならば、軍人など糞喰らえだ。
与えられた命令は、こなして見せる。そして、部隊の皆を守りきる。完璧な形で任務を遂行してやろう。
『そんな考えでは早死にするぞ』と言われたこともある。
―――だが、俺の命一つで皆が救われるのならば、そう高い買い物ではなかった。
「―――武……私、早く上手くなるから……」
どうやら、またしてもマジになり過ぎてしまったらしい。唯依タンに気負うなとか言っておいて、俺自身が背負ってしまったような顔をしていては世話が無いというものだ。
「ああ。……けど、頑張りすぎて俺より上手くなっちまうのは勘弁な。
……俺のほうが守られる側になったりしたら、流石に格好つかないからさ」
「ふふ……見ていて。……すぐにそうなるから」
はにかんだ様に笑う彼女を見ていて思う。
―――ああ、やっぱり自省や内向なんて唯依タンには似合わない。
……悩むべき事、反省すべき事があるというのならば俺が代わりに背負ってやるから……。
―2001年11月16日 22:00―
「―――で、だ」
その後俺たちはシミュレータールームで、新型OSに換装されたばかりの武御雷の操作慣熟を行っていた。
流石に斯衛専用機と言うべきか、反応、速度共に不知火の比ではない。特に近接戦闘能力は半端ではなく、この機体ならば、例え世界最強と名高いラプターが相手でも、戦い方次第で充分に五分以上に持ち込めると判断した。
興が乗りすぎてしまったためか、俺は時間を忘れて訓練にのめり込んでしまい、気が付けば夜の21:00をとうに回っていた。
「え?……いきなりどうしたの、武?」
流石に、唯依タンは少々お疲れ気味だ。互いに着替えて出て来たはいいが、ふらふらと足が定まっていない。
俺は唯依タンの肩を抱き寄せ、支えてやりながら提案した。
「今からPX行って何か買って、唯依タンの部屋で食おうぜ」
実は、昨晩クリスカとイーニァ相手に使おうと思っていた『ブツ』がある。あれを、唯依タン相手に使おうじゃないか、というわけだ。
「……な、なんだか顔がヘンタイだ……」
「気のせいだよ。さあ、歩くのが大変ならお姫様抱っこしてあげるけど?」
「……い、いや、歩けるから……!」
数瞬、真剣に悩んでたのは指摘しない方が良いのだろう。
「……なにこれ……」
飯を食い終わって食後の一服、俺は持ち込んだ紙袋を唯依タンに渡し、着用してもらっていた。
着用、という言葉が示すとおりそれは服だ。だが、ただの服ではない。
「知らないのか?……セーラー服って言うんだぜ、ソレ」
「―――それは知ってるっ!……まったく……こんなの着たの、何年ぶりだろう……」
唯依タンは頬を染め、両手でスカートの端を摘みながら自分の姿を見回している。
良い意味で容姿に幼さが残っているため、○学生御用達のこのセーラーを着ても全く違和感が無い。
―――やべえ、ムラムラしてきた……。
「……折角だから、この状況を利用してちょっとやってみないか?」
「……やるって……ナニを……?」
「『イメージプレイ』ってやつ。……状況は、『ヘンタイ軍人に拉致監禁された女子○学生』だ。
―――いくぜ……!!」
「―――えぇっ!? た、武っ……目が怖い!……いやっ! スカートめくらないで!
……匂いなんて嗅いじゃダメぇ~~~~っ!!」
「武ではないっ!……『大佐』と呼ばんかぁっ!!」
「―――た、大佐っ!……そこダメッ……わたし、まだおふろはいってな―――んあぁ~~~~~~っ!!」
―――あるいはこれが、『制服の魔力』という物なのかも知れぬ。これまで、軍服や強化装備には感じなかった遥かなる『エロス』を俺はこの服に感じたのだ。
これまでこの基地内でセーラー服を着た民間人に出会うことが無かった事を、かみさまに感謝しよう。
もし出会っていたならば、俺は所構わず『ル○ンダイブ』をぶちかましていたに違いないから―――