とーたる・オルタネイティヴ
第20話 ~さらばけだもの~
―2001年11月07日―
ここは夕呼先生がいる副司令執務室。来る11日に予定されている『BETA新潟上陸事件』の報告と、それに対する解決案を持って俺はこの部屋を訪れていた。
先生は相変わらず不機嫌なご様子で、計画が難航しているであろう事が容易に想像される。
確か計画に関しては、『前の世界』では俺が『元の世界』に理論回収に行ったはずである。今回はそんな危険は冒したくない。
そろそろ先生の閃きの切っ掛けになるような『何か』を模索しておいた方が良いのかもしれなかった。
こちらもあちらも同じ先生。切っ掛けさえあれば容易に『到れる』筈なのだから。
「……佐渡島から侵攻してきたBETAが、新潟に上陸するって言うの?」
「そうです」
「―――で?……何をどうして欲しいわけ?」
「先生にお任せしますよ。……俺は、全人類を救おうなんてご大層な目標は失くしましたから。
……この基地にいる、幾人かの俺にとって大切な人が無事なら、それでいいんです。
……そして、放っておいてもこの基地が無事に済むのは実証済みです」
かつての俺は、知らなかったのだ。
『全人類を救う』という理想が、自分にとって掛け替えの無い人達の命をチップとして差し出さねば成立しないという極めて理不尽な勝負だったという事に。
それを知って尚『人類のために戦う』と理想を掲げていられるほどに俺は強くはなかった。
「……この基地さえ無事なら、他はどうでもいいってわけ?」
「極論すれば、そういう事になります。……でも、放置して帝国軍の戦力が目減りすれば、結局は次同じ事があった場合に仲間達が危険に晒されます……。
……ですから、本当の意味で仲間達の危険を減らすのであれば、最小限の労力で最大限の結果を挙げないといけない……」
つまりは、上陸予想地点での迎撃という事。『以前』は放って置けだの証拠を見せろだの散々にやられてしまったわけだが、結局のところ先生にとってこれが絶好の機会であるということに変わりはなく、今回もヴァルキリーズに出動命令が下されるのだろう。
ならば、俺は俺にとっての大切な人たちを守るため、最善を尽くさねばならない。
「その前に、一つ確認しておくけど……今の話が事実だ、という証拠はあるの?」
「別に証拠なんて要らないと思いますけど?」
「あのねえ、其処まで話が大きくなったら、ちゃんとした証拠も無しに動けるわけ無いでしょう?」
「ええ。……ですから、11日に帝国・国連合同の大規模な実弾演習を企画しましょう。
……演習自体は、やって無駄になる事では無いでしょう?」
「『実弾演習』の最中、たまたま偶然BETAが侵攻して来ました……ってわけ?
……駄目ね。パニックに陥って潰走するのが目に見えているわ」
「そこは、混乱を一発で沈める『カリスマ』の登場に期待しましょう」
「……あんたまさか、殿下をお招きしよう、とか言い出すんじゃないでしょうね……?」
「それが出来れば効果は抜群ですけど……斯衛の重鎮を呼ぶのが精一杯じゃないですか?」
先生は顎に軽く手を当て、考え込んでいる。俺の作戦の有効性と、実現可能か否かを検証しているのだろう。
ここ数日練りに練った作戦だ。穴は無いはず。
あえて難点を挙げれば準備の不足という事だろうが、いざBETAが侵攻してくれば準備がどうのとは言っていられないわけで、そこは各基地司令と先生の手腕に期待する他無かった。
「―――いいわ。あんたの、将軍まで巻き込んで大乱闘やらかそうっていう図太さが気に入ったわ。
……今日中に上の方に提出してねじ込んでおくから」
「有難うございます。……ついでにもう一つ、帝都本土防衛軍なんかも呼んでもらえると嬉しいです」
「何処まで図々しいのよ、あんたは。……でもまあ、使える戦力は多いに越した事は無いでしょうしね……」
実の所、この作戦は一石で二鳥も三鳥も落とす事を目論んだ物なのだ。
まず一つに、予め大戦力を上陸地点に用意しておく事で、こちらの被害を最小限に敵を殲滅出来るという事。
突然の敵襲にパニックに陥るという危険性は、将軍あるいはそれに近い者の存在を用意しておく事で対処する。
二つ目に、BETAは演習中にですら来襲するのだという事実を関係者全員の胸に刻み、関係者の緊張感を高めるということ。
これにより『トライアルの悲劇』も回避されるわけで……。
―――まりもちゃんには、俺達が任官の暁には少佐にでも復帰してもらい、ヴァルキリーズを『真・ヴァルキリーズ』へと生まれ変わらせてもらうのだ。
ちなみに、ヴァルキリーとは『戦乙女』のことだが、まりもちゃんは『乙女』では無いだろうとか言うのは禁止だ。
三つ目に、俺達ヴァルキリーズに配備された新型OSの威力を、参加人員全てに思い知らせる事。
四つ目、これは俺の願望だが、おそらくこの世界でも起きるであろうクーデター。その首謀者があわよくば戦死してくれるかもしれない、という事。
まあその可能性は低く、あまりあてにはしていないのだけど。
五つ目、実はこれが最も重要で、今作戦の全てはこのためにあるといっても過言ではない。
―――煌武院 悠陽殿下とお近づきになる絶好の機会だということ……!!
「―――あのヘンタイ機動をする不知火の衛士は何者ですか?」
「―――はっ、国連横浜基地に所属する白銀 武少尉と申すようです」
「まあ、私と同じ年齢なのですね……是非とも会ってみたい故、連れてまいれ」
「―――そなたが、白銀ですか……?」
「―――はっ、お初にお目にかかります……白銀 武少尉であります……!」
「―――(ポッ)」
―――なんていう展開も夢ではないのだ。ぶっちゃけ、クーデターが起きるまでなんて待ってはいられない。
殿下と一刻も早くお近づきになり、尚且つあわよくばクーデター首謀者の沙霧 尚哉を黙らせる。
―――ふふふふふふ……燃えて来たぜ……!!
「……白銀ぇ……妄想に耽っているところ申し訳ないんだけど、出て行ってくれない?
……なんだかむかつくから」
―――おっといかんいかん……。確かに、まだ会ってすらいない女の子を相手に妄想している場合ではなかったな。
来るべき時に備えて、腕を磨いておく事にしよう……。
―2001年11月07日 19:00―
―――そう、俺には未だ会っていない女の子にうつつを抜かす前に今其処にいる女の子を満足させてやる必要がある。
そんなわけで本日もやってきた『よるのくんれんたいむ』だ。
昨夜はクリスカ、イーニァとお風呂で『くんれん』してしまった。そうなると気掛かりなのが我等がろりがみさま、社 霞だ。
長女、次女とお相手しておいて末っ子をそのまま放置、というのは仁義にもとる。
きっと今頃霞は、『ここへ白銀さんが来ないのはきっと私がつるぺただからだ……!』などと思い悩み、自室で豊胸体操に励んでいるに違いないのだ。
俺は、そんな霞に愚かな行為を止めさせ、今のままの霞にこそ価値があるのだ、という事を教えてやらねばならない。
「かーすーみーちゃーん、あそぼーぜー!」
ちなみにここはいつもの脳みそ部屋ではない。いかな霞とは言え、別にあの部屋で寝泊りしているわけではなく当然自室というものが存在する。
いつもあの部屋に行けば会えるため、これまで足を運んだ事はほとんど無かったのだが。
『ドンガラガッシャン』という何だかよく分からない物をぶちまけてしまったかのような派手な音が響き渡った。
続いて、こちらに向かって駆けて来る軽い足音……そして、何かにぶつかった、あるいはぶつけてしまったかのような鈍い音。
……タンスの角に、足の小指でもぶつけたか……?
部屋の中から『あが~』とかいう悲鳴?が聞こえたので多分間違いない。
―――待つこと数分。ようやく扉が開き、霞が姿を見せてくれた。ちょっと涙目なあたり、ポイントが高い。
「……こんばんわ、白銀さん……何か御用ですか……?」
「……何してたんだ……?」
「…………」
おいおい、だんまりかよ。……でもな、うさみみが反応しちゃってるから意味が無いんだ。
ここは、華麗に探りを入れてみるべきだろう。
「最近俺が姿を見せなかったもんで、一人で慰めてたんだろ……?」
「そ、そんなことありません……!」
「そっか……俺はお呼びじゃ無かったって訳だな……邪魔したな。
……帰るよ」
踵を返した俺の軍服の裾を握る小さな手。もちろん霞の手だ。
「……ご、ごめんなさい……本当は、とても寂しかったです……」
―――フィ~~~ッシュ!!
押すだけではなく、たまには引いてみようと突然ひらめいたこの作戦、まさかこんなにもすんなり決まるとは思わなかった……!
よしよし霞よ……、素直な子にはご褒美を上げよう。
「―――おい……何故逃げる?」
「……へんたいです……」
「…………」
「…………」
「……帰るよ……」
「―――っ! 帰らないで下さい」
またしても掴まれる軍服の裾。……霞、俺に一体どうしろと?
「……一緒にいて下さい……でも、へんたいは駄目です……」
「いやだ」
「……え?」
「いやだったらい・や・だ!……へんたいさせてくんないんだったら帰る!
……そんで、イーニァに慰めてもらうんだ」
「……そ、そんな……」
「俺と一緒にへんたいごっこするか、一人で淋しく慰めるか、二つに一つ……どっちだ!?
さあさあさあさあさ―――あがっ!!」
「貴様という男は……私やイーニァだけでは飽き足らず、霞まで……。前々から言おうと思っていたことだが、貴様は女に対してだらしがなさ過ぎる!!
―――この際だから言わせて貰うが、本来私は貴様の事など好きでも何でも―――」
「クリスカ」
「―――なんだ」
「……飛んで火に入る夏の虫って諺知ってるか?」
「……ど、どういう意味だ、それは……?」
「……霞」
「……はい」
「良かったなぁ……一人じゃ寂しいだろうから、おねえちゃんが色々教えてくれるってさ」
「……ありがとうございます、クリスカさん」
「……ちょ、ちょっとまて……私はそんなつもりでは―――くふぅんっ……そ、そこはダメ!
―――んあぁっ……か、からだが……え?……そ、そんなところまで……い、いやぁぁぁぁあっ―――」
―――まあ、早い話霞も一人じゃ怖くってなかなか踏ん切りがつかないけれど、『百戦錬磨』のおねぇちゃんが一緒だったら怖くなんて無い、というわけで……。
今回も、後始末の手間を考慮して風呂場へ直行させていただくことにしました。
―――フェチ01よりCP、フェチ01よりCP……これよりハイヴへ突入する……!援護は任せたぞ!
―――CPよりフェチ01……風呂に溺れて溺死しろ……繰り返す、風呂に溺れて溺死しろ……!!
「……う、うぅ……ぐすっ……ひっく……い、イーニァだけでなく霞にまであんな姿を……」
またしても『あられもない姿』を披露してしまったクリスカは、霞のベッドを占領して泣き崩れている。
―――そ、それにしても恐るべきはクリスカよ……。まさか、あそこまで派手に○を噴いてくれるなんて思いもしなかったぜ……。
正に、某AV女優も真っ青の『潮芸』だったな……。
「……クリスカさん、泣いてます……」
「……そうだな……きっと、あんまり気持ちよかったモンで、照れているん―――お、おいクリスカ何をするんだ」
「……霞」
「……は、はい」
「今度は、この男を泣かせてやるぞ。……お前も、協力してくれるな……!?」
「は、はいっ!」
「え、えぇ?……俺には泣かせてもらうような趣味は……ちょ、まて……そこは!!
―――う、うそだろ……?……くっ……い、いやぁぁぁぁあっ―――」
―――前略、こまんどぽすとさま。
風呂に溺れて溺死する事は残念ながら叶いませんでしたが、クリスカと霞に『ピー』を『ピー』されて、危うく『ピー』で溺死するところでした。
そればかりか、『ピー』されちゃったまま『ピーーーーーーー』までされちゃって……。
こんなこと、誰にも許した事なかったのに……。
……かみさま……たけるは、ないてもいいですか……?
―――よいのです、しろがね……おもうぞんぶんおなきなさい……。
……ああ、わたくしにからだがあれば……!!
追伸、明日の朝目覚めて、『おんなこわい、おんなこわい……!』などという事の無いよう祈っていてください―――。