とーたる・オルタネイティヴ
第17話 ~よみがえるけだもの~
―――さて、思い出してみて欲しい。俺は総戦技演習の前日、野外○×△する機会などいくらだって作れる、との理由で唯依タンとクリスカを諦め、演習のパートナーをイーニァに決めた。
今回車の調達と唯依タンの説得に成功した事により、こんなにも早くその機会がやってきたわけだ。
先刻の夕呼先生の介入により爆発寸前だった修羅場も当面は回避され、今また念願だった唯依タンとの初○×△兼野外○×△の機会が訪れたわけである。
これはもう、上手く行き過ぎていて怖いくらい。
―――かみさま……ぼくもうがまんできないよ……いただいちゃっていいよね……?
―――あせってはなりません……。じわじわとじらすかのように、すこしずつかのじょのけいかいしんをといてゆくのです……!
―――かみさま、あんたもすきねえ……? じらしぷれいがごしょもうとは。
……わかりました。ゆいたんの『おねだり』がみたいと、そうおっしゃるのですね……!?
ふっ、かみさまがそう言うんじゃあ仕方が無いよね。……実に楽しみだ……。
―――『おねだり』する唯衣タンの痴態を脳裏に思い浮かべたその瞬間、俺は爪先から脳天までを貫くとてつもない衝撃に襲われた―――
「―――っ~~~~~!!……ゆ、唯依タン……な、なぜ……?」
「す、すまない! 何か、猛烈に嫌な気配を感じて、気が付いたら手が勝手に……!」
……俺のムスコは妄想効果でお目覚めしつつあったわけで……。そこに必殺の神刀・竹光が直撃したのだ。
……この痛み、この苦しみ……女子供には分かるまい……!
忘れないで頂きたいのだが、俺は今ハンドルを握っている。
……全く、よく事故らなかったな、俺……。
「ほ、本当に済まない……!ど、どうしよう……」
「……さすってくれ」
「……え?」
「……だから、さすってくれ。痛みのあまり運転に集中できない」
「…………」
「…………」
「……と、ところで、今何処に向かっているんだ?……あまり遠くへ行くわけには行かないのだろう……?」
「…………」
「きょ、今日は良い天気だな。絶好のドライブ日和だと思う」
「……話を逸らすにしても、もっと上手くできないのか……?」
「…………」
まあ、あまり弄り過ぎてまた竹光が飛んできても困るし。今の所はこの位で許してやろう。
それにしても、恐るべき勘である。まさか気配を察知して攻撃されるとは思いもしなかった。
―――リーディングに目覚めました、とか言うのは勘弁してくれよ……。
基地を出た俺達は、とりあえず近場の公園跡を訪れていた。此処は、俺の家から程近い場所にあり、かつては俺の遊び場だった。
今は、かつての姿は見る影も無く、かろうじて昔公園だったという事が分かる程度である。
唯依タンが、PXで購入して来たのであろうコーヒーを俺に手渡してきた。
「……ねえ、武。何故基地の外でデートを……?廃墟ばかりで見るものも無いと思うのだが……」
「……此処は、俺の故郷だからね……」
「―――っ!」
唯依タンが、息を呑む。
「そ、それでは武のご家族は……?」
「……さて、BETA共の腹の中か、あるいは戦闘に巻き込まれて死んじまったか……どちらにしても、この世にいない事だけは確かだ」
「―――すまない……また私は……」
「謝るなって。こんな所に連れて来られたら、誰だって不思議に思うさ。
……こいつは、墓参りみたいなモンなんだ。今までなかなかそんな機会が無かったからさ」
「…………」
「ま、初デートが墓参りだなんてセンスが無いにも程があるって思うけどな……。
……だから、謝るとすればこちらの方だ」
「いや、そんなことは……」
何となく、辛気臭い空気になってしまったような気がする。やはり、デートで墓参りというのには無理があったか?
とは言っても、俺はこの世界の帝都になんて行った事が無いため、其処でデートするにしても何処に何があるのかも分からない。
そもそも、考えてみれば俺は出撃以外で基地の外に出た事など、皆無と言っても良い位なのである。
「……なあ、唯依タン。そろそろ昼じゃないか?」
「あ、ああそう言えば……」
「流石にこんな廃墟に囲まれて飯は喰いたくないし……海の方にでも行ってみるか?」
「海か……私用で行った事はほとんど無かったな……」
「ならちょうど良かったな。……行こうか」
さて、と。……出来れば次で決めてしまいたい。
……何をって、ナニである。
次のポイントで、アレをナニする雰囲気に持って行きたいな、とそういうこと―――。
車から降り、少し歩いたところにその砂浜はあった。目に映る限りの砂浜と海。遠く目を凝らせばかろうじて岩場が見て取れる。
少し車道から入り込んだところにあり、さして開発もされていなかったため余計な廃墟も目に入らない。
真夏ならば汗が噴出していた所だろうが、11月ともなればあえて日陰を探す必要も無かった。
柔らかい晩秋の日差しが程よく身体を温めてくれる。
そんな場所に俺と唯依タンはシートを広げ、持参した昼食を並べていた。
―――うん、これって結構デートらしくないか……?
「へえ、わざわざ重箱に詰めてくれたのか?」
「う、うん。京塚さんが、出掛けるんならこっちの方がいいだろうって……」
「なら、俺も後で御礼を言っとかないとな」
「い、いや!それには及ばないっ」
「……俺が一緒だ、とは言ってないわけだ……?」
「う、ご、ごめんなさい……。何となく言いづらくて……」
「……まあいいか……」
兎にも角にも、弁当である。お馴染みの唐揚げから、卵焼きまで。例え合成であろうと、こんな『定番』とも言うべき弁当を見るのは『前の世界』以来無かった事である。
先程の墓参りの効果もあって、不覚にもジンと来てしまったのは内緒だ。
―――というか、唯依タンのその微笑みは、俺って見透かされていないか……?
唯衣タンが俺に紙コップに注がれた緑茶を手渡してくれた。
―――それにしても、こうして違う環境で食事をすると、料理の味とはやはり素材そのものはあくまでも要素の一つでしかないのだと実感させられる。
一緒に食べる相手、雰囲気、環境それら二次的なものの占める割合も大きいのだ。
そんなわけで、全て残さず料理を平らげた俺は、唯依タンの膝枕の柔らかさを堪能しつつ日向ぼっこに興じていた。
唯依タンの手が俺の髪を優しく梳いている。
……今なら、この雰囲気ならば自然にアッチの方向に持っていけると思うんだけど、どうだろう……!?
―――CPよりフェチ01、CPよりフェチ01……! 吶喊せよ! ……繰り返す、吶喊せよ!!
―――いまさらおくしたのですか……? 『エロガネ』ともあろうものが……?
うん、どうやら良いらしい。……前回は、祷子さんを相手に『スマート&エレガント』な誘い文句を披露して、すべってしまった苦い過去があるからな……。
今回は、更にそれを上回る『エレガント&ゴージャス』に事を進めなければ……。
「……唯依タン……」
「……武……?」
「……いいだろう?」
言いながら、俺は唯依タンの前に軽く握った拳を差し出した。
そして、人差し指と中指の間から親指をニュウッと突き出す。そして、止めとばかりに親指をピコピコと揺らしてやる。
誰しもが、かつて幼い頃に両親に聞いたことがあるだろう。『これってどーゆーいみー?』ってな……。
見せた瞬間拳骨喰らったのはいい思い出だぜ……。
「―――ぐおっ!!」
む、無言で竹光を額に突き刺すとは……!どいつもこいつも、この基地の女ってやつは分かっていない……!!
「も、もうすこしマシな言い方は出来ないのか!?」
「せ、精一杯『スマート』な言い方をしたつもりなんだが……」
「お前は、もう少し雰囲気に合った『誘い方』を学んでくるべきだ!」
「……えぇ~~?」
「そ、そんな泣きそうな顔をしても……だ、ダメだっ―――ああっ!?」
言葉の途中で俺は体勢を入れ替え、唯衣タンのぱいおつの谷間目掛けて抱きつき、顔を『グリグリ』してやる。
唯衣タンの匂いが胸一杯に吸い込まれ、まさに脳が痺れる様な感覚。
「あんっ―――もう、こんなところじゃ……くぅん!」
―――事に及ぶ前に言っておきたい事がある。……『野外なんちゃら』ってやつは、人が来るかもしれないというスリルを味わうためのプレイだと思うんだ。
……でも、こんな人の来る可能性の限りなく低い場所でするってのはどうなんだろうな……?
いや、そこが外である限り確実に『他人の来る可能性』は存在するわけだから、アリなのか……?
―――実際見られたら限りなく気まずいしな―――
―――今回も、察して欲しい。
ただ、一つだけ言わせて貰おう……。顔を真っ赤にして、目尻に涙を貯めながら『おねだり』する唯依タンは、それはもう可愛かったと……!!
「その……武……」
「す、すまん! い、いくら『おねだり』されても今日はもう無理だ!
続きはまた明日―――ひでぶぁっ!」
「だ、誰もそんな事は言っていないっ!……だいたいアレは武が無理矢理……!」
「……最後はノリノリだったくせに……」
「―――っ!!」
「うわっ!―――じょ、ジョークだ唯衣タン……!」
流石に、真剣を構えるのはルール違反だと思うんだ!
……というか、素っ裸で片膝立てちゃったりしたら見えちゃうんだけど……。
「そ、それでなんだい?」
「……この惨状で、私たちはどうやって帰るのかと……」
……そう。いたしてしまった後の俺達は、なかなか凄い光景だった。やってる途中は気付く余裕なんて無かったんだけど……。
まず、互いのアレなソレで身体は濡れまくっている。……乾けばいいとかそんな問題ではない。
次に、シートの上。なかなかアレな光景だった。
「……海……入るか……」
「……そう……ね……」
―――嗚呼、カラスの鳴き声が心に痛いぜ……。
―2001年11月04日23:00―
「それで、『会議』なんてやって結局どうなったんだ―――あ、それチーね」
「……夕呼先生のやることだからなぁ……額面通り受け取って調子乗ってたら痛い目見そうなんだよなぁ……リーチっと」
「……羨ましい限りだな。俺にもコツを教えて欲しいところだぞ―――通るか……!?」
「ふん、女を抱いて溺死しろ……ポンだ」
「それこそ本望だぜ―――っと、悪いなユウヤ少尉殿……ロンだ。
……リーチイーペードラ三……親満だ」
「ぐっ……トビだ」
「おいおい、またかよユウヤ~。これでもう何回目のヨンチャ&トビだ?」
「うるっせえよ、マカロニ!」
「相変わらず手堅くニチャですか、ドーゥル中尉」
「今月は厳しいのでな……負けられん」
まあ、皆まで言わずとも分かるだろう。めくるめく官能の世界から帰還した俺はその足で遊技場へと向かい、こうして卓を囲んでいる。
「え~と、俺が+30000でドーゥル中尉が+5000。……ヴァレリオ、ユウヤ、きっちり明日中に支払い頼むぜ?」
無論分かっていると思うが、俺達は賭け事をしていたのではない。
+30000というのは、ユウヤとヴァレリオの二人が俺に『善意』により無担保、無利子、返済無期限で俺に貸し付けてくれる、とそういうことである。
ゲームの勝敗の結果金が動いたわけではない事を明記しておこう。
収入の無い俺がどうやって金子を得ていたのか、という答えが実はこれだったりする。
「白銀。お前は明日、どちらの訓練に出る?」
「訓練生の方は、どうせ適性検査ですからね……。明日はヴァルキリーズのほうに顔を出しますよ」
「そうか、それならちょうど良かったな」
「……どういう意味です?」
「伊隅大尉に聞いたのだが、明日は新型のOSを使用しての訓練だそうだ」
「……ああ、ようやくですか」
「武、お前知ってたのか?」
「まあ、発案とバグ取りやったのは俺だから」
―――明日、ついにXM3が実装されるのか……。新潟のBETA侵攻まであと6日。
これだけあれば充分に慣熟出来る筈だった。あとは、ワントップの俺が上手く立ち回れば、彼女たちの危険は最小限に抑えられる筈だった。
―――死なせもしなければ死にもしない。
あいつらの、○○膜ぶち破るまではな……!!
「……ユウヤ、見ろよ……武のあの顔」
「……なんであいつがモテるのか……日本人てのは、バカばっかなのか?」
―――俺の固い決意は、外野の野次ごときでは小揺るぎもしないのだ―――
※麻雀ネタにミスを発見したため改定
指摘頂き感謝します