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No.4170の一覧
[0] Overs System -誰がための英雄-[shibamura](2009/07/25 03:07)
[1] OversSystem 01 <新たなる介入者>[shibamura](2009/06/26 01:28)
[2] OversSystem 02 <世界を救う同志募集中>[shibamura](2008/11/28 01:00)
[3] OversSystem 03 <かすみのほっぺた 商品化決定>[shibamura](2008/09/23 02:00)
[4] OversSystem 04 <鋼鉄の子宮>[shibamura](2008/09/23 02:00)
[5] OversSystem 05 <独白と誓い>[shibamura](2008/09/23 02:01)
[6] OversSystem 06 <世界を救うとは死狂いなり>[shibamura](2008/10/21 23:13)
[7] OversSystem 07 <それなんてエロゲ?>[shibamura](2008/09/23 02:02)
[8] OversSystem 08 <衛士、霞>[shibamura](2008/10/05 11:43)
[9] OversSystem 09 <失われた郷土料理>[shibamura](2008/10/05 11:43)
[10] OversSystem 10 <コンボ+先行入力=連殺>[shibamura](2009/06/26 01:30)
[11] OversSystem 11 <諦めないが英雄の条件>[shibamura](2008/11/09 02:31)
[12] OversSystem 12 <不気味な、泡>[shibamura](2008/11/09 02:33)
[13] OversSystem 13 <現実主義者>[shibamura](2008/12/10 23:07)
[14] OversSystem 14 <ガーベラの姫との再会>[shibamura](2009/01/26 23:14)
[15] OversSystem 15<彼と彼女の事情>[shibamura](2009/02/08 01:50)
[16] OversSystem 16<破壊者たちの黄昏>[shibamura](2009/06/19 17:06)
[17] OversSystem 17<暴力装置>[shibamura](2009/06/25 21:23)
[18] OversSystem 18<なまえでよんで>改[shibamura](2009/07/25 03:10)
[19] OversSystem 19<全ては生き残るために>[shibamura](2009/07/25 03:10)
[20] ネタ解説 ~10話[shibamura](2009/07/25 03:07)
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[4170] OversSystem 06 <世界を救うとは死狂いなり>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/10/21 23:13
10月24日(水)[三日目]

----横浜基地 グラウンド----


「ほう、そなた居合いを使うのか」

「なに、抜刀術をさわり程度にな」


 俺の207としての最初の訓練は模擬接近戦、しかも剣術だった。
 もともとはまりも先生、いや今は神宮司軍曹が「白銀の力を計りたいだろうから午前は希望を取る」と言った所、壬姫の射撃訓練を押し切り冥夜の接近戦訓練が採用された。
 「予定外射撃訓練は準備と申請が云々」と行って壬姫をまるめこんでしまったが…さすがカリスマスキルを持つヤツは違うなぁ。
 ちなみに千鶴は座学を押そうとしたが、午後に座学の授業があると知ったら大人しくなり、一方慧は黙ってそんなみんなの様子を見ていた。

 冥夜は鞘から模造刀を抜き放ち正面から正眼の構え。
 俺は抜刀せず左に鞘を掴み、腰を落として抜刀切りの構え。右手は西部のガンマンをイメージして柄を掴むか掴まないかの位置でリラックスさせる。
 互いの距離は10メートル。

(冥夜の剣先…やや熱いか…?)

 正面からやっても多分勝てるが、どうせなら負けても良いので面白い方向にもっていきたい俺は、のっけから最終奥義を使う。


「支店を板に吊るして…」

ダッ

 刀を揺らさないように、さらに地面と平行になるようにしたまま俺は全力で突っ込む。

「ギリギリ太るカレイセット!」

 柄を掴み気を吐いて右足を踏み込む。
 だがまだ半歩遠い。
 
(うお…お…これは確かに…)

 ここからさらに左足を踏み込まねば剣先は相手に届かない。
 しかしその一歩のなんて遠いことか。
 本能が全力で否定する。
 それは危険だと。

(死には…)

 でもコレ模擬戦だし。

(しねぇだろっ)

「アッー!」

「衛(えい)!」


 けたたましくぶつかり合う鋼と鋼。
 確かに俺の放った一撃は…そこ、カレーセットは九頭龍閃だろとか言わない。そう、その天駆龍閃の一撃はそれなりの速度で冥夜に飛んでいった。
 それなりの、というのは、経験上冥夜を打ち倒すのに必要な意味でのそれなりの、だ。


カラン――

 なのでこの結果は少々意外だった。


「そなた今のは海外の剣術か?確かに発想は面白いが、そう易々と無現鬼道流は突破できぬ」


 確かに俺の方が、俺の刀の方が早かったんだが…
 抜刀した俺の刀が刃途中で叩き切られた。
 …これ刃ツブして切れなくしてるよな。
 つまり単純に、技術の差か。
 しかし、俺の"本命"はヒテンミツルギスタイルなんていうギャグマンガじゃない。

「じゃあ手本を見せてくれるのか?」

「武――勇気と無謀は違う。そなた…首が飛ぶぞ?」


 確かに刀を切り落とされた俺と冥夜の間には、明らかな剣術の力の差がある。
 そう言って後ろを向いた冥夜をもう一度振り向かせるのは今までのシロガネオリジナルになら無理かもしれないが。

「おい冥夜、俺の刀はまだ半分残ってるぜ?無現鬼道流ってのは残心も教えないのか?」

 
――ピタリ

 おぉう、今冥夜が立ち止まった瞬間ピタリって擬音が聞えた。

「ほう…そなた」

「次俺に打ち勝ったら冥夜の言う事を一つなんでも聞いてやるよ、ごはんのおかず一品提出から添い寝だろうが何でもな」

 訓練兵としての冥夜とEXとしての冥夜の両方を抑えるこの俺のチョイス。
 とてもシロガネオリジナルには思い付けな…いだ…ろ…あれ?


「吐いた唾は飲めぬぞ、武」


 ドドドドドドドドドド
 そんな擬音が聞えてきそうな剣気…いや殺気か?
 とにかく何か不吉な波動が、目の前の少女から流れ出している。
 ただのヒトがここまでの威圧感を出せるものなのか…

 そうか、シロガネオリジナル、お前は本能的にこの殺気を避けてたんだな…
 やっぱたいしたヤツだよ…お前は。


「だ、だめだ!御剣!」


 そして何故そこでツッコミが入る?まりも先生。


「申し訳ありません神宮司教官。しかし今は一人の武人として、引く訳にはならぬ時もあるとご理解下さい」

「ぶ、武人として戦うのなら、何かを掛けるなどは…」


 だからまりも先生、何かツッコミ所が間違ってはいませんか。


「お言葉ですが教官殿、自分は、いえ、自分達はいつでも、命を掛けているつもりです。この横浜基地の門をくぐった時から。特別扱いは要りませぬ」


 そして冥夜、誰が上手いこと言えっつった。
 しかもなんか回答方向が斜め明後日の方向向いてるぞ。


「御剣!命と貞操は別だ!」


 ――――――まりもさん?

 それは「俺が勝ったら冥夜と寝る」とか言い始めた時に出るセリフだろ?
 冥夜が勝ってもそんな事は言い出さないだろうし。
 とりあえずここで原因不明の修羅場を展開しても時間の無駄…どころじゃねぇ、慧達が白い目でこっちみてやがる。
 そういうわけでこのままだと無駄どころかマイナスになってしまうので、俺はさっさと始めるよう声を掛けたのだ。


「何チンタラやってんだよ冥夜!衛士になる前に戦争が終わっちまうぜ!」

「…! よかろう、すぐ楽にしてやる」

「そうそう楽にこの首が落とせると思うなよ?」

「いや、その首、貰い受ける」

 よし、ようやく対峙まで持ってこれた。
 冥夜は納刀し、抜刀の構え。
 そしてその右手は人差し指と中指の間に掴みこむような、猫科の動物を思わせるような握りで刀に添えられた。
 

 そして俺は――


「武!そなた――」


 刃途中で叩き斬られた刀のまま、右手で祈るような姿勢。
 右手に掴んだ刀は地面と垂直に俺の顔の正面に添えてある。
 左手は、刀の下に添えるように。


「………」


 集中、集中だ。
 あれだけ首首言ったんだ、おそらく首、最低でも上半身に渾身の一撃が来る。
 下半身だったら諦めて死のう。

「…その構え、どういう意図かは解らんがその気迫…本気でやらせてもらうぞ、武」

「来いよ冥夜、お前のその流星で俺の首を落として見せろ」

「知っていたか。いや、最早驚くまい」



 無現鬼道流 秘剣


 ――『星流れ・抜刀』










 御剣冥夜の左から放たれた斬撃は、人間一人の首など容易く切断できる威力を持って…


ザシュゥウウ


(しまった、殺してしまったか――何?!)

 渾身の一撃で放たれた星流れの剣先は、既にヒトの視認速度を越えて白銀に迫った。
 そして指先に伝わる感触は、硬い物を5,6cm切り込んだ感触。
 しかし現実を直視した瞬間、冥夜が見た光景は、今まで一目たりとも見たことの無い――

「な…"茎(なかご)受け"…?」

 見えた時には、冥夜と白銀は刃と刃で結ばれていた。

 白銀は星流れが放たれた瞬間に自身の剣を水平に倒し、刀の柄の先で受けたのだ。
 冥夜の刃は柄頭から"本来左手で握られる部分"を切り裂き、右手の甲の小指側を2mmほど切り裂いて静止していた。
 白銀の左手は、万力のような力強さを持って右手首を支えている。


 茎(なかご)とは刀身の下部、柄に覆われている部分の名称であり、木剣の稽古等で突きを払う際に柄頭を用いる事はあるが…

 超高速の一閃に柄頭を合わせるのは、飛来する弾丸を弾丸で叩き落すに等しき無謀――――

 そう、薄き刃は厚き装甲と化して、死の流星を食い止めたのだ!






「な…ぐぁっ」

 冥夜の剣は切っ先で俺の手元に固定されている。
 つまりテコの原理で簡単に剣をひねり上げる事ができる。

「所詮お前は流れ星」

 そして冥夜の空いた左アバラに

「落ちる運命(さだめ)にあったのさ」

 俺の左の掌底が決まってエンドだった。






----横浜基地、救護室----


「しかし、まさかあんな受け方があったとはな、全く驚かせてくれる」

 俺は今救護室に居る。
 というのも、右手がさっきの"茎受け"で少し切れてしまったからだ。
 まぁ傷は浅いんだけど、血が止まらなかったので包帯だけ巻きに来た…のだが。
 何故か冥夜が「自分が傷着けたから付いていく」と言って制止する神宮司軍曹を振り切り、さらには「救護手当て講習は受けているので自分にやらせて欲しい」と救護室の担当医まではねのけてしまう始末だ。

 そう、俺は今冥夜に包帯を巻いてもらっている。
 くそっ、胸が近いぞ。たゆんたゆん揺れるんじゃない。
 それに俺のてのひらの周りをくるくると回る冥夜の手が…その…たまに触れるのが妙にこう…いいんだよな。(←オナ禁の為、対女性抵抗値がほぼ0までダウン中)
 いいなぁ、こういうの。ずっと続けばいいってヤツ?
 そうか!これが青春か!←絶対何かが間違ってる。


「あの時私は武の喉元ギリギリに剣を走らせるつもりであった。当てる気では無かったので手加減などしなかったのだが…」


 そうだったのか、やけに速いと思ったんだよな。ほとんど見えなかったし。


「それをよりにもよって柄頭で止められるとは…私もまだまだ精進せねばならぬな」


 さっきからちょっと落ち込んでたのはそれか。
 まぁしょうがないよな、一番の特技だった剣術で負けたんだから。


「いや、お前の腕はすげーよ?殆ど見えなかったしな」

「ふっ、結果が全てを物語っておる。あれはどう見てもそなたの完勝、わたしの完敗だ」


 実はタネも仕掛けもあるんだが…冥夜に黙ってるのは悪いな。


「いや、実際冥夜の方が強いと思うよ。首に来るって解ってたから後はタイミングの問題だったしな。まぁ心理戦だ、心理戦。首以外に当てに来てたらまず間違いなく俺死んでたしな」

「そなた…成る程、そういう事か。それならばやはりそなたの勝ちだ」

 え?どゆこと?
 それならばって今のは"剣術は冥夜の勝ち"、"心理戦は俺の勝ち"って事でイーブンなんじゃないの?


「武、例え剣術で勝っていたとしても、最終的に勝利を掴む事に必要な力は別だ。私がそなたに負けたように、持っている力を全て出し切り、その上で如何に運用するか。総合力とでも言う物が最終的に勝敗を決するのだ。わかり易く言うならば、それが一般的に言われる"器(うつわ)"が大きい、といった事であろう」


 うおっ、俺すげー褒められてる。
 やったよ源之助!お前の新技は無駄じゃなかったぜ!


「よし、これで動かさねば直ぐに傷も閉じよう」

「サンキュ、冥夜」


 うん、もう痛みも感じないしイイ具合だ。
 コイツがドジっ娘属性なんて持ってなくてよかった。


「所で武、その、先ほどの話なのだが…」

 途端に両手で自分のズボンのヒザのあたりを掴んでもじもじする冥夜。
 なんだ?トイレか?

「さっきって?俺が使った技の事か?」

「いや、負けた方がひとつ言う事を聞く…という約束についてだ」

 あれ?俺そんな事言ったか?いや言ってないよな。


「わ、私も武人のはしくれだ。約束は守る…その、なんなりと申すがよい」

 うわー、上目遣いでこっち見んなよ。良心の呵責に苛まれるじゃないか。


 しかし…そうだな…


 死なないでくれ?
 いやまだ戦術機にすら乗ってないしな…

 エロイ頼みごと…さすがにフラグが足りない…というか手を出す気は最初から無い。却下。

 無難にご飯を一品もらう。
 いや、訓練期だし3食べて欲しいな。

 添い寝、論外…いやかなり魅力的だが…まずいだろ。
 まだ死にたくない。

 武御雷に素直に乗れ…コレだ!
 その手があったか。
 うはwww俺孔明www


「冥夜」


 俺はなるべく姿勢を正し、正面から冥夜の目を見据えて話しかける。


「な、何だ」

「ツケにしとくわ」

「そんな…」


 流石に「殿下から武御雷が届くからつかってNE☆」なんて言えんだろう。
 「近い内、お前に新しい剣が届く、それを使って欲しい」とか言おうと思ったんだけどそれだと気付きかねないしな…
 べ、別に一度書いて展開に失敗したから諦めたとかそーゆんじゃないんだからね!


「そなた…私の覚悟を何とこころえる…」


 何覚悟完了してんだよお前。武士だからってやり過ぎだろ常考…
 いかん、コイツとは二度と決闘まがいの事なんてしちゃだめだ。その内切腹するかもしれない。


「言われなくてもお前がその辺キッチリしたヤツなのは知ってる。だけどな、頼む俺にもそれなりの覚悟がいるんだ」

「なっ…なるほど、承知した。それは確かに道理だ。私は敗れた身。座して待つとしよう」


 よかった。納得してくれたみたいだ。
 

「成る程、武にも覚悟が必要か…ブツブツ」


 聞えない、俺は何も聞えないぞー。悪いが搬入日まで放置プレイするからなー。
 冥夜に放置プレイをするのはちょっと申し訳ないが、ひとまずコレで戦術機搬入まで待ってもr


ドバターン!!!!

「白銀ぇぇぇええ!!貴様冥夜様に何をするつもりだあああああああああ!!!!!!」




 救護室にもう一人の覚悟完了した緑の雷が落ちた瞬間であった。






けど俺はこの時、もっとよく考えるべきだったんだ。

 500年の経験値を踏まえて切りかかった最初の一撃が、いとも簡単に冥夜に切り伏せられたその理由について。
















MEIYA

 私は…負けた。
 油断した訳でもない、手を抜いた訳でもない。
 確かにその前の一合では私が完全に白銀を上回ったが、それでも何かを感じさせる力が武にはあった。
 だから全力、そう、私の持てる心技体全てを掛け、私に一度刀を折られながら尚立ち上がった武に敬意を表し、全てをぶつけた。

 それが止められたのだ。
 一度鞘という檻から解き放たれた私の流星は、全てを切り裂く、そう自負していた。
 今でも忘れぬ、あの「星流れ」を会得した大木の前での修行―――

「1分まで切り込める者、5分まで切り込める者、8分まで切り込める者。そして切り抜けれらる者。
 剣は己を映す鏡。
 1分までしか切り込めぬ者は心の何処かで、[1分しか切り込めぬ]と諦めが出る。
 己を信ずる事、それは膨大な研鑽の上に始めて産まれる。己を信じろ冥夜。

 挑めるのは一度きり。

 今すぐ斬れとは言わぬ、己の中に信ずる物が産まれた時、この巨木に挑むのだ」

 
 そう私に教えて下さった師匠の言葉を。
 だから私は信じていた。


「今斬ります」

「ほう…斬れるのか」

「今対した目標は今倒します。
 退けば時が経ち、時が経てば迷いが出ます。
 迷いは鈍りを呼び、一度鈍れば次はありますまい。

 故に今斬ります!今!」




 無現鬼道流 秘剣
 ――『星流れ・抜刀』



 そして会得したのが、あの流星であった。
 何者にも止められず、何者も追いつけぬ天掛ける閃光。
 だが喜ぶ私に向ける師匠の顔は…どこか浮かない物であった。
 今ならば理解できる。
 

『退けば時が経ち、時が経てば迷いが出ます。』


 私は弱かったのだ。


『迷いは鈍りを呼び、一度鈍れば次はありますまい。』


 何で今まで気付かなかったのか不思議でならないほどに。


『故に今斬ります!今!』


 あの言葉は、私の臆病の表れだったのだ。 
 歯を食い縛り今を耐え、目標に向かって長時間耐える事に…耐えられなかったのだ。
 だからそれ以上を目指すことも無かった。
 それ以上に挑むことも無かった。

 [私の流星は全てを切り裂く]

 その私の中の神話が崩れるのを恐れて。

 だから武の作った壁を乗り越えられなかった。


 しかし、今の私は過去の私とは違う。
 今の私には武、そなたが居る。
 絶対に超えられぬ壁として存在した師ではなく、産まれて初めての仲間としてのそなたがいる。
 ならば私はそなたを超えよう。
 そして次は、そなたが私を超える。
 これがきっと、師の最後に言った「友に切磋琢磨できる良き友を手に入れよ」という言葉の意味なのだろう。

 武、そなたに感謝を。
 私はそなたのお陰で、私に生涯最も必要だった物を手に入れる事ができたのだ。


 手当てが終わり、私は一つの覚悟を持って武に問い掛ける。
  

「所で武、その、先ほどの話なのだが…負けた方がひとつ言う事を聞く…という約束についてだ」

 
 約束を違える訳にはいかぬ。
 それに我が生涯の友との約束となれば、尚更だ。
 た、例えそれが如何なる願いであったとしても、私は受け入れる覚悟がある。
 如何なる…?
 だがそれが婚姻ともなれば流石に私も考えねば…しかし、武の様な友人と呼べる男は他に―――
 いや、武人に二言目は無い、私も覚悟を決めねばならぬな…

 そして、真面目な目で私を見る武の口からでた言葉は…



「ツケにしといてくれ」


 そなた…私の覚悟を何と心得る…


「言われなくてもお前がそのへんキッチリしたヤツなのは知ってる。だけどな、頼む俺にもそれなりの覚悟がいるんだ」


 なっ、武にも覚悟が要るだと!
 どういう事なのだそれは。
 いや、あえて口には出すまい。その覚悟、私はしかと受け取った。


「なっ…なるほど、承知した。それは確かに道理だ。私は敗れた身。座して待つとしよう」



 そう、慣れぬ待つ身としても、それは敗者が背負うべき積。
 私に武の何を責められようか。

 ふっ、まさかこの私が待たされる事を好ましく感じる…


ドバターン!!!!

「白銀ぇぇぇええ!!貴様冥夜様に何をするつもりだあああああああああ!!!!!!」


「ヒッ…つ…く…よみ?」

 事…な…ど…



 月詠、そなたが私の身を常に案じてくれているのは知っておる。感謝もしている。斯衛という立場も理解しているつもりだ。この国連基地で肩身の狭い思いをしている事も承知だ。
 だがな…



 何故今なのだ?


 完全に油断していた所に突然飛び込んだ月詠の、余りの殺気の鋭さに思わず武に抱きつきながら、そう呟くのが冥夜には精一杯だった。 











TSUKUYOMI

「α01よりα02」


 そう、私のこの判断は間違っていない。


 『はっ、こちらα02』

「弾種変更、捕獲用麻酔弾から対テロ制圧用ラバースブリットへ」


 間違ってはいないのだ、冥夜様に降りかかる災害は、全て排除せねばならぬ。


 『それでは場合によっては負傷させる事になりますが?』

「私は命令を下したぞ。α02」


 だから、私は間違っていない。

 視界の中では、冥夜様が『あの』白銀と剣を交えようとしていた。


 『はっ!弾種変更了解しました。麻酔弾からラバースブリットへ』



 現在横浜基地に駐屯している帝国斯衛軍第19独立警護小は本日より全て第2種警戒態勢で任務に当たっている。
 神代は屋上より望遠監視、巴は同場所にて狙撃用意、戎は私のバックアップを命じてある。
 そして私は…


『次俺に打ち勝ったら冥夜の言う事を一つなんでも聞いてやるよ、ごはんのおかず一品提出から添い寝だろうが何でもな』


「α02、撃鉄起こせ」


 矢張り私は間違って等いない。


 『α02了解』



 私は指向性マイクを持って冥夜様達の会話を拾っているのだ。


 『コレ撃ったら国際問題にならないかな~』
 『きっと月詠様には深い思慮があっての事にちがいありませんわ~』


 何か無線の中から聞えてきたような気もするが、無視する。
 私は今その様な雑事に構っている場合では無いのだ。


(それにしても白銀のあの構えは何だ…?少なくとも無限鬼流にあのような構えは…)


『来いよ冥夜、お前のその流星で俺の首を落として見せろ』

『知っていたか。いや、最早驚くまい』


「んなっ!?」


『所詮お前は流れ星』



「冥夜様の[星流れ]を…」

 馬鹿な…



『落ちる運命(さだめ)にあったのさ』


「止めただと?」


 『え?なんで?なんでだよ?』
 『きっと冥夜様があの不埒物の柄を狙ったに違いありませんわ~』


 屋上組から聞える声も共感できる。

 何故アレが止められる?

 私の見る限り、冥夜様は全力で星流れを放った筈なのに…


「それすら超えて見せるか、白銀…」

 『α02よりα01へ!対象が移動します!』

「追うぞ、α02,03はそのまま待機、04、私をバックアップしろ」

 『『『了解!』』』

 そして私は、救護室の前まで来たのだ。
 救護室と言えど、油断は出来ぬ。
 もし冥夜様がヤツと二人きりにでもなった場合最悪…
 いや、冥夜様に限ってそんな事はある訳が


『わ、私も武人のはしくれだ。約束は守る…その、なんなりと申すがよい』


 待て、いや、待って下さい。冥夜様。
 流石の私にも解ります。
 冥夜様はその様な約束交わしておりませぬ。
 何があったのです?この救護室に来るまでに。


『言われなくてもお前がそのへんキッチリしたヤツなのは知ってる。だけどな、頼む俺にもそれなりの覚悟がいるんだ』

『なっ…なるほど、承知した。それは確かに道理だ。私は敗れた身。座して待つとしよう』



 今何が聞こえた?
 イカン、私とした事が何を躊躇していたのだろう。
 すぐ突入だ。今すぐたちどころに突入しなければならない。
 何が何でも救護室を制圧せねばならない。
 最悪殺しても…問題ないか、今はもう新OSも歴史の情報もある。
 ヤツが居なくては少々やりづらいが、それでもやれない事は無い。
 白銀不要。
 ならば――――今は斯衛としての使命を果すのみ。
 (この間0.3秒)



 私はドアを壊さんばかりの勢いで蹴り開け、冥夜様に寄る害虫を駆除するため、救護室に飛び込んだ。



「白銀ぇぇぇええ!!貴様冥夜様に何をするつもりだあああああああああ!!!!!!」



 そして飛び込んだ私が見たのは、呆然とこちらを見る白銀と。 


「ヒッ…つ…く…よみ?」


 私に脅えながらも白銀に抱きつく、冥夜様の姿だった。








SHIROGANE


 オーケー落ち着こうか。
 いや、頼むから落ち着けって。
 俺にも何がなんだかわからないんだからさ。

 状況を整理しよう。

 冥夜、今俺に抱きついている。
 月詠中尉、そんな俺を射殺す様な殺気で睨んでいる。

 そして完全に凍りついた場。
 第三者の乱入もしくは援護は望めない。
 むしろ取り巻きの3馬鹿の乱入が危ない。

 以上、状況終了。

 この状況を打破するには?逃げるか?いや逃げられ無いな。
 誤解だと話すか?いや、口を開けた瞬間斬られるな。

 じゃあなんだ、簡単じゃないか。


「あ、お疲れ様です」

 よっ、と片手を上げてフランクに挨拶する俺。
 諦めればいいじゃん。俺天才。


「お疲れ様…だとぉ?」


 うはっ超プルプル震えてる。
 でもほら、どの道殴られるならさ


「貴様一体、何をしている!」


ドゴォッ

「オウフッ」


 ドシャアアーッ

 
 殴られる覚悟を先にしといた方がいいよね。いや、でもコレは想像していたより数倍痛いぞ。
 泣きそうだ、目がチカチカする。くそっデュクシティウンしそうだぜ。
 そもそも何で俺殴られてんの?!

「つ、月詠中尉!何をするのですか!」


 あと倒れた俺を介抱してくれる気なのは嬉しいが冥夜…

「冥夜様おやめくださいそのような呼び方!我等斯衛は…」


 ただ抱き締めるのは介抱とは言わないぞ。
 あとアレだ。おっぱいが顔にあたってるんだ。顔に。


「ならば月詠!これはどういう事だ、説明しろ!」


 いやーしかしここまで胸のデカイ女と付き合った事なんて無かったなぁ。
 二人目の彼女は割と大きかったんだけどやはり大きい分地球の重力に魂を引かれて…な。現実はいつも厳しいものだよ。君。
 それにしても今の切り替えの早さを見るに冥夜はますます応用力が付いてきたな。やればできるじゃないか。
 あとその説明は俺も聞きたい。


「冥夜様!その男は危険です、すぐさまお離れ下さい!」

「だから事情を説明しろと言っているだろう!謂れ無き理由で武を渡す事など出来ぬ!」


 この世界には重力に逆らう存在がある。3馬鹿の髪の毛とかな。
 だから冥夜のこの張りのあるおっぱいもそういう事なんだろう。
 しかし張りのあるとはまた絶妙な表現ではないか。今にも弾けそうな水風船と言うのか?いやここは果実と言っておこう。
 アダムとイヴに続き人類が手に入れた二つ目の林檎、それがこのおっぱいに違いない。
 いや、女性としての成長を終え、しかし少女の一面も持つ10代最後という禁断の数瞬が、彼女にこの刹那的な美しさをだな…


「それは…その男が…」

「何だと言うのだ…」


 さて、場も煮詰まって来たし現実逃避も辞めてそろそろ起きようか。


「あ、お久しぶりです。月詠中尉殿」

「武、月詠を知っているのか?」

「あぁ、俺のお母さんだからな」

「…武?」

「冗談だよ」


 しまった。めちゃくちゃ滑った。
 冥夜と月詠中尉がもう『バラも砕けます』って位冷たい目線でこっちを見てる。
 というかどうしよう。どうやってコレ片付けるの?
 助けてよママン。





 バンッ


「タケルさん!」




 うおっここで助っ人第三者の登場ー!


 …いや、助けてくれとは言ったよ?


 でもなんでよりによって




「「社?」」「霞?」



 目を真っ赤にした霞が来るんだ?








タタタタッ

「タケルさんっタケルさんっ!タケルさんタケルさんタケルさんっ!」

 放心している俺に駆け寄り、顔に両手を添えて声を掛けてくれる霞。
 天使だよ、君は。

 しかし、救護室がシュールな状態にある事に変わりは無い。


 床に倒れた俺。

 その上半身を横から抱き締める冥夜。

 正面から俺の顔を掴んで涙ながらに俺の名前を呼ぶ霞。

 凍り付く月詠。

 現状はまだ好転したとは言い辛いが霞、君はこの惨劇を回避できるのか?!


 コクリ

 俺の目を見て頷いた後、冥夜とも目線を合わせ頷き合う二人。
 通じた!今俺と霞の心が通じたぞ!って当たり前か、リーディング使えるんだから。


「め…冥夜…様?」


「「キッ」」


「うっ」



「タケルさんは…何もっ…してません…何で…何でですか?」

「月詠?この件についてはキッチリ説明して貰えるのだろうな?」



「ううっ」


 おお、凄いぞ二人とも。あの月詠中尉を完全に押してる。
 といってもこのままじゃ月詠中尉も引けないだろうし、いい加減おっぱい祭りから開放されないと俺の登山隊がテントを張りかねない。


「月詠中尉殿、申し訳ありません」

「武っ?」
「タケルさん?」

「いや、そもそも冥夜と一つの部屋に二人で居るのが問題なんだった。配慮が足りませんでした、月詠中尉殿」


 そう立ち上がって謝罪すれば、流石に月詠さんも退かざるをえまい。


「くっ…次は無いと思え!」

―――バタンッ


 そんなありきたりな…
 しかし何とか乗り切れたけど思いっきり殴られ損だな俺。
 結局何で殴られたんだ?俺がどんな人間か知ってるんだよな?あの人。



「タケルさん…タケルさんっ」

 まだ俺の正面には涙を流す霞が居る。
 そうだ、考えるより先に助けてくれたお礼をしなきゃな。

「霞…ありがとう」

 そう言って霞を抱き締めてやる。
 しかしなんで俺のピンチが解ったんだ?

「いいんです…私が…そうしたかったから…」

 ぐりぐりと胸におでこを押し付ける霞が可愛くてしょうがないんだが…あ、そうだ冥夜?


「知って…いたのか?」


 どこか探るような、地雷原にゆっくり一歩を踏み出すような口調だ。
 そりゃそうだよな、さっきの遣り取りを聞いてればそうなるよな。


「あぁ、知ってた。それでもお前は俺にとって、この基地に来て出来た最初の仲間。御剣冥夜だよ」

「そうか…重ね重ねそなたに感謝を」

「ん…気にすんなよ、仲間なんだからな」


 ふー、これでひとまず危機は去った…のか?
 しかし毎度毎度殴られる訳にも行かないしなぁ。


「しかし社よ、よく駆けつけてくれたな」

「…私もタケルさんに会いに来たので」

「「え?」」

「いえ…博士に白銀さんを…呼ぶように言われて来たんです」

 今ちょっとドキッとするような事に聞えたけど…香月博士が呼んでるのか。


「香月博士が…何の用だろ?」

「武に解らないものは流石に私も解らぬ」


 だよね。


「じゃあ冥夜、教官に副司令の所に行くから戻るのは何時になるか解らないって言っといて貰えないか?そろそろ皆も心配してるだろうから、さ」

「わかった、伝えておこう。月詠の件、すまなかった。私が代わりに謝罪を」

「気にすんなって、あの人も自分の仕事をしただけだろ?」





 さて、そして部屋には俺と霞だけになった訳だが。


「そ、そろそろ行こうか?霞」

フルフルフル

 霞が離れないのだ。
 さっきと変わらず俺にくっついたまま震えるだけで離れようとしない。
 香月博士の元に行こうとしてもただ首を振るばかりで動かない。

「霞?」

―ギュッ

 それに先程から声を掛けてもただ俺の服を強く掴むだけ。
 まるで本物の小動物であるウサギの様に、何かに脅えて震えてる感じだ。
 とにかく霞を落ち着けないと、ってまるで俺霞の調律してるみたいだな。


「霞、俺は何処にも行かないからさ、まず座ってくれ」

 
 そう言って何とか霞をひっぺがしてベッドに座らせた。
 俺は霞を安心させるため、床に跪いて霞と目線を合わせる。

 何か迷っている?正面から見て俺はようやく、霞がただ震えているだけじゃない事に気付いた。
 何か悩みでもあるのなら、出来れば力になってやりたいが…


「霞」

「………………………………はい」


 今にも消えてしまいそうなか細い声。やはり何か悩みがあるのか?
 なら俺が力になってやらないと。
 霞の対人関係は元々なんとかするつもりだった。
 純夏に対してだけじゃない、なんとか207の連中とも友達になって欲しかった。
 そうすれば例えば俺以外の誰かに相談する事も…
 もちろん霞に相談されるのが煩わしいとかそういう訳じゃない。頼ってもらえるのは嬉しいしな。
 だけど俺にしか相談しないってのは、つまり俺に依存してるだけって事だ。
 それじゃダメだと思う。一個の個人として確立するには、"自分以外"という存在が不可欠だからだ。
 それでも今は、俺が支えてやるべきなのは当然わかってるけどな。


「俺には言えない事か?」

「……違います」

「そうか」


 俺に言うべき事なら、霞は自分から言うだろう。
 それなら俺は、ただ待てばいい。
 そう、急かさず、焦らず、ただ、待てばいい。
 にしても、霞がこんな表情(かお)をするなんて…
 それは拒絶を恐れる心とその中に眠る小さい決意をうかがわせる顔。

(いや、この表情、前にどこかで――――)


「…タケルさん」

「ん?」

「…お願いがあります…聞いて…くれますか?」

「あぁ、聞くよ。俺に出来ることなら何でもする」


 こんな状態の霞を放って置ける白銀なんてどの平行世界を探しても居ないだろう。だってその確率はゼロなんだから。
 それに霞なら、そうそう無茶な事は…



「…私を……私を衛士に…してください」


「ふぇ?」



 今、何て言った?





KASUMI


(これから私は、多分平行世界のどの私も歩いた事の無い道を、歩く)


 霞は言った。
 「私を衛士にしてください」と。


(でも不思議…怖くない)


 博士からは意外とあっさり許可が下りた。
 将来的に私が、私の知っている人が死んでいく中何も出来ない事を嘆いて衛士になる可能性がある。
 そうタケルさんに博士は聞いていたから。
 最初は驚いたけど、後でXM3のバグ取り中に横の画面で流していたタケルさんの記録を見ていてそれを気付き、理解して―――

 そして涙した。


 手は動かしながら、それでも涙を流す事を止められなかった。
 私が涙を流した理由は3つ。


 タケルさんは私が望むかも解らない事を手伝おうとしてくれたこと。

 タケルさんが私を必要としてくれたこと。



 そして、そんなタケルさんを裏切ること。


 ごめんなさいタケルさん。

 霞は悪い子です。

 私の知っている多くの衛士の人たち。

 
 A-01の人たち、207の人たち、そしてこの基地の大勢の衛士の人たち。
 私の知っている人が戦争で亡くなるのは確かに悲しい事だけど、私が戦う事を選んだのは、もっと個人的な理由だから。


 ただ貴方を守りたい。

 他の何より、他の誰よりもただ貴方を守りたい。

 貴方の負担を減らしたい。

 
 少しでも長く一緒に居たい。


 ただそれだけ。
 だからOSのバグ取りも徹夜でやって、終わってすぐタケルさんの元に駆け込んだ。

 だからそれはもう私の"したい事"なんかじゃなくて、


 私の"生きる理由"そのもの。














SHIROGANE

 霞は衛士になる事を決意し、香月博士はそれを承認し、そして博士は霞の扱いを俺に一任。
 そこまではまぁいい。けど待てよ?

 俺この世界来てまだ三日目だぞ?鎧衣すら退院するのは確か明日だ。


「霞」

「…はい」

「それは何故か…聞いていいか?」


 霞が衛士になる等、よほどの決意が必要な筈。それがこの時期に衛士になるなんて…、まさか俺の知らないイレギュラーが?
 それに今までそんな素振りは…無かったな。凄乃皇・四型に乗る訓練なら別にしている筈だし…何故このタイミングで衛士に?
 それなら俺は聞かなければならない。彼女の決意の、その理由(ワケ)を。


「…護りたいからです」


 その表情(かお)から発せられたその一言を聞いて、俺は少しでも霞の決意に対し疑念を抱いた事を恥じた。


「そうか」


 護りたいから?理由なんてそれで十分過ぎるじゃないか。そんな理由で500年も戦争をしたバカが現に俺の中に居る。
 だからその一言で十分だ。なら俺は、それを助けよう。


「わかった」


 そして死なせはしない。霞も、当然俺の護りたい人リストの中に名を連ねているのだから。





 霞は恐らく凄乃皇・四型に乗る訓練をしている…が、アレは戦術機というより移動可能な要塞兵器と言うべきだろう。
 高速戦闘機動なんてまずしないしな。
 となると霞を衛士にするにはまず体力が必要だ。
 走ったりしていちいち基礎からやってたら正直間に合わないな。どの道まずは適正値をチェックしないことには…


ドサッ


「うおっと」

「…ありがとう…ございます」


「いや、あぁ…いいんだよ」


 思考の海にまた沈みかけている所で不意打ちの様に霞に抱きつかれた。
 今俺は跪いているから、視線は霞とほぼ同じ高さ。
 その状態で抱きつかれたもんだから、なんというか子供が親に抱きついてるようないつもの抱きつき方じゃなくて、女が男に抱きつくみたいになってる。
 つまり霞の腕は俺の首を回り、霞の顔は今俺の横にある。

 この状態で霞を振りほどける男がこの地上に存在するだろうか、いや居るはずが無い。
 よしよし、と背中と頭を撫でてやる。
 正面から抱き締められて初めて解ったけど、霞って体すげぇ細いのな。今にも折れちまいそうだ。
 こんな体の何処からあんな決意が…いや、魂の熱さに体のサイズなんて関係ないか。
 でも俺がこの華奢な体を守ってやんなきゃいけないんだよな。
 万が一にもコイツは死なせちゃいけない。

「…タケル…さん」

 そう呟くと、そのまま霞は安心してたのかすうすうと寝息を立て始めた。
 考えてみればこの所俺のリーディングやOSの手伝いで殆ど寝てない筈だ。


「無茶しやがって…」


 どの道霞は一度休ませないと。
 俺はひとまず救護室のベッド霞を寝かせ、PXでメシを食っているだろう207B分隊の仲間の元へ向かった。


(午後は座学…か、知識はあっても"まりも先生"を生で見るいい機会だしな)



 後で小隊の仲間に聞いたところ、その日からの座学中における神宮司軍曹は"まるで学校の授業"の如く優しくゆるやかな雰囲気を纏っていたという。







ISUMI

午後

----A-01専用シミュレータルーム----

「午後はシミュレータでのヴォールグデータ演習の予定だったが…検討会に変更する」

「えー!またミーティングですか?」


 私の言葉に真っ先に反応したのはやはりというか速瀬中尉だった。
 だが私は、どうしてもコイツ等に見せなければならんものがある。


「そうボヤくな速瀬、今日のは普段のミーティングじゃない。ある衛士の戦闘挙動の検討会だ」

「えー!そりゃ私達より強いヤツはいるでしょうけど~、見本にするまでの人が居るんですか?」


 速瀬の言葉ももっともだろう。口には出さないが他のメンバーも表情で同意しているようだ。
 確かに我々には誇りがある。
 特殊部隊として、ヴァルキリーズとしての誇りが。
 ただあの映像は、あの戦闘は、ヴァルキリーズとしての精神を体現したようなあの戦いは、皆に見せておきたい。


「速瀬、いいのか?これから見せる記録は私がこの世で最も強いと信じている衛士のログだぞ?」

「えっ?えっ?ホントですかっ?!早く見ましょう!ほらほら大尉~」

 
 …切り替えの早さも相変わらずか。
 とにかく始めない事には前に進まないので、昨日のログを副司令の持つデータ空間から呼び出す。
 ちなみに白銀達が昨日直接操作した筐体からは全てデータが削除され、副司令のサーバに移されている。


「この映像は、全ての武装を失った状態での吹雪が、BETAを相手に戦闘を続行するテストのログだ」


 あと白銀の発言はいろいろとアレな物が多かったので、パイロットの音声は全てミュートにしてある。
 私は戦闘映像記録を、ちょうど長刀が折れるシーンからスタートさせた。






HAYASE

「なっ…えっ?」

 私はそのログの再生中、感想とも言えない様な情け無い声しか出せずに居た。
 それほどまでにこの戦術機は、吹雪は常軌を逸していた。

 多数の要撃級、突撃級に囲まれた状態だというのに確実に後ろを取りBETAを屠ってゆく。
 周りが囲まれたと思えば、光線級が居るというのに半円を描き空さえ飛んだ。

「何で…レーザーが…」

 それだというのに、光線級は一度としてレーザーを照射できなかった。
 さらに攻撃に使用していた左腕が肘関節まで壊れた途端、関節の接続を緩め引き千切り、武器にしてしまう。

 これが素人のした事なら、私は、いやA-01の誰もが笑っただろう。
 その程度で機体を軽くしたつもりか?バランスってものを知らないのか?と。

 だが画面の中の吹雪は違う。

 左腕が壊れたら右腕で殴ればいい。
 だけどそれでは右腕も左腕のようにいずれ壊れてしまうだろう。

 だから

 一匹でも多くのBETAを倒す為、ただそれだけの為にこの吹雪は、まず先に左腕を武器として完全に遣い潰す方を選んだのだ。
 そしてそれは、左腕一本失った程度ではこれだけのBETAに囲まれていても問題無いという、確固たる技術に裏打ちされての行為。

 そしてその腕も無くなり、続く光線級との戦闘で推進剤も無くなった。
 でも…それでも吹雪は戦い続ける。決して諦めず。
 やがて右腕も肘や肩が壊れ応答しなくなり、それでも諦めず蹴りを放った右足も壊れ、最早完全に一歩も動けなくなった状態まで故障してやっと、画面の吹雪は突撃級に粉砕された。


「…生ある限り最善を尽くせ」


 再生が終わっても誰一人口を開ける事が出来ないでいると、伊隅大尉はポツリとそう言った。


「この衛士は、私の知る誰よりもヴァルキリーズのモットーを体現している。私よりもだ」


 ギリッ

 悔しさに拳が固まるのが解る。
 そうだ、この中の誰であってさえ武装を無くした戦術機であれほどまでのBETAを破壊する事なんて…いや、それ以前にあそこまで戦術機が壊れても戦闘を続行して戦おうなどとはしないだろう。
 もっと早い段階でS-11を起爆させている筈だ。


「コイツと同じように戦えとは言わん。そんな訓練をしろともな。武器も持たさずにBETAと戦わせるほど、私は指揮官として無能では無いつもりだ」


 そんな事は言われなくても解ってる。
 だって私達は伊隅ヴァルキリーズなんだから。
 隊員の誰もが伊隅大尉がどれだけ私達の事を考えてくれているか知っているのだから。


「だが知っておいて欲しいんだ。戦術機は、人間は、ここまで戦える事が出来るのだと。決して最後まで諦めるな。我々衛士は、たとえ武装を失ってもこれほどまでの力を残しているんだからな」



「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」


「では検討会を始める、まず接近戦闘時におけるダメージコントロールについてだが…」


 この後行われた検討会に、ヴァルキリーズの誰もが真剣に参加し、質問し、意見し、考えた。

 そう、この吹雪は私達にとってもはや信仰に近い形として、私達の心の中にに存在した。








同日夜
----白銀武自室----

「今日は冥夜に…んー、迷い所だなぁ」

 夕方から神宮司軍曹、伊隅大尉、月詠中尉、ピアティフ中尉での5人でXM3の慣熟訓練を行った。
 大きなバグが出易いモジュールやメソッドは予め香月博士に報告していたため、あとは小さいバグをちょこちょこ潰すだけだ。
 2vs2を永遠とやってみたが、キャンセルの使い方は流石斯衛と言うべきか、月詠中尉が長刀を混ぜた操縦で伸びを見せた。
 バージョンアップしたCPUの恩恵を受けた反応速度の鋭敏化と3次元機動は伊隅大尉が一歩抜きん出た。これはA-01の任務の多様性から来た応用力だろう。
 そして神宮司軍曹はコンボ。特に新任衛士の動作を如何に簡略化させてより強くさせるか、そんな事を常に考えてる所は流石だ。

 さて、慣熟訓練も終わり自室に戻った俺は、夜冥夜がやってる自主鍛錬を見に行くか迷っていた。
 確かに俺はマブラヴでは冥夜派だし、実際会ってみた冥夜はすげー美人な上に芯も通っていて、なんつーかこっちの心が洗われるような存在だったんだが…

「これ以上フラグ立ててもなぁ…」

 そうなのだ。
 別にこれ以上俺は冥夜フラグを立てる積もりは無い。
 月詠中尉の救護室凸のお陰で俺が冥夜の正体を知っている上で名前で呼んでいる事は伝えちゃったし、あとは総合演習に向けてチームワークの不和を修正してやればいい。
 俺個人としては会いたいが…冥夜がお気に入りというだけで愛してるワケじゃない。出会って三日目で愛せってほうが無理だろう。
 それに今まで立てたフラグも、これから立てるフラグも、全部ズルして立てたフラグだ。
 俺はアイツの過去や未来を知ってるし、悩みも性格も、どんな事を言えばどんな反応をするかも知ってる。
 ゲームだったらいいんだけどさ、一人の人間として俺の前に立ってる相手にそれを使って近づこうなんて流石に卑怯じゃないかな。
 小さいプライドかもしれないけど、キモオタの良くわからないポリシーだと解ってたとしても、これは譲れない。


「それとチームワークか…」

 そう、あと問題はチームワーク。
 出来れば明日の鎧衣の退院に合わせて一気にまとめてしまいたい。
 総合戦闘技術演習はいつでも前倒しできる前提で準備がしてあるしな。
 だがそのためには、また一つ嘘を付かなきゃならない。
 恐らくその嘘に気付けるのは…せいぜい冥夜くらいのものだろうし、冥夜も手伝ってくれるだろう。


「クソッ…」

 
 まただ、俺は今
 "冥夜はチーム内のいざこざを知ってて放置した負い目があるから嘘だと気付いても黙ってるはず"
 なんて考えちまった。
 いや、間違っていない。俺のしてる事は間違っていない…筈だ。
 全部アイツ等のためにやってはいる。
 それが俺の自己満足だろうと、俺はその点にかけて嘘は無い。

 ただそれでも…

 そうやって一人上から見た視線でアイツ等と平然と関わろうとする俺に、吐き気がするだけだ。
 だけど他に方法が…


コンコン――――――


 ん?こんな時間に誰が…



「白銀、起きているか?」 



 何故こんな時間にあなたが?




「えぇ、起きてますよ。まだ考え事してたんで」


 そう言ってドアを開けた先に立っていたのは。



「何か一人で抱え込んじゃったりしてないか、ちょっと心配でね、白銀」



 神宮司軍曹。いや、この口調は…


 まりも先生が、そこに居た。
 




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なんか読んでてメリハリがないっていうかグダッてる感じがすごいする。

一人で何十回も読み返してるからかなぁ?

なんかそんな感じしたら教えて下さい。

あと無駄に話数が増えてるので1日単位でそのうちまとめようかと思います。


+ ちょっとまとめてみました。

話数変更に伴いその内マブラヴ板に移動するつもりです。

変なところとかあったらご指摘いただけるとありがたい限りです。


 
読み返してて思ったけど07話の「[アッガイ]という概念」って何ぞwwwwwwwwwwwwwwww

自分で書いおいて意味不明すぐるwwwwwwwwwww




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