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No.4170の一覧
[0] Overs System -誰がための英雄-[shibamura](2009/07/25 03:07)
[1] OversSystem 01 <新たなる介入者>[shibamura](2009/06/26 01:28)
[2] OversSystem 02 <世界を救う同志募集中>[shibamura](2008/11/28 01:00)
[3] OversSystem 03 <かすみのほっぺた 商品化決定>[shibamura](2008/09/23 02:00)
[4] OversSystem 04 <鋼鉄の子宮>[shibamura](2008/09/23 02:00)
[5] OversSystem 05 <独白と誓い>[shibamura](2008/09/23 02:01)
[6] OversSystem 06 <世界を救うとは死狂いなり>[shibamura](2008/10/21 23:13)
[7] OversSystem 07 <それなんてエロゲ?>[shibamura](2008/09/23 02:02)
[8] OversSystem 08 <衛士、霞>[shibamura](2008/10/05 11:43)
[9] OversSystem 09 <失われた郷土料理>[shibamura](2008/10/05 11:43)
[10] OversSystem 10 <コンボ+先行入力=連殺>[shibamura](2009/06/26 01:30)
[11] OversSystem 11 <諦めないが英雄の条件>[shibamura](2008/11/09 02:31)
[12] OversSystem 12 <不気味な、泡>[shibamura](2008/11/09 02:33)
[13] OversSystem 13 <現実主義者>[shibamura](2008/12/10 23:07)
[14] OversSystem 14 <ガーベラの姫との再会>[shibamura](2009/01/26 23:14)
[15] OversSystem 15<彼と彼女の事情>[shibamura](2009/02/08 01:50)
[16] OversSystem 16<破壊者たちの黄昏>[shibamura](2009/06/19 17:06)
[17] OversSystem 17<暴力装置>[shibamura](2009/06/25 21:23)
[18] OversSystem 18<なまえでよんで>改[shibamura](2009/07/25 03:10)
[19] OversSystem 19<全ては生き残るために>[shibamura](2009/07/25 03:10)
[20] ネタ解説 ~10話[shibamura](2009/07/25 03:07)
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[4170] OversSystem 15<彼と彼女の事情>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/08 01:50
「白銀こそ。いえ武こそ、私の絶対運命なのですから」

 ………帰っていい?


 さしもの俺もちょっと帰りたくなったが。そうは問屋が卸してくれそうに無かった。

 それにしても気のせいか、周囲のミノフスキー粒子の濃度が高いような…
 総員デフコン1!総員デフコン1!戦闘はまだ継続している!

(左?いや、正面か!)

 スッ


「……コホン、私とした事が、熱くなり過ぎました。あら?」


 そう言ってストンと元のポジション―――では無く俺の膝の上に座ろうとした悠陽を右に逃げる事でなんとか回避する事が出来た。
 俺の右に空きがなかったらヤバかったぜ。(前話の席順参照)
 "ソファーの真ん中に悠陽が移動した"、という事実だけでこの場を何とか収めたい俺は、心の中で土下座しながら懇願しつつ悠陽に目をやった。
 しかし、悠陽は俺の方をチラリとも見ない。
 あせって口を開こうとして、しかし俺は思わず閉じてしまった。


「この日本に住む全ての人の悲願、佐渡島の奪還を成す前には、私には成さねばならぬ事があります」


 その悠陽の凛とした表情に。
 有無を謂わせぬ絶対感。
 征夷大将軍・煌武院悠陽がそこに居た。


「殿下、何を…」

「月詠、鎧衣を呼びなさい」

「は…はっ」


 俺だから今までと雰囲気違いすぎるだろうと心の中で突っ込めるが、他はそうもいかないだろう。
 他人に頼むように。ではなく、"命令"する。
 決して曲がらぬ絶対の意思が其処にはあった。
 元々芯の硬い女性ではあるが、ここまで威圧感を放った事は無いだろう。
 今なら内閣府の誰もが平伏す気がする。

「紅蓮」

「はっ」

 月詠大尉が部屋を出た所で、悠陽が再び口を開く。


「私は、解っていませんでした」

「殿下…?」

「私は常日頃から、征夷大将軍の名に恥じぬよう、そして妹に恥じぬよう…生きてきました」


 そう言って、悠陽は再度立ち上がった。
 そしてまるで宣言をするように、自分に言い聞かせるように言葉を紡いでゆく。


「誰もが望む征夷大将軍に、そう心に言い聞かせて生きてきたつもりでした」

「この紅蓮、帝国に生きる者ならば誰もがそれを理解してると確信しております」


 紅蓮大将の言葉に悠陽は首を振る。


「誰に理解されているかが問題では無いのです。紅蓮。
 重要な事は、本当に重要な事は…
 征夷大将軍に私が相応しいか等と悩む事では無く、私が征夷大将軍として何を成せるかを考える事なのですから。
 私はその考えから浅ましくも逃げていました。
 逃げ出して、投げ出して、他者の顔色を伺うだけの、ただ目の前の仕事を片付けるだけの機能という存在になっていました。
 悲劇が起きればただ悲観し、嘆き、気休めの言葉を紡ぎ出す事しかしてきませんでした。
 私は…征夷大将軍でありながら…生きることを手放していました…」

「殿下…」


 誰がそこまで望んだだろう。
 たかだか20にも満たぬ少女に。
 だが征夷大将軍という肩書きは、否応無くその責務を求める。
 少女に征夷大将軍を求めながら、征夷大将軍として足りぬ事を周囲が自覚しているという矛盾。
 その矛盾は、中身を伴わない肩書きだけという形で存在していた。

「私は…もうやめる事に致しました。
 己の力量不足に隠れる事も…
 嘘の自分に逃げ込む事も…
 戦う前から諦める事も…

 私は、今日今この瞬間から…征夷大将軍としての戦いを、始めます。

 鎧衣」

「はっ、殿下。しかし戦いとは、穏やかではありませんな」


 悠陽の言葉で気づいたが、部屋の入り口には月詠大尉が鎧衣課長を連れて戻っていた。


「先の報告にあった戦略勉強会の件、尻尾を掴みました。沙霧尚哉大尉を抑えなさい。シミュレータルームに隔離、白銀を当てます」

「はっ…ですが殿下、確かに戦略勉強会のメンバーに沙霧大尉は居ますが…何故彼なのです?」

「彼が戦略勉強会の首魁だからです。最も、彼一人では到底不可能な事。その点に付いても白銀に任せます。急ぎなさい」


 戦略勉強会それ自体はもう少し以前より存在していた。
 昨日今日結成した組織に首都を乗っ取られかける程この国はまだ甘くない。
 だがその戦略勉強会を内偵し、最も戦略勉強会に精通している筈の鎧衣でさえ、まだ組織の全貌は見えていないのだ。
 報告していない事を悠陽が知っている点も合点がいかないし、なにより横浜の魔女の前でおいそれと話していい内容ではない。
 そう鎧衣は目で訴えたが、悠陽は迷うことなくそれを一蹴した。
 そしてまた白銀、つまり俺の名が出てくる。
 まぁ俺が正体不明なのは今に始まった事ではないので、内心どうあれ彼は主の命に従う事にしたようだ。


「私だ…あぁ、沙霧大尉を第三シミュレータルームにお連れしろ。理由は何でもいい、これは勅命だ」


 耳に手を当て部下に通信を飛ばす。
 そりゃ課長なんだから、部下の5人や10人は居るだろうけど、この人の部下ってことはさぞ苦労してるんだろうな。

「これで良いですね?白銀」

「あぁ、あと贅沢を言えるならば巌谷中佐にも後で会談したいな。月詠中尉が新OSの噂を事前にそれとなく流してるから…多分演習をどっかで見てる筈だ」

「手配しましょう。沙霧の件では紅蓮と月詠、鎧衣を同席させます。いいですね?」

「勿論」


 そう答えて俺は部屋を出る。
 これから回りだす、運命の歯車に向かって。





-シミュレータルーム-

 悠陽を通じて沙霧には先に筐体に入って貰っている。
 他はの人員は全部締め出した(というより伊隅らが外で実機模擬戦をしているため最初から誰も居なかった)ので、部屋には香月博士、悠陽、紅蓮大将、月詠大尉、鎧衣課長の5人のみが待機している。


「月詠大尉、設定だけお願いしていいですか?管制とかは要らないので」


 あらゆる意味に於いて沙霧とはサシでやらねばならない。
 途中で俺が合図するまで口を挟まない事はあらかじめ全員に伝えてある。


「解った大尉。しかし本当にいいのか?先に言っていた設定で」

「えぇ」


 相変わらず演出重視の俺はまたしてもムチャクチャな設定を月詠大尉に依頼して筐体に乗り込む。
 電源は入っているが演習はスタートしていないので画面は暗いままだ。

ブゥゥゥゥウウウン

 モニターに光が点り、各パネルが意味を取り戻す。
 シミュレータが起動した証だ。

 そして網膜に投影される景色は、燃える様な夕焼けと――――

 草一本生えていない、荒野。


 その中心に沙霧機はただ一人、ポツンと配置されている。
 俺の機体はまだシミュレータ空間内に出現していないため、斜め上、バードビューから空間を見下ろす映像が投影されている。

(…そろそろか?っていうかできんのかな、あんな設定)

 月詠大尉は引き受けてくれたし、多分できるんだろうけど。
 一瞬不安になったあと勝手に納得した瞬間、上空に多数、いや数える事も出来ないほどの無数の長刀が現れ、地面に真っ逆さまに降り注ぐ。


ドドドドドドドカドドドドドカッ!


「…パーフェクトだ、ウォルター」

 思ってたよりも遥かにいい"舞台"の出来栄えに思わずどっかのノスフェラトゥの台詞を呟き、俺は空間内にマイクを繋いで朗々と語りだした。
 もちろん月詠大尉に頭を下げてエコーも効かせてもらっている。

「これは…一体…」

『体は 剣で 出来ている――』

「誰だっ!」

『血潮は鉄で 心は硝子――』

「誰かと聞いているっ」

 そう吼え、沙霧は近くの長刀を一本引き抜く。
 沙霧機は、というか俺のもだけど、完全に何も装備していない設定になっている。

『幾たびの戦場を越えて不敗―――』

「………」

『ただの一度も敗走はなく ただの一度も理解されない――――』


 演習見学中の突然の呼び出し、誰も居ないシミュレータデッキ、不可解な景色、そして声。
 沙霧の中では様々な憶測が飛び交っているだろう。
 でもまぁ、この演出で自分のクーデターがバレてるとは、まず思わないだろう。

『彼の者は常に独り 時の回廊で剣を研ぐ―――――』

ガクンッ――

 一瞬の浮遊感、俺の機体がシミュレータ内空中に出現したのだ。

ズン―――

『故に、その生涯に意味はなく―――』

 一瞬閉じた瞼を開く。
 この目の前に居る男も、できれば死なせたくない。
 可能ならば、誰一人死なせたくない。
 戦争さえなければコイツもきっと、どっかで医者だかなんだかを平和にやってた筈なんだから。

『その体は きっと剣で出来ていた――――』

「国連カラー……まさか、先の紅蓮閣下を撃墜した……」

『如何にも』

ジャキッ―――

 俺も沙霧と同様に右腕で剣を一本引き抜き相手に向け、一度回線を切り変えて管制に音声を直結する。

『悠陽、これから奴を説得する訳だが』

「はい、私の役割も解っているつもりです」

『それはそうだが…別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?』

「え?…えぇ、存分に。私達も、此処でそなたを見ています」

 そこまで聞くと俺はまた回線を空間内に戻し、先ほどの続きを始める。

『ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣、剣戟の極地――――

 恐れずして掛かって来い!沙霧尚哉ァ!』

「私を知っているのか?!貴様一体――――?」

『言葉は無粋……剣で聞け!』

 散々言葉による演出を好む俺が言う台詞でも無いのだが、アクセルをベタ踏みにして沙霧機に突撃を掛ける。
 お互い刺さっている長刀しか武装が無いため、遠距離武器の牽制は一切無視していい。

ガァンッ!

『ほぅ』
「ぬぅう…」

 叩き付け合う長刀と長刀。
 戦術機の重量をそのまま乗せ、さらにスラスターの圧力までその身に受けた刀身はいとも簡単に刃毀れし、変形――もとい曲がっていく。

ザクッ――

「!」

『はっ―――!』

 俺は左手で足元から長刀を一本掴み、下から撫で上げる様に一閃。
 沙霧は噴射剤を逆向き噴射で後退。
 しかし直前までの押し合いから速度が乗らず、一撃。

「浅いかっ」

 しかしこちらも押し合い中に体重移動をして腕の力だけで振った為、剣先が装甲をほんの僅か削った程度しかダメージを与えられない。
 それでも俺はそのまま左手が右肩付近に到達するまで剣を斜めに振り上げ―――手首だけを返して今度は逆に降り、長刀を投げつけた。
 俺を相手に真っ直ぐ後退するだけなんて、迂闊過ぎる。
 右の長刀を投げなかったのは変形した長刀が真っ直ぐに飛ぶ保障が無かったからだ。
 噴射剤を吹かし、自分が投げた長刀を追う様に沙霧機にぐんぐん接近する。

「チィ!」

 ガンッと持っている長刀で飛来した長刀を叩き落した所までは良いが、その空中で死に体となった姿勢で俺をどうする?
 同じ様に推進剤を吹かしても、後退と前進では前進の方が早い、俺は管制ユニットに狙いを定め平突きを打ち込むべく長刀を構える。

「このっ!」

『うおっ?!』

 このままではやられると判断したか、沙霧は地面に無理矢理足を着け急制動を計る。
 地面に突き刺さった長刀が時折足に当たるせいで不規則に減速し無理矢理長刀をこちらに向けた。
 確かに"振らなければ"それほど剣と言うものは威力を発揮しないものだが、随分とまた思い切った事をする。
 俺は突撃体勢から噴射剤を下方向に全開で吹かし、宙返りの要領で沙霧の上をフライパス、十分な距離を取って着地した。
 どうやら沙霧の足も、やはりダメージは殆ど無いらしい。
 流石月詠中尉の武御雷に従来機で押しただけはある…咄嗟の判断力が高いのか?

『初めまして』

「何?」

『国連軍横浜基地所属、白銀武大尉だ。帝都に乗り込んで紅蓮大将を堕とし、今お前の目の前に対峙してる男の名前だよ。沙霧大尉』

「白銀…大尉か。先程の演習にて閣下を墜とした腕前、そして今しがたの空中機動は見事。だが何故……私なのだ?」

『それは今少し…剣を重ねてから話そうか!』

 お互い会話中に示し合わせたように折れた長刀を捨て、それぞれ新しい長刀を手に取る。
 俺は長刀を1振り、沙霧は二刀。
 正直二刀はシミュレータでやってみたけど正面からのドンパチにあんまり向いていないと思うんだが…単に慣れなのか?
 戦術機自体に利き腕とか無いし、帝国軍なら長刀の使いにも慣れてるんだろうな。

「今度はこちらから…ッく!」

 沙霧が長刀を構え、機体を跳躍させようと一瞬腰を落としたタイミングに合わせ俺は自身の長刀をまたしても投げつけ、その後を無手で追う。
 そして手元では可能な限り先行入力を行い、Gに備える。

「丸腰で正面からとは!」

 中途半端に避ければ如何に無手とはいえ俺に隙を突かれる可能性がある。
 まず投げつけた長刀を弾くために一振り、その時点で俺はもう目の前に迫っているが、沙霧の腕にはまだ降っていない長刀が一本残っている。
 といっても俺も斬られる気はサラサラ無いので、長刀の斬撃範囲ギリギリで上に跳躍、今度は空中で錐揉み噴射剤を全力噴射、沙霧の真後ろに倒れこむ様に着地する。
 沙霧から見れば一瞬で消えたように見えただろう。

「このっ」

 沙霧も流石と言うべきか、噴射剤を時計回りに噴射し、横凪ぎで真後ろを掃う。
 だが殆ど地面に伏せている俺には当たらず頭上を空振り。さらに沙霧は体勢を崩す。

『ほらよ!』
「何と!」

 そして俺は手元に転がる"先程沙霧が蹴散らした"長刀を無造作に掴み、おりゃっと沙霧に投げつける。
 刃の半ばを握り適当に投げたため当たった所でダメージは無い。
 それでも沙霧はつい横方向に避ける事を選択してしまった。
 投げた長刀は中に舞うが、沙霧は完全に死に体。
 俺の方はと言えば投げながら機体を起こし、空いている手で別の長刀を引き抜いている。

 俺への牽制で片方の長刀をこちらに向けているが、それが精一杯。
 不安定な体勢で空中に居る沙霧機を追撃して地面に蹴り落とし、脚部に長刀を突き刺し離れる。


「(何故あんな錐揉み中に正確に噴射剤を操作できる?!)…貴様、化け物か?」

『よく言われるよ』


 脚部に刺さった長刀を引き抜き、沙霧はまた立ち上がる。
 俺も呼応するように新たに剣を抜いた。


 戦いはまだ――――――続く。




 次の一合こそ遅れを取るまいと両の手を構える沙霧を、俺は機体の手で制す。

「…何のつもりだ?」

『あと3秒もすれば解る』

 3…2…1、丁度俺が発言してから3秒後、沙霧の脚部に在った亀裂がフッと消え去る。
 横浜基地でも行ったダメージリセットだ。今回は10秒に設定してある。

「?!」


『この空間では全てのダメージは10秒でリセットされる。主機か管制ユニットを一撃で破壊されない限り撃墜にはならない』


 俺は長刀を構え直し、戦闘再開の意思を表明。


「そうか…ならば!」


 得心がいったのか、沙霧は両手に握った長刀の片方を捨て、一直線に踏み込んでくる。
 やっぱ正面からガチるなら一本の方が集中できるのか?まぁ剣道とかも基本一本だしな。

 その沙霧の一撃を長刀でいなし、蹴りを入れるも沙霧はそれを回避。
 攻めては守り、守っては攻める。
 俺は3次元機動を控え、前後と横移動のみの平面機動で沙霧に答える。


「(この男…やはり強い…)尋ねてもよろしいか?白銀大尉」

『……』


 おれは「どうぞ」の答えの代わりに長刀を大きく横凪ぎして沙霧と距離を取り、剣を降ろして促す。


「何故貴官程の男が…国連軍に?貴官も帝国人だろうに」

『…………俺は義に寄って戦っている。その為だ』

「義…か?国連に義を求めるのか?G弾で蹂躙された象徴の地に平然と居座る連中に…」

『国連に義を感じている訳じゃないさ。俺は俺自身の義を通す場所として横浜基地が最適だからそこで剣を取っただけ。依存している訳じゃあない』

「私を愚弄するか!」

 じりっ…と沙霧が距離を詰める。

「私にも義がある、決して曲げられぬ義が!」

『正義か?忠義か?それとも大義か?確かにそんなご大層な物を宣言できたなら、俺も帝国軍に入っただろうな』

「では貴官は何に寄って戦っていると言うのだ!」


 ドウッと双方から噴射剤の音。
 互いにフットペダルはベタ踏み。一直線に線引きされたその軌道をなぞる二機の相対速度は今までの中で最高速を記録する。
 俺は長刀を投げ捨て、限界まで踏み込んだペダルにさらに力を込める。


『それは俺に取って、正義よりも忠義よりも、大義よりも重い――――』


 沙霧の懇親の一撃を前に出した左腕で受ける。
 この速度だと一瞬で切り落とされて終わるが、一瞬もあれば俺には十分過ぎる。
 腕ごと長刀の軌道さえずらしてしまえば、後は互いにトップスピードでの超接近戦。
 そして俺には、渾身の一撃を放つために折り畳んで溜めていた右がある。

「なっ!」

 ドッゴオォォォォオン

 戦術機の全速での正面衝突に筐体は未だ嘗て無い程の振動で揺れる。
 それはまるで、俺達の戦いを筐体が恐れて震えているようだ。

-管制ユニット大破 撃墜判定-

 撃墜判定が下りたのは1機。
 俺の拳は、沙霧の管制ユニットにめり込んでいた。
 あの速度でぶつかったため、互いに機体はそこかしこ大破判定の異常だらけだが、俺の主機と管制ユニットだけはかろうじて中破に留まっている。

『俺は……恩義、借りを返す為に戦っている。俺を生かすために死んだ仲間、俺に想いを託して死んでいった仲間の為…ただその為だけに俺は存在する』

「恩だと…その様な個人的な…!」

 互いの機体のダメージがリセットされる寸前、また俺は距離を取る。
 次の瞬間には沙霧も立ち上がり、新しく剣を引き抜く。


『本当に護るべき大切な物が何なのか、お前は解っていない』


 両機は再び激突。
 俺の機体の方は素手だが、沙霧の攻撃のタイミングに合わせて跳躍、いわゆる「カンフーキック」の体勢で突っ込む。
 体を反らしている為、沙霧の長刀では俺の中枢ユニットの攻撃する事は出来ない。
 本来ならかわして後の先を取るべき沙霧だが、頭に血が上った為か俺の蹴り足を斬りつける。
 斬られた足はつま先から膝上までバッサリと斬られてしまうが、俺にはもう一本、足がある。
 畳んでいた足を全速で伸ばし、空中二段蹴りを行って沙霧の胴体に全慣性を乗せ蹴り飛ばす。
 やっている事は蹴りとパンチが変わっただけで先程と同じ。
 それにすら対応出来ないほど、沙霧は頭に血が上っている。
 この荒唐無稽な発言を繰り返す俺に対して。


「ぐぅあッ……くっ…それ程の力がありながら…貴様に…帝国人としての矜持さえあれば!」

『この国を滅ぼす男に言われる謂れは無い!』

 尻を着いて着地した沙霧に肉薄し、頭部ユニットを破損した足で蹴り吹き飛ばす。

「国を…滅ぼす…だと?貴様何を…」

『今から数週間後の話だ』

「だから何を言っていると聞いている!」

『聞きたいか?』

 俺はその場で長刀を二本手に取り、沙霧の双肩に突き刺し、大地に縫い付ける。
 常時異物が刺さっている状態では修復直後に破損判定が出るため、抜かない限り修復できないのだ。
 下から噴射剤を吹かそうがこちらもバーニアを上向き噴射して押さえつける。
 俺に戦術機2つ分の重力加速度がある分当然沙霧は抜け出す事ができない。


『今から数週間後、この国でクーデターが起きる』

「(まさか我々の情報が?この男?!)!」

『だが"何故かたまたま"米国の艦隊が東京湾近海にて演習を行っていてな、安保理を通しての圧力に首脳陣を軒並みクーデター軍に処刑された臨時政府は碌な抵抗もせず介入を受諾。これまた"何故かたまたま"乗せてきた新型の対戦術機用戦術機ラプターでクーデター軍は制圧され、米国は極東を始めとした亜細亜での発言力を取り戻すことになる』

「(米国にも…洩れている?)貴様…何を…」

『おまけに人類が確保している唯一のBETA反応炉、つまり横浜基地も米国に抑えられ、横浜基地が保有するG元素もすべて回収。そして米国主導によるG弾の大量投入による人類反抗作戦が始まる』

「G…弾…」

『そしてオリジナルハイヴ攻略前の"演習"で佐渡島は文字通り地図上から消えてただの海になる…20発のG弾でな』

「そのような事、帝国が許すものか!」

 恐らくコックピットでレバーをガチャガチャと動かしているのだろう。
 機体は抵抗をしようとするが、肩を長刀が貫いているため両腕は完全に機能を停止し、足をバタつかせる程度しかできていない。
 俺は噴射剤の燃焼速度を上げメリメリと沙霧の機体を大地に押し付ける。

『許すも何も、クーデターを米国が解決した事により唯でさえお飾りである征夷大将軍の国民からの求心力は暴落。クーデター軍は降参した部隊も含め全て米国のラプターにより全て処理。後に残るのは米国寄りの政府だけだ。…で、誰が誰を許さないんだって?』

「(それでは私は…何の為に…)馬鹿な…そんな…事が…」

 沙霧の抵抗がフッと止まる。
 米国に介入される事、それがどういう結果を招くのか考えもしていなかったのだろうか。
 俺は口調を落とし、訴えるように、哀れむようにトドメを刺した。

『国土の半分がBETAに侵略されてハイヴまで建設され、トドメにクーデターが起こって政府高官が軒並み殺される国は最早国としての機能を失っている。そう言われれば帝国を擁護してくれる国なんざ地球上に存在しない。
 そうでなくても…どの道、成功なんてしないんだよ。お前のやり方じゃ』

「(この男は…全て…知っていたのか…)」

『仮にクーデターが成功、もしくは失敗してもお前の忠誠心が民に受け入れられたとしよう。
 お前は例え自分が死んでも民の心に自分の理想が届いたと満足して死ぬんだろうな。
 だがそれはつまり、"結果が正しければ暴力による政府打倒を許容する"と全国民に認めさせる事になる。
 そんな事になってみろ、軍閥の中で次々クーデターが起こるぞ。適当な大義名分をでっち上げてな。
 前例を作るって事は、そういう事なんだよ』


「ならば…ならばどうしろと言うのだ!今義挙をせず何をしろというのだ!!」

[勝つのです]

「殿下?!」


 自身の行動が何を招くか、そして届くと信じていた信念が何を呼ぶか、自分の中にあった忠義の置き所を一瞬見失ったタイミングで、悠陽が介入する。
 これでもうこの男は、この後悠陽に言われた通りに行動してくれるだろう。
 ひとまずは俺の出番は終了だ。


「殿下…何故このような所に…いえ、失礼致しました。自分は軍帝都守備第1戦術機甲連隊――」

[よいのです、沙霧]

「はっ」

[此度の事は全て私の力量不足がその端をしての事。責任は全て私にあります]

「殿下!お言葉ながらこの国を恣にする奸臣は――――」

[それらを含め全てを背負うのが征夷大将軍という名なのです。上に立つ者に責任を求めるならば、まず最初に討たれねばならぬのは私なのですから]

「そのような…お言葉…」

[私は逃げていたのです。自らの未熟さに甘え、自ら何かを成すことも、責任を取ることもして来ませんでした]


 征夷大将軍として何をしてくれと――――沙霧は彼女に責任を求めなかった。
 征夷大将軍ならこうしてくれると――――沙霧は彼女に期待していなかった。

 ただ敬われるだけの象徴として存在し、それ故に無能が許され、そして政治から遠ざかる悠陽。
 それを政治の中心に戻すのならば、彼女は征夷大将軍相応の責任と、期待を求められるようになる。

 そんな事にも気付かないでただ悠陽に政権を押し付けようとしたクーデターの連中の思考には正直ヘドが出る。
 正直、この男が沙霧ではなく、207の誰とも知り合いでもない、どこの馬の骨かとも知れないただの大尉だったなら…
 俺はクーデター勃発まで静観を決め込み、その上で殺そうとしたかもしれない。
 尤も、俺に人を殺す勇気があるかはまた別の問題かもしれないが。

 そして沙霧も、今ようやくそれに気付いたようだった。
 崇拝とは理解より最も遠い感情――――とはよくいった物で、何もかも思考を挟まずに片付けてしまう。


[沙霧…そこまで国を……民を……この煌武院悠陽を想うのならば……私に力を貸しては頂けませんか?どうやら私一人ではまだ力量不足のようなのです]

「殿下…ははっ」

[白銀、大儀でした。しかしそなたの言葉は少々刺激が強かった様子。私と沙霧で今少し話をさせては頂けませんか?]

『了解しました。それでは沙霧大尉、失礼します。……それと今更ですが初対面での無礼、お詫びします』

「いや、いいのだ大尉。どうやら私が…間違っていたようだ」

『それは違います大尉』

「まだ何か?」


 俺は手元のスイッチを操作し、網膜投影に沙霧の顔を反映させる。
 あちら側にも俺の顔が映るようになった筈だ。
 さらに今まで掛けていた声のエコーも外す。

「大尉は"間違えた"のでは無く"間違えかけた"んです。まだ間に合いますよ」

「それは…そうか、感謝する」


 俺は言葉を返さずに無言で敬礼をして筐体から出た。

 …この後は巌谷中佐か。気さくな人らしいからアッチは話が早そうで助かるわ。
 さてそれで中佐と会うまでどうしたものかと辺りを見回すと、月詠大尉と香月博士がすぐ近くまで歩いてきていた。

「大尉、お疲れ様です。巌谷中佐にアポを取ってあります」

「流石月詠大尉。仕事が速いですね」

「……クーデターの件、沙霧大尉の反応と鎧衣課長の顔色を見るに本当の様ですが一体…いえ、失礼しました」

「まぁ話にも出ましたけどバックにはあの国が居ますから当然横浜にもネズミは居る訳でして、すいませんがこれ以上はお答えできません」

「…そうですか」


 答えになっていないと言えば何一つ答えになっていない答えを返す。
 要するに仲良くしたいけど話せませんよって事を言いたかったんだが、別に黙ってもニードなんたらってので片付けられたかもしれない。
 とにかくそれ以上の会話は無く、俺と香月博士は先程とはまた別の応接室に入室する。

「お初にお目にかかります。白銀武大尉です。先の模擬戦で――――」

「あぁ!見させて貰ったよ!あれは実に見事な戦闘だった!これはこれは香月博士、お久しぶりです。いやぁ、横浜基地の不知火は素晴らしいですな。先ほどまで演習を見て私なりに検討してみたのですが……」


 部屋に入った俺等を待っていたのは、A4の紙束にびっしり考察を書き込み熱く自分の推論を語る、ヤクザ顔のオッサンだった。


 部屋に着くなり挨拶もそこそこに巌谷中佐はまるで嵐の様に自分で推論した持論を熱く語りだした。

「状況に合わせた機体の挙動、いや反応が現行機よりも早い。これは衛士の未来予測に近い先読みでコンマ早く入力しているか、もしくは操作の反応速度そものもが向上していると考えましてな。その場合現在の管制ユニットの性能では処理が足りない。だとすると外部にサーバなりを立てクライアントサーバ処理か分散処理を考えましたが、それではタスクの管理とデータの送受信、何よりジャミングに酷く脆弱になってしまう。となると矢張り中枢演算装置そのものが根本的に違う可能性が高いと考えたのだが…どうですかな?それと白銀大尉の挙動で顕著に出ていたのが高速軌道時の機体制御だ。明らかにパイロットが操作不可能と思われる中でタイミングも確度も正確に行動を行っている。最早適正云々以前に人間の指の筋力では操作が不可能な状況下に於いてもだ。となるとコンピュータが操作処理を行っている可能性が高い。あらかじめ決められたパターンを任意に実行するか…操作を記憶させてそれを再現できる…と考えたのだが、どうだろう?」

 …凄い。どうだろうも何も殆ど合ってるのが凄い。
 流石テストパイロット上りの開発者というか、戦術機の分解考察能力が高い。

「えぇ、概ね仰る通りですわ。巌谷中佐。」

「何と!矢張りそうでしたか。…しかしよろしいので?帝国人の私に話してしまっても」

「そうですわね…」


 巌谷中佐の言葉に香月博士は少し考えるフリをして、アッサリとタネ明しを始めた。


「中佐のご推察の通り、横浜基地では戦術機の新OSを開発しています。このOSは現行の全ての戦術機に対応できる横浜基地の政治的な切り札でもありますが、概念自体は少し研究すれば誰にでも理解できる代物でもあります」

「それでは尚更…」

「構いませんわ。元々前線の衛士に支給すべく開発したのですから、解り易さは寧ろ望む所。ですが横浜以外で開発した所で、ウチのOS程の戦果は期待できないでしょう」

「それは…つまり私が同じOSを開発しても…という事かね?」


 香月博士は巌谷中佐の質問に頷いて答える。
 帝国としても紅蓮大将に土を付け、さらに今も現在進行形でその能力を如何無く発揮しているだろう神宮時軍曹らの模擬戦を見ればどうしても欲しくなるだろう。
 いや帝国でなくとも、戦術機を持つ国ならばどこも欲しがるだろうが、そうは問屋が卸さない。

「まず中枢演算装置は横浜基地オリジナルの物ですから、現行の物では処理速度不足で、OSの新概念の機能を引き出す事ができないでしょう。無理に今の技術で相応の精密で容積のある処理装置を載せたら、それこそ戦術機の機動に耐えられるとは思いません」

「むぅ、つまり処理能力不足とサイズ、それに電力等、今まで余り注目されていなかった部分のハードウェアの改修が必要となると?」

「それだけではありません。あの新OSはこちらの白銀大尉の3次元機動を高度に実装すべく開発された物。盛りこまれた機能や概念も全て彼が発案した物です。彼以外の人間が知らずにあのOSを使った所で、OSの20%も力を引き出せないでしょう。つまり彼に直接教導を受けた人間でない限り、あのOSの能力をフルに活用する事が出来ないのです」

「ハードウェアの性能限界に…専用教育が必須…しかしそれでもあのOSは、あまりに魅力的過ぎる」

「そうなります。ですのであのOSを見た方には是非コピーや劣化品を作成して頂きたい物ですわ。それだけ横浜のオリジナルの強力さが色濃くなるだけですから」

「ハッハッハッハ…これは一本取られたな、作れるものなら作って見せろとは。ウチの技術畑の人間が聞いたら狂喜してプロジェクトを立ち上げるだろうね」


 しかし、この世界全ての戦術機がXM3になるという事は、連殺を含めた他機体遠隔操作の最上位権限に居る俺の戦術機は、実質全ての軍の戦術機を指揮下に置ける事になる。
 まぁそんな危険な事は話すつもりも無いし、平和になった後で例え多国間で戦争が起こってもどうするつもりも無いが。
 そもそも俺はそれまでこの世界に居ないだろう。死ぬなり、生きるなりしていても。


「そうですわね。ですが失礼ながら巌谷中佐、今の帝国の技術廠には他にする事があると思いますわ。近々あの新OSは帝国にも差し上げますから。佐渡ヶ島ハイヴ攻略の為に」

「何と!本当ですかな?それに佐渡ヶ島というのは…まさかG弾を使わずに?」

「えぇ、本当ですとも。ですからあのOSとの相性の良さそうな不知火弐型には早く完成して欲しいと思っています」

「ぐっ」

 暗に「新OSやるから弐型よこせ」と言っているのだが、そもそもの弐型の開発がアラスカで暗礁に乗り上げかけているため、中佐は言葉に詰まる。
 今香月博士が横浜基地副司令としてではなく、一人の技術者に近い形でこれだけの話をしてくれたのに、何も返す事の出来ない自分に憤りを感じているようだ。

「これだけの話をしてもらって大変申し訳ないが、ご存知かもしれんがアレについてはまだ完成の目処が立っていないのだ…99型電磁投射砲も然り。いや、ハイヴ攻略に新OSの概念を是とすると99型電磁投射砲は無用の長物になってしまうかもしれ――――」

「それは違います」

 あまりの香月博士のオープンさに自嘲が過ぎた巌谷中佐を、俺は此処に来て初めて会話に割り込んで否定する。

「新OSの概念を開発した君に言われるのは光栄だが、今言った通り電磁投射砲に至っては制御装置にも問題を抱えていてね。恥ずかしい話、実の所完成の目処はついていないのだよ」

「そんな事はどうでもいいんです。巌谷中佐。自分が言いたいのは、99式電磁投射砲こそ帝国をBETAから守護するに必要不可欠な兵器だと言う事です」

「…何かあるようだね…聞かせてもらっていいかい?」


 完成の工期が何時などどうでもいいと切り捨ててしまったが、どうでもよくない。完成してもらわないと困る。
 俺の言葉に巌谷中佐も表情を変え、こちらに体を向ける。
 俺は「失礼します」と巌谷中佐の手元の紙を一枚貰い、その紙に斜めに二本線を描き、さらに左上に丸を書く。
 さらに二本の線の間に、二つ丸を書く。

「これが佐渡ヶ島」

 ペン先でコンコンと丸を叩き

「でこっちが本土、横浜基地、帝都です」

「ふむ」


 トン、トン、トンと更に三箇所ペンで叩く先を、中佐は目線で追う。

「此処だけの話、まぁどうせ攻略前に正式発表するんですが、佐渡ヶ島のBETAの数が当初の予定よりも大分多いようなんですよ」

「現在の予測は…3万から4万であるが…」

「はい。最低でのその3~4倍。12万から多ければ15万のBETAが居る可能性があります」

 俺は佐渡ヶ島の横に"15万"と書き込み、中佐の顔を見た。
 中佐は腕を組み、難しい顔で唸る。

「うーむ…数に対して確かに99型電磁投射砲は有効だが…その重量と取り回しがな…」

「解ってますよ。これは自分の予想ですけど…失礼ですがヴォールクデータ、結果が思わしく無いのでは?」

「其処まで見抜かれているとはな。いや、全くその通りだよ。だからこうして悩んでいる」

 開発資金も期間も既に多くがつぎ込まれてしまったため、今更後に引けないプロジェクトになってしまっているようだった。
 だがそれだけあって、99型電磁投射砲の威力には確か定評があった筈である。

「使い所が悪いと思うんです。尤もハイヴ攻略用に開発されたんでそれ以外の用途に目が行かないのもわかりますが…」

「聞いていいかな?」

「その前にハイヴ攻略を今シミュレートしてみましょう。まず海上からの砲撃により重金属雲を発生させ各地から上陸。BETAを誘引しつつ地上戦力を分散させ戦術機によりハイヴに突入。高速で反応炉に到達しS11でこれを破壊」

「理想論ではあるな」

「ですがこの理想通りに事が運んでも帝国は滅びます」

「むっ?」

 今言った佐渡ヶ島攻略は誰もが思いつく物、というか現状ではそれしか手段が無い。
 しかも全て上手く行くという理想的な前提付だ。
 俺も最初、ゲームで司令の甲21号作戦概要を聞いた時は「佐渡ヶ島フルボッコざまぁwwww」と思ったもんだった。
 俺は"佐渡ヶ島"をコンコンと叩き解説に入る。

「いいですか、地上に出るBETAを如何に誘引し、処理した所で今回倒せる数は…最低で4万から多くて8万前後でしょう。それ以上はもう火力が絶望的に足りません」

「うむ」

「ハイヴ突入部隊も高機動によりBETAとの戦闘は避けますから、実質5万以上のBETAが反応炉撃破後も佐渡ヶ島に残っている事になります。どうなると思います?」

「ふむ…む?今までに無かったアプローチだな。残存BETAか……佐渡ヶ島ハイヴの中枢が破壊されたのだから…ハイヴを直衛する必要が無くなるな…全てのBETAが地上に出現、上陸部隊が全滅。というシナリオは?」

「それもなかなか悲観的で悪くないとは思うんですが…もっと最悪のケースも存在するんですよ」

「聞きたいね、是非」

「BETAはその原動力や命令系統について、未だ人類側に明らかにしていない点が多いですがこういうのは如何でしょう。1.BETAは反応炉から命令を受けている。2.BETAは反応炉からエネルギーを補充する」

 ガタッ

「そ、それは本当かね!?」

 俺の"例え"を聞いて巌谷中佐が凄い勢いで此方に乗り出してくる。
 BETAの命令系統等誰一人解明していないのだから、当然と言えば当然だ。
 そしてそれを自分に話す事自体に異常性を感じているようだった。

「ですから"例え"です。中佐殿」

 例えを押し通し、殿を付ける事で俺は巌谷中佐に「とりあえず座ってくれ」と促す。

「失礼、取り乱した」

「いえ。そして3つめ」

「まだあるのかね?」

 巌谷中佐と目が合った瞬間俺は意識して露骨に嫌な笑顔を浮かべ、紙の上の"横浜基地"である丸い円をコツンと叩いた。


「佐渡ヶ島ハイヴから近い反応炉の中に…横浜基地があるっていうのはどうでしょう?そして佐渡ヶ島の"枝"が本土まで伸びていたとしたら?ちなみに横浜基地も帝国も佐渡ヶ島攻略に主戦力を殆ど捻出しています」

「あ…?!」

 巌谷中佐の顔色が一気に変る。血の気の引く音が此処まで聞こえてくるようだ。
 まさに真っ青という言葉を形にしたようだった。

「万単位のBETAの前に横浜基地は壊滅。反応炉でエネルギーを補給し終わったBETAが帝都に転進」

「(この男若いが…いや若さ故なのか、この発想は…それだけではない。香月博士も隣に居るという事は第4計画の成果が"表"に出始めているのか。となると先の演算ユニットの件も納得がゆく)…………」

「帝都には斯衛や帝都防衛隊がいくらか残っているでしょうが、数が違います。それでこの国の歴史は終了って事になりますね。佐渡ヶ島はヘタに爆発させると危険な爆弾でもあるんです」

「(そしてこの話を、態々私に直接持ってきた。殿下の勅命まで使って)そんな…事が………考えもしなかったよ」

 言葉は何とか返せているが、未だショックから抜け出せていないようだ。
 そりゃあそうだろう。佐渡ヶ島を落としたら帝国が滅びるなんて、それこそ帝国軍人にとって悪夢でしかない。
 俺にとっても頭の痛い話である。
 なんせ島ごと自爆したって3万近いBETAが襲ってきたのだ。
 反応炉破壊でとどめた場合、新潟に防衛線を引きつつ町田と横浜付近にも適切に部隊を配置しない限りこの国は終わる。
 昔枝を調査して片っ端から潰すって作戦もやったが、表面に近い所で爆破してもキャリアー級に掘り返されるわ、海底付近まで進むとハイヴ攻略並みに被害が出るわでボロクソだった。


「そ・こ・で、99型ですよ。実は横浜基地でBETAをおびき寄せる装置を開発中でして、佐渡ヶ島である程度99型で数を削り、さらに横浜にも配置してBETAの殲滅を図ります。防衛戦には打って付けでしょう?数さえそろえてしまえば機動火力としては人類最高ですから」

 要するに鑑の直衛部隊であるA-01に4機、横浜基地に10機ほど99型電磁投射砲を配備するのが当面の目標だった。
 俺としても佐渡ヶ島ではあまりと言うか全くギャンブルする気は無いので、なるべく手堅く戦力を整えたい。
 というか00ユニットの起動の時点で俺にとっては相当ギャンブルなのだが。


「新潟海岸線からの防衛ラインはどうするのだね?」

「枝がどの程度伸びているか未知数でして。空振りになってしまう可能性もあります。どうせBETAの侵攻線上には山と廃墟しかありませんから。ゴールで迎え撃ちますよ」

「(いや、網を多重に張り、長い距離を掛けてBETAを削るのは有効な筈だ。この男にそれが解らない訳が無い。と言う事は…佐渡ヶ島ハイヴの枝はもうかなり…)しかし、一口に枝と言ってもな…」

「まさに今現在の枝の長さ、となると正直全く解りません。ですが考えてみてください。戦術機どころかスペースシャトルの打ち上げセットですら楽々入るメインシャフト、戦術機が暴れる事が出来る程の中層。そして構造体を中心に張り巡らされている枝。これらをあの突撃級や要撃級が掘ったとは僕はどうしても思えないんですよ」

「君は…一体何を…?」

「掘る事自体は可能でもハイヴの内装も含めた建設とBETAの形状を考えるとどう考えても速度がおかしい。となると考えられませんか?地上には出てこないタイプの存在。掘削級とでも言えるような存在が」

「そんなBETAが…存在するのか?」

「個人的には確信しています。尤も、そんなデータは横浜でも観測できては居ませんがね」

 そう言って俺は乗り出していた身をソファーに沈める。
 巌谷中佐も天井を仰ぎ背もたれに寄りかかった。

「随分大きな話になってしまったな。十分私にとって実りのある話であった事は確かだが…規模が大きすぎる」

「でしょうね」


 巌谷中佐は視線を俺と香月博士へ交互に向け、再びテーブルに乗り出した。

「横浜基地の考え方は私なりに理解できたつもりだ。結論をそろそろ出すとしよう。香月博士?」


 前フリは長かったが、どうやら俺達はようやく巌谷中佐と対等に交渉できるテーブルにつけたらしい。
 どっちかっていうと無理矢理座った感が否めないが。


「えぇ、では。まずは新OSですが。佐渡ヶ島攻略開始までに可能な限りの数を帝国軍に提供する事を確約しますわ。手始めに先程第三シミュレータルームにサンプルをインストールしておきましたので、消さずに置いて行きます」

「それは…自由に見させて貰ってもいいのかね?」

「基幹のロジックのブラックボックス化とコピーガードこそしてありますが、表面的な設定や操作等は全て実際に普及した際と同じ操作が出来るようにしてありますわ」

「(上手すぎる話だな。見返りが怖いが…)それは嬉しい限りだが…要求は何かね?」

「そうですわね…まず1つ。これは必須条件になりますが99型電磁投射砲で今完成している分の資料を全て横浜基地に頂きますわ。私の方で完成させて送り返しますから。生産はそちらでお願いします。2つ、こちらは可能であればで構いませんが同じく不知火弐型のデータも完成している範囲で頂きたいですわね。その際は横浜基地と帝国での協同開発として全く弐型とは別の名前を付けて完成させます。もちろんこちらも完成した仕様書や各データは100%帝国にもお渡ししますわ。新OSの動作パターンのデータ付きで。むしろできれば名目だけでは無く横浜基地内に協同開発室を作ってそこで開発をしたいと考えています」

「(弐型はオマケ…という事は無くてもどうにかなる算段が付いているのだろうが…あれば良いに越した事は無い…か)むぅ…やはりそう来ますか」

「そして3つ」

「まだあるのかね?」

「こちらは重要度は低いのですが可能ならば明日にでも頂きたいのです。7年前にお蔵入りになった"約束された星の破壊"。アレも下さいな」


 "約束された星の破壊"?え?ナニソレ?俺知らないよ?そんな魔砲少女。
 7年前っつーとBETA横浜侵攻から1年だから…その時期にお蔵入りになった何か…ダメだ、わからん。

「何に使うかは…いや、確かにスクラップにはせず保存してあるが…あそこまで巨大な物になると些か決断に勇気が要るな…それに電磁投射砲も弐型も、各国の技術提供があってその上で成り立っているプロジェクトでもある」

「完成しないで帝国が滅びるよりはマシだとは思いますわ。それにアラスカでもプロジェクトは続ければいいではありませんか。いつ完成するかは知りませんけど」

「ふぅむ(アラスカか…実際現地では最終調整に苦労している。いっそ彼女を引き抜いてプロジェクトそのものを早々にダメには出来ないだろうか?彼女の期待や努力はご破算になってしまうが、それを横浜基地で…いやいや、この発想は危険だぞ…)」

「あとこれは要求ではないのですが、帝国側への教導のためにまず横浜に出向して新OSを教導できるようになって欲しいのです。国連軍衛士が教導しては何かと面倒でしょうから。なので帝国軍で新OS教導部隊をまず設立し、横浜に派遣して欲しいのです」

「(ウチの側の人間を教導に招き入れるとは…!先程の新OSの横浜基地の独占性が半分失われるではないか!そこまで譲渡されては…私も腹をくくるしか無いな)……わかった。条件は全て飲もう。もっとも私に出来る範囲に限らせて貰いたいが」

「それで問題ありませんわ」

 そう、彼さえ同意してくれるのならもうそれだけで十分なのだ。
 なんせ征夷大将軍の方を先に俺達は抑えてしまっているのだから。
 その後俺達は実際の開発手順、佐渡ヶ島攻略予定期間、そして99型電磁投射砲"試射日"を取り決め、解散する事となった。
 外の景色を見れば夕焼け。これまたやはり人気の無いハンガーに戻ると、そこらじゅう土と粉塵で汚れた不知火が俺を出迎えた。
 まずはと自分の機体に乗り込み、通信チャンネルをオンにする。

「お待たせしました。まりも先生、伊隅大尉。そちらの首尾は……って、その顔見れば解りますね」

 二人はここ数日見せた事の無い"スッキリ"した笑いを浮かべている。
 恐らく旧OSの武御雷、不知火、吹雪を圧倒的な戦力差でフルボッコにしたのだろう。
 しかも通信封鎖をしての戦闘だったため、黙々と敵を撃破し続ける月詠機を含めた3機は帝国軍にとって最早悪魔にしか見えなかっただろう。


「えぇ、手加減しないでいいって夕呼に言われたし。最初はローテーション組んで1対1だったんだけどね。最終的に対戦希望者殺到しちゃったから3機連携で一度に10対3で勝ち続けたら、その内挑戦する人居なくなっちゃって。結局時間余ったのよ」


 悪魔に見える所の話ではない。本当の悪魔だった。
 恐らく3人が3人とも俺に勝てない鬱憤を帝国軍にブチ撒けたのだろう。
 もうチャレンジャーの皆さんに同情してもいいレベルだ。

 あと月詠中尉の姿がモニターに現れないという事は、予定通り今日は帝都に残ったのかな。
 手順どおりなら最後の最後に搭乗者を月詠中尉だけバラしてるはずだし、彼女に質問に来た連中には"横浜で私も関わって開発した新OSだ"と答えるように頼んである。
 斯衛の人間が関わって開発したシステムで、なおかつ強力と解れば帝国軍へのリリースも幾らか楽になるだろう。
 夜は殿下や月詠大尉、紅蓮大将に場合によっては巌谷中佐からも話を聞かれるだろうけど、あの人なら上手くやってくれる筈だ。

「流石に…疲れたな…横浜まで寝ます」

「えぇ、おやすみ。白銀」


 この日、俺は顔と声を見せる相手を露骨に選んだ。
 正直どんな影響があるのか、いやもしかしたら全く無いのかもしれないが、上手く行く事を願うしかない。

 …そういや帰ったらまた歩哨だっけか。今日のパートナーは誰なんだろうな…

 俺は戦術機の電源を全て切り、暗闇と騒音、そして振動に抱かれて眠りについた。




-夜 横浜基地PX-

 帰ってきてから"メンバー"での報告会と、いよいよ明日に迫った月曜のA-01へのXM3導入の話も済ませ、俺は夕食をみんなと食べるべくPXに向かう。
 そういや斯衛の演習場なんだからアッチのメシも食ってみたかったな。結局昼抜きだったし。
 普段どんなの出るんだろう。
 あ、大尉の階級章…いいや、外しちまえ。

「ただいまー」

 俺は鯖味噌定食のトレイを置きながら食事中207のみんなに声を掛けた。

「あ、おかえりなさい」
「おかえりー」
「おかえり」

 みんなの声が染み渡るなぁ。半日しか離れてなかったのに何かひと月以上会ってなかった気がする。(いいいいいや、きき気のせいだよ?白銀君:作者)
 何々…?千鶴と壬姫と冥夜だけが食い終わってて、慧と美琴が手を付け始めた所って事は…
 食う時もローテーション組んでたんだな?よしよし。
 ってあれ?霞が居ない。
 まぁ何かやる事があるんだろう。

「どっこいせっと」

「タケルオヤジ臭い」

「酷っ、帝都まで出張してきたっつーのに」

「「「「「帝都?!」」」」」

「うおっ…あぁ、うん」

 全員の反応に俺はビクッと驚く。
 そう言えば朝行き成り月詠さんに拉致…もとい連行されたっきりだったか。
 話の内容を話せる程度に改変して俺は今日一日を語り出した。

「俺が香月博士んとこで開発してるっていう新型な。アレ一応形になったんで中間報告も含めて帝都でちょっとした開発会議があったんだよ」

「なっ、帝国軍にも配備されるのか?!」

「まーそんな所かな。有効だったらっていう話だったけど結構好感触だった。ちなみに話し合った相手は巌谷中佐っていう人なんだが…知ってる?」

「知ってるも何も…その人国連軍の軍歴教本にも載ってる人よ」

 流石千鶴、博識だな…って教科書に載ってんの?ソロモンの悪夢みたいだな。
 巌谷中佐と話し合いがあっただけでも皆相当驚いているようだが、帝国にも採用される可能性があると聞いて全員目の色が変っていた。
 あ、そうだ明日のA-01の話をしないと。

「で、せっかく完成したからな。お前らにも見せてやるよ」

「え?いいんですかタケルさん?」

「ちょっと…私達まだ任官もしてないのよ?」

「あぁ、大丈夫大丈夫」

 というか来てくれないと困るのだ。
 明日は例の白3人にも来てもらうので、冥夜の護衛役が居なくなってしまう。
 じゃあ冥夜も一緒にいればいーじゃん。という事である。
 管制室とはいえ特殊部隊のシミュレータルーム。そう易々と不審者が侵入できる作りになっている筈もない。

「というかこれはお誘いじゃなくて決定事項なんだ。明日1330にC棟地下3階のエレベーター出た所に集合な。そっから先は一部の人間しか入れないから迎えに行くよ」

「ちゃんとした手続きを踏んでるなら今更どうこう言わないわ、了解。迎えに来るって事は朝は白銀は居ないのね?」

「ん?あぁそうなる。朝起きたらすぐ別行動かな」

「しかしタケルの成果が見れるとは…楽しみだな」

「そうだねー、きっと変形合体してビームがでるスゴイのが出てくると思うんだよ僕は~」


 ゲッターかよ。と心の中でツッコミを入れながらも俺はガツガツとメシを片付け、千鶴に一言告げて席を立つ。

「…っぷぅ。すまんがその調整もあるから、またちょっと行って来るわ。そうだな…2300には戻るよ」

「「「「「いってらっしゃい」」」」」


 俺はトレイをさっさと下げ、地下に戻るが…
 霞が食事に居なかったのが気になる。
 目に付く場所に居ないとしても散歩に毎回付き合うって言った限りは無理と確定していない状態で放り出す事も出来ない。
 エレベーターに乗り階級章を付け直しながら考えるが、そこまで霞が切迫して何かをしなければならない案件も無かった気がする。




「……帝国軍にも配備って本当かしら?」

「武がその様な嘘を付くとも思えん。理由も無い故な…それにしても…もしかすると我等が想定している以上に武という存在は…」

「もしかするとじゃなくて間違いなく異常。私達の隊に配属されるくらいだし」

「ふえぇ、私と同い年なのに」

「これは演習……落とせないわね」

「そうだねー。部屋に戻ったらロープの結び方もう一回やろっか」

「あら?それいい案ね。(それにしてもここ数日の鎧衣…人が変わったみたいね)」


 俺が去った後のPXでそんな会話があったとかなかったとか。



--某地下--

「失礼します」

 プシュッ――――

 香月博士の部屋に入っても霞は居ない。
 ここに居ないとなるとシリンダールームだろうか?

「博士、霞は―――――」

「居ないわ」


 ガタガタと相変わらず忙しそうにキーを叩く香月博士が答えた。
 俺の話を遮るようにピシャリと言う香月博士に嫌な予感を覚える。


「あの、居ないっていうのは…」

「あの子は暫く別件で手が離せないから。…そうね、三日くらいかしら」

 それだけ言うとまたモニターに視線を戻し、ガタガタとキーを叩き始める。
 確実に俺に何か隠しているようだけど…博士が何を企んでも俺は非難しないって言っちゃってるしな…
 納得行かないが流す事にした。

「…了解です。じゃあシミュレータに行ってますね」

「行ってらっしゃい。あ、伊隅達は遅れて行くわ」

「はいッス」


 返事をしてシミュレータルームに向かったが、俺は後で悔やむ事になる。
 反対はしないにせよ、理由くらい何故この時もっと追及しなかったのか…と。




-A-01シミュレータルーム-

「うぃーっす、茜少尉」

「帝都に行ってきたんだって?お疲れ様、白銀……って大尉?失礼しました!白銀大尉!」

「あー、これからもインフレ起こしてどんどん上るんで今までのまんまでいいですよ。っと。一応階級上になるから俺の方は敬語控えないとな」

「そうなの?」

「そうなんです」

「…まぁ、最初からそんな感じだったしね。じゃあこれからもよろしく、白銀。あれ?今茜って呼ばなかった?」


 初っ端の出会いの流れもあってかすぐ順応して口調は砕けるが、敬礼だけはピシッとする茜少尉。
 切り替え早いなー前からだったけど。
 さて、結局今日は日中放置プレイだったんだが、何して過してたんだろう。

「あー、すまん。嫌だったら涼宮に戻すよ。それについても後でちょっと頼みがあってさ。で、今日は何してたんだ?」

「まぁ別にいいけど…出かける前に伊隅大尉から宿題貰って。いろんな状況で連殺で他の機体を動かす訓練をしてたよ。でもアレ難しいよね。自分の機体の事も考えなきゃいけないし。今ちょっといいかな?」

「そうだった。俺もあれの他機の遠隔は模索中なんだった。伊隅大尉達遅れるらしいんでミーティングしよう。で名前の呼び訳なんだけどさ」

「(まさか二人っきりの時は名前で呼んでいい?なんて言わないわよね)う…うん」

 茜少尉はちょっと困った顔、というか少し赤を赤くして答える。
 まぁ同じような年頃の男に下の名前で呼ばれれば階級付きとはいえテレも出るだろう。
 しかも最近知り合ったばかりだし。

「明日からA-01にもXM3を教えるんだけど…今と違って大人数だろ?やっぱ教える時は厳しくっていうか上から物を言う言い方にしないと締まらないんだよな」

「うん。それは解るけど…」

「かと言って俺は早く全員と打ち解けたい。ここだけの話出撃の話もあるしね。って事で俺が"茜少尉"って呼ぶ時は無理やりフランクな接し方をして欲しいのよ。茜少尉がタメ語なら他もやりやすいだろ?」

「(なんだそれなら先に言ってくれればいいのに…緊張した分損したみたいじゃない)それなら大丈夫だよ。了解っ」



 俺と茜少尉は管制室に入って今日の宿題の操作ログを再生する。


「網膜投影を一時切り替え…っていうか自機の映像を左半分にして他機のを右半分にするのが一番楽だったかな。ただ他の機体の操作をどのレベルまでにするかなんだけど…」

「あんまし手間かけると自分が死ぬしな」


 モニターの中では他機を操作している間に突撃級に突進されて大破する茜機が映っていた。
 自機の安全が確保できない様ではこのシステムも意味がなくなってしまう。
 これでは本末転倒だ。


「そうなんだよね。だから自機の安全をすぐ確保できるような戦い方?みたいのを最初からしてみたんだけど。それだと後衛でも前衛でも無くなっちゃって中途半端で…」


 再生中所々で止めてあーだこーだ思いついた事を交わす。
 そういや戦術機の扱いについてマトモに議論するのコレが始めてなんじゃないか?俺。


「指揮官機ってのはそういう感じなんだけどなー、でもただ居るだけじゃな…それならCPに遠隔操作要員一人置いたほうがリスク低いし」


 中距離の武装。例えば突撃砲のマガジンをなんとか大量に持ち込むなりして"中距離支援"って形にすれば戦闘もある程度イケルとは思うんだけどな。
 BETAとは接近戦等しない前提で足にもマガジンつけちゃうとか。

 これが人間ならガムテープでつければ済むんだが…


「そうそう。だから自分のエレメンツになるべく強力な制圧力のある機体を付けて、数秒間だけ守ってもらうようにしてみたんだけど…」

「あーそれいいな。で、これの場合…支援目標機体は一旦後方の風間少尉の近くに移動して任せちゃうわけね」

「(あれ…風間少尉の事も知ってるんだ。って当然よね)うん…戦車級の処理ならヴァルキリーズの先任なら一応誰でも出来るし。その間は支援が減るけどそこは元気な前衛が頑張るって事で。周りにBETAが居る前線で剥がすより最終的にリスクが低いと思って」

「んーそうだなぁ…今の手持ちの戦力考えるとそれが一番いいかな。それなら最初から後衛に戦車級の処理を少し練習して貰っておくってのはどうだ?短刀も一本は最低持つって事にしてさ。茜少尉側で出来る操作はもうこんな感じで十分だと思うんだよな。後は隊でフォローしよう」

「あ、それいいかも!となると柏木と風間少尉よね。あと私もやっておこうかな」


 等とそろそろ結論に到達しかけた所で管制室のドアが開いた。
 伊隅大尉、神宮司軍曹のご到着だ。

「随分やる気を出してるじゃないか。どうやら宿題はこなせたようだな?茜」

「はい!伊隅大尉。お疲れ様です」

「うむ…では白銀。早速だが明日に備えてのテストをしたい。例の物も準備出来たそうだ」

「了解」

「え…テスト?」

 突然の"テスト"の言葉に首を傾げる茜少尉だが、コレを今日中にしないと明日の教導に入れないのだ。
 頭の上にハテナマークが浮かんだ茜少尉はとりあえず置いといて、俺は伊隅大尉から木で出来た"箱"を受け取る。
 そして"涼宮少尉"を含む3人を自分の前に並ばせ、頭を切替えて背筋を伸ばして宣言した。

「伊隅大尉、涼宮少尉、神宮司軍曹に対し…これよりXM3教導過程終了テストを行う!」

「「了解!」」
「りょ…了解!」

「よし、では一人づつシミュレータに入れ。基本的に俺は手加減するから、今まで学んだ事を全部出してぶつけて来い!」

 "涼宮"と呼ぶ事で俺の頭の中の切り替えもし易かった。向こうもそうだろう。
 テストと言っても簡単な物で、順番に1対1で俺と模擬戦するだけ。
 俺は全力を出さずに相手をし、それぞれが3次元機動、OSの3概念をどこまで活用できているかをチェックするだけだ。
 一人頭30分づつ、計1時間半かけてテストを終了し、管制室にまた集合しログの検討会を始める。
 俺が片手に持つチェックリストにはテスト中気付いた事が書き殴ってある。
 生憎こっちも筐体に乗っていたので、テープで自分のフトモモに紙を貼り付けておいた。
 スキを見つけて咥えていたペンで書き殴ったので紙はぐしゃぐしゃ、文字も俺以外読めない有様だ。
 このままじゃ格好悪いのでバインダーに挟んである。

「涼宮少尉」

「はっ」

「この場面だがな、俺は既に突撃砲に持ち替えているのが障害物に隠れる前に見えていた筈だ。隠れた自分が出て行くタミングと方向を如何にランダムに選べるとは言え…障害物から安易に飛び出れば撃墜されるぞ?どうせなら出た直後に一度キャンセルをして方向を変えるべきだな。飛び出す際弾幕を張った所は評価する」

「はいっ」

「だけど大G下での機体制御、先行入力は大した物だ。俺が好き好む戦法だが…よく学んでくれた。キャンセルを織り交ぜればもっと幅が広がるだろう」

「はいっ!ありがとうございます!」

「伊隅大尉」

「はっ」

「反応速度向上を受けた素早い判断、先行入力とキャンセルを多用しているのは評価できる」

「ありがとうございます!」

「だが旧OSが長いせいかコンボの使用頻度が低いな。今回は1対1なので構わないが、指揮官である伊隅大尉が最前線で接近戦をする機会は多いとは言えないだろう。射撃でもコンボは使える。空いた時間を周囲を見回す時間に回せば指揮官としての視野も広がり余裕が出来るだろう。部下の生存率を上げたければもっと余裕を持て」

「はっ」

「神宮司軍曹」

「はっ」

「コンボを使おうと意識するのは良いが…意識し過ぎてキャンセル率が高い。最もその為のキャンセルではあるが…これは新任の初期戦力を底上げするためにコンボを練習した結果だな?構わないが訓練と実践では使い分けるように。君に死なれては…その…何だ…困る」

「はっ」


 俺は改めて三人とそれぞれ目線を合わせ、深呼吸をする。
 3人が息を呑む音が聞こえてくる様だ。
 俺はバインダーをバサッと閉じ、小脇に抱える。

「しかし3人とも3次元機動、3概念については十分に合格ラインに達していると判断した。よってここにXM3教導過程の終了を宣言する!これからも切磋琢磨し、俺を超えて見せろ!」

「「「はっ!ありがとうございます!」」」

 合格通知も終わったところで俺はバインダーを机の上に置く。
 そして先程の木箱からバッチを取り出してまず一つ自分の襟に付ける。
 うん、なかなかいい出来だ。

「ではXM3教導終了勲章を授与する。伊隅大尉」

「はっ」

 伊隅大尉から順番に名前をそれぞれ呼び、一歩前に出させて襟に付けてやる。
 バッジのデザインは銀色の∞の形に捻れたリング、メビウスの輪だ。勿論俺の好みだ。すまない。


 全員に付け終わり、俺はこのバッジの特性とXM3教導システムに付いての話を始める。
 尤も伊隅大尉と神宮司軍曹については、事前に話し合っているので知っている話だろうけど。

「バッジの裏にはナンバーが刻印されている。そのバッチを授与された者はXM3マスターとして半永久的に横浜基地のデータベースに登録され、また他の衛士にXM3を教導するに足りる技能を持つ事を証明する物だ」

 俺の言葉に茜少尉の顔が驚きに染まる。
 まさか他人の教導資格まで得るとは思っても居なかった様だ。
 もちろん明日からのA-01に対する教導を自分がするなんて想像も出来ていないだろう。
 実に楽しみだ。フハハハハハハハ。←外道

「メビウス02、神宮司軍曹」

「はっ」

「おめでとう。世界で2番目にXM3をマスターしたのは君だ。銀のリングの輝きに負けないようにせよ」

「はっ、ありがとうございます!」

 勿論メビウス01は俺だ。
 後で不知火の肩にもこのバッジと同じペイントをして貰おう。ダメって言われても絶対やってやる。
 つっても俺の戦術機ってあんの?なんか今日は朝いきなりトレーラーに不知火あったけど…まぁアレなんだろうな多分。

「メビウス03、伊隅大尉」

「はっ」

「おめでとう。これからも忙しくなるが…よろしく頼む」

「はっ、ありがとうございます!」

「メビウス05、涼宮少尉」

「はっ」

「おめでとう。すまんが4番は先約があってな。だが1桁ナンバー保持者は後にも先にもこの世に9人しか居ない。その事を胸に刻んで置け」

 月詠中尉が居ないのは残念だったが、居ないものはしょうがない。
 殆ど儀式みたいな物だし、テストなんてしなくてもあの人はもうほとんどXM3の基本概念は習得してるから明日朝イチで帰ってきた所で"卒業おめでとう"って言えばオッケーだろう。


「はっ」

「銀のリングの数に負けないようにな」

「はっ、ありがとうございま…す?え?」

 俺の言葉に違和感を覚えて胸元を確認する涼宮少尉。
 だがそんな涼宮少尉を無視して俺は"偉い人モード"を終了する。

「期間も短かったのに…よくやってくれました。明日からもよろしくおねがいします」

「うむ」「解ったわ、白銀」

「え?…あれ?私のだけデザインが違う?」

「何?…本当だ」

 実にわざとらしく伊隅大尉が驚くが、茜少尉のだけデザインが微妙に違うのだ。
 違うというか基本は同じなのだが、同じ形のリングが少しズレて2つ重なって並んで2重になっている。


「あぁ、それは基本行程をマスターしたのと、ついでに連殺機能を開放された証だ。俺のもそうだろ?」

「え?私だけでいいんですか?」

 茜少尉が驚くのも無理は無いが、そもそもこの機能の訓練を他の人は一切行っていないので授与しようがないのだ。

「他機体制御での救援技能があればいいんだよ。その点を考えると茜少尉の方が現状では俺よりスキルが高い事になる。攻性の使い方は副物的な物だから後から研究してくれ。機体とかの反動があるから出来れば事前に俺に相談するように」

「は…はぁ」

「やるじゃないか茜、これはもうヴァルキリーズの中隊長の座を貴様に譲るしか無いな」

「か、カンベンしてください伊隅大尉~」

「はっはっはっは、解っているさ。じゃあ祝賀会と行こう」

 俺達は胸に付けたバッジを誇らしげにPXに向かう。
 この2人はもう随分おばちゃんの料理を食べていないようだし、もうこの時間は207の連中はPXに居ない筈…あ

「ちょ!ストップ!ストップ!」

「どうしたの?白銀」

「いや…もしかしたらアイツら…今日の歩哨の夜食作ってるかも」

「あーそれは会っちゃまずいわね」

「夜食?」

「会っちゃまずいアイツらって…まさか榊達の事?」

「うんまぁ…そうなんだよ」

 とりあえず俺が一足先にPXに向かうと、ちょうど千鶴と壬姫が出てくる所だった。危ねぇ危ねぇ。

「あれ?白銀仕事は終わったの?」

「あぁいやすまん。まだなんだ。んでこれからここでコーヒー飲みながらちょっとシメの話し合いがあるんだが…ちょっと機密事項も有ってさ」

「丁度いいわ。こっちも終わったし。私達は近づかなければいいのね?」

「あぁ、そうして貰えると助かる。終わる時間は変らないからさ」


 流石千鶴だ。これが慧と美琴だったらさぞ苦労しただろう。


「タケルさん、頑張って下さいね~」

「あぁ、まかせろ」

 何とか違和感なく2人を含め207をPXから完全排除する事に成功し、3人を呼ぶ。
 といっても夕食は皆済ませてあるので、おばちゃんにおかずだけ数品作ってもらい皆でつつく事にした。
 それと茜少尉が話しを聞きたそうだったので、現状の207についての話も少ししてやる。

「えー!?白銀って207に所属してるの?」

「実はな。まぁ何とかチームワークもまとまる様になってきてさ。次の演習は合格すると思うぜ」

「そーなんだ。じゃあさ、さっき言ってた夜食って言うのは?」

「あーそれはな、カクカクシカジカってなワケよ」

「え?じゃあ白銀あの娘達と同じ部屋で寝てんの?」

「まぁ俺は一番端っこの寝袋だけどな。ってそんな顔すんなよ。全員揃ってんだから間違いなんて起きる筈ねーだろ」

「ホントー?」

「その辺にしてあげて下さい涼宮少尉」


 疑問と好奇で楽しそうに俺をいじめる茜少尉にまりも先生が助け舟を出してくれる。
 ありがとう…天使だ、君は。
 あれ?前にもこんなセリフ考えた様な…
 俺ってボキャブラリー少ないのかね。


「っちぇー、神宮司軍曹に感謝しなさいよね。白銀」


 いい感じで和んできたが俺はそろそろ戻って皆と合流せんとならん。
 酒も今日は出してないし明日もあるので程々にと伝え、俺はPXを出たのだった。



----白銀自室前廊下----

「お、一人って事は…今日は美琴がエレメンツか?」

「そうだよー。今日は僕がローテ決め係りなんだー」


 突っ立ってるのもアレなのでドカッとドアの前に座ってしまう事にした。
 正直俺も今日は少々お疲れモードだ。
 座った俺を見て美琴もストンとその場に座ると、足元にある袋をガサガサと開け始めた。

「ナニソレ?」

「何って…ロープだよ?タケルはヘビに見えた?」

「いやロープにしか見えないな」

「今日はタケルが居なかったでしょ?みんなでロープの使い方とかトラップの種類の講習をしてたんだよー」


 という事はつまり、居なかった俺にロープの結び方でもせめて教えようと美琴は俺と組んでくれたらしい。
 気付かなかったが原作よりしっかりしている…というかやる事はちゃんとやってるって感じだ。
 普段の会話の時は相変わらずだけど、行動に移すようになった。


「しっかり者になったモンだなぁ…お兄さんは嬉しいよ」

「ははは、嫌だなぁタケル。タケルの妹だったら同じ部隊に配属されないかも知れないじゃない」

「確かに、そいつは困るな」

「あ、そこはそっちに潜らせて…そうそう」


 ロープを二人でいじりながら、夜は更けていくのだった。







----時間巻き戻って香月博士の部屋----

 ったく、一時はどうなる事かと思ったけど。最終的には最良の未来が選べたって事でいいのかしらね。
 "約束された星の破壊"が入手出来たのは嬉しい誤算だったわ。
 私も余裕があったからアレコレ資料をひっくり返せたんだけど。
 アイツも交渉術が無いと思ったら中々どうして…

プシュッ―――

「おかえりなさい、博士」

「あら社、ただいま」


 この子も衛士になるだなんて言い出しちゃうし、ホント世の中何が起きるかわからない…



 ……ん?


「その手に持ってる資料は何かしら?私の記憶が正しければ00ユニットの昔の資料の筈だけど」

「その…博士にお願いがあって来ました」


 そう言って社は1枚のディスクを私に渡してきた。
 とりあえず開けてみない事には話が始まりそうにないのでドライヴに突っ込んでファイルを開いてみる。


「……………」

「……………」

「ねぇ社」

「はい」

「本気で言ってるの?」

「本気です」


 社が持ってきたディスクの内容には尋常ではない、とても正気の沙汰とは思えない内容が記されている。
 こんな事私が許すとでも思っているのだろうか?


「これ…私が許可だすと思ってるの?」

「思っていません」

「じゃあ何で…って社!」

 私が難色を示した瞬間、あろう事か社は懐から銃を引き抜き…クイと上げた自分の顎の下に突きつけたのだ。

「でもそれが叶わないなら…私は死にます」

「何言ってんのよ!馬鹿な真似は今すぐ止めなさい!私がそういう冗談嫌いって知らないのかしら?」

「意味が無いんです!」

「アナタ…」


 本気の目だ。
 この娘は…今私がノーといえば確実に引き金を引くだろう。
 なによりその目は、私がつい数日前まで良く見ていた目にそっくりだ。
 鏡に映った自分の…


「今じゃなきゃダメなんです!今じゃなきゃ…ダメなんですっ…」


 そう言ってボロボロと涙を流しながら社はカタカタと震え始めた。
 既に引き金に指は掛かっている…これでは何時銃口から弾丸が飛び出してしまうか解らない。


「解ったわ、話は聞くからせめて銃だけでも…」

「ダメです!」


 社を見る私と私を睨む社とで視線が絡む。
 私にやれですって?こんな事を!こんな…こんな事を!


「…彼が知ったら悲しむわよ」

「……グスッ……ヒック…構いま…せん…」

「アンタがこんな事しなくてもBETAはどうにか成るのよ?!今更彼をさらに苦しめなくてもいいでしょう?!」

「…私が…そう…したいん…です。私がやらなきゃダメなんです」

「………死ぬかもしれないわよ。もちろん成功しても」

「いいんです」


 揺さぶりを掛けても、白銀を持ち出してもダメとなると…私の言葉ではもうひっくり返せないだろう。
 クソッタレで気に食わないが、私にも責任はある。
 やるしか…ないか。


「わかったわ。やって上げる。死んでも後悔するんじゃないわよ」

「…グスッ…ありがとう…ございます」


 社はそう言って銃を下ろすと、深々と頭を下げた。
 これで私は、地獄ですら門前払いを受けるだろう。


「やるなら早いほうが良いわね…今日から準備に掛かりなさい。自分で言った以上、準備は自分でやるのよ」

「…はい…はいっ…ありがとうございます」


 小走りで部屋を出て行く社を見送り、私はモニターに視線を移す。
 何処まで私は罪を重ねれば良いのだろうか。
 私は今まで、最短で、最良の犠牲で済ますために自分で罪を重ねて来た。
 自分で被る泥なら喜んで被ろう。
 けどこれは…本来必要でないものだ。

 それとも…これが私に課せられた罰のひとつなのだろうか?


 社を探して訪ねてきた白銀を追い返し、私は再び思考の海へ沈む。


「副指令、入ります」

 伊隅とまりもが"現状の白銀の状態"の話を聞きに来た。
 白銀と行った交渉について、こっそり録音していた内容を元に評価を含めて話す。
 少し前までは重要な事だった筈なのに…心は完全に上の空。
 視線はモニターに釘付けだ。


"00ユニットの生体試験 第6器官強化及び戦術機へのデータリンク接続の手術についての計画書"


 私は、こんな世界を改めて恨んだ。

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反省文

もうね、今回キビシイ感想を下さった方もいらっしゃいましたが。
おっしゃるとおりです。なんかもうグダグダでした。

一番の原因は今まではギャグパートとシリアスパートを一応分けてたんですが、今回悠陽をはっちゃけさせちゃったせいでごちゃまぜになっちゃったんですね。
それでなんか中途半端というかなってないというか、とにかくグダっちゃいました。
ストーリーそのものもかなりガタガタというか、なんかすごい残念になっちゃったのを自覚してます。すみませんでした。
ちょっと連続更新目指して指に任せすぎて推敲もあんまりしてなかったのもダメですね。

沙霧→狭霧
斯衛→近衛

のミスなんて物語序盤じゃちゃんと書けてるのにここにきて2話まるごと間違ってるとかもうね…
すみませんでした。



このところ仕事が暇だったんで加速しましたが明日から忙しくなるのでまたちょっとペース落ちます。
すみません。


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