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No.4170の一覧
[0] Overs System -誰がための英雄-[shibamura](2009/07/25 03:07)
[1] OversSystem 01 <新たなる介入者>[shibamura](2009/06/26 01:28)
[2] OversSystem 02 <世界を救う同志募集中>[shibamura](2008/11/28 01:00)
[3] OversSystem 03 <かすみのほっぺた 商品化決定>[shibamura](2008/09/23 02:00)
[4] OversSystem 04 <鋼鉄の子宮>[shibamura](2008/09/23 02:00)
[5] OversSystem 05 <独白と誓い>[shibamura](2008/09/23 02:01)
[6] OversSystem 06 <世界を救うとは死狂いなり>[shibamura](2008/10/21 23:13)
[7] OversSystem 07 <それなんてエロゲ?>[shibamura](2008/09/23 02:02)
[8] OversSystem 08 <衛士、霞>[shibamura](2008/10/05 11:43)
[9] OversSystem 09 <失われた郷土料理>[shibamura](2008/10/05 11:43)
[10] OversSystem 10 <コンボ+先行入力=連殺>[shibamura](2009/06/26 01:30)
[11] OversSystem 11 <諦めないが英雄の条件>[shibamura](2008/11/09 02:31)
[12] OversSystem 12 <不気味な、泡>[shibamura](2008/11/09 02:33)
[13] OversSystem 13 <現実主義者>[shibamura](2008/12/10 23:07)
[14] OversSystem 14 <ガーベラの姫との再会>[shibamura](2009/01/26 23:14)
[15] OversSystem 15<彼と彼女の事情>[shibamura](2009/02/08 01:50)
[16] OversSystem 16<破壊者たちの黄昏>[shibamura](2009/06/19 17:06)
[17] OversSystem 17<暴力装置>[shibamura](2009/06/25 21:23)
[18] OversSystem 18<なまえでよんで>改[shibamura](2009/07/25 03:10)
[19] OversSystem 19<全ては生き残るために>[shibamura](2009/07/25 03:10)
[20] ネタ解説 ~10話[shibamura](2009/07/25 03:07)
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[4170] OversSystem 11 <諦めないが英雄の条件>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/09 02:31
「すみませんでしたーッ!」


 シミュレータを出て、月詠中尉を確認した瞬間、俺は奥義 DO☆GE☆ZA をお見舞いした。


「何をしている?」


 し、しまった!DO☆GE☆ZAでも足りなかったのか!
 しかし腹を切れと言われてもそんな事は出来ない。
 頭を上げず俺は弁明する事にした。


「御剣の件ですが、アレは決してプロポーズではなく、寿命をまっとうしてほしいという…」

「その事か…それはもうよい」


 は?
 何がどう良いんだ?
 意味が解らない。


「貴様の真意は解った。いや、貴様の話を聞き、出会ってから今日に至るまでのたった数日間で貴様が成し遂げた事を思えば…疑う事すら早計だった。許せ」

「そ、そうですか…よかった」


 許しが出たようなので俺はようやく顔を上げる。
 よくわからんが何にせよ助かった。

 昨日俺がまりも先生に弁解している会話を扉に耳をつけ月詠中尉が聞いていた等と俺は知らない。
 可哀相に、あの部屋の周辺カメラで映らない場所無いんだよな…


「そろそろ立て、白銀。時間だろう?」


 そうだった。
 基地の時刻はそろそろ夕食時。
 どの部隊も時間をずらしながら各PXに食事に行く時間だ。

 別にこの後月詠中尉と食事をするなんて約束は無いが、"ある人物"を迎える事になっている。


――――プシュッ

「涼宮茜少尉、出頭しました!」


 後に涼宮少尉はこう語ったという。
 一瞬普段使い慣れた部屋が地獄に見えた。赤い悪魔と、白い魔王、そして鬼が二人居た、と。








「初めまして涼宮少尉、白銀です」

「帝国斯衛軍第19独立警護小隊、月詠中尉だ」


「はっ」


 互いに敬礼を交わし、自己紹介をする。
 つっても俺にだけ階級が無いのは変な感じだ。階級どころか戸籍すら無いんだけどな。
 涼宮少尉も戸惑っているみたいだ。


「俺はまだ任官していないため、階級がありませんので白銀と呼んで下さい。敬語もいりません。特殊部隊隊員である貴女を呼び出したのは俺という事実さえ忘れてもらえずにいる限りは」

「…!わかった…白銀」


 そう言って再度敬礼をする涼宮少尉。
 頭の回転の速さも悪くない。
 俺がA-01の隊員を名指しで呼び出せる位置にいて、なおかつ階級が無く敬語を使うなという単語から、特殊な位置にいる人間と推測したんだろう。
 俺の要望に答えて呼び捨てにしつつ、敬礼をする事で"俺の方が立場が上だとは理解している"事を示してきた。
 そう来なくちゃ張り合いがない。


「涼宮少尉、貴女を呼び出したのは一つ質問がしたかったからなんです」

「質問です…、あぁいえ、質問か?」


 妙に律儀な所が可愛いな。
 そういうの、嫌いじゃないぜ。



「そう、質問です。一度しかしませんのでよく考えて答えて下さい」

「はっ」

「同期の仲間を護りたいですか?」

「…は?」


 俺の質問に困惑する涼宮少尉に、踵で床を叩くように、足音を立ててゆっくりと近づいてゆく。


「先任や部隊長というのは、確かに部下を護るのも仕事の一つですが、当然他にも仕事を抱えています。そして往々にして、新任が死の危険に陥る瞬間には、他の事で忙しいものなんですよ。だから涼宮少尉。貴女に問いましょう。貴女は自らの仲間を、元207Aの仲間を助けたいと思いますか?誰でもない、貴女の手で」


 俺は涼宮少尉を"作り変える"気で居た。
 速瀬中尉を追っているだけでは…速瀬中尉が二人になるより、本来涼宮少尉はもっと誰かを護る存在になれる。その才能がある。
 だからまずは元分隊長として、誰かを護る存在という物を実感してほしい。
 築地少尉や…他二人を守り通せる存在に。


「はっ!彼女達とは共に戦い、護り護られる存在になりたいと思っています」

「なら涼宮少尉、俺達が貴女に必要な"力"を提供しましょう」

「"力"?」

「信じられませんか?階級も無い只の男が、新任とは言え特殊部隊である自分に力を与えるなんて」

「そ、そういうわけじゃ…」


 そう言って言葉につまり、目線を月詠中尉に泳がす涼宮少尉。
 月詠中尉もこの基地じゃかなり有名な存在だ。
 そのよりにもよって斯衛の赤がこの場に居る事が、俺の言葉に妙な真実味を持たせている。
 しかし今更になってわざわざこんな芝居掛かった事をして涼宮少尉の意識が変わるか不安になってきたが…まぁもうやちゃったし気にしなくてもいいか。

「いやいや、涼宮少尉。貴女は実に運が良い。今日は特別でね…もう二人着てるんですよ」


「もう…二人?」


 素晴らしき白銀武のセリフを合図にしたかのように、シミュレータルームの扉から二人の人物が追加で現われた。

「ご健在そうで何よりです、涼宮少尉」

「さて、とりあえず貴様には最低限速瀬よりは強くなってもらわないとな」



「じ…神宮司軍曹?伊隅大尉まで!それに速瀬中尉より強くなんて…」


 まぁ、もちろんこの二人だ。
 そう、今日から土日に掛けて、この四人で涼宮少尉を徹底的に鍛える。
 新任にボコられればA-01の連中にもインパクトがあるだろうし、何より涼宮少尉の衛士としての才能はそのまま押さえつけてしまうにはあまりにもったいない。


「涼宮少尉、貴女には月曜までに強くなって貰います。今までのA-01の誰よりも。講師はここに居る四人が交代でやりますから、多分今この地球上で最も贅沢な訓練になるでしょう」

「そっ、神宮司軍曹と斯衛軍中尉までって…えっえぇ~~!!」


 俺達四人のニヤリという顔を見て、涼宮少尉は本気でビビッて居た。







AKANE

「嘘…こんな事って…」

 よくわからない内にまずは座学の前に見学から、という流れになり、私は「白銀&神宮司軍曹 VS 伊隅大尉&月詠中尉」のシミュレータ模擬線を管制室で見学していた。
 私が管制室に入った瞬間反対側の出口から出て行く副司令が見えたけど…もしかして何かの計画の一部なのかな?
 管制をしているのは私達もある程度面識のあるピアティフ中尉だった。

 そして始まる演習…正直私は、何が起こっているのか最初には解らなかった。
 確かに目の前のモニターに移る戦術機は私も使っている不知火だけど…動きが違いすぎる。
 パイロットの動きも確かに特殊…そう、空中戦闘が多い事は特殊だけど…

 トンッ―――


「あっ、すいません。ピアティフ中尉」

「いえ、大丈夫です少尉」


 私は無意識の内に画面内の戦術機の操作を自分でも手を動かして真似ていた。
 その手がピアティフ中尉にぶつかってようやく気付いたけど…あの動きは少なくとも私の不知火じゃできない。
 どうやっても入力不可能な動きがあるのだ。
 それに一つ一つの動きが…速すぎる?私の想像の操作から実行までが格段に早い。
 これはパイロットの技量が違う可能性もあるけど…4機全てが妙に速いので反応速度自体が上がったと考える方が――――


「伊隅機大破、演習を終了します」

「えっ?」

 私が少し考えている間に、伊隅大尉と月詠中尉の機体は堕とされたいた。
 そんな…まだ始まって10分も経ってないのに…!
 だけど私のそんな驚きは、次のやりとりを聞いた時の衝撃に比べれば、あまりに些細なものだった。


「くっ、いつになったら貴様を落とせるんだ。神宮司教官、今度エレメンツのメンバーチェンジしませんか?教官なら!」

「私でも無理よ伊隅大尉…」

「そんな事言われても…でも生存時間の記録は新記録じゃないですか」

「それフォローになってないわよ…白銀」

「しかし貴様の機体への距離も随分縮んだ、もう数日あれば長刀の射程内に貴様を捕らえてやる」

「あぁ、そういうレベルになったらまた近づけない戦法に切り替えますから」

「くっ、減らず口を…!」


 アレだけの挙動をしていて、白銀と名乗る男は一度も落とされた事が無いらしい。
 伊隅大尉達の動きが今までのレベルと格段に違うのも、おそらくあの男が要因なんだろう。
 神宮司軍曹も伊隅大尉も尊敬してるけど…いくらなんでもアレは無い。レヴェルが違いすぎる。


「で?涼宮少尉、どうでした?見てて思った事をどんな細かい事でも良いので聞きたいんですが」

「えっと…見た目は不知火ですが、中身は完全に別の機体だと思いました」

「ほう…」「へぇ」「成る程」

「どうして別だと思ったんですか?」

「まず駆動系統の性能が違いすぎます。私が思いつく限り最速の入力をしても、あんなに早くは動きません。それに機体の駆動性能だけじゃ納得できない動きもあったので…多分完全な新型に不知火の外装を付けた別の機体だと思いました」

「ふーむ…」

「あの…何かまずかったですか?」

「いや…確かに正解じゃないんだけど…良い所突いてますね、やっぱ速瀬中尉の後追っかけてるだけじゃもったいないですよ伊隅大尉」

「なっ!」

「…そうだな。やれやれ、私も部下を見る目がまだまだ足りないようだ」


 私が速瀬中尉を目指している事はA-01では周知の事実だけど、それでも私の中では神聖な目標だ。
 "速瀬だけを見ていて自分の才能を潰している"と伊隅大尉に言われた事も一度や二度じゃない。
 それを今さっき会ったばかりの得体の知れない男に言われ、流石にカチンと来たけど…伊隅大尉に肯定されてしまった。


「い、伊隅大尉」

「私は上官として部下である貴様を見誤っていた。謝罪すら必要な程な。貴様は速瀬と一見似ているが、全く別のタイプの衛士だったようだ。もっと早めに気付いて日頃から強く言うべきだった…」

「そんな…」


 私が?私はそこまで持ち上げられる程大それた衛士じゃない。
 速瀬中尉には未だに全然勝てないし、射撃もガンスイーパーとしてはまだまだだし、近接もストームバンガード程じゃない。


「貴様と速瀬、どちらが優れているという話では無い。全く伸び方が違うんだ。白銀に感謝しないとな」

「またまたご冗談を。大尉のお陰ですよ」


 私と速瀬中尉が違う?
 違うっていうのはどういう事だろう。どちらが優れているとかじゃないって事は…少なくとも負けてないのかな?
 それにしても白銀…この男、やけに大尉達と親しげだけど前から交流があったのか?
 私は全然知らなかったけど…それに階級的に見て神宮司軍曹が一緒に訓練しているのも異常だし、斯衛の赤が居るのはもっと異常だ。


「じゃあ涼宮少尉、種明かしのブリーフィングと行きましょうか」

 ブリーフィングで私は知った。
 人類が作り出した切り札、XM3を。

 自分で動かして思い知った。
 この新概念の圧倒的なまでの力を。

 新概念を知る事で気付いた。
 白銀や、伊隅大尉達の挙動の特異性を。


 そしてまだ先の話ではあるが伊隅大尉以外ではA-01内で最も早く手に入れる事になる。

 あの光り輝く、銀の輪を。




23:30
SHIROGANE

「よっ」

「お疲れ」

「お疲れ様、タケル」


 あのブリーフィングの後、まずは向上した反応速度に慣れてもらうため、三次元機動の概念だけ話してひたすら市街地演習を繰り返した。
 そしてある程度慣れたら、今度は"涼宮少尉はあんまり狙わない"というルールの下でチーム戦を行い、涼宮少尉には俺達の機動を見ながらその場で再現をして練習をしたりなど、肌で感じる練習をしてもらった。
 最後に三次元機動の具体的な話やコンボやキャンセルの話を行い。今日は解散とした。
 明日からの土日で完全に仕上げる事になってはいるが…まぁまだ戸惑ってる感じが強くて上手く吸収しきれていない感じだ。
 その辺は今夜伊隅大尉がフォローしてくれるそうなので任せる事にした。

 そんなワケで寝る為に俺の部屋に帰ってきたんだが…
 当然昨日話したように俺の部屋には207Bの全員が集まっていて、よって当然俺の部屋の前には部隊の歩哨が立ってる。
 今回は慧と美琴だ。


 ―――――ガチャッ

「ただいまー」

 自分の部屋でただいまってのも変な表現だな。
 そんな俺を皆が迎えてくれる。

「武、おかえり」
「お帰り白銀」
「おかえりなさい~」
「……お疲れ様です」

「あ、霞。ちゃんと夕飯押さえてきたか?」

「…はい、少なめにしました。…散歩もしました」


 抜いたんかい!
 その状態で散歩か。いくら小っちゃいとは言え成長期の霞には辛いところだろう。
 俺は早速、今作ってきたばかりの夜食を霞に渡す。まだあったかいぜ。

「あったかいウチの方が上手いから今食っちまえ」


 そう言って俺が渡した包みを開けた瞬間、部屋の中に充満する芳醇な香り。

「…おにぎり」

「正確には焼きおにぎりだぞ、霞。この箸で食え」


 そう。俺が作ったのは焼おにぎりだ。ちなみに結構デカイ。
 当然具は鯖味噌であるのだが、もちろん俺の発想はそれに留まらない。
 京塚のおばちゃんの手元には、幾つか天然の素材があるのだ。
 今回は「霞が衛士になった記念」という事でほんの少し、本当にほんの少しだけ分けて貰えた。
 京塚のおばちゃんも昨日から霞が食べる量が少し増えた事に気付いていたらしい。

 ちなみに俺が貰ったのは、"醤油"と京塚のおばちゃん特製の"味噌"だ。
 醤油は当然おにぎりに塗るんだが、俺は三角に作ったおにぎりの片面にだけ醤油を塗った。
 分けてもらったのが少量だった事もあるが、反対側に味噌を塗るためでもある。
 じっくりと焼いた醤油面に、風味が飛ばないギリギリまで焼いた味噌の面。
 特に味噌の面に居たっては、表面は焼けた味噌が香ばしい香りを放ち、内側はご飯の熱と水分で味噌独特の風味を維持するという一口で二度おいしい設定になっているだ。
 しいて言えば醤油も味噌も焼くと合成ではアッサリ地金をさらす為、天然でないと同じ作り方では食えたもんじゃないブツが出来てしまうのが欠点だ。
 ちなみに天然調味料と引き換えに俺はおばちゃんにヤキソバパンを進呈している。


「……食べた事の無い…味がします」

「あぁ、焼いた味噌は初めてか。うめーだろ?」

「はい…とてもおいしいです」

「ちなみに貴重な材料を無理言って分けてもらってるのでお前等の分は無い」

「「「「「えー!」」」」」


 えーってお前…ガキじゃあるまいにって表の歩哨の二人コラァ!何でお前らまで居るんだっつーの。



「ちなみに焼おにぎり茶漬けってのもあってな、それはまた今度」

「…!お願いします」

 ピコピコピコーンと耳を逆立てて霞にしては随分元気な返事。
 こんなに目をキラキラと輝かせた霞がかつて居ただろうか…あれ?…いるよな、多分。

 霞と500年付き合いがあって一番霞が嬉しかった瞬間=[鯖味噌焼おにぎり茶漬けの存在を知った時]

 えぇー?!それちょっとマズイんじゃないでしょーか。


「あー、ゴホン。おにぎりの件はいずれ追求するとしてだな」

「冥夜?」

「今日の歩哨の組み合わせなのだが…」

「いや、それは分隊長に聞けよ…なぁ?千鶴」


 固定にしないでローテにしようって話はしたけど毎日の組み合わせなんて俺にとってはどーでもいい事だし、それは千鶴が決める事だ。

 千鶴と慧の組み合わせは初期は外していずれ組む(無理矢理接近させて反発させたくなかったから)、小柄な壬姫と美琴を最初か最後に持って行って睡眠時間を固まりで取らせてやる、等のちょっとした裏ルールは作ったが、それだけだ。


「今日は貴方に決めて貰おうと思って」

「………何故にwhy?」

「何その二重表現…あぁ、貴方だけじゃないわ。順番で皆に考えて貰おうと思って。だから分隊長命令でローテーションを考えて、白銀」

「ふーむ…なるほどね、わかった」


 その人間が作った組み合わせで作ったヤツの部隊内の人間関係が伺えるのか…でもあんまそーゆーのって分隊長レベルの身内でやらねーほうが良いと思うんだよな。
 もっとハッキリ上官とかだったら別にいいんだけど。
 となるとアレか。貧乏くじを引くのは…俺だよなぁ。先に俺が引かなきゃ後々問題起きるだろうしなぁ…


「じゃあメンバー発表」

「早っ」

「悩むほどのもんでもないだろ。1班、俺と冥夜。2班、千鶴と慧。3班、美琴と壬姫。以上」

慧「な」
千鶴「ちょっ」
壬姫「えっ?」
美琴「はーい」
冥夜「それは…」

「じゃあお前等遅いからもう寝ろ、って事で冥夜、そと行くぞー」


 全員が固まった一瞬の隙を突いて冥夜の手を取ってさっさと部屋を出る。
 ま、当たり先の俺が居なきゃ寝るしかないだろう。


「た、武」

「んー?」

「その…いくら任せられた人間の自由と言っても…もう少し考えるべきだったのではないのか?」

「考えたよバッチリ」

「考えて…あの結果なのか?」

「お前さぁ…千鶴のやりかたがドンだけ危険か解ってないだろ」

「危険?」

「これで慧が決める順番が最後になった上にさ、慧と千鶴が最初と最後になるように組んだ組み合わせとか慧が言い出したら気まずくなるだろ?」

「あ…」

「まぁだからアレだ…憎まれ役ってこったよ」

「そ、そうか。そこまでは考えが至らなかった。流石だな、武」

「よせよ」


 しかし千鶴と慧を一緒の組み合わせにした後の事は考えて無かった。
 まぁちょっと険悪になっても俺のせいになるから大丈夫だろ。


「それはそうとして…手をそろそろ離してはくれぬか?」


 あ、さっさと部屋を出ようとして冥夜の手を掴んだままだった。


「あぁ、スマン。イヤだったか」


 しぶしぶ離しながら余計な事を言うな俺のエロゲ脳。


「いや!嫌だとは少しも…」

 ガチャッ

「うおっ」


 ここでそれなんてエロゲ空間に乱入者が一人ー!さぁニューチャレンジャーは誰だ?


「「千鶴?」」

「な、何よ」

「いや…どうした?」


 千鶴が出てくるとは意外だった。
 まさか俺が決めたローテに対する抗議じゃないだろうな。
 そんな事したらブチ壊しだろJK…


「貴方達がすぐ出てっちゃったから渡せなかったじゃない。はいこれ。じゃ、歩哨よろしくね」

 バタン


 そう言って千鶴は二つの小さい包みを俺達に手渡した。

「…何コレ?」

「開けてみればいいのではないか?」

「ん、そだな………って何だ、杞憂だったのか」


 俺はさっそく千鶴から貰った包みを開けてみた。
 見るなとは言われて無いしな。

「フッ……どうやらそのようだ」


 冥夜も包みの中身を見てそう答える。

 その中身は…千鶴が用意した、あの"やきそばぱん"だった。






「あ、そういや俺冥夜と誕生日同じなんだよ」

「そ、そうなのか?」

「うん、12月の16だろ?」

「うむ、しかしそなたとはまた変わった縁(えにし)が…」

「おいおい絶対運命とか言い出すなよ?12月16日生まれなんて結構沢山いるんだから」


 悠陽とかな。とちょっと言いそうになったけど確実に拙い事になると思って自重した。流石俺。
 あとどこから赤と白が監視してるかわからないしな。


「絶対…運命…そうか、そうであったか」

「は?」

「い、いや何でもない」

「そっか」


「………」

「………」


 それにしてもやっぱ、基地居住区廊下の歩哨って暇だよな…




MEIYA

「………」

「………」


 無言が重い。
 どちらかと言えば騒がしさよりも静けさを好むこの私が、基地宿舎の廊下の静けさに胸を痛める日が来るとは思いもしなかった。

「…た、武」

「ん?」

「あっ…その、えーと…」


 しまった、私とした事が、用事も無いのに名を呼ぶ等と…
 きっとこれが珠瀬だったりしたら、「えへへ」と笑い合って済むのだろう。
 今だけは…今だけはそなたの無条件の愛くるしさが羨ましい。


「何か聞きづらい事でもあんのか?」

「そ、そうなのだ!実は聞くか聞くまいか迷っていた事があるのだ」

「聞くだけならタダだよ、まぁ答えられるかはまた別だけどさ」

「う、うむ」


 何とか方向もずらせた事もある、私はせっかくなので一つ質問をぶつけてみることにした。


「武は…何故衛士になったのだ?」

「え?…えぇ?あ、えーっとだな…」



「…機密であったか?ではせめて私の理由を…」

「いや、話せるよ。話せるけどちょっと待ってくれ…」


 そう言うと武は、何故今この場でそんな表情をするのか解らないが、酷く困ったような顔をした。


「そうだな…衛士になったのに理由は…無い、かな。気付いたら衛士だった」

「そっ、それは…そうか、それが…衛士」


 今しがた"この国を護る"等と口にする所だった私は急に恥ずかしくなってしまった。
 武が迷いながら、考え出た結論、それは―――

 "口にする理由などない"


 なんと強く、芯の通った言葉であろうか。
 それに比べ、家族や国を持ち出さねば衛士になる理由すら語れぬ私は…なんと矮小なのだろう。

「ただ……」

「ただ?」

「今はやる事がある、俺はそれで十分じゃないかなと思ってるよ」

「新型の開発の事か?」

「いや、アレはあくまで手段。目的は別」

「では…その目的とは…聞いてもよいか?」

「あぁ…何て言えばいいかな」


 そして暫く武は考え込み、やがてポツリポツリと呟くように、彼の目的とその理由を告げた。

「俺には目指してる男が居た。でももうそいつは居なくて…だから、俺は…その男を目指しながら、そいつがやれなかった事を代わりにやってる」

「その誰かが成し遂げられなかった事を成し遂げる事が…武の目的なのか?」

「大体そうなるかな。俺流にちょっといじってあるけどな」

「その目指している男とは…どんな男だったのだ?」


 武が目差す程の男なのだから、もしかしたら名前だけでも知っているエースかもしれぬ。
 だがその男は"もう居ない"と武は言った。
 やれなかった事を代わりにやっていると。
 おそらくその男というのはもう…


「んー名前は言えないんだけどな、どんな男かなら胸を張って言えるぜ」

「聞かせて貰っても構わぬか?」


 あぁ、と頷くと、武は空中を、廊下の壁を突き抜けて遥か先、何処か遠くを見つめながら語りだした。



「俺が、まだ弱かった頃。
 まだ弱くて、死んだヤツのためにただ悲しいと涙する以外に知らなかった頃だな。
 世界を、歴史を変えようとした英雄がいた。
 そいつが、俺が目指している男だ」


「世界を…変える?」


「あぁ。そんでそいつは最初は何処にでも居るただの男だったんだが、ある日戦術機に乗った。
 恋人が殺されたとか、家族が殺されたとか、理由は色々言われたけど、真実は違うと思う。
 ただ、人類の敵が、BETAが気に入らなかったんだ。
 別に正義感が強かったわけではない。
 だが、どうしてもアイツは我慢できなかった。

 ただ、仲間が、友人が死ぬのが我慢できなかった。
 そして戦術機に乗った。何度も負けたが、その度に立ち上がった。そして学んだ。
 自分がなぜ、負けたか。

 そして、負けない為にはどうするかを考えた。
 人に教わるのではなく、自分で考えた。
 アイツには信念があった。自分が、最後だってな」


「最後?」


「自分の後ろには、他に仲間を守る存在は何もないと。つまりはそういう事らしい。
 実際そうだったかどうかはわからない。
 だけど、アイツは信じた。
 血を流し、戦うその中で。
 叫びながら、操縦桿を握ってただひたすらそう信じた。
 言った言葉はただ、仲間のために。
 そして、人類を無礼るな、と吼え続けた。
 俺はアイツを見て、英雄がなんであるかを学んだ。
 本物の、本物の英雄の本質ってヤツを」


「英雄の…本質」


 つまりそれは、"英雄とは何であるか"の答えであろうか?
 英雄という扱いも、時代によって変わる。
 ただの人殺しか、それとも偉大な革命家か。
 その英雄を武は、今の時代に於ける英雄の一つの本質を掴んだと言うのだろうか?


「英雄は…血筋からも、魔法からも、科学からも生まれない。
 英雄は、違う。
 英雄は、ただの人間から生まれるんだ。
 英雄は、ただの人間が、自分自身の力と意志で、血を吐きながら人を守る為に人でない何かに生まれ変わったもの…
 そして、俺はみんなにそうなって欲しい」


「我々…に?」


 前半は、私にとってどうしようも無い程に"現実"だった。
 衛士になったら国が、民が、世界が救える訳では無い。
 私一人が衛士になって救われる世界なら、誰かの手によって当に救われているだろう。
 問題は、いつか自分が負けた時、また立ち上がれるか。

 そんな事、一度も考えたことなど無かった。
 自分が負けるという事すら考えなかった。

 そして英雄は、貴族や皇族、五摂家など血筋に因らず生まれる。
 つまりは誰もが英雄になる可能性を持っていること。

 魔法からも生まれない。
 ただ夢を見ているだけでは、待っているだけでは英雄は生まれない。

 そして科学からも生まれない。
 英雄とはあくまで人、優れた兵器があろうとも、英雄とはそれを使う人間か、それを作った人間だ。

 そして、ただの人間が、何度負けようと戦い続ける事で生まれる。

「諦めない事…」

「そうだ」

「何故…我らなのだ?」

「生き残って欲しいから…かな。本当の理由は、冥夜にはいつか話すよ」

「そうか…ならばその時を待つとしよう」


 そして私に"目標"を与えてくれた事に対する感謝を。

 恥ずべき事だが、思えば衛士になるご大層な理由はあるのに、"衛士になってどうしたいか""どんな衛士になりたいか"等の具体的な事を全く考えて居なかった。
 守ると言えば守れるのならば誰も苦労はしない。

 私は諦めない衛士になろう。
 例え傷付き、力尽きようとも。
 最後の瞬間まで諦めず戦い続けよう。

 一度や二度の敗北が何だと言うのだ。
 私は死ぬまで生きて、そして戦おう。



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