<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.4039の一覧
[0] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:51)
[1] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~プロローグ2[山崎ヨシマサ](2010/11/10 03:38)
[2] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その1[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:11)
[3] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その2[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:17)
[4] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その3[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:23)
[5] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:53)
[6] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:55)
[7] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:59)
[8] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:04)
[9] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その1[山崎ヨシマサ](2010/07/19 22:58)
[10] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:06)
[11] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:07)
[12] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その4[山崎ヨシマサ](2010/09/11 22:06)
[13] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:09)
[14] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:11)
[15] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その7[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:12)
[16] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その8[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:17)
[17] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:19)
[18] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:20)
[19] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その2[山崎ヨシマサ](2010/07/19 23:00)
[20] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:24)
[21] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:27)
[22] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:29)
[23] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その6[山崎ヨシマサ](2010/07/19 23:01)
[24] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その7[山崎ヨシマサ](2009/09/23 13:19)
[25] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その8[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:33)
[26] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:36)
[27] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:38)
[28] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:40)
[29] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:42)
[30] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:42)
[31] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その5[山崎ヨシマサ](2011/04/17 11:29)
[32] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:45)
[33] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その7[山崎ヨシマサ](2010/07/16 22:14)
[34] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その8[山崎ヨシマサ](2010/07/26 17:38)
[35] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その4[山崎ヨシマサ](2010/08/13 11:43)
[36] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その1[山崎ヨシマサ](2010/10/24 02:33)
[37] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その2[山崎ヨシマサ](2010/11/10 03:37)
[38] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その3[山崎ヨシマサ](2011/01/22 22:44)
[39] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その4[山崎ヨシマサ](2011/02/26 03:01)
[40] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その5[山崎ヨシマサ](2011/04/17 11:28)
[41] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その6[山崎ヨシマサ](2011/05/24 00:31)
[42] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その5[山崎ヨシマサ](2011/07/09 21:06)
[43] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第六章その1(最新話)[山崎ヨシマサ](2011/07/09 21:50)
[44] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~プロローグ[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:47)
[45] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第一章[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:49)
[46] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第二章[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:51)
[47] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第三章[山崎ヨシマサ](2010/06/29 20:22)
[48] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第四章[山崎ヨシマサ](2010/07/19 22:52)
[49] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第五章[山崎ヨシマサ](2010/08/13 05:14)
[50] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第六章[山崎ヨシマサ](2010/09/11 01:12)
[51] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~エピローグ[山崎ヨシマサ](2010/12/06 08:17)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4039] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その4
Name: 山崎ヨシマサ◆0dd49e47 ID:1e9121cd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/11 22:06
Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~

第二章その4

【2004年12月22日7時45分、横浜基地、ブリーフィングルーム】

「あ、タケルさん!」

 伊隅ヴァルキリーズがいつも使っている小さなブリーフィングルームに武が入ってきたとき、最初に声をかけてきたのは、珠瀬壬姫少尉だった。猫の耳のようになったピンクの髪を揺らしながら両手を広げ、満面の笑顔で武の名前を呼ぶ。

 すでに20歳を超えているはずなのだが、武の胸までしかない小さな体躯と、その体躯に似合った童顔は、出会った頃からほとんど変わっていない。全身のボディラインが完全に浮き彫りになる「99式衛士強化装備」姿だが、正直直視してもドキマキすることはない。無論、三年以上接してきて、武がそれに慣れてきたというのも一因であろうが、やはり彼女の体つきが大人の体からほど遠いというのが主な理由だろう。

 武が所属していた207B訓練分隊からこの伊隅ヴァルキリーズに配属されたのは、彼女と武の二人だけだ。

 そう言う意味では、武にとってこの世界でもっとも長く深いつきあいの人間だといえる。

「よう、たま。早いな」

 武はよってくる壬姫にそう声をかけ、片手をあげる。

 それに答えたのは壬姫ではなく、後方に立っていた青髪をポニーテールにしている女だった。

「珠瀬が早いんじゃなくて、あんたが遅いのよ、白銀。後来ていないのは伊隅大尉だけよ。新入りが最後から二番目だなんて、良い度胸じゃない」

「すみません、速瀬中尉」

 からかいの色を含んだ叱責に、本気ではないことはすぐに分かったが、一応武は神妙に謝っておく。見渡してみると確かに、ブリーフィングルームには、伊隅ヴァルキリーズ全12名中、10人の顔があった。

 速瀬水月中尉。それが、彼女の名前である。武が所属する部隊『伊隅ヴァルキリーズ』の突撃前衛長(ストーム・バンガード・ワン)。戦場で部隊の先陣を切るそのポジションにつくものは、部隊最強衛士を意味する。

 実際彼女の技量は、凄腕揃いの伊隅ヴァルキリーズの中でも頭一つ抜き出ている。部隊長の伊隅みちる大尉は、総合力では彼女より上なのかも知れないが、中隊指揮者という立場上、技量をあまり表に出すことがない。

 少なくとも、武の目には速瀬中尉こそが、この伊隅ヴァルキリーズで一番の凄腕に見える。

「よし、白銀は罰として、今日の訓練終了後、シミュレータ訓練」

 水月はそう言って、ネズミを前にした猫のような笑顔を浮かべた。

「またですかぁ、速瀬中尉」

 武は情けない声を上げる。速瀬水月は何かあるとすぐに武に勝負を挑んでくるのだ。おかげで白銀の数少ない自由時間は、半分が夕呼の雑用、残り半分が水月の相手で消えていた。

「なに情けない声出してるのよ、『天才コンビ』の片割れが」

 情けない声を上げる武を叱責するように、水月はそう言う。

 そんな水月に言葉に声を上げたのは白銀ではなく、『天才コンビ』のもう一人、珠瀬壬姫だった。

「タ、タケルさんはともかく、私は天才なんかじゃないですよぅ」

 大慌てで、小さな両手をばたばた振り、分不相応な称号を否定する。しかし、それはいつものことであり、水月が全く取り合わないのもいつものことであった。

「天才よ、保証してあげる。私も宗像も、実戦経験ゼロのド新人にやられるほど耄碌してないわよ」

 そう言って水月は最後に「その新人がよっぽどの天才じゃない限りね」と付け加える。水月が武と事あるごとに手合わせしようとするのも、これが理由である。



 今から約一年前。武と壬姫が、伊隅ヴァルキリーズに配属されたとき、伊隅ヴァルキリーズの面々は二年ぶりの補充新人を大いに歓迎し、「シミュレータ対戦で新人の腕を見てやろう」と言うことになったのである。

 代表として立ったのは、副長である速瀬中尉とC小隊の小隊長である宗像中尉。流石に中隊長である伊隅大尉は遠慮したが、十分大人げない人選である。だが、的確な人選ともいえる。これが、訓練兵入隊時には壬姫と同期だった涼宮茜少尉や、柏木晴子少尉などが相手であれば、武や壬姫も、どこか「負けられない」という思いもわく。だが、中隊のナンバー2とナンバー3が相手では、「胸を借りる」という気分で挑むことが出来る。

 だが、結果は誰にとっても予想外なことに、新任少尉組の勝利に終わったのだった。

 戦闘はまず最初に、「負けて元々」と考えた武の無謀な突撃から始まった。

 武独特のバルジャーノン仕込みの三次元機動。その全く見覚えのない異質な機動に水月が意識を奪われている僅かな隙に、「いくらなんでもそこから無理だろう」という後方から壬姫が、一撃で水月機のコックピットを撃ち抜いたのである。

 これには流石に、日頃冷静さに定評のある宗像美冴中尉も動揺した。どれほど熟練の衛士でも、1対2でなおかつ動揺していていては、勝てはずもなく、程なくして美冴も武達の餌食となったのである。

 無論、これは全て水月達が武の変則三次元機動と、壬姫の常識外の狙撃能力を知らなかったから起きた現象であり、別段武と壬姫の技量が、総合的に伊隅ヴァルキリーズの先任に勝るというわけではない。

 事実、その後の手合わせでは壬姫はほとんど全敗に近い有様だし、武でも勝率は三割を切っている。

 とはいってもやはり、初対決で新人がチームのエース、突撃前衛長を落としたという事実は重い。

 水月はその後今日まで、この有望な新人を鍛えるためという理由が9割、黒星をつけてくれた生意気な新人に雪辱するという理由が1割の心境で、事あるごとに武を引っ張り回してきたのであった。



「いや、本当勘弁して下さいよ~」
 武は我ながら情けない声を出しているなあ、と自覚しながらもそう言わずにはいられない。せっかくコツコツと積み上げていった自信も、水月に正面からぶちのめされるとまた、一から積み直しになるのだ。武には水月が賽の河原に出没する鬼に見える。

 そうやって武が水月に絡まれていると武の背後に一人の人影が近づいてきた。助けが来たのかと一瞬ほっとした武であったが、目の端に写ったその人物を確認して、すぐにその顔が引きつる。

 髪はまっすぐ赤茶色のショートカット、どこか中性的な美貌、スタイルの良いスレンダーな体つき。

 それは、伊隅ヴァルキリーズC小隊隊長、宗像美冴であった。一見すればクールで凛としたイメージのある彼女だが、人をからかって遊ぶ性質と、話を混ぜっ返す才能に関しては中隊随一と定評のある人物だ。

 案の定、美冴はしれっとした顔のまま、

「まあ、白銀、大変だろうが相手をしてやってくれ。速瀬中尉は欲求不満でな、お前くらいのテクニシャンじゃないと満足できないんだそうだ」

 と、激しく人聞きの悪いことを言うのだった。

「む~な~か~た~!」

 案の定、水月は顔を真っ赤にして顔中で怒りを表現する。しかし、その怒りを向けられている美冴は、わざとらしく武の後ろに隠れると、小首をかしげながら答える。

「え? ですが、中尉は言っていたじゃないですか。「どうせヤるなら、白銀くらいじゃないと満足できない。ほかの奴らじゃ長持ちしてくれないから、かえって欲求不満がたまる」、と」

 美冴の言葉は全面的に事実であった。無論全て、戦術機シミュレーションの話であるが。水月の顔が、怒りプラス羞恥心でいっそう赤くなる。

「あ……あんた、分かっててわざと、そういう言い方してるでしょ!? 白銀も、なに想像して顔赤らめているのよ!」

「ち、違いますよ早瀬中尉、これは!」

 怒りの矛先を向けられて、武は慌てて顔の前で手を振り否定する。

 確かに武の頬は赤らんでいるが、水月の言うような邪なことを想像したわけではない。ただ単に、武の背中に隠れている美冴の吐息が耳の裏を生暖かく擽っているのだ。

 もしこれも意図してやっているのだとしたら、いっそ感心する巧みなイタズラである。

 収拾がつかなくなりそうな状況を見かねたのか、二つの人影が武の方へとやってきた。

「水月、そうやって反応するから、宗像中尉に面白がられるのよ」

「美冴さん、そのくらいにしておかないと。そろそろ時間ですわ」

 水月の後ろに茶色の長髪のおとなしめな女が、美冴の横にはストレートの緑髪を腰のあたりまで伸ばしたお嬢様風の女が、それぞれ水月、美冴の両者をたしなめる。

 前者が、伊隅ヴァルキリーズCP将校の涼宮遙中尉、後者がC小隊の制圧支援を勤める風間梼子少尉である。

 二人の登場に、武はあからさまにほっとした表情を浮かべた。遙と梼子は、癖のある人間が多い伊隅ヴァルキリーズにおいて、数少ない穏やかな常識人だ。

 梼子の言葉に、武が壁に掛けられている四角いアナログ時計に目をやると、時計の針は7時55分を指していた。

 朝のブリーフィング開始は8時を予定している。そろそろ伊隅大尉が来る頃だ。武がそう思い入り口に目をやったそのとき、まるで示し合わせたかのように、入り口のドアが押し開かれ、一人の女性士官が入ってきた。

 癖のある茶色の髪を、首筋にかかるかどうかのショートにまとめているその女性士官は、そのまま軍のPRビデオに使えるのではないかと思うくらいに理想的に背筋を伸ばし、カツカツとこちらに近づいてくる。

 一方、室内で寛いでいた伊隅ヴァルキリーズの面々は、あっという間に整列して、その女性士官を待っていた。

「全体、敬礼!」

 副長である水月の声を合図に、整列した一同はそろった綺麗な敬礼をする。

 部下達の敬礼を受け、その女性士官――伊隅大尉は、生真面目な表情のまま返礼した。

 伊隅みちる大尉。その名が示すとおりこの戦術機甲中隊『伊隅ヴァルキリーズ』の中隊長である。というよりも元々『伊隅ヴァルキリーズ』という名称が、伊隅大尉に率いられた12人の戦乙女、という意味なのだ。

 現在は、武がいるため、全員が女という当初の伝統は破られているが、それでも名称に変更はない。

「よし、楽にしろ」

 みちるがそう言うと、張り詰めていた空気は若干のゆるみを見せた。元々、香月夕呼直属であるこの部隊は、夕呼の影響で軍隊としては異例なほど形式張った部分が取り除かれている。もっとも、それはあくまで「軍隊としては」というレベルであり、αナンバーズのような「敬礼も階級もあってないようなもの」というのとは一緒にはならない。

 みちるは部下達を一通り見渡した後、ゆっくりと口を開く。

「本日の予定は、午前シミュレータによるフォーメーション訓練、午後それを踏まえてのミーティングとなっていた」

 過去形で語るみちるの言葉に、「なにかあった」と確信しながらも、まずは誰も口を挟まない。

「が、それらの予定は全てなしだ。本日7時27分、佐渡島の残存BETAの本土上陸が確認された」

「「「!!」」」

 淡々としたみちるの言葉に、武達は一斉に反応する。しかし、それは半ば「ついに来たか」という思いに彩られた緊張感であった。

 横浜基地にいる人間ならば、誰もが内心では確信していたことだ。反応炉を破壊されたハイヴのBETAは、数日後最寄りのハイヴへと向かうという過去の実例は、一般兵士までが共有する情報となっている。
その上、ここ横浜の地下にはまだ「生きた反応炉」が眠っていると言うのは、座学で習うレベルの情報。

 そして、極めつけがここ数日の訓練内容の変更だ。それまで、ほぼ毎日どこかしらの部隊が行っていた、演習場での実機演習が、佐渡島ハイヴ攻略以後は、全く行われていないのである。

 そのくせ、全く使われていないはずの戦術機を、各格納庫の整備員達は、尻に火がついたような勢いで整備、チェック、消耗品の数量確認をしているとなれば、気がつかない方がおかしい。

 みちるは部下達の反応を見て、満足げに頷くと、

「その様子では皆、予想していたようだな。そうだ、BETAの最終目的地はここ、横浜基地だ。佐渡島ハイヴの反応炉が破壊されたとき、地中へと逃れたBETA達は、そのまま地中深くを進行し、本土へとまっすぐ向かっている。よって、海上の第一次防衛ライン、沿岸の第二次防衛ラインは共に全く機能していない」

 どのみち帝国軍は先の『竹の花作戦』のダメージが深刻であり、九州・中国地方を前線とする西方防衛軍と、帝都東京を護る帝都守備隊以外は、ほとんど張り子の虎と化している。

 もし、BETAが新潟沖から地上上陸を果たしていたとしても、期待するほどの戦果は望めなかっただろう。そもそも砲撃を加えようにも、帝国の砲弾備蓄量の七割弱が『竹の花作戦』につぎ込まれているのだ。

 奇跡的な『竹の花作戦』の成功と、αナンバーズの存在に驚いた各国が、掌を返したように補給物資の「援助」を申し出ているが、最も早いものでも到着は3日後である。今日の役には立たない。せめてもの慰めは、補給のめどが立っているので、心置きなく今ある物資を使い切ることが出来る、ということぐらいか。

「帝国軍は知っての通り、先の佐渡島奪還戦の傷が深い。よって、支援はない。一応帝国海軍が、湾上から砲撃支援を約束してくれているが、それだけだ。この基地は、現在この基地にいる者だけで守る。そう言うことだ、分かったな」

「「「はい!」」」

 武達は反射的に返事を返すが、やはり皆その顔には、深く緊張の色が刻まれていた。

 縮小に縮小を重ねた、現在の横浜基地の総兵力は決して多くない。戦術機は僅か一個連隊(108機)。そこに、伊隅ヴァルキリーズの11機を加えても、119機にしかならない。

 無論、敵殲滅の主役は支援部隊の砲撃だし、基地内部では強化外骨格を纏った機械化歩兵一個連隊が守っている。そのさらに奥には、小銃その他で武装した守備兵もいる。

 しかし、やはり最前線でBETAの圧力を受け止めるのは戦術機なのだ。砲撃支援は前線を戦術機が固めてくれていることが前提の兵器であり、機械化歩兵や通常歩兵は、小型種を相手にするのがやっとなのである。

 基地の外壁や、防御施設をうまく利用したとしても、BETA一万匹も相手取れれば十分奇跡と呼べる。

 だが、みちるは無情にも襲い来るBETAの予想総数を告げる。

「予想ではBETAの出現予測地点は旧前橋市付近。地中の振動音から観測隊が割り出した、BETAの予想総数は最低で3万」

「「「!?」」」

 告げられた絶望的な数に、さしもの伊隅ヴァルキリーズの猛者達も絶句する。BETAの残存総数は聞いていたのだが、ある程度は朝鮮半島の甲20号ハイヴに向かうのではないか、というのが大方の見方だったのだ。よもや、全BETAが横浜基地へと向かってくるとは。

 ものすごい単純計算をすれば、各戦術機が1人当たり約250体倒さなければならない計算だ。いくら何でも、衛士の士気と奮闘でどうにか出来るレベルを超えている。

「BETAの地上出現予想時間は、今から3時間後、横浜基地への到達時間は最短でそこからさらに1時間後と見られる。そろそろ基地全体に防衛基準体勢2が発令されるはずだ」

 当然だろう。幸い最短でも4時間の猶予が残されているが、戦闘準備にはどれだけ時間があっても多すぎると言うことはない。

「今から、防衛作戦の概要を説明する。全員、強化装備の網膜投射ディスプレイをオンにして、情報の共有をかけろ」

 元々、今日の午前中はシミュレータによる戦術機訓練の予定だったのだ。全員、戦術機用の強化装備を身につけている。

 武達は一斉に、網膜投射ディスプレイのスイッチを入れた。次の瞬間、皆の視界に大きく拡大された関東圏の地図が浮かび上がる。

「BETAの地上出現予想地点である旧前橋市。ここは『αナンバーズ』が受け持ってくれることになった。空中戦艦アークエンジェルとその搭載機動兵器、約20機が、まずBETAの群れを迎え撃つ」

「そうか。αナンバーズ!」

「動いてくれるんですか!?」

 ずっと悲壮な決意に彩られていた室内の空気に、初めて明るい色が差し込む。みちるの「この基地にいる者だけで守る」という言葉からつい、横浜基地所属の国連軍しか頭になかったが、今この基地にはあの『αナンバーズ』が停泊しているのだ。

 二隻の空中浮遊戦艦と、20機強の戦術機だけで佐渡島ハイヴを攻略した、謎の精鋭部隊。流石に詳しい情報は彼女たちまで届いていないが、噂の半分が真実だとしても、十分に心強い援軍だ。

「そうだ。第一次防衛ラインはこのαナンバーズの部隊が受け持つ。主なターゲットは、レーザー級、重レーザー級。そして、要塞級と、可能な限り、突撃級も相手取ってくれると言っている。

 だが、その分、要撃級と三種類の小型種は、ほぼ素通しになる。しかも、旧前橋市から横浜基地まで奴らの進路を阻む者は存在しない。帝都防衛軍の予備隊が、近くを通るときは砲撃支援をしてくれることになっているが、まず間違いなく焼け石に水だろう」

 元々、帝国の砲弾備蓄が底をついているのだ。砲弾さえ十分にあれば、いかにBETAが大軍とはいっても、問題はなかった。旧前橋市から横浜市まで直線距離にしても130㎞はある。進行ルートに潤沢な砲弾の雨を降らせれば、横浜基地に到着させることなく、殲滅することも不可能ではなかっただろう。

 まあそこまで理想的な展開は、準備時間から言って不可能だったとしても、横浜基地守備隊の負担を十分の一以下にはしてくれたはずだ、砲弾さえあれば。

 実際にはそんなものは無いため、横浜基地守備隊はαナンバーズが通したBETAを丸ごと受け持つしかない。

「基地の外には、戦術機甲連隊の内、第一、第二の二個大隊が防衛ラインを構築する。我々の任務は基地内部の防衛だ」

 みちるがそう言うと、皆の網膜に映っていた関東圏の地図が一瞬で、横浜基地内部の地図と入れ替わった。


「基地内部の主立った入り口は三つ、Aゲート、Bゲート、そしてメインゲートだ。そのうち我々は、メインゲートの防衛を受け持つ。完全死守が原則だが、最悪の場合小型種のみはゲートを通しても良い。一応内部では、一個連隊の機械化歩兵が守りについているからな。その代わり、それ以外はなにがあっても、討ち取るんだ。小型種以外を一匹でも通した時点で、任務は失敗と思え!」

「「「了解!」」」

 みちるが言うほど簡単な任務ではないことぐらい、皆分かっている。しかし、それでも彼女たちの闘志は揺らいでいない。

「なお、メインゲート防衛に、αナンバーズからも二機増援を送って下さるそうだ。機体名は、エヴァンゲリオン初号機とアルブレード・カスタム。機体データを回しておくので、後で各自確認しておけ。念のため、言っておくがデータの数値はバグでもはったりでもないぞ。私が、何度も確認したのだからな」

 そういって、みちるは今日初めて口元に小さな笑みを浮かべる。だが、その笑みの意味を漠然とでも理解できたのは、αナンバーズの戦闘画像をその目で見たことのある、武ただ1人だった。

「話は以上だ。総員ハンガーに向かい、自機のチェックを済ませろ。30分以内だ!」

「「「了解!」」」

「解散!」

 全員が敬礼をしたところで、水月が最後に解散を宣言する。次の瞬間、伊隅ヴァルキリーズの面々は、すぐにハンガーへ向かうため、全員が出口へと駆けだす。

 そして、まるでその瞬間を待っていたかのように、基地全体に激しいサイレンが鳴り響き、『防衛体制2』が発令されたのであった。








【2004年12月22日9時00分、横浜基地、中央作戦司令室】


 防衛体制2が発令されてから、約一時間。横浜基地の頭脳とも言うべきここ、中央作戦司令室は、各部署から入る情報の濁流に飲まれかけていた。

「支援砲撃部隊、第二滑走路に展開完了。補給用コンテナも展開完了です!」

「第一、第二戦術機甲大隊、第二次防衛ラインに到着。第二次防衛ラインの補給コンテナ展開率未だ20パーセント」

「第三戦術機甲大隊、Aゲート前演習場に展開完了。補給コンテナ展開率60パーセント」

 CP将校達からの連絡を聞きながら、中年の横浜基地司令は、重々しく頷く。

「よし、第二次防衛ラインの展開と支援砲撃部隊のチェックを急がせろ。最優先だ」

 そんな慌ただしい司令室の一角を、香月夕呼が間借りしている。

 伊隅ヴァルキリーズのCP将校、涼宮遙中尉と夕呼の副官であるイリーナ・ピアティフ中尉が隣り合うようにして、通信席に座り、夕呼はその後ろで腕を組んで立っている。

 遙の通信先は当然ながら伊隅ヴァルキリーズ、対してピアティフの通信先は、すでに旧前橋市に到着しているアークエンジェルと、横浜港に停泊中のラー・カイラムであった。

 そのラー・カイラムのブライトから通信が入る。

『香月博士。αナンバーズは全機所定の位置につきました』

 ブライトからの通信に夕呼は意識的に微笑みを浮かべながら、言葉を返す。

「ありがとうございます、ノア大佐」

 すると、一時的に手が空いたのか、基地司令もこちらの様子に気づき、夕呼の隣にやってきた。

「おお、ノア艦長。αナンバーズのご助力、ありがとうございます。しかも、もっとも危険な第一次防衛ラインを引き受けて下さるとは。この田辺、帝国を代表して御礼申し上げる」

 そう言って基地司令――田辺大佐は、最大限の敬意を込めて敬礼をした。元々、帝国陸軍からの出向組である田辺は国連軍に所属している意識が薄い。国連の軍服を着ていても、心は帝国軍人のままなのだろう。

 ブライトはそれに敬礼を返しながら、

『いえ、大したことではありません。せめて、このラー・カイラムを前線に出せれば、もう少しお力になれるのですが……』

 そう言って沈痛な表情を浮かべる。下面装甲の修理のめどが立っていないラー・カイラムは前線には出さないことが決定している。一応、横浜基地までBETAが来れば、搭載ミサイル等で支援を行うことになっているが、事実上この防衛戦には参加できないも当然である。

「とんでもない。ご助力、真に感謝しております。それ以外の機体は本当に大丈夫なのですか?」

 田辺基地司令は、ブライトの言葉に慌てたようにそう言う。

 横浜基地の機体と違い、αナンバーズは二日前の佐渡島奪還戦に参加しているのだ。むしろ、戦艦一隻を除き他の機体が全て参戦できるという方が、田辺の常識からすると信じがたい。

 だが、ブライトはこともなげに頷いた。

『はい、問題有りません。アストナージ達が一晩でやってくれました』

 昨日、夕呼から横浜基地襲撃の可能性を聞かされたブライトは、整備班に可能な限り進捗の前倒しを打診したのである。結果、アストナージ達は、朝までに全ての作業を終わらせてしまっていた。

 元々佐渡島戦で、大ダメージを負った機体がでなかったからこそ出来た事だが、それでもやはりαナンバーズの整備士達の優秀さを物語る事実である。

 しかし、こうして夕呼、田辺司令、ブライトの言動を見比べると、一目で分かるぐらいに落ち着き具合に差がある。

 かなり落ち着いているのが夕呼で、緊張感を漂わせているのが田辺司令、悲壮感すらあるのがブライトだ。

 これは、精神力の違いではなく、三者が内心で定めている『勝利条件』によるものが大きい。

 基本的に取捨選択のはっきりしている夕呼は、最悪『反応炉と鑑純夏が無事ならば問題が無い』と考える。

 それに対し田辺司令はその立場上『最低でも横浜基地が基地としての機能を残すこと』を命題としている。

 では、ブライトはどうかというと、原則『1人でも死人を出したら負けかな』と思っているのだ。

 無論ブライトも、歴戦の指揮官として、戦場で死者が出るのは仕方がないことは理解している。オペレーションスピットブレイクや、オーブ攻防戦では、数多くの戦死を目の当たりにしている。しかし同時に、普通は絵空事に過ぎない「戦死者ゼロの完全勝利」というものを、αナンバーズは今まで数多く経験しているのだ。

 異次元におけるムゲ・ゾルバドス帝国との決戦。バルマー本星でのゼ・バルマリィ帝国との決戦。そして、霊帝ケイサル・エフェスを倒した最終決戦。

 いずれも奇跡の勝利と呼べる大激戦であったが、結果だけを見れば『敵全滅、味方死者ゼロ』の圧勝だったのだ。

 そのため、ブライトに限らずαナンバーズは可能な限り「死者ゼロの完全勝利」を目標とする癖がついている。

 そんなブライトの目から見れば、なるほど今回の横浜基地防衛戦は「絶望的な戦い」と言えよう。

 やがて、ブライトは艦内で何か声をかけられたのか、一度横を向いて何か言った後、モニターに向き直り、

『すみません。昨日お話しした援軍が衛星軌道上に到着したようです。横浜基地への降下を許可していただきたいのですが』

 そう、こちらに告げてくる。

 αナンバーズが本隊から『援軍』をよこしてくれるという話は、昨日の内にブライトから聞いている。夕呼は隣に立つ田辺司令に目を向ける。

「司令?」

「うむ、降下を許可する」

 田辺はそう答えると、一つ頷いた。

『ダイソン中尉、ソルダートJ、聞こえるか。降下許可が下りた!』

 ブライトがモニターの向こうで、衛星軌道上の援軍に指示を出している。



 真っ白な宇宙戦艦と、青い戦闘機が横浜基地へと降下してくるのは、それからおよそ30分後のことだった。






「戦艦と、戦闘機……か?」

 再突入駆逐艦用の離発着場に降りてきた、ジェイアークとVF-19を見た基地司令の第一声はそれであった。

 その声には若干拍子抜けしたような色が感じられる。確かに見た目だけならば、ジェイアークはラー・カイラムの四分の一以下の小型戦艦にしか見えないし、VF-19に至ってはこの世界の戦闘機の延長線上に思える。エヴァンゲリオンなどと比べれば見た目の迫力は無いかも知れない。

 離発着場の様子は、ラー・カイラムからでもモニターできているのだろう。ブライトから、次の指示が下される。

『よし、ジェイアークはVF-19の補給物資とJ以外を降ろした後、第一次防衛ラインに参加。VF-19はそのまま、基地内の防衛に回ってくれ。Aゲート、Bゲート、メインゲートを流動的に守ってもらう』

『了解』

『ちょっと、私もかい?』

 すぐに了承したイサムに対し、ジェイアークの方からは、ルネがブライトに確認の声を返す。ブライトはそれを受けて、

『ああ、そうだ。基地内部での戦闘の可能性がある。君には基地内の防衛を頼みたい』

 ルネ・カーディフ・獅子王。獅子王凱のいとこに当たるこの少女は、以前の凱同様、腕にGストーンを持つサイボーグである。おそらく素手でも、兵士級や闘士級ならば数匹まとめて相手取れるはずだ。そんな彼女を、ただ黙ってジェイアークに乗せておく余裕は、今のブライトにはない。

『了解』

 ルネは一度ため息をついたが、それでも素直にそう答えた。

 やがて、ジェイアークから数人の男女が降りてくる。同時に、脇に待機していたラー・カイラムの整備班達が、補給車両で手早くVF-19の補給物資を降ろしてく。それらの作業が一通りすんだところでジェイアークとVF-19は変形を始めた。

『よし、いくぜ!』

 まず、イサムがレバーを引くと、離発着場に停止していた青い前進翼の戦闘機は、一瞬で人型(バトロイド)に変形する。

「な、なんと!?」

「ふーん、あれも可変機ってわけね」

 素直に驚きの声を上げる田辺司令の横で、夕呼は落ち着いた声を出していた。夕呼はすでにZガンダムという可変機の存在を目の当たりにしている。今更、この程度では驚かない。

 そんな田辺と夕呼の声など聞こえていないブライトは、モニターの向こうでVF-19に乗るイサムに警告を飛ばす。

『ダイソン中尉! BETAには高出力、高精度、超長距離のレーザー攻撃がある。空を飛ぶときは十分に注意しろ!』

『了解!』

 イサムは簡潔にそう答えると、バトロイド形態のVF-19を浮遊させ、一気にメインゲート前まで飛んでいった。

「へー、BETAのレーザー攻撃に、航空戦力は『十分に注意すれば』飛んでいいんだ。良いこと聞いたわ……」

 夕呼の声はどこかやさぐれていた。

 そんな夕呼の内心など知るよしもなく、今度はジェイアークが行動に移る。

『フュージョン!』

 ソルダートJが高らかに叫ぶと、ジェイアークのトップが外れ、それは空中でロボット――ジェイダーへと変形する。

 背中に眩しいくらいに光る、孔雀のような羽根を10本生やし、なぜかポーズを取っている。

 それだけで、田辺司令などは言葉を失っているが、生憎とジェイアークの変形はそれだけではすまないのだった。

『メガ・フュージョン!』

 ジェイダーと残っていた戦艦部分が、複雑に変形、分離しながら、一つにまとまっていく。

 やがて、全長100メートル程度の小型の戦艦は、全高100メートル程度の、ロボットへと変形を遂げたのであった。

『キングジェイダー!』

 戦士の誇りを込めて、ソルダートJは力強くそう叫ぶ。

 その一連の変形を見ていた夕呼は、

「はいはい、フュージョン、フュージョン……」

 冷静な表情で、平坦な声を出していた。それは何か、科学者として大事な物を一つ、二つ諦めた代わりに手に入れた平静さのようであった。









【2004年12月22日10時08分、横浜基地、中央作戦司令室】

 ジェイアークに乗り、やってきた人々。大河幸太郎、破嵐万丈、そしてルネ・カーディフ・獅子王の3人が、一通りのボディチェックを済ませ、横浜基地の中央作戦司令室へと通されたのは、彼らが横浜基地に到着してから40分ほどがたった後であった。

「お初にお目にかかります。私はαナンバーズ全権特使、大河幸太郎です」

 司令室に入ってた大河はまず、そう言うと野太い笑みを浮かべた。

「初めまして、国連軍横浜基地司令、田辺と申します」

 大河の挨拶に、田辺は安心したように、右手を差し出した。直前まで、田辺は迷っていたのだ。

 真ん中を歩く金髪の壮年の男は、間違いなく大物の貫禄を全身から醸し出している。しかし、その右に立つ、黒髪の青年が田辺に迷いを与えていた。彼もまた、場の中心となり得る空気を纏っているのだ。

 すると、黒髪の青年が人を引きつける笑みを浮かべながら自己紹介をする。

「僕は破嵐万丈、αナンバーズの民間協力者なので、階級も役職もありませんがよろしく」

「ああ、よろしく、破嵐君」

「万丈と呼んでください」

 田辺は大河と握手していた手を離し、今度は万丈の右手としっかり握り合わせた。こういう場をあまり得意としていないルネは何も言わずに大河の後ろに従っている。

 田辺も彼女を護衛か何かと見たのか、何も言ってはこなかった。

「早速申し訳ありませんが、通信施設の一角をお借りしても良いでしょうか」

 場合によってはキングジェイダーに指示を出すつもりであった大河はそう、提案する。

 それを受けて田辺司令は、

「分かりました。そちらは3人ですか?」

 と首肯した。幸いと言うべきか、本来この基地司令室は今の倍以上の戦力を指揮する計算で作られている。そのため、空いている通信施設は掃いて捨てるほどある。

 大河は田辺の言葉に首を横に振ると、

「いえ。彼女――ルネ君には基地の防衛に回ってもらうつもりです」

 そう言ってのける。ブライトからその旨を伝えられていたルネは、愛用している大量の銃器を持ち込んでいた。今は、入室前のボディチェックでその大半を預けてあるが、それらを駆使すれば、並の機械化歩兵など歯牙にもかけない働きが出来る。

「だが、しかし……」

 一見すると、兵士と言うより、モデルにしか見えないルネの外見に、田辺は難色を示す。いかに、昨今帝国では兵士の6割が女が占めているとは言っても、流石にBETA相手に肉弾戦を挑む可能性のある歩兵と機械化歩兵だけは、未だに大部分が男なのだ。

 だが、大河はその言葉に重々しく頷くと、

「大丈夫です。彼女ならやってくれます。なぜならば、彼女は、勇者なのですから!」

 そう、宣言した。

「は、はあ……」

 流石に二の句が継げられなくなっている田辺が額の汗を拭いていると、当のルネは、大河の後ろでプイと横を向いたまま、額を抑えてため息をついていた。









【2004年12月22日10時29分、旧所沢市上空、キングジェイダー】

 すでに住民の避難がすんだ無人の大地を、純白の巨人が飛行する。横浜基地をたったキングジェイダーは、そのまままっすぐアークエンジェルが待つ旧前橋市へと向かっていた。

 そのキングジェイダーの中に人影が2人。そのうちの1人がもう1人に声をかける。

「貴様は降りないのか、アラン・イゴール」

 キングジェイダーの主――ソルダートJに問われたアランは口元に小さく笑みを浮かべ答える。

「降りるさ。ただし、この戦闘が終わった直後、混乱のさなかを見計らってな」

「ほう、なるほどな」

 ソルダートJもアランが何のために地球に降りてきたかは聞いている。その言葉で納得したらしく、一つ頷いた。

「大河長官にもブライト艦長にも、俺の存在については誰にも明かさないように言ってある」

 無論、アランも典型的な白人である自分が、この日本で姿をくらませるとは思っていない。最悪、この国の諜報機関に見つかってもいいのだ。アランの目的は、日本帝国ではなく、太平洋を隔てた向こうの大陸にあった。

 アメリカに、何とかして潜り込む。それが彼の目的だ。幸いアメリカは大々的に難民を受け入れているらしいので、海さえ渡れば後はどうにかなるだろう。難民キャンプで戸籍管理を万全に行うのは、それこそ人類がBETAに勝つより難しい。

 難民キャンプに潜り込み、現地の人間の中から信頼できる人間を捜し出し、情報網を構築する。網の目を広げていけば、やがてアメリカ国籍を取得した人間にまで届くだろう。成果が出るまで時間はかかるのが難点だが、成功すれば成果も大きい。

 アランがそう、今後のプランについて考えていた、その時だった。

『ソルダートJ! 旧前橋市にBETAが出現した。予定を変更する。キングジェイダーはその場に待機。そこで単機防衛ラインを引き、BETAの迎撃に当たってくれ!』

 ラー・カイラムのブライトから緊急通信が入る。

「それならばなおのこと、急ぎ前線に向かった方が良いのではないか?」

 ソルダートJはそう確認するが、モニターに映るブライトは首を横に振った。

『いや、予想以上にBETAの取りこぼしが多い。ほとんどのBETAはアークエンジェルやモビルスーツを無視するようにして一直線にこちらに向かっている。最悪すれ違いになる可能性がある』

「いいだろう」

 ブライトの言葉に、ソルダートJは首肯すると通信を切り、キングジェイダーをその場に着地させた。

 すでに、思考を戦闘に傾けているソルダートJの後ろで、アランは1人考え込む。

「一体どういうことだ? 俺が見た資料では、確かにBETAには帰巣本能があるが、近くに戦術機のような高性能の有人機がいる場合はそちらに引きつけられると記されていたのだが……」

 事実、この世界よりはるかに進んだ技術で作られているαナンバーズの機体は、佐渡島でも僅か20機強の数で、全BETAの半分近くを引きつけてしまったという。

 それがなぜ、今になって無視されるというのか?

 だが、アランと違い、そんな些事には興味のないソルダートJは大きな声で、命令を出す。

「ジュエルジェネレーター、出力50パーセント!」

「了解、ジュエルジェネレーター、出力50パーセント」

 ソルダートJの言葉を受け、人格すら有する超高性能生体コンピュータ『トモロ0117』は、ゆっくりとキングジェイダーの出力をあげていくのだった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.044887065887451