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No.4010の一覧
[0] 中身がおっさんな武(R15)[つぇ](2008/09/16 21:28)
[1] 第1話 おっさんの価値[つぇ](2008/12/15 02:42)
[2] 第2話 おっさんの想い[つぇ](2008/10/01 01:04)
[3] 第3話 鉄壁のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:04)
[4] 第4話 多忙なるおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[5] 第5話 無敵のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[6] 第6話 おっさんと教官と恋愛原子核[つぇ](2008/12/10 01:17)
[7] 第7話 おっさんは閻魔大王[つぇ](2008/10/01 01:05)
[8] 第8話 おっさんの卒業式と入学式[つぇ](2008/10/01 01:05)
[9] 第9話 おっさん中毒[つぇ](2008/10/01 01:05)
[10] 第10話 おっさんの苦悩[つぇ](2008/10/01 01:05)
[11] 第11話 はじめてのおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[12] 第12話 おっさんは嫌われもの[つぇ](2008/09/25 03:18)
[13] 第13話 暴露のおっさん[つぇ](2008/09/19 02:02)
[14] 第14話 地獄のおっさん[つぇ](2008/12/05 22:21)
[15] 第15話 おっさんの空しさ[つぇ](2008/10/27 01:51)
[16] 第16話 スパルタン・おっさん[つぇ](2008/12/27 01:44)
[17] 第17話 おっさんとおっさん[つぇ](2008/09/29 01:06)
[18] 第18話 おっさんの真意[つぇ](2008/09/29 01:06)
[19] 第19話 苦肉のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[20] 第20話 おっさんへの反乱[つぇ](2008/10/03 02:35)
[21] 第21話 おっさんの覚悟[つぇ](2008/12/27 01:44)
[22] 第22話 おっさんと将軍[つぇ](2008/10/24 02:06)
[23] 第23話 おっさん、逃げる[つぇ](2008/12/27 01:44)
[24] 第24話 おっさんの戦い[つぇ](2008/10/13 01:49)
[25] 第25話 夜明けのおっさん[つぇ](2008/10/13 01:49)
[26] 第26話 おっさんのカウンセリング[つぇ](2008/12/27 01:44)
[27] 第27話 おっさん、解禁[つぇ](2008/12/27 01:45)
[28] 第28話 おっさんの原点[つぇ](2008/11/15 03:09)
[29] 第29話 おっさんVersion2.0[つぇ](2008/10/27 01:52)
[30] 第30話 おっさんの謁見[つぇ](2008/10/27 01:52)
[31] 第31話 空のおっさん[つぇ](2008/10/30 01:31)
[32] 第32話 おっさんの悲願[つぇ](2008/12/05 22:21)
[33] 第33話 おっさんのイメージ[つぇ](2008/12/05 22:21)
[34] 第34話 おっさんの誤解[つぇ](2008/11/08 02:03)
[35] 第35話 おっさんの別れ[つぇ](2008/11/11 01:00)
[36] 第36話 おっさんとアラスカ[つぇ](2008/11/11 01:01)
[37] 第37話 おっさんの帰姦[つぇ](2008/11/19 00:38)
[38] 第38話 おっさんの誕生日プレゼント[つぇ](2008/12/10 01:18)
[39] 第39話 おっさんの再会[つぇ](2008/12/27 01:46)
[40] 第40話 おっさんの誤解~日本編~[つぇ](2008/12/10 01:18)
[41] 第41話 噂のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:43)
[42] 第42話 おっさんへの届け物[つぇ](2008/12/15 02:43)
[43] 第43話 おっさんの恋愛[つぇ](2008/12/27 01:45)
[44] 第44話 おっさんのシナリオ[つぇ](2008/12/27 01:47)
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[4010] 第44話 おっさんのシナリオ
Name: つぇ◆8db1726c ID:a1045c0b 前を表示する
Date: 2008/12/27 01:47
【第44話 おっさんのシナリオ】

<< 御剣冥夜 >>

12月22日 朝 国連軍横浜基地 御剣冥夜自室

目が覚めるや否や、私はいつになくはっきりした意識をもって身を起こした。
これほどの良い目覚めは、最近の記憶にないことだ。

さっそく寝台を降りて、備え付けの鏡の前に立ち、指先を自らの唇にそっとあてる。
昨晩の感触を思い出し、自然と口の両端が上がった。
私は、自分で自覚できほどあきらかに──浮かれていた。

昨晩、私は自室に駆け戻った後、寝台に突っ伏し、嗚咽を漏らしながら泣いた。
その激しさは、かつて訓練の折、中佐から殿下の関係を揶揄され、泣いてしまった時とは比べ物にならぬほどで、それだけに、私の中でどれほど中佐の存在が大きかったのかを思い知らされた。

心のどこかで、一晩中泣き明かすのだろうと思っていたが、泣き初めてまもなく、中佐が部屋の扉を叩き、私の返事も待たずに部屋に入ってこられた。
涙を拭くのも忘れ、反応に困った私に対し、中佐はまっすぐな瞳で私を射抜き──「すまなかった」と、謝罪の言葉を口にした。
だが、愛情をもてあそばれた事による憤りはおさまらず、私はかたくなになり、お引き取りを願ったのだ。

それからの、中佐のお言葉が思い起こされる。

『冥夜……。結果として、お前の気持ちをもてあそんでしまったことは、本当にすまなかった』

それは、まことに真剣な口調であった。

『だが、俺にとってはお前は特別な存在。ちゃんと手順を踏んで、お前とは付き合いたかったんだ』

特別な存在──そう、確かにそう仰った。
その言葉で、硬くなった私の心は弛んでいったのだ。

『お前との会話は、俺を奮わせた……愛するお前だからこそ、だ」

そう言った時の中佐の目に嘘の色は無く、微動だにしないその視線は、私を強く揺さぶった。
私は、その時の感情はどうあれ、確かに中佐を……愛していたのだ。その相手から、あれほど真剣に愛をささやかれて、平常でいられようもない。

中佐は、言葉を失った私に、ふ、と、つい見とれてしまうほどの微笑みをうかべ──その唇を、私のそれに優しく重ねた。
接触は一瞬であったが、私はそこに、強い熱を感じた。
そして、呆ける私を置いて、中佐は「またな」と言って、この部屋を出て行かれたのだ……。

──うむ?

そこまで思い起こして、ふと首をかしげた。
真摯であれば良いのだろうか、とか、結局何も変わっていないのではないか、とか──そういった疑問が浮かびそうになった。

だが、それを深く考えては妙な展開になってしまいそうだ。
愛を語られたのには違いなく、私を苛んでいた悩み──中佐にどう思われているか──が解消されたのだから、些事に拘るべきではない。
私は浮かんだ疑問を払拭すべく、蛇口を捻り、冬の冷たい水で洗顔を始めた。



…………………………



<< 鑑純夏 >>

12月22日 午前 国連軍横浜基地 シミュレーターデッキ

「おはよう、御剣さん」
「おはよう、鑑」

「昨日は──」
「ああ、みっともない所を見せてしまったな」

「ううん、それはいいんだけど、あの後──」
「うむ、中佐が訪ねてこられた」

彼女にしては珍しく、私が言い終える前に言葉を先読みし、返事をかぶせてきた。
昨晩の泣き顔の名残は一切なく、彼女は明らかに──浮かれていた。

その姿は“元の”世界で私と友情を交わした“冥夜”のようで懐かしかったけれど、浮かれる要因が明白なだけに、複雑な心境だった。
そりゃ、フォローは大事だし、御剣さんは幸せいっぱいな感じだけれど、どこか釈然としないのは、それがタケルちゃんの筋書き通りだからだろう。
どうやったかは知らないけれど、宣言通り、「浮かれる冥夜」にもっていったのだろう。

タケルちゃんは、あれで御剣さんを傷つけた事に、罪悪感や焦燥感を感じていている。困ったところは、自分がそういう感情を持つことも楽しんでいるという点だ。
確かにタケルちゃんは、口説き始めればあっという間に深い仲になるから、今回のように、恋人になるまでの課程が新鮮なのも、理屈ではわかる。
けれど……不謹慎も甚だしい。

私にしても、“この”世界でも“前の”世界でも、いきなりエッチな関係になっちゃってる。
目覚めたらバージンを失っていた、という事実に少し落ち込みは感じるけれど、私を正気に戻すためなのだから文句も言えない。
特に、「眠ったお前とヤるの、やっぱすげー興奮したわ」と、鼻息も荒く言われてしまっては……。

内心で何度目になるかの溜息をつきながら、嬉しそうに昨晩の出来事を話す御剣さんの言葉を聞き──またこっそりと溜息をつくことになった。

──お子様のようなキス、か……。

やはり、まだまだ甘酸っぱいやりとりは続くらしい。

「して、ものは相談だが……この事は、皆にも話すべきだと思うか?」
「うーん。ちゃんと結ばれてからでいいんじゃないかな」
「そうか……私もそう思っていたのだ。まだ、皆話すのは面映ゆくてな」

私に話してくれたのは、昨晩の遭遇時、私もいたからだろう。
その配慮はうれしかったけれど、この後の展開を思うと、今浮かれている御剣さんが気の毒だった。
真意は伝わらないだろうけど、私は励ましの言葉を口にした。

「ねえ、御剣さん……頑張ってね」
「ん?うむ……そなたに感謝を」

彼女に真相を教えてあげたい気持ちはある。
でも、それをしたところで事態が悪化するだけ。辛い展開の先には、間違いなく天国が待っているのだから……。
せめて、辛そうな時は私がフォローしよう。もうひとりの、フォローすべき人とともに。



…………………………



<< 伊隅みちる >>

12月22日 昼 国連軍横浜基地 PX

「彩峰、もう痛まないのか?」
「はい……大丈夫です」

彩峰の淡々とした様子は、いつも通りだ。
なんとか調子を取り戻したらしい。

「しかし、貴様も災難だったな」
「あれは、痛かったです……理不尽……」

さきほどの光景には、目を疑った。

今日の食事の折、彩峰はちゃっかりと、中佐の隣の席を確保した。
それは、これまでの鬱憤を晴らすかのような素早さであり、いつもは誰が隣であっても頓着しない中佐が、苦笑いを浮かべるほどだった。
中佐の、可愛いやつだ、と言いたげな表情には若干のやっかみを覚えたものだが、まあそこまでは良い。

驚いたのは、食事も終わって軽い歓談を始めたとき──いつの間にか、中佐が彩峰の胸を揉んでいた事だ。
揉まれてる当の彩峰は、やや顔を上気させながら、嫌がるでもなく、むしろ彼が揉みやすいように、差し出すようにその豊満な胸を張っていた。

私を含めた全員がそれに気づき、会話が徐々に途絶えると、中佐は「どうしたんだ?」と不思議そうに訊ねられた。
速瀬が「ちゅ、中佐……今、揉んでますが……」と指摘すると、彼は、はっとして自分の手と彩峰を見た。
これまた驚いた事に、本当に無意識に揉んでいたようだ。

そして、どう動くのかと思ったら──中佐は拳骨を作り、ハーと息を吐きかけて、彩峰の頭にそれを落とした。……「場所をわきまえんか」という叱りの声とともに。

中佐はその後、悶絶して頭を抱えた彩峰と、呆然とする我々を置いてPXから去っていった。
今日の“シフト”に入っていた宗像と風間が“プライベート”な時間を過ごすべく、中佐の後を追いかけて姿を消したところで、我々は事情を彩峰に訊ねた。
中佐が殴ったということは、コイツが何かしたからだろうと思ったのだが、彩峰が言うには、ただ席を寄せて近くにいただけ、とのこと。
その時、柏木が、彩峰の主張を否定するように発言した。

「いや、あれはあきらかに彩峰の誘いだね。うまいもんだねぇ」
「どういうこと、晴子?」

涼宮の問いに、柏木は説明を加えた。

「あれは絶妙のポジショニングだったね。腕を組んだいた中佐の手に、さりげなぁ~くおっぱいを触れさせてたよね?」
「ううん、あれは偶然」

無表情でふるふると首を横に振ったが、柏木の説明とどちらに信憑性があるか──、全員の見解は一致しているだろう。

「なんだ。結局、無実とはいえないじゃないか」
「なんとなく、ああいうのもいいかなと思いましたので」

私の呆れ声に、彩峰は開き直って飄々と言ってのけた。
彩峰のふてぶてしさは以前から感じていたが、昨日のメンバー入りでそれが一層強くなったようだ。

しかし、どうしてこう、我が部隊には一癖以上あるやつらばかりなのか。
生まれも育ちも性癖も普通なのは、私くらいじゃないか。

「だとしても、百歩譲っても責任は半々だよね。逆ギレってやつかな?」

鎧衣の、誰にともなく発した疑問には、鑑が確信したように答えた。

「ううん。タケルちゃん、自分は全く悪くないと思ってるよ」
「よくわかるな、鑑」
「いえ、伊隅大尉。以前にもそういうことがあったって、本人から聞いたんです。その時も、全責任はその人にあるって主張していましたから」

鑑の苦笑しながらの種明かしに、他の面々はなーんだ、さすが中佐、ひどーい、など、めいめいの反応を返していた。
以前、そういうふうにした人物が気になり、あの状況で自分に非が全くないという中佐の思考に呆れたもしたが、それらの事以上に、鑑の事情通ぶりが印象に残った。

──幼馴染……か。

鑑は、我々の知らない白銀中佐の事を、どれだけ知っているのだろうか。
幼馴染が特別な存在だということは、私は痛いほど良くわかる。わかるだけに、鑑が羨ましいと──そう思った。それは明るく笑ってはいるが、他の者も同じだろう。

そんな中、反応の薄い人物がふたり居た。榊と御剣だ。

「おい、お前達。どうかしたのか?」

そう言いながらふたりを見れば、御剣は寂しげな雰囲気。
御剣は、おそらく私と同じ気持ちになったのだろうと思ったが、今朝は上機嫌だっただけに、その落差が気になった。

ふたりともなんでもないと答えたが、御剣の平静とした物言いに比べて、榊は何かに耐えるようにしながらであり──辛そうだった。
体調が悪そうにも見えるが、訓練中──いや、正確には、食事前まではどうもなかったはずだ。
PXに姿を見せたときから、歩きづらそうにしていたように思える。

だが結局、私が榊へむけた再度の問いには、すぐに収まる、という、榊の頑とした主張を信じるしかなかった。



…………………………



12月22日 午後 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム

昼の休憩時間も終わるころ、宗像と風間が連れ立ってやってきた。
お楽しみ行為の名残か、ふたりともまだ頬が赤く、匂いも残っていることから、シャワーを浴びる暇もなかったのが窺えた。
以前は、こういう時にどう声をかけていいか困ったが、今では慣れたものだ。
中佐の精液の匂いには、まだドキドキさせられるが……実は、これもいい夜のオカズになる。

「最近、お盛んなことで結構だな」
「え、ええ……そうですね」

からかいの軽口に、宗像は私から目をそらしてしまった。
ハードなプレイでもして疲れたのかと思ったが、少々不審を感じたので問い掛けてみた。

「どうかしたのか?」
「いえ……なんでもありません」

煮え切らない様子がいまいち納得できなかった。
ちらりと風間の方を見ると、ヤツは私から逃げるように、涼宮と速瀬で交わしていた会話に加わった。

「なんだというのだ、いったい……」

今日は、おかしなことばかりだ。
この、宗像と風間のよそよそしさ。
朝は上機嫌だった御剣の落ち込み。
昼休みの間中、何かに耐えていた榊。

榊は、さきほどの言葉通り、辛そうなそぶりは一切見えなくなったが、肩を落としている。声が小さくて聞こえないが、鑑が慰めの言葉をかけているようだ。
御剣にも声をかけているから、アイツはふたりの事情を知っているようだが…。

問うてみたい気持ちはあったが、白銀中佐の入室により、それは中断せざるを得なかった。
そして私は、いつものように頭を切り替えて声を張り上げる。

「気を付けェ!」



…………………………



<< 御剣冥夜 >>

12月22日 午後 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム

「以上のように、凄乃皇から発せられるラザフォード場に巻き込まれないよう、距離を一定以上──」

白銀中佐による、午前の訓練評価と、凄乃皇との連携に関しての再確認が行なわれている。
そのお言葉を聞きながら、私はしみじみと感じていた。

──何度見ても凛々しく、神々しい……。

思えば、訓練兵のころは、いつ拳がとんでくるやらと構えていたものだ。
白銀中佐をこうして男性として意識し始めてから、どれくらいになるだろうか。
今では、まるで生まれた時から、この方を想っていたようにも感じる。

白銀中佐の発する魅力に酔いながら、一方で私は気分が落ち込んでいた。
午前の訓練中も休憩時間も、白銀中佐の私に対する言動は、今までと“全く同じ”だった。
いつもと変わらぬ態度であったというのに、感じた疎外感、寂寥感は、先日までと比較にならないほど大きかった。

もちろん、話し掛ければ答えてはくださる。
しかし、あまりに何もなかったようなお振る舞いは、昨晩の事が、私の願望が生み出した幻ではないかという疑いすら持ってしまった。
私は思わず、今日何度目になるか忘れてしまうほど触れた唇に、ふたたび指先を当てていた。

その時、中佐が説明を中断し──

「御剣」

怒鳴るでもなく、普通に呼ばれただけであったが、その視線は冷たかった。

「はっ!」

起立と返事をしながら、私は自らの失態を悟った。

──講習中に、気を抜きすぎた……ぬかった。

「確かに今の説明は何度もしたがな……それが気を抜く理由になると思ってるのか?」
「申し訳ありません!」

午前のシミュレーターでは操作が忙しく、気を抜く暇はなかったが……今はこうして同じ空気を共にしたせいか、思考が飛んでしまっていた。
中佐は怒鳴らないが、それだけに怒りの程が知れた。当然だろう。
中佐は私に歩みよると、持っていた指し棒を私の右肩にぴたりと添えて──言い聞かすように言葉を紡いだ。

「俺は、貴様等が一人前になったと思ったから“TACネーム”を止めたんだ。その事を後悔させるな。……次は“修正”する」
「は……」

冷たく一瞥をくれ、中佐は壇上へと戻られた。
私は、昨晩とは別の意味で、泣きたくなった。

──私は、これほど弱い女だったのか……。

ただ、親しげに声をかけられなかっただけで、職務に影響するほど気に病むなど……。
私は、期待していたのだ。中佐がいつもより、少しだけでも“特別”なそぶりを見せてくれるのだろうと……。
中佐は、職務中は厳しいお方。あの態度こそが当然であるというのに……。



…………………………



<< 伊隅みちる >>

12月22日 夕方 国連軍横浜基地 16番整備格納庫

訓練も終わり、白銀中佐に呼ばれた通りに格納庫に来ると、溶剤の匂いが充満する中、中佐は乗機たる不知火弐型を見上げていた。

中佐は私に気付き一瞥をくれたが、すぐに不知火に視線を戻し、整備兵の作業を見守った。
私も中佐の横に立ち、彼に倣って不知火を見上げることにした。
おそらく、ふたりきりで向き合えば、私が見とれて打ち合わせにならない事を察して、こうしてくれたのだろう。
想いを悟られているだろう事が気恥ずかしかったが、それは今更だ。

中佐の不知火に意識を向ける。
その装甲のカラーリング──明るい銀一色の姿は、青色基調である他の機体と比較するまでもなく、一際目立っていた。

「予想はしていましたが……派手ですね」
「まあな。看板として使うには適しているかもしれないが、あまり良い趣味じゃないな」
「はっ……ですが、一目で中佐の機体と分かりますね」

気持ちは中佐に同意したいところだったが、香月副司令が決めた事なので、私は返答の方向を逸らした。

白銀中佐の機体色を考案したのは、香月副司令。「白銀だから、そのまま銀で良いんじゃない?」という適当さだった。
確かにイメージしやすいし、人間を相手にするわけではないのだから、色が目立っても問題はない。
そして、中佐の与えられた役割上、機体は目立つほど良い。
最初は全面、鏡のようにピカピカにしたかったらしいが、光が反射しすぎて邪魔になるという中佐のたしなめで、つや消しの銀色となった。
それでも、群を抜いて派手であることは変わりない。

「鏡面や金色にされるよりはマシと思っておこう。しかし、こんなに目立ってしまってはうかつに死ねんなぁ」

鼻で溜息をひとつつき、中佐は愚痴るように言葉を漏らした。
彼の言う通り、看板である白銀中佐が目を見張る戦果を上げれば、士気は上がる。
反面、やられてしまった時には、「あの白銀中佐がやられるほど……」となるのは明白。
士気向上という点では、斯衛の五摂家の方と役割は同じだが、中佐の場合、最も苛烈な戦場に身を置くことが前提だ。
彼にかかる期待と義務は相当なものだろう。+

「隊長が先に死なれては困りますよ」
「そうだな……」

諦観したような苦笑。
よほどの状況でなければ、指揮官の犠牲は最後にしなければならない。中佐とて、それくらいの理屈は当然ご承知だ。
ふと口に出てしまった台詞なのだろうけれど、それ自体はなんとなく嬉しかった。
このような言葉は、私的な時間に恋人たち──それも、鑑だけが向けられるのだろう思っていたからだ。
中佐は、自分が弱音を吐いた事に気付いたのか、少し表情を引き締めた。

「部隊編成について話そう。基本は速瀬の案で行くが、異存はないな?」
「はっ」

部隊編成を色々変えて試した結果、一番スムーズに運用できるのは速瀬とエレメントを組んだ時。
本音を言えば異存はなくもないのだが、仕方がない。
私はこうして副隊長として、微力ながらも支えられるのだから、他の恋人たちに比べれば恵まれている。

「ところで、御剣の様子はどうだった?」
「ひどく落ち込んでいました」

「そうか」
「今朝は明るかったのですが、今日の御剣は集中力を欠いていました。事情を聞いても言葉を濁すだけでしたが──」

「心当たりはある。御剣の事は俺に任せておけ」
「はい」

気にはなったが、多くは聞かないでおこう。

その後、榊についても言及したが、「本人が良いというなら放っておけ」との、やや突き放すような言葉が返ってきた。
中佐に気がないからといって、榊を差別する人ではないから、中佐はアイツにも思うところがあるのだろう。

その後、事務的な話題を続けた後、中佐は不知火を見上げたまま、「なあ、伊隅」と何気なく語りかけ、私も構えずになんでしょうと返すと「俺の女にならないか?」と、散歩でも誘うかのように言われた。

「そうですねぇ……」

私は相槌を打った後、中佐の言葉の内容を脳内で反芻し──理解し──混乱した。

「はぁ?え?えっと……でも……」

──もしかして、私は今、口説かれた──のか?

だが、こんな殺風景なところで事務的に、ついでのように誘われるとは……。
これまでに聞いた話では、口説かれる時は、名前で呼ばれて見つめられ、甘い雰囲気で口付けを交わすところから入るそうだ。
程度の差はあれ、その基本形を守っているのは、中佐なりのこだわりなのだろうということだった。
私もその体験談から、その光景に自分をあてはめて妄想していたというのに……。

──何故私だけが、こんなおざなりに……。

口説かれたという事実は嬉しくはあったが、がっかりした気分の方がはるかに強かった。
内心で落ち込む私をよそに、中佐は意地悪そうな笑みを浮かべて、驚愕の言葉を口にした。

「嫌なわけないよな?俺のパンツでオナニーするくらいなんだから」
「なッ!……ど、どうしてそれを……」

一瞬で、耳まで赤くなったのを感じた。

──宗像のやつだな……よくも……!

中佐がこの事実を知っていたということは、宗像がバラしたに決まっている。

──他言するような奴ではないと思っていたのに、よりによって、もっとも知られたくなかった人物にバラすとは!……ああ、穴があったら入りたい……。

信じる者に裏切られた気持ちになり、羞恥に耐えながら、私は宗像にどう報復しようか算段を始めていた。
しかしそれは、次の中佐の言葉で中断することになる。

「宗像を責めてやるなよ?アイツは限界まで頑張ったんだからな」
「……どういうことですか?」
「きっかけから話そうか。まず──」

発端は、中佐が今日の休憩時、風間と宗像といちゃつき、服を脱ぎ始めたとき、そろそろ渡したパンツを交換しなくていいのかと、と何気に尋ねたことらしい。
宗像は、真顔で無くしてしまったと言い、謝罪の言葉を口にした。……が、一瞬ひらめいた動揺の色を、敏い中佐が見逃すわけもなく──“尋問プレイ”が始まった。
風間も興味があったのか、悪乗りしたのか。率先して手伝いに加わり、宗像はしまいにはアホの子のようになり……とうとう、真相を吐かされたということだった。

「俺の尋問には、本職のスパイでも音を上げる。加えて俺には、風間のサポートと、左近という無敵の相棒がいた。本職以上に耐えた宗像は見事だった」
「う、うう……」

中佐はさらに、宗像の「らめぇ」は新鮮で可愛かったぞ、と諧謔じみた言葉を付け加えたが、それを笑うほど、今の私に余裕はなかった。
これで、宗像と風間の態度に合点がいったが……知りたくなかった。

「そこまでお前に想われているとは、光栄だったよ。よって、俺とお前は相思相愛……何も問題ないだろう?」
「た、確かに、私は……仰る通りです。……貴方が私をお望みなのも、嬉しく思います……ですが……ぶ、部下が残っているうちは、私は……私は……」

やっとの事で断りの言葉を言えたが、口説かれた時の事を、何度もシミュレートしていたからできたことだ。
だが、皆のように、ふたりきりの部屋で目を見つめられて甘く口説かれていれば──私は本当に抵抗できただろうか?
必死の思いで口にした言葉だったが、中佐は残念がるでもなく、納得した調子で言葉を返した。

「ああ、隊内に仲間外れを作るわけにはいかない、という事だろう?」
「……その通りです。今の隊内の雰囲気を作ったきっかけの私が、榊と御剣を残してなど……」

「アイツらは俺がなんとかする。気にするな」
「しかし、私への同情で口説かれているのでしたら──」

中佐が私を口説いたのは、私が夜な夜な彼の下着で自慰行為にふけっている事への同情心から。
この口説き方から、そうとしか思えなかった。

「そうじゃない」
「では、なぜこんなところで、そのようにされるのですか!?」

私もいい年だから、少女のように理想に拘るつもりはないが……いくらなんでもこれはない。
その思いから、つい厳しい口調になってしまった。

「他の連中のように口説けば、伊隅を俺のモノにすることはできただろうが……それでは少々困るんだ」
「え?」

“モノにする”という言葉に、心の奥底で何かが揺さぶられたが、後半の言葉の意図が気になった。

「お前、俺以外にも好きな男がいるだろう?」
「──!……はい」

その指摘に、心臓の鼓動が一瞬大きくなったが、部隊の皆は全員知っていることだから、中佐に伝わっていてもおかしくない。

──けど、事情は宗像も同じだったじゃない……。

その思いを読んだかのように、中佐は言葉を続けた。

「お前は宗像と違って、自分でケリをつけられる女じゃない」
「うっ……」

確かに……宗像は中佐と結ばれる時には、覚悟を決めていたというのに、私はいまだに決意できていない。
最近では中佐への想いが大きくなっていながら、正樹の存在が私の中で消え去ったわけじゃない。
どっちつかずのまま中佐に流されそうになっている──それが今の私だ。

「だから、お前を本格的に口説くのは、儀式をひとつ終えてからだ」

そして、中佐が提示した案は、驚くべき内容で──だが、納得ができるものでもあった。

「ここでの返事で全て決まるわけじゃない。その時、お前の本心を聞かせて貰いたいんだが──どうする?」

中佐のその問いに、私はたっぷりと時間を費やした後、こくりとうなずいた。



…………………………



<< 御剣冥夜 >>

12月22日 夕方 国連軍横浜基地 御剣冥夜自室

私は昨晩と同様、寝台に突っ伏していた。
涙はかろうじて出てないが、自分への情けなさに、頭がどうにかなりそうだった。

──なんという未熟……。

色恋にかまけて、訓練がおざなりになるなど……これでは、中佐が私にお手を付けられぬのは当然だ。
きっと、今日の私の振る舞いをみて、見放されたに違いない。
少々関係が進展したからといって浮かれるようでは、いざ結ばれた時……己を律するなどかなわぬと思われるだろう。私が中佐なら、そう判断する。

あんな情けない醜態をさらさなければ、今頃中佐は訪ねてきてくれたかもしれないというのに。
鑑が色々と気を使って声をかけてくれたので、あの後は幾分気を落ち着かせられたのだが、こうしてひとりになると……駄目だ。

落ち込んでも何も変わらない、という鑑の助言も、今は空しい。
生涯を賭して愛すると自らに誓った男性に、見捨てられるという恐怖。
それは、私の気をさらに落としていった。

「白銀中佐……」

私は、愛する人の名をつぶやいた。
抑えたつもりだったが、思ったよりも大きい声となって部屋に響いたのは──それだけ私が奥底で、白銀中佐を渇望しているからだろう。

当然ながら、返事を期待したものではなかったのが、「呼んだか?」という声に、私は反射的に飛び起き、振り向くと──

……いらっしゃった。

それも、私が今日ずっと期待していた、優しげな笑みをうかべた、神々しいお姿で。

「ちゅ、中佐……いつからそこに」
「さっきだ。ノックしたんだけどな。泣いてて気付かなかったのか?」

いつのまにか流れ出ていた涙をぐしぐしと袖で拭う。

「い、いえ、これは……申し訳ありません。気付きませなんだ」
「はは、ウソだ。黙って入って悪かった」

「……私も女です。着替えていたらどうなさるおつもりですか」
「ん?謝った後、押し倒す」

「また、ご冗談を」

さっきまでの落ち込みは嘘のように晴れ、いつもふたりで話す時の調子に、段々と戻っていた。

「冗談じゃないさ……そのために今日は来たんだからな」

そして、昨晩に見せた真剣な表情。
その目には確かに、私への想いが宿っていた。

「私は……見捨てられたかと思うておりました」
「俺が?お前を?馬鹿言うな」

呆れたように言われた。
やや乱暴なその言葉はとても嬉しく……私の心を暖かさで満たした。

「職務中、俺はああするしかない。わかってるだろ?」
「はい……醜態をお見せしました」

徐々に近付く距離。

「ちゃんと恋人になれば、ケジメは付けられるさ。皆そうだったんだ」
「私にも……できますでしょうか」

「それはお前の心がけ次第だ」
「確かに」

触れ合わんばかりの、互いの吐息が感じられる距離。

「色々考えるのは後だ。──冥夜、愛してるぞ」
「はい、私も、愛しております……タケル……殿……」

そして私は、想いを遂げた。



…………………………



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12月22日 夜 国連軍横浜基地 御剣冥夜自室

──万事、順調か……上手くいきすぎて怖いな。

好事魔多しという。慢心は戒めるべきだが、あまりの順調さに、俺の気持ちは高揚していた。

みちるのオナニー発覚で、あいつはすでにチェックメイト。
今日の提案を受け入れたということは、覚悟はほぼ定まったようなものだ。本人は、あれで揺れているつもりのようだが。
アラスカ出張までは、まず無理だろうと思っていたみちるとの関係……あのマゾっぷりをまた堪能できるかと思うと、自然と股間が滾る。

千鶴の調教も、良い進展を見せている。昼休の間、『撃震』を入れっぱなしにしておくように、といういいつけはちゃんと守っていたし。
あいつはいつも、エロスイッチが切れた後、興奮しまくっていた自分に落ち込むのだが……その姿がまたそそる。
“前の”世界では、開き直っていたから、ああいう初心な素振りはたまらない。

“前の”世界ではできなかったが、このドMコンビを同時に、というのも今回は可能だ。
照れ合って性癖を隠すか、張り合って折檻をねだるか──興味深いことだ。
まりもとは……リスクが高い。やめとこう。
もう少し自分というものを抑えてくれれば、3人並べてドMトリオプレイができるのだが。

そして今、俺の隣ですやすやと眠る冥夜を見る。
冥夜が、“元の”世界で、俺のベッドにもぐりこんでいた時──10月22日の事が思い出された。
世界は違うし、朝と夜の違いもあり、立場も逆だが、あれから丁度2ヶ月だ。
本音を言えば、もう一日くらい焦らしたかったのだが、ブリーフィングとはいえ訓練に影響が出てしまっては流石に放っておけない。

──これも、俺の魅力がなせる業か……なんと罪深い男だ。俺というやつは。

と、きざなナルシストっぽく、前髪をかきあげてみた。
だが、観客がいないのでむなしい行為だった。

結局、プロット通り「超・不安になる冥夜」までは持って行けなかったが、大筋は達成したし、背中が痒くなるような青臭いやりとりも十分堪能したし、こうして冥夜と結ばれたのだから、これ以上を求めるのは贅沢すぎるというものだ。

その冥夜は眠りながらも、俺の手を離さないよう、しっかりと抱え込んでいる。普段は凛々しいくせに、こう言うところが本当に可愛いやつだ。
また、“前の”時とは違って、相当な耳年増になっていたので、初めてというのに当たり前の顔で色んな行為に及んだのは、嬉しい誤算だった。
まあ、惚れた男にはとことん尽くす冥夜のことだから、頼めば何でもしてくれただろうが。
とはいえ、さすがに皆琉神威の鞘は、もう少し慣れてからにしてあげるべきだろう。

──あれ?ムラムラしてきたぞ。

冥夜を見ているうちに、俺の体内で、精液という名の弾丸がリロードされたようだ。
起こさないようにやってみるか。眠っている女とヤるのは、かなり興奮するのだ。
だが、こちらの気配の動きを感じたのか、冥夜が起きてしまったので、ふとした思いつきは実行できなくなった。

「あ、タケル殿……起きていらしたのですか」
「ああ」

冥夜は俺のすがたを見ると、可愛くはにかんだ。
本当は、冥夜にもタケルと呼ばせたかったのだが、たとえ恋人でも目上の方を呼び捨てにはできない、と言って「殿」をつけるのをやめない。
慧には必要なかったし、美琴と壬姫は比較的すんなり受け入れたんだが……まあ、人一倍厳しく躾られた冥夜なら仕方がない。日数を経れば、徐々にくだけるだろう。
ちなみに、千鶴にも言ってみたが「あなた」とか「中佐」としか言わない。デレに変わった時、アイツはどう呼ぶのだろうか。

「……また、されるのですか?」

冥夜は俺のいきり立ったマグナムを一瞥し、そう言った。
暗くてよくわからないが、間違いなく紅潮しているだろう。

「あー、そうだな……それもいいが、ちょっとイチャイチャしようぜ」

俺は、一戦の前の愛撫を兼ねて、じゃれつき始めた。
ヤるのもいいが、こうして冥夜とバカップル時間を過ごすのも悪くない。
一通り、互いの体をまさぐったりキスを交わしたりした後、冥夜がふと思いついたように問いかけてきた。

「ところで、タケル殿……なぜ、私が特別なのでしょうか。私には、貴方にそのように思われる心当たりがないのですが……」

──あ。

浮かれる冥夜を作ることに夢中で、昨晩、まずい台詞を口にしていたことに気付いた。
嘘の台詞では、敏感な冥夜に気付かれる恐れがあるので、青かろうが臭かろうが寒かろうが、思った事をすべてぶつけたのだが……やりすぎた。

「それは、な……」
「それは?」

まずいな。並行世界での絆とは言えないし。

「……一目惚れさ。着任して、初めてお前を見た瞬間──俺は恋に落ちてしまったのさ」

自分で言ってなんだが……嘘くせぇ(笑)
だいたい、「さ」で終わらす台詞の連呼ってどうよ。無理して標準語を使う関西人か、俺は。
と自分へ突っ込みながら、さて、次はどうやって誤魔化したものかと思ったのだが──



「なんと……私は……私は果報者です」



冥夜は感動して、目をウルウルさせていた。

──こ、こいつって……。

もしかして、結構嘘が通じるやつなのか?
“前の”世界では「ふふ、私に誤魔化しは通じぬぞ」とかよく言っていたから、いつのまにか俺もそうだと思い込んでいたんだが……いやいや、こういうところもある冥夜だから良いんだ。

「分かってくれたならいい。じゃあ、もう一度……な?」
「あっ……」

そして、俺にのしかかられた冥夜は、戸惑いながらも嬉しそうな表情は隠せず、それがさらに興奮を呼び──俺は、眠気が我慢できなくなるまで、冥夜を抱いた。


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