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No.4010の一覧
[0] 中身がおっさんな武(R15)[つぇ](2008/09/16 21:28)
[1] 第1話 おっさんの価値[つぇ](2008/12/15 02:42)
[2] 第2話 おっさんの想い[つぇ](2008/10/01 01:04)
[3] 第3話 鉄壁のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:04)
[4] 第4話 多忙なるおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[5] 第5話 無敵のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[6] 第6話 おっさんと教官と恋愛原子核[つぇ](2008/12/10 01:17)
[7] 第7話 おっさんは閻魔大王[つぇ](2008/10/01 01:05)
[8] 第8話 おっさんの卒業式と入学式[つぇ](2008/10/01 01:05)
[9] 第9話 おっさん中毒[つぇ](2008/10/01 01:05)
[10] 第10話 おっさんの苦悩[つぇ](2008/10/01 01:05)
[11] 第11話 はじめてのおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[12] 第12話 おっさんは嫌われもの[つぇ](2008/09/25 03:18)
[13] 第13話 暴露のおっさん[つぇ](2008/09/19 02:02)
[14] 第14話 地獄のおっさん[つぇ](2008/12/05 22:21)
[15] 第15話 おっさんの空しさ[つぇ](2008/10/27 01:51)
[16] 第16話 スパルタン・おっさん[つぇ](2008/12/27 01:44)
[17] 第17話 おっさんとおっさん[つぇ](2008/09/29 01:06)
[18] 第18話 おっさんの真意[つぇ](2008/09/29 01:06)
[19] 第19話 苦肉のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[20] 第20話 おっさんへの反乱[つぇ](2008/10/03 02:35)
[21] 第21話 おっさんの覚悟[つぇ](2008/12/27 01:44)
[22] 第22話 おっさんと将軍[つぇ](2008/10/24 02:06)
[23] 第23話 おっさん、逃げる[つぇ](2008/12/27 01:44)
[24] 第24話 おっさんの戦い[つぇ](2008/10/13 01:49)
[25] 第25話 夜明けのおっさん[つぇ](2008/10/13 01:49)
[26] 第26話 おっさんのカウンセリング[つぇ](2008/12/27 01:44)
[27] 第27話 おっさん、解禁[つぇ](2008/12/27 01:45)
[28] 第28話 おっさんの原点[つぇ](2008/11/15 03:09)
[29] 第29話 おっさんVersion2.0[つぇ](2008/10/27 01:52)
[30] 第30話 おっさんの謁見[つぇ](2008/10/27 01:52)
[31] 第31話 空のおっさん[つぇ](2008/10/30 01:31)
[32] 第32話 おっさんの悲願[つぇ](2008/12/05 22:21)
[33] 第33話 おっさんのイメージ[つぇ](2008/12/05 22:21)
[34] 第34話 おっさんの誤解[つぇ](2008/11/08 02:03)
[35] 第35話 おっさんの別れ[つぇ](2008/11/11 01:00)
[36] 第36話 おっさんとアラスカ[つぇ](2008/11/11 01:01)
[37] 第37話 おっさんの帰姦[つぇ](2008/11/19 00:38)
[38] 第38話 おっさんの誕生日プレゼント[つぇ](2008/12/10 01:18)
[39] 第39話 おっさんの再会[つぇ](2008/12/27 01:46)
[40] 第40話 おっさんの誤解~日本編~[つぇ](2008/12/10 01:18)
[41] 第41話 噂のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:43)
[42] 第42話 おっさんへの届け物[つぇ](2008/12/15 02:43)
[43] 第43話 おっさんの恋愛[つぇ](2008/12/27 01:45)
[44] 第44話 おっさんのシナリオ[つぇ](2008/12/27 01:47)
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[4010] 第42話 おっさんへの届け物
Name: つぇ◆8db1726c ID:a1045c0b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/15 02:43
【第42話 おっさんへの届け物】

<< 伊隅みちる >>

12月20日 朝 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム

「(ヒソヒソ)ほら遙。変態が来たよ」
「(ヒソヒソ)やめなよ、水月。かわいそうだよ」

宗像が現れるのを見て、速瀬が意地悪く、そしてわざとらしく、本人に聞こえるような音量で涼宮に耳打ちした。
涼宮はさりげなく追い討ちをかけていた。本人に悪気がないところが、始末が悪い。
宗像は一瞬顔をしかめたが、すぐにすました顔を取り戻して、速瀬以外と挨拶を交わした。
その光景を見て、私は宗像に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

発端は一昨日の夜にさかのぼる。
その晩宗像は、白銀中佐の部屋で、ピアティフ中尉と一緒に、下着姿で、中佐のパンツを頭にかぶって悶えていた。──悶えていたというのは、白銀中佐とピアティフ中尉の主観で、宗像本人は全くそんなつもりはなかったようだが。
それが中佐にばれてしまい、昨日、不名誉なふたつ名──『変態』が宗像に与えられた。
いくらなんでも、ひどいふたつ名だと思ったが、ピアティフ中尉の『嗅覚』だとかぶるし、『変態仮面』は四文字だから、という理由で『変態』となった。白銀中佐以外、その意味はわからなかった。

以前は、「気もち良ければ良い」と変態を匂わす発言をしていた宗像も、誤解で変態扱いされるとなると、面白くないようだ。
元々アイツの振舞いは、男を寄せ付けない為の演技のようなもの。
だが、変態のフリをしていた以上、変態扱いされても嫌だとは言えない所が憐れみを誘う。

白銀中佐に「宗像の変態は、演技じゃなかったんだな」と言われても「中佐の変態ぶりには敵いません」と皮肉を返すくらいだったが、その言葉が中佐の逆鱗?に触れ、次の休憩でヘロヘロの腰砕けにされて帰ってくる事になり、他の面子から同情的な、だが、数名からは羨ましげな目にさらされる事となった。

そんな宗像は、そこまでされても私の事は漏らしていない。
宗像の義理堅さに、こみ上げるものがあったが、その心に報いる道は、貰った品を有効に使うことだろう。
おかげで、昨晩の自慰は最高に盛り上がった。あれを使う前は、宗像に感謝しつつ使うことにした。

まあ、宗像もなんやかんやで楽しそうだから、放っておいていいだろう。
連日、中佐に可愛がられてるのだから、少しくらいは我慢するべきだ。

それよりも、私は榊の動向が気になっている。
私はまだ、正樹と白銀中佐のどちらをとるか、自分の中でケリを付けたわけではない。
そもそも、どちらにも相手にされていないのだから、どちらをとる、というのはおこがましいかもしれないが。
だが、宣言した以上、最も難攻に思える榊がどうにかならないと、私の選択肢は限られてしまうのだ。

「なあ榊。お前、白銀中佐の事、なんとも思わないのか?ちょっとくらい、好きとか」
「……思うわけありません」

思い切って、明るい口調で訊いてみたが、もの凄い目で睨まれてしまった。
昨日は中佐の副官として随伴したというのに、出発した時よりも悪化しているようだ。
身近に接することで、中佐への悪感情も少しは薄れるかと期待したのだが。

「だが、帝都の講習会では、堂々としてたんだろう?お前も認めてたじゃないか」

経緯はだいたい聞いたが、実りの無い講習会だったようだ。
榊の報告では、多数の嫌味に少しも動じず、紅蓮大将にまで凄んでみせたという。
その光景を思い浮かべて、さすがは私の好きになった人だと思ったものだ。
だが、榊には何の感銘も与えられなかったらしい。

「それは、いつもの事ですから、今更何も思いません。中佐の能力は元々認めています。だいたい、その後、私を数時間放置して、殿下とその護衛とよろしくやっていたのですから、帳消しどころかマイナスです」
「そ、そうか……」

出張に行く都度、メンバーを追加する中佐だから、今度はどんな女性だろうかと皆で笑って予想していたくらいだ。
結果を聞いてもやはりという思いだったし、衝撃を受けたのは、その護衛とゆかりのある御剣くらいだろうか。顔を随分引き攣らせていた。
思えばアイツも、言動から受ける印象より、親しみやすい奴だった。鼻から玉露出すし。

それにしても、榊は私に似ていると思っていたが、お堅い所までそっくりのようだ。
私の方が年のせいか、少しは柔らかいと思うが、まだまだこの中では身持ちが堅い方だろう。
もっとも、他のメンツが異常すぎるというのもあるだろうが……苛められるのが気持ちいいなど、理解の外だ。

その時、白銀中佐が入室してきたので、私は気持ちを切り替え、声を張り上げた。

「気を付けェ!──敬礼!」
「よし。──では、本日の訓練を開始する。作戦日まで残りわずか。シミュレーションでは上手く行っているが、気を緩めるなよ」
「了解!」×14

──この凛々しさ、格好良さに何も感じないとは……榊は、不感症なのだろうか。



…………………………



<< 月詠真那 >>

12月20日 午前 帝都城 応接室

「斉御司殿には、お手数をかけますが、よしなに」
「何の。悲願の佐渡島を奪い返すのです。摂家の者が出るのは当然のこと」

「私が出られれば良かったのですが……」
「殿下には別のお働きがございましょう。此度は臣にお任せください」

この小さな応接室で、斉御司様と煌武院殿下がお打ち合わせをなさっている。──といっても形式的なもので、この場には殿下と斉御司様と、私と真耶の4名だ。
本来であれば、私と真耶はそれぞれ斉御司様と殿下の背後に立つべきであるが、他の者もおらぬゆえ、と仰られたので、畏れ多くも相席させて頂いている。
殿下と斉御司様は、御幼少のみぎりよりの仲。自然、会話の内容もくだけたものになってきたところで、斉御司様が話題を変えた。

「さて、……殿下のご身辺の事をお伺いしてよろしいですかな?」

そのお言葉で、殿下のお顔が少し硬くなられた。

「遠まわしな言い方はおよしなさい。白銀の事であろう」
「御意……」
「斉御司殿も、侍従長のように苦言を申されるか」

あの侍従長であれば、白銀中佐との仲に対して、小言は尽きないだろう。
殿下が警戒するのも無理は無いが、斉御司様の意図はそれとは異なる。

「いえ、その逆です。さっさと仲をお進めなさるべきかと」

先を促す殿下に対し、斉御司様は言葉を続けた。
妙な噂が飛び交ったり、身の程知らずが中佐に隔意をあらわにするのは、殿下との仲がまだ決定的ではないから生じていると。
事実がはっきりして白銀中佐が公式に立場を得れば、有象無象も黙るしかないのだと。

「なるほど。……しかし、白銀の意見も訊かねばなりません」
「白銀とて、殿下のお立場はわかっていましょう」

他に数人女性がいたとしても、殿下を正妻にせねば、世論が収まるはずがない。
白銀本人に別の考えがあっても、回りの女性に、殿下を差し置いて正室になる意志などはあるまい。殿下を妾になど、日本人の誰が考えうるだろうか。
だが殿下は、他の女性について遠慮がおありのようで、そうするしかないとはお分かりでも、戸惑いが見えた。
斉御司様は、他の女性の事が気になったか、それとも最初から聞くつもりだったのか。その事について問われた。

「そういえば、殿下は白銀と恋仲の者が何人いるか、御存じなのですか?私も、噂では色々聞いているのですが」
「私を含めて、21人です」

殿下はごくあっさりと、何気なくお答えになったが、それが生んだ衝撃は小さいものではなかった。

「──いや、先日22人になったのであったな、真耶」
「御意」

何故、意味ありげな目で真耶に確認されたのか気にかかったが、22人という数字に驚いて、それどころではなかった。

──20人という噂は大げさだと思っていたが……尾ひれが付いたわけではなかったのか。

驚く私たちを、悪戯が成功したかのように面白気に見て、殿下はお言葉を続けられた。

「ちなみに、予定では、30と少しで抑えるつもりと申しておりました」
「「……」」

私は、再び、斉御司様ともに言葉を失った。
30人……古代の権力者に比べれば可愛いものだろうが、現代でその数は常識外れだ。

──いや、待て。

さきほど殿下は“予定”と仰ったが……もしやその数には、私も含められているのだろうか。

「そ、それは凄いですな。体は持つのでしょうか。あの若さで腎虚など……」

斉御司様は、手布で額の汗を拭きながら冗談のように仰ったが、それが不味い振りだったことにすぐ気付かされる。
殿下は楽しげに答えられた。

「ほほ、それは杞憂というもの。白銀の精は限りがありません。先日など、許しを乞う私の、穴という穴を散々に「殿下、それ以上は」──そうであったな」

真耶に途中で遮られた為、全ては聞けなかったが、予想はたやすかった。
殿下の「白銀に注意されていたというのに、私とした事が」の御言葉を聞きながら、斉御司様と目線を交わし合い、わずかに頷き合う。

──すでに、殿下は……。

立場上、当然、真耶も承知だろうが、私の知る限り、彼女は最も白銀中佐を嫌う人物。
睦み事の間、どのような気持ちで警護していたのやら……。

黙っていた事に含みはない。当然の事だ。
殿下の相手が気に入らないからと言って、秘事を他言するようでは、側近ではない。
だが、あまりに平然と……というよりも、どことなく機嫌が良さそうに見えたのが、気になった。

「申し訳ありませんが、此度の話は内密にお願いします」
「し、承知した……このような事、言えるものか……」

真耶が澄まし顔で口にした依頼に、斉御司様は応じたが、後半の御言葉は、本音を吐露したものだろう。

その後、委細はご承知いただいたので、後日、白銀中佐と方針を定めることとなり、話は一旦落ちついた。
私は、真耶のあまりの冷静ぶりに違和感を感じていた。
控えるべきではあったが、殿下の「無礼講」の御言葉に甘え、問いを発することにした。

「真耶。お前、随分平然としているのだな。以前会った時は、白銀中佐を随分嫌っていたではないか」
「ふ……あれか。あれは、私が浅はかだっただけだ」

どういうことだと訊ねる前に、真耶はうっとりとした目で滔々と語り出した。

「あの方こそ、殿下にふさわしい唯一のお方。少し冷静になれば、あれほど神に近い方はおらぬという事は、明らかであったのに……以前の私の、何と愚かしいことか」

──ちょ、神て、おい。

私の突っ込みの言葉は、口に出す寸前で飲み込んだ。
真耶の言葉を否定すれば、私は彼女の敵とみなされる──と、武人としての本能で、そう感じたからだ。
その時、先ほどの殿下と真耶のやりとりが思い出され、その恐るべき想像に身を震わせながら、再び問うた。

「ま、まさか、先ほど22人目と答えたのは……」
「ふ……聞かれなかったので言わなんだが……そうだ、私が22人目だ」

そう言って、真耶はとても誇らしげに、胸をそらした。
殿下と並ぶのは畏れ多いが、あの方は平等に愛してくださるのだ、と嬉しそうに話す真耶を見て、私は夢でも見ているのではと疑った。

──これは……本当にあの真耶か?

これは、どう見ても洗脳ではないか。
殿下のご様子も同じく……しかし、そのような外道を行なう男ではないはず。
そんな男なら、私をとっくに嬲り者にしている。

──まさか、私も、ああするつもりなのか……?

理屈もわからず、自分が自分でなくなることを恐ろしくも思ったが、目前で、心底幸せを噛みしめている様子の殿下と真耶を見ると、それもまた良いのかもしれぬ、と思ったのも事実。
すでに、底なし沼に、片足を突っ込んでしまったように思えた。

助けを求める為ではないが、ふと隣を横目で見ると、斉御司様が、目が虚ろになって固まっていた。
五摂家随一の伊達男として評判高い、端整な面立ちに浮かぶあの涼やかな微笑みは、欠片も残っていなかった。

──そう言えば、この方は真耶に気があるのでは、と思うそぶりがあったのだが……むごい結果になってしまったか。



…………………………



<< 榊千鶴 >>

12月20日 午後 国連軍横浜基地 廊下

強化装備から軍装に着替え終え、私は、なんとか今日の訓練を無事過ごせた事に、安堵していた。
今朝の伊隅大尉の言葉には、冷静に返すつもりだったけれど、「好きじゃないのか」と言われた時は頭がカッとなりそうだった。
私をあんなに散々、好き勝手に嬲る男に好意なんて……冗談じゃない。
私の純潔をはじめ、大事なものを色々奪い、今だに縛り付けている男を思うと、苦々しい気持ちになった。

「榊」

その時、背後からかかった声は、間違えようもない。せっかく訓練が終わって解放されたと思ったのに……。
しかし、上官に呼ばれて無視するわけにはいかない。

「なんでしょう?」

無表情を作って振り向くと、予想通り白銀中佐が立っていたが、それに寄り添うように、鑑が居た。
このふたりは、一緒にいる事が多い。
新型兵器、凄乃皇の調整作業に従事しているのだから、それも当然だけれど。

中佐は、ときどき鑑と特殊訓練名目で時間を空けるから、その時は時間を空けておくように、と“命令”してきた。
私が断る可能性など、一切考慮していない事には、今更だから何も言わない。
それよりも、鑑が事情を知っている事に、私は落ち込んだ。

「内緒にしてくれるって、言ったじゃないですか……」
「他言しないと言ったのは、純夏に伝えた次の日だ。それに、お前とヤってた時間、純夏が一緒だった事にしてくれたから、誰にも追及されなかったんだぞ?」
「そ、それは……」

そんなもの、“特殊任務”で良かったじゃない、と思ったけれど、無駄そうなので反論は止めた。
もう一昨日のような事はないと思っていたのに、これからもあるということか……。
まるで、両足が膝まで、底なし沼に浸かってしまったような気分だった。

中佐は、暗くなる私を面白そうに見て、軽薄な口調で私に訊ねてきた。

「で、言いつけはちゃんと守ってるか?ん?」

出張後の言いつけで、私は寝る前に、『撃震』とかいうムカつく物体で、最低3回は自慰をするように命じられた。
絶頂と同時に、白銀中佐の名前を呼ぶように、とも。
従わないとひどいことをするぞ、と悪戯っ子のように、冗談ぽく言われたが、この変態は予想の遥か斜め上を行く男。
自慰くらいで予防できるなら安いものだと自分に言い聞かせ、しぶしぶ従ったのだ。

「……はい」
「嘘だな」

私の返事をばっさり切り捨てる。

「嘘じゃありません」
「3回やってるのは本当だが、名前は呼んでないだろ?」

確信を持っている中佐の表情を見て、私は冷や汗が流れた。

「どうして──まさか、盗聴!?」

私の問いつめには、中佐は呆れたような表情で、否定してきた。

「おいおい、そんな野暮な真似するかよ。好きな女の表情くらい読めるさ」

──くッ!

こうして時々、好きとか愛してるとかの虚言で、惑わせてくるから腹立たしい。
それにいちいち反応する私も私なのだけれど、どういうカラクリか、体をぼんやり光らせるのは止めてほしい。
お願いしても惚けられるだけだから私も触れないけれど、ピカピカと、鬱陶しいことこの上ない。

その後、再び命令を守る事を誓わされて、私はその場を解放された。



<< おっさん >>

肩を落として離れる千鶴が視界から消えた後、俺は純夏にねぎらいの言葉をかけた。

「純夏、サンキューな」
「いーえ、どういたしまして。中佐殿」

純夏は口を尖らせてそう答えた後、バッフワイト素子が組み込まれたリボンを付け直した。
千鶴の嘘の判定に、純夏に協力を願い、結果をプロジェクション能力で教えて貰ったというわけだ。

「そう拗ねるなよ。こんな使い方はこれっきりだ」

純夏は、任務でなければよほどの事が無い限り、人の心は覗きたくないと考える。
そんな純夏にリーディングさせた事に怒っていると思ったので、素直に詫びを入れた。
だが、これは千鶴育成計画に、どうしても必要な一歩なのだ。──ま、霞でも良かったんだが。

「そんな事じゃないの。……よくあんな鬼畜な事出来るね」

俺の予想とは異なり、純夏が気に入らなかったのは、千鶴への態度だったようだ。

「あれも愛情のひとつだ。深いところじゃ、喜んでたろ?」
「そうだけどさ……宗像中尉にしても、ピアティフ中尉に流されてやった事わかってて、あんな名前つけるんだから。ホント、意地悪だね」

「あれは、まあノリだ。アイツの困った様子がなかなかそそるんだ」
「ふーん……」

はっきりしない純夏の心境には見当がついたので、からかうように訊ねてみた。

「なんだ、妬いてるのか?」
「……そうだよ」

俺が白銀・弐型に進化しても、コイツには同じに見えるそうで、さすがは、半分は俺でできていると豪語する幼馴染、というところだが、その分、嫉妬心が一番強い。
といっても、昔に比べれば可愛いものだが。
“元の”世界では、ちょっと仲良くするだけで、理不尽に渾身のパンチを俺に浴びせていたくらいなのだ。
この程度ならむしろ微笑ましいが、今回のは自分の状況を棚に上げた台詞だったので、突っ込んでおく。

「ここのところ、俺を一番独占してるやつが何を言う」

嫉妬を我慢しろ、だけではすまないのが00ユニットの辛いところ。精神的負荷はODLの劣化につながる。
ゆえに、ほぼ毎日、安定作業と称してじっくり抱く必要があるのだ。
人類の命運がかかったセックスなのだが、やってる内容はいつもと変わらない。

「時間じゃなくて……榊さんに対するとき、タケルちゃん、生き生きしてるもん」
「そりゃ、しょうがない。相性の問題だ」

ソフトSたる俺は、Mッ気が強い女を相手するとき、最も真価を発揮できる。
レッドゾーンギリギリの所が一番なのだが、まりもなどは少々振りきれてしまっているので、アクセルが踏めない。
今最も“旬”なのが、千鶴なのだ。
それでも純夏が不満そうだったので、俺から振ってやることにした。

「正直に言えよ。お前も、同じようにして欲しいんだろ?」
「……タケルちゃんって……凄いね」

「なにが?」
「だって、わたしの考え全部当てちゃうんだもん。なんか、タケルちゃんが00ユニットみたいだね」

「だとすれば、純夏専用の00ユニットだな。お前以外はよくわからないからなぁ」
「うそつき……他の子のもでしょ」

それは、“前の”世界でも交わした、暖かい会話だった。



…………………………



<< 珠瀬壬姫 >>

12月18日 夕方 国連軍横浜基地 PX

2日経っても、私はまだ信じたく無い気持ちがあった。──白銀中佐を好きだという気持ちを。
でも、見惚れたりする事は、言われてみれば確かだし、寝る前に、白銀中佐に抱き締められた時の事を思い出して安眠に入るのは、ここ最近の習慣。
それを考えれば……やっぱり、認めるしかないのだろう。
何十股もかける人を好きになるとは思わなかったけれど、自分をいつまで誤魔化しても、始まらない。

認める方向に気持ちが傾いたものの、引っかかっていることがひとつ。──“チンクシャ”というTACネーム。
中佐の訓練の言動は、本心からではないと納得はできたものの、あれが引っかかって、どうも素直にみんなと同調できない。

身体的にお子様なのは自分でもわかっているし、社さんと違って、私は将来性もない。
相手として見られていなくても、仕方がないという気持ちがある。
自信満々に、近々告白すると公言する彩峰さんとは、条件が違い過ぎる。

似たような立場なため、鎧衣さんとこの事について良く話すようになった。
最近では、夜は鎧衣さんの部屋で相談し合うのが、恒例になった。──といっても、傷の舐めあいみたいなもの。
鎧衣さんが中佐に口説かれるか、中佐を口説いてくれるかできれば、私の未来も明るいのだけれど、鎧衣さんも同じような気持ちらしく、たまに探るように私の動向をうかがっている。

この煮え切らない状態は、いつか変化する時が来るのだろうか、と思いながら、私は着替え終えた後、夕食を採るべくPXへと向かった。

最近のこの時間は、白銀中佐は鑑さんと特殊任務にあたっている事を思い出し、夕食の場にあの精悍な姿が見えないだろう事に、一抹の寂しさを覚えた。



…………………………



<< 香月夕呼 >>

12月20日 夜 国連軍横浜基地 香月夕呼執務室

「──報告は以上です」
「御苦労さま。万事、順調ね」

「まあ、一度経験した事ですから。クーデターの時のような不確定要素もあるので、油断はできませんが」
「そうね」

00ユニット、帝国軍の戦力配備、訓練状況、反対派の動向。全て、この時点では順調に推移している。
佐渡島をまだ落としてもいない状況だけれど、問題はその後だ。
白銀の体験は、佐渡島を落として、その後、大陸から大多数のBETAが横浜に向けて侵攻して来た所まで。

それによると、佐渡島ハイヴの反応炉破壊後、BETAの残党は全て朝鮮半島のハイヴへ向かうそうだから、“今回”も残党が横浜に向かってくる可能性は低い。
佐渡島が落ちれば、残党はオリジナルハイヴに近い大陸方面に向かう──という、私の推測とも合致する。
もちろん、万が一の警戒はするし、備えも用意してあるが……あまり考慮しなくていいだろう。脳のリソースを割くべき事項は、他にも多くあるのだ。

「あと、アラスカの女の招聘だけど、受け入れられたわよ。年内には機体と一緒に届くわ」
「そうですか」

衛士4人と、不知火弐型2機と、複座型Su-37を1機。
さすがに斯衛の女は引き抜けないが、3機分の追加要員は心強い。

ロシアのふたりの上官には、若干渋い顔をされたけれど、こちらが「なら結構」と引こうとすると、慌てて取り繕ってきた。
あの様子では、こちらがすでにオルタネイティヴ計画を達成していることに、薄々気付いているようだ。
シミュレーターのデータに採取情報を反映したのだから、スパイに漏れてもおかしくはない。
達成の正式な通達は、佐渡島を落とした後に予定している。
オルタネイティヴ計画の成果をもって佐渡島を落とした、という事実が、反対派に留めを刺す手になるからだ。

それはともかく、私が直々に交渉してやったというのに、白銀がなんとなく嬉しくなさそうなのが気になった。

「あまり、嬉しそうじゃないのね?」
「いえ、嬉しいですよ」

「煮え切らないわね。言いなさいよ」
「……オリジナルハイヴに突っ込ませる事を考えれば、喜んでばかりいられません」

「そう──だったわね」
「まあ、戦力増強に賛同したのは俺ですから、お気になさらず」

佐渡島ハイヴや、オリジナルハイヴに突っ込むのは、すべて白銀の恋人か、そのターゲットだ。
先日、アラスカの連中を呼ぶことを決めた時は、平然としていたから気付かなかったけれど、自分の恋人を死地に追いやって喜ぶ男じゃない。
元々A-01に居た面々はともかく、207にとっても、当初は衛士になれない方が良いとまで言っていた程なのだ。

それでも私の提案を遮らなかったのは、それが今後の作戦に有効だと判断したからだろう。
クーデター以来、コイツの阿呆なところばかり目立っていたけれど、こういう男である事を、私はどこか失念していたようだ。
今更、多少の犠牲で罪悪感など感じるはずもないのだけれど、白銀の心境を推し量れなかったことが、後ろめたく思った。

そこで、白銀が神妙な顔をして、言葉を発した。

「ところで、真面目な相談なんですが……純夏の身体のパーティション、消せませんかね」
「メンテナンス機器の接続端子用だから……あれ以上は難しいわね」
「そうですか……」

もしかしたら、あれが原因で、鑑に心理的ストレスを与えているのかもしれない。
そうなのかと聞くと、白銀は首を横に振った。



「いえ、あれがあると、他の連中と一緒にできないんです。あれだと、霞とピアティフしか組み合わせられません」



「……もしかして、セックスのこと?」
「ええ。──それ以外に、何があるんですか?」

本当に、真面目に話しているつもりのようだ。

私はにっこり笑って、白銀を手招きをし、──その顔に、思いっきり拳骨を叩き付けた。
拳は痛くなったけれど、どうしてこんな男を好きになってしまったのかという情けない気持ちに比べれば、些細なものだった。



…………………………



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12月20日 夕方 国連軍横浜基地 鎧衣美琴自室

「良かったぁ……父さん、無事だったんだ」

音信不通だった父さんからの荷物と手紙。それを見て、ボクは長い間の不安が解消され、大きく溜息をついた。
かなりの変人だけれど、あれでも大事な父親だ。

手紙には、クーデターでごたごたして連絡をとる暇がなかったけど、無事であること。そして、今まで通り仕事に励んでいる事が記されていた。
その他、内容が突然変わるのは今更だから、なんとも思わない。むしろ、父さんらしいと、頬が緩んだ。

追伸に、白銀中佐へのお土産を渡すようにと記されていた。
どうも、以前に父さんが贈った“コレ”がいたく気に入っていたようなので、もう一つプレゼントする、とのことだ。

──何考えてるんだろ。気に入ったといっても、こんなモノふたつ貰って、喜ぶわけないのに……。

むしろ、父さんの嫌がらせと、とられてしまう可能性が高い。
それでも、中佐と話せる良い口実だと思った。
うまくすれば、ふたりきりで話せるかもしれない。──そういえば、ボクは一度も、中佐とふたりきりで話した事が無い。
とりあえず持って行ってみて、良い顔をしなかったらボクが引き取ればいいのだ。
ムー大陸のお土産の横にでも飾っておけばいいし。

方針が決まったので、贈り物をポケットにしまい、ドキドキしながら部屋を出た。
扉を出て少し歩いた所で、エレベーターから中佐が出てきたところに出くわした。
たぶん、副司令の執務室から戻ったところだろう。

「あ、白銀中佐!」
「おう、鎧衣か。どうした」
「ちょっと、中佐に用事が──あ、口が……」

中佐の口から血が出ているのを見て、ボクは焦った。

「手当しなきゃ!」
中佐が「いや、大したものじゃ──」と良いかけたのも聞かず、ボクは中佐を自室へと引っ張り込んだ。



…………………………



(数分後)

ちょっとした手当くらいはできると思って、つい連れ込んだけれど、我ながら大胆な事をしてしまった。
手当といっても、消毒して絆創膏を貼ったくらいだけれど、それでも何かしてあげられた事に、少し満足を覚えた。

そこで、中佐をまともに殴れるほどの相手が気になったので、訊ねてみると、

「気にするな。副司令と、ちょっと意見の食い違いがあってな。上官が殴るのを、避けるわけにもいかん」

という答えが返ってきた。
あの副司令が……いや、やりそうだけど、あの人と中佐が仲違いして大丈夫なのだろうか。
その不安を口にすると、中佐はあのいつもの格好良い笑みを浮かべて言った。

「部下の為に、殴られてでも上に意見を言わなければならない時がある。それが今回だっただけだ。まあ、尾を引くもんじゃないから、大丈夫だ」

部下のために……そう。この人はいつもボクたちのために、いろいろ配慮してくれていた。
今回の事も、やっぱり裏で、誰かのために動いた結果なのだろう。

「それに、非力な副司令の拳など、たかが知れている。当たり所が悪かったから血が出てしまったが、お前の一撃の方が、よほど効いたぞ?」

ボクが以前殴った時の事を思い出し、血の気が引いた。
いつかあの事は、感謝とともに謝ろうと思っていたのに……。

「あ、あの時は、すみませんでした!」
「はは、冗談が過ぎた。あれは俺が煽った結果だ。あれで謝られるなら、俺は何回、貴様に謝ればいいかわからん」

慌てて頭を下げるボクだったけれど、中佐は笑って手を振った。
最近はようやく慣れたつもりだったけれど、近くで中佐を正視したことで、顔が赤くなり、心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じた。

中佐への思いは、ボクの中では決定的だ。
まるで、頭のてっぺんまで、底なし沼にはまった気分。──けれど、それがとても心地良い。

話を変えるつもりもあり、ボクは父さんの無事を伝えた。中佐は嬉しそうに、良かったな、と言ってくれた。
その後は自然と父さんの話題になり、ボクの小さい頃の苦労話で、話が弾んだ。

「──そんな感じで、女の子として扱ってくれないんですよ!」
「ははは、親父さんらしいな」

好きな人とふたりきりで話すという状況に、ボクは浮かれてしまい、とても饒舌になっていた。
後で考えれば、かなり鬱陶しい話しぶりだったけれど、中佐は、そんなボクを暖かく見ながら、相槌を打ってくれた。
そして、話題が途切れたところで、中佐がボクの部屋を眺めて感想を漏らした。

「色んなものがあるなぁ。全部、親父さんの土産かな?」
「ええ。色んな場所で色んな物を買って、送ってくるんです」

少し恥ずかしかったけど、中佐が興味深そうなので、嬉しい気持ちが勝った。

「へぇ。この置物、お前も持っていたのか。俺もこの間、親父さんから貰ったぞ」

そう言って手にとったのは、ムー大陸のお土産と称して送られてきたもの。
中佐と同じものを持っている事が、ボクは嬉しくて、また頬が緩むのを感じた。

その時、中佐が何かに気付いたように笑みを消し、真剣な表情で訊ねてきた。

「な、なぁ、鎧衣……ポケットに入るくらいのモアイ像、持ってたりするか?」
「え?は、はい。持ってますよ」

丁度、渡しに行く所だったので、頷いてポケットに入れていたモアイ像を取り出すや否や、中佐はボクに詰め寄って来た。

「そ、それ!……もし良かったら、譲ってくれないか!」

珍しく──というか、初めて見る、中佐の必死な姿。
これの何が気に入ったんだろうか。ふたつ目のはずなのに……。

「頼む!俺に出来る事なら、なんでもするから!」

元々差し出すつもりだったから、もちろん異論はないのだけれど、その中佐の言葉を聞いて、ボクの心にある欲求が湧きあがった。
こんな、ふたりきりになれるチャンスなんて、もう無いかもしれない。
もし中佐にその気があれば、とっくに口説かれているはずなのに、その気配が無い。
やっぱり、ボクは対象外なんだとがっかりする気持ちがあった。
だから、とても勇気が必要だったけれど、これが最後の機会と思い、ボクは想いを口にした。

「あの……」
「なんだ?何でも言っていいぞ」
「えっと、なら……試しに、ボクなんてどうかな、って」

言葉だけ聞けば、何の事かわからないだろうけど、ボクの顔は自分でも分かるくらい、火照っている。
中佐なら、これで分かってくれるはず。でも──



「断る」



予想と、覚悟はしていたけれど……辛かった。

「あ、そうですよね……すみません、変なこと言って」

やっぱり図々しかったかと思い、泣きそうになってしまったけれど、涙を流せば中佐に余計な重荷を与える事になる。
耐えよう。せめて、中佐が部屋から出て行くまでは。

「あ、でも置物は差し上げま──あッ?」

言葉の途中で、勢いよく抱き寄せられ──耳元で優しくささやかれた。

「お前相手に試しなどはないよ。お前とは本気で付き合う」
「え!?で、でも、ボク、他の人と違って胸とか──」

人差し指の先で、口を押さえられた。
触れたところが熱い。

「“美琴”。お前にはお前の良さがある。てことで……貰うぞ?」
「……どうぞ」

悲しい涙が嬉しい涙に変わり、胸がいっぱいだったけれど、言うべき言葉は言えた。


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