Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第31話 動き出す影総戦技演習の行われている南の島は、突如として発生した地震によって演習に参加している訓練部隊の面々はもちろんの事、スタッフとして参加していた夕呼達ですら予想だにしない出来事だった事は言うまでもない。兎に角今は状況確認及び、自分達の安全が最優先されるため、夕呼は関係各所に連絡を取り情報収集を開始すると共に現地スタッフに高台への避難を命じていた。実を言うと夕呼は、今回の一件に関して何とも言えぬ不安に駆られていたのである。それもそうであろう。前回同様、今回も息抜きを兼ねたバカンスの為にこの島へと彼女はやって来たのだ。しかし、そこでいきなり発生した地震。近くに海底火山は存在しているかもしれないが、それが噴火する可能性があるなどといった情報は入ってきていない。だとすると火山噴火が原因の地震では無いという事になる。そうなれば原因の一つに挙げられる事と言えば、何者かが地中深くを動いているという可能性も否定できないのだ。この時彼女は、もしかするとBETAがこの島の近くを移動しているのかも知れないという考えに達していたのである。無論、あくまで可能性の話であって、ただ単に近場の海底火山が噴火しただけなのかもしれない訳なのだが―――「―――という事なのよ。そちらの方で何か観測できた事は?」『もう少しお待ち下さい・・・出ました。どうやらその島から南西20キロ程の地点に海底火山が存在している様です』「今回の地震はそれが噴火しようとして起こってると考えるべきかしら?」『恐らくその通りだと考えられます。ですが細かな情報が得られていない為、此方からの観測データでは何とも言えません」「そう・・・悪いけど白銀と南部達の部隊、それから観測部隊をこっちによこしてくれないかしら?」『失礼ですが副司令、白銀大尉達を出撃させるより近隣基地の部隊に応援を要請する方が短時間で済むと思うのですが・・・?』「確かにアンタの言う通りね。でもね、あの連中がそう簡単に動くと思う?それこそ難癖つけられて最悪の場合対応が遅れてしまう可能性が高くなるわ。アタシが横浜の部隊を出撃させろと言ったのはそれもあるけど、彼らに周辺海域の調査を行って貰いたいのよ。その方がアタシも指示を出しやすいし、もしも最悪の事態になった場合は脱出する為の手段が必要になって来るわ。いざという時にスムーズに動けない奴等が駒よりは白銀達の方が便利でしょ?」この演習はインドネシア諸島に存在する国連軍基地の所轄内の無人島で行われている。本来ならば自分達の管轄内で起こった事に関しては、同基地の部隊が担当するのは当たり前だ。普通ならば近隣で何かが起こればそうなるのであろうが、この場所には夕呼が居るという事を忘れてはならない。彼女の存在は、時として大きな切り札になる事もあれば、その逆もまた在り得るという事なのである。国連軍もそうだが、彼女の頭脳や性格と言った物は軍上層部に身を置く者であれば噂位は聞いた事がある者が殆どだろう。己の利の為に協力をしてくる者もいれば、逆に利用される事を嫌う者もいる。そして夕呼自身が自分が利用されるのを嫌う為、その殆どが後にどの様な無理難題を吹っ掛けられるか分からないと言った理由から率先して協力を申し出て来る可能性は低いのだ。恐らく彼女は、こう言った理由から近隣の基地に協力を求めずに横浜の部隊を動かす事にしたのであろう。無論、この様な事は越権行為以外の何物でもないのだが、彼女にそのような事を言った所で無駄なのだ。まさに暖簾に腕押し、糠に釘といった言葉が似合っていると言っても良い程に―――『なるほど・・・了解しました。』「頼んだわ。また何かあったらこちらから連絡するから」『ハッ!』通信を終えた夕呼は、とりあえずの処置として現在演習に参加しているスタッフに訓練生達の状況を調べさせる事にした。この様に想定外の事故が起こった場合の事を考え、訓練生達には予めGPS発信器が装備されている。もちろんこの事は訓練生達には内緒なのだが、彼らの現在位置が把握できていなければこちらとしても問題が多いのだ。彼らの進軍速度や現在の状態が解らなければ、此方としても対処が遅れてしまう。これは、過去の演習での事故を基に得た教訓でもあった。「結構大きな地震だったね」「ええ、他の皆は大丈夫かしら?」「・・・」「御剣さん、どうかしたの?」「いや、大した事では無い。少々考え事をしていたのでな」「地震の事?」「ああ、この島は火山島で無かったと記憶している。それに過去の演習においても地震が発生したなどという事は聞いた事が無かったのでな」「確かにそうね。でも、今まで起らなかっただけかもしれないわ」「フム・・・榊の言う通りかもしれんな。兎に角、津波の心配もある故、暫くは海岸方面へは行かない方が良いだろう。今後も地震が頻発するようであれば進軍ルートを考え直す事も視野に入れねばならぬやもしれん」「そうね・・・とりあえず、今のところは最初のプラン通りで問題無いと思うわ。私達が考えたルートには切り立った崖なんかも無いし、落石や崩落といった心配は無い筈よ」「うむ、先程の意見と逆を言ってしまう事になるが、今後どの様になるか分からぬ以上、先を急いだ方が良いかもしれん」「御剣さんの言う通りかもしれないわ。榊さん、私は大丈夫だからもう少しペースをあげましょ?」「解ったわ」千鶴達Aチームは、状況把握を最優先とし、満場一致で進軍速度を速める事にした。結果としてこれが功を奏し、彼女達は予定よりも早く目的地に到着する事となったのである。そして他のチームはというと―――「かなりの揺れだったな・・・アラド、大丈夫か?」「俺は問題無いッス。それよりもブリットさん、この先のルートは大丈夫ですかね?」「どうだろうな。一度確認してみない事には、何とも言えないかもしれない」「このルートが使えないとなると、トラップが多い方のルートになっちゃいますね」「ああ、できればそれだけは避けたいところなんだが―――」当初彼等が予定していたルートは、渓谷に沿う様な形のルートであった為、先程の地震が原因となり通れない可能性が出てきていた。流石にこればかりは現在の位置からでは確認する事は不可能であり、ブリット達Dチームは再度進軍ルートを検討しなおさなければならなくなってしまっていたのである。「やはりこのまま闇雲に進むよりは、多少危険だとしてもこちらのルートを通った方が良いかもしれないな」「トラップはどうするんです?」「解除して行くしか無いだろう。とりあえず、どうしても解除しなければならない物だけに限定して行くとしよう」「了解ッス」彼らは当初のプランを変更し、なるべくならば通りたく無いルートを選択する事となった。訓練部隊内でトラップ解除のスペシャリストは美琴である事は言うまでもないのだが、彼女にはより多くのトラップが存在しているであろうルートを選択して貰っている。無い物強請りをしたところで意味が無い事は重々承知している彼らであったが、後にこの選択が吉と出る事になろうとはまだ誰も気付いていなかったのであった―――「二人とも大丈夫?」「こっちは問題無い」「私も大丈夫ですの。それよりも美琴、私達はこのまま進んでも良いのでしょうか?」「・・・うーん、僕達のルートは目標地点までは比較的森ばかりだから大丈夫だと思うんだけど」「問題は目標地点周辺。地図を見る限りではこのポイントは崖下に在るみたいだから、下手をすると目標地点にたどり着けない可能性が出てくる」「ラトゥーニの言う通りなんだよねぇ・・・でもこればっかりは近くまで行かないと確認できないし・・・」「迂回しなくてはならない可能性が在るというのなら、もう少し行軍速度を速めた方が良いと思いますの。いざ現場に辿り着いて目標が破壊できないという事になってしまったら演習そのものの失敗を意味しますし・・・」「そうだね。後の事を考えるなら、序盤はなるべく温存しておいた方が良いんだけど今回ばかりはそうも言ってられないしね」「そうと決まれば善は急げですの」「了解」そして、彩峰チームは―――「大きな地震でしたねぇ」「そだね・・・どうしたのゼオラ?」「うん・・・何か妙な胸騒ぎがして・・・」「どんな?」「なんて言うのかしら、言葉では言い表せないって言うか・・・」「気のせいですよ。ほら、演習で緊張してるからじゃないですか?」「そうそう」「だと良いんだけど・・・」「何なら緊張を解してあげようか?」「え、遠慮しておくわ」「チッ」「と、兎に角先を急ぎましょうよ。さっきの地震でこの先がどうなってるか判らないし、時間も勿体ないわ」「そうですね。行きましょう」「解った」この場に武が居たならば、さぞかし驚いていた事だろう。総戦技演習合格という共通の目標があったとはいえ、彼女達は予想以上の纏まりを見せていたのである。各々が予期せぬ出来事に対し、柔軟な発想で事に当たっている事を他の誰も想像出来なかったに違いない。そして彼女達は、当初の予定よりも早く最初の目標地点に到着した事により、今後の行軍について綿密な打ち合わせを行う事が可能となっていた。その頃横浜では―――「―――なるほど、そう言う事なら直ちに出撃準備に取り掛かるとしよう」「でもキョウスケ、私達の機体もそうだけど、戦術機じゃこんな長距離を短時間で移動できないわよ?」「それでしたら問題ありません。現在、整備班が急ピッチで長距離移動用のブースターユニットの準備に取り掛かっています。それからこれが仕様書です。」「ねえイリーナちゃん、あんまり高い所を飛んじゃったら光線級のレーザー照射の餌食になっちゃうんじゃなかったっけ?」「エクセ姉様、仕様書によると飛行ユニットでは無い様です。匍匐飛行用のホバーユニット的な物と考えれば問題無いかと・・・」「なるほどね。そう言えばタケル君とアクセルはどうしたのかしら?」「白銀大尉は現在こちらへ向かっているとの事です。アルマー中尉は副司令から別任務を与えられているとかでそちらを優先させろとの事なんですが・・・」ピアティフが言ったアクセルの任務というのはもちろん嘘である。彼が現在行っているのは、夕呼からの指令では無く個人的な調べものだ。そちらを優先的に進めて良いと彼女に言われている事から彼は、召集に応じずにブリーフィングには参加していない。そんなアクセルはピアティフに、夕呼からの指令でとキョウスケ達に伝える様に指示を出していたのだった。その後、遅れて武もブリーフィングルームへと現れ、再度今回の任務が伝えられる。そしてミーティングが終了し、彼らは総戦技演習の行われている島へと向かう事になったのであった―――・・・横浜基地郊外・・・ミーティングが行われている中アクセルは、廃墟と化した柊町へとやって来ていた。ピアティフには調べものがあると言っていた筈の彼が、何故この様な場所に来ているのか?それは新潟での任務終了後へと遡るのだが―――「―――指定されたポイントはここか・・・さて、居るんだろう?隠れてないで出てきたらどうだ?」だが、周囲に人影はおろか生物の気配すらしていない―――アクセルは新潟での任務中、とある特種回線を用いた暗号データを受け取っていたのである。それはかつての自分が所属していた部隊でのみ使用されている暗号通信であり、その組織内のメンバーにしか解読は出来ない物だった。この世界でそれを使用できる人物に心当たりがあるのはラミアだけであるのだが、彼女からはその暗号通信を使用したり受け取ったという様な素振りは見て取れなかった。という事は、自分達以外の何者かがこの世界へと訪れている証拠であり、その人物が自分にだけ連絡を寄越したという事になるのだ。恐らくその人物は、戦場でソウルゲインを目撃した事で行動を起こしたのであろうが、明らかに軽率な行いだと初め彼は考えていた。しかし、その内容を最後まで読んだ後、考えを改めざるを得なくなってしまったのである。「・・・やはり居るな。数は1,2,3・・・全部で5人か、随分と俺を舐めてかかっているようだ、な」『そうでもないさ、下手に大人数で押し寄せて貴様に要らぬ警戒心を抱かせるのはどうかと思ってな』「っ!?」『久しいなアクセル、よもやこの様な場所で貴様に会えるとは思ってもいなかったぞ』「それはこっちのセリフだ!死んだ筈の貴様が何故ここに居る!?」声のした方に振り返りながらアクセルは、その人物を睨み付けながら率直な疑問をぶつけていた。「驚く事はあるまい?私から見れば貴様が生きている事、そしてこの世界に居る事の方が驚きだ」「フッ、それは神とやらにでも聞いてくれ。さて、貴様の目的は何だ?どうして俺だけをここに呼び出した?」「簡単な事だ。我等に手を貸せ!そして共にこの世界を闘争によってのみ支配される世界へと導こうではないか!!」「・・・相変わらずだな。飽きもせず同じ事を繰り返し、そしてまた敗北を重ねようと言うのか?」「変わったなアクセル・・・どうやらベーオウルフ達と共に過ごす内にすっかり奴らに感化されてしまったようだな」「確かに俺は変わったかもしれん。だがそれとキョウスケ達は関係ない、これがな」「まあ良い。我々の計画遂行の為には何としても貴様とソウルゲイン、そしてあの紅い特機が必要だ。力ずくでも従って貰うぞ?」「流石はシャドウミラーと言ったところか、コンパチカイザーの事まで調べ上げていたとはな・・・確かにあの機体があれば次元跳躍が可能だ。この世界が危なくなれば別の世界へと逃げる事もできるだろう。だが、ここで貴様を始末すれば全てカタは付く、これがな」『それはどうかしらね?』「何っ!?クッ!!」突如として背後から聞こえた女性の声―――気付けば彼女の手に握られた銃がアクセルの背中に突きつけられている。「お前もこちら側に来ていたか。てっきり死んだとばかり思っていたんだが、な」「貴方が生きているんですもの、私が生きていてもおかしくは無いでしょう?」「そうかもしれんな・・・だが、甘いっ!!」アクセルは相手の一瞬の隙を突き、彼女が握っていた銃を奪いとると、そのまま彼女に対して銃を発砲する。そして、周囲に居た者達にも銃弾を浴びせ、その場にはアクセルと男だけになっていた―――「これで形勢逆転だ、な」「どうかな?」「フッ、負け惜しみは止せ。人形風情で俺を騙せると思うなよ?」「流石だな。だがいくら貴様が生身での戦闘能力が高いとはいえ、これを相手にして今の様な事が言えるかな?」そう言った男が右手を振りかざすと、彼の後ろに徐々に大きな影が現れる。「なっ、戦術機だとっ!!」「流石の貴様も驚いただろう。この機体はF-23A・ブラックウィドウ、米軍が開発した試作型戦術機YF-23基に我々が手を加えた物だ」「なるほど、な。OCA(光学迷彩・Optical Camouflage,Active camouflage)か・・・これならば元々機体が有しているステルス性に加え、視覚情報すら隠す事が可能になるという訳か、どおりで誰にも見つからない筈だ。だが良いのか?ここは横浜基地の直ぐ傍だ、こんな近くで機体を晒してしまえば直ぐに追撃部隊が来るぞ?」「クックック、奴らと腑抜けた生活を送るうちに貴様は、我々が得意とするものまで忘れているとみえる。そんなものは既に対策済みだよ」「やれやれ、既に横浜にもスパイを送り込んでいたという事か・・・あの女の言うセキュリティとやらも当てにならんな」「さて、どうするかね?アクセル・アルマー中尉」「そんな事は聞くまでもないだろう?さっきも言ったようにここで貴様を始末すれば良いだけの話だ!!」そう言い放った彼は、相手を始末する為に一気に男へと距離を詰める。恐らくF-23Aに登場している衛士は、量産型のWナンバーズである以上、この男の傍に居る限り発砲される恐れは無い筈だと彼は考えていた。案の定F-23Aから攻撃は行われない。このまま相手を行動不能に追い込めばこちらがかなり優位になる事は明白だったのだが―――「何っ!?」「何をそんなに驚いている?」相手の腹部にはアクセルの拳が減り込んでいる。だが男は苦痛を浮かべるどころか大したダメージを受けた様子は無かったのだ。「やはり腑抜けになったな。パンチというものはこの様な物を言うのだっ!!」「グハッ!!」男はお返しにと言わんばかりにアクセルの腹部を殴りつける。想像以上の衝撃を受けたアクセルは、その場に倒れこんでしまう。「ゴフッ・・・ゲホッゲホッ・・・グッ、ク、クソッ・・・」逆流して来た胃液に混じる真っ赤な液体・・・右手で口元を拭いながらアクセルは立ち上がろうとするものの、予想以上にダメージは大きく足に力が入らない。「き、貴様!!いったいその力は何だ!?グッ・・・(クッ、内蔵をやられたか。この出血量からして肋骨が折れて臓器に刺さっているかもしれん・・・このままではっ!!)」「どうした?もうお終いか?素直に従えば良いものを」「だ、黙れっ!!・・・だ・が・様にな・・・グッ」「気を失ったか、まあ良い・・・さて、長居は無用だ。撤収するぞ!」『『「了解」』』彼らはその場に倒れこんでいたアクセルを回収すると、再び機体のステルス機能を展開させ、まるで何事もなかったかのようにその場を後にしていた。無論、アクセルによって倒された量産型のWナンバーズ達は既にコードATAを発動させており、その場には何も残ってはいなかったのは言うまでもない。だが、誰にも気付かれない程度の物がその場には残されていた。しかし、今は誰もそれに気付く者は居なかったのである―――あとがき第31話です。えー、心待ちにされている方、そこそこ待っていた方、そうでもない方、遅くなって申し訳ありませんでした。職業柄、年末年始はかなり忙しく、そしてなかなかネタが纏まらなかった為にかなり間が空いてしまいました事をお詫びしたいと思います。(おかげで今回はいつもより少々短めですTT)さて、今回は総戦技演習の続き&謎の敵さん登場のお話です。以前から予想されていた方も多数お見えになられていると思いますが、クーデター軍に接触していた謎の軍隊はシャドウミラーです。ですが、今までのシャドウミラーとは少し違った物にしようと考えています。何故この世界でシャドウミラーが再現しようとした世界を作ろうとしているのか?などと言った謎も今後明らかにする予定ですので、楽しみにお待ち下さい。今回登場した戦術機、F-23A・ブラックウィドウですが、米軍の試作機をシャドウミラーが手に入れ独自の改良が施されています。光学迷彩機能なんかもその一つなんですが、これの元ネタはフルメタのアームスレイブに装備されてるECS不可視モードだったりします。流石にそのまま使う訳にはいかないだろうと考えたのでOptical Camouflage,Active camouflageの頭文字を取ってOCAにして見たんですが、如何なものでしょうか?次回は総戦技演習の続きと拉致されたアクセルのその後を書こうと考えていますので楽しみにお待ち下さい。それでは感想の方お待ちしております^^