これはひどいオルタネイティヴ48.5――――彼女の名は"七瀬 凛"。彼女は五摂家にも多少の縁(ゆかり)が有る名家に生まれたのだが、ハジメから斯衛としては教育されなかった。何故なら凛には"兄"の存在があり、周囲の誰もが彼が"七瀬家を背負って立つ衛士"となると期待を集めていた。そんな彼の背中を見ながら彼女は育ってゆき……英才教育に追われ何時も忙しそうにしながらも、暇を作っては何時も一人ぼっちな自分の遊び相手をしてくれる彼の事が、彼女はたまらなく"好き"だった。故にか世間の"常識"を知らぬ程 幼かった頃の彼女は、将来は彼の"お嫁さん"になろうと本気で思った事も有る。――――しかし、3年前の夏・BETA首都圏進行時による兄の戦死。3600万人の人間が犠牲となった"悲劇"に置いて、大切な者を失ったのは凛とて例外では無かった。話によれば兄は逃げ遅れた者を助ける為に立派に果てたとの事だが、それで彼女が納得する筈は無い。先ずは兄が死ぬ位であれば逃げ遅れた者達が死ぬべきだったと考え、殿を指示した軍をも激しく憎む。されどソレが無意味な事と悟ると一年後……彼女は全ての矛先をBETAに向け、イチから衛士を目指す。それは"斯衛"としてでは無く、"帝国軍衛士"としてBETAを殺戮する事ダケを目的とした志願であった。正直 将軍を守る為の存在と言う斯衛には何の魅力も感じず、少しでも多くのBETAを殺し死ぬ事が目標。そして……天国の兄の所へ逝き、彼に褒めて貰うと言う事が"その時"の凛が選んだ最高の幸せとも言えた。当然"七瀬家"の事情も二の次で、周囲からの反対を押し切っての事だが……五摂家からの口出しは一切無し。本来"白"の武御雷が与えられる事となる武家に置いて新たな跡取りを"斯衛"とする管理は万全にすべきだが……彼女の境遇を考えれば仕方無しと思ったか? 真実は謎だが"この時点"の日本は本当に"大惨事"だったのだ。再び"明星作戦"に置いて本州を取り戻せたにせよ、もはや日本の地は彼女の心の様に枯れ果てていたのだから。――――されど2年以上の時を経て"七瀬 凛" は衛士としては目覚しい成長を遂げていった。始めは某 白銀の様に近い体力の無さであったが、全ては彼を凌ぐBETAに対する執念で全てを切り抜ける。無論 彼女と同じタイミングで志願した衛士の卵達もBETAに対する怒りは並外れたモノだったのだが……それダケ凛の兄に対する想いは強く、戦術機の適正検査に置いては歴代一位に近い成績を残し周囲を驚かせた。当然 将軍家も彼女の進歩に目を光らせていて、頃合を見て是非 帝国斯衛軍に加わって貰おうと思わせた程だ。「日本を変える? ……生憎 まだ私は訓練兵ですし、今はBETAにしか興味が有りません」ここダケの話 凛が上層に嫌悪している事を知る故に、裏ではクーデター軍をも彼女を狙っていたのはさて置き。国内の"くだらない争い"の所為で彼女のストレスが募る中……ようやく某B分隊と同じタイミングで任官した時。横浜基地にて国連軍によるトライアルが開始される事を聞き、凛は数少ない代表のメンバーとして選出された。「ボク 伊隅 あきらって言いますッ! 宜しく御願いしますね!?」「……えぇ」どうやら帝国軍からはベテランの中隊と新任の小隊が派遣される様であり、彼女は後者の面子として選ばれた。正直 面倒であったが、初のBETAとの戦いに置ける哨戒戦に置いては丁度良いモノだと凛は冷たく笑った。その際 人懐っこい"伊隅 あきら"と言う少女がイライラとさせてくれ、自慢の姉達の話が非常に不愉快だった。長女は帝国内務省に勤務していたり、次女は国連軍に居たり、三女は帝国陸軍の中尉と言う話は何の意味がある?彼女含め残り2人の衛士も自分が(一応)武家と言う事を知っているのか……妙に畏まっているのも気に食わない。だがトライアルが終われば面々は赤の他人に戻る。戦場で背を合わせるのなら別だが、好きに戦わせて貰おう。勿論 確実に勝つ為に"ニ機連携"はしっかりと組むつもりでは有るが、内心では他人を信用などしてやるものかッ。――――そう思い臨んだトライアルでの模擬戦だったが、何と彼女達は初戦から敗北した。『グレイトォ!! こりゃクレイジーだぜ"新OS"ってのはッ!』←オランダ男『可哀相だけど、ヒヨッコ相手じゃ負ける気がしないね~』←ルーマニア女『おいおい余り苛めて やるんじゃないよ? そこそこ手強かったじゃないか』←ベトナム女『それよか戻ったら早速"体感コーナー"ってのに行ってみよ~ぜ!?』←ノルウェー男凛は勿論 あきらも残り2人の新米衛士も決して悪い腕は持っておらず、帝国軍の熟練衛士にも抗える程の筈。それなのにベテランとは言え国連軍の小隊に惨敗……国連軍の質の向上には油断するなとは言われていたが、コレは極めて予想外だった。それは あきら達も同様であり、まさに"ぐう"の音も出ていなかった様子。しかし反面 同じく新米の国連軍の小隊5機は国連軍の中隊に圧勝しており、帝国軍の中隊も惨敗している!?コレは凛を激しく驚愕させ、放って置けないと言う心境で付いて来る あきらと2人で説明ブースを行き交い、戦果の理由を調べてゆく中……何度も聞いたのが"白銀少佐"と言う名前。そして常識を覆す数々の発想や兵器。(余談だが あきらはバズーカの講義をする伊隅みちるの姿を発見して声を掛けようか本気で悩んだりした)それらを考えれば自分が いかに"井の中の蛙"で有ったかを痛感し、何とも言えない"悔しさ"が浮かんでくる。また最強の部隊でも有ると言う"突撃機動部隊"の隊長"白銀 武"は自分と左程 年齢も変わらないそうだし……まだ見ぬ"少年"に凛は劣等感をも意識し、結局あきらに押されるようにハンガーに戻されると次の模擬戦に臨む。――――だが次からの相手は互角以下であり、凛は段々と調子を取り戻しつつあったのだが!?『コード991発生ッ、繰り返す!! コード991発生!!』『だ、第二演習場よりBETA出現ッ! 正面に要撃級を4体確認!!』『そ、そんな!? 何でBETAが来るんだよ~ッ!』「……BETA……」『七瀬さんッ! 早くボクたちも逃げないと――――』「……ぅぐっ……」『ほ、ホラ早く!! 一体こっちに来てるってばっ!』「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」『!?!?』「死ねッ! 死ね死ねェ!! 死ね死ね死ね死ねええぇぇーーーーッ!!!!」精神が不安定な状況に置いてのBETAの強襲が、彼女の緊張の糸の様な"何か"を千切るのには十分であった。エリア2では無い故あきら以外の2機は速やかに離脱したが、棒立ちする凛を心配しあきらも その場に留まる。しかし仲間やトライアルの事など全てを一瞬で忘れ、凛は狂った様に流れて来た要撃級にペイント弾を乱射する。されど"水鉄砲"で僅か一体の要撃級であれ倒す事など出来ず、いずれは壁を背後に豆鉄砲を撃ち続けていた。「な、なんでッ! 何で死なないの!? どうして……!!」『そんなの効くワケ無いじゃないかッ! 早く逃げてよ、早く!! 死んじゃうよッ!!』≪――――バコォンッ!!!!≫「きゃああああぁぁぁぁッ!!!!」『七瀬さん!? くっ……こうなったらボクが……』視界を塞いでもBETAには全くの無意味であろうが、多少のペイント弾による牽制が幸いしたのだろうか?彼女が必死で抗おうと左腕を出していた結果、辛うじてシールドを犠牲に七瀬機は弾き飛ばされるダケで済む。また相方が今の凛であれ仲間を大切に思う あきらの性格が幸いし、要撃級は一旦 伊隅機に注意を移した。コレは凛が軽い脳震盪を起こした事も幸いしており、時間稼ぎに置ける緊張感により あきらが息を呑んだ時!!『り、了解っ! ライト・ラーニング少尉、行きます!!』『私だって……でやああああぁぁぁぁっ!!!!』『……ッ……BETA――――殺す!! 殺しますッ!!』≪――――ドパパパパパパパパッ!!!!≫『な、仲間が……来てくれた……?』「……ッ……」エリア2で奮闘する白銀機の援軍として駆けつけた3機のうち一体が目の前の要撃級を一瞬で撃破ッ!そして、まるで(実際その通りなのだが)凛・あきらの2機が眼中に無いかの様に舞いBETAを蹂躙していった。よって極めて危ない場面が有ったとは言え……2人の帝国軍・新米衛士は初の実戦で命が助かったのである。――――こうして戦いが終結すると、2人は"その場"でコックピットから出て哀愁に耽っていた。「……結局 私は……自惚れていたダケだったんだ……」「…………」「アレだけ期待を集めて置きながら……周囲を蔑ろに振舞って置きながら……あんな有様なんて……」「し、仕方ないよッ。誰だって最初から大活躍できるヒトなんて居ないし……」――――今の言葉と共に あきらは遠慮がちに凛の肩に手を添えたが、彼女の自傷は続いている。「……それでも……1匹のBETAさえ倒す事が出来なかった……」「それは今回は実弾じゃ無かったし――――」「でも私はッ! お兄様のカタキを……アイツらを殺してカタキを討つ筈だったのに!!」「わわっ」「その為ダケに全てを捨てて衛士になったのにッ! 何だったの!? 何だったのよ今迄の私は……!!」「……七瀬さん……」「ねぇ? どうしたら良いの? 私はコレから……どうすればカタキを……うぅッ……うぇえっ……」「(あ、あの七瀬さんが泣くなんて……)」コレは"七瀬 凛"が衛士となって余りにも早すぎる挫折。思えば衛士となる前の挫折も数えればキリが無かった。されど衛士としての才能が開花されてからは、周囲に反感を買いながらも実力ダケで黙らせていたと言うのにッ!この凛の初の実戦に置ける生命は、期待していなかった"筈"の周囲の働きが無ければ守られる事は無かったのだ。しかもBETAを捌くどころがペイント弾をバラ撒いた挙句 危機に陥り、終いには漏らしながら気絶する始末。最初は"そう言う衛士"を馬鹿にしていたと言うのに……彼女は自分が本当に情けなくて情けなくて仕方なかった。よって衛士を目指してから初めて流れた、兄を失ってから枯れ果てた筈の悔し涙。その流れは留まる事が無い。対して あきらも自分は大した事は出来ず泣きたい気持ちだったのだが、予想外の彼女の涙に驚いてると……「えっ……ひっ!? 嫌ぁぁ!!」「兵士級!? うわああぁぁ!!」――――謎の機動音に互いが振り返ると、2体の兵士級が襲い掛かろうとして来ていたのだが!?≪ズシイイイイィィィィンッ!!!!≫『!?!?』「…………」≪ザシュウウゥゥッ!!!!≫――――何処からか"降って"来た強化装備 姿の男性が、後方の兵士級の顔面をアッサリと縦に両断すると。『……!!』「…………」≪ドシュウウゥゥッ!!!!≫――――"そちら"に注意を向けた前方の兵士級をも極めて無駄のない動き かつ冷静に首を飛ばして絶命させる。「(す、凄いッ!)」コレには腰が引けていた あきらには驚愕であった。まさか銃も無しにBETAを倒す事が出来るとはッ!しかも彼は体液を噴出しながら倒れる兵士級の返り血を気にもせず、頬を拭いながら周囲を警戒している。まだ衛士としての経験の浅い あきらで有ったが、彼女は一目で分かった。彼は国連軍の"凄腕の衛士"なのだと。実際その通りなのだが、あきらは彼がエリア2のBETAを引き付けていた衛士と言う事までは分かっていない。されど一瞬をも油断&隙を感じさせない(尿を我慢しているダケの)表情が そう感じさせ、大きな恩をも浮かんだ。もし彼が兵士級を倒してくれなければ、自分の頭は奴に齧られていた筈なのだから……今 思えば恐ろし過ぎる。ならば今は彼に礼を言わなくてはならない。可能であれば要撃級から助けてくれた衛士にも……と考えていると。「お兄様?」「へぇあ?」――――あきらの後方で恐怖により尻餅を着いていた凛が、彼を見て思いがけない事を呟いたのだったッ!何故かと言うと目の前の"衛士"は凛の兄とソックリだったからで、彼女は無意識のうちに言ってしまったらしい。あきらにとっては本当に そうなのかと思うと同時に、その時 見せた男性の呆気に取られた表情が印象的だった。最初は怖いイメージが強かったのだが、思ったより良い人なのだろう……当然 その洞察は間違っていなかった。「ゴホン。問おう……貴女が帝国軍のルーキーか?」「えっ?」「あぅ?」≪シーーーーン……≫「あぁ~ッ、失礼。な、何でも無い……アルカディア01よりHQへ。今だ2体の兵士級を確認……」……先程 見た彼の勇士は見間違えだったのだろうか? 彼は若干 頬を紅くしながら何故か誤魔化す様に通信。その最中 あきらは凛に視線を移してみると、何故か彼女は片手で胸を抑えながら通信中の衛士を見上げていた。この時"七瀬さんにも今みたいなカオが出来るんだなぁ~"とか考えたので、何となく緊張が解けた気がしたが……「(……も、漏れちゃった……)」――――解けたのは"緊張の糸"ダケでは無かった様で、あきらも多くの衛士と同じ運命を辿る事となった。「良し。直ぐ警戒が強化されるみたいだから、君達は戦術機に戻って帰還してくれ」「あっ、はい」「……ッ……」「君は……どうした? 立てないのか?」「そ、そうみたいです。……腰が……抜けてしまったみたいで……」「だったら肩を貸すよ」「!? あ、あああ有難う御座いますッ」「何なら俺の機体の中に入って戻るかい?」「えぇっ!?」「はははっ、冗談だよ」「……あれ?」(イラッ)――――ともかく、コレが帝国軍・新米衛士2人の恩人・白銀少佐との初めての出会いだったのである。●戯言●う~ん。たまには こう言うのも良いかなあ……ベタベタな境遇で恐縮ですが勘弁していってね!?色々と無茶ですが実のところ此処で書かれる事の殆どは以後の本編の一人称では語れないので書く事にしました。しかし感想[1674]氏に彼女の存在が読まれるとは思いませんでした。久しぶりのニュータイプの方ですね。