これはひどいオルタネイティヴ72001年10月26日 早朝「…………」「…………」俺は社に起こされると彼女を外で待たせて即効で着替え、今は二人で通路を歩いていた。何故 一緒かと言うと……何やら ゆーこさんが俺を呼んでいるらしい。 いわゆる"お仕事"だ。そんなワケでPXへは行かずに、執務室へ行くべくエレベータを目指している。急げ、急げ~。 一秒でも早く行かないと、彼女の機嫌を損ねてしまう。だが紳士な俺は、勿論 社の歩行速度に足を合わせている。 トコトコと歩く姿が可愛い。「降りようか。」「……はい。」……だが……朝の挨拶と今の一言 以外は終始無言。 響くのは二人の足音だけ。何か話そうと思っても、社の性格を考えると何を言っても盛り上げる自信が無い。笑わそうと思って滑りまくった事も思い出すとトラウマになっており、勇気が出ないのだ。≪ウイイイイィィィィ……≫「…………」「…………」狭いエレベーターの中でも無言。 ……気まずい雰囲気が訪れる。社は何とも思っていないんだろうけど、俺はその場でボリボリと頭を掻く。まるでレストランで大人しくできない子供。 社に何か良い話題を振りたくて仕方無いのだ。――――だから、俺は解除する。 "自重"と言うリミッターを。≪……イイイイィィィィン……≫「……良いのかい? ホイホイ付いて来ちまって。」「……?」「俺はウサギさんだって構わないで食っちまう人間なんだぜ?」「……!」≪――――ガコンッ≫地下19階に到着し、エレベータのドアが開く。それは俺にとって、社とのコミュニケーションへの第一歩への扉にも見えた。さぁ……オヤシロさんっ! ウサギを社で比喩していると言う、この俺の難解に どう反応する!?それを理解し、どのような反応を示してくれるかダケでも、俺は社の多くを学べるかもしれない!!引かれてしまえば今後 極力 自重するけど、逆であれば更に前進しても良いって事になるからなっ。≪――――じわっ≫……だが。 俺は社の瞳が水気を帯びたのを見て、読みが甘かったと痛感する。「や、社?」「……白銀さんは……ウサギさんを、食べるんですか?」「ゑっ?」「ウサギさん、可愛いです……食べちゃダメです……」な、泣かれてしまったッ。 どうやら、それ以前の問題だったらしい。「だ、だからさ! 違うんだってッ! ホントに食べるんじゃ無くって、 俺はウサギさんを食べちゃいたい位に可愛いと思ってるって意味で――――」「…………」そんな訳で必死に誤魔化し、社を宥めるのに10分以上を要していた。………………「遅い!」「返す言葉も御座いません。」「……っ……」執務室のデスクに腰掛け待っていた ゆーこさんは、ものっくそ不機嫌だった。理由は理解できるので、俺はすぐさま土下座し、お怒りを収めて頂く事を切に願った。俺の真横には未だに涙目の社がおり、ウサギさん大好き少女にあのネタは無謀だったようだ。……いや、元ネタ考えると普通に無いよな……全くリミッターを解いた俺は限度を知らねぇぜ。意味を知ったら社なら泡吹いて倒れそうだ。 見てみたい気もするけど、リスクがな……「社。 ご苦労様、行って良いわよ。」「……はい。」「!? や、やし――――」「白銀。」「ぇあ?」「この悪魔。」「ティウン ティウン ティウン。」≪――――どさっ≫社が部屋を出た直後、言葉の針によるクリティカルヒット。俺は ゆーこさんの言葉に、呆気なく仰向けに倒れた。 さすが天才、容赦無ぇぜ。「立て。」「イエッサー!!」――――そして起立。 残機はまだ残っていたようだ。「そんなモンじゃ済ましたくないけど、あんたを呼んだ理由を話すわ。」「はい。」「戦術機の新武装のシミュレーション・データが仕上がったの。」「ま、マジですか!?」「それ何語?」「本気と書いてマジと読みます。」「あぁ、白銀語ね。 とにかく、こっちに来るのよ。」「ウィっす。」うへっ、凄いなぁ~……もう設計が終わったのかYO。よ~く見てみると、ゆーこさんの目にはクマができている。て、徹夜か……それなのに俺ってヤツは……ゆーこさんっ、マジすまんかった……そんな感じで脳内で猛省していると、手招きされたのでデスクに近付く。「――――見なさい。」「!? こ、これはひどい……!」俺はデスクの上に有った、一枚の紙を手に取って見た。それには ゆーこさんが描いたと思われる、ヘタクソな戦術機っぽい何かがあった。「それじゃないわよ、フザけてんの?」「あっ、こっちですか。」真面目な雰囲気になると、ついやっちゃうんだ☆俺は軽くボケをかました後に、ゆーこさんの横に回りこんでディスプレイを見せて貰う。すると其処には、不知火っぽいが ちょっと太った感じの戦術機が映っていた。元々戦術機はスマートメカだから、そんなに違和感は感じないけどね。――――間違いない、これが新型 武装仕様の不知火なのですな。「とりあえず、額の左右に2門の頭部バルカン砲。 左胸には胸部マルチ・ランチャーを付けてみたんだけど。」「おぉ~……」「頭部バルカン砲は連射は効くけど、威力は低いわ。要塞級や突撃級には ほぼ無意味かもね。 腹部マルチ・ランチャーは、要は誘導性の有る小型のグレネードを発射するの。 連射は効かないけど広範囲に掛けて爆発するから、戦車級以下の小型種を纏めて潰したり、 中型以上のBETAへの牽制や味方の補助や自衛。 状況によって色々な局面で使えるハズよ。」「す、凄ぇや……!」「そして右胸にはマルチ・ランチャーの予備弾薬を出来る限り詰め込んでいるわ。 ……でも、それらのお陰で機動性が5%前後 低下しちゃうけど、 新OSのお陰で総合的なポテンシャルは遥かに上がる事になる予定よ。」「この機体、もう作れるんですか?」「まさか。 これから白銀に色々とデータを取って貰わないと無理ね。 この……"不知火S型"のデータは権限付きでシミュレーターの端末に放り込んで置いたから、 今日はそれを徹底的に頼むわ。 新OSと一緒に仕上げに掛かるつもりだから。」「了解です。」「でも、データを取る際には注意して。 どっちの武器も実際にBETAには使ってない。 だから与えるダメージは最低値に設定してあるから、実戦とは使い勝手が変わると思うの。」「実戦で威力が減らないだけ十分ですよ。 ……でも そうなると、 不知火S型がロールアウトするのは、実戦を必ず経験させる必要が有るって事になりますよね?」「そうよ。 実戦データをシミュレーターにも反映させないと、表には出せないわ。 勿論、BETA相手に不知火S型をテストするのも、あんたの役目よ。」「把握しました。」ゆーこさん……思ったより、ネーミング・センス良いな~。勝手に解釈させて貰うとTSF-TYPE94(S) いわゆる指揮官用 不知火ってところだろう。「だけど、一つだけ欠点があるのよね。」「なんですか?」「武器の使い分けが難しいのよ、白銀のレベルならともかく、 新しい概念の武器って事でベテラン衛士でも慣れないと難しい感じ。 少なくとも、訓練兵レベルの衛士じゃ使いこなせないんじゃないの?」「ふむ……」「初期開発にはコストもバカにならないわ、それに見合う働きは出来そうなの? 白銀の専用機を一機作るくらいなら、不知火を多く作る方がマシかもしれないわよ。」「ん~……じゃあ、こ~するのはどうでしょう? サブ射撃はマニュアルとオートで分ける。」「どう言う事なの?」「戦ってればありますよね? 着地や装填のディレイ(遅れ)で、 両手による攻撃が出来ないって状況になって、致命的な隙を晒す時。 今にも複数の戦車級が食い付いて来ようとしているのに、対応 出来ない。」「えぇ、戦術機も人型だし。」「……でも、その時の為に不知火S型のサブ射撃があるモノの、 ゆーこさんの言う様に恐怖とかで慌ててしまい、サブ射撃に切り替えられる技量が無いとする。 そこで、あらゆるディレイが発生した時に限り、トリガーを引けばサブ射撃に自動で切り替わる。 ……って言うのはど~ですか? 被爆を考えて近距離では頭部バルカン砲、 中距離ではマルチ・ランチャーに切り替わる感じで。 勿論 技術が有ればマニュアルで良いですけど。」「その発想は無かったわね。」「勿体無い代物だと思いますけど、有る意味"将来"を考えると死ぬハズの新米衛士が、 初戦で助かるかもしれません。 新兵の命が不知火S型よりも軽いと言われれば終わりですけど。」欠点に対し、戦術機の両手が使え無いタイミングで、衛士の技量と関係なく自動で攻撃ができる、便利なシステムを提案する。そうは言っても、これって設定に滅茶苦茶 手間が掛かるんじゃないか?けど、作ってくれるのは ゆーこさんだ。 天才なら……天才なら何とかしてくれる……!「ま……良いわ、出来ない事も無さそうだし。 これは訓練兵に試させると良さそうね。」「そうですね。 マジで有難う御座います。」「ふふん、今のシステムの提案も、新OSと新機体と同時に仕上げておくわ。 感謝する事ね。」「はい! ゆーこさん……抱きしめて良いですか?」「良……や、お断りよ。 それじゃ~眠いからお休み~。」「お疲れ様でした~。」――――何とかしてくれるそうです。 そして、松尾芭ションボリ。「あぁ、白銀。」「はい?」「何が有ったか知らないけど、ちゃんと社に謝っておきなさいよ? あの娘も設計に協力してくれたのよ、ど~してか"白銀の力になりたい"とか言って。」「……っ!」「ふぁあぁ……もう限界。 ちゃんとデータ取らなかったら"落とす"わよ?」「なッ、なんで目線が下に行くんですか?」「何でかしらねぇ~?」「――――こわっ!?」不敵な笑みを浮かべると、黒いオーラを纏いながら、ゆーこさんはフラフラと去って行った。それにしても、社が協力を……そう言えば、天才少女だったんだっけ。てっきり何とも思われて無いと考えてたけど、案外 心を開いてくれてたのかもね。だったら、エレベータで勝負に出た俺のアレは何だったんだ……泣けるぜ。 社は眠いダケだったのか。ともかく……今日の訓練、頑張るぞッ! 俺は無意識に股間をガードし続けたまま、気合を入れた。「(はぁ……オルタネイティヴ4はアイツの言う通り行き詰ってるし、私も甘いもんねぇ……)」――――不知火S型。 後から聞いた話によると、実は"S"は白銀の意味だったらしい。 納得。………………2001年10月26日 午前既に人気が無くなったPXで食事を終えると、俺はシミュレータールームへと走った。そろそろ まりもちゃんとシミュレーターをやってみるのを視野に入れないとな。ついでに"不知火S型"の使い勝手を榊達に教えられるようになって貰えれば完璧だ。勿論、それには俺が"不知火S型"に慣れないといけないから、ゆーこさん が印刷していてくれたファイルを片手に、初代ニュータイプの気持ちで仕事に励む。「凄い……5倍以上のエネルギーゲインがある。」ね~よ。 そもそもエネルギーゲインが何かすら判らないけど、気分の問題ね。先ずは何も攻撃してこない的を平地に100個くらい配置させ、色々と試してみる。しかし判りやすいマニュアルだな……マジ天才過ぎだろ、ゆーこさんは。「白銀の腕はね。」≪ダパパパパパパパッ!!≫「戦術機、4機分ぐらいかな?」≪ボンッ、ボォンッ! ボォォンッ!!≫今現在は、4機のAI戦術機を相手にサブ射撃を駆使して戦っている。頭部バルカン砲で戦術機に回避運動を強制させ、あえてマルチ・ランチャーで硬直を狙う。他にもバルカンで牽制してから斬り掛かったり、マルチの爆風で撹乱してから射撃したりと試す。既に500個近い的で試した事もあって、早くも道化師の如く敵機を捌けるようになっていた。でも、AI戦術機って随分と弱いな……まさか、衛士って殆どこんな程度なんだろうか?まぁいいや。 んで、市街戦での光線級を含むシミュレーター、やがてはハイヴのデータをも取る。流石に白銀であっても終盤でヴォールク・データは無理があったみたいだが、何とか記録は更新。極力 回避重視な攻略で無造作・無反動で攻撃が出来ると言う事から、格段に楽になっている。これでXM3が完成したら……一体何処まで潜れるんだろうか?サ●ヤ人でなくてもワクワクしてきたな。 それに今回は俺自身も頑張っていますよ?だって、ゆーこさんに大事なモノを落とされたくないしね。 半分はコレが原動力なのDA。「し、しまった!? うわぁっ!!」ついでに……実戦では洒落にならない台詞は、今のうちに どんどん消化しておこう。シミュレーターであれど殺され台詞は格好悪いし、一人の時で叫ぶのが一番だZE。………………2001年10月26日 午後「腹減った……死ぬ……」大事な一人息子の為にも、昼食を抜いてアホみたいに訓練していたら、何時の間にか窓の外は夕焼けになっていた。 カラスは鳴いていないが早く飯食って寝たい。筐体と端末は計20往復はしており、ゆーこさんが怖いからって流石にやり過ぎじゃね?だが、社への償いも兼ねればこれしきの事で……俺はフラフラとロッカーに向かった。やっぱり途中で衛士達には注目されたが、今じゃ逃げ出す体力も残っていなかった。「白銀少佐。」「!? なんだ……御剣か。」根性で通路をヘロヘロと歩いていると、後ろから御剣に話し掛けられた。「どうなされたのです、顔色が悪い様ですが。」「あぁ、ちょっと気合を入れて訓練してたからね。」「訓練ですか……?」「ざっとシミュレーターを8時間ほど。」学生の頃ゲーセンなら開店から閉店まで居た事もあったけど、流石にコレはきついな~。疲れるけど面白いからガンガンやってしまったが、今度は長くても6時間程度に抑えておくか。でも8時間って普通に一日働く最低限の長さだしな。 俺にとっては、もうちょい頑張りたい気も。「は、8時間もですかッ!? しかし、何故其処まで……」「……ふっ。」「少佐?」「御剣も、いずれ解る。 誰にでも……失いたくない"モノ"があるのさ。」「なっ……!」いや、わかんね~だろ。 御剣は女だぞ? まぁ、それは些細な事として。そっ……と赤子を撫でるように自分の股間に優しく右手を添えて、俺は御剣を真っ直ぐに見て言う。おいおい、格好 付けて何言ってんだ俺は……下品にも程が有るだろ、アホか?疲れてたとは言え……死のうかな。 だが何故か御剣は、瞳を見開くと何故か驚愕している。対して、実は御剣の瞳が一切 股間を視野に入れていなかった事に気付かない俺。「御剣?」「……感服致しました。」「は?」「!? い、いえ……何でもありませぬ。 ところで、歩かれるのは御辛そうに見受けます。 不躾(ぶしつけ)とは思いますが、私で宜しければ肩をお貸し致しましょうか?」「良いのかい?」「御気になさらず、何処へでも参りましょう。」「じゃあ……PXに頼むよ。」「承知。」≪――――ふにゅ≫長袖の訓練服を着込んでいても柔らかい……が、今は疲労と空腹で意識できないぜ。「御剣も……飯は済んでないのか?」「はい、これからです。 今は皆を待たせております故。」「そっか。 なら ちょうど良かったね。」「はい。」……そんなこんなで、PXに到着すると榊ら3人が注文を済ませ御剣を待っていたようだ。飯に手をつけないで待っているあたり、もはやチームワークについては気にする必要は無さそうだ。だが3人は俺と御剣を見ると訝しげな視線を投げ掛け、御剣は何だか赤くなって俺から離れた。しかし疲労困憊(ぱい)な俺は、それにすら気付かず 掻き揚げうどん(大盛り)を注文した。ちなみに御剣も うどんを注文。 おま……ひょっとして横浜基地って そば&うどん が流行ってんのか?流行ってるなら、まりもちゃんのは偶然だったのか~。 がっくし。 早まらなくて良かったぜ。「――――敬礼ッ!」夕食後 昨夜と同じ敬礼を受け、腹が膨れた事から何とか自力で自室に戻った。そしてシャワーを浴び、さすが白銀。 疲労の半分程が既に消える中 ベットに潜った時。今更になって御剣のヌクモリを思い出し、それが俺の今夜の"全て"を物語っていた。「(御剣……柔らかったなあ~。)」――――今夜も言うまでもなく、つい犯っちゃったんだ☆≪ザザザザザザ……ッ!!≫「(白銀少佐……あの若さで。 私は、貴方を目標に励みたいと存じます。)」――――ちなみに御剣がグラウンドを毎晩走っていたのに気付かされたのは、少し先の事だった。●戯言●このSSを打つに当たって、私は心はノリノリですが無表情で黙々と臨んでいます。ですが何故か6話を読み直していたら彩峰のサーセンで盛大に吹いてしまいました。SSと言うのは有る意味魔法なのかと思いました。皆様多くの感想有難うございます。