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No.36153の一覧
[0] 【SOS】毎日変な夢をみる件について【誰か助けて】(チラ裏より)[矢柄](2014/08/01 21:14)
[1] 001[矢柄](2014/08/01 21:14)
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[13] 013[矢柄](2014/08/01 21:23)
[14] 白銀武の憂鬱01[矢柄](2013/02/18 20:26)
[15] no data[矢柄](2014/08/01 21:40)
[16] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[17] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
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[21] no data[矢柄](2014/08/01 23:49)
[22] no data[矢柄](2014/08/02 00:11)
[23] no data[矢柄](2014/08/02 00:33)
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[36153] 009
Name: 矢柄◆c8fd9cb6 ID:022f668f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/01 21:20


訳の分からない事ばかりだ。目覚めたら街が廃墟になっていて、純夏の家を上半身だけの巨大ロボが押しつぶしていた。

学校に行けば変なレーダーがあって、良く分からない内に捕まっちまった。その後、変なおっさんに尋問されるは、牢屋にぶち込まれるはで最悪だ。

夢にしては酷過ぎる。いや、夢なのか? 昨日の夕呼先生の態度、あれも夢? 窓がなくて時間の感覚があやふやだ。というか、何回メシ喰ったっけ?


「ん?」


そんな風に困惑していると、牢屋越しの向こうから夕呼先生がやってきた。


「白銀武」

「……」

「あら、ご機嫌ナナメ?」

「……」


夢じゃない? こう思っている俺そのものは夢の俺? それとも現実の俺? 何をどうすりゃその確信が得られるんだ?


「ここから出たい?」

「……」

「条件次第で出してあげてもいいわよ」

「…条件?」


夕呼先生の態度はいつものそれと良く似ているが、しかしそれは他人に対する応対の仕方だ。普段ならもっと自分が面白いと感じるように場を引っかき回してくるはずなのだから。

そして先生は有無を言わさない言葉を口にする。


「あなたはあたしの言うことに無条件で従う。返事はふたつにひとつ。イエスかノーか」

「……」


まるで獲物を見定める様な目つき。いつもの先生らしいといえばらしいが、そうじゃないどこか威圧感のある目。だが、これ以上何をしても状況は好転しそうにはなく、俺は仕方なくその条件を飲んだ。

牢屋からだされて連れてこられたのは、エレベーターで降りた地下の施設。B19とあるので地下19階だろうか。丈夫そうな壁に囲まれた通路の先、無機質な自動ドアを抜けると、ひときわ大きな部屋があった。

正面奥の壁には盾の中に丸い地球とUNの文字が大きく書かれた旗が張り付けてあり、その前に大きな事務用の机と椅子、机の上にはモニターとパソコン、それに分厚い本が重ねられて置いてある。

部屋の左右には金属製のロッカーと木製の本棚があって、そこにも分厚い本や書類が入っているだろう段ボールの箱が並んでいる。夕呼先生は椅子に腰をかけ、俺を興味深そうに見ている。

そして先生の傍らには俺に対して身体を横に向けながら無表情で俺を見る、夕呼先生の着る青と黒の服に似た衣服と白衣を見に纏う、両手を白衣のポケットに入れた髪はボサボサで細身の背の高い見知らぬ男がいた。


「取り調べの結果によれば…白銀武、2001年現在柊町在住、白陵大付属柊学園3年B組在籍、両親健在、兄弟姉妹なし…」

「今さら分かり切ったことでしょ?」

「そう憮然とされてもねぇ…」

「したくもなりますよ、こんなんじゃ」


SF映画にでも出てきそうな、まるで研究所のような施設。一体ここはどこなのか、俺はなんなのか?

一つでもあればいい。何か、おいおいって笑えるアイテムが一つありゃ。そうすれば夢だって一発で分かるのに。


「まあ、こっちは質問にさえ答えてもらえればいいわ」

「……」

「話聞いてる?」

「あ、はい」





目の前の少年は、ごくごく普通の、元の世界の何処にでもいそうな少年だった。まあ、顔の造形は悪くないが特別良くもない。

これが白銀武かと、俺は特に感慨もなく目の前の青年を見つめる。彼は夕呼さんの言葉に翻弄され、現実を認めようとせずに意地をはっている。

まあ、それは同情できる。俺だって最初の2、3回は訳も分からず死ぬしかなかったし、己の置かれた現状を呪い嘆くしかなかった。

いくつかの偶然が重ならなければ、心が壊れていたかもしれない。だから、彼の困惑も孤独も分かるつもりだ。

しかし、予測していなかったわけではないが、どうやら彼はUNLIMITEDシナリオに相当する、なんの軍経験も意思もないまっさらな白銀武だ。

彼がループして辿りつくAlternativeシナリオの、この世界を救いたいという強い意志を彼が持たない他、様々な理由により量子電導脳を完成させるための数式を入手させるのが難しくなるかもしれない。

そうして話は進んでいく。困惑する彼は宇宙人と戦っているというこの世界の事情を呆れた表情で受け取る青年。

まあ、元の世界、彼の世界においてもそんなのは映画や漫画の中だけの話だろうし、実感なんて出来ないだろう。だからこそ、元の世界で妹以外誰も俺の話をまともに取り合わなかったのだから。

しかし、戦術機の話になると白銀武は話に食いついてくる。二足歩行のロボット兵器。元の世界でそんな兵器の概念を提唱したら笑われるだけだろうが、この世界では切実にそれが求められている。

事情を知らない青年は、日本人らしく巨大ロボットという子供らしい夢にいたく興味を抱いたらしい。訓練兵になることを承諾する。そうして話が終わるころに、俺は一つ問いかけてみる。


「白銀武」

「え、あんた誰?」

「俺の事は今はどうでもいい。一つ君に聞きたい事がある」

「?」

「君は…『鑑純夏』という名に心当たりはないか?」

「あ、え? 純夏? なんでアイツのことを…?」


とぼけた顔で白銀武が返答する。そして夕呼さんはその名前を聞いた瞬間、厳しい表情になって白銀武を睨んだ。

まあ、それはそうだろう。00ユニットの最有力候補、その人物が求めてやまない『タケルちゃん』と思われる人物が現れ、そしてその人物自身もまた彼女の事を知っているのだから。


「もう一つ、『鑑純夏』は君の恋人か何かか?」

「は? 違う違う、あいつはただの幼馴染ですよ」

「そうか、まあいい。俺は高島京平だ。君には俺の研究にも関わってもらうかもしれんから、よろしく頼む」

「あ、はい」


彼が鑑純夏がいないと思いこむ世界に、俺は無理やりその存在を導入する。これ以降、白銀武は否応にも鑑純夏という少女を意識せざるをえないだろう。

その後、夕呼さんが彼に、この世界の住人でない事を秘密にすること、知り合いに出会ったとしても初対面であるように装うことなどの注意をする。そして、


「次に、『鑑純夏』については私と京平、それと私が許した人間以外には誰にも話さない事」

「は? なんでですか?」

「なんでもよ。ここは軍事基地なのよ? 表に出せない機密なんて山ほどあるわ」

「あいつが機密ぅ? そんな馬鹿な」

「戦術機に乗りたくないの?」

「っ! あ、はい、分かりました」


そして話が戻る。

ここが彼の認識する学園ではなく、国連軍横浜基地であること、セキュリティーパスのことなどについて説明し、そして彼を連れて部屋を出ていく。

俺はそれを見送った後、私室に戻る。

物語の大まかな流れについては、ノートにまとめている。他の人間からは自作の詩集にしか見えないものであるが、キーワードを散りばめることで記憶を蘇らせる仕組みの暗号のような形態だ。


「さて、どうするか」


白銀武は因果導体であるが、それ単体では何の役にも立たないし、特に戦略的価値もない。卓越した戦術機乗りになれる素養を持つが、それは戦術的な価値でしかない。

重要なのは彼が量子電導脳についての新理論を元の世界の香月夕呼教諭が完成させたことを思い出し、そして向こうの世界との行き来が可能であることを見出さなければならないという事だ。

既に布石は一つ打った。ならば、後は実験と称して彼を誘導していけばいい。

すると、ドアをノックする音、扉を開けると霞がいた。


「霞か。どうした?」

「始まるのですか?」

「そうだ。霞には負担をかけることになる。すまないな」

「いえ…。本当は、私達の世界のためですから。でも、戻れると…いいですね」

「いつかはな。今はまだ何も見えないが…いつかは。まあ、気にするな。繰り返してきた事だ。あと何回繰り返そうとも、俺は大丈夫だから」


そうして、無駄な作り笑いをして俺は霞の頭を撫でた。





この世界の日本や世界の歩みは少し特殊だ。

確かに江戸時代末期に大政奉還がなされて、その権力は皇帝に集まった。天皇ではなく皇帝というのがまず違うが、それは置いておこう。

最大の違いは武士が存続していること。幕府は開いていないが、皇帝より任命される国事全権総代としての政威大将軍が存在する。

将軍は皇帝の直下、帝国議会の上位執政機関として元枢府(摂政職のようなもの)の長であり、そしてその権威は元の世界の天皇同等に大きく尊敬を集めている。

俺や白銀武の知る日本の歴史とのもう一つの大きな違いが、第二次大戦後も国体、帝国としての日本が存続している点だ。

確かに第二次世界大戦、大東亜戦争において日本帝国は大陸などを侵略し、結果として史実同様にアメリカ合衆国に敗北した。

ただし、その敗北はあくまでも条件付き降伏であり、広島・長崎に核爆弾は投下されなかった。代わりに核兵器はドイツに用いられたという違いがある。

この結果、政威大将軍はアメリカ民主主義の導入とともに名誉職となった。とはいえ、条件付き降伏であるため、日本人としての意識は俺の世界のそれとは大きく違う。

同じなのは第二次大戦後、日本帝国は冷戦構造に組み込まれ、アメリカの同盟国として急速な復興を遂げたことだろうか。

また、首都は京都であり、これは鎌倉時代以降かわらない。確かに首都機能が鎌倉や江戸に移された事もあったが、名目上の首都は京都であり、大政奉還後は名実ともに京都は首都となる。

一方の東京は経済の中心となり栄えたが、首都とはならなかった。しかし、BETAの本土侵攻と共に京都が陥落したのを受け、首都は東京に移された。

では世界の動向はどうか。

この世界の技術力はある分野において俺の世界、白銀武の元の世界に比べて突出したものがあり、その代表例に航空宇宙技術がある。

1950年代には月への有人飛行が実現し、大型軌道ステーション、恒久月面基地などが1950年代から1960年代にかけて完成をみている。

そして、1958年、アメリカの無人探査機ヴァイキング1号を火星地表面に送り込むことに成功している。これは俺の世界のそれよりも18年先行したことになる。

本来ならこの探査機は火星の地質と大気を調査し、火星地表面の写真などを地球に送って4年近くの活動を行うはずだったが、この世界ではある画像を送った直後にその通信を途絶した。

だが、その画像はこの世界の科学者たちを大いに驚かせた。画像の隅には何か生物らしきものが写っていたのだ。

その画像こそが人類とBETAの初めての接触を示すものであり、火星軌道を周回する衛星から火星全域に生物が存在する事が確認された。当初その生物は火星起源種と考えらた。

世界の人々は火星に生命があるという発見に驚き、そして喜び、同じ太陽系の同胞という意識と共に火星有人探査に多くの夢を見た。

が、それが大きな間違いであった事を人類は付きつけられることになる。

ファーストコンタクトは惨劇となった。1967年、国際恒久月面基地『プラトー1』の地質調査隊が火星起源種と同種の存在を確認、その直後消息を絶つ。

これが『サクロボスコ事件』であり、BETA大戦の狼煙となった。以降、その存在は月において思うがままに版図を拡大し、軽装備のみで抵抗する人類をことごとく排除した。

ここに、この存在が火星起源種とは異なるのではないかという説が現実味を帯びる。

その存在は火星や月という生物に厳しい環境をものともしない強靭な生命力と圧倒的物量を持って月を席巻。人類に敵対的な異星起源種、国連呼称でBETA(Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race)が定義された瞬間である。

そして遂に1973年4月19日、中華人民共和国新疆ウイグル自治区喀什(カシュガル)にBETAの降着ユニットが落下した。

降着ユニットにはBETAが大量に積載されており、すぐさま侵略を開始したが、人類は地球上での戦闘においては絶対の自信を持っていた。

よって当事国である中国軍は国連軍の受け入れを拒否。当初、単独での防衛を選択する。これはBETAに航空兵器に対する迎撃能力を持たなかったことから、国益を追求する立場として当然の選択と言えた。

中国軍は当初航空優勢を維持し、戦線を押し上げ、戦況を優位に推移させる。月の過酷な環境や、月までの細い兵站線という束縛が無ければ、人類の兵器と戦術はBETAに対し圧倒的な威力を示した。

しかし、強力な生体発振レーザー器官を有する新種、光線級の出現により航空兵器が無力化されると、瞬く間に中国軍はBETAの物量に抗しきれず戦線は瓦解することとなる。

その後、ソ連に救援を求め中ソ連合軍が結成され、共同でBETAとの戦闘を行うも抗しきれず、戦術核による焦土作戦を展開するが、中央アジアはまたたく間にBETAの手の中に落ちた。

BETAの地球侵略により人類は月面基地プラトー1を破棄。しかし翌年、7月6日、カナダ、サスカチュアン州アサバスカに新たに降着ユニットが落下する。

喀什での教訓を生かし、アメリカはこれを戦略核の集中運用によりかろうじて撃破。しかし、その代償としてカナダの国土の50%が高濃度の放射能汚染により死の荒野と化した。

危機感を抱いた人類は各国軍の指令系統を国連の下に再編、戦闘機に代わる対BETA主力兵器・戦術歩行戦闘機を開発し配備し反撃に打って出るとともに、並行して国際秘密計画『オルタネイティヴ計画』によるBETA研究と和平の模索を開始した。

しかし、戦況は改善せず英国以外のヨーロッパは陥落、1985年にはソ連国家機関機能のアラスカへの移転、1994年にはインド亜大陸陥落、1997年には台湾に中国共産党政府が逃れた。

そして1998年には日本本土侵攻を許す。日本本土戦においてはわずか1週間で九州・四国・中国地方を失陥、そのまま関東までその侵攻を許し、3600万人の犠牲者を出した。

そしてBETAはユーラシア各地にその前線基地である国連呼称『ハイヴ』を建設する。日本帝国内にはH21佐渡島ハイヴ、H22横浜ハイヴが建設され、本土陥落は目前となった。

これを阻止するため、起死回生の策として1999年8月5日より開始された明星作戦によりH22横浜ハイヴの攻略に成功。その跡地に国連軍横浜基地が建設された。

これが大まかなこの世界の歴史である。

目の前ではこれよりも簡略化した歴史を夕呼さんが白銀武に語り聞かせた。白銀武はこんなふざけた世界を認めないと喚いたが。俺はもう何の感慨も浮かばない。

彼の反応が平和な日本の人間の正常な反応なのだろうが、そんな感覚はもう麻痺している。そうして白銀武は部屋を出ていった。


「あいつの世界、アンタの世界と同じじゃないの?」

「昨日、彼が話した彼の世界の歴史は俺のそれとほぼ同一です。ですから、可能性は高いと思いますが、俺の知る限り横浜に柊町といった街はありません。俺がただ知らないという可能性もあるんですが」

「ふうん、でもアンタの研究には役に立つんじゃない? おそらくあいつ、完全な因果導体よ」

「全くとんでもない理論ですね。死人が歩くなんてホラーそのものだ」

「タイムリーパーのアンタはSFそのものだけどね」

「だが、興味深いサンプルです。白銀武の研究、俺に一任してもらえますか?」

「報告は密にしてちょうだい。あたしも興味あるもの」


白銀武そのものは夕呼さんにとっても極めて興味深いものだろう。だが、目下彼女の目標は量子電導脳の完成であり、因果導体の研究ではない。

逆に俺にとって量子電導脳の開発は手段の一つであり、目標ではない。同じ因果導体を検査する事は俺にとっても有意義といえる。





11月1日、白銀武は訓練の終了とともに地下19階の香月夕呼博士の部屋を目指していた。それは単純に向こうの世界では男だったはずの鎧衣尊人が美琴という少女に代わっていたことを問うためであった。

しかし、夕呼は部屋にはおらず、隣の奇妙な扉を開けて夕呼を探す。そして、出会った。


「!!!」


ボイラーのような低温が響く部屋、その中心には青く輝く大きなカプセルのようなもの、そしてそこに浮く脳髄。そして、カタリという物音がして、


「う、うわぁぁ~~!?」

「何故ここにいる白銀訓練兵」

「……」

「え、女の…子?」


大きく息を吐いて安堵する。

そこには夕呼先生やまりもちゃんがこの世界で着ている様な黒地に青をあしらった制服を着たボブカットの黒い髪の少女と、それをアレンジした様なドレスを着たウサミミみたいな髪飾りを付けた銀髪の少女がいた。

ボブカットの少女は不審そうな眼で俺を見て、銀髪の少女を庇うように前に出てきた。なんだか俺が不審者扱いされているようで少し腹が立つ。


「もう一度問うぞ白銀訓練兵、何故ここにいる?」

「いや、夕呼せんせ…香月博士を探していて…」

「香月博士はここにはいない。しかし…」


ボブカットの少女が俺に近づき、観察するように俺を頭から足まで見る。顔はけっこう可愛い娘だなと思いつつ、お返しとばかりに少女らを見ると、彼女たちの腕には俺たちと同じエムブレムがついていた。

YOKOHAMA BASEではなく『ALTERNATIVE Ⅳ』と書かれている。どういうことだろうか。


「えっと、君は?」

「私は高島鈴、臨時少尉の階級を戴いている。この娘は社霞だ」


高島鈴に社霞ね。

俺の世界では出会った事もない少女たちだ。まあ、門番してた人たちも知らない人たちだったし、そういう人間も当然いるはずだけど。

というか、何故この少女はこんなに偉そうなのか。そして何故、彼女は俺の名前を知っているのだろうか。


「俺の事知ってるのか?」

「書類上で、あとお兄様から聞かされている。…しかし、お前の何が特別なの? 見た所、兵役にもついたことはなさそうだし、研究員でもなさそうだし」

「お兄様?」

「高島京平博士のことだ。お前も日本人なら知らないわけではないだろう。私は博士と血を分けた兄妹だ。ふふん」


何故か偉そうにふんぞり返る少女。高島京平。そういえば、いつも夕呼先生の隣で立っている奴がそういう名前だったはずだ。どうやら彼女はアイツの妹らしい。あんまり似てないな。


「で、この部屋なんなんだ? 君らこんな部屋で何してるんだ?」

「お前、上官に対して気安すぎるぞ…。まあいい、この部屋については機密なので明かせない。私達は特殊な任務の途中だ。その内容も明かせない。お前はさっさと出ていけ」

「それが特殊な任務なのか?」


俺は床に構築されつつあるものを指差した。そこにはトランプがあり、そしてそれらは三角形を組み上げて立体構造を形成していた。つまり、ピラミッドを作る途中。

どう考えても任務とは思えなかった。そして社霞と呼ばれた少女は今まさにピラミッドの頂上を作ろうとしている途中だった。


「う、うるさい! 早く出ていきなさい!」

「お、おい、押すな!」


俺は高島鈴と名乗る少女に両手で押されて部屋の外に追い出されていく。そうして二枚の扉を押し戻されて追いだされた所、


「あら、白銀じゃない」

「ん、白銀武に…鈴か」

「あ、先生」

「お、お兄様っ」


夕呼先生と鉢合わせした。その後ろには高島京平と、その後ろにまた見た事のない青みがかった白髪の少女がいた。


「良かった。会いに行ったんですけど、先生、部屋にいなくて」

「何か用?」

「ちょっと聞きたい事があって…」

「いいわよ。アンタに伝える事もあったし、部屋、行きましょうか」





「それがこっちの世界ってことでしょ」


白銀武は友人であった鎧衣尊人が、女性になったことに驚いて夕呼さんに会いに来たらしい。そして同時に、鑑純夏がいない事にも疑問を抱いているようだ。

まあ、この世界は彼の世界と違い歴史自体も大きく変わっているのでその位の変化はあって当たり前なのだが。そして話は隣の部屋にいた霞などに移っていく。そして、彼の世界での夕呼さんの話。


「あ、それと、アンタの事はこれからは京平に一任したから」

「は? 京平?」

「俺の事だ」


白銀武は俺に視線を移す。


「あんた、何?」

「白銀、他人の前でそんな事言ったら正気疑われるわよ? 高島京平。若干11歳にして各分野の博士号を取った天才よ。実質的にはこの基地のNo.3」

「は?」

「高島博士とでも呼べば問題ない。以降、君についての扱いは俺が引き継ぐことになった。今後、君には特殊任務を与えることになるから、呼ばれれば訓練中でも来てもらうことになる」


白銀武は呆けた顔をして俺の話を聞いている。ちゃんと聞いているのか若干不安になる反応だが、まあ構わないだろう。

説明は歩きながらでも問題はない。俺は白銀武からの印象を良好にするため、少しだけサービスしてやることにする。


「ところで白銀君、君は戦術機に興味があるようだな」

「え、あ、はい」

「そんなに乗りたいのか?」

「もちろんすよ! だってリアルロボなんすよ!」


まあ、平和な時代の人間とはいえ、日本人の男子なら人型ロボット兵器に憧れる者は少なくないだろう。俺にはもうそういう感覚は残っていないが。


「見てみたいか?」

「え?」

「見てみたいかと言っている」

「見たい、見たいです!」

「夕呼さん、いいですか?」

「勝手にしなさい」


というわけで俺は白銀武と、何故か一緒についてきた鈴と一緒にハンガーへと向かう。その途中で、俺は白銀武に戦術機についていくらかの説明をしていく。

戦術機が開発された経緯、そして役割、その構造などについて簡単にだが話をする。

BETA光線級の登場により無力化された航空兵力の穴を埋めるために、そしてハイヴ攻略を目指して考案された戦術機は、月面で活動するための有人軌道ユニットMMUを土台として作られた。

しかし、その兵器特性、三次元機動と柔軟な任務適応能力、高い運動性や兵装の汎用性により、対BETA戦闘における正面戦力となった。

戦術機は二足歩行型の人型兵器であり、その全高は18~30m超と機種により差異がある。

動力は本体と跳躍ユニットの二系統に分けられ、本体は電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)を中心とし、そのエネルギー源は蓄電池とマグネシウム電池で賄っている。

跳躍ユニットはジェット燃料を推進剤とし、跳躍ユニット内部と主脚内部に存在する。

現在は第1~第3までの世代が存在し、第1世代は高防御力、第2世代は機動性の強化、第3世代は反応性の向上と情報共有と、段階を分けた特徴と発展がなされている。

しかしながら、前線国家では機体の更新が間に合わず、第1世代機をマイナーチェンジしたものがいまだ現役で使用され続けている。

これから彼に見せるのはそういった機体の1つであり、世界で初めて実戦配備された、アメリカ企業マクダエル社の戦術機F-4ファントムの国産モデルだ。

第1世代に分類されるものの絶えず改良がなされてきたために、現在のブロック214は第2世代に迫る能力を持つに至っている。

とはいえ、戦術機のネーミングが元の世界の戦闘機の名前と同一というのは中々に面白い一致だ。F-4ファントム、F-15イーグル、F-16ファイティング・ファルコンはその代表でもある。


「ところで、その人誰ですか?」

「ん、アステルのことか?」


途中、白銀武が俺のすぐ後ろを歩く存在を指差して問う。それは青みがかった膝まで届く白髪の、国連軍の軍服を着た女性に見える。

事実、白銀武はそれを女性と認識したし、最初は鈴もそう認識した。しかし、


「アステルはロボットだ」

「は?」

「アステル、白銀に挨拶を」

「了解しましたマスター、遅くなりましたが初めまして白銀武様。私はHAI-01AL4 CAPEL2001アステルです。よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ…、って、え、マジでロボットなんですか!?」

「はい、その通りです」

「彼女の瞳を良く見ろ、カメラになっているのが分かるはずだ」

「え、あ、ほんとだ…。すげぇ、ほとんど人間にしかみえねぇ」


驚く白銀武。すると鈴が胸を張って不敵な笑みを浮かべる。


「すごいだろう」

「なんでお前が偉そうなんだよ」

「私のお兄様がアステルを作ったからだ」

「マジ?」

「まじってどういう意味よ。変な言葉遣いだなお前」


物珍しそうに白銀武はアステルに近づいて、前から横からと観察する。アステルには俺の機械的人工知能研究の結果と、00ユニットの技術流用によって完成させた人型人工知性体の試作型だ。

並行して行われた分子生物学的なアプローチで人工知性を目指した人造人間に比べると、コスト的に非常に割に合わない部分が多々あるものの、思考速度においては人造人間のそれを遥かに上回る。

電脳として光学素子を用いたノイマン型コンピューターを中核とし、これに量子ビットによるプロセッサーをサブエンジンとして搭載する。

00ユニットの代替案として俺が中心となって開発完成させた人工知性の最終型ともいえるもので、皮膚の触感、表情筋などの動きは人間のそれと見紛うばかりである。

とはいえ、完全に人間とする必要もないので、瞳や発声器官などのいくつかの部分については機械的であるし、肺などのいくつかの臓器に相当する器官はそもそも必要ない。

とはいえリーディング機能を取り入れるため、様々な改良が繰り返されたが、どうしてもイメージを機械的な人工知能に理解可能なデータとして変換する事が出来ず、こちらの計画は頓挫した。

既存のコンピューターの延長線上にあるAIではリーディングやプロジェクションは難しいようで、そちらは人造人間に付加し、これに機械的なサブエンジンを搭載することで対応できないか検討中である。

ただし、人類を遥かに上回るその高い処理能力は様々な状況に即時対応可能であり、現在は俺の助手かA-01連隊におけるCP将校としての運用などを行っている。

白銀がしきりにアステルに質問をしながら、俺たちはハンガーへと向かう。そうしている内にハンガーに着き、電灯をつけると、いくつもの戦術機が並ぶ光景が目の前に広がる。


「着いたぞ。これがF-4J撃震だ」

「すげぇ! マジ本物のロボットだ!」

「まるで子供ですね」


白銀武は子供のようにはしゃぎながら戦術機の近くへ駆け寄る。彼は戦術機を見上げながら、横から見たりと忙しく動き回る。鈴は白銀武のその反応に呆れ、俺は苦笑しながら彼の元へと歩み寄った。

鈴は階段の上におり、俺と彼との会話は聞こえていないだろう。だから、白銀武の秘密について話す事とする。


「君の世界には戦術機は無いそうだな」

「あ、はい」

「まあ、BETAのいない世界では当然か。クローキングや光学迷彩が地上兵器に実用化されれば状況は変わるのだろうが」

「高島博士…でいいのか?」

「ああ。俺は一応、技術大佐相当の階級を持っている。鈴は臨時少尉だな。軍組織だから人前では気をつけたほうがいい。神宮司軍曹をまりもちゃんと呼ぶと叱責が飛ぶだろう?」


現代日本人にとってみれば軍の組織や階級による社会構造は馴染みのないものであるが、軍事が何よりも優先されるこの世界では当たり前の感覚だ。

6歳からこの世界に放り込まれた俺はそれなりに対応できたが、17、8歳で放り込まれた彼にすれば、少し理不尽に思うこともあるだろう。


「あ、はい。聞きたい事があるんですけど」

「なんだ?」

「この世界に純夏は…鑑純夏はいるんですか? 確か、前に会った時、高島博士は『鑑純夏』を知っているかって聞きましたよね?」


それは彼にとって重要な情報だろう。物語において鍵となる鑑純夏も、207分隊の面々も、神宮司軍曹、夕呼さんも彼にとってみればごく親しい人物たちだ。

その中で特に幼馴染として関係が深かった鑑純夏だけがいないというのは気味の悪い、あるいは落ち着かないのだろう。いや、むしろ寂しいという感情か。


「夕呼さん、香月博士からこの世界の人口は十数億しかいないと聞いたな?」

「…あ、はい」

「白銀君、君の世界の人口はどれぐらいだ?」

「60億人ぐらいだった…かな」

「君の世界の、お前の周りの人間と、この世界の人間模様は極めて似ているらしいな」

「えっと…はい」

「だが、実際にはそれだけの人口の差がある。君の世界では生きているはずの人間が、この世界では死んでいたとしても不思議ではない。君自身のようにな」

「へ?」


白銀武が呆けたように俺を見ている。だが、それは当然の事なのだ。日本人さえその3割以上の人口を失っている以上、彼の世界の人間と、この世界の人間には大きな違いがあるはずだ。

そして、白銀武と鑑純夏という二人の少年少女もまたその過酷な運命の前に翻弄された。


「安心しろ。死んだのはこの世界の白銀武と言う名の少年だ。君ではない」

「そ、それって、同姓同名の?」

「さあな。1998年のBETA本土侵攻によって今この基地がある近辺もBETAによって占領された。逃げ遅れた住民も多くいる。その中に、かつての柊町に住んでいた白銀武という少年がいたというだけだ」

「…じゃ、じゃあ純夏は!?」

「これ以上は機密に属する。今の君には公開できないレベルの情報だ。だが、死んでいるならこういう言い方はしない。そこから察しろ」

「ちょっ、待てよ、そこまで言っておいて秘密かよ!」

「一介の訓練兵が知ってはならないレベルの情報だ。真実を知りたければ対価を払え。重要な情報というものほど簡単には手に入らないのはどこの世界でも同じだと思うが?」


詰め寄ってくる白銀武にそう答える。この世界を認めていない彼に真実を話しても逆効果になりそうだからだ。

…どうやら上にいる鈴には、白銀が俺にくってかかっているように見えたようで、駆け足で階段を下りてくるのが見えた。血相を変えて大変お怒りの様子。


「白銀訓練兵! お兄様に何をやっている!」

「鈴、他の人間がいる場では博士と呼べと言っているだろう」

「あ、はい、すみませんお兄さ…高島博士」

「別に彼の前では構わないがな。さて、白銀武、真実が知りたいか?」

「ああ。でも対価ってなんだ? 金なんて持ってないぞ俺」

「そんなものは要求しない。俺が求めるのは成果だ。夕呼さんにお前を俺に一任すると聞いただろう。俺は君を研究し、君は俺の研究に協力する。それに、悪夢から醒めたいんだろう?」

「そ、そうだ。俺はこんな世界、絶対に認めない!」

「認めない…か。で、君にはその悪夢から醒めるためのあてがあるのか?」

「それはっ…」

「あるのか?」

「くっ、いつか、見つけ出してみせる!」

「ふむ、ではヒントだ」

「ヒント?」

「『鑑純夏』が君にとっての鍵になる」

「純夏が?」

「今日はここまでだ。訓練の疲れもあるだろう? 部屋に戻って休め」

「ちょ、おい!」


俺はそう言い放つと踵を返して階段に向かった。

時間はあまり多くとれない。彼のこの世界への執着、特に207分隊の誰かと特別な関係になれば、彼は元の世界への興味を急速に失うことになる。その前に、事を為さなければならない。





「今日は何なんですか?」

「ちょっとした心理実験だ」


翌日、白銀武が訓練を終えて夕食を終えた後、俺は白銀武を呼び出した。俺の横には霞とアステルがおり、そして神宮司軍曹がいる。彼女らには今回の実験の助手をしてもらうこととした。

今回の実験は白銀武には少しばかり厳しいものになるかもしれないが、その分、いくらかの成果が見込めると思われる。俺は白銀武を戦術機シミュレーターに呼び出した。


「白銀君は人類の敵、BETAについてどこまで知っている?」

「あー、座学で少しだけって感じですかね」

「そうか。少しばかり説明をしておこう」


BETAはその分類上3つに区別される。

まずはレーザー属種、眼球から高出力のレーザーを照射する能力を有し、380km離れた高度1万mの飛翔体を正確に捕捉する。次に戦術機の脅威となる大型種、そして小型種と言う風に分類される。

レーザー属種はさらに2つに分類でき、光線級ルクスと重光線級マグヌス・ルクスに分類される。光線級は全高3mほどで有効射程距離30kmの射程を持つ。

重光線級は全高21mで高度500mで低空飛行する飛翔体に対しても100km以上の有効射程距離を誇る。人類の航空戦力を無力化したのがこの種属だ。

大型種には要撃級メデューム、突撃級ルイタウラ、要塞級グラヴィスが確認されている。

要撃級は頑強な二対の前腕を武器とする全長19mの多足歩行種であり、その前腕はモース硬度15以上、ダイアモンドよりも固く、しかもカルボナードを凌駕する靭性を誇る。

突撃級は前面に頑強な装甲殻を持ち、最大の防御力を誇る一方で、最大速度170kmに達する前進速度による衝角突撃を戦術とする。

要塞級は既知のBETA種族における最大種であり、全高は66mにも達する。動きは緩慢であるが、攻撃力・防御力・耐久力のいずれも高く、10本の足による攻撃は要撃級の前腕にも劣らない。

さらに尾節には全長50mにもなる触手が収められており、その先端の鉤爪状の衝角はモース硬度15以上であり、激突した際に戦術機さえも溶かしてしまう強酸性溶解液を分泌する。

小型種には戦車級エウクス・ペディス、闘士級バルルス・ナリス、兵士級ヴェナトルが確認されている。

特に戦車級はBETA群中最大の個体数を誇る多足歩行種であり、全高2.8m、時速80kmの機動性の高さ、そして戦術機の装甲すら噛み砕く強靭な顎を持ち、大破した、あるいは多数の戦車級に取りつかれて動けなくなった戦術機が衛士もろとも『喰われる』。衛士を最もたくさん殺したBETAとも言われる。

闘士級は全高2.5mほどの二足歩行種であり、俊敏な動きをし、象の鼻のような腕は人間の頭を容易に引く抜くほどの力を持つ。

兵士級は全長2.3mの最小種であり、人間の数倍する腕力と、強化装備を食い破るほどの顎の力を持つ。この二種は拳銃でも対処可能であり、主に歩兵によって対処され、戦術機の敵ではない。


「君にはこれからBETAの映像を見てもらう」

「BETAって宇宙人の?」

「ああ、なかなかにグロテスクだから、平和な世界出身の君には辛いかもしれないな。嫌なら辞めていいぞ」

「構わねぇよ。グロにはそれなりに耐性あるんだぜ」

「君の世界にもそういうものがあるのか?」

「いや、ゲームとか映画で」

「なるほど」


知っているさ。アメリカの映画で特殊メイクやCGで作られた作り物の化け物を嫌ほど見ているだろうから。


「これは?」

「網膜投影ディスプレイだ。今起動させた。視界の中央に文字が見えるだろう?」

「あ、すげぇ」


白銀武にはあらかじめ強化服を着せている。物語において白銀武は本物のBETAを見たとき冷静さを失った。

それは急性のトラウマによるものだったが、それは別のループに由来するものだったはずだ。同じ反応が見られれば、彼も何かを思い出すかもしれない。


「そういえば、今日の朝、霞が君の所に行ったらしいな」

「あー、えっと、起こしてもらいました」


俺の中の物語における記憶、そして鑑純夏の脳髄をリーディングする作用によって霞はかなりの影響を受けている。

朝の彼女の行動は、それに影響された義務感めいたものらしい。俺の知識の影響もあるかもしれない。当の白銀がどう考えるかは別だが。


「そうか。BETAについての詳しい情報は訓練兵には伏せられているが、君は特別だ。一応警告しておくが、これから見せる映像はBETAに殺されかけた衛士の戦術機から抽出したデータだ」

「あー、はい」

「では、始めるぞ」


映像が始まる。当初は順調にBETAを倒す衛士。しかし、突撃級の突進に足を取られて小破してしまう。さらに要撃級による前腕の攻撃を何度も受けて戦術機がひしゃげていく。

そして戦車級が群がりだして、と簡単に表現すればそんな映像である。元の世界で映画などでそういう化け物を見た事がある白銀武なら本来はそこまで恐怖する映像ではないはずだ。しかし、


「うわあああああああっ!?」


白銀武は喚きだした。興奮剤無しでも反応したか。


「この野郎! 殺してやる! 殺してやる! てめえらのせいで!! てめえらのせいで!! 殺してやる!!」


レバーをガチャガチャと鳴らせながら白銀武の興奮は収まらない。俺は霞にリーディングによるモニターを続けさせて、同時に映像を撮り、その様子を見守る。

彼が何をしようが映像の内容は変わらない。戦術機は動きを止め、要撃級に殴られ始める。


「どうしたくそっ! 動け! 動くんだよ! 死んじまうだろ! 動け! 動くんだよ!!」


そして戦術機のモニターは死に、シミュレーター内部は赤色灯に照らされる。そして、戦術機が殴られてひしゃげる音だけが彼を支配する。


「いやだぁぁぁっ! 死にたくないぃぃぃ、いやだいやだいやだ……」

「高島博士っ! これ以上は!!」

「分かった、止めろ」


神宮司軍曹の言葉を受け、ここで映像も音も止める。白銀武は恥も外聞もなく涙や鼻水、涎を垂らし、小便を漏らしていた。控えていた衛生兵たちに後の処置を任せる。鎮静剤などが打たれたのだろう。

白銀武は担架で運び出され、別室で休憩をとらせる。その間、俺はデータを編集しておく。案の定面白いデータが抽出されてくる。

しばらくすると、衛生兵から連絡があり、白銀武が平静を取り戻した事を知って、俺は神宮司軍曹と白銀を二人きりにさせる。


「で、彼の症状は?」

「PTSDによるものかと。おそらくは大きな心的外傷によるものだとは思いますが、彼はBETAに襲われた経験でもあるのですか?」

「君の知る所ではない。所見は分かった。下がりたまえ」

「はっ」


衛生兵の報告を聞き、俺は彼女を下がらせた。そしてシミュレーター室には俺と霞だけが残された。神宮司軍曹には、白銀が結果の報告が可能になり次第、連絡をよこす様に伝えている。


「予想以上の反応だった。彼には悪いが、衛士を目指す以上、いずれは通らなければならない道だ」

「……」

「俺を酷い奴だと思うか?」

「いいえ」


彼女は首を振る。俺はそうかとだけ呟いて、データの編集に集中する。そうしてしばらくすると、神宮司軍曹から連絡が届いた。

俺は別室に移された白銀に会いに行く。部屋に入ると、神宮司軍曹が俺に敬礼をした。


「軍曹、ご苦労だった」

「いえ。博士、差し支えなければ質問をお許し願えませんでしょうか?」

「構わない」

「今回の実験の意図はどこにあるのですか?」

「このデータを見てどう思う?」

「……これはっ?」

「彼が『特別』であることの一端だ。これ以上は香月博士の許可がなければ話せない」

「……分かりました」

「では、軍曹、下がりたまえ」

「は、失礼します」


神宮司まりもが部屋から出ていく。白銀は少し名残惜しそうな表情をしたが、まあ、あれだけ錯乱した後だから仕方がないだろう。

俺は白銀のバイタルデータをアステルに監視させながら、彼と話す事とする。


「さて、白銀君、『初めて』見たBETAはどうだった?」

「なんなんだよ…あれ……」

「あれがBETAだ」

「何で俺…あんな風に……」

「白銀君、君はああいうものを極端に恐怖する性質か?」

「違う…、だけど何だかどうしようもなくアイツらが許せなくて…、クソっ」


憔悴しながらも忌々しそうな表情を浮かべる白銀。この蓄積された怒りと後悔が、俺の記憶にある戦場における彼の戦闘力の原動力の一つだったのだろうか?


「君はBETAを知っているな」

「そう、そうだ…。俺はアイツらを知っている。でもなんでだ? なんで知っている? クソっ、思い出せねぇ」

「君はBETAに殺された」

「ぐっ、思い出せねぇ…、でも、確か…」

「話は変わるが、因果律量子論という言葉に聞きおぼえがあるだろう」

「え、ああ、えーと、夕呼先生の…」

「そうだ。俺も長くあの理論と関わっているが…、そこから導き出される予想に因果導体という存在がある。まあ、今は聞き流すだけでいい。重要なのは予測するに、君にとってこの世界は初めて体験するものではないということだ」

「…どういうことだ?」

「これを見ろ」


俺は白銀武に、彼が錯乱中に何をしていたかを記録した映像を見える。そこには取り乱しながらも『正確に』戦術機の操作を行なおうとする彼の姿が映し出された。


「君はBETAに襲われ機関が停止した戦術機を動かそうと必死に操縦桿やペダルを操作していた。君の操作はデータから解析するに十分に訓練を受けた衛士のそれだった。君は乗った事もないはずの戦術機を正しく動かそうとしていた。無意識にな」

「…?」


乗った事も乗り方を教授されたこともないヒト型ロボットを、まるで現役の衛士のごとく操ろうとした。そんなのはまずあり得ない。白銀武は会得したような表情となる。


「そして、衛生兵の所見から、君はBETAに対して大きな心的外傷を負っており、PTSDを発症していると報告がなされた。見た事もない怪物に動揺してパニックを起こした。普通でない反応で」

「えっと、それって?」

「君に分かりやすく説明するなら、君はこの世界をループしている可能性が高い。故に君は戦術機の動かし方を知っているし、BETAを見た事もある。ただ、その記憶の多くが抜け落ちているらしい。理由は仮説であるが提示は可能だ」

「それがさっきの話とどう繋がるんだよ…」

「君が因果導体であると仮定すれば、それらの事象に説明がつくということだ。君は何らかの理由で因果導体となり、同じ時間を繰り返している」

「そんなバカな話…」

「なら、お前の怒り、お前の恐怖はどこから湧いてきた? 思いだせないならまた画像を再生してやろうか?」


白銀武は黙り込む。まあ、今回の実験は彼が本当にループ状態にあるかを確認するためのもので、彼に信用されるのは二の次なのだから、ここで彼が納得しないのも可能性としては小さくない。


「……何となくだけど覚えてるんだ。確かに、初めてじゃないってことを。多分、確か、あれだ…、何かのせいで人間は負けたんだ」

「オルタネイティヴ5」

「そう、そうだ。そいつが発動して、夕呼先生のオルタネイティヴ4が失敗したんだ…」


そうして白銀武の記憶、失われていたループにおける多くの記憶が芋づる式に彼の脳で蘇っていく。

それらの多くは断片的で、不完全ながら、12月24日に第五計画が発動された事などの情報が呼び出されていく。


「これは…、夢じゃ…ないのか?」

「俺は少なくとも現実と考えている」

「何で…こんなことに…?」

「ヒントは出したはずだが?」

「純夏…、純夏がいったい何なんだよ!?」

「それはまだ答えられない。…今日の実験は終わりだ。が、君の睡眠時の脳波を測定したい。後でアステルと霞を寄こす」


そう言い残して俺は部屋に白銀を残してアステルと共に退出した。





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