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No.36153の一覧
[0] 【SOS】毎日変な夢をみる件について【誰か助けて】(チラ裏より)[矢柄](2014/08/01 21:14)
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[13] 013[矢柄](2014/08/01 21:23)
[14] 白銀武の憂鬱01[矢柄](2013/02/18 20:26)
[15] no data[矢柄](2014/08/01 21:40)
[16] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[17] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
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[21] no data[矢柄](2014/08/01 23:49)
[22] no data[矢柄](2014/08/02 00:11)
[23] no data[矢柄](2014/08/02 00:33)
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[36153] 006
Name: 矢柄◆c8fd9cb6 ID:022f668f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/01 21:18


「…まあ、分かっているんだが、毎回6歳からやり直しって言うのもなんだかな」


1990年8月7日。俺の精神は再び6歳児の身体に宿る。

毎回の事であり、今さらではあるのだが、長年かけて築いた人間関係や信頼関係がたった一日で消え去ると言うのは寂しさや虚しさが混ざるなんとも表現しにくい気分になる。

失敗を取り戻せるという意味で前向きになることも出来なくはないが、しかし、正直に言えばしんどいのである。

さて、昨日、現実世界?にて金曜日と土曜日を丸々ゲームに費やしたあげくに眠りについた結果としての今なのであるが、さてどうするべきか。

基本的な構想、つまりは白銀武が2001年10月22日に出現するというイベントの発生を邪魔しない、というのは決定事項だ。

そのためには日本帝国が力を付けすぎてはならない。つまり、俺の持つ知識に基づいた干渉についてある程度の調整を必要とする。

しかし干渉を小さくし過ぎれば、名声が得られず、オルタネイティヴ計画に関わる事が出来なくなる可能性もある。その匙加減が難しい。


「京ちゃんどうしたの、難しい顔して?」

「ううん、何でもないよ母さん」


それに家族を死なせたくはない。この世界が何であれ、目の前の家族、父さんと母さん、そして鈴は俺の主観では間違いなく実在であり、幻でも人形でもない。間違いなく大切な家族だ。





1991年。俺は帝大に招かれ、前回と同じく多くの論文を発表し、いくつかの特許を申請し、実験用核融合炉の製作などに携わっていた。

前回との違いは帝国の戦力に直結するようなもの、例えば戦術機の開発には関わらなかったことか。純粋水爆の開発も考えているが1998年までに実用化が行わないようにスケジュールを調整する。

他、メガフロートの設計も行っている。前回のループでは海の上が最後の生存圏になった事で、メガフロート建造技術が飛躍的に進歩し、自己増殖型のメガフロートが実用化されていた。

海水に溶け込む無機成分と太陽の光、あるいは核融合からのエネルギーがあれば自動的に面積を増大し、また自己補修をする自律型のシステム。

人類は一応ながら海の上に生存圏を確保することができた。そして数十年もの間、俺が老衰で死ぬまで直接的な侵略を受ける事は無かった。

結局のところ彼らBETAは資源さえ確保できればいいのであって、海の上などに興味を持たなかったのだ。襲われなかったのは結局のところ、人類最後の生存圏に彼らの望む資源が無かったから。それだけの話だ。

しかしながら、BETAが炭素系の生物であることには変わりなく、それは彼らの要する資源の中に炭素が含まれていることは自明だった。

つまり、最終的にはBETAとの炭素の争奪戦に発展し、将来的には大気や海水に溶け込む二酸化炭素がほぼ枯渇すると言う恐るべき未来が予測されていた。

共通の脅威を煽って人類を団結させるというプロパガンダの効果もあったが、人々はBETAに対する恐怖心を失わなかった。最悪の可能性、泳ぐBETAの発生の可能性への警戒は常にもたれていた。

このため、水中戦闘機とも呼べる新しい兵器が開発されるに至った。その過程で電磁推進系統が発展し、足のない戦術機とも言える異形が誕生した。

戦術機関連では、ホウ素と水素を燃料とする小型核融合炉の実現により戦術機にこれを搭載することが可能となったのが大きいかも知れない。

ホウ素と陽子による核融合反応は、質量・体積辺りのエネルギーに劣るものの、高速中性子を発生しないという利点があり、エネルギー密度も化学電池や化学燃料に比べれば比較にならない程大きい。

これにより電磁投射砲やレーザー兵器を運用するための大電力を確保することが可能となり、戦術機の火力を飛躍的に向上させることに成功する。

さらに、跳躍ユニットに搭載可能な熱核ジェットエンジンが開発されると、推進剤の枯渇が無視できるレベルとなった。

それでもBETAの光線級と物量に対する明確な対抗策を得ることは出来ず、どれだけ高性能な戦術機を開発しようが海の上に逃げた人類が戦術機を駆る機会などついぞ訪れる事は無かったのであるが。

宇宙開発計画や周辺技術についても大きな進歩があった。先の熱核ジェットエンジンはそもそもこのために開発されたものだ。

観測と経験則からBETAが一定以下の質量の小惑星、ガス惑星や氷惑星に興味を持たない事は知られており、そこに活路を見いだせないか…という生存圏拡大のための冒険が行われた。

もともと第五計画に伴う移民船団の建造ノウハウが残っており、磁場を用いた銀河宇宙線の遮蔽技術の蓄積を継承していたため、アステロイドベルトや木星圏への有人探査や移民は可能と考えられた。

結局のところ生命はエネルギーと元素さえあれば生存できる。

いくつかの人道的な問題を無視して行われた冒険はある程度実を結び、アステロイドベルトの小惑星内部をコロニーとし、そこに移民する事業が実施されていた。

情報技術では光や磁場を用いたデバイスの発展が挙げられるかもしれない。光やスピンを用いた集積回路やメモリー、光学結晶を用いた記憶装置、超小型NMRを用いた携帯型スキャナーなどが実用化されていった。

発展したのは工学的分野だけでなく、生命科学と脳科学の延長線上として合成生物の生産も行われた。それは虫や動物の形態を模したものから、合成人間とも呼ぶべき存在まで…である。

そもそも1億人を下回った人類は十分な労働力の確保が出来ず、にもかかわらず住む土地も限られているため無理な人口増加政策をとることが出来なかった。

それ故に、人類は過酷な環境に置かれても人間のそれと遜色のない労働を提供する奴隷を要した。人権など考えずに済み、いくらでも使い潰せて、しかも従順な存在。

ロボットはコスト的に見合わない。安価に生産出来て、メンテナンスも簡便で、自己修復も出来る存在が良い。それが合成生命だった。

既存の生物種の遺伝子を参考としながらも、電算機により演算された最適な酵素およびタンパク質を合成する、人為的に組み上げられたDNAによって生じる人工合成生命。

人類に奉仕することを快楽と捉える本能、人類が消化できないような食物繊維や油なども栄養源とする食性、与えられる労働に最適な形態と能力、人類が調整可能な繁殖速度。

ノウハウが蓄積すれば、知性を持ちながらも身体能力や五感において人類を上回るモノを設計する事は十分に可能となる。

姿形が人間で無くとも良く、腕や眼が一対である必要も無い。ここまでくれば、ある意味においてそれは人類が生み出したBETAと同類の存在と言えるようになる。

とはいえ00ユニットの完成しなかった前回においてそんな印象を抱いたのは俺だけだっただろう。

むしろ人類の平均値よりも高い知性、冷静さ、洞察力を備えるようになると、人類の存在価値というか、霊長としてのアイデンティティを脅かす事が危惧され始める。

人工的に合成された合成人間の知性は、一種のバイオコンピューターと捉えられ、これに高速演算と記憶装置としてのノイマン型コンピューターを接続することで人類とは比較にならない能力を示す。

人工知性の進化における特異点。人類以上の知能を持つ人工知性が、より優れた人工知性を生み出そうとすれば、それは最終的に指数的な速度を以て加速するという予測。

まあ、そんな未来を目撃する前に寿命が来たのだけれど、被創造物が創造主の能力を超えた時、社会がどうなるのかは少しばかり興味がある。

それはそれとして、前回の数十年で得られた知識は充実しており、軍事技術とは直接関係のない技術群についても新しい知識や知見を得ることが出来た。

こういった知識を元に、特に基礎研究分野において成果を積み重ね、研究畑で名が知られるように工作をしていく。そうして時がたち、彼女が現れた。


「こんにちは。貴方が香月夕呼さんですか?」

「何? アンタは…、いえ、どこかで見た事があるわね。そう、最近、雑誌で…、確か、高島京平?」

「はい、高島京平です。はじめまして」


帝国技術廠の人間の人となりが分かっていたために無駄が省かれ、実用的な核融合炉の公開実験が早まり、少しばかり出会い方が変わったが、俺は再び彼女と出会った。

前回は失意の内に地球を去った彼女だが、今回はどのような結末が彼女を待っているのだろうか。彼女の言う『ガキ臭い救世主』が現れるのかどうか。まあ、実際に立ち会わなければわからないだろう。


「噂の天才少年に声をかけてもらえるなんて光栄だわ」

「若年で才能を開花させたのは貴方もでしょう。因果律量子論、面白い説だと思いますよ」

「あら、読んでもらえたのかしら」

「ええ。なかなかに野心的な仮説だと思います」


面白いも何も、その理論の証拠となるかもしれない存在が彼女の目の前にいるのだが、あえて今すぐに語る必要はない。ある程度の信用を得てから話せばいいだろう。

というか、彼女は数年前には既にこの理論を完成させていたというのだから天才具合が俺とは違う。まったく新しい理論を提唱するというのは凡俗に出来る事ではない。

こうして香月夕呼が帝大に招かれると、量子コンピューターの作成を行っている俺と彼女の話す機会もだんだんと増えていく。

夕呼さんは俺が多岐に渡る分野で活動している事に興味を持ち、様々な分野での討論を行うようになった。

彼女は量子物理学が専門ではあるが、他の分野についても造詣が深く、彼女の意見により研究効率が上がったこともたびたびあった。


「夕呼さん、人工知性の下す判断にも因果律量子論が適応されると思いますか?」

「常に同じ状況下で同じ判断しか下さないAIには適応されないとおもうけれど。それがどうしたの?」

「いえ、俺の研究テーマの一つですから」

「テーマ? ああ、究極の人工知性を作ることね」


究極の人工知性。すなわち、人間に限りなく近く、しかし人間を凌駕する演算能力を備える知性。00ユニットとは似ているが異なるモノ。

いや、00ユニットさえも問題無く稼働させるだけの究極AIの創造。そしてそれは因果律量子論におけるよりよい因果を引き寄せる力を伴うものでなければならない。


「人間の脳でも解体でもするの?」

「還元的な手法では辿りつけませんよ。人間の知性を知り、それを再現する。まあ、今のところの目標ですけど」

「人間に出来る事を、機械で出来ないはずがないだったかしら?」

「人間は神聖じゃないっていうのが持論ですから。宗教者からすれば冒涜もいいところですけど」

「でも多才ねぇ、最初は核物理学が専門だと思っていたけど。量子物理学だけじゃなくて、建築や新素材、分子生物学にも手を出してるみたいじゃない」

「純粋水爆の研究開発は今もやってますよ。技術廠の人たちもそちらに興味があるようですし。でも、それが作れたとしても人類がBETAに勝てるわけじゃないんですけどね」


核兵器がBETAに対する絶対的な対抗手段になり得ない事は中国軍、ソ連軍がその国土の消失をもって証明している。

戦術核はたいした抑止力にもならず、航空戦力が無効化された今では戦略核を自由に用いる事も出来ない。きれいな核兵器が出来たところで、人類の劣勢に変わりは無いのだ。

まあ、帝国本土を数年ほどは延命させることができたり、いくつかのハイヴを攻略するところまでは行けるのだが、結局のところオリジナルハイヴを陥落させない限りは意味のない行為だ。

そして、地球上の全BETAの思考中枢であるオリジナルハイヴ攻略を優先するための証拠を明確に示すには00ユニットによる諜報が必要となる。


「人類の勝利ね。私にはほど遠い話だわ」

「さあ、どうでしょうね。あるいは貴方が世界の趨勢を左右するようになるかもしれませんよ」

「冗談きついわね」

「事実ですよ。未来はいまだ不確定ですがね」

「?」

「来年、1992年に中国領敦煌とソ連領クラスノヤルスクにハイヴが建設される。何事もなければ1993年には重慶に建設されることになります」


そうして俺は自らの素生を彼女に話す。彼女の成果、そして挫折を。今はまだ戯言だと思ってくれてもいい。

だが、俺の予言は当たるだろう。

今までのループにおいてハイヴの建設地が変化したのは前回のループにおいて俺が積極的な干渉を行った時だけだ。そうして為した成果は、人類にとって少しだけマシな未来を用意したことだけなんだけれども。


「本気みたいね」

「信じるんですか? 俺の話はいまだ証明されていないと言うのに」

「狂人の戯言なら、いままで貴方が為してきた成果もあるはずがないでしょ。貴方の言う前回のループで私が何を為したのか、話してもらいましょうか」

「失敗した理論なんですがね」


こうして、微妙に姿を変えながらも歴史は進む。





「現在、BETAは敦煌にその前線基地であるハイヴの建設を終えています。しかしながらこのBETAの東進に対して中国軍は自国領土を犠牲とした戦術核による焦土作戦以外に有効な抑止を行えず、しかしBETAの侵攻を阻むには至っていません」


1992年末、俺はいくつかの大学や企業を招いた講演会を行っていた。

前回のループではいくらか経験したものの、やはり研究畑一筋の俺としてはこういう演説は慣れるものではない。

行っている演説は将来的に九州・中国地方へのBETA上陸が十分にあり得る危険性を指摘し、メガフロートへの移住を促すというものだ。


「1985年には英国本土への侵攻があり、地中海での渡洋も確認されている事から、黄海・東シナ海・津軽海峡において海がBETAの侵攻を阻む壁となることは期待できません。帝国軍による決死の防衛がなされるでしょうが、住民避難と戦闘を同時に行う事が困難である事は英国本土侵攻の例からも分かると言うものです」


だが、彼らのどれだけが言葉によって動くだろうか。

今はまだ朝鮮半島も健在であり、中国も戦線を後退させながらも完全には崩壊していない。じきに重慶にハイヴが建設されるだろうが、それでも住民は移住を考えないだろう。

危機感を覚えたとしても、彼らが本気になるのは朝鮮半島が陥落した時。しかし、それでは遅すぎる。


「今回、私が考案したメガフロートは自己増殖修復型の新式のものであり、核融合炉をエネルギー源として無限にその面積を拡大し続けます。これにより設置後10年後の面積は…」


彼らが確かな形でBETAの影に恐れを抱くのはおそらく1997年に朝鮮半島にハイヴが建設される時だろう。

これを端に第二次産業、工場などを移転させる事は可能かもしれない。だが、その土地に生きる人々、農耕や水産業を営む人々は土地を離れないだろう。彼らに俺の言葉が届く事は無い。

多くの人々が死ぬだろう。俺には彼らを生かす手立てがあるにもかかわらず、俺はそれを行わない。

今までのループでさんざんに見捨ててきた人たちだ。なんの縁もゆかりもない人たちだ。いまさら良心の呵責を覚えるのは筋違いかもしれない。だが、それでも彼らは今生きている。

公演が終わる。

多くの企業の関係者たちが俺の周りに集まってくるが、彼らの本題はメガフロートへの移転ではなく、俺が研究している新しい技術への興味と打算的な思考によるものだ。

実際、多くの講演の後に話した事はそういう内容ばかりだった。そうして適当に彼らをあしらい、俺は帰途につく。


「さて、彼らは俺の言葉に耳を貸さなかったことを後悔するのかね。はっ、俺は確実に地獄行きだな。まあ、それまで精神が保ったら煉獄だろうとどこだろうとせいぜい付き合うさ」


BETAの本土侵攻を真面目に考えていた者は当時の日本には少なかったが、それでも俺のメガフロート建設にはGOサインが降りた。

BETAの本土侵攻を阻めたとしても、勝手に増えていく領土と言うのは魅力的だったのだろう。また、このメガフロートは他国、国土を奪われた欧州・中東各国にも受け入れられる。

いやむしろ、そういう国々にこそ歓迎された。

そうして年月が流れる。

従来の半導体の百分の一の規模に千倍の演算能力を可能とする1分子コンピューターの実験室レベルでの製造、実用的な量子コンピューターの実現。

さらには医療用マイクロマシンの開発、核融合エネルギーにより海水中の炭酸を固定し代用石油を生産するプラントの建造といった成果を上げていった。

俺は各分野での博士号を得た。家族や一族からは大変な祝辞を受けた。たまに正月や盆などに実家に帰れば一族総出での祝宴が行われる。

妹の鈴からは気持ちが悪いほどのキラキラした尊敬の目で見られ、母親には訝しがられ、父親は流石俺の息子だだのと自慢して酔いつぶれた。

いつの間にか増殖した親戚たちからはノーベル賞は確実だとか言われたが、肝心のスウェーデンはBETAの腹の中である。

まあ、いくら特許や企業で儲けようがこの世界は末期だし、こんな肩書は第四計画に参加するための布石に過ぎないのだけれども。

そうして1995年を迎える。

夕呼さんの00ユニットを用いた対BETA諜報員育成計画が第四計画として本計画として格上げされ、俺もその計画の一員として参加することとなる。

そして第三計画の接収に伴い、一人の少女が俺たちのもとに届けられた。


「第六世代、300番。まあ、名前ではないですね」

「…そうね」

「?」


首をかしげる銀色の髪の少女。まだ特徴的なあの髪飾りは着けていないが、それでも前ループでは長年連れ添った生涯のパートナーだった。

まあ、そのあたりについては彼女にあまり知られたくないのだが、彼女の能力をもってすれば容易く読みとられてしまうだろう。まあ、今は本人も俺との関係を正確な意味で把握できていないようだが。


「初めましてというべきか…、俺の名は高島京平だ。おそらく最短で9年程度の長い付き合いになる」

「……」

「まあ、まだ日本語も慣れないだろうからリーディングで読みとればいい。おそらく既に読みとっているだろうが、俺が君に会うのは初めてじゃない。いや、この世界においては初めてだな。まあ、そのあたりもおいおい理解してくれたらいい」

「……」

「君の人生はここで大きく変わるだろう」

「?」

「どう変わるかは不確定だ。俺もこの先何が起こるか分からない。だが、少なくとも今までとは違うものになる。あるいは過酷なものになるかもしれない」

「……」

「まあ、それはいい。分からないものを今悩んでみても仕方がない。ただ、君が良いというなら、俺の記憶の中にある君の名を、今の君に受け取って欲しい」


少女は俺の瞳をまっすぐ見つめる。だから俺はその名を口にする。


「社霞、君の新しい名前として受け取ってくれるか?」

「ヤシロ…カスミ?」

「ああ、そうだ。世界は違えど俺にとっての君は今でも霞だから、まあ、独りよがりな考えではあるが。嫌なら断っても良い。名前は大事なものだから」


彼女は首を横に振る。そしてもう一度ヤシロカスミという名前を少しぎこちないアクセントで呟いた。


「受け取ってくれるか?」


少女はコクリと頷いた。この日より彼女はトリースタ・シェスチナではなく社霞と呼ばれるようになる。

祖国では与えられなかったものを、俺たちは再び彼女に与える事が出来るのか。この繰り返しの世界で、それさえも作業になってしまわないか。俺はそんな事を思いながら彼女の小さな手を握った。





「悪くない」

「……以外にこういうのも悪くないわね」

「これが…着物ですか」


さて社霞が来日してよりいくらかの年月が流れた。霞はものすごいスピードで日本語だけでなく、各種専門技術についての知識を習得した。今では夕呼さんや俺の助手を立派に務めている。

とはいえ、仕事だけでは息が詰まるモノ。研究所という狭い空間に押し込められた霞には外に出る機会はほとんどなく、それゆえ日本文化には食以外にはあまり触れていない。

ということで、俺と夕呼さんは霞で…ではなく霞と日本文化で遊ぼうという企画を立てた。まあ単純に白人の霞に和服を着せてみようという類の催しだ。

前回のループでも彼女が和服を着た事は見た事が無かったので、俺自身もどうなるかと興味がなかったわけではない。霞は自らが纏う蒼色が鮮やかな振袖を珍しがって色々なポースを鏡の前でとっている。


「夕呼さんも晴れ着ぐらい持ってるでしょう。美人なんだから似合うと思いますが?」

「いやよ。私かたっくるしいのは嫌いなの。でも、他人…可愛い娘を着飾るって言うのは思った以上に面白いわね」


夕呼さんはそうは言っているが、実家は名家であるので以外に昔からそういうものを着せられていたかもしれない。

まあ、今は年中洋服の上に白衣を羽織っているし、俺もそんな姿の彼女しか見た事は無い。物語では街中でケーキを売る女性が着ている様なサンタクロースのコスチュームに身を包んだ事があるらしいが。


「霞、どうだ気にいったか? 青の他にも赤色のとかも用意している。気にいった物があればプレゼントしよう」

「プレゼント…ですか?」

「あら、えらく気前がいいじゃない」

「金だけは一方的に貯まるんでね。かといって、こんな仕事していたら使い道も見つからない。俺自身金のかかる道楽には興味ないからな。…それに予定では西陣も京友禅も加賀友禅も大打撃をうけるはずだから」


まあ、別に今買いこんでおいて値が張ったら売るなんて言うあこぎなことをするつもりはない。

人類が滅びれば金なんていくら持っていようが意味もないし、財を蓄えたところでBETAに賄賂が通じるわけでもない。道楽なら平和になってから探せばいい。


「とはいえ、将来の事も考えていくらか買っておくのもいいか。霞も大きくなるからな」

「私にはなにかもらえないのかしら?」

「アンタ十分に金持ってるんだから自分で買えや」

「ケチね。アンタ、色々起業に関わって儲けてるんでしょ」

「正当な報酬です。まあ、いいか。霞、カタログがあるから好きな柄を選べ」


俺は織物のカタログを開いて霞に見せる。まあ、なんとも値段の張るモノばかりで、現実世界の親父たちが見れば目玉が飛び出るような桁の数字が並んでいる。

とはいえ、この世界においての俺の財力からすればさほどの問題ではない。この末期の世界で保有する財がどの程度の価値を持つのかは分からないが。


「でも、今の感覚で選ぶ柄と、霞が大人になってから着たいと思う柄って違うんじゃない?」

「ん、それもそうか。夕呼さんも選ぶの手伝ってくれません?」

「アンタが選びなさいよ。その方が喜ぶんじゃない?」

「…霞、どうする?」

「京平さんに…おまかせします」

「そうか」


そうして俺は記憶の中にある成長した彼女、年を経た彼女の姿を思い浮かべ、彼女が好みそうな柄のものを選んでいく。

基本的に彼女は黒を基調とした色を好んだが、まあそれは確かに銀色の髪の彼女の容姿を引きたてるのだが、白や暖色系統だって似合わないわけではない。


「そうだな、洋服も買おうか」

「いいんですか?」

「ああ、霞が望むなら」

「ところで京平」

「なんです夕呼さん?」

「アンタ、霞には随分甘いけど、前回のループでこの子と恋仲だったの?」

「記憶にございません」

「霞、どうなの?」

「結婚…していたそうです」

「ふぅーーん」

「か、霞、お前はもうちょっと恥じらいと言うものをな…」

「ロリコン」

「ぐっ、年齢的に霞とは3歳しか違いませんので」

「精神年齢的には?」

「黙秘します」


生温かい夕呼さん夕呼さんの視線が突き刺さる。霞が頬を赤くする。俺は所在なさげに身を縮こまらせるしかできなかった。まあ、そんな感じで日々は過ぎていく。





そうして1998年が訪れた。

メガフロートは順調に巨大化し。関東を全て含めたほどの大きさに成長した。秋津洲と名付けられたその浮島は千葉と巨大な浮橋で接続されている。

大都市圏との交通の便が良いため1996年以降には関西以西からの向上の移転や移住者の入植が相次いだ。

多くの工業施設が並び、特に食糧生産工場や石油生産工場は米国からのそれの輸入が不要になるほどの生産量を誇るようになっている。

とはいえ、移住者は100万人にも届かず、ギガフロートには空き地が広がっている。だが歴史が物語の通りに時を刻めば、およそ2500万人の難民が生じる事になる。

本来は九州や中国地方の人々を受け入れるはずだった浮島も、その時になれば別の用途に用いられることとなるだろう。まあ、仕方のない事だが。

3年の間、とくに何もしなかったわけではない。

俺は俺で研究を重ねていたし、いくつかの成果も上げていた。まあ、直接的に帝国の戦力になるようなものは発表しなかったか、意図的に公表を遅らした。

とはいえ、前回ループで研究した超小型高精度MRIを用いた戦術機の完全思考制御は、夕呼さんからA-01連隊を用いて実戦証明を行うようにと指示を受け、成功を収めた。

完全思考制御は筋肉などの電位を測定する間接思考制御に比べて明らかに反応性が高くなり、戦術機の動きをまるで人間ようにスムーズに稼働させる。

また、多くの衛士の脳をモニタリングすることで、訓練用の仮想空間において他の衛士が体験した危機的状況の再現や、新任の衛士がベテランの経験をダイレクトに学ぶことが可能となる。

これを導入した事によりA-01の衛士たちは朝鮮半島では死の8分を全員が乗り越えただけでなく、戦闘効率を平均30%以上向上させ、衛士の生存率を3倍にするとの結果を叩きだす事が出来た。

並行して小型加速器を用いた荷電粒子砲については衛星兵器としての建設が開始されている。

鉛原子核を用いた中性ビームとしてのその威力は、計算上はXB-70の荷電粒子砲の威力を遥かに上回るはずであり、佐渡島ハイヴ攻略戦やオリジナルハイヴ攻略作戦などに大きな戦果を生み出すはずである。

まあ、予定でしかないが。

純粋水爆については今年の秋に爆発実験が行われる予定である。ある意味において意図的にその実用化を遅らせたが、それに気付いているのは夕呼さんと霞だけだろう。

無人兵器群の量産体制も秋津洲において1999年より開始される。全ては遅きに失するのだが。

そうして歴史は巡る。

春に行われた朝鮮半島からの撤退を支援する光州作戦は国連軍司令部の陥落による混乱により、国連軍は大きな損害を受ける。その原因となった彩峰中将は死刑となり刑場の露と消えた。

そして、帝国は試練の時を迎える。夏、重慶ハイヴより東進するBETAの大群が朝鮮半島から日本海を横切り、北九州・中国地方日本海側に上陸したのだ。

超大型台風の直撃と重なったこの本土侵攻は、海上戦力の展開が出来なかったこと、避難民の誘導が困難となったこと、それに伴い有効な反撃が行えなかった事により、わずか一週間余りで九州・中国地方・四国の失陥を許してしまう。

そして、そのまま大阪までBETAの侵攻を阻む事はできなかった。


「京平、アンタの言う通り、地獄の釜が開いたみたいね」

「BETAの侵攻は止まらない。東京までその侵攻を許すだろう。それ以西は全てBETAに食い破られる」

「そして、佐渡島と横浜にハイヴが建設される。止めなくてよかったの?」

「無意味な問いです。こんな光景は何度も繰り返して見てきましたから。…俺は家族に仙台に疎開するように言ってきます。何度言っても動いてくれないので」

「そう、気を付けていってらっしゃい」


説得は意味を為さなかった。

仙台への疎開について両親は頑として頷かず、俺はせめて鈴だけでもと頼み込み、それだけは聞き届けてくれた。

鈴は最初は嫌がっていたが、恥ずかしい事に涙ながらの説得をしてしまい、それで彼女は折れてくれた。護衛が運転する車上で彼女は所在なさ気であったが、彼女だけでも確保できたことを喜ぶべきだろう。

そうして帝都たる京都は一カ月の攻防の末に陥落。BETAは東進を続け佐渡島にハイヴの建設を許す。

その後、米軍が安保条約を破棄し撤退、さらにBETAの東進は止まらず西関東がBETAの制圧下におかれ、そして横浜は壊滅した。

2500万人にものぼる難民は秋津洲にて急ピッチで建造されていた仮設住宅に収容された。

第四計画の本拠地移転と共にBETA東進の前に鈴は仙台へと逃す事ができた。その後、横浜にハイヴが建設され、戦線は多摩川を挟んで膠着状況となる。

多くの避難民があふれ出たが、その中に俺の両親は含まれていなかった。彼らは行方不明…実質的には殺されたものと考えて良い。


「そうか…ありがとう」

「お兄様、お父さんやお母さんは…?」

「まだ…、行方不明だそうだ」

「お兄様…、本当の事を…、お兄様はどう思っているのですか!?」

「避難民のほとんどは秋津洲に収容されたか、親戚筋を頼って疎開したそうだ。望みがあるとすれば、病院に収容された意識不明の患者たちだろうが…」


佐渡島ハイヴを建設した後、BETAの侵攻は一時的に止まった。だから多くの人たちは安心してしまったのだろう。特に関東、横浜の住民はまさかここまで来るとは思わなかったのだ。

しかし、関東へのBETAの侵攻は電撃的と表現できるほどの速度で行われた。多くの人々が逃げる暇もなく犠牲になった。その中に両親が含まれている可能性は高かった。最悪、捕虜になっているだろうか?


「お兄様…、私はBETAが憎いです」

「そうか」

「お兄様はそうではないんですか!?」

「不思議と、まだ実感がわかない。何かの拍子に、父さんたちが戻ってくるような気がしてな」


嘘だ。俺はそんなことを思っていないし、悲しんでなどもいない。

何度も家族を失った。しかし、俺は内心で現実世界の家族こそ本物だと思い、この世界での家族をよく似た他人だと思っているのではないだろうか。

そんな風に思ってしまうほど、俺の心は波立たない。それとも、この繰り返しの中でそんな感情すらも失ったのだろうか。


「…私は衛士になります」

「やめろ。俺は鈴まで失いたくない。お前まで守れなかったら、父さんたちに合わす顔がなくなる」

「ですがっ!」

「お前が命をかける必要はない。俺が仇をとってやるさ。どんな衛士よりもたくさんのBETAを殺してやる。だから、お前だけは俺の手元にいろ」


俺は鈴を抱きしめる。俺は鈴の頭を撫でながらも、内心冷めた心で自嘲する。この結果を防ぐことが出来た俺が、鈴と同じように悲しむのはお門違いだろう。

そうして、香月夕呼の提案により明星作戦へのカウントダウンが始まった。

さて、囚われの眠り姫は見つかるだろうか? そして、彼女が待ち焦がれる王子様は現れるのか。未来はまだ不確定の霧の中だ。





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