<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.36153の一覧
[0] 【SOS】毎日変な夢をみる件について【誰か助けて】(チラ裏より)[矢柄](2014/08/01 21:14)
[1] 001[矢柄](2014/08/01 21:14)
[2] 002[矢柄](2014/08/01 21:15)
[3] 003[矢柄](2014/08/01 21:16)
[4] 004[矢柄](2014/08/01 21:17)
[5] 005[矢柄](2014/08/01 21:17)
[6] 006[矢柄](2014/08/01 21:18)
[7] 007[矢柄](2014/08/01 21:19)
[8] 008[矢柄](2014/08/01 21:19)
[9] 009[矢柄](2014/08/01 21:20)
[10] 010[矢柄](2014/08/01 21:21)
[11] 011[矢柄](2014/08/01 21:22)
[12] 012[矢柄](2014/08/01 21:22)
[13] 013[矢柄](2014/08/01 21:23)
[14] 白銀武の憂鬱01[矢柄](2013/02/18 20:26)
[15] no data[矢柄](2014/08/01 21:40)
[16] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[17] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[18] no data[矢柄](2014/08/01 22:07)
[19] no data[矢柄](2014/08/01 22:24)
[20] no data[矢柄](2014/08/01 22:44)
[21] no data[矢柄](2014/08/01 23:49)
[22] no data[矢柄](2014/08/02 00:11)
[23] no data[矢柄](2014/08/02 00:33)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[36153] 004
Name: 矢柄◆c8fd9cb6 ID:022f668f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/01 21:17
1999年8月5日。昨年より準備がなされていた錬鉄作戦が発動した。

目標は朝鮮半島中部、鉄原ハイヴ。日米・大東亜連合そして国連軍が参加するパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦である。

日本帝国に取ってみれば、この作戦は本土侵攻に対する報復という一面もあるが、大東亜連合から見れば国土の奪還そのものであるから、軍の士気は高く、特に朝鮮半島出身者の士気は高い。

俺は夕呼さんと一緒に作戦旗艦『最上』に乗っている。こういう、HQに足を踏み入れるのは初めてだ。艦長は小沢という名前らしい。

ちなみに霞は連れてきていない。特に名前が知られているわけでもなく、彼女の能力も特別ここでは必要性もないから研究室で留守番だ。

作戦の第一段階は黄海と日本海からの艦砲射撃によって始まる。少しばかり改良を加えた量産型の荷電粒子狙撃砲7門も用意され、これは民間のコンテナ船を改造したものに乗せてある。

荷電粒子砲は円形加速器と発電のための核融合炉が巨大で、小さな船舶では運用することが難しい。しかしながら、ビームを歪曲させるシステムの方はある程度の小型化が可能である。

現在は戦術機が運用できるような大きさではないが、最終的には数機の戦術機、あるいは列車やトラックによって即時展開可能なレベルにまでサイズをダウンさせる計画となっていた。


「戦艦の斉射っていうのは派手ですね」

「高島博士が造った荷電粒子狙撃砲よりは地味だがね」

「あれは見た目だけですよ艦長。音とか振動なんかはそっちの方が派手じゃないですか?」


軽口がたたけるぐらいに経過は良好。海岸近くに展開していたBETAを駆逐し、そこに部隊を上陸させる。

上陸地点は仁川、現実世界では国際空港がある大きな街だ。今はBETAに蹂躙され、さらに荷電粒子砲と艦砲射撃によって破壊され瓦礫しか残っていないが。

橋頭保が確保され、部隊が上陸を始めていく。戦線をじりじりと前に進めていく。水爆や艦砲が戦術機甲部隊の前進を支援する。

そして4時間ほどで戦線はハイヴへと到達した。陸地に荷電粒子砲の中継のため歪曲システムが構築され、仁川から荷電粒子砲が放たれるが、何度かの発射の後、恐れていた事態が発生した。

『対応』されたのだ。

ハイヴ周辺に発射された7度目の荷電粒子の奔流がBETAを薙ぎ払おうとした時、そのビームの一部が直前で曲がり、上空へと散らされた。

そして偵察用戦術機から情報がもたらされる。ハイヴから湧きあがるBETAの中の突撃級が一瞬荷電粒子ビームを弾く映像が届けられた。


「電磁場によるシールドのようなものか」

「あら、残念だったわね京平」

「いや、予測はしていました。BETAはなにも大気や磁気圏に守られた環境だけで活動するわけではないですからね。月の様な大気の無い宇宙線や太陽風が吹き荒れる環境でも活動している。いやむしろ、そういう環境にこそ適応している可能性が高いと言えます」

「つまり、最初から保有していた能力を強化しただけということかしら?」

「ええ。本土防衛戦で使用した事で対応されたのでしょう。粒子が重く速度が速い分、完全には防いではいないようですが、多用すればより強力な電磁シールドを獲得するかもしれませんね」


とはいえ、生物進化とは取捨選択。余計なシステムを内包すればするほど、洗練されたシステムからは程遠くなる。

それはBETA重光線級の性質からも予測できた。人類に対してBETAの圧倒的な優位性を保証する重光線級だが、そのバランスの悪さから機動性は他の種に比べ著しく劣る。

また生産コストが嵩む為、BETA群全体に占める割合が低くなっている。これは結局、人類が航空兵器を持つからこそ彼らはコストのかかる重光線級を揃えなくてはならないという論理が成り立っている。

よって、電磁シールドを保有する種の生産は確実に敵BETAの生産力に圧力を与えるはずだ。数%でも生産に打撃を与えられたなら、それは十分に成功と言えるかもしれない。

それはともかく、粒子ビーム系列の攻撃にBETAが対応しうる事がここに確認された。光線級を守る様に配置されたそれらにより、光線級を撃破する効率が当初の予測よりも下回り始める。

次々とハイヴから湧き出すBETA。荷電粒子砲の支援砲砲火の効果が減衰し、砲撃による面制圧の効率も徐々に悪化し始める。

物量と地中侵攻により何度も戦線が危機にさらされ、その度に水爆が使用されて戦線の立て直しが行われる。そして戦闘は翌日も継続される。

予測ではハイヴ内のBATAの個体数は20万程度とされており、おおよそ半数を撃破したと考えられる。そうして8月6日の昼になるとハイヴから這い出てくるBETAの数が目に見えて少なくなってきた。

つまり、ハイヴ内のBETAの個体数がかなりの割合で減じたのだろう。とはいえ、パレオロゴス作戦における事例から未だ予断を許すことは出来ない。

作戦はその後も表向き順調に進行してゆき、いくつかの突入口の確保に至ると、作戦は最終局面へと入った。

中に立てこもるBETAを無人戦術機によって外に誘引し、自爆させることで殲滅する…を繰り返す。そしてそれが終われば本格的なハイヴの制圧が行われることとなる。


「順調ね」

「ですがこちら側も相応の被害をうけています」

「っ!? 北部20km付近に軍団規模のBETAが出現!!」

「ウランバートルからの増援か!?」

「ハイヴからも大規模攻勢が開始されました!!」

「狼狽えるな! 当初から予想されていたケースだ! ハイヴには無人戦術機を向かわせろ! 増援には艦隊による砲撃を! 重金属雲の濃度を切らせるな!」

「なっ、馬鹿な! 米軍が撤退を始めました!」

「何!? 何故だ!」

「増援による戦線崩壊を防ぐため新兵器を投入すると言っています!」

「新兵器っ!? そんなもの聞いていないぞ!」


どうやら来るべきものが来たようだ。通常兵器および水爆の併用による殲滅が上手くいき、G弾を用いずに勝てそうだったのだ。だからこそ彼らは焦ったのだろう。


「全軍に撤退命令を。人員の避難を最優先に!」

「高島博士?」

「米軍が新型爆弾の威力を試そうとしています。このままでは友軍が巻き込まれます!」

「っ! 全軍撤退! 機材・装備は捨てて構わない。全軍速やかに撤退せよ!!」


米軍の撤退が完了した頃、低軌道に突入した米航空宇宙軍の2機のHSSTがG弾を分離した。

投下されたそれはラザフォード場を展開。光線級のレーザーを受け付けずそれは分離からおよそ20分後、鉄原ハイヴ上空で超臨界に達した。

2発のG弾はグレイ11を消費しながら次元境界面を広げ、ハイヴの象徴たるモニュメントを消滅させ、大地に巨大なクレーターを穿った。





「ただいま」

「おかえり…なさい」


結果として鉄原ハイヴは陥落した。まだ数万といただろうBETAはそのことごとくが消滅し、その後、戦術機甲部隊が残存兵力を狩りだして、ハイヴは反応炉もろとも人類の手に落ちたのだ。

しかし、あの戦いはまだ負けていなかった。にもかかわらず米国はあれを使った。G弾の巻き添えになった将兵は8000を超える。それが何の意味もなく消し飛ばされた。

A-01連隊も大きな被害を受けた。壊滅的といってよいほどの被害だ。半数近くが喪われた。BETAによって殺されたのではなく、G弾によって。

知り合いもいた。戦術機の改良について意見を聞く中で親交を深め、たまに軽口をたたきあったり、一緒に食事をしたり、街に繰り出して遊んだ者もいた。

過去何千ものループの中で友人を弔った。BETAに殺された者もいれば、同じ人間に殺された者もいた。そういうのには慣れているが、だからといって怒りを感じないわけではない。

友人たちが後ろから刺されたのだ。ただ兵器の実戦証明をするためだけに、彼らは殺された。


「霞、酷い戦いだった。予想はしていたけれど、順調だったから、あるいはって思ったけれど」

「はい」

「手伝ってくれるか?」

「はい」


彼らに致命的な一撃をくれてやろう。なに、命が狙われるかもしれないが、第四計画に関わっているなら最初からそうだ。

個人的な私怨を込めて、とびっきりのプレゼントをくれてやろう。時期は来年が良い。丁度、G弾についての物議が醸し出された年だからだ。





歴史は歪む。本来第四計画の本拠地になるはずだった国連軍横浜基地に代わり、朝鮮半島の鉄原ハイヴ跡地に国連軍鉄原基地の建設が開始されることとなった。

とはいえ、朝鮮半島の住民たちに故郷への帰還はいまだ許されない。鉄原基地は最前線であり、西の敦煌ハイヴと北のブラゴエスチェンスクハイヴから常に圧力を受けるからだ。

鉄原ハイヴの制圧においていくつかのBETA由来施設が手に入った。まずはゲームにおいて横浜基地にも存在した反応炉、そしてシリンダーに浮く脳髄の群れ。

なお、これらの脳髄には生きている物は無かった。しかしそこで発見されたODLについては00ユニットの量子電導脳の作成に極めて都合のよい性質があることが判明する。

元来、量子計算に利用される量子ビットの異なる重ね合わせ状態は何らかの観測によって収束し、崩壊してしまう。これを不用意な観測から守る事は量子電導脳の製作上必要不可欠なものだ。

ODLと呼ばれる液体は、物理的・化学的・冷熱に対して極めて安定で、しかもこの液体に保護された物質は人類が想定しえるあらゆる観測から隔離される。

ODLは00ユニット製作における理論的な助けにはならなかったが、幾つかクリアすべき技術的課題のブレイクスルーに繋がった。

また、作戦後の国際関係においては日本・大東亜連合とアメリカとの間に強い確執が生まれた。まあ、勝てるかもしれない戦いに、いきなり横合いからG弾を落としたのだから当然である。

また、G弾が用いられた鉄原周辺には半永久的に重力異常が発生する事が確認され、植生も回復しない事が確認された。

翌2000年。太平洋上にギガフロート『秋津洲』が浮かび稼働が開始された。避難民1000万人を収容し、食糧生産工場や西日本のBETAによるリスクを嫌った企業や工場が誘致された。

東南アジア、中東、欧州方面においても同様のメガフロートが浮かぶようになり、造船業界が活況に沸いているらしい。


「ふむ、ここはこうじゃないか?」

「…こうですか?」

「ああ、じゃないと大気への影響のシミュレートがおかしくなる」


社霞は頭脳明晰だ。年若いにもかかわらず専門知識を有しているし、教えた事はスポンジのように吸い込んでいく。プログラミングとか一部の分野では俺を凌駕し始めた。

というわけで、俺は霞といっしょにちょっとしたシミュレーションを製作しているのである。すなわち、G弾を何発、どのように使えば地球環境にどんな影響を与えるかを演算するシミュレーション。

俺はその結果を知っているし、いくつかのループではバビロン作戦後にどうしてこんなことになったのかを検証する研究に参加した事もあるから、おおまかなモデルは頭の中にある。

そして、鉄原周辺における重力異常が各種調査から明らかになっており、爆心地の写真とその各種データをとある国連職員が全世界に暴露してしまった。

世界中でG弾への疑問符が立つ、そんな状況でこのシミュレーションが広まればどうなるだろう?

このモデルで、バビロン作戦によって起こる地球環境の変化をシミュレートすると得られる結果は惨憺たるものになる。

大規模な重力偏差の発生、それにより海水の異常な移動が起こりユーラシア大陸は水没し、大洋は不毛な塩の砂漠へと変わる。

地球の重力分布の乱れは、衛星軌道の乱れと電離層の崩壊を招き、電波を用いた長距離通信のほとんどが途絶することとなる。

他にも海水と同じように大気が移動し、各地の大気圧の大幅な変動するだろう。大気の循環は大いに乱れ、異常気象など生易しい気候変動が発生。多くの穀倉地帯が壊滅する。

そんな、とても楽しそうな未来を弾きだしてくれる。そしてこのシミュレーションは暴露されたデータと照らし合わせても妥当なものなのであることを多くの専門家たちは理解する。

G弾推進派は難癖をつけるだろうが、事実に基づくこのモデルには隙がない。どんなに検証しても、それが正しいと認めざるをえず、日和見を貫いている者たちは一気に懐疑派に傾くはずだ。

第五計画の系外惑星への移民計画までは無くならないが、各国はG弾使用を協力に拒絶するだろうし、米国自身もG弾を集中運用する戦略に大きな疑問を持つ事になる。

G弾による戦略を指示していた人間達もその自信を失うだろう。確度の高い可能性だけを示してやればいい。彼らがもしかしたらと疑念を抱くことが重要になる。

皆が皆自殺願望を持っているわけではないのだ。G弾推進派とて一枚岩とはいえない。疑念を持った瞬間に内部分裂を開始するだろう。


「…こんな感じかね」

「これが…未来ですか?」

「さてね。物語によれば君は移民船に乗ることになっているから、この惨状を目にする事はなかったんじゃないかな? さて、夕呼さんに粗がないか見てもらおう」


ということで、試作したシミュレーションプログラムを夕呼さんに見せてみる事にした。面白いものつくったから、息抜きがてらに見に来ないかと誘ったのだ。

で、実際に見せたら盛大にふき出した。美人がもったいない顔になってますよ夕呼さん。


「これは間違いないの?」

「おおよそ。仕様とプログラム見ますか?」

「ええ」

「……どんな感じです? 間違いがあれば指摘して欲しい」

「ふっ…、あはははっ!! やるじゃない! あのいけ好かない連中の顔が真っ青になるのが目に浮かぶわ!」


何故か夕呼さんにキスの嵐を貰ってしまった。その後、夕呼さんも加わりシミュレーションを大方完成させる。

シミュレーションモデルはどこからどうみても妥当と言わざるを得ない仕上がりになり、夕呼さんの手によって国連、そして各国に第四計画の成果物として提出された。

その後、少し身の回りのセキュリティが強くなった。

なお、G弾推進派関係者はこのシミュレーションを検証するや顔を青くし、以降は組織を維持するのにも苦労するようになったらしい。

ただし、これにより移民船の切符は希少性が高くなった。誰もG弾で地獄と化すかもしれない地球になんか残りたくないのである。

とはいえ、G弾推進派の信用が失墜する中、しかし第四計画はその本来の目的である成果を出せずにいた。ゲームとは異なる確率分岐世界においても夕呼さんは量子電導脳の完成に至っていない。

各国ではオルタネイティヴ計画そのものに疑問を呈するようになった。米国では反オルタネイティヴ派勢力がその権勢を失墜させ、G弾を主軸とした反攻計画が凍結されたという噂を聞くようになる。

同時に本来は副案でしかなかった第五計画における外惑星への移民計画が重要度を増し始め、移民船団の拡充を決定したらしい。

物語では第五計画に移行した後、夕呼さんと霞は船に乗るらしいが、俺にはその気は無い。そこで生きながらえる事に興味を覚えないからだ。

俺のこの繰り返しの夢の世界において、初めてバビロン作戦の発動を阻止できるかもしれない。だが、と思う。

この世界において人間に残された時間は10年ぐらいなのだという。BETAは資源を採取するための炭素系ロボットでしかないことが物語に描かれているが、それを全て信用できるかどうかは別の問題だ。

物語におけるBETAの役割が真であるなら、人類にはまだ生き残る目がある。メガフロートなどの浮島を作り、そこで生活する分にはBETAは人類を襲わないだろう。

アレは人類を襲っているのではなく希少な資源を回収しているだけに過ぎず、人類による攻撃は単なる災害程度にしか認識していないからだ。

だが、逆に人類に対して悪意をもっているならば話は変わる。メガフロートなどの浮島に逃げてもBETAはこれを攻撃するために水中を泳ぐ種を生み出す可能性がある。

バビロン作戦を阻止したとしても、人類の生存を少しだけ延命する程度にしかならないだろう。人類は未来にいまだ希望を抱けずにいる。





2000年も終わり、2001年が訪れる。この年の10月22日からあの物語が始まるのだが、もはやそれは起こり得ないものだ。

量子電導脳の完成を目にしたかったが、3000万人以上の人間と引き換えに得たいかと言われると頭をひねる。

さて、俺はというと光線級の研究を行っていた。BETAのレーザーは興味深い。あれだけの身体の体積にも関わらず、大威力の、しかも大気による減衰もほとんど期待できないレーザーを照射できるのには何か特別なカラクリがあるはずだ。

俺はA-01に依頼し、光線級の捕獲をしてもらった。多少傷者にはなっているがサンプルが複数あれば構わない。

光線級からは微量のG元素の使用が確認されているが、そのレーザーの発振システムについては良く知られていない…とされる。

これを人間の技術で再現する事が出来ればと考えたのだが、このレーザー、G-6等を用いて物質を縮退させ、それによって発生するエネルギーを用いていることが判明する。

何それ怖い。しかし、多少大型化しても良いから同様のレーザーを再現してみたいものだ。出来うるならG元素を用いない手段で。

移民船団に用いられるGS機関も重力勾配航法もG元素を用いた特殊な技術だ。それが悪いとは言わないが、純粋に人間だけの技術でそれを再現したい。

またODLについての研究も並行して行う。作品において、ODLが原因となって人類側の情報がBETAに漏えいした事もあり、00ユニットを安全に運用する上でも反応炉を用いないODLの浄化法を開発する必要がある。

このことは夕呼さんにも警告しており、いくらか手伝ってもらっている。これはある程度の進展を見せたが、完全に浄化するにはいまだ反応炉に頼らざるをえない。

ナノマシン研究はその前段階のマイクロマシン完成をもたらした。いくつかのブレイクスルーが重なり完成したもので、現在は医療用マイクロマシンの動物実験を行っている。

また、この技術は00ユニットの自動修復機能として流用される予定となっている。これは現実の世界でも役立ちそうだ。

また、高性能AI搭載の無人兵器の配備が順調に進みだす。当初は強力なBETA誘因効果を持ったそれらの兵器も、戦術機を上回る数が投入されるにつれ、BETAによる攻撃優先順位が下がった。

しかし、成長するAIとして開発されたそれはデータの共有により馬鹿に出来ない戦力となり、衛士の数と練度の維持に苦しむ各国の軍において重宝されるようになる。

しかし第四計画は拠点を鉄原ハイヴに移すも停滞する。第五計画もまた同じく停滞し、それに代わって欧州奪還作戦が提案され承認される。

目標はリヨンハイヴ。フェイズ5。その規模は人類が挑んだどのハイヴよりも巨大であったが、欧州奪還という旗頭は故郷を奪われたヨーロッパの人々を奮い立たせた。





「…今度の味はどうですか?」

「まだまだ本物には届かないわね。まあ、合成コーヒーとは比較にならないけれど」

「そうですか。まあ、コーヒー豆には気温の変化とか培養液の成分とかが細かく色々関わって来るんで、シードプラントでも再現が難しいんですよね。ブドウも難しいですけど」

「茶葉はどうなの?」

「日本じゃ鹿児島と静岡が無事だったんで緑茶には不足しません。改良はイギリスに任せてます。ていうか、コーヒー豆ってそんなに生産量落ち込んでましたっけ? ベトナムはやられましたけどアフリカと南アメリカ無事じゃないですか」


キリマンジャロ、コロンビア、ブルーマウンテン、ハワイコナと健在なはずである。何故前線では合成コーヒーを飲む必要があるのか意味が分からない。

まあ、需要が有りそうなので食料生産工場で試作品を製作してみたが、やはり本物には遠く及ばない。


「霞はコーヒーは駄目か?」

「少し、苦いです」


国連鉄原基地に本拠をおいてから、ここのところずっと地下暮らしである。今は医療用マイクロマシンによる癌治療を帝大と提携して行っている他、電脳化技術の開発を始めた。

単純に言えば脳から直接入出力するための技術開発で、表向きは戦術機のより効率的な操縦技術の確立である。動物実験は類人猿を使用する段階にまで入っている。


「そういえば聞いたわよ、貴方のペット、上手くやったみたいじゃない」

「仮想世界の中で腕を上げたぐらいですけどね。あれじゃ、まだまだです」


アフリカから取り寄せたチンパンジーは三匹。仮想空間自体はJIVES、戦術機のシミュレーターにより確立しており、チンパンジーの全筋肉と骨格を再現する事はさほど難しくなかった。

チンパンジーに電脳化マイクロマシンを投与し、脳神経に寄生させ、出入力を行う。去年、マウスでの実験が完了し、現在は類人猿で行うのだがこれが中々難航している。

それは、この研究の裏の目的によるところが大きい。

この計画の本質は脳の複製である。最終的にはマイクロマシンによって脳の神経細胞を全て置き換え、完全な電脳を作成する。電脳はコピー可能であり、同じ記憶同じ人格を持つ存在を量産できる。

これは00ユニット作成に向けた研究であり、無限に複製できるこの電脳を使用すれば、同一人物の00ユニットへの人格移植を無限に行う事ができるはずである。

ただし、因果量子論において複製された存在がオリジナルと同等のよりよい因果を掴みとる能力を持つかは別問題である。が、オリジナルを失ったとしても、存在自体は消え去らない。

電脳は00ユニットと同じ筐体と接続可能なので、蘇生が可能である。いや、存在の記憶を定期的に予備の電脳と同期させることで、オリジナルとまったく性能の変わらない、死なない衛士を生み出す事が出来る。

別に筐体を00ユニットに限る必要はない。擬似生体技術を発展させれば、優秀な衛士を量産することも難しくない。実に非人道的な研究である。


「夕呼さんの研究はどうですか?」

「さっぱりよ。どこが間違っているのか、どこかが間違っているはずなのよ」

「じゃあ、とりあえず他の事してみたらどうです? 気分転換でもすれば、もしかしたら何か思いつくかもしれません」

「そうねぇ」

「ゲームでもしてみませんか?」

「ああ、そういえば花札屋と何か作ってたみたいだけど」

「娯楽は重要ですよ。何もする事がないと、人間というのは余計なことしか考えませんから」

「愚民化政策という奴かしら?」

「人聞きの悪い事を言わないでください」


娯楽が少ないというのは問題である。そして、それを許容しない現在の社会は少々息苦しい。何事にも遊びというものは必要だ。

そういうわけでコンピューターゲームの一種が開発された。JIVES等、仮想空間の構築技術は既に存在するので、あとはそれにゲーム性を持たせればいい。

戦術機の操縦シミュレーションを簡略化すれば、そえだけで戦術機による対戦ゲームやデフォルメされたBETAを駆逐するアクションゲームが完成する。


「専用のコントロールパッドもあるのね」

「本物にする必要はないですけど、キーボードでは操作しにくいですから」

「へぇ、中々凝ってるわね」


そう言いながら夕呼さんはディスプレイにかじりついた。掴みは上場。ユーザーの心を無事に掴んだらしい。そうして10分後には完全にゲームに嵌るダメな大人がそこにいた。それに俺まで付き合わされる。


「ああっ、そう来るわけね! 凝ってるじゃない!」

「始めたのは俺の方が早いんで」

「ここよここ! ちょっとっ、逃げるんじゃないわよ!」


丁度そのころ、欧州ではリヨンハイヴ攻略作戦『聖処女作戦(オペレーション・ジャンヌダルク)』が実施されようとしていた。

参加するのは欧州連合軍、米軍、東欧州社会主義同盟軍、国連軍であり、帝国からは三十基の01式荷電粒子狙撃砲が売却された。

また、本作戦では戦術機甲戦力の約70%が無人機となっており、その多くは米国でライセンス生産された無人多脚戦車が占めている。

作戦は現地時間の0900より開始され、入念な艦砲射撃と荷電粒子砲により地表のBETA4万を排除、後に軌道爆撃が行われ、戦術機甲部隊の上陸が開始される。

無人多脚戦車が先行してハイヴへの突貫が行われ、誘引したBETAもろとも自爆。艦砲射撃と機甲部隊による面制圧が行われ順調にBETAを殲滅。

その後、無人多脚戦車によるハイヴ内部への突撃が行われる。これらを数回続けて後、無人機のみによる侵攻と、軌道爆撃・軌道降下が開始された。

物量戦を得意とするBETAに対して行われた物量に質を伴う戦術が功を奏し、作戦開始より3日後、軌道降下部隊によるハイヴ電撃戦による反応炉の破壊を達成。

遂に人類は世界初のG弾を用いずにハイヴの攻略が成功させた。本作戦においては機材弾薬の消耗は激しかったものの、損害は従来の大規模戦闘の3割程度に抑えられた。

この結果を受け、G弾という切り札の必要性に疑問符を突き付けられた反オルタネイティヴ計画派は無人兵器という新しい玩具を手に勢いづく。

第四計画は予算の削減を受け、第五計画の移民船の第三次拡充は見送られることになる。ここに至り、オルタネイティヴ計画そのものが列強各国から見放され始めていた。





「とまあ、このまま上手くいけばいいんでしょうけど、そうは問屋が卸さないと」

「何やってるのよ京平、さっさと逃げるわよ」

「8000名の将兵を巻き込んで攻略された鉄原ハイブも、あえなく奪還されると。夕呼さん、準備は終わりました。霞も大丈夫か?」

「はい」


人類が満を持して行った欧州奪還作戦はリヨンハイヴとブダペストハイヴの攻略を実現し、長きに渡ったBETA大戦における希望の星となった。

人類はBETAに勝てるかもしれない。そんな幻想を数多くの人々に抱かせた。だがその希望は2006年のBETAによる大規模反攻によって脆くも砕かれた。

それはBETAが新たに採用した3つの戦術によるものであり、ようやく勝てると希望を持った人類を絶望にたたき落とした。

まずはタンクデサントと呼ばれる戦術だ。これは突撃級や要塞級といった大型種の背中に光線級を癒着させて運用するというものである。

つまり移動速度に劣る光線級が突撃級の速度を得たり、要塞級の背中からレーザーを撃ち降ろしたりという戦術が可能になることを意味する。つまり、出会い頭にレーザーによる狙撃を受けるのだ。

そして、さらに最悪なのが過剰飽和突撃戦術と名付けられた大規模侵攻である。これはオリジナルハイブを起点として、複数のハイヴから同時に数百万規模のBETAを同時侵攻させるという恐るべきものだ。

これにより無人機による物量戦術はそれを上回る物量に呑まれてひねりつぶされた。レーザーを主兵装とする津波のような物量は、無人戦術機の接近すら許さない。

止めは軌道高度に対するレーザー迎撃である。今まで見向きもしなかった人類が運用する人工衛星、宇宙船に対する迎撃行動が開始された。

これにより、人類が運用するほとんどの人工衛星が使用不能となり、衛星偵察や軌道爆撃などの手法が完全に封殺されることになった。


「ようやく、人類はBETAが相手にするに足る敵と認識されたんでしょうね」

「それがこの結果というのなら、随分救われないですが」

「舐められた上で、片手間で滅ぼされるよりはマシじゃないかしら?」


持ち直したはずの欧州戦線はこれにより一気に瓦解、イギリス本土への二度目の侵攻を許し、抵抗も空しく一月も保たずに英国が陥落し、マンチェスターにハイヴの建設を許す。

続いてBETAの過剰飽和突撃戦術によりスエズ戦線が瓦解、劇的な侵攻によりスーダンにハイヴ建設を許した後、瓦解した戦線を建て直す間もなく核兵器による焦土作戦が開始される。

そして2007年夏、オリジナルハイブより300万というBETAの大軍団が国連鉄原基地を襲った。抵抗は不可能と即時に判断され、国連鉄原基地は放棄、反応炉の破壊と共に日本への退避が行われた。

そして第二次日本本土防衛戦が始まる。それはあまりにも無謀な戦いであった。

そして俺は横浜の実家にいた。誰もが俯き視線を上げない。何故ならばこれは別れの挨拶だからだ。二度と触れ合う事は出来ないであろう、永遠の別れ。父さんも母さんも何もしゃべらない。

だから、家族が集まる中で俺が切り出す。


「日本はもう保たないだろう。時間もあまりない。鈴、お前は移民船に乗れ」

「ま、待ってくださいお兄様! 私は残ります、地球に!」

「駄目だ。切符は一枚しかない。俺にはメガフロートが人類最後の生存圏足り得るかを確認する義務がある。責任を取らなければならない。それに移民船に乗ることは逃げる事じゃない。あれも無事にバーナード星系に辿りつくとは限らない。俺に残る義務があるように、お前には人類の可能性を引き継ぐ義務がある」

「しかし、私は衛士です!」


彼女は学者になる道を捨て、戦士になることを選んだ。衛士としての才能に秀でるというわけではないが、彼女は既に死の八分を超えた一人前の衛士に育っている。


「誰かが行かねばならないんだ。そして切符は俺に託された。兄らしいことは一度もしてやれなかったが、一生のお願いだ。鈴、お前は生きろ。俺も、父さんも、母さんも海の上で生きるから」


思えばこの世界において、俺は家族というものを軽んじ続けた。それは全て自分の我儘のためで、家族のために何かをしたということは一度もなかったように思える。

鈴が俺の胸で泣く。そういえば、彼女をこんな風に抱きしめた事は無かったっけ。俺は鈴の気が済むまで好きにさせる。

その後、母さんが俺と父さんを部屋から出して二人きりで話をしだした。その内容は結局分からず仕舞いだったけれど、鈴は移民船に乗ることを了承した。

そして俺たち家族は日本の東京と神奈川を合わせたほどの大きさまでに拡大したギガフロートに優先的に移住する。そして最後の時、カウントダウンが始まった。

皮肉にも作戦名は『オペレーション・ルシファー』。失われたはずの作戦名がつけられる。リヨンハイヴとブダペストハイヴを攻略した事で得られた多量のG元素はG弾として運用される。

それはバビロン作戦とは異なり、俺がG弾推進派に打撃を与えるために作成したシミュレーションに基づくG弾大量運用戦略である。

それは極端な重力偏差が起こらないように、簡単に言えばG弾を用いることで崩れるだろう重力偏差のバランスをとろうというものだった。しかし、それだけでは災害が起こらないとは言えない。

それでも『バビロン作戦』よりもマシな結果になるだろうとして、国連で承認を受けた。人類にはもう、地球環境に構っていられるほどの余裕がないからだ。

そして俺は鈴に最後の別れを告げた後、香月夕呼と短い会談をもった。


「アンタは行かないのね」

「浮島を考案した責任がありますから。正直に言えば、夕呼さんが船に乗るのが意外でしたけど。どっちも分の悪い賭けなんですけどね」

「そうね。私は結局…、いいえ、いいわ。そうそう、アンタのループ現象、色々考えてみたけど、解決方法は思いつかなかったわ」

「覚えていてくれたんですか。まあ、今回は諦めます。家族にも生存する目がある。今回はそれで十分です」

「じゃあね、運が良ければ60年後に」

「はい。どうか幸運を」


俺たちはそう言って別れた。そして、星を行く船が旅立つと同時に、作戦は実行された。





オペレーション・ルシファーはそれを計画した人々の望み通りにG弾の威力を見せ付け、全てのハイヴの地表構造物を一掃した。

そして様々なバランスを取るべく地球の各所に使用されたG弾はそのシミュレーションの通りに大規模な海水の移動、大海崩と極端な大気圧の変動を未然に防ぐことには成功する。

だが、重力異常そのものを止めることは叶わず、衛星は軌道をかく乱され全てが失われ、さらに続く電離層の異常は無線通信網を分断した。

さらに重力偏差による海流の変化が異常気象を引き起こし、そして地球は急速に寒冷化を始めた。


「で、霞はなんでこっちに残ったんだ?」

「わかりません」

「そうか」

「ただ…」

「ただ?」

「いえ、なんでも…ないです」


異常気象により北米は凍結した。そして最悪な事に、G弾は期待されたその仕事を全うしなかった。BETAは生き残ったのだ。

G弾は使い切っていたものの、核兵器はまだある。急ぎ、これに対処するための措置が行われたが、間に合わなかった。

ハイヴはその数を大きく減らしたが、再び息を吹き返す様にBETAの勢力範囲は拡大している。

いずれは凍結した北極海を渡ってユーラシアから直接BETAはアメリカ大陸に渡るだろう。現在、そのことを予想して中米に要塞群が建設されているが、それも長くは保たないだろう。

その証拠に、残された後背地域では急ピッチでメガフロートの建設が行われている。いずれ人類は近いうちに自らを育んだ大地を捨て、海へと帰るだろう。


「霞、冷えるから中に入ろう」

「まだ研究を続けるのですか?」

「ああ。俺は科学者だからな」

「次に為にですか?」

「それもある。だが、何もせず無為に死を待つよりかは建設的だろう。電波送り続ければ、その成果がバーナード星系に行った奴らに届くかもしれないしな」


電脳の研究は最終段階に入っている。脳細胞をマイクロマシンで置き換えるところまでは進んでいないが、脳から直接出入力が可能になる技術は目処がついた。

残念だったのは完全なODLの浄化装置が完成しなかったことだろうか。既に切り捨てられた分野だけに、予算や時間をかける事が出来ないのが最大の理由かもしれない。

メガフロートもいつまで安全かは分からない。BETAが陸を支配下においた後、いつまでも連中が我々を見逃してくれるかは未知数だ。

とはいえ、現在はそれ以外の方法もなく、南米やオーストラリアが総力を挙げて資源を確保してメガフロートに避難する準備を整えている。

帝国は新たに海底資源の採掘に望みを繋げ、研究者・技術者を総動員してこれの開発を開始している。海こそが人類に残された最後のフロンティアと喧伝されている。

しかし、果たしてBETAが海底に絶対に目を向けないと言えるのだろうか。酸素を要さないBETAが大深度の水圧に適応するのはさして難しいわけではない。

深海にも生物が存在するように、BETAもまた体内の腔を油か水で満たせばそれだけで水圧に対応してしまうのだ。

もし彼らが大深度の水圧に対する耐性を獲得した場合、我々は再びBETAとの争いを行う事になるだろう。生存戦争が資源戦争という名に代わって。

残された生存圏は宇宙にしかないのかもしれない。小惑星帯にBETAが興味を示さないことから、資源をそこに見出し、ラグランジュ点を新しいフロンティアとすることも考えられる。

未来は分からない。それでも我々は生き続ける。人類にはまだ種を存続させ続ける余地があるのだから。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02472710609436