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No.36153の一覧
[0] 【SOS】毎日変な夢をみる件について【誰か助けて】(チラ裏より)[矢柄](2014/08/01 21:14)
[1] 001[矢柄](2014/08/01 21:14)
[2] 002[矢柄](2014/08/01 21:15)
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[9] 009[矢柄](2014/08/01 21:20)
[10] 010[矢柄](2014/08/01 21:21)
[11] 011[矢柄](2014/08/01 21:22)
[12] 012[矢柄](2014/08/01 21:22)
[13] 013[矢柄](2014/08/01 21:23)
[14] 白銀武の憂鬱01[矢柄](2013/02/18 20:26)
[15] no data[矢柄](2014/08/01 21:40)
[16] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[17] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[18] no data[矢柄](2014/08/01 22:07)
[19] no data[矢柄](2014/08/01 22:24)
[20] no data[矢柄](2014/08/01 22:44)
[21] no data[矢柄](2014/08/01 23:49)
[22] no data[矢柄](2014/08/02 00:11)
[23] no data[矢柄](2014/08/02 00:33)
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[36153] 003
Name: 矢柄◆c8fd9cb6 ID:022f668f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/01 21:16
1995年、香月夕呼が提案する第四計画が始動し、俺もそれに組み込まれたことでいくらか周囲の環境が変化した。

研究施設自体は急な決定のため帝大の応用量子物理研究棟からは変わらなかったが、セキュリティーが格段に強化され、そしていくらかの専門家や技師が招聘された。

そしてそれに伴い、第三計画の接収も行われる。多くの研究データと共に、《成果物》が第四計画の研究室に持ち込まれる。


「なるほど、予想していましたが、なかなかに人道的な実験が行われていたようですね」

「私達も同じ道を歩むことになるわ」

「で、その集大成がこの子か」


外見年齢は6歳ぐらいだろうか。資料には8歳とある。

俺と夕呼さんの前には第三計画が生み出した《成果物》たる第六世代人工ESP発現体。その名をトリースタ・シェスチナ。第六世代300番の名を持つ少女である。

愛らしい銀髪の少女であるが、その顔には一切の表情を見受ける事が出来ない。何を考えているか分からないというのが印象であろうか。


「…ESPか。興味深いですね」


今回のループにおける研究対象は元々彼女の様な超能力者についてだった。例の作品の情報によって色々とぶれてしまったが、やはり好奇心は抑えきれない。

それが人道的に許されない方法を繰り返して製造された存在だとしてもだ。


「貴方は怖くないのかしら?」

「さて。ですが、俺たちが作るのは彼女以上の化け物なんでしょう?」

「言い得て妙だわ」


そして彼らにとってみれば俺は不死すら生ぬるいタイムリーパー。しかもこの世界を俯瞰する爆弾を持ち合わせている。

作品における知識で彼女の能力は知っていたし、第四計画に関わる以上彼女との接触は避けられない。まあ、なので、俺の事が彼女に知られようが、それを通じて夕呼さんに知られようがどうでもよいのだ。

覚悟はある。

それに作品における記述によれば、彼女は頭脳も明晰だという。その描写は主人公・白銀武が考案した新型OSを組み上げたことから見てとれる。

そういう意味においても興味深い人材だ。作品内では事実上、夕呼さんと彼女が第四計画の中核にいるように描かれていた。そういえばまだ名前が社霞ではない。


「トリースタ・シェスチナ…か」

「?」

「人間を番号で呼ぶのは少々趣味に合わないな」

「??」

「そうだな…、これからは社 霞と、そう名乗るといい」

「???」

「京平、この子の名前がアレなのはわかるけれど、どうして社霞なの?」

「ジンクスというか、まあ、願掛けみたいなものです」

「????」

「今は分からなくてもいいさ。君にはこの名前が良く似合うと、そう思っただけだ」

「?????」

「わけがわからないわ」


首をかしげる超能力者。そして何故か俺の手を取る少女。日本語がまだ出来ないようだが、リーディングは言語を読むのではなく、色やイメージを読み取るものらしいから通じたのだろう。

それが11歳の俺と8歳の彼女のファーストコンタクトだった。ちなみに社霞という名は後に正式なものとなる。

さて、第四計画の骨子は00ユニット、量子電導脳を搭載した非炭素系擬似生命体による諜報員の創造が目的であるが、その基礎研究自体は1984年より日本帝国が極秘に行ってきたものである。

そして実用的な量子コンピューターについては俺が開発済みなので一見残る障害は少ないように見える。ただし、これは見えるだけで問題は山積みだったりする。

そもそも、量子電導脳はただの量子コンピューターではない。ただの量子コンピューターには得手不得手があり、ただそれだけでノイマン型コンピューターの性能を全てにおいて凌駕するわけではない。

本質的に量子コンピューターは極めて優れた並列コンピューターというだけのもので、そもそもノイマン型コンピューターに出来ない事は量子コンピューターには出来ないのだ。

しかし、量子電導脳はそれだけで既存の世界のコンピューターを相手取るだけの処理能力を有する。ノイマン型には到底不可能な事を可能にする。それは量子コンピューターとは似て非なるものだ。

具体的には量子コンピューターが量子ビットの重ね合わせを利用して並列処理を行うのに対し、量子電導脳は全ての確率分岐世界に存在する量子電導脳を並列化させて処理を行う。

結果として量子コンピューターは単一の手法を用いた処理を並列化するが、量子電導脳はありとあらゆる手法を同時無限に試行する。

処理能力は段違いであるし、製作者側が想定していない様な可能性をも検証することが可能となる。その意味で、00ユニットは完成当初から人類を完全に凌駕する化物なのだ。

そして、このあたりの障害が突破できなくて、ゲーム内の設定ではあの天才たる夕呼さんをもってしても挫折するのである。

曰く、150億個の半導体を手の平サイズにするとのことだが、実際はそんなレベルではない。

その解決には別の並列世界における香月夕呼の思いつきによる発見、すなわち数式の入手が不可欠となる。それを可能とするのは因果導体たる白銀武のみ。

ただし、それが即時に人類の勝利に繋がるわけではない。作品の描写を信じるなら夕呼さんは人類の寿命が30年延びたという表現を使っている。

つまり彼女の予想では人類がBETAを圧倒できたわけではないことが示唆されている。作品の描写を全て信じるわけではないが、今のところ歴史は同じように時を刻んでおり、矛盾点はない。





「…霞、リーディングばかりに頼っていたら考える力が衰えないか?」

「でも、そうじゃないと勝てません」

「勝ち負けなんて二の次だろう。これは遊びなんだからな」


月日が流れ、明晰な頭脳を持つ社霞は専門的な会話が可能な水準で日本語を習得した。ただし、口下手な彼女はあまり話さないが。

今、俺は彼女と将棋などをやっている。この世界の娯楽は酷く少ないが、ないわけではない。アメリカなんかには様々なボードゲームやテーブルトークRPGなどが発売されている。

ただし、ああいうのは4人ぐらいでやらないとつまらない。夕呼さんを入れれば3人になるが、他の連中、社霞の素生を知る者たちは彼女にすすんで関わりを持とうとしない。

さて、将棋であるが、始めの頃は俺が勝っていたのだが、途中から連敗するようになった。霞さんリーディング使ってませんかと聞いたら、素直に肯定されてしまった。

まあ、将棋ぐらい複雑なゲームになれば、単にリーディングされただけじゃ負けはしないのだが、この兎、頭も良いので始末に負えない。

というか、霞はリーディング使わなくても十分強いんじゃないかと偶に思う。


「だいたい、リーディングって結構精神力削るんだろう。娯楽なんてのは脳とかのリフレッシュのためにやるんだから、意味の無いところで疲れる事するな」

「…これが私の普通、です」

「ふうん、お前がいいって言うなら、まあいいけど」


彼女にとってのコミュニケーションにおいてリーディングは不可欠な要素なのだろう。何しろそうなるように調整を受けたのだから。

それもまた、人類の業という奴か。この世界には神様はいなそうだが、地獄だけはあるらしい。むしろBETAの創造主が神さまなんていうジョークもあるかもしれない。


「高島博士は辛くないんですか?」

「ん、何が?」

「何度も繰り返す事が」

「ん、読まれたか。そうだな、守りたいと思ったものが、砂みたいに手から毀れ落ちていくのを毎回見せつけられるのは辛いな。でも、まあ、あの馬鹿娘を見ていると、時々そういうのもどうでも良くなって、今も正気でいられる。ただ、大切な事を忘れがちになる」

「大切な事?」

「生きる事が作業になってしまうんだ。今を生きているのには変わらないのに、今も俺の事を大切に思ってくれているヒトがいるのに。全てを次のための作業にしてしまう。今だって無意識にそうしているかもしれない。そう思えば楽になるからな」


この繰り返しの世界を作業として見なしてしまうのは難しくない。過去何度もそうしていたし、今もそうなってしまう。

だけれども、単調な作業となった人生の中では、俺以外の全ての人間を軽く見てしまう。どうせ次の繰り返しに入れば、全ての関係がリセットされるのだから。

でも、そこには信頼も愛情もない。それはきっと不幸な事なのだ。


「それだと、ちゃんと目の前に生きるヒトと向き合っていることにならない。それはきっと大きな損をしていると思う」

「高島博士は…不思議なヒトです」

「どのあたりが?」

「私をヒトとして見てくれています。とても温かい色です」

「ん、まあ、信頼できそうな子だったからかな」

「物語ですか?」


物語。

この世界の背景を浮き彫りにする、「あいとゆうきのおとぎばなし」。社霞はその物語の中核に位置する人物だ。

もし全てがあのゲームと同じように動いたとしても、未来を事実上観測する者が二人もいれば、それはバタフライ効果で物語の形を大きく変えるだろう。


「それ、どこまで読んだ?」

「全部…です。すみません」

「謝ることはない。んで、霞、お前はそれを知ってどうしたい?」

「…わかりません」

「そうか。まあ、知ることと体験する事は別だからな。霞の好きにすればいい。夕呼さんに話しても構わない」


まあ、それに、横浜にハイヴが作られるかは未知数だ。基本、いままで俺は帝国の科学技術力をここまで底上げした事はなかった。

いままでのループでは、俺はより良い研究環境を求めて米国に渡ることが多かったし、第四計画以外の研究機関については断然アメリカの方が進んでいたからだ。

しかし、今回俺はその研究結果を帝国で使用した。

これまでの本土防衛戦においては、カナダのように放射能汚染の心配がある核兵器の使用を行わなかった帝国も、純粋水爆やそれを投射する手段を有した以上、その使用を厭わないだろう。

不知火の生産性や性能を向上させた事、撃震の改修にもかかわった事も何らかの影響として現出する可能性がある。

そういえば、水爆の投射手段となっている無人戦術機だが、色々と面白い事になっているようだ。

元々高度なCPUと人工知能にて運用しているためBETAを比較的強く誘因する傾向があると報告されていたが、最近では真っ先に狙われるようになったらしい。

本来は出来るだけ上手く敵陣の奥深くに浸透するような機動をとるように組んでいたのだが、逆に敵から逃げるような機動をとるなど数通りの行動パターンを選べるようにしたところ、予想以上の結果を出した。

この歩行無人戦術機はハーメルンの笛吹きのようにBETAを引き連れながら移動する。

これに大きな円を描くように運動させると、BETAもまたそれに引きずられて、最後には渦を描くようにBETAが無人戦術機を包囲する。

ここでドカンと自爆させると数千規模のBETAを吹き飛ばす事が出来るらしい。他にも現場では囮としてなどさまざまな運用がなされており、中国戦線を保たせているらしい。

あだ名に笛吹きとかBETAトレインだとか名付けられているそうだ。この分だと1998年にBETAが日本に上陸するという未来まであやふやになりそうだ。もはや未来はまったく不透明なのだ。


「王手です」

「……降参だ」


結局。霞は俺の事を夕呼さんに話さなかった。





そうして3年が過ぎる。第四計画はいまだ目的を達していない。物語と同じく、量子電導脳が完成しない。俺も夕呼さんと一緒に理論を検証するが、何が間違っているのか分からないでいた。

とはいえ3年間何もしていなかったわけではなく、その間に俺は無人兵器の研究を推し進めていた。

以前開発した無人戦術機の囮効果を参考にして、最新の高性能コンピューターを用いた高レベルの人工知性を持つ無人兵器開発を行うというものだ。

そもそも人間が操縦するわけでもないので、人型に拘る必要はない。どちらかといえば蜘蛛の類に近い形状の多脚戦車を製作してみた。大型と小型のものを設計し、97年には試作機が完成した。

大型は戦術機と連携を取り、時には囮になることで人員の損耗を防ぎ、戦果を拡大する。小型は歩兵に随伴しつつ、BETA小型種を駆逐するタイプだ。

これらは中国戦線に送られて試験運用がなされた。

人間には不可能な機動を可能とする自律無人兵器だが、高性能なノイマン型コンピューターと量子コンピューターを搭載したこの機体は予想通り異常にBETAを誘因する現象を起こした。

そして、この無人兵器と戦術機を組み合わせると極めて高い戦果が得られる事を証明した。とはいえ消耗も早く、前線からは補充の要請がひっきりなしに届いたそうだ。

事業としては第四計画とは異なるが、メガフロート製造計画を立ち上げてみた。国土を失った国家は多く、また国土を失うかもしれない国も多い。

しかしメガフロートなら飛べも泳げもしないBETAは手出しできない。エネルギーなら核融合炉がある。材料は難燃性マグネシウム合金や炭素素材、発泡スチロールなどの樹脂を用いている。

母体となるフロートを作れば自動的に面積を広げてゆき、フロートを増殖させていくというシステムを設計し各国に提示したところ、難民問題に頭を抱える国や前線国家に評価されることとなった。

造船業界が後押ししたというのも加わって製造が始まった。海水に含まれるCO2やリン・カリウムを利用して食糧生産も可能であり、もしかしたら人間に残された最後の領土になるかもしれない。

また97年にはA-01連隊が発足した。00ユニットの候補者たちである彼らは極めて優秀な衛士であり、本来ならばあまり損耗して欲しくはないが、過酷な任務に次々と投入されていく。

他にも色々と開発しているが、無人機は本土防衛には間に合わないだろうが、明星作戦には試験的に投入できるだろう。

最近はナノマシンとか超能力の研究を行っている。また具体的な成果物としては荷電粒子狙撃砲と荷電粒子砲軌道歪曲システムを帝国技術廠と共同で作成した事か。

いわゆる曲がるビームである。荷電粒子砲のための小型円形粒子加速器については米国での開発経験があり、米国も古くから開発研究の蓄積があったために、ある程度の完成系を示すことは出来た。

この荷電粒子狙撃砲は水平線の向こう側から高度に集束された荷電粒子ビームを撃ち、その射線の中間地点で磁場による歪曲によって、水平線の向こう側にビームを到達させるというものだ。

光線級が狙撃できない水平線の向こう側から重粒子ビーム束を目標に到達させるために、BETAに対する迎撃不能のアウトレンジ攻撃を可能とする。

速度に限界がある実体弾とは違い光線級による迎撃を受けないため、確実に対象に打撃を与える事が出来るだろう…というものなのだけれど、

ただ、なんとなくBETAに対応されやすいんじゃないかという不安もある。磁場で曲げられるなら、連中も曲げるだろう。

そうして運命の1998年が訪れる。

1998年は帝国に取って激動の年となるはずだった。まず、『夏』に朝鮮半島撤退支援作戦“光洲作戦”が実施された。

いくらかのトラブルが起こったようだが、無人戦術機による囮戦術と自爆戦術が高い効果を示し、BETAを上手く誘導・遅滞させる事ができたようだ。

作品では国連軍に大損害が出たらしいが、この世界の戦いでは損害は想定された範囲内に収まっているらしい。

そして翌年の春、重慶ハイヴから東進した軍団規模のBETAが北九州を中心に中国地方など日本海沿岸に上陸する。





「HQより、トランペッター01待機モードより起動、誘因行動に入ります」


地平を埋め尽くすかのようなBETAの一群が、防衛線の手前でパイドパイパー01に強く誘引されて、本来の進撃ルートから外れだす。

誘引するのは96式無人戦術機。中国戦線における戦果から帝国はわざわざ米国からF-4を購入してまでこれに改造しているらしい。

その誘因行動はBETAを付かず離れずの絶妙な距離をおいて誘いながら大地を疾走する。これにより軍団規模のBETAが防衛戦に対して横腹をさらすような状態となり、その密度も減じる。そして、


「HQより、トランペッター02、03、04、05、06待機モードより起動、浸透モードで突撃に入ります」


HQからの電波による操作によって、休眠状態に入っていた96式無人戦術機たちが目覚める。そしてそのまま低空を飛行しつつ、一気に横腹を晒していたBETA群に突入し、浸透を開始する。

隊列を乱し密度を減じたBETA群はこれの浸透を許し、最優先でこれを攻撃しつつも、一機の無人戦術機がBETA群の奥深くまでに到達した。


「HQより、トランペッター04、起爆します」


次の瞬間、搭載されていた水爆がBETA群のど中心付近で起爆。巨大な火球がBETAを巻き込む。爆風が突撃級や要撃級を吹き飛ばし、戦車級などの小型種を巻き込んで壊滅的な被害をもたらす。

旅団規模相当のBETAを消滅させ、特に小型種は爆風や吹き飛ばされた大型種に巻き込まれ、相当数を撃破してしまう。これにより防衛線に到達するBETAの圧力を目に分かるぐらいに減じさせた。

そしてそれらを不知火や陽炎などがこれを駆逐しつつ足止めし、機甲部隊や自走式ロケット砲が砲撃を開始し、殲滅を行う。水爆が上手く光線級を減じさせたのか、その殲滅効率は通常よりも高くなった。


「トランペッター07待機モードより起動、誘因行動に入ります」

「面白いように誘引しますな、無人戦術機は」

「BETAにとっては誘引されると分かっていても、無視する事が出来ないのでしょう」

「不知火の性能もまた隔絶している」

「肩部スラスターには疑問がありましたが、新OSと組み合わせるとすさまじい機動を見せますね。まさか光線級のレーザーを回避してみせるとは」


不知火は消費電力の少ない部品、肩部スラスターが実装されプロミネンス計画の不知火弐型を思わせるが、小型大出力のジェネレーター、低燃費超高速巡航を実現する跳躍ユニットはF-22Aを彷彿とさせる。

これは高島京平が以前までのループでは主に米国で活動をしていたことによる影響である。本人曰く、「ステルスも出来るけどBETA相手には意味ないよね」とのこと。


「住民の避難は?」

「順調です。晴天に恵まれたおかげで海も穏やかですから」

「そうか。これ侵攻がもし昨年の大型台風と重なっていたらと思うと背筋がゾっとするな」

「BETAは気象を考慮に入れませんから」


晴天に恵まれたため、戦艦なども獅子奮迅の働きを見せている。特にAL弾頭にまぎれて放たれる熱核弾頭が対地制圧に極めて高い効果を示した。純粋水爆が発明されなければなければ使用できなかったものだ。

それでも大軍団のBETAの侵攻を抑えきることはできず、九州戦線では熊本から大分まで侵攻を許し、中国地方では山口県を放棄せざるをえなかった。それが上陸より3週間の状況だった。


「核融合炉異常なし。正常に発電しています」

「加速器異常なし」

「軌道歪曲システム正常に稼働中」

「鉛原子核の速度、光速の99%を突破。いつでもいけます」

「荷電粒子狙撃砲発射5秒前、4、3、2、1、発射」


その瞬間、光の奔流が細長い砲身より放たれる。多数の核融合発電機と太いケーブルによって接続される円形加速器に長大な砲身が接続されたそれは、帝国軍秘蔵の荷電粒子狙撃砲である。

鉛原子核を亜光速に加速したものを収束したビームとして射出する。その長大な射程は中途に軌道歪曲システムを挟むことで100kmにおよび、レーザーによる迎撃不可能なそれは主に光線級の排除に用いられる。

光の奔流は水平線を目指して直進するが、その先にあるのは何もない虚空である。しかしその中途、軌道歪曲システムが発生させる電磁場に捕まった瞬間、光の奔流が水平線を目指す様に射線を矯正される。

その連続をもってリレーのように中継されながら、重原子核の奔流は光の洪水となって目標に降り注いだ。

鉛原子核がBETAに降り注いだ瞬間、彼らを構成する炭素系の素材の原子と衝突し、原子核が破壊され、莫大なエネルギーが解放される。

そしてそれは群れを作っていた光線級たちや他種のBETAたちを巻き込み蒸発させ、そして直径百mにもなる巨大なクレーターを大地に穿つ。

しかし、光の奔流はそれに留まらない。照射はさらに数秒続き、軌道歪曲システムにより射線がBETAを薙ぎ払うように変化する。

これによりまるで砂場を指でなぞって跡をつけるように、幅百メートルの巨大な直線状の穴が穿たれた。


「も、目標消滅! 撃破数およそ3000!」

「おおっ」「やったぞ!」「信じられん威力だ…」

「エネルギー再充填開始します」


この荷電粒子砲による光線級の駆逐は目覚ましい戦果をあげ、艦砲や機甲部隊の攻撃効率を飛躍的に高めた。

しかし、試作機であるため2門しか用意されなかったたこと、連射が不可能だったことにより大勢にはさして影響を与えはしない。

しかしながら光線級への人類側の一つの解答として各国にその有用性が示される結果となった。欠点は原子核が破壊されることで放射能が発生することか。





新型戦術機『不知火』と効果的な誘因を行う無人戦術機、艦砲射撃や水爆の大量運用により結果として帝国軍はBETAのそれ以上の前進を許さず、そのまま膠着状態に持ち込む事が出来た。

また好天に恵まれた事もあり住民の避難を迅速に避難させる事が出来たという。無数の船舶がピストン輸送によって人々を近畿などに輸送し、多数の命を救うことに成功した。

そして最終的にはBETAの大規模侵攻を撥ね退け、海に追い落とす事に成功する。それでも死者は100万人を超え避難民は1000万人にも上った。

帝国軍は新兵器や水爆を上手く運用して、稀にみるほどの少ない損害で大戦果を得たが、しかしそれでも日本が被った損害は甚大だった。

BETAの侵攻は日本人を、特に西日本に住む者たちの心胆を寒からしめ、メガフロート建設加速の希望が相次ぎ、建設が加速されることになる。


「……」

「どうしたの辛気臭い顔して? 例の予言の内容が変わったのよ?」

「いえ、まあ、特に何も」

「そう? まあいいわ。横浜じゃなかったけれども、来年、鉄原ハイヴ攻略作戦をやるから。ハイヴを手に入れるわよ」


夕呼さんは怪訝な表情をしたがすぐに元に戻る。しかし、うん、どうやら前回のループとも物語の内容からだいぶん乖離し始めたようだ。

確か日本帝国はこの戦いに大敗するはずだった。BETAの大規模侵攻は本来なら昨年の夏に行われ、これが超大型台風と重なったことで海路を使ったインフラが途絶。最悪の撤退戦を演じる事になるはずだった。

しかし、今回はその翌年の春にやって来た。つまり中国戦線においてBETAがいつもより多くの損害を受けたために、侵攻が遅滞したのだ。

様々な新兵器を運用したが、今回の結果は天候によるものが大きいだろう。結果として横浜は蹂躙されなかった。佐渡島も無事だった。

横浜ハイヴも佐渡島ハイヴも作られなかったのである。少々複雑だが、まあ死者は格段に減った。

そして同時に、この確率分岐世界では平行世界の記憶を持つ主人公も眠り姫も登場しなくなるだろう。彼らは今も横浜で無事に生きている。

「あいとゆうきのおとぎばなし」は始まらない。

まあ、後悔はない。家族を守ると約束したのだから。それに、鑑純夏がいなくなったわけではない。彼女は健在で、そして00ユニットに適合する者である事に変わりはないのだ。

それはいい。歴史の変化により、いままでのループで行われていた明星作戦は、錬鉄作戦(オペレーション・スレッジハンマー)などという名に代わって実行されようとしている。

目標は鉄原ハイヴ。規模はフェイズ3、予測されるBETAの総数は20万以上。目的はBETA由来施設の確保。

そしてここでG弾によるBATA排除を推進する米国はG弾を用いる可能性が高い。G弾のお披露目と実戦証明といったところだろう。


「…H20。フェイズ3だが陥とせるのか?」

「できなければ、現状の兵器によるハイヴ攻略は不可能ということになるでしょうね」


フェイズ3のハイヴの攻略は1978年にミンスクハイヴに対して行われたパレオロゴス作戦以来である。

当時はヴォールク連隊の戦術機甲部隊27個小隊、戦闘車両240台、機械化歩兵500名、歩兵1800名、工兵2300名がハイヴに突入し、およそ3時間半で全滅。

生還したのはデータを運び出した衛士14名のみだった。そのデータこそが後にヴォールク・データと呼ばれるものだ。


「A-01を潜らせるのですか? 装備は間に合うかもしれませんが、例の戦術は実戦証明がなされていませんよ?」

「ハイヴ攻略戦術…ね。戦線を構築するのではなく、BETAを置き去りにして電撃的に反応炉へ到達、これを破壊する」


まあ、これも物語からの知識である。いちいちBETAを相手にせず、電撃的に侵攻する作戦であるが、欠点とすれば反応炉へ続くルートが分からなければ、その成功率が格段に下がるという点だ。

しかも相手は横浜ハイヴのフェイズ2ではなくフェイズ3であり、反応炉の存在する震度は-700mにもなる。これはフェイズ2の倍の震度だ。


「一応、方法は考案しましたが、確実ではないです」

「BETA相手に確実なんてありえないわ」


無人戦術機。これを使ってひたすらハイヴ内部のBETAを誘い出すというものだ。出てこなければドカンと一発くれてやればいい。

モニュメントは核にも耐えるらしいがが、ハイヴの地下茎ぐらいなら内部からならいくらでも吹き飛ばせられる。しかしそれには20万以上のBETAを殺しきる体力が必要だが。


「でも、あの無人戦術機? 存外役に立ってるわね」

「まあ所詮はツールですけどね。創意工夫で色々できる分、意外な傑作になりました。あと心配なのは第五計画の連中なんですが、俺の覚えている限りでは明星作戦において帝国・大東亜連合軍に対して事前通告なしにG弾が使用されています。今回も同じ経過を辿る可能性が高いかと。G弾の動向、チェックしておいたほうがいいんじゃないですか?」

「もうやってるわ」


錬鉄作戦にはA-01連隊も参加するだろう。多くが喪われるかもしれない。そして夕呼さんはこれをもってより良い因果を引き当てる存在、00ユニットに適合する者を選別しようと考えるのだろうか?

だとしても俺が何か言う事は無い。彼女が背負うと決めたのだから。






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