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No.36153の一覧
[0] 【SOS】毎日変な夢をみる件について【誰か助けて】(チラ裏より)[矢柄](2014/08/01 21:14)
[1] 001[矢柄](2014/08/01 21:14)
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[9] 009[矢柄](2014/08/01 21:20)
[10] 010[矢柄](2014/08/01 21:21)
[11] 011[矢柄](2014/08/01 21:22)
[12] 012[矢柄](2014/08/01 21:22)
[13] 013[矢柄](2014/08/01 21:23)
[14] 白銀武の憂鬱01[矢柄](2013/02/18 20:26)
[15] no data[矢柄](2014/08/01 21:40)
[16] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[17] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[18] no data[矢柄](2014/08/01 22:07)
[19] no data[矢柄](2014/08/01 22:24)
[20] no data[矢柄](2014/08/01 22:44)
[21] no data[矢柄](2014/08/01 23:49)
[22] no data[矢柄](2014/08/02 00:11)
[23] no data[矢柄](2014/08/02 00:33)
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[36153] 白銀武の憂鬱01
Name: 矢柄◆c8fd9cb6 ID:595e31b0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/18 20:26

「………」


瞳を開ける。ここはどこだろう。視線の先には古めかしいエアーコンディショナーがあり、見慣れない天井、しかしどこか郷愁を誘う様な光景。どうやらベッドの上に寝ているようで、上体だけを起こして周囲を見渡す。どこかで見たようなポスター、アルミサッシの窓枠、木製の扉。


「ここは……自分の部屋!?」


立ちあがって見回す。簡素な学生机に、古めかしいラジカセ、マンガに教科書。それらはまるで、遠い遠い元の世界の自分の部屋を思わせる。いや、帰って来たのか? それともいままでの事は全て夢だったのか? いや、そんなはずはない。だって今、自分は……っ!?


「って、え、嘘、あれ?」


胸がある。それはいい。人間ならば胸の一つぐらいあるだろう。だが、膨らんでいる。いや、まあ、もう千年以上見慣れているから、どうでもいいといえばどうでもいいが、しかし、この場合どうなんだろうか。クレアボヤンスによる観測と、最後の記憶からして自分は再び2001年10月22日に再構成されたはずだ。だというのに、おっぱい…があります。声もそのままです。だから思わず窓を開け放って自分は叫んだ。


「なんでっ、なんで純夏のままなんですかーーー!!?」



『白銀武の憂鬱01 聖女(笑)の帰還』



「くっ、落ち着くのです自分。記憶を引き継げなかったとかよりマシじゃないですか。うん、マシだと信じたいです」


思いっきり窓を開けて一通り叫んだおかげで冷静になれた。そうだ、帰って来たのだ。自分の真の目的を、幼馴染を、鑑純夏を救うために自分はもう一度帰ってこれた。それでいいじゃないか。ストレートの長い髪をかきあげる。純夏と自分を同一視しないためにリボンを外したのはいつだったか。自分を白銀と最後まで呼んでくれたのは二人しかいなかった。癖っ毛だけはどうしても治らなかった。


「そうだ……制服をって、男子用の制服しかないですか……」


今の自分の身体は00ユニット、しかも最新型の第六世代の筐体だ。第三世代と呼ばれるものに改造された自分は、自ら死を選ぶことすら出来なくなった。300人委員会が世界を再構成させないために自殺行為を禁じるシステムを自分に導入したのがそれだ。そして第二次BETA大戦の終盤には第六世代00ユニットとして改造された。

戦略的撤退という名のオリタネイティヴ7の後、最終的には自滅という形で人類は滅び、その時にこの世界を再構成するために彼が、高島博士が俺を殺してくれた。1600年に渡った自分のあの人生は一度そこで終止符を打たれ、そして今ここに帰って来た。あの歴史を繰り返すわけにはいかない。俺は固くそんな決意をして、因果導体である事の証拠品であるゲームガイ手に取り、そして気がついた。


「ああ、こんなのは必要ないのですね。でもまあ、持っていきますか」


さて、それにしても服が問題である。今着ているのはオルタネイティヴ7の最後に着せられた戦闘用強化装備で、この時代のものとは大きく異なり、白を基調として腕や胸などに朱色を配したライダースーツのような形態をしており、目を守るバイザーを着けた状態である。私物は霞が編んでくれた白いマフラーだけだ。

この格好では少し不味いと思い、装いを変えることを思いつく。サブメモリーからこの時代の国連軍の軍服のイメージを取り出し、そして手の平を服に当てた。この手の平にはレプリケーターが内蔵されている。これは質量を材料にして、任意の物質や分子構造をもった物体を自由に複製するというものだ。自分の着ていたスーツは瞬時に分解して光の粒になった後、再構成されてC型軍装へと変化する。

単独戦力で軍用BETAをも圧倒するという目的の元作られた第六世代は、このレプリケーターによって適当な質量があれば宇宙戦艦すらも建造できるという破格の性能を持つ。まあ、それだけの技術を持ちながらも戦争に負けたのだからどうしようもないのだけれど。


「あー、襟章どうしましょうか。少尉じゃあんまり発言権なさそうですし、大佐じゃこの頃の先生と同じですか…」


ちなみに、軍人としての最高階級は大佐だった。その後、聖女とか訳の分からないモノにされて、軍人ではなくなってしまったけれど。うんそうだ、少佐ぐらいにしておこう。そういうわけで、襟章に触れると、即席の国連軍少佐が出来あがった。後はデータベースを適当にいじって、夕呼先生に何とかしてもらおう。流石に紙媒体のデータには手が出せない。


「というか、名前をどうしましょう? 白銀武じゃ通じないでしょうし、この身体。……ん、白銀の姓は捨てたくないですね。純夏、武……ああ、もう……、高島博士の娘さんの名前でいいですか。桜でいいです。白銀桜。……アイデンティティがクライシスしそうです」


そんな感じで懊悩しながら、外に出ると上半身だけの撃震が純夏の家を押しつぶしていた。自分の家もボロボロで、そして周囲も廃墟だ。廃墟になった柊町の街を歩いて国連軍横浜基地を目指す。大戦の後、国力に余裕が出てきた日本帝国は、この街を戦死者を弔うためのメモリアルパークにした。そしてオルタネイティヴ6が世界の実権を握った後は、この土地は聖地となって、記念碑などが立てられ、綺麗に整備されたのを覚えている。

衛士訓練学校のゲートに続く坂道と桜並木。こればかりは最後まで撤去されなかった。A-01連隊の戦死者の墓標でもあるこの桜並木は神聖な場所とされたのだ。確かにこの場所は大切だし、残してもらった事はありがたかったが、神聖なんていう言葉で宗教に利用されるのはあまり良い気分じゃなかった。まあ、そんな意見が言える立場でも無かったが。

だが、今はそんな感傷に浸っている場合では無い。やるべきことがあるのだ。純夏と再び出会い、彼女を救いだす。そして、人類を勝利……いや、生存の道筋を描く。そのために自分はこの時代に、この場所に戻って来たのだから。もう一度意思を強く持って足を踏み出す。

そして国連太平洋方面第11軍横浜基地が見えてきた。途中で立ち止まり、思考波によって夕呼先生と霞にコンタクトをとる。どうやら、高島博士はいないらしい。最後の会話で、もう二度と会う事はないだろうと言っていたが、それは真実になりそうだ。

第二世代以降の00ユニットのプロジェクションは出力も精度も段違いであり、能力を発言していない者とでさえ十分に会話が成り立つほどだ。そして、この距離で夕呼先生へのリーディングを同時に行い、先生と会話を行う。夕呼先生は天才というだけに、すぐにこのコミュニケーションに順応して機敏な応答をしてくる。懐かしい、とても懐かしい感覚に襲われて、涙が出そうになった。

地面に手を当てて許可証などを偽造する。データベースは既にハッキングしているので、証拠は出てこない。そうして、門兵の前に出た。そういえば、前は殴られてそのまま営倉行きだったっけなどと、ふと思い出し可笑しくなる。階級を見た門兵の二人は自分に対して敬礼をしてくる。自分も敬礼で返し、そして許可証と認識票を見せた。


「ご苦労さまです少佐殿!」

「いえ、貴方達も頑張ってください」

「おおっ」


っと、不味い。いつもの営業スマイルが出てしまった。門兵たちがびっくりしている。聖女なんて変なものを押し付けられたせいで、相手にスマイル0円を贈るのが癖になってしまっている。なんだか、色々女性化してないだろうか自分。元に戻った時大丈夫だろうか。そしてふと、恐ろしい想像をしてしまう。元の世界でも純夏のまま……、やめておこう。

そうしている内に、一人の女性、金髪の懐かしいヒト。確かイリーナ・ピアティフという名前のポーランド人の技術仕官で、夕呼先生の秘書をしていたヒトだったはずだ。


「白銀少佐ですね」

「御苦労です、ピアティフ中尉」

「申し訳ありませんが身体検査をするようにと香月博士より命令がありまして」

「わかりました。お願いします」


しまった、またスマイルしてしまった。まあ、そうして、4時間ほどの身体検査をされる。まあ、ナノマシン集合体というバカげたコンセプトの元に生み出された第六世代00ユニットの性能をこんな検査で理解する事はできないだろう。10世紀以上先の技術の粋が集められて作られているのだから。そうして、夕呼先生の執務室、なんだか酷く散らかっている部屋に通された。ああ、高島少尉がいないから片づける人がいないのか。

それでも、何といえばいいのか、ひどく懐かしい。かつてのあの日々は、いろいろと大変だったけれども、とても充実していたように思える。そうして、ようやく夕呼先生に会う事が出来た。まだ、若い頃の先生の姿だ。2001年に帰って来た事を強く意識する。


「さすがに疲れたかしら?」

「いえ、そうでもありません。前はもっと待たされましたから」

「そう」

「はい」

「貴女は……因果導体、シロガネタケルでいい……のよね?」

「そうです。本当は、ただの因果導体の白銀武として再構成されるはずだったんですけど。どうやら、前回のループで過ごした1600年という因果が思った以上に重かったみたいです」

「ナノマシン集合体として設計された第六世代00ユニット……ね。まあ、あのプロジェクションを見せられれば信じざるをえないという所かしら。異なる確率分岐世界の私が辿りついた理論は、確かに完璧だわ」

「話が早くて何よりです。鑑純夏……、純夏はこの世界にもいるんですよね」

「ええ、あの状態をいると表現できればの話だけれど」

「構いません。なぜならば!! 自分は、純夏に会いに来たんですから」

「ふうん、でも、ねぇ、どこからどう見ても、貴女、鑑純夏にしか見えないわ。背は172cmあるし、少しだけ筐体より年上に見えるけれど」

「高島博士……、友人のはからいでそういう風にしてもらいました。あんまり似すぎていると、いざ会った時に問題があるかもしれませんから。設定としては24歳ぐらいの鑑純夏でしょうか」

「元の白銀武の姿には戻れないの?」

「それが……その、何から話せばいいのか、全部話すと話が長くなるんですけど。一言で言えば、そうなれないように改造されたんです」

「なんでよ?」

「えとですね…」


そうして夕呼先生に全体の流れを説明していく。オルタネイティヴ4によりBETAの正体が判明した事、軍用BETAやBETA創造主との接触に対応するためのオルタネイティヴ6が発動した事。エリートや特権階級たちが00ユニットになり、次第に彼らが第六計画の実権を握り始めた事。人類同士の不和が積み重なって第三次世界大戦が勃発し、最終的にオルタネイティヴ6が世界を支配することになったこと。

そして、夕呼先生を聖母とする宗教がオルタネイティヴ6幹部たちによって広められた事、自分がその宗教における聖女なんていう役割を担わされた事。自分が死ぬと世界が再構成されることがバレたこと。これにより、オルタネイティヴ6最高意思決定機関300人委員会により、自殺できない機能、そして聖女として相応しい姿を維持するため、男に戻れない機能を無理やり植えつけられた事。


「笑えるんだか笑えないんだか分からない話ね……」

「笑えませんよ……。あ、あと、純夏を00ユニットにするなら手伝います。第四世代00ユニットまでなら、自分でも出来ますので」

「ところで、第六世代00ユニットっていうのは、どんな事が出来るのかしら」

「そうですね。じゃあ、00ユニットの発展に合わせて説明していきます」


第一世代00ユニットは言わずもがなである。第二世代になると、仮想臓器を利用した脳機能の維持が考案され、実際に擬似的な生体器官を用いずとも脳髄の機能を維持できるようになった。これにより多くの擬似内臓器官を別の機械に代替する事が可能になる。まず手始めとして、小型モノポール炉とODL完全浄化システム、そしてマイクロマシン製造プラントが搭載された。

この結果、第二世代00ユニットは補給・メンテナンス無しでの稼働時間が飛躍的に高まり、宇宙での活動すら可能になった事から、事実上、人間を完全に超えた存在になる。人工ODLの生成が可能となった事、そして人格移植技術の向上に伴い、第二世代00ユニットの実用化はただの人間が自らの肉体を捨て去る契機となった。

第三世代00ユニットには新たにPSIドライヴとよばれる特殊な装置と機能が搭載された。このPSIは超能力、ESP(超感覚的知覚)とPK(サイコキネシス)を複合した機能であり、大規模な人類の超能力についての調査によって明らかになったリーディングやプロジェクション以外の様々な能力を研究し、応用・強化したものだ。

この大規模な調査を可能にしたのは、第三次世界大戦の後に00ユニットによる人類支配が確立し、旧人類の人権が踏みにじられたことに起因する。たくさんの人々が人体実験の犠牲となり、そこには観測前確率還元装置、人間を観測される前の確率の霧に戻した後に、超能力を持つ可能性のある人間に変化させるといった実験も数多く行われた。

これにより、念力、電磁気力操作、重力操作、慣性操作、空間操作、熱分子力学操作、千里眼、透視、サイコメトリー、量子論的瞬間移動、物質透過、心理操作、他者の知覚能力操作、因果律量子論的未来視、過去視などの様々な能力が開発された。これらの能力を量子電導脳や様々な装置で再現したものを総称してPSIドライヴと呼ぶ。

そして、ナノマシン技術の発展により完全にメンテナンスフリーとなった第四世代00ユニットが登場する。ここで、ほぼ00ユニットとしての進化は完成に至る。00ユニットにこれ以上の能力を付与する必要性はなかったからだ。

だが、第二次BETA大戦の激化と共に、00ユニットそのものを量産化する必要に迫られる。そしてここに、擬似人格AI搭載型の00ユニットが考案された。これは高島博士の長年の研究を応用したもので、人間からの人格移植の必要無しに、従来の人間の人格パターンをランダムに組み合わせる事で、自由自在に無限の完全AIを生みだすシステムである。これにより、オリジナルの人間を要さずに00ユニットを製造することが可能になった。

この、完全AI00ユニットをもって第五世代と呼ぶ。第五世代00ユニットは第四世代の一つ格下の階級におかれ、BETA大戦の主力として投入されることになった。しかし、BETAの天文学的圧倒的な物量差の前に人類は徐々に苦境に立たされるようになる。

そして最後に、第六世代00ユニットが考案される。そのコンセプトはワンマンアーミー。単独で軍用BETAの軍団に対抗しうる能力を持った00ユニットというのがコンセプトだ。その両手には、あらゆる質量とエネルギーを別の物質やエネルギー形態に自在に変化させる事が可能な第五世代レプリケーターが搭載され、小惑星一つを最新型の宇宙戦艦の艦隊に再構成することすら可能となっている。

さらに、超光速航行機能をも搭載している他、全身がナノマシンで形成されているため、ある程度の形態変化が可能となっている。自分もそれに改造を受けたが、最後には戦うことなく殺してもらった。あの後、世界は再構成されたのだろう。高島博士は無事に元の世界へと帰れただろうか。


「まあ、こんな感じです」

「とんでもないわね……。でも、それだけの技術力がありながら、BETAには負けたのね」

「それは仕方ありませんよ。物量が違いましたから。人類の最終的な最大の版図が銀河系止まりでしたが、相手は人間が観測可能な宇宙の広さの何倍もの広さを支配してるんです。一つ一つの軍用BETAには負けませんが、結局最後までBETAの脅威はその量だったということですね。天の川銀河を埋め尽くすだけの物量には流石に敵いませんでした。でも、最大の間違いは、300人委員会がタカ派に傾いたことでしょうね」


銀河系の中心部に巣くっていた軍用BETAの排除が適った時、300人委員会の右翼会派が変な自信をつけてしまったのだ。つまり、BETAだけではなく、BETA創造主にすらも勝てるかもしれないという幻想だ。そして彼らは独自の研究を行い、そして恐るべき計画を立ててしまう。すなわち、BETA創造主の母星系の破壊である。

周到に計画された本秘密計画は、対軍用BETA兵器開発計画『RX計画』をも取り込んで、量子爆弾による星系破壊を目論んだ。そうして天の川銀河系奪還の後に完成した決戦戦闘機R-09A『アローヘッド』は量子爆弾を搭載してBETA創造主の母星系へと侵入、見事にその役割を全うした。そしてこれが終わる事の無い第二次BETA大戦の幕開けとなったのである。


「最後には負けて、オルタネイティヴ5にあやかって銀河系から逃げ出す計画が立てられました。自分はその前に死にましたが」

「壮大な馬鹿な話ね。私はなんで止めなかったのかしら?」

「いえ、先生は00ユニットにはなりませんでしたので」


生にしがみ付く愚かな人間達を嘲笑って、先生は真っ先に死んでしまった。でもそれは、結果としては正しかったのだろう。人類の二度目の黄昏を見なくて済んだのを思えば。


「あっそう。で、あんたはどうしたいの?」

「当面はオルタネイティヴ5の阻止と、オルタネイティヴ4の完遂ですね。後はまあ、BETA創造主とは平和的共存ができればと。そして、最後は純夏を幸せにしてやりたいです」

「いいわ。利害は一致している。というか、あんたがいれば、第四計画はもう成功しているって言っても過言じゃないし。それに、あんたって単独で地球上のBETA殲滅出来るでしょ?」

「あ、はい。地球だけじゃなくて、太陽系のBETAなら全部大丈夫です。でも、あんまり目立ちたくないんですよね。……色々とそういう目で見られることになりますから。それと、純夏の事なんですけど……」

「分かってるわ。手伝ってもらうから、用意しておいてね」

「はい。あの、会いに行ってもいいですか?」

「……いいけど、どうするの?」

「話をします。ESPで仮想空間ぐらいは作れるので」


夕呼先生に隣の部屋に通される。薄暗い無機質な部屋の中央には、円筒形の台に乗せられ、いくつものチューブに繋がれた青白く光るカプセル型の透明な容器があり、その中には確かに生きた意識を持っている脳髄が浮いている。そしてその傍には銀髪の兎の様な黒い耳飾りをつけた、黒い軍装を身につけた少女がいる。


「久しぶりです、いえ、初めまして…ですね」

「………」


霞は不思議そうな眼で自分を見る。自分の姿が純夏そっくりなのが理由なのかもしれない。彼女とは前回のループでは長い付き合いになった。彼女は高島博士と同様に00ユニットとなる道を選んだ。その頃の姿は今よりも大きくなっていて、もう少ししゃべるようにはなっていたが、やはり快活というよりは物静かな性格だった。最後まで自分を白銀と呼んでくれた数少ない友人だった。


「自分は白銀武です。名前を教えてもらえませんか?」

「………」

「ん……、ああ、イメージが違いすぎましたね。長い間この身体でいたので(というより霞とかに調教されきって)、昔の喋り方を忘れていました。……純夏と話す時にこれでは不味いですね。ん……、えっと、俺は白銀武だ。君の名前を、いや、知っているけど、君の声で教えて欲しい。人間関係ってのはそれではじまるんだからな」

「……霞…社霞です」

「そっか、ありがとう」


しまった、またスマイル0円をしてしまった。これはもう癖だな。しかし、この世界の霞は俺が前回会った霞よりもおとなしい、他のループで出会った霞に近い。表情や言葉が少ないというか、感情の起伏が乏しいというか、そんな感じだ。やはり、高島博士の影響はそれなりに大きかったのだろう。前回はすごく世話になった人だ。だから、高島博士の分まで今回は出来る限りの恩返しをしたい。

そして、次に脳髄を直視する。シリンダーに手を触れて、ゆっくりと彼女を見た。自分の脳髄を見られるのは純夏も望まないだろうが、今までのループで抱いた不快感はない。いままで気付いてやれなかった自責、ようやく会えた事の喜びが同時に湧きあがる。ようやく、この日を迎える事が出来た。

ESP能力を拡大する。リーディングとプロジェクションに加えいくつかの知覚操作といった能力を複合し、PSIドライヴ搭載型00ユニットの能力を最大限活用する。構築するのは純夏の肉体全て。仮想の肉体を純夏は手に入れると共に、仮想の世界をも構築する。それは校舎裏の丘。一本の木があり、瑞々しい草が覆う緑の、街を一望できるあの丘だ。

そしてその世界に自分を潜り込ませる。かつての自分の姿、本来の白銀武の肉体だ。この身体のデータはメモリに残してあるが、現実ではこの姿にはなれないので、久しぶりのこの肉体にいくらか戸惑う。そうして肉体を動かして体を慣らし、そして純夏へと近づいた。純夏はただ座ってぼーっとしており、その瞳には何も映っていないようで、視線は虚空をさまよっている。


「純夏」

「………」

「黙ってないで、なんとか言ったらどうだ?」

「………」

「俺だ、武だ。わかるだろ?」

「あ……?」

「純夏、俺の目を良く見ろ」

「う……?」


純夏の虚ろな瞳が自分を映す。同時に純夏の記憶にアクセスを開始し、彼女すら意識して思いだせない階層を展開していく。そこには、この世界における白銀武と鑑純夏の記憶が眠っている。学校の教育が変化しているので細かい性格などに多少の違いがはあるが、基本的な関係性は変わらない。幼馴染で、お節介焼き。いつも自分についてまわって、誰よりも近しい、そんな関係。

薄れた記憶の多く、断片となった記憶。これらを自分の記憶と類推で補いながら、純夏が認識できるレベルの記憶として、白昼夢を見せるように純夏に追体験、知覚させていく。そうすると、純夏が一筋の涙を流した。そして、両手で自分肩を抱きしめるようにして震え、嗚咽する。


「やだ……、やだ、タケルちゃんを取らないで……、止めて…止めてぇぇぇぇ!!!」

「純夏! 俺はここにいるから!」


純夏を抱きしめる。そして同時に隠された彼女の、BETAから受けた悪夢の様な凌辱の体験を閲覧する。その余りのおぞましさに戦慄し、BETAに対する憎しみが湧きだす。同時に彼女を守れなかった白銀武の無念さと後悔が生まれた。そして、いつのまにか純夏と一緒に自分も一緒に涙を流していた。ただ純夏を抱きしめ、彼女の名前を呼び続ける。そんな作業。

そうしていくらかの時間がたち、純夏の疲労を確認すると、少しでもいい夢を見れるように仕掛けをして、彼女を眠りへと導いた。仮想空間を解除する。目を開けると、そこには青白いシリンダーの中に浮く脳髄。自分はそのシリンダーを右手で撫でて、そしていつの間にか自分が泣いているのに気付いて、人工の涙をぬぐった。


「せめて今だけは良い夢を……。霞、いままで純夏をありがとう」

「……いえ…、初めてです。純夏さんの……温かい色は」

「ただの夢です。でもいずれは、本当の純夏に戻れるようにしてみせます。……ああ、そうだ。霞、ちょっと手伝ってもらえませんか?」

「?」


思いつく。純夏の精神的なケアは並行に行うとして、人類の戦力の底上げも同時に行わなければならない。この世界には高島博士がいないので、彼が関わったいくつかの先進技術が実用化されていない。物語では自分は新型OSの開発に携わったらしいので、それをやってみるのも良いかもしれない。


「じゃあ、夕呼先生の所に行こうか」

「……はい」


やれる事はたくさんあるだろう。タイムリミットは近いが、オルタネイティヴ4の完遂だけなら自分だけで十分に可能だ。凄乃皇弐型や四型は今の自分から見れば頼りにはならないが、それでもこの星のBETAを殲滅するだけならたいした労力にはならない。G-11と同じ性質を持つ物質もレプリケーターを用いれば生成可能であるため、燃料にも不都合はない。

もし不都合があれば凄乃皇よりも強力な兵器を作成すれば良いだけだ。まあ、あまり自分の名前が表に出ない程度に技術革新を促して行こう。そんな事を考えながら、自分は霞を連れて夕呼先生の執務室に戻った。


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仮称は桜じゃなくてノノの方が良かったですかね?


※ 『カガミ・スミカ』
分類:第六世代00ユニット
所属:オルタネイティヴ6
頭頂高:172cm(アホ毛を含めて180cm)
重量:不明
最高速度:光速以上(ワープ時)
主機:質量-エネルギー変換炉
推進機関:脚部跳躍ユニット×2/ミサイルサイロ裏ブースター×24
武装:第五世代レプリケーター/量子砲/量子ミサイル/PSIドライヴ/余剰次元格納庫
必殺技:どりるみるきぃぱんち/ふぁんとむ

・第五世代レプリケーター
観測前確率還元装置の発展型と、異なる確率分岐世界を観測する人間の脳の能力の解明によって生み出された、自在に質量を任意のエネルギー形態や物質、物体に変化させることができる装置の五世代目。
物質を観測される前の確率の霧の状態に戻し、そして無限に分岐する確率分岐世界から任意の可能性を引き当てて、任意の結果を得るというもの。
第一世代は特定の物質しか生み出せなかったが、第五世代になれば大質量を自在に操ることができるだけでなく、エネルギーそのものにも干渉する事が可能になっている。マーズゼロは死ぬ。

・量子砲
よくわからない原理で発生するエネルギービーム兵器。多分、フェイザーとかゼロポイントエネルギーとかそういうの。
惑星すら貫く威力を持ち、巡洋艦級BETAすらも一撃で屠る威力を持つ。マーズゼロは死ぬ。

・量子ミサイル
よくわからない原理で爆発するミサイル。多分、ゼロポイントエネルギーとか縮退エネルギーとかそういうの。
00ユニットが装備するのは超小型のミサイルのため、(亜光速でぶつかる500gの質量物体が持つエネルギーの威力が少ないと表現できるなら)比較的威力は少ない。
00ユニットの脚部に3重六連装8基のミサイルサイロが搭載されている。ミサイルの速度は光速の99%で誘導弾、発射速度はサイロ1つ当たり5発毎秒。マーズゼロは死ぬ。

・PSIドライヴ(サイ・ドライヴ)
00ユニットの量子電導脳に付与された超能力を運用するための機能。第六世代の彼女ならば超臨界を迎えたG弾を斥力場の中に封じ込めたり、惑星すら割ったり自在に動かす事が可能なサイコキネシスをも実現する。
マーズゼロは死ぬ。

・余剰次元格納庫
重力・空間制御技術により、余剰空間にむけて三次元空間を拡大する事で、大量の体積を00ユニットの小さな体の中に格納する事が可能になる。
カガミ・スミカは銀河系で彷徨っていた浮遊惑星(海王星相当の質量)を丸々一つオスミウムに変換して格納しており、レプリケーターを通して量子ミサイルの原材料やエネルギー源など様々に利用している。
マーズゼロは死ぬ。

・どりるみるきぃぱんち
推進機関を全開にして繰り出す必殺のぱんち。その衝撃により対象を構成する物質はシュバルツシルト半径の内側まで圧縮され、マイクロブラックホールとなり即座にホーキング放射により蒸発する。
反動はPSIドライヴによってそらしている模様。マーズゼロは死ぬ。

・ふぁんとむ
封印されし幻の左。詳細不明。余波として発生する重力波により周囲の物質は原子レベルで分解されるらしい。マーズゼロは死ぬ。

・アホ毛(アドミラル・ホーン)
第六世代00ユニットに従う無人艦隊群を指揮するためのアンテナのようなもの。現在は率いるべき軍隊がいないため、ただのアホ毛でしかない。マーズゼロは死ぬ。



※ マーズゼロ
火星のエリシウム高原にあるBETAのおっきなお家。フェイズ9。


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